ブルアカにTS転生してメス堕ちする話   作:アウロラの魔王

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1話で納めようとしたけど主人公いじめが楽しくて分割になっちゃった!


桃色のはじまり・まえ

 

 

 

 現場から無事脱出し、トリニティ総合学園にたどり着いたオレは、ようやく一息ついた。

 

 ―――この透き通る世界観を持つゲーム、《ブルーアーカイブ》に転生してどれくらいの年月が経ったのか。前世が男だったオレは、寝て目が覚めたら光園ミサという美少女になっていた。

 

 特徴的な頭の輪っかと背中の羽で、"まさか"と思って調べたら出てくるワードが《キヴォトス》、《連邦生徒会》で自分の住んでるところが《トリニティ総合学園》と知って気が遠くなった。

 

 他の学校に逃げようか考えた時期があったが、どの学校に行こうともここが《キヴォトス》である限り、過酷なのは変わらないことに気が付いてからは結局トリニティ学園に通っている。そもそも、見た目がガッツリトリニティ生だから他の学校に行ってもめちゃめちゃ浮きそうではある。

 

 どこに行っても変わらないなら楽しむのが肝要。古事記にも書いてある。よく考えれば、この世界美少女が多い。つまり、合法的に美少女とイチャつける世界だ!ならば、オレの男気溢れるオーラに当てられ、美少女とイチャイチャ出来る。最高か?

 

 その考えに至ってから、男の中の男で男らしくあるために努力を積み重ねた結果、なぜか《トリニティの問題児》と呼ばれるようになってしまった。なんでぇ?

 

 しかも余所様では《破壊天使》なんて呼ばれてる模様。なんでぇ?

 

 女の子を堕とすどころか、女の子に避けられる始末。どうしてこうなった?

 

「だが、それも今日までの事。今日から高校生、華麗に高校デビューを決めて女の子からモテモテだぜ!そして、今度こそアイツの魔の手から逃れて見せる!ハッハッハッ!」

 

 

 

「―――ハァ……」

 

―――あ、見て見て光園ミサさんよ

 

―――ホントだー!ねぇ、あのウワサってホントなのかな?

 

―――ちょっとやめなよー!

 

―――アハハ!

 

 そうだった、ほとんどエスカレーターだからメンツなんて中学から変わるわけなかった。

 

 もっと早く気づけよ、このおバカ!!

 

 廊下で女子とすれ違う度、ヒソヒソと何かを話し、クスクスと笑われる。オレを見て笑われることなんてあまり無いことなので、なんだか妙に気恥ずかしい気持ちになり体を縮こませて歩く。怯えられるよりマシだが、一体何なんだろう?

 

 ちなみに始業式はもう終わった。先生はこのキヴォトスにいないので生徒会である《ティーパーティー》が長々と話して終わりである。

 

 そういえば、壇上にはナギサも居たな。桐藤ナギサ、のちの《トリニティ総合学園》を代表する3つの分派のひとつであるフィリウスの首長であり、《ティーパーティー》の生徒会長だ。確か中学の時には、《ティーパーティー》にはもう入っていた。真面目かアイツ。

 

 一応、知り合い以上友達以下な関係ではあるが、向こうがオレをどう思ってるかは知らん。

 

 しかし、なぜか壇上のナギサとよく目が合った。式を進行する際も、ちらちらとオレに目線を送り続けていた。……まさか、とうとうオレの魅力に気が付いてしまったのか?本人に言ったら怒られそうだから絶対言わないが。

 

 冗談はさておき、わざわざナギサに見られることに心当たりがない。まぁいっか。

 

 ふと、窓に映った自分を見る。青い翼が円状に広がり、中心に♂マークという特徴的なヘイロー。これはオレが男だという動かぬ証拠であり、オレのアイデンティティだ。背中からは白い翼が生えており、トリニティの白い制服と相まって神々しく見えることだろう。

 

 だが、左肩から弾薬などを入れているでかいバッグを下げて、右肩からはこれまたでかい機関銃を背負っているので威圧感の方がすごい。あっ。

 

「羽がちょっと乱れてるかも。ブラシ、ブラシ」

 

 サッと翼を撫でつけて整える。窓に全身を映して、大丈夫か前後に振って確認する。腰を振るたびに、翼に付いたアクセサリーが揺れ存在を主張する。

 

 他に変な所は無いか、髪を撫でつけながら確認する。パッパと服に付いたホコリを払ったり、首元を確認して安心する。

 

 ……うん、大丈夫そう。小さく息を吐きながら、改めて教室に向かう。

 

 

 

―――……ねぇ、やっぱりあれホントなんじゃない?

