ブルアカにTS転生してメス堕ちする話   作:アウロラの魔王

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感想いっぱいありがとうございます!

書き終わってから、いやなげぇ!って思ってどこかで切ろうと思ったけど、今回の話は一息に読んでほしいからそのまま出すことにした。

あ、正月ムチュキと正月ハルカ引きました(1天)アルちゃんとカヨコも欲しかったけど石が無ぇ。

流石に「生徒たちをよろしくお願いします」「はい!(プレ先カード即割)」は人の心が無さ過ぎて私にはできなかった。クロコのピックが来たらちゃんと割ってあげるからね…。


5年生の話・冬

 

「うぃ~っ……さみぃ……」

 

 冬になり、寒くなった通学路をトボトボと歩く。

 

「なんでこんなクソさみぃのに、スカート履いて学園行かなきゃならねえんだ」

 

 文句を垂れたところで、聞いてくれるものはいなかった。独り言つら、早く学園に行こ。ミカ当たりなら適当に反応返してくれるだろ。

 

「見つけたぞ!光園ミサ!」

 

 クソッタレな朝に、クソッタレな集団。ツイてない。

 

 こんなクソさみぃのに元気だなこいつら。そう思いながら、いつも通り重機関銃を構えて、不良どもに突撃した。

 

 

 

「―――おはよー」

 

 相変わらずオレが教室に入ると、シーンとなる。別にいいけど。そのまま、自分の席まで行ってから気が付いた。いつものうるさいのいねえな、と。

 

 隣の席を見ると空席だった。今の時間なら、いつもはもういるのに珍しいな。そう思い、ナギサの席を見ると、ナギサの席も空席だった。ナギサがいない……?あの真面目がイスに乗って空中浮遊してるやつが?天変地異の前触れか……。

 

「あ、あの」

 

「ん?」

 

「ミカ様とナギサ様は、お茶会に呼ばれて席を外しております……」

 

 この子、確かバスケの時の。オレがきょろきょろしてたから、わざわざ教えてくれたのか。

 

「そうなんだ、教えてくれてありがとうバスケっ娘」

 

「い、いえ!あ、バスケはやってないです」

 

「そうだったのか……」

 

 お茶会。《ティーパーティー》?既に交流があったのか。人脈づくりだったりで動きそうなナギサはともかく、ミカが?……アイツのことだからお菓子で釣られそうだな。

 

 アイツら居ないんだったら、学園来る必要無かったかな……。いや、別にアイツらが居ても居なくても関係無いんだが。でも、今からまた寒い中帰るの面倒だし……ちょっとくらい学園に居てもいいか。

 

 そんなことを考えてると、うつらうつらとして来て、気が付いたら眠っていた。

 

 

 

「―――サちゃん、ミサ、ちゃん……」

 

 うるさい声に意識が引っ張られ、うすらと目を開けるとミカの顔がアップで映っていた。教室に戻って来てたのか。しかし、その顔は苦悶に歪められており、なぜかオレの右手がミカの首に食い込んでいた。

 

「―――え?なに、これ」

 

「……ぁ、ミサちゃ、んやっと起きた。寝相、結構……悪いんだ、ね」

 

 すぐに右手を離し、バッとミカから飛び退く。なんで、なんでなんでなんでなんでなんでッ!?ちがう、オレじゃない。オレじゃない!オレじゃ、ないのになんで、右手にミカの首の感触が残って……?

 

「オレが……?オレのせいでミカが……?」

 

「ゲホッゲホッ!待って、ミサちゃん……!」

 

「ハァッ……!ハァッ……!ハァッ……!」

 

 オレのせいで、また誰かが傷ついて、悲しんで。オレのせいでまた……。

 

「あ……あ……―――ッ!」

 

「行っちゃダメ!」

 

 走り出そうとしたオレを、ミカが抱き留める。

 

「やだ!やだぁ!離して!」

 

「ダメ、離さない!」

 

「行かせてよ!じゃないとまた、ミカのことを傷つけちゃう!」

 

「大丈夫、私なら大丈夫だから……!」

 

「大丈夫じゃない!オレが大丈夫じゃない!なんで、なんでこうなるの!?誰かを傷つけたかったわけじゃないのに!オレばっかりこんな目に!もう嫌だ!誰かオレを消してよ!」

 

 涙を流しながら、体を乱暴に振り回しミカの拘束から逃れようとするが、ミカの締め付けが増し、逃れるのが困難になる。

 

「落ち着いて、ミサちゃん。私なら大丈夫。ピンピンしてるよ。だから、ね?」

 

 ミカは抱き締めながら、やさしくゆっくりと浸透するように声を掛けてくる。

 

 ミカが声を掛け続け、次第に落ち着きを取り戻し、暴れるのをやめて今はミカにされるがままになっている。オレが暴れるのをやめたのを確認したミカも、抱き締めたまま少しだけ拘束を緩めた。

 

「……大丈夫?」

 

「……っちがう、ちがうの。オレじゃない、起きたら目の前にミカが居てそれで……!」

 

「うん、大丈夫。分かってるよ」

 

「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいっ……」

 

「ミカさん……」

 

 ナギサの声に、体が震える。オレは幼馴染のミカを傷つけた。だから、絶対に怒ってる。謝らないと、でも怖くて顔を見れない。

 

「大丈夫だよ、ナギちゃん」

 

「ですが……」

 

「大丈夫だから、ね?」

 

