青空にピストルの音が幾つも響く。
ピストルと言っても人を殺害する拳銃では無く、競技用でスタートの合図をする方のピストルだ。
此処、マグノリアの南口公園広場には大勢の人が集まっている。
俺達フェアリーテイルの魔導士に、街の人達。
さて、何でこんなに大勢の人がこの場に集っているのかというと。
『So COOL‼ 今年もこのイベントがやって来たぁああっ‼ フェアリーテイル恒例! 全魔導士強制参加の、24時間耐久ロードレース‼』
そう、今日はフェアリーテイルが毎年やってるイベント、24時間耐久ロードレースが行われる日なのだ。
五月蠅い実況が解説してくれたおかげで俺の説明の手間が省けたぜ。
『実況は私、週間ソーサラーの記者で御馴染み、ジェイソンであります‼ この一大イベント! COOLでHOTにお伝えして参りまぁぁあああっすぅッ‼』
ホント、いっつもうるせーな、コイツは。
さて、別に優勝する必要性は無いんだが、1度くらいは勝ちたいよなぁ。
今回は優勝させてもらおうか。
俺、毎年2位~5位くらいだし。
『あっ⁉ 出ました! 当ロードレース無敗のタイトルホルダー‼ ジェット‼ クエストじゃ今一の活躍も、コレでチャラとのう・わ・さ!』
「おい‼」
『噂ですよ、噂!』
しかし、強ち間違ってはいないと思う。
「ジェットの野郎、今年も余裕だな」
「ま、実際余裕だろうな。今年はギルダーツやミラどころか、ラクサスも参加してねぇんだ。優勝争いする相手が減ったんだし」
グレイの言葉に頷く俺は、過去のレースを振り返る。
ジェットの使う魔法【神足‐ハイスピード‐】は、俊足の魔法。
ただ走るのが早くなる魔法と言ってしまえばそれまでだが、子供の頃からその魔法を使い常日頃走り回っていたが故に、走りのスペシャリストと呼べる程、走る事に関してはギルドでも右に出る奴はいない。
実際、持久走も魔法でこなしてるから体力もギルド内では上位だし、こと走る事にかけてはS級魔導士も敵じゃない。
スペックがベラボウに高いギルダーツも、レースではジェットに負ける。
・・・・・・まぁ、大抵酒が回っててロクに走れていないのが原因だったりするが。
ミストガンはこういうイベントに参加しない。
後はだいたい、俺、ラクサス、エルザ、ミラで争っていた。
戦闘ではほぼ敵無しの俺達だったが、それでも無敗と呼ばれるだけあって、俺達の中の誰もレースではジェットに勝ったことが無い。
ミラのサタンソウルでの飛行も、エルザの俊足の鎧も、ラクサスの雷速も、俺の【完成‐ジ・エンド‐】でコピーしたスピード系の魔法も、ジェットには勝てなかったのである。
速度そのものは、決して負けていない。
だがレースというのは、ただ速い奴が勝てるという訳では無い。
普通に走れば24時間近く掛かる程の長距離。
その長距離を走り切るほどのスタミナ。
走る時の無駄のないフォーム。
スタミナとスピードのペース配分。
最短距離を走るコースの位置取り。
魔法使用のタイミングと持続力。
対戦相手の妨害の仕方。
妨害された時の対処法。
等々、レースに勝つために必要な要素は、上げていけばキリがない。
子供の頃から私生活でも仕事でも走り続けるジェットは、そういうレースに必要な要素に精通しており、こればかりは経験値に差がある。
戦闘力が低くても、走力はフェアリーテイル最強クラスなのだ。
戦闘力は低いけど!
