我が友、時雨は目が赤い 作:ワレオオバ
大変お待たせいたしました。
艦これはコツコツ続けているのですが…。
とある艦隊の通信記録
「敵艦、発砲煙確認。対話失敗しました。艤装艦中破、ですが轟沈は免れないでしょう」
「はい、見えました。水雷戦隊任務変更。これより敵艦隊を殲滅します。艦隊増速。潜水艦隊は船員と艤装艦のフライトレコーダーの回収をお願いします」
「完全非武装、立派な志だな」
「結局、死んでちゃ世話ないけどね」
「『深海棲艦は知的生命体だから対話で戦争を止める事が出来る』まぁ、言い分は分かりますが」
「知性体であっても知的生命体では無い。とうの昔に海軍の出した研究結果も、聞かん坊には無いのと同じか」
「『軍は戦意維持のため深海棲艦の情報を隠している!』だっけ?」
「深海棲艦は対話可能である。それが彼らにとっての真実だったのでしょう」
「話は通じなかった。船は沈められた。それが事実だ」
「理想は甘く、現実は苦い。どこも同じですねぇ」
「アンタら人が死んでるんだからもっと真面目にやんなさいよ」
「いや、ヒグマと握手しに行って死ぬのは自殺じゃない?」
「皆さん静粛に、私たちは敵を掃討し出来る限りの物品を回収します」
「遺族のためではないんだよねぇ」
「彼らの蛮行が無駄になるかは私たちの努力次第です。彼らが蛮勇を増やす負の伝説にならぬよう、全てを回収し、この一連の出来事を教訓として記録します」
「行方不明なら伝説、死体が残ればダーウィン賞か」
「敵艦隊、砲撃圏内に入りました。全艦スモーク弾投射。距離を詰めて接近戦に持ち込みます。極力砲撃が水面を叩かない様に注意して下さい」
映画やドラマなんかで、凄いけど悪い人が入れられているクッションで囲われた白い部屋ってあるよね?
アレって「保護房」って言うんだって。
本人に自傷行為を行わせないように、
部屋に入った人に危害を加えないように、
本人を含めた全員の安全のために危険人物を収容する部屋。
実は割と居心地良いんだよ、あそこ。
どこもフワフワだし、部屋の温度も調節してもらえるからね。
ボクの場合は元々体裁上の理由で泊まっていただけだから本とか机とかえんぴつとか普通に用意してもらえたしね。
少し入るぐらいなら楽しいんじゃないかな?
少しだけならね。
◇◇◇
10年前
深海棲艦との戦争が人類優勢のまま停滞し始めた頃。
人々は生活のゆとりを取り戻した。
艦娘の成長曲線が深海棲艦の閾値を超えたのだ。
その余裕は人々に自由を与えた。
……良くも悪くも蛮行すら容認出来るほどに。
たとえばそう
深海棲艦に非武装で接触する
とか
◇
保護房の中、子供が一人、慣れた手つきで宿題をこなしている。
『深海棲艦 和平会談 計画』の生き残り
色素の薄まった銀の髪
腹に黒々と刻まれた侵蝕の跡
澱んだ紅い瞳
第二次成長期前の中性的な矮躯
顔立ちばかりヤケに整った目つきの悪い女の子みたいな男の子。
それがボクだった。
推定年齢10歳(実際10歳だったけど)
深海から
『深海帰還者』
深海棲艦から艦娘に還った
深海棲艦に改造された人間の死体が艦娘に改造し直す事で蘇生された人たち。
彼女たちのほとんどは深海棲艦になる前の記憶の多くを忘れてしまっているから、もはや転生と言っても過言じゃないけれど。
そんな中、ボクは例外中の例外だった。
「生きたまま」
深海棲艦に寄生されて
「すぐに救助された」
「子供」
本来、人為的に狙って引き起こさなければ有り得ないような条件。
だけど人間は底抜けに愚かしくて
『深海棲艦人権運動委員会』
