前回から間が空いて申し訳ない。前話では色んな人に心配お掛けしました。許されたのでこのラインぐらいで書いてくぞ~。
でも、今回はミサの話ではなく、みんな気になってるであろうナギサ側の話。ミカとミサがにゃんにゃんしてる裏側の話になります。
「―――ですから!光園ミサを即刻矯正局送りにすべきです!」
そう声高に叫ぶのは《ティーパーティー》にある分派、パテルに所属する生徒。その光景に、ナギサはもう何度目になるか分からない溜め息を吐く。
今、桐藤ナギサが居るのは《ティーパーティー》の会合場、それも各分派の首長も交えた大規模な会議だった。今回の議題は当然、光園ミサの処分について、だ。まだ何もしていない彼女の処遇ではなく、処分が決められそうになっているのは普段の素行の悪さ故か。
そういえば、先週のミカとミサの誕生日のことだ。ナギサ自身、《ティーパーティー》の雑務に情報収集にと追われ、ミカとミサは二人で秘密の勉強会をしているらしく、顔を合わせる暇が無かったのでモモトークで誕生日おめでとうのメッセージを二人に送ったのだが、ミカは反応したがミサからの返信が無く、その後何故かミカが『ミサちゃんもありがとうだって』等と代わりに返事をしてきたことに首を傾げたが、今は二人で勉強会をしているし、ミサも自身の手を離せなくてミカに代わりの返事を頼んだのかもしれないと、自分を無理やり納得させた。
ナギサは、手元のスマホに目を落とし、そのトップに表示されてる自分とミカとミサの三人で撮った写真を見て、思い返すのはミカのことだった。2週間ほど前、一枚の通達書が発行されミサに渡った翌日だった。ミカから『出来る限り会議の決定を遅らせて欲しい』なんて無茶をお願いされた。ミカのワガママは今に始まった事ではないし、ナギサ自身も今回の提言には納得の行っていない部分も多かったので、周りの人にも協力を乞い、今回の会合までに情報を迅速に集めた。
なんとか情報は掴めたものの、証拠まで揃えることは出来なかった。果たして、今の手札でどこまで戦えるか……。限られた時間の中で、集められた情報の少なさに、ナギサは自身の力の及ばなさに歯噛みする。しかし、今回で首長たちを納得させるだけの結果を残さなければ、大切な友人がいなくなってしまうかもしれない。ここが自身の人生において一番の踏ん張りどころだ、と気合を入れる。
件の首長たちが座っている奥のテーブル席に目を向ける。すると、三人の首長の一人、フィリウスの首長である記導ミトもその視線に気が付いたのか、ナギサに顔を向け微笑む。そのことに思わずナギサはドキッとしてしまう。ミトは盲目でずっと目を閉じているから、ナギサは自分がミトを見たことに気が付かれるとは思わなかった。盲目だが見えている、という噂も本当なのかもしれない。そう思いながら、ナギサは2週間前のことを思い出していた。
◇
「―――つまり、私の方から今回の提言を却下してほしい、そういうことですね?」
「は、はい!ミト様のお言葉なら、他の者も耳を傾けて頂けるかと」
「ふむ」
その日のナギサは、喉がカラカラになるほどに緊張していた。舌も上手く回らない。
ミカのお願いを聞いた後の事、ナギサ自身も行動を開始し、提言そのものを却下できないかと自身の派閥の首長への面会をダメ元で取り付けたら通ってしまった。しかも、一対一で。
ミトは、この《トリニティ総合学園》全生徒の憧れの存在と言っても過言ではない。容姿端麗で、物腰が柔らかく、かつ聡明。その上、過去に事故で両目の視力を失い普段の生活も杖を突いて生活している、というハンデを感じさせないほど堂々としている。ナギサはその立ち居振る舞いに感動し、憧れている。自身もいつかはこの人のような素敵な人になれるだろうか。
「―――桐藤ナギサさん、でしたね」
「は、はい!名前を覚えて頂けるなんて、光栄です!」
「くすっ、そんなに硬くならないでください。《ティーパーティー》の首長の前に一生徒。それに、今は家柄を持ちませんから」
「そ、そんな!ミト様を他の生徒と一緒になんて!」
「……。うぅっ、こうして人は孤独になっていくのですね……」
「え‶っ、そ、そういうわけではなくてですね!?」
「はい、知ってます。場を和ませるジョークです」
―――か、からかわれている……。
からかった本人は、鈴を転がすような声でクスクスと笑っている。ミトは手入れの行き届いたプラチナブロンドの髪を揺らし、「さて」と咳払いし場を仕切り直す。
「先程のお願いですが、確かに私なら今回の提言を却下できるでしょう」
「―――!では「しかし」っ!」
「あくまで一時的なものです。今回はそれで良くても、次は?更にその次は?……根本的な解決には繋がりませんし、他の者も納得しないでしょう」
「な、ならどうしたら……」
ミサを助けることは出来ないのか。そんなナギサの悩みを見透かしたように、ミトは口元を緩めて告げた。
「方法ならあります」
「っ!そ、それは?」
「近々、もう一度三分派が集う《ティーパーティー》の会合があるのはご存じですね?その場でまた光園ミサさんのことが議題に上がるでしょう。……そこで各分派の長、つまり私を含めた《ティーパーティー》の生徒会長達を納得させるだけの説明をしてください。光園ミサに対する処分は不当である、と」
「……もし、納得させられなければ?」
「『出来なかったことを考えるより、今出来ることを考えろ』」
「え?」
「私の尊敬する方の言葉です。『過去よりも未来が欲しい』……そうよく口にされていました。桐藤ナギサさん、貴女が欲しいものは何ですか?」
ナギサは不意に頭を殴られた気分になった。確かにそうだ、出来なかったことを考えてどうする。
(私が欲しいもの、そんなの決まってる!)