大事な事なんで2回言いました‼
「はっ、そいつはどうだかなぁ?」
「あ?」
「優勝は俺が貰ったぁ‼」
ナツはいつでも燃えてんなぁ。
「貰ったって言う奴に限って、貰った例がねぇんだよ」
ガジルの呆れる声に、ナツは「スッゲェ秘密兵器があるんだよ!」と自信満々に返し、グレイが「なーにが秘密兵器だよ、ガキくせぇな」と鼻で笑う。
燃えてんなぁ、どいつもこいつも。
「みんなやる気充分だな」
苦笑するレッドは、レースには参加しない。
毎年こういうイベントでは必ず怪我人が出る為、医療班として待機しているのだ。
「罰ゲームが嫌なんだろ」
毎年毎年、このレースでビリになった奴はジジイが罰ゲームを与えてる。
毎年酷いが、去年は結構酷かったからなぁ。
『静かにせぇぇえい‼』
マイク越しに、ジジイの声がハウリングする。
このイベントの為だけに用意された壇上に上がったジジイが、開催の挨拶をするようだ。
『フェアリーテイルの諸君! 知力・体力共に強くあってこその魔導士だ。今日は存分にそのパワーを競い合って欲しい‼』
「知力なんかいるかぁ?」
「どう考えても体力だけだよなぁ」
『ルールは簡単! ここをスタートした後に決められたコースを激走し、イボール山を目指せ! 今年はイボール山の頂上に、ワイバーンの鱗を置いといた。その鱗を取って、24時間以内に折り返してここまで来るのじゃ! 脱落は認めんぞ? フェアリーテイルの魔導士たるもの、完走してこそ、明日の仕事につながるというモノじゃ! 更に、多くの魔導士の要望を受けて、新たなレギュレーションを設けた。それが、飛行魔法の禁止じゃ‼』
「「うぐっ!?」」
ハッピーとエバーグリーンが呻く。
まぁ、アイツ等空飛ぶからな。
かくいう俺も飛べるし、今年は舞空術で一気に抜こうとか考えていたんだが、如何やらその手は使えないようだ。
『それ以外の魔法は使用無制限じゃ!』
「そいつが曲者なのに・・・・・・」
「毎年無茶苦茶だからなぁ・・・・・・」
リーダスとワカバが苦い顔をするように、実際今までのレースは無茶苦茶だ。
ま、いつものフェアリーテイルと何も変わらないと言ってしまえばそれまでだが。
『例によって、最下位になった者には世にも恐ろしい罰ゲームが、待っとるぞぉぉおおっ‼‼』
「結局、マスター罰ゲームが楽しみなだけじゃねぇか?」
「去年は最悪だったよ・・・・・・」
そーいや、去年のビリはアルザックだったっけ?
アレは酷かったな。
ま、最低でもビリにならなければ罰ゲームは回避出来るんだし、
「後はどう生贄を用意するかだよなぁ」
「まともに勝つ気無いのか?」
「いやいや、当然勝ちを狙いに行くがな。もしもの為の保険は要るだろ?」
「・・・・・・あんま怪我人を出さないでくれよ?」
『それではぁ、いよいよスっタートだ! 全員、スタートラインに着いてくれぇ‼』
ジト目をするレッドに後ろで手を振って別れ、俺はスタート位置につく。
みんなやる気充分。
俺も初っ端から飛ばしていくか。
今年は色々能力を【完成‐ジ・エンド‐】したからな、ぶっちぎりでかっ飛んでやるぜ!
『よーい――――――ドン‼』
ジジイの合図に、俺は爆走する。
瞬間、後で爆発が起きた。
毎年恒例、ジェットのスタートダッシュによる粉塵爆風だ。
駆け出す衝撃波で、他の参加者を後ろにふっ飛ばした。
「へっ、やっぱ祐一だけは食らわなかったか!」
「毎年のパターンだからな」
今現在スタートから走り出したのは、俺とジェットの2人だけ。
初っ端から行くぜ!