なんて団体に所属していた父の巻き添えを食らう形で、ボクは空前絶後と言うべき唯一の症例になった。
すぐ助けられたお陰か、ボクは深海棲艦に寄生されたもののすぐに深海棲艦の核(?)を取り除かれ、死ぬ事もなく、艦娘に改造する必要も無かった。
正確には「艦娘に改造しなかった場合、一度は寄生された人間はどうなるのか?」という経過観察のため艦娘に改造しなかったとも言う。
人の業は深いね。
何はともあれボクは深海棲艦に襲われながら自我を失う事なく帰ってくる事が出来たのだ。
◇
ボクは海軍に保護され、そのまま海軍の研究機関で暮らす事になった。
非人道的な扱いはされなかったとは言っておくよ。
格式ばっかり高いだけの実家より気安かったぐらいさ。
しばらくの保護観察期間の後、海兵学校附属小学校に通える事になって、提督とはそこで出会った。
席が隣だったのと「痩せて見えるからおかずを分けてあげる」ともっともらしい理由を言いながら苦手な給食をボクに横流ししてきたのがキッカケだった。
提督は負い目があったからか、美味しいおかずも分けてくれてたから、仲良くなるまでボクはただ「良い人だなぁ」って思ってたね。
途中で利用されている事に気付いてしまってね。
ボクもちょーっと機嫌が悪くなったんだけど、
まぁ、提督、悪い人じゃないからね。
つつくと露骨に狼狽えて、あの反応は面白かった。
怒りよりもさも欠点なんてありませんみたいな顔をした少年の子供らしい一面はむしろ親近感を覚えた。
いやぁ、それにしてもボクもわるいコトを覚えちゃったものだね。
◇
そんな感じで割と楽しく生活は過ごせていたんだけれど、
この楽しいと言うのは、言ってみれば修学旅行でのお泊まりが人に気を遣ったり多少不便でも楽しいのと同じように、非日常だからこそ楽しいと思えていたからで。
そのうち家に戻れると気楽に構えられていたからだった。
修学旅行、行ったこと無いんだけどね。
転機が訪れたのは海軍小学校に編入して2ヶ月が経過した頃。
そろそろ家が恋しくなってきた頃。
テレビに母さんが出ていた。
ニュースのタイトルは
『あの団体は今!? 家族の証言から見る危険生物保護団体の実体!!』
正に THE ゴシップ
ブン屋にとって権威の失墜した自然保護団体なんて格好の叩き台。これほど美味しい玩具は無い。
それこそボクがテレビを与えられていなかった時は連日連夜、深人会(深海棲艦人権運動委員会)のニュースが取り上げられていたんだろう。
当事者に見せるにはあまり気分の良くない話ばかりだから聞かせないように気を使ってもらっていたんだと思う。
ボクは父さんの思想に興味は無かったし、あの日のクルージングの目的も知らなかった(覚えてなかっただけかも)から大した気にしていなかったけど。
ニュースは定型通り、記者たちは深人会会員の家族を追い回し、家に張り付き、彼らにマイクを向けていた。
その一人に母さんが居た。
母さんも父さんも毒親というほどじゃなかった。と、思う。
冷えた家庭、言葉は少なく、料理も家政婦さん任せ。
それでも、
ボクに大した興味は無くとも、母さんはボクに習い事をさせても、発表会にはいつも来てくれた。
誕生日プレゼントもクリスマスプレゼントも枕元に置いてあったし、今際の際、父さんはボクを庇ってくれた。
だけど。
『夫も息子ももうおりません。私は詳細を知らないので関わらないでください』
そう言ってテレビの中の母さんは見慣れないマンションに消えた。
母さんには世間の軋轢を耐えてまでボクを引き取るほどの愛は無かったようだった。
深人会の騒動は、団体としての権威は失墜しても会員が死んで