「はぁ全く、手を出さないでなんて、見てるだけの身にもなってください」

 

「いやー、ミサちゃんのことになると、考えるより先に体が動いちゃって」

 

「……ミサさん」

 

「ひっ、ごめんなさっ」

 

「ぷっ!ナギちゃん、怖がられてる」

 

「……」

 

「ちょっと待って!なんで私を睨むの!?」

 

 やっぱり、怒ってるんだ。痛いことされるのかな。でも、ミカに痛いことしちゃったから、我慢しないと。

 

「ほら!ナギちゃん、そんな怖い顔してるんだから怖がられるんだよ!スマイルスマイル!」

 

「ミ、ミサさん……」

 

「オレをどうやって痛めつけようか考えて笑顔になってる……」

 

「―――ブフォッ!!」

 

「ミカさん……?」

 

「ぷくくくっ―――っていひゃいいひゃい!なんで私をつねるの!?」

 

「腹が立ったので」

 

「ひどいよ!」

 

「はぁ……んんっ」

 

 ナギサはオレの正面に来て、目線を合わせるように少し腰を曲げる。

 

「ミサさん、私は怒ってないので大丈夫ですよ」

 

「うそ、だってオレは大切な友達のミカを、傷つけて……」

 

「本当ですよ。ミカさん本人が大丈夫と言ってるので、大丈夫でしょう。それに」

 

 ナギサが、そっと頭に手を乗せる。

 

「ミサさんだって、大切な友人ですよ」

 

「あ……う……めんなさい、ミカを傷つけてごめんなさい……逃げようとしてごめんなさいっ……」

 

「はい、ちゃんと謝れてえらいですね」

 

 止まっていた涙が再び溢れ出す。そんなオレを、ナギサはずっとやさしく撫で続けてくれた。

 

 

 

「落ち着いた?」

 

「……うん」

 

 オレが落ち着いたのを見て、ミカは拘束を外し離れる。

 

「ふー、ずっと同じ体勢だったから体バッキバキだね!」

 

「……ごめんなさい」

 

「あ、あわわ……!えっと、えーと、あっ」

 

 きょろきょろと辺りを見渡していたミカが、ナギサを見て何かを思いついた顔をする。

 

「そうだ!クリスマスにナギちゃんちでクリスマスパーティーするんだ!」

 

「え……?」

 

「え」

 

「(あ、合わせてナギちゃん!)それでね、ミサちゃんも誘おうと思って!」

 

「あ、ああ、そうでしたね(ミカさん、あとでゆっくりとお話しましょうね)」

 

 ??ミカが片目をパチパチしてたけどゴミが入ったのだろうか。

 

「で、でもオレなんかが行ったら迷惑に……」

 

「ダーメ!決定事項だよ!ホントはサプライズパーティーだったんだけど、このままだとミサちゃん来なさそうだからね!」

 

「う……わ、わかった……」

 

 ミカのことだ。頷かなかったら、頷くまで迫ってきそうだ。でも、そういう強引さは少しだけ救われる。

 

「……そういえば二人はどうして教室に?お茶会に呼ばれたって聞いたけど……」

 

「ああ!そのお茶会が終わった後に荷物取りに来たら、ミサちゃんが寝てて起こそうとしたら急に……あっ」

 

「……」

 

「ミ・カ・さ・ん?」

 

「ち、違うの!今のはわざとじゃなくて!信じてナギちゃん!?」

 

「わざとだったらもっと怒ってます!どうして今日に限って、思ったことを口に出すんですか!」

 

「ご、ごめんなひゃい……」

 

 ミカはナギサにほっぺたを引き延ばされていた。すごい伸びてる、痛そう。じゃなくて、止めてあげないと!

 

「あ、オレは大丈夫、だから……」

 

「ミサさん……まさか、ミカさんに脅されて……」

 

「しないよ!?」

 

「い、いや特にそういうのは……」

 

「そうですか?ですが、"もし"ミカさんに酷いことされそうになったら、私に言ってくださいね?叱りますから」

 

「う、うん」

 

「わー幼馴染の信頼が痛いなー」

 

 でも、先にミカに酷いことをしたのはオレだから、もしミカに酷いことされてもオレは……。

 

「そろそろ帰りましょう。暗くなりますし、家まで送りますよ」

 

「え、ナギちゃん?」

 

「そんな、悪いから普通に一人で帰るよ」

 

「ダメです。悪い人に捕まって、怖い思いするかもしれないでしょう。ねぇ、ミカさん?」

 

「いや、たぶん怖い思いするのは悪い人だと」

 

「あー!そうだねナギちゃん!暗い夜道に女の子一人だと危ないよね!」

 

 オレの反論をかき消すように、ミカが大声を上げオレを引っ張って行こうとする。

 

「あ、ちょ、わかったから!引っ張らないで!」

 

「ほらほらー!ナギちゃんも行くよー!」

 

「ええ、戸締りの確認をしたら行きますよ」

 

 その後、お茶会でこんな話聞かされたーと愚痴るミカと、面白い話を聞いたと笑うナギサの話を聞きながら家に帰った。

 

 

 

 

 

 

「ふー、一時はどうなるかと思ったけど、帰り着くまでにある程度持ち直してよかったぁ」

 

 ミサさんを送った帰り道、ミカさんは一仕事を終えたように晴れやかな顔でした。

 

「ミカさんから見て、ミサさんってどうでした?」

 

「どうって、あー。とりあえず、2、3日は大丈夫だと思う」

 

