【ポケモン】厳選作業中にドラマが生まれたようです 作:サルオ
あたしはマニューラ。かぎづめポケモンだ。タイプはあくとこおり。自慢の爪で、後輩を育成する教育係をやってる。
あぁ、かぎづめポケモンって言われてもわかんないかぃ?じゃあ雪山に住んでる、黒猫みたいなポケモンってことで想像しておくれよ。まぁ猫と違って、あたしらは群れをつくるんだけどね。
とはいえ、いまのあたしは宮仕え。ようするに、人間に捕まっちまった間抜けなマニューラさ。まあ、今のマスター(あたしは旦那さんって呼んでるけども)、バカみたいに人が良いから、あたしも言うこと聞いてるんだけどね。
どんくらいウチの旦那さんがお人よしかっていうと、捕まえたポケモンにとりあえず名前をつけて、必ず最後まで進化させてやるってとこかねぇ。捕まえたポケモンは300匹を下らないんだよ?バカだねぇっていつも思うけど、そこが旦那さんの魅力ってところさね。
まあ、とはいえ。
ウチの旦那さん、トレーナーとしての腕はまあまあだけど、バトルは苦手なんで、あんまりやりたがらない。バトルに勝てば相手から賞金がもらえるんだけど、負ければ逆に取られる。旦那さん、へたっぴだからさ。相手からむしり取られ続けるウチら、万年金欠のビンボー一味ってわけ。
まぁそんなこんなで、いよいよ生活が苦しくなってきたお人よしの旦那さんは、バトルに勝つためにとうとう禁断の手段に手を出した。
聞いたことあるかぃ?『厳選』ってやつさ。
ポケモンを捕まえて、優秀な個体だけを集めて、その子どもを産ませて、さらに優秀な子だけを残して・・・。
その繰り返し。
優秀じゃない子はどうなるかって?そりゃアンタ、ぽこぽこ産まれた子どもの全部にやるメシなんてないよ。ウチらはビンボーつったろ?かわいそーだけど、自然に帰してやるのさ。逃がされたその子たちが生き残れるかどうかは、あたしらの知ったことじゃない。
・・・って、割りきれたらイイんだけどねぇ。
ウチの旦那さんが最後まで進化させてやるのは、これが理由ってわけさ。最初は何も考えずに自然に帰したんだけど・・・。
その数日後、かね。逃した子の遺体が森で見つかったのは。
気にする必要なんかないんだよ。自然の摂理。あたし達は他のポケモンを食べて生きている。こうなる事もしょっちゅうだし、あたしだって、野生の頃は狩りをしてたさ。人間だって、木の実だけじゃ生きられないだろ?肉や魚だって食うじゃないか。そんだけのコトだよ。
ただ、あの時の旦那さんの顔は忘れられなくてねぇ・・・。
それから、さ。旦那さんが意地になってポケモンを進化させるようになったのは。「せめて、自然界で生きていけるようになるまでは育てる」ってね。余計なお世話だよ。旦那さんが進化させて逃したポケモンが、生態系を狂わすかもしれない。自然界のバランスが、そのせいで崩れるかもしれない。それでもやめないのは、ただ、旦那さん自身が傷付きたくない臆病者なだけさ。
・・・・・・でも、関わった命を大事にしてるって意味じゃ、ほんとイイ人だよ。あたし自身は全然、優秀な個体じゃない。それなのに、あたしの事は残してくれている。長く一緒にいすぎたんだろうね。あたしも旦那さんも、お互い離れることができなくなっちまってた。
前置きが長くなっちまったね。
まあ、要するにだ。あたしは厳選で選ばれた子達の教育係。戦い方のなんたるかを叩き込んでやる女軍曹ってところさね。優秀な才能を持った子が、全員最強のポケモンになれるわけじゃない。野生では決して培われない戦闘のイロハを教え込んでやらなけりゃ、バトルには勝てない。
だから、あたしが鍛えてやるのさ。
教育方法は簡単。攻撃とか防御とかが得意そうなポケモンをひたすらに狩り尽くす。その様を後輩たちの目に焼き付ける。
その繰り返しさ。
相手の体力をギリギリのところまで削って、助けを呼ばせて、ホイホイと現れたお仲間を斬り飛ばして、ね。(さすがにちっちゃくなって逃げる瀕死のポケモンまでは追わないよ?)