ナギサの瞳に宿る光を見て、ミトはまた一つ笑みを浮かべる。
「もう言葉は不要ですね。桐藤ナギサさん、貴女には期待してますよ」
ミトの閉じられた目の奥には何が見えているのか、ナギサには分からなかったが、今自分がやるべきことは定まった。
その後はミトに断りを入れ、首長の執務室から退室した後、ナギサは情報を集めるべく奔走した。
◇
そんな経緯があり、ナギサは今この場で発言の機会を窺っていた。
確たる証拠が無い以上、いたずらに発言したところで潰されるだけだ。話の流れを読み、主導権を握らなければならない。
「光園ミサは普段から授業態度が悪く、毎日不良とケンカをするような野蛮人です。その上、今回の実力テストで大きく点数を下げています!そのような人物、我がトリニティに相応しくありません!!何卒、光園ミサに厳正な処罰を「ミト様」―――っ!?」
「発言の許可を頂きたいのですが」
ナギサの言葉に周囲の生徒がざわつく。興味なさげに腕を組んで目を閉じていたパテルの首長と紅茶を飲んでいたサンクトゥスの首長も反応し、ナギサに注目が集まる。
そんな中、ただ一人動じていなかったミトは「ええ、どうぞ」といつも通り微笑む。
ミトの許可を得て、ナギサは一歩前へ歩み出ると余計に視線が増したのは気のせいではないだろう。ナギサは自身を落ち着けるように一つ咳払いをしてから話し出す。
「先輩方、先程のお話ですがミサさん……光園ミサがテストで点数を下げたとのことですが、先輩方はミサさんがテストでは学年上位……それもトップ10常連だと認識している、ということで相違ありませんか?」
「ええ、それがどうかしたのかしら?」
「でしたら、今回のテストで彼女が点数を大きく落としたことに、何の疑問も無かったのでしょうか?」
「ふふっ、そんなこと。大方、休みの間に遊び惚けていたり、実力テストだから本当の実力で、なんて愚かしい考えでテストに挑んだのではなくて?」
「なるほど」
簡単に尻尾は掴ませてはくれないか。ナギサは舌打ちしたい衝動に駆られるが、グッと我慢する。まずは相手の余裕そうな顔を崩さなければ。ナギサは気持ちで負けるわけには行かないと、不敵な笑みを浮かべたまま言葉を続ける。
「実力テストと言えば、今回のテストは進級して最初のテストですから、問題の出題範囲が学年末のテストと変わらないそうですが……彼女、ミサさんの学年末テストの点数をご存じですか?」
「……学年末のテスト?それがどうしたっていうのよ」
「ミサさんはいずれの教科も90点台後半でテストをパスしてました。そんな人物が、同じ内容のテストで大きく点数を落とすでしょうか?」
「……何が言いたいわけ?」
「そうですね、前置きが長すぎました。つまり、今回のテストにおいて、光園ミサに対し点数操作が行われた可能性があります!」
「なっ……!?」
ナギサの放った言葉に、相手だけでなく周囲の生徒も大きくざわつく。ナギサは相手の端正な顔が歪んでるのを見て、その表情から余裕が消えたことを悟る。
「意図的な点数操作は不正であり、当然違法です。よもや、先輩方がそんなことも知らないとは、言いませんよね?」
「くっ……まさか、私達を疑っているの!?だったら、光園ミサに点数操作が行われたという証拠はあるのかしら!?」
「ミサさんに行われた、という証拠はありません。しかし、調査したところテストの後に外部ツールを用いて、データベースにハッキングされた形跡が見つかりました」
「それを私達がやった、という証拠はあるのかしら!」
「……いえ、時間が足りずそこまでは……」
「ハン!話にならないわね!証拠も無いのに犯人扱いとは、底が知れるというものよ。使われたのは外部ツールでしょう?なら、外部の者の犯行じゃないかしら」
(くっまずい……!)