 

―――あれって……「女にされた」っていう?アンタほんとにそういうの好きねー

 

―――いや~、この学園そういうのありそうであまり聞かないからついってそうじゃなくて!?私小学校からアイツ知ってるけどさ、もっとやばかったんだって!なのに!!今、あんなにおとなしいの変だって!てことはやっぱり……

 

―――はいはい、勘繰るのは良いけど、あんまり深く突っ込みすぎると痛い目会うわよ?よく言うじゃない?恋路を邪魔する奴は~ってやつ

 

―――……なんかそれ使い方ちがくない?

 

―――~~~っ!うっさい!アタシがアンタを襲うわよ!?

 

―――きゃーっ!襲われるー!

 

 

 

 

 

 

 ?なんか妙に後ろが騒がしいがまあいいや。

 

 さて、教室に着いたが、どう中に入ろう。せめてアイツにバッタリ出くわすのだけは勘弁してほしいんだが……。とりあえず姿勢を低くして、ドアの隙間から中を覗こう。

 

―――そういえば、あの通りの喫茶店新しいスイーツ出したんだけどもう食べた?

 

―――新しいネイル試してみたんだけど、どう?

 

―――それでねー、あはは!

 

「……ふむ」

 

 いない、な。クラスが違うということは無い。クラス分けのショートメールはちゃんと見たし、アイツも一緒に見た。朝は用事があるって言ってたから、まだ用事が終わってない感じか?どこ、とは言ってなかったがどうせ分派の連中だろう。まぁ、いないなら今のうちに―――。

 

「おはようミーサちゃんっ♪」

 

「―――イィヤァァァアアアッッッ!!?!?!」

 

 脳が誰の声か認識するよりも早く、体が反応し、凄まじい悲鳴を上げてしまった。

 

 違う、違うんだ。別に驚いたとかでは、いや、驚きはしたがこんな声を上げるつもりはなくて。ちゃんと声で誰か分かってるんだ。でも無意識と意識が別の反応をしたというかなんというか。だから、これは他意があったわけでもなく、恐れてるとかそういうのじゃないんだ。だから、こーいうあれで、あーいうそれで……。

 

 既に頭の中に無数の謝罪が溢れながら振り向くと、思った通りオレと同じピンク髪の少女が驚きの表情で固まっていた。ついでにちらっと見えた教室の中のみんなも驚いてこちらを見ていた。

 

 髪の一部をお団子にしてシュシュでまとめた、オレと似た白い制服を纏った美少女、聖園ミカだ。

 

 ミカはその端正な顔を、分かり易く『わたし、不機嫌です』という風に歪ませ、笑顔になる。あっ、ダメだ、おわった。

 

「もう!ミサちゃん、声聞いただけで悲鳴上げるなんてヒドイよ!」

 

「いや、これはそのー……」

 

 オレもそう思う。でもなんて誤魔化せば良いんだ。唐突に悲鳴や奇声あげても大丈夫そうな場所と言えば―――ッ!

 

「じ、実はゲヘナで流行ってる挨拶で」

 

「は?」

 

「というのは冗談でーっ!!!」

 

 しまったぁぁぁああああああっっ!!オレのバカ!!オレのバカ!!!ミカは大のゲヘナ嫌いなのに、ゲヘナの話題出したらキレるに決まってるじゃん!!

 

 もう土下座と勢いで謝るしか方法が無い!!!

 

「ごめんなさいっ!!ビックリして思わず声が出ちゃって、ワザとじゃないんです!!!」

 

 全身の血の気が引いていくのを感じながら、さながら審判を待つが如く。

 

 ゲヘナを引き合いに出してしまったから許されないかもしれない。そう思ってるとそっと頭に温もりが。

 

「ちゃんと謝れて偉いね!でも、次からは変な言い訳したらダメだよ?」

 

 あっ……♡

 

 頭に乗せられた手が優しく髪を撫でつける。……許された?いつもならここからネチネチと皮肉交じりにいじめてくるのに……。

 

「あ!今、『いつもなら許してくれないのになー』って思ったでしょ!」

 

 なんでバレるの……?まさか表情に出てるとか?