「そうですか……」

 

 その言葉を聞いて、ほっとする。ミカさんのミサさん評は当てになりますからね。

 

「ところでミカさん、クリスマスパーティーのことなのですが」

 

「えっと、ごめんナギちゃん!そのまま巻き込まれて!」

 

「当然です。巻き込んでゴメンなんて言ったら、怒るところでした」

 

 私だって当事者ですからね。仲間外れはごめんですよ。

 

「でも、主催にも内緒のサプライズパーティーは勘弁してくださいね」

 

「あ、あれは、ミサちゃんを元気付けるために!」

 

「分かってますよ。ですが、クリスマスまで日にちが無いのも事実です。なので、買い出しとか準備をちゃんと手伝ってくださいね」

 

「も、もちろんだよ!ナギちゃんが幼馴染でよかったぁ~!」

 

 感極まって抱き着いてこようとするミカさんをデコピンで撃退する。本人はおでこを抑えて、ひどいと言ってますが聞かなかったことにしましょう。

 

「うぅ……いたた、そういえば今日ナギちゃんが呼ばれたお茶会って《ティーパーティー》の?」

 

「ええ、《フィリウス》のお茶会に招待していただいたので。中等部に上がれば、そのまま加入するつもりです」

 

 とはいえ、しばらくは下積みになりそうですね。そういえば、ミカさんもお茶会に呼ばれていましたね。

 

「ミカさんは《パテル》のほうに?」

 

「あ、うん、おいしいお菓子も出るからって」

 

「ミカさん……」

 

「そんな目で見ないでよー!」

 

 そんな理由で……いえ、ミカさんらしいと言えばらしいのですけど。

 

「ミカさんも、《ティーパーティー》に?」

 

「それなんだけどね、う~ん……」

 

 あまり乗り気ではない様子ですね。チヤホヤされたいミカさんにしては、珍しい気がします。まあ、ミカさんが乗り気ではない理由はおそらく……。

 

「……ミサさん、ですか?」

 

「え?なんで分かったの?もしかしてエスパー!?」

 

 普通に考えたら分かることなんですが……。

 

「んー、まあミサちゃんから目を離したくないのは理由の一つだよね」

 

 理由の、一つ?

 

「他にも何か?」

 

「ナギちゃんは知ってると思うけど、私ってチヤホヤされたりするの好きじゃん?でも、お茶会呼ばれたときチヤホヤしてもらったんだけど、良かったけどなんか違うなってなっちゃって」

 

「なるほど……」

 

「あと単純に政治とか腹の探り合いは苦手!!」

 

「それが主な理由では?」

 

「そんなことしてる暇あるなら、ミサちゃんと遊んでた方が百倍楽しいよねー」

 

 逆に言えば、ミサさんがいなかったら政治が面倒でも、何も考えずに入ってたんですね。

 

「そんなだから、《パテル》の次期首長さんに断りを入れたんだけど、それなら籍を置いておくだけでもって言われて……」

 

「えっ?通ったんですか、それ?」

 

「通っちゃった☆」

 

 それはつまり、《パテル》の次期首長だけでなく首長も同意したということ。一体なぜ……?ミカさんにただ在籍してもらえるだけでプラスになることなんて……いえ、待ってください。

 

「ミカさん、断るときになんて言いました?」

 

「えっ?えーとそれは……その、ミ、ミサちゃんと遊ぶ方が楽しいから~って」

 

「……そういうことですか」

 

 これは、トリニティの悪い部分が出ていますね……。

 

「ミサちゃんの名前出してから相手の目が変わったから、私もやらかしちゃったって思ったもん、さすがにね」

 

「ミカさんを抱き込めば、ミサさんも付属するとなれば目の色変えるでしょうね」

 

 ミサさんは他組織の勧誘をすべて蹴っており、完全にどこにも属していない無色。かつ、交友関係が狭く、友人から取っ掛かりを得られない状態です。

 

 ミサさんは確かに悪評によるイメージが付きがちですが、逆に言えば悪評が付くほど高い武力を持った人物です。最近だけでも、不良1000人に対したった一人で制圧した、なんて言われてます。……本人は実際には200人程度と言ってましたが、十分おかしいですからね?それ以前、私たちも知らない2年生や3年生の事件も《ティーパーティー》は把握してるはず。

 

「ミサちゃんにそういうイメージ持ってないから、完全にうっかりしてたぁ」

 

「このままでは、本人の与り知らぬところで政争の道具にされそうですね」

 

「勝手に巻き込まれたって知ったら、ミサちゃん怒るだろうなぁ。……組織に属するのは嫌って言ってたし」

 

「怒るかどうかは分かりませんが、道具にされるって分かっていたから、組織とは距離を置いていたんでしょうね」

 

 ミサさんの暴力は他分派や他組織のみならず、他学区……特にゲヘナ学園への牽制に使えます。ミカさんを在籍させたのは、交渉失敗したときや、いざというときの盾、でしょうか。

 

「私だけならともかく、ミサちゃんまで利用しようとするのは許せない……。こうなったら、ミサちゃんを守らなきゃ!」

 

「具体的にはどうするんですか?」

 

「……これから考える!」

 

「あ、ハイ」

 

 つまりノープランなんですね。まあ、その辺りは二人で追々詰めていきましょう。

 

「そういえば、ミサさんと言えば気になってるんですが」

 

「え、なになにー?」

 

「ミサさんのヘイローって……」

 

 そう言うと、ミカさんの顔が若干引き攣りました。

 

「分かりやすい反応ですね」

 

「あーまあ、ナギちゃんは気付くよねー」

 

「何か知っているんですか?」

 

「私も気が付いたのは夏休みの時なんだけど、なるときとならないときの差が、まだよくわからなくって」

 

「ちなみになったときはいつのことでした?」

 

「え?うーんと、洋服屋さんで着せ替えたときと、タピオカミルクティー飲んだ時と、最近だとナギちゃんちでケーキ食べてた時もなってたなぁ」

 

「それと今日教室で、ですか。確かに共通項が見出せませんね」

 

 私の家でケーキを食べてた時も!?見逃してしまうとは一生の不覚です……!