相手の調子が戻ってきてしまった。やはり、明確な証拠が無いと追い詰めきれない。ナギサが思わず歯噛みしそうになったとき、思わぬところから助け舟が来た。
「―――トリニティ生ですわ」
「え?」
「は?」
声の主は部屋の最奥から、つまり三派閥の長からだった。
「サナ、さま?」
サンクトゥスの首長、真田サナ。彼女は慣れた動作でティーカップをソーサーに戻すと、もう一度口を開く。
「ハッキングは外部の犯行ではなく、トリニティ生によるもの。テスト後に、視聴覚室付近で不審な動きをしている、トリニティ生の目撃証言もいくつか寄せられてるわ」
「おい、サナ……」
彼女の言葉に待ったを掛けたのはパテルの首長、三枝マイだった。
「あら、別に首長が口出ししてはいけないというルールは無いでしょう?フフ、それとも、口に出されたら困る話なのかしら?」
「チッ……好きにしろ」
「貴女に言われずとも、好きにするわ」
「……クソ女」
「くすっ、今のは聞かなかったことにしてあげる」
「二人とも、そこまでにしておいてください」
「フン……」
「あら、ごめんなさいね、つい」
ミトにたしなめられ、口論―――というには一方的ではあったが―――をやめる二人。
ナギサは口論していた片割れ、真田サナの名前をごく最近聞いていた。それは、ミサに通達書を直接手渡ししたのがサナだったという話だ。ナギサも最初聞いた時は驚いた。なぜサンクトゥスの首長が直々に渡しに行ったのだろうか?考えても答えの出ない疑問である。
「さて、話を戻しましょうか。トリニティ生がハッキングしデータを改竄した。何か反論があるなら聞きましょうか?」
「お言葉ですがサナ様。外部犯ではなく、内部犯だったからといって何か変わるとは思えません。それよりもテストであのような点を取った、光園ミサを処分すべきです!」
「先輩、たった一度点数を落とした程度で処分なんて、重すぎるでしょう!」
パテルの生徒は首長に直接アピールできるチャンスと思ったのか、嬉々として処分を進言しようとする。パテルの首長はどういう教育をしているのか。ナギサは怒りで爆発しそうな己の心をギリギリで抑え込む。
「何も変わらない?それ、本気で言っているのかしら?外部の者ではなく、伝統と格式を受け継いできたはずの我がトリニティの生徒が、不正な手段を用いて他者を陥れようとすること。誰がやったかが問題では無いの。トリニティ生がやってしまったということが問題なのよ。この違いを理解できないお猿さんなのかしら?」
「な、そ……それは……」
「それに彼女が毎日不良に絡まれている件だけど……」
「そ、そうです!そのような者、トリニティの品位を落とすだけ―――」
「こちらもトリニティ生が、不良に金を握らせて光園ミサを襲撃するように指示していたことが我々の調査で判明してるわ」
「…………」
「フフッ、果たして野蛮なのは一体どちらなのでしょうね?まぁ、それらの襲撃を顔色一つ変えずに全て撃退する光園ミサも中々ですけども」
サナはそこまで言うと、紅茶の入ったカップを口に運ぶ。先輩女子はというと、サナの圧に押され口をパクパクとさせながら、顔面を蒼白にさせ滝のように汗を掻いている。きっと何か心当たりがあったのだろう。反論しようにも言葉が出てこないようだ。そんな中、苦し紛れに出たものは反論の中でも最も弱いものだというのは言うまでもない。
「しかし、その、授業態度とか……欠席が多いこととか……」
「あら、言われてるわよマイ」
「は?光園ミサの話だろうが」
「あらあら、ごめんなさい間違えましたわ」
「テメェ……」
サナに対しガンを飛ばすパテルの首長を見て、ナギサは二人が犬猿の仲という話は本当なのかもしれないと思った。
「学園生活のことは級友に聞いた方が早いのではなくて?ねぇ、桐藤ナギサ?」
「は、わ……私ですか?」
急に水を向けられ困惑するナギサ。
「ええ、授業中の光園ミサの様子や欠席してる時どこにいるか、それを話すだけで構わないわ」
「わ、わかりました」
ここまできて、ナギサはようやく場の雰囲気の正体に気が付いた。
(とはいえ、それをこの場で言っても仕方がないですし、こちらに味方してくれるなら存分に利用させてもらいましょう)