 

「もう、ミサちゃんにそんな風に思われてたなんて心外だなー。ホラ!そろそろちゃんと立と?いくら綺麗に掃除されてるからって汚れちゃうよ?」

 

「あっ、うん」

 

 差し出された手を取って、立ち上がりスカートのホコリをはたく。

 

 ミカとオレはやや身長差がある。……いや、オレの方がデカいのではなく、ミカの方が10㎝近く大きい。そのため、立ち上がっても少し上を向きながらじゃないと話せない。悔しい……!オレにミカを見下ろせるだけの身長があれば……!とかなんとか考えていたが、ミカの手がまだ離れていないことに気が付いた。

 

「…………?あの気になってたんだけど、ミカ、手」

 

 ―――ミシィッ!!

 

「ッ!!?!?!」

 

 ぎゅっ!みたいなかわいい音は無く、骨の軋む音がオレの手から鳴る。離したくないとか、そんなもんじゃない。これは絶対に逃がさないという意思の表れだ。

 

 ……なにか彼女の逆鱗に触れてしまったのだろうか。あるいは、先程の事がまだ許されていなかったか。右手から感じる痛みとお腹の奥に疼きを感じながら、焦った思考が流れていく。

 

「あはっ。どうしたのミサちゃん?顔が青いよ?大丈夫?今日から高校生だからはしゃぎ過ぎちゃったのかな」

 

「ぅ…………」

 

 焦り、混乱で言葉を紡げないオレを余所に、彼女は笑っていた。脳が警鐘を鳴らしていた。今すぐ逃げろと。だが、手はガッチリ掴まれていて振りほどくことができない。

 

「あ!そうそう、はしゃぎ過ぎで思い出したんだけど―――」

 

 彼女がポーチから取り出した一枚の紙に、全身の血の気が彼方へ飛んで行くのを感じた。

 

 『光園ミサ 今朝の不良との喧嘩及び公共物の破壊について』

 

「―――"これ"、どういうことかな?」

 

「あ……あ……」

 

 な、なんでバレて……。まさか不良たちが?いや、まだ起きるまで時間掛かるはず……他に目撃者はいなかったはず……。

 

「ミサちゃん、黙ってたら分かんないよ?……もしかして、なんでバレたんだろうって考えたりして無いよね?」

 

 だから、なんでドンピシャで心の中当ててくるんだよぉぉ!

 

「分かるよ、ミサちゃんの事だからね☆あの口径の弾を連射できる銃は限られるし、使ってる人も限られるんだから、直ぐ割り出せるよね。おまけに、地面粉砕するような戦い方する人なんてもっと居ないし」

 

「ミ、ミネとか……」

 

「ミネちゃんの銃じゃ連射出来ないし、弾の大きさも違うでしょ!そもそもミネちゃんだったら、自分で負傷させて自分で治すからその場に放置なんてしないよ」

 

 苦し紛れで出た反論はあっさり論破される。な、なんでぇ……完璧に逃げ切れたはずだったのにぃ……。

 

「ミサちゃん……素直に白状すればちゃんと許してあげたのに、仕方ないね」

 

 残念そうに、しかし分かっていたのか口に笑みを浮かべながら、手を繋いだままクルリと背を向ける。

 

「じゃ、行こっか?」

 

 そう満面の笑みを浮かべていた。どこに行くのか想像が付きながらも、反射的に聞き返してしまった。

 

「え、ど、どこに?」

 

「アハハッ。ミサちゃんもよく知ってる場所だよ」

 

 そう言うと、オレがロクに抵抗もできずにグイグイと引っ張られだす。

 

 『よく知ってる場所』。その言葉を聞いた瞬間、今度は全身の血が沸騰するように熱くなり、お腹の奥がきゅんっ♡と鳴いた。でも、オレは認めたくなくて反抗しようとしてしまう。

 

「や……!オレは……!」

 

「…………………………『オレ』?」

 

 底冷えするような声。全身の震えが止まらなくなり、涙が出そうになってしまう。

 

「あっ、いや……わ、わたし。私です!エ、エヘヘ……きょ、今日から高校生だからちょっとはしゃいで……」

 

 泣きそうになりながら、言葉を紡いで必死に訂正するオレ。そう、"私"だ。『女の子らしくすること』それはオレとミカの間で交わした約束。口調も、持ち物も、振舞いもすべて。破った場合は恐ろしいお仕置きが待っている。だから、彼女の前では常に女の子らしく振舞わなければならない。