 

「そう!で、気が付いた時には戻ってるんだよねー。人体の神秘ならぬ、ミサちゃんの神秘だよ」

 

「まあ、それで何かあったからと言って、ミサさんの友人をやめるわけではありませんからね」

 

「そうなんだけど……思ってたんだけど、ナギちゃんさぁ。最近、やけにミサちゃんに甘くない?」

 

「そうですか?」

 

 言われて思い返してみれば、確かにそう見えるような。

 

「なんて言うか、ミサさんを見ているとこう、母性が刺激されてしまって……」

 

「あ~、なんか分かる気がする」

 

「ミカさんに比べれば、全然手が掛からないんですけどね」

 

「……ナギちゃん、最近私に厳しくない……?」

 

「そうですか?」

 

「無自覚!?」

 

 いつも通りに接しているはずですが。ミサさんと比べて、そう思っているだけではないですか?

 

 しかし、考えることがいっぱいで、ミカさんではないですが多少煩わしくなりますね。ですが、どれもミサさんに繋がることですし、なんとか一つ一つ片づけて行きたいですね。一先ず、目先のこととしてクリスマスパーティーのことをがんばりましょうか。

 

 

 

 

 

 

「―――おっはよー!」

 

「昼間っから元気だな……」

 

「いや、もうお昼だからね!?」

 

 クリスマス当日、いつものテンションでオレの家まで押し掛けて来たミカを見る。服の隙間から首のアザが見えて、落ち込む。

 

「その、首……」

 

「えっ、あーあはは!大丈夫だよこれくらい!」

 

「ホントに、ごめん。謝って済む問題じゃないかもしれないけど」

 

「謝って済む問題でいいよ!それに数日もすれば跡も残らず消えるから!」

 

「うん……」

 

「ほら!ナギちゃんち行くんだから着替えて着替えて!」

 

 ミカに押されるまま、自室に戻り着替えてくる。

 

「うん、じゃ行こっか!」

 

 

 

 以前通った道を通り、ナギサの家まで向かう。

 

「おはようございます。すみません、準備を手伝いに来てもらってしまって」

 

「ううん!全然!ね、ミサちゃん」

 

「いつも迷惑掛けてるし、全然いいよ」

 

 前回は入らなかった邸宅に入り、2階に向かう。案内された部屋は、広いリビングだった。大きなテレビに柔らかそうなソファとクッション。食事をとるテーブルの近くにキッチンもある。ナギサ曰く、客が来たとき用らしい。

 

「とりあえず、何をしたらいいんだ?」

 

「そうですね、とは言っても残っているのは飾り付けと料理の準備ですね」

 

「はいはーい!私飾り付けやりたい!」

 

「ふーん、じゃあオレは料理の方手伝おうかな。一人じゃ大変だろうし」

 

「え、ミサちゃん料理できるの?」

 

「おい、失礼極まりないな。男の一人暮らしなめんなよ?」

 

 そう言ってオレはミカに向かっていつも通りの笑みを浮かべる。……笑えてるはずだ。二人が気を遣って、いつも通り接してくれてるんだ。なら、オレもいつも通りのオレでいないと。

 

「……そうですか、ならミサさんには私の手伝いをお願いしますね」

 

「ミサちゃんの料理かー。ちょっと楽しみかも!」

 

「おう、任せろ。ミカの舌が壊れるくらいうまいの作ってやるよ」

 

「じゃあ私飾り付けしてくるね!いっぱい星つけちゃおっ。とりゃー!」

 

 変な掛け声をしながら、部屋の飾り付けに向かうミカ。なんだとりゃーって。

 

「では、ミサさんはこちらに」

 

 オレとナギサはキッチンに移動する。キッチンには、既に食材が用意されていた。

 

「作るものは決まってるのか?」

 

「いえ、食材は買ったんですけど、何を作るかはまだ……」

 

「ふーん」

 

 何作るか決まってないのに、食材だけ買ったのか。前から計画してた割に、ナギサにしては行き当たりばったり感強いな、と思いミカを見る。相変わらず、うおー!と言いながら飾り付けしている。そういうことか……。

 

「……なるほどね。こっちの丸いのは?」

 

「パン生地ですね。焼き立てが食べられるほうがうれしいでしょうから、時間を調節して料理が出来る前に、焼き上がるようにするつもりです」

 

「じゃあ、一品はシチューにするか」

 

「いいですね、ならマカロニサラダとポークソテーあたりも作っておきましょうか」

 

「いいと思う。じゃあ、こっちはシチュー作るからそっち頼んでもいいか?」

 

「構いませんが……そちらおひとりで大丈夫ですか?」

 

「まあな、シチューぐらい一人で大丈夫だよ」

 