「いっくぜぇ!【神足‐ハイスピード‐】‼」
「俺も行くぜ!【神足‐ハイスピード‐】+【流星‐ミーティア‐】+【怠慢の超スピード】+【彗星走法‐ドロメウス・コメーテース‐】‼」
「どんだけ重ね掛けしてんだ!?」
「更に卍解!【天鎖斬月】‼」
「な!?」
「更に更に!【香魔法‐パルファムマジック‐】‼ 【速香‐スピードパルファム‐】ゼロ距離吸引‼」
「ちょ、おまっ、鼻に何詰めてんだ!?」
「うるせぇっ! 勝つためには体裁なんぞ気にしてられるかぁぁぁあああっ‼‼」
「だからってお前鼻の穴に瓶詰めるって絵面酷すぎんだろぉぉおお!?」
叫び合いながらも、俺とジェットのスピードは落ちるどころか上がってる。
既に俺とジェットの独走?状態だが、少し後にはアルティメット化したクリス、火竜の鉄拳をブースターにして加速しているナツ。
更に後ろにはエルザ、グレイ、ガジル、エルフマンとその他大勢が混戦状態。
街を出るまで、この順位に変化は無い様だ。
「祐一、今年速過ぎんだろ!?」
「その速過ぎる速度に付いて来れるジェットも大概だと思うがな!」
単純な速度は俺の方が上だが、やはり走り方はジェットが上のようで俺の後ろにピッタリ付いてきやがる。
後は地理にも詳しいのか、街を出て凸凹の荒れ地を走るその足が突き出た石や窪んだ地面に取られることも無い。
俺はちょいちょい躓くが、力づくで突き進んでると言うのに。
「チィッ、スリップストリームで体力と魔力の消耗を防ぐ気か!?」
「へっ、ただ速く走るだけがレースじゃないんだぜ‼」
壁。
速度を追求する時、誰もが必ずぶち当たる壁がある。
物体が音速を超えた時に衝突する、圧縮された空気の壁。
日常生活を送る分には、全く意識されることも無い空気。
しかしスピードを出せば出すほどに、幾何級数的にその空気は行く手に立ち塞がる。
そう、空気抵抗による減速だ。
速度を出せば出すほど、逆にスピードダウンを避けられなくなる。
走行中の物体は、空気による抵抗力を常に受けている。
抗力においては相対速度のみが2乗で加算されるため、低速域での空気抵抗は限定的であるが、ある程度の高速域になると急激に抵抗力が強くなるので、加速のためのエネルギーの多くが空気抵抗に打ち勝つことに費やしてしまい、速度が空気抵抗に制限され頭打ちとなる。
その状態の時、物体の真後ろ近辺では前方で空気を押しのけた分気圧が下がっており、そこでは空気の渦が発生し周りの空気や物体などを吸引する効果を生むほか、空気抵抗も通常より低下した状態となっている。
この現象をスリップストリームと言う。
このスリップストリームの中に物体が入る(真後ろに張り付く)事により、気圧低下による吸引効果や空気抵抗の低減によって、走行中の速度域において通常と同じ速度をより低い出力で発揮することが可能となり、これにより生まれた動力装置の余剰出力を使っての加速が可能となる。
また自動車などの場合はエンジンなど動力装置の負荷軽減などの効果も生まれる。
今回のコレは自動車などでは無いから、消耗を押さえられるのは体力と魔力。
スリップストリームを利用して加速した物体は、前の物体を抜き去る際にスリップストリームから脱出する事になるのだが、脱出した後は素の状態の空気抵抗を直に受けてしまうことになり、物体は急速に加速力を失い、最終的には速度が元に戻ってしまう。
しかし、実際にはスリップストリームに入っている状態で稼いだ速度(または加速力)を残したまま脱出することになるので、しばらくは空気抵抗での頭打ちになる以上の速度を維持する事ができ、その間を利用して前方の物体を抜き去る事ができるのだ。
つまり、このまま俺の後ろに張り付いて体力と魔力を温存し、ゴール前で一気に抜く腹なのだろう。
だが、そう簡単にいくかな?