 

「もー、うれしいからってはしゃぎ過ぎだよ?あんまりはしゃいで知らない人に迷惑かけたらダメだからね」

 

「エヘ……えへ……」

 

 そう言って振り返ったミカは笑っており、怒っているような雰囲気は感じられなかった。聞かなかったことにしてくれるのか、それとも怒り過ぎて笑顔になる現象が発生してるのか、オレには判断が付かなかった。だが、彼女の足は止まらず、いまだ引っ張られているあたり『あの場所』に行くのは避けられないのか。

 

「ミ、ミカ!あの……私……」

 

「んー?なぁに?」

 

 足は止めない。それでも話はまだ聞いてくれるらしい。

 

「じ、実は言ってないことがあって……今朝のは同じトリニティの生徒が不良たちに囲まれていたんです!そ、それで、助けようとしたら結果的に私が絡まれてしまって……」

 

「ふ~ん?」

 

 訴えかけることで、何とか回避しようと試みるも、ミカはこちらに振り向かず、取り出したスマホをポチポチと弄りだした。

 

 関心すら持たれないのか。思わず泣きそうになり、目に水が溜まってくるが何とか堪える。

 

「そ、それで、ほら、私ってこの辺りだと有名だから!だから、いつもなら私見たら逃げ出すんだけど、今日は遠くの学区から来たみたいでそのまま戦うハメに……」

 

「へー、そーなんだー」

 

 あんまりな態度に、引っ張られていた手を逆に引っ張って、無理やり足を止めさせる。驚くほどアッサリと止まってくれたが、依然としてこちらは見ない。

 

「あのっ、本当なんです。信じて、しんじて……ください」

 

 どうしよう、止まらない。

 

 堪えていた涙が、ぽろぽろと溢れ出してしまう。オレはこんなに涙もろかっただろうか。堰を切って溢れた涙は、床に少しずつ染みを作っていく。こんな顔を、ミカにだけは見られたくなくて、俯いてしまう。

 

「…………」

 

 視界の端の影が動き、ミカがこちらに近づいてくる。そして、オレの前で止まったミカから腕が伸びてきて、思わず肩を震わせた。

 

「信じるよ」

 

「……え」

 

 伸びてきた手はオレの頭をやさしく撫でてくれていた。顔を上げると、そこにはニコニコしたいつものミカがいた。

 

「ミサちゃんの言うことだもん。ちゃんと信じるよ」

 

「ミ、ミカ……「でも」ぅ?」

 

「ちょっとストレス解消にいいかなって思っちゃったんだよね」

 

「う……」

 

 見透かしているのではない。ミカの目にあるのは理解だった。嘘も誤魔化しも効かない。光園ミサはこういう行動をとる、というのを理解していた。だから、これは疑問ではなく確認なのだろう。

 

「………………思い、ました」

 

「ふふっ、ちゃんと正直に言えて偉い!」

 

「―――わぷ」

 

 掴んでいた手をグイっと引っ張られ、そのまま吸い込まれるようにミカの胸に収まってしまった。そこは、ミカの匂いとミカのぬくもりがあって、一番落ち着く場所だった。

 

「もしかして、私が怒ってるって思った?」

 

「……うん」

 

「やだなー、私がミサちゃんに怒るわけないよ」

 

「……ほんとに?」

 

「ほんとほんと……あれ?もしかして、私信用されてない?」

 

 あれ~?とミカは目を丸くしていた。

 

「ミサちゃんにそう思われてるなんて、キズついちゃうな~」

 

「……だって、いつもは……」

 

「『いつも』?……あー」

 

 記憶の中の、激しく責め立てるミカを思い出す。思い出すだけでも、全身がブルリと震える。胸に埋もれてるオレからはよく見えなかったが、ミカはそんなオレを見てニヤニヤと笑っていた。

 

「……ふ~ん、そっかぁ。嫌だったんだね、ごめんね。次からはうんっとやさしくするね」

 

「え、いや、ちが」

 

「大丈夫大丈夫!わかってるって。ほら!あんまり泣くとメイク落ちちゃうよ」

 

「な、泣いてない!……嫌じゃ、ないのに」

 

「……。ん?何か言った?」

 

「な、なんでもない!」

 

「ふふふっ」

 