 ……一人暮らしで料理作ってると、段々と一回で量作れて、日にち分けて食べられるカレーとかシチューの割合が多くなるからな……。

 

 とりあえず、たまねぎとにんじんとじゃがいもの皮をさっさと処理してしまうか。

 

「……手際いいですね。それに皮を剥くのも綺麗」

 

「そ、そうか?はは……まあ慣れてるし」

 

 じゃがいもの皮を包丁でスルスルと剥きながら、苦笑する。オレ、料理できないって思われてるのか。

 

「ミサさん、笑いたくないなら笑わなくていいですよ」

 

 心臓が跳ね上がった。

 

「なんで?」

 

「どういうことではなく、なぜ、と聞くということは自覚はあるんですね?」

 

「誘導尋問はやめろよ……」

 

 野菜を一口サイズに切り分けながら、作っていた笑みが消える。

 

「そんなに笑うの下手だったか?」

 

「いえ、俗人が見れば気付けないと思いますよ」

 

「じゃあなんで」

 

「―――友達ですから」

 

 鍋で野菜たちを炒めながら、目を見開く。

 

「あ、ちなみにミカさんも気付いてると思いますよ。言わなかったのはあの子、あれで変に空気読もうとするところありますから」

 

「そう、だったのか」

 

「笑いたくないなら、無理して笑う必要はありません。笑いたくなったら笑えばいいのですから、ね?」

 

「うん、ごめん」

 

「ふふ、ごめんなさいよりも、ありがとうのほうが喜ばれますよ?」

 

「う、そのあ、あり」

 

「―――ちょっと!二人とも、なにいい雰囲気で会話しちゃってんのっ!」

 

 リビングと繋がってる正面のスペースから、ミカが体ごと乗り出してくる。

 

「……邪魔」

 

 火を使ってるし、普通に危ないからミカを手で押し返そうとするが、なぜか抵抗が強い。

 

「ぬぬ……!あれ?ミサちゃん、何かあった?」

 

「なにって、なにも」

 

「そう?でも、さっきみたいに変に笑うよりも、今の方が自然でいいと思うよ!」

 

 その言葉にチラッとナギサを見るとナギサと目が合い、ほら言った通りでしょう?と言いたげに微笑む。

 

「ってちょっと!?今度は目で通じ合って……私もミサちゃんと目で会話する!」

 

「いや、おい」

 

 アク抜きの邪魔なんだが。ミカは無理やりオレと目線を合わせてくるが、何を伝えたいのかさっぱり分からない。

 

「伝わった?」

 

「いや全然」

 

 ミカはむー!と鳴いてるが、何がしたいんだ……。

 

「こっちはもうすぐ出来そうだ、そっちは?」

 

「こちらも出来上がりそうです」

 

「良い匂いしてきたね~」

 

「飾り付けは終わったのか?」

 

「バッチリだよっ」

 

 部屋を見れば、確かに終わってる。……ミカの趣味全開の飾り付けだが、まあミカらしい。

 

 見れば、パンもちょうど焼き上がったみたいだ。

 

 

 

「おいしそー!」

 

 ミカが盛り付けられたご飯を前にし、目を輝かせていた。

 

「ミカさん、先に食事前のお祈りを」

 

「いただきまーす!」

 

「ミカさん!」

 

「いただきます」

 

「ミサさんまで!」

 

 オレとミカはそれぞれ好きなタイミングで食べ始める。

 

「まあまあナギちゃん、今日ぐらいは神様だって許してくださるよ」

 

「いるかどうかも分からん挙句に、何もしない神に祈るのやだ」

 

「二人とも……」

 

「ミサちゃん、ミサの授業もあまり出たがらないよねー。ミサって名前なのにっ☆」

 

「……名前は関係ないだろ」

 

 ミカの言葉にムッとしながら、シチューを口に運ぶ。横でナギサは、誰もしないから一人でお祈りしてた。

 

「では、いただきます」

 

「ミサちゃん!ミサちゃんが作ったシチューすごくおいしいよ!」

 

「本当ですね。とてもおいしいです!」

 

「おう……」

 

 恥ずかしくてそっぽを向きながら答える。

 

「照れてるー!かわいい!」

 

「て、照れてないし、かわいくない!」

 

 そばにあったパンを一つ掴み、ミカの口に突っ込む。

 

「むぐむぐ」

 

 そんな感じで、3人で雑談しながら食事を食べ終え、まったりしていた。

 

「面白い番組やってねえな」

 

「クリスマスだからでしょうか」

 

「あ、そうだ!」

 

 テレビを見ながら、くつろいでいるとミカが突然声を上げた。

 

「これ!持って来たんだった!」

 

「すごろくですか……?」

 

「……新春って盤に書いてあるんだが」

 

「細かいことは気にしなーい」

 

 そう言って、床に広げ始める。

 

「誰からサイコロ振る?」

 

「じゃあオレから」

 

「お、じゃあはりきって行こー!」

 

 ミカの謎のテンションに訝しげながらも、サイコロを振った。

 

「……3か」

 

「うーん、可もなく不可もなく」

 

 隣のミカに、うるさいとチョップを入れながらコマを進める。

 

「次の自分の手番まで、語尾ににゃんをつける……?」

 

「なんですか?このマス」

 

「え?そのままだけど?」

 

 嫌な予感がして他のマスを見てみた。『右隣の人とポッキーゲーム』『服を一枚脱ぐ』『恥ずかしい話をする』

 

「おい待て、なんだこれ」

 

「~♪」

 