それが今また死んだと思われていた子供が生きていたなんて知られれば、再び好奇の目の的になる。
それは全く良い事では無いのだけれど。
でも、だからって
母さんがボクよりも平穏を選んだことが、
それが、酷く悲しかった。
◇◇◇
さて地味にショッキングな体験をした事によって、ボクは心身のバランスを崩してしまった。
お陰で保護房はその役目を果たすハメになった。
ボクの身体は、埋め込まれた深海棲艦の核こそ取り除いたものの、侵食された身体そのものは侵食された時点のまま。特に心臓なんかは既に半分深海棲艦由来のタービンと化していたけれど変えようが無いからそのままにされていた。
そのせいでボクが発する強い悪感情を起点に雪の結晶化のように周辺の陰気が集まってボクの意志に反してポルターガイストが起こるようになってしまっていたんだ。
いわゆる暴走とか、闇堕ちとか、そういうのが頻発する危うい状態。
当然、癇癪で嵐を起こすような危険人物が学校に行けるはずもなく、ボクは保護房生活に逆戻り。
それがまた精神衛生的に良くなくて、ポルターガイストが更に気安く発動してしまう悪循環。
日に日に厳重になる警備体制。
その悪循環を断ち切ったのが提督だった。
ボクの保護房に入って提督は一言。
『友達が風邪なら見舞いに行くのが友達だ』
あの時のボクは小型の台風みたいなモノだったんだけど。
友情? 美学?
いや
提督は友達が少なかったからね。
ただそう言ったイベントに憧れていたんだと思う。
ボクがどうこうじゃなくて自分がしてみたかったから。
実に利己的な思考。
ボクはそれでも良かった。
いや、もしかしたらタチの悪い事にボクが人との関わりに飢えている事も察していたのかもしれない。
ボクと提督はあの頃から、とても間が良かった。
まるで家族みたいにね。
◇◇◇
提督のお見舞いのお陰でメンタルを回復したボク。
これでポルターガイストも落ち着くか。
と思いきや、今度は陽気を集めてポルターガイストが発生するようになってしまった。
いわゆるテンションが上がると暴走するという奴。
陰陽どちらに精神が傾いても霊気の集積効果が発生するなんて学術的には値千金のデータだけど、気分が上下するだけでいちいち嵐を呼ぶ体質になってしまったボクとしてはとんだ迷惑。
というか普通に面倒。
テンションを上げてはいけない。
下げすぎてもいけない。
ってボクは北斗の拳の住人じゃないんだよ。
気分が高揚しちゃうから提督との接触も無し。それはそれで気分が悪くなるから保護房はいつも大荒れ。
これはもう研究どころじゃないと、ほどなくボクの艦娘への転換が決まったよ。
既に有用なデータを多数入手出来ていたのも大きかったね。
そんな訳でボクは「迅鯨」になった。
◇
いやまぁ、半分嘘だけどね。
先天的な適性が「迅鯨」
深海棲艦の侵食によって後天的に得た適性が「時雨」
いわゆる複合適性。
ボクの場合は侵食が不完全だからやろうと思えば戦艦や空母にでも適性を合わせられたらしいけど。
『彼と一緒に居たいのなら駆逐艦が良いですよ。一番小回りも配属の融通も効きますから』
と言う訳で先人の知恵を借りてボクは駆逐艦になる事を選んだのさ。
◇◇◇
艦娘になってから一年は艦娘養成学校に。
その後、3年間中学生の間は提督と同じ海軍兵学校予備校へ。
悪くない3年間だったよ
ただねぇ、アレは無いよアレは。
「士官学校行くんだ」
「ああ、父さんと同じ道を行く事に悔いは無い」
「そっか、じゃあ、しばらく学校ではお別れだね」
「ああ、また会えるかは分からないが、俺たちは一生親友だ」
……
……
……
ハァ?