 そうして、しばらくミカにしがみ付いたままだったが、人気の無かった廊下の奥から別の一団がやってきた。

 

「―――あれ?ミカさん?」

 

 その声を聞いた瞬間、はじかれる様にミカから離れ、顔を見られないように後ろを向いた。

 

「あーもう、タイミング悪いよーナギちゃん」

 

「仰ってる意味が分かりませんが」

 

 顔は見えなかったが、やはりナギサだった。他にも人を連れているところを見ると、分派の会合帰りだろうか。

 慌ててバッグから鏡を取り出し、手早くメイクが崩れてないか確認する。メイクと言っても凝ったものではなく、ベースを整えてリップを塗っただけの簡単なものだ。ミカが言うには、元が良いから凝りすぎると逆効果らしい。だから、元の良さを引き出すために簡単なメイクでいいそうだ。

 

「それより、ミカさん。今は教室のはずでは?」

 

「あー、それなんだけど。ちょっとやることできちゃって、まぁでもちょうど良かったかな」

 

「やること?……なるほど」

 

 ちょうどメイクを直したところで、鏡越しにナギサと目が合った。慌てて鏡を閉じて、ミカの後ろに隠れようとしたが、ミカに肩を掴まれナギサの前に引きずり出されてしまった。

 

「そう!ほら、ミサちゃん」

 

「ミ、ミカ?な、なにを」

 

 ミカは顔を寄せると、そっと囁く。

 

「迷惑を掛けた人たち、いるよね?だったら、ちゃんとしないと、ね?」

 

「う……」

 

「大丈夫だよ、私が付いてるから」

 

 脳髄に染み込むような甘い声で、ミカは囁き続ける。収まっていた体に再び熱が灯る。吐息に熱が混じり、思考が綻んでいく。

 

「ミサちゃんは、『素直で』『かわいい』『女の子』だもんね。大丈夫、ミサちゃんならちゃんとできるよ」

 

「は、い」

 

 ミカに促されるまま、私は一歩前へ進み出て―――。

 

「―――おはようございます、ナギサ、様」

 

 ミカに教わった通りに、スカートを軽く持ち上げ礼をする。

 

「え、ええ、おはようございます、ミサさん」

 

 ナギサは、ちらっと目線を私の奥に向ける。おそらくミカを見たのだろう。私からは見えないが笑っているに違いない。

 

 顔から火が吹き出そうなほど恥ずかしい。心臓が早鐘のように鳴っている。今すぐここから逃げ出したいがミカが許さないだろう。

 

「今朝の件なのですが、不良たちとケンカしたこと、公共物を破壊してしまったこと。多大なご迷惑をおかけして、申し訳、ありませんでした」

 

 言い切ってから、ゆっくりと頭を下げる。そのまま、10秒ほど経って何も言わないナギサに業を煮やしたのか、声を上げるミカ。

 

「もー、ナギちゃん!"あの"ミサちゃんがこんなに謝ってるんだから許してあげてよ!」

 

 自然な動作で私の隣に歩み寄ると、そのまま私のお尻付近に手を這わせる。……ミカさん?

 

「どういう理屈ですか……。それと、ミサさんももう顔を上げて頂いて結構です」

 

「あ、は―――んヒィッ!?」

 

「ど、どうしました?ミサさん」

 

「―――あ、にゃんでも♡ない、です……♡」

 

 私のお尻付近を這っていた手は、私のスカートの中に侵入していた。隣のミカに顔を向けると、何食わぬ顔で「どうしたの?」と言いながら、その手は私のスカートの中で蠢いていた。

 

「ミカさん……」

 

「あれー?ナギちゃんどうしたの?まだ何か話すことあるんでしょ?続けて続けて!」

 

 何をしているか分からなくても、何かしているのはミカだと、ナギサも気づいているのだろう。呆れた目でミカを見ていた。私は突如として与えられた信号に耐え、体を支えるのに精一杯だった。後ろに手を回して、これ以上ミカの手が入り込んで来ないようにミカの腕を抑える。とりあえず、周りに"音"が聞こえてないかだけが心配だった。

 

「はぁ……、ではこのまま話を続けますが、んん!先のケンカの件ですが、先程ミカさんから連絡を頂いた直後に件の女子生徒が訪ねられまして」

 

「え?そうなの?」

 

 連絡?いつのまに?……あっ。

 