◆◆◆
イボール山の頂上にあるワイバーンの鱗を取って、後はスタート地点・・・つまりはゴールに帰るだけ。
もう直ぐ陽が沈むが、このペースで行けば夜中には着けるかもしれん。
問題は、未だに真後ろにピッタリ付いて来るジェットをどう引き剥がすかだが。
「・・・・・・よし」
アレやってみるか。
俺は山を全速力で下る。
ジェットも付いて来る。
山道を下って下って、速度に勢いを付ける。
最高速度を伸ばせるだけ伸ばし、坂道を全速力で駆け下り、そして平地に足を付けた。
瞬間、俺は足を大きく踏み込み、膝を深く曲げる。
踏み込んだ足と膝に力が溜まり、ギリギリと音を発てる。
踏み込んだことで一瞬速度が落ち、ジェットは俺の背にぶつかりそうになるが直ぐに横に逸れ、スリップストリームから抜けた。
1秒にも満たない時の中とはいえ、急に速度を落とした俺に驚いて顔を振り向かせながらも、構わずジェットはゴール目指して走る。
ああ、今の内に抜いておけ。
どうせすぐに追い抜く。
【一方通行‐アクセラレータ‐】のベクトル操作で、全ベクトルを一定方向へ。
そう、ゴール方向の空へと狙いを定める。
「マグナァァァァァム・・・・・・――――――――――――」
このレース、飛行魔法・・・つまり空を『飛ぶ』ことは禁止されている。
だが、空を『跳ぶ』ことは禁止されていない。
ギリギリと軋む音を発てる足に、溜め込んだ力を一気に解き放つ。
「――――――ダイナマイトッ‼‼」
豪ッ‼‼‼と、地面を砕かんばかりの力で大地を蹴り、俺はロケットの様に空へ跳んだ。
空に浮かぶ雲をも突き破り、俺は空を跳んでいる。
普通ならこのまま重力に従い落下するだけだが、ベクトルを一定方向に向けている為真下には落ちない。
このまま猛スピードで、ゴールまで一気に行くぜ‼
◆◆◆
結果は言うまでもない。
俺の優勝だ。
何せあのままゴールまで跳んでいったからな!
念願・・・って程ではないが、まぁ、兎に角初優勝だ!
2位で着いたジェットの驚愕顔が忘れらんねぇぜ。
みんな次々とゴールを決めていき、結局ビリになったのは誰かというと。
ナツ、グレイ、ガジルの3人である。
なんかゴール前で喧嘩してる内にみんな次々とゴール決めて、残ったのが3人で同着ゴールとか。
まぁ、いつもの光景だな。
「覚悟は良いかぁっ!?」
ジジイがノリノリで敗者に寄る。
さて、今年の罰ゲームはなんだろうな?
「ずばりコレじゃあ‼」
言ってジジイが取り出したのは、週ソラ。
・・・・・・うん?
「お前達3人は、再来週発行の週間ソーサラーにて、超恥ずかしいグラビアを飾るのじゃあ‼ 超豪華堂々20ページ! 1週間密着取材月じゃ‼」
「「「なぁぁぁあああああーっ!?」」」
コレはエグイな。
やる方も、見る方も。
てか、売れんのかよ。
『という訳で皆さん、早速、衣装選びと参りましょう‼』
ジェイソンの言葉を聞いた瞬間、ナツ達は一斉に逃げ出した。
『ああっ、お待ちをーっ‼』
「待つかぁぁぁああああああっ‼」
『お待ちをCOOOOOOOOOL‼』
街の外にまで走って行った。
元気だな、アイツ等。
「そーいや、ジジイ」
「ん?」
「ビリが罰ゲームなのは知ってるけどよ、優勝者にはなんかねぇのか? 賞品とか賞金とかよ」
「もう手に入れたじゃろう?」
「ああ?」
「優勝の喜びとみんなの歓声。この上ない名誉じゃないか!」
「そんだけかよ・・・・・・」
まぁ、読めてたけど、そんなオチだって。
毎年優勝者が何か貰ってるなんて聞かないしな。
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