◇閑話◇
「あれこそ正に虎の尾を踏むだな。空気がね、乾いているのに湿っているんだわ。本当、ドラゴンボールならスーパーサイヤ人になっててもおかしくなかった」
「よくあれだけの情を隠していたと感心するよ。まぁ、ご愁傷様というか自業自得かな」
「艦娘が愛で強くなると判明してから、艦娘同士の肉体的GL、提督と転換型艦娘の精神的BLに意義を得られる様になり、それに付随して一般の間でも同性愛が認められやすくなりました。
それこそ今では海軍兵学校内でも分かりやすいペアだけで何組も居ますから。ただ、あの二人はそう言う雰囲気は感じませんでしたね。
仲は良いけど愛欲的なべったりとした感じが無かったと言いますか。
能ある鷹は爪を隠す。いや、愛されている自信があったからこそ眠れる獅子に留まっていたんでしょう。……あの一言が完全にラインを超えさせましたね。タガが外れたって言うか、赤い糸が細いのに気付いた猛獣が飼い主をふん縛りに行ったって感じでしょうか」
「あの時たしか私はこう思いました。『なんて事だ、もう助からないゾ』と」
◇閑話休題◇
「やぁ、久しぶりだね。君が士官学校に編入してから3年と21日になるかな? まさか直接提督になるなんて思わなかったよ。嘘だよ、信じてた。流石だね。ボクの方も色々と大変だったけど、君に追いつきたい一心で頑張ったんだ。そのお陰かな。見ての通り、君、いや、提督の初期艦はボクだ。他にも2艦隊分の艦娘が配属されるらしいけど、暫くの間はボクが秘書艦として君につくことになるよ。もっとも、暫くとは言ったけど、親友のボクが秘書艦である事が最良である事は疑う余地も無いんだしこれから末永くよろしくね? 提督♪ あ、そういえばお土産に佐世保のみかん買ってきたんだ。一緒に食べようよ。皮はボクが剥いてあげるから、いい? いいよ、遠慮しないで。ほら、あーん。ん、美味しい? そう、良かった♪」
◇現在に至る◇
迅鯨/時雨=サン
遂に明かされた衝撃の真実!
迅鯨=時雨だった!「ナ、ナンダッテー!?」
「全員知ってるデース」
辻提督
昔からスペック高めで寡黙。
時雨とは昔から息が合う仲だった。
脅威の1000万朴念仁パワー
だが時雨の方が強い。
『深海棲艦人権運動委員会』(深人会)
まー、要するに
深海棲艦版 海犬
暇なインテリの戯言
艦これ版過激派自然保護団体
トキは人を食いませんよ
戦況がぬるくなって深海棲艦が脅威じゃなくなってきたから勃興してきた野党の飯の種。
「深海棲艦 和平会談 計画」
深海棲艦と対話で戦闘を回避しようという深人会の計画。
海軍から「え?マジでやんの?やめた方がいいよ?ホラ、研究資料あげるから」とか言われていたけど断行した。
結果、非武装の船で人型の深海棲艦に接触し、案の定沈められた。
この事件がキッカケで深人会は事実上解散した。
『深海帰還者』
この世界線におけるドロップ艦。
深海棲艦に改造された人間を艦娘に改造し直す事で生き返らせるという超荒療治で人間として生き直せるようになった人たちの事。
開戦初期はこの方法で艦娘を増やすしかなかった。
存在について、ホルマリン漬けの人間の脳で改造人間を製造するとかいう倫理観も真っ青な直訳になってしまうため海軍はわざと濁していた。
それを曲解し深海棲艦は人と同じ知性を持つ生命体であると誤訳した勢力が深人会。
また蘇生の権利は蘇生作業をする海軍ではなく、降ろされる魂と本人の生存意欲の双方の合意に依存する。
そのため延命治療に転用する事はほぼ出来ない。
エタの足音が聞こえる今日この頃。
申し訳ありませんが最終回は近いです。