産まれたばかりのヒヨッコどもには、かなりショッキングな光景だろーね。中には心をやられっちまう子もいる。
でも、重要なのはやってる事の残酷さじゃあない。あたしと野生のポケモンの戦いを見て、「どうすれば生き残れるのか」を学べるかどうか。それができなけりゃ、どっちみち自然界でもやってけないさ。
まあ、そういうわけで、あたしの指導のもとトレーニングを積んだ子達は、旦那さんのポケモンとしてしっかりと働いてくれてる。最近は旦那さんもバトルに勝てるようになったんで、懐はそこそこ暖かい。そうすれば、新しい子達を強くするための投資もできる。それが巡り巡って、あたし達の生活を潤してくれる。いいサイクルだろ?
まぁさ。そんなこんなであたしは旦那さんと、今日も後進育成のための狩りをしてたわけよ。今日は攻撃の得意そうな子達が多いんで、かまくさポケモンのカリキリを狩りに来てた。
こいつら、カマキリみたいな見た目に反してくさタイプでね。痛めつける最中に地面に根っこを張って体力を回復するもんだから、ちょっとめんどくさいんだわ。さっさと仲間を呼びゃあいいのに、がんばっちゃうのね。
そのかわり、攻撃は途中でやめて、回復に専念するやつが大半さ。そうなると後輩どもの勉強にならないから、あたしが色んな方法で痛めつけるのを見せてやらなけりゃならなくなる。「みねうち」で体力を減らして「どくづき」とか「つじぎり」とか、まぁ自分でも心が痛むくらいのことはやるのさ。
ただ、ね。
今日、目の前にいるやつはちょっと違ってた。
「フー、フー、フー、フー・・・・・・」
こいつは、既に肩で息をしてる。あたしのかぎづめで体中を切り裂かれて、体液を全身から流しながらも、必死で立ち続けている。
もちろん、仲間を呼んでもらわないと話にならないんで、あたしがこいつにとどめを刺すことはない。後ろの旦那さんも、そんな指示は出してこない。
(しぶとい、ねぇ・・・・・・)
あたしとコイツのレベルの差は歴然。旦那さんも、野生のポケモンをビビらせる「ビビリだま」ってのを使ってる。
なのに、こいつ。仲間を呼ばない。いや、呼ばなくなった。
【マニューラの"みねうち"!!】
かぎづめでカリキリを殴りつける。もう何回目になるだろうか。吹き飛ばされたカリキリが地面を何度もバウンドして崩れ落ちる。それでもカリキリは痛みに耐えながら、必死で立ちあがろうとしている。
(さぁ、仲間を呼びな・・・!)
「キュイイイイイイイイッ!」
(呼んだね、イイ子だ・・・)
目の前のカリキリが、痛みに耐えきれずに助けを呼ぶ。自然界において仲間を呼ぶのは正しい判断だ。命の危機に瀕しているのなら、なおさらね。
なのに、助けは現れない。
助けが来ないことに、目の前のカリキリの顔が曇る。
(あんた、友達、少ないんだねぇ・・・)
哀れに思っちまうよ。たまにあるんだ、こういう事が。
野生のポケモンだって、コミュニケーションは大事だ。それは生き残るための戦略で、群れを作るのもその一つ。仲間に助けてもらったり、ときには囮として使ったり。それは生きる上でとても大事なことだ。
でも、ポケモンの全部がコミュニケーションがうまいわけじゃない。人間だってそうだろ?性格に難があって仲間に入れない。「ボッチ」って言うんだっけ?ポケモンにだって、そういう奴はいるのさ。
さっきまでなら、目の前のカリキリを助けに来たヤツは居たんだよ。でも3匹くらい、かねぇ?目の前で切り捨ててやったら、だぁれも来なくなった。
それから、さ。目の前のコイツが助けを呼ばなくなり始めたのは。というか、呼んでも来ないってわかってるんだろうねぇ・・・。
「キュ、キュイイ・・・」
ただ、それだけじゃない。コイツ、目に涙を溜めながら、それでも闘志を失っていない。
「キュイイイイイイッ!」
【やせいのカリキリの"れんぞくぎり"!!】
ザクッと、ヤツの葉っぱのような腕があたしの体を切り裂いた。
(コイツ・・・ッ!)