「ええ、《正義実現委員会》から《ティーパーティー》に連絡が回ることを知っていたのでしょう。その方が『助けて頂いたのに、お礼も言わず逃げてしまって申し訳なかった。どうか彼女に対する罰を軽くしてほしい』と。今回の裁量は私に任されたので、今回に関しては人助けであったことも考慮し不問、とさせて頂こうと思います」

 

「わぁ!よかったね!ミサちゃん!」

 

「んっ♡は、はい。ありがとうん、ございますっ」

 

 どうやら不良に絡まれていた子が、《ティーパーティー》に直談判してくれたらしい。不良に一人で立ち向かったことといい、勇気のある子だ。

 

「ただし!!」

 

「わぁ!?」「んあっ!♡」「―――え?」

 

 急な大声で驚いたミカが、驚いた拍子に入り込んでいた手がさらに奥に入ってきた。その際、とんでもない艶声を出してしまった。慌てて、手で口を塞いだが、幸いナギサの後ろの人たちはミカの驚いた声に紛れて聞こえなかったようだが、近かったナギサには聞こえてしまったようで、"なに"をしているのか気付いたのだろう。顔は耳まで赤くなり、口元を引きつらせていた。ナギサはこちらを見てくる。見ないで。

 

「ミ、ミカさん。あ、貴女―――」

 

「あ、あははー。ど、どうしたのナギちゃん。ほら、お話続けて続けてー」

 

 ミカも気付かれたことに気付いたのだろう。目を泳がせながら誤魔化そうとする。それに対し、ナギサは口をパクパクと動かすが声が出ていなかった。うまく言葉が出てこなかったのだろう。できれば何も言わず、聞かなかったことにしてほしい。

 

 と、硬直したナギサを不審に思ったのか、取り巻きの一人がナギサに声を掛ける。

 

「あの、ナギサ様?」

 

「―――はっ。んんんっ、こほんこほん。し、失礼しました。い、いいですかケンカの件は不問と致しますが、公共物を破壊したのは事実です。後日、改めて各所へ謝罪に向かうことと反省文の提出です。い、いいですね!?」

 

「ひゃ、ひゃい……ごめんなさい」

 

 呂律は回ってないし、顔は真っ赤だし、涙目だし、こんな姿をミカ以外に見られてるし。もう顔からとは言わず、全身から火が出そうである。

 

「そ、それと女生徒からの伝言です。『助けてくれてありがとうございました。会いに行く勇気が出たら、また改めて必ずお礼に行かせてください』だそうです。良かったですね、ミサさん」

 

 ……別に助けようと思って助けたわけではないし、同級生どころか上級生にも距離取られるくらい怖がられてるの知ってるから、無理して会いに来なくてもいいと思うけど。

 

 ミカは分かり易いくらいキョトンとした顔をしていた。あの顔は、『変な子だー』と考えてるな。

 

「変な子だー。というかナギちゃんのところに直接行くのに、直接お礼を言いに来るのはダメなんだ」

 

「……まぁ、ミサさんのところへ行き辛いのは分かりますけどね。それでも、『必ず会いに行く』と言えるのは、とても勇気のある方だと思いますよ」

 

「えー、そうかなぁ。ミサちゃんはこーんなにかわいい女の子なのに、みんなヒドいよ!ねー、ミサちゃん」

 

「う、うん」

 

 そこで私に同意を求めるのはおかしいと思うんだけど。そもそも、私の評判は嫌でも耳にするから、聞けば確かに普通の人は距離を取りたくなるな、と。だから、距離を取られるのは仕方ないし、正直なところ昔は気にしてはいたが今はもう気にしてない。よく分からないけど、気にならなくなった。

 

 それはそれとしてミカ、手を動かさなくなったのは良いけど、手を離してもらえるとありがたいのですが。足をモジモジ擦り合わせていると、たまにナギサが私の下半身辺りに目を這わせてくる。ほんとに見ないでください……。

 

「それでは、私たちはもう行きますね」

 

「うん!」

 

 話は終わったのか、ナギサたちは私たちの横を通り過ぎようとする。とミカが思い出したように「あっ!」と声を上げる。

 

「そうだ!ナギちゃん、また"あの部屋"使わせてもらうねっ!」

 

 あ、あの部屋……。ミカは視線だけでこちらを見ると、口元に笑みを浮かべる。

 

「―――はぁ、"ほどほどに"お願いしますね。ミカさん」

 