 ミカの隠してるすごろくの箱を引っ張り出す。

 

「『新春!罰ゲームすごろく!』最悪じゃねーか!」

 

「ミカさんのことだから、何か仕込んでると思いました」

 

「ふっふっふっ、バレちゃあしょうがない。だがしかし!勝負を受けたからには最後までやってもらうよ!」

 

 やたら芝居掛かった口調で言うミカ。なんで、見えてる地雷に突っ込まなきゃならないんだ。

 

「仕方ありません。始めてしまったからには、最後までやりましょう」

 

「ナ、ナギサ?正気か?」

 

「ええ、暇していましたし、ちょうどいいでしょう」

 

 まさか、ナギサが乗り気だとは思わなかった。

 

「ふっふっふっ、ミサちゃんも観念して語尾ににゃんをつけるにゃん!」

 

 お前がつけるのかよ。

 

「くっ…………わ、わかった……にゃん」

 

「か、かわいい……」

 

「え?」

 

「んん!つ、次は私の番ですね」

 

 ナギサがサイコロを転がし、マスを進める。

 

「『次の自分の手番までサンタコス』?サンタコスってなんですか?タコス三つ?」

 

「サンタさんのコスプレにゃん」

 

「……コスプレって衣装あるのか?……にゃん」

 

「舐めて貰っちゃあ困りますにゃん!」

 

 そう言ってミカが衣装を取り出す。いや生地うっす。

 

「え、これ着るんですか?」

 

「当然にゃん!」

 

「その、色々小さいような……」

 

「コスプレ用だからにゃん!」

 

「……なぜミカさんが、ずっと語尾ににゃんをつけているんですか?」

 

「ミサちゃん一人だと寂しいと思ってにゃん!」

 

「……余計なお世話にゃん」

 

 その後、ナギサは衣装を持って別の部屋に着替えに行った。

 

「―――あ、あの……」

 

「あ、おかえりーナギちゃん」

 

「うわぁ……にゃん」

 

「これ、破廉恥過ぎませんか……?」

 

「えっちにゃん」

 

 ナギサは超ミニのミニスカサンタ姿で出てきた。上も下も丈が足りておらず、はみ出しそうである。

 

「……まあ、ホントはミサちゃんに着せようと思ってたから、ナギちゃんにはちょっと小さかったよねー」

 

「絶対着ないにゃん」

 

 オレのミニスカサンタとかどこに需要があるんだ。

 

「次は私の番だねーえいっ」

 

 サイコロがころころと転がり、出た目の数だけ進めるミカ。

 

「『右隣の人とポッキーゲーム』やったー!」

 

 ミカの右隣って……オレか!?

 

「ミサちゃん!ん!」

 

 ミカはすでにポッキーを咥えて待機していた。ほ、ホントにやるの?

 

「んー!」

 

 ミカの催促が強くなって来たので、意を決して咥える。

 

「ミサちゃん、先に離した方が罰ゲームだよ」

 

 え?罰ゲームに罰ゲーム重ねるの?

 

「スタート!」

 

 困惑してる間に、始まってしまいミカが少しずつこちらに迫ってくる。

 

「ん~」

 

 ミカの顔がどんどん大きくなる。このままだとミカの唇が……。でも離したら罰ゲーム……。ミカより先に離すのは。ど、どうしたら……。あっ、あっ、あっ―――あ。

 

「……」

 

「……」

 

「まあ」

 

 唇に柔らかい感触とミカの顔がいままでより一番近くで見えて、顔に熱が集まっていく。

 

「あ、あはは、ミサちゃんが最後まで離さないとは、えと、ごちそうさま?」

 

「~~~ッ!?」

 

 は、はじめてだったのに……。はじめてだったのにいいいい!!

 

「あー、どっちも離さなかったし、罰ゲームは無しで次行こっか?」

 

「そ、そうですね?ええっと、ミサさん?サイコロ振れますか?」

 

 こくりと小さく頷いてサイコロを投げる。こうなったら、ミカにも同じ辱めを負わせねば気が収まらぬ!なにかミカを恥ずかしい目に合わせられるマス来い―――!!

 

 

 

 思ったより白熱した罰ゲームすごろくも遊び終わり、ナギサは疲れて眠ってしまい、ミカもトイレに行ったきり戻ってこなくて暇だ。

 

 ボーっとしてると、ふと外に繋がるドアが目に入った。確か、バルコニーに繋がってるってナギサが言ってたな。ちょっと行ってみようかな。

 

 外に出ると、雪が降っていたのか少し積もっており、肌を刺すような冷気に体が凍える。

 

「はー、意外と寒いな」

 

 吐息が白く染まり、空気に溶けていく。周りを見渡すが、真っ暗で何も見えない。手すりに寄り掛かりながら、暗闇をじっと見つめていると吸い込まれそうな気がしてくる。

 

「生きるのって、苦しいな」

 

「―――ミサちゃん?」

 

 声が聞こえて、後ろを振り返るとミカがドアを少し開けてこちらを見ていた。

 

「ミカ?」

 

「あ、ここにいたんだ。家の中探しても見つからないから、ちょっと焦っちゃった」

 

 そう言いながら、ミカはこちらに近づいてくる。

 

「あっ、結構寒いね。雪降ってたんだ」

 

「うん」

 

「はい、ミサちゃん。外に出るときはせめて毛布羽織っとかないと」

 

「あ、ありがと……」

 