「フシャアーーーッ!!」
あたしのかぎづめがカリキリの顔を叩く。殺しはしない。仲間を呼んでもらわないと困るからね。
ただ、あたしは、自分の傷ついた体を見て思った。
(いままで100匹くらい狩ってきたけど、ここまでダメージを食らったのは初めてだよ。しかも、たかが1匹のカリキリに・・・)
持っていた「たべのこし」を口にし、体力を回復しながらも、あたしは目の前のコイツから目を離さない。
『れんぞくぎり』。むしタイプの技で、あくタイプのあたしとは相性が悪い。しかも連続で当てるたびにどんどん技の威力が高くなる、やっかいな技。この辺りに出てくるカリキリで、この技を使うヤツはほとんどいなかった。
(「たべのこし」を使ってるのに、体力を半分くらい削られるなんて、ねぇ)
「たべのこし」の回復力を、コイツの技の威力が上回り始めている。それほどまでに愚直な、コイツの技への執着。
(負けることはないんだけど、そろそろ厄介だね・・・)
顔を叩かれたカリキリの目から涙が溢れる。助けを求めてか、キョロキョロと必死に周りを見回すカリキリ。
(そうさ。友達なんて少なくても、悲鳴をあげな!でないとアンタ、ここで死ぬよ!?)
いくら手加減したって、蓄積されたダメージは回復しない。目の前のコイツは技を覚えていないのか、根っこを張って回復する事もしない。ただひたすらに、『れんぞくぎり』だけを使ってくる。コイツの体力は、もう小さくなって逃げ出すこともできないくらいに削られてるはずだ。
なのに、コイツ。仲間を呼ばない・・・!
「キュイイッ!!」
【やせいのカリキリの"れんぞくぎり"!!】
不意を突かれた。とっさに身をよじってかわしたが、あたしの顔に薄く切り傷がつく。
(これ以上、仲間を犠牲にしたくないってかい?それとも、このままあたしを倒せると思ってるのか・・・)
恐らく、その両方だ。随分と高尚な考えをお持ちだね。まぁどっちみち、あたしを倒せなけりゃアンタに生き残る道はもう残されてないんだけど。
ふふ。イイねぇ、気に入ったよ・・・!
「フシャッ」
あたしは背後の旦那さんに目で訴えかける。旦那さんはそれだけで、あたしの意図を汲みとった。
旦那さんがカリキリに向かってボールを投げる。必ず捕まえられるように、ハイパーボールを使ったみたいだね。
ボールに当たったカリキリは驚きに目を見開いて、そのままボールに吸い込まれる。
カチッという音がして、ボールが完全にロックされた。
旦那さんがボールをゆっくりと拾い上げる。
(せいぜい、かわいい名前を付けてもらうんだね)
あたしはふうっと息を吐いてその場に座り込んだ。切り裂かれた体中が地味に痛む。
決して、優秀な子じゃない。でも、優秀かどうかなんてどーでもいい。そのくらい、あたしは新しく仲間になったカリキリを気に入っていた。
その晩。
旦那さんは野宿のため、キャンプの用意をした。手持ちのポケモンを全部出した旦那さんは、ヒヨッコどもを一通り撫でてやりつつ、新入りのカリキリにたっぷりと「きずぐすり」を使ってやっている。
その様子を、あたしは焚き火の前で暖を取りながら、横目で見ていた。
傷の手当てを受けたカリキリがあたしを見つけると、恐る恐るあたしに近づいてくる。
「キュイ・・・・・・」
うーん。何言ってんのか、わからない。種族、ちがうしね。でも何が言いたいのかはなんとなくだけど、わかる。
「なんで殺さなかったの・・・?」
聞いてきたのはたぶん、そんなところだ。
合ってるかどーかはわからない。あたしの読み違いだっていい。とりあえず、あたしはあたしで、アンタに言いたいことがあった。
あたしは口元に笑みを浮かべて、小さく鳴いた。
「フミャア・・・」
あたしの返事を聞いたカリキリの目が、丸くなる。なんだい。豆鉄砲くらったポッポみたいな目をして。
あたしは軽く手招きをする。あたしの横に来て、焚き火に当たれって意味を込めて。
カリキリが、ゆっくりとあたしに近づいて、あたしの横に恐る恐る座る。その頭を、あたしは優しい手つきで撫でてやった。
「キュイ・・・・・・ッ!」
撫でられながら、カリキリの目があたしを見つめる。ようやく安心したのか、その目から涙がいっぱいこぼれてきた。
あたしはゆっくりとカリキリを抱きしめてやる。カリキリはあたしにしがみついて、ぼろぼろと涙をこぼし続けていた。
・・・怖い思いをさせて、悪かったね。
死んでしまう。そう思っただろうね。
ごめんね。
もう大丈夫。アンタは生きてる。
これからは、あたしがアンタを守ってやる。
死なないように、鍛えてやるよ。
だってアンタはあたしのお気に入りで。
あたしはヒヨッコを鍛える、教育係だからね。
おわり