「モチのロンだよ!!」

 

 そのまま、ナギサたちは歩いていき姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

 

 

 

 

「ナギサさま、よろしかったのですか?」

 

 ミカたちと分かれ、廊下を歩いていたときの事。ナギサは取り巻きの一人に話しかけられた。

 

「それは、どちらのことで?」

 

 聞くまでもないが、ナギサは一応聞き返した。

 

「もちろん、光園ミサのことです」

 

 やはり。心の中で溜め息を吐く。

 

「それは、先程お伝えした通りです。今回の件については、首長より直々に裁量を任されていますので」

 

 おそらく、ナギサに任せたのは、ナギサがどう対処するのか知りたかったからなのだろう。ナギサは、聖園ミカと幼馴染であり、光園ミサともミカが小学校の時に紹介されて以来の付き合い、知り合い以上友達以下な関係だ。向こうがどう思っているかは分からないが。

 

 そんな相手にどういう判断を下すのか。知りたかったのはそれに違いない。実際何かしら処分を下そうと思っていた。そんな折、ちょうどミカからの連絡がきた。ケンカに巻き込まれた生徒あるいは目撃者がいたかもしれないと。その連絡が来た直後だった。件の生徒が訪ねてきたのは。

 

 甘い判断だと思われるかもしれない。しかし、態々直接訪ねて来てまで訴えかけてくれた人の願いを無下にするわけにはいかないし、状況的にミサに対し情状酌量の余地があったのも事実だ。しかし、ゴミ箱を破壊したり、街灯を折ったりしてるので、総合的に見て謝罪と反省文が妥当であろうと。

 

 公共物の破壊については、正直なところあまり強くは突っ込めないのだが。騎士団や委員会、果ては自警団までもが戦闘になった際、よく始末書で上がってくるのだ。銃の撃ち合いとなれば、どう立ち回っても被害は出てしまう。

 

 ちなみにだが、今回不良の人数に対して使われた弾は30発程度。一度に100発以上撃てる銃なのに半分も使われていない。おそらく被害を最小限に留めようとしたのだろう。つまり、破損の大よそは不良が原因だ。

 

「しかし、"あの"光園ミサですよ。いつまた悪さをするか……」

 

「口を慎んでください。ただの噂に踊らされるなど、《ティーパーティー》として恥ずべきことですよ」

 

 ―――またか。ナギサは今日で何度目になるか分からない溜め息を吐いた。こうしてミサの話題が上がる度に、『もっと重い処罰を!』と声を上げる者が多い。しかし、本来なら今回の件でミサに罰を与えるのは難しい。というのもミサが行ったのは、不良と戦って、少し物を壊したぐらいだ。

 

 彼女が無所属だから、というなら非公認の自警団にも同じように対応しなければならなくなる。自警団は、治安を守りたい有志が集まってできた非認可の活動であるため、実態としてはミサと同じ無所属である。

 

 それでも彼女一人が悪く言われるのは、一人歩きしている噂のせいだろう。実際に会って話してみると、噂は噂でしかないのだが、噂を信じる者にはミサが恐ろしいナニカにでも見えているのだろうか。

 

 ナギサ自身も昔はミカに紹介されるまでは、噂を鵜呑みにしていた時期があった。だからと云うわけではないが、彼女らのことは強く責めず、今回も注意で済ませる。ミサの良さを伝えきれない歯痒さに、妙な苛立ちを覚える。

 

 しかし、ミサの事を恐れる者は多いが、同じくらい彼女を認める者も多い。先の委員会に自警団は会うことが多いからか、特に多い。不良との交戦中にミサの姿を見た不良が、一斉に降伏したり、悪いことをしようと集まった不良がミサの姿を見た瞬間、全員が回れ右して逃げた話など、彼女の武勇伝は数多い。

 

 彼女の噂が一人歩きした結果、争いに対する抑止力となっており、委員会や自警団から一目置かれる存在になっている。さらに、争いが減ることにより負傷者の数も激減したので騎士団からの評価も高い。

 

 つまり、ミサのことを恐れているのは一般生徒が多い、ということだ。ただ、それも今回でまた一人、ミサのことをちゃんと知った者がいる、というのは友人として大変喜ばしい。

 

 願わくば、彼女の理解者がもっと増えればとナギサは思うのだった。

 

 

 




絶対にミカは好きな子をいじめるタイプ。
私の下半身がそう言ってる。

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