 オレもミカも、ナギサから借りたパジャマを着ており、結構下がスースーする。ミカが毛布を掛けると、少し寒さが軽減された気がする。

 

「何見てたの?」

 

 そう聞かれて、少し答えに困った。何か見たくて外に出たわけではないし、何かを見ていたわけでもない。結論として、わからないだった。

 

「……わかんない」

 

「そっか……」

 

 ミカを見ては、ミカの首に目が行き、気まずくて俯く。ミカにどうしたの?と聞かれるものの、なんでも、としか返せなかった。

 

 お互いに無言のままでいると、ふとミカが口を開いた。

 

「そういえば、ミサちゃんにずっと聞きたいことがあったんだけど」

 

 一呼吸おいて。

 

「ミサちゃんって戦うのが怖いんだよね?」

 

「―――そ……」

 

 そんなことない、と言おうとしたが息が詰まって、言葉が上手く出てこなかった。

 

「もっと正確に言うなら、誰かを傷つけるのが怖い、かな?ちがう?」

 

「なんで」

 

 なんとか絞り出せた言葉がそれだけだった。ミカはこちらを真っ直ぐ見つめていて、思わず目を逸らしてしまう。

 

「ミサちゃんって、戦ってるときずっと体に余計な力が入ってるよね。あれって、人を傷つけないか緊張してるからじゃない?」

 

 否定したいのに、否定する言葉が出てこない。当たり前だ、間違ってないんだから否定できるわけがない。

 

「ミサちゃんが銃をあまり撃たないで、殴ったり蹴ったりするのも同じ理由だよね?」

 

「……」

 

 何も言えなかった。何か反論したくても、全部返される気がして。

 

「まあ、重機関銃を片手で振り回す膂力で殴られる方が、ダメージ大きい気がするけどね」

 

「……から……んだよ」

 

「ん?なに?」

 

「だから、なんだよ。別にミカには関係ないだろ」

 

 違う。ミカにそんな言葉投げるつもりじゃなかったのに。こんなのただの逆ギレだ。

 

「んーあるって言ったら?」

 

「だったら、誰も傷つけない方法でも言ってみろよ」

 

「じゃあさ―――戦うのやめたら?」

 

「は?なんだよそれ」

 

 心が冷え切っていくのが分かるのに、感情が爆発しそうなほど煮え滾っていて、自分の感情なのにコントロールできないことが恐ろしい。

 

「だってそうでしょ?戦うことで傷つけるのが怖いなら、戦わなければいいじゃん、ね?」

 

「―――ふざけるなッ!!!」

 

 手すりに、拳を叩きつけたことで、手すりの雪がみんな下に落ちていく。

 

「戦うのやめろ?戦わなければいい?勝手なことばかり言いやがって!勝手に戦いを挑んでくるのはお前らだろッ!オレは何もしてないのにいつもいつもいつもッ!」

 

「嘘つき」

 

「うそ?嘘だと?オレは嘘なんて!」

 

「じゃあ、去年はどうして不良たちの所に自分から向かって行ったの?行く必要なんてなかったよね?」

 

 去年……そうだ、あの人がシエルさんがいなくなって、不良共が襲ってきてだから俺は。

 

「あれは、アイツらが!」

 

「戦いたくないなら、向かってくる奴だけでよかったじゃん。なんでわざわざ学区内の不良全員にケンカ売ったの」

 

「違う」

 

「違わないでしょ?今ミサちゃんが色んな不良から狙われてるのは、ただの自業自得じゃん」

 

「違うっ」

 

「違わないよ。ミサちゃんは、ホントは戦いたくて戦いたくてしょうがないんだ」

 

「違うっ!」

 

「じゃあ、なんで私の首を絞めたの?」

 

 ミカの言葉で、心臓を鷲掴みにされたような感覚。息が詰まり、動悸が激しくなる。

 

「ち、ちが」

 

「ミサちゃんが私の首絞めたのって、ずっと戦ってるせいじゃない?ずっと戦ってるから、戦いの動きが身に染みて、ああいう行動取ったんじゃないの?」

 

 そうかもしれない、あのときも戦ってる直後で体が妙に熱い状態で寝てたから、起こしに来たミカを敵と勘違いしてしまったのかも。無意識に、敵を排除しようと。

 

「ねぇ、ミサちゃん。ホントは違うんじゃないの?」

 

「違、う?」

 

「ミサちゃんは誰かを傷つけるのが怖いんじゃない。自分が傷ついてしまうのが本当は怖いんだ」

 

 カヒュッと音にならない声が漏れた。

 

「誰かを傷つけるのが怖いのも、誰かを傷つけることで自分が傷つくのが怖いから。戦いたくないのに戦うのも、自分が傷つきたくないから」

 

 もう何も言えなかった。ミカは正解にたどり着いてしまった。ずっと誰にも言えず、ひた隠しにしてきた弱い自分。痛いのも怖いのも嫌で、それらを排除しようとして―――失敗した。戦うのが怖いんじゃない、戦った相手に消えない傷を負わせて、責められてしまうのが怖かった。軽蔑される。光園ミサは、強くないといけないのに。じゃないとまた一人になってしまう。また捨てられてしまう。嫌だ、一人は嫌だ。暗くて、怖くて、寒い。やだ、だれかたすけて……。

 

「―――ようやく見つけた。ここにいたんだね、ミサちゃん」

 

 ふわっと、甘い香りとともにミカが横から抱きしめてくる。

 

「やっと捕まえた。弱虫で、泣き虫で……寂しがりやなミサちゃん」

 

「ミカ?オレを軽蔑して……?」

 

「しないよ、軽蔑なんて。弱くたっていいんだよ、だってそれもミサちゃんなんだから」

 

「でも、オレ、ミカに酷いことを」

 

「ミサちゃんは考えすぎなんだよ。もし、誰かを傷つけてしまっても、ごめんなさいってすればいいんだから」

 

「でも、ごめんなさいってするの、怖い」

 

「じゃあ、私が一緒にごめんなさいってしてあげるよ」

 

 どうして?どうしてミカはそこまで……。

 

「なんでミカは、そこまでしてオレを……?」

 

「うーん、なんでだろ。わかんないや☆」

 

 そう言いながらミカは笑った。ミカの笑顔は眩しくて、オレは思わず俯いてしまう。

 

「ほら、ミサちゃん。そんな俯いてばっかりだから、暗いこと考えちゃうんだよ―――上、みてみて!」

 

 上?ミカに釣られて俯いていた顔を上げる。

 

「―――あ」

 

 そこには、満天の星があった。

 

「星が……いっぱい……」

 

「ね!すごいよね!」

 

「でも、いつから」

 

「ずっとあったよ?ミサちゃん、星を見に外に出たと思ったのに、ずっと下見てるんだもん」

 

「そっか、そうだったんだ……」

 

 上を見たら、星があったのに全く気付いていなかったなんて、笑い話にもほどがある。

 

「ミサちゃん!あれがデネブ!アルタイル!ベガ!」

 

「それ夏の大三角だろ……しかも指さす方適当だし」

 

「あははーしってるー!」

 

 ミカは、あれがシリウスだからあっちがプロキオンであっちがベテルギウスかな?と笑っていた。

 

「ねぇ、ミカ」

 

「ん?なにー?」

 

「その、さっきのことだけど誰にも」

 

 誰にも言わないでほしい。そう言おうとしたけど、あまりにも都合がいい要求なんじゃないかと思って、言葉に詰まる。

 

「誰にも言わないでほしいんだ?じゃあ、二人だけの秘密だね!」

 

「ふたりの、ひみつ」

 

「うん!あ、どうせだから指切りしよっか。ほら、指出して」

 

「う、うん」

 

「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたーら、はーりせーんぼーんのーます!ゆびきった!えへへ!」

 

 ミカは指切りすると、また星を見てオレに冬の星を指さして教えてくれる。そんなミカの横顔をオレは見つめていた。

 

 ミカはずっとオレを見ていてくれた。ずっとそばに居てくれて、ずっと守ろうとしてくれてる。オレが落ち込みそうになったら、すぐに励ましてくれた。……あれ?なんだろう?ミカを見ていると、胸がポカポカしてくる。不思議な感じだけど、いつもの嫌な感じじゃない。この感じが何かは分からないけど、今はただ、君のそばに居たい。

 

「どうしたの?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 そう言って、オレは笑った。

 

「……そっか!」

 

 その後、眠くなるまで二人で星を見上げていた。

 

 

 

「―――ん、んん~~っ」

 

 ソファで眠っていたナギサが目を覚ます。いつの間にか眠ってしまったらしい。体には毛布が掛かっており、二人が用意してくれたんだろう。先に眠ってしまって悪いことをした。

 

 外を見ると、日が差しており太陽が昇っていた。こんなに眠ったのはいつぶりだろうか、二人がいて気が緩んでいたのかもしれない。

 

 二人はどこだろうと思い、探すとすぐ近くに居た。

 

「……ふふっこれは少し、妬けてしまいますね」

 

 ミサとミカは同じ毛布に包まり、体を寄せ合うように眠っていた。ナギサが思わず嫉妬してしまうほど、二人の表情は幸せそうだった。

 

 




光園ミサ
メンタルが回復したからとりあえず曇らせた。過去一番の曇り。首絞め凶行の原因は別。戦うのが嫌ではなく、戦った相手が傷ついて、自分が責められるのが嫌だった。そんな浅ましくて、弱い自分が嫌で殻に閉じこもっていた。ミカにそんな弱い自分を見つけ、受け入れてくれたから心を開いた。

聖園ミカ
ずっと前から弱いミサには気が付いていた。でも、普通に指摘したところでミサは認めないので、首絞めで落ち込んだメンタルと罪悪感を利用し、言い逃れ出来ないようにした。首絞めは偶然だが、似たようなことはさせようとしていた。弱メンタルがミサに流れてるので、強メンタルと化している。

桐藤ナギサ
ミサに対して母性が芽生えた。ミカが首絞められていたとき、そばにいたが手を出さないでと言ったミカを信じて、ミサの身体を抑えるだけに留めた。トリニティの上層部が、ミサを利用しようとする動きがあるので、ミカと連携しそれとなく動きを抑えることにした。起きたらミカとミサが仲良しで、自分が仲間はずれにされたみたいで悔しくて、ミサともっと仲良くなるために、翌日からミカと一緒にミサ宅に突撃するようになった。


5年生編の集大成なので曇らせと、ちゃんと最後に救いを入れた。ミサとミカはまだお互いの恋に無自覚の状態。無自覚に、互いに強い矢印向けあってるのすごい好き。

次回からは6年生編。え?正月?バレンタイン?知らぬなぁ…。本音を言うと、一つの季節に複数行事ねじ込むと話がゴチャゴチャするし、次に書くことが無くなってしまうので!

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