「ミサさんの授業態度ですが、至って真面目です。授業中に騒ぐようなことはありませんし、大抵静かでいることが多いです」
まぁ、つまらなそうにBDを眺めてることが多いですけど。と心の中で付け加えるナギサ。そこにミカがミサに絡むことが多い。それを鬱陶しそうに追い払うミサがよく見られる光景だ。
「続いて欠席した日に関してですが、図書館で歴史の本などを読んでいるみたいですね。これは図書委員の方から証言を得られました」
(図書館に行かない日は家で寝ていますけど、これは言わなくてもいいですね)
「と、言う事らしいですわ。私が聞く限り、とても勤勉な生徒のように思えるのだけれど?」
「そ、そんな……」
ナギサのさり気ない印象操作に気付かず、この世の終わりのような顔をする先輩。サナはナギサの印象操作に気付かぬフリをして話を進めた。
と、そこで杖で床を叩く音が響き渡る。その音にざわついていた室内が一気に静まり、音の主に注目が集まる。
「―――さて、結論が出たようですね」
音の主であるミトは、杖の上に両手を乗せ室内をゆっくりと見渡す。
「とはいえ、納得できない者もいるでしょう。なので今回の議論を鑑みて、光園ミサさんの処分に対する提言を一時撤回とし、次の期末テストの結果を見てから完全に白紙に戻すという形でいかがでしょう?」
「構いませんわ」
「……今回はウチの不始末だ。二人の決定に従う」
ミトは二人の代表を見渡し頷く。
「はい、それと《正義実現委員会》に見回りと警備の強化をお願いして、不正を防止しましょう。そうすれば、光園ミサさんが点数操作されたか否かが分かるでしょう。各人それでよろしいですね?」
ミトはそう言い室内全体を見渡し、異議が無いことを確認する。
「―――それでは、今回のお茶会はこれにてお開きとしましょう」
その言葉と共に各分派の生徒たちが一斉に退室していく。今回提言した生徒は悔しそうな表情を見せた後、ぐっと堪え退室していく。それを見届けたナギサも退室しようと席を立つと、ミトに呼び止められる。
「ナギサさん、後ほどお呼びするので《ティーパーティー》の校舎までお願いしますね?」
「は、はい、かしこまりました……」
失礼しました、と声を掛けて退室するナギサ。ミサに関することで呼ばれたのだろうかと思考を膨らませながら、廊下を歩いて行った。
「―――で?どこまでアンタの筋書きだったんだ?」
伽藍となった室内に響くのはパテルの首長・マイの声。彼女の視線の先には杖を片手に微笑んでいるフィリウスの首長であるミトがいた。マイと同じことを思っているのか、いつもはマイに突っかかるサンクトゥス首長のサナも黙ってミトを見る。
「筋書きだなんて、人聞きが悪いですね。その言い方では、今回の騒動を私が仕組んだみたいではないですか」
「仕組んではいないでしょうね。でも、話し合いがここに着地するようには誘導したでしょう?」
「桐藤ナギサ、アイツがお前の仕込みか?」
「……さて、どうでしょうか。それも踏まえて、改めてお茶会を開きましょうか。ゲストも呼んであることですし」
そう言うとミトは立ち上がり、杖を突きながら迷いなく歩いていく。それを見てマイとサナはお互いに見合わせると、溜め息を吐いてミトに続いていく。
桐藤ナギサ
今回一番状況に振り回された人。足りない時間で情報をかき集めたが、精査する時間が無かった。ミカがミサとにゃんにゃんしてることをまだ知らない。ナギサの話なのに不憫。
記導ミト
現フィリウスのリーダー。苗字の読みはきしるべ。昔、事故に遭った時に両目を失明。自身の先行きに絶望していたとき、恩人に救われた。今回の件、口を出さずにずっと見守っているだけだった。何か思惑がある模様…。
真田サナ
現サンクトゥスのリーダー。ミサに通達書を渡した人。ミサを煽るようなことを言ったのはワザと。一発くらい殴られるかなと思ってたけど何もされなかったので、噂って当てにならないなってなった。割とドS。
三枝マイ
現パテルのリーダー。乱暴な口調が特徴。実は昔やんちゃしていて不良だった。お嬢様のサナとはソリが合わないので、よく口喧嘩してる。
気が付いたら目の前に『最新話を投稿しました』って言う文字が見えて「え!?文章を見直した覚えが無いのにいつの間に!」っていう夢を見た。
余りに期間が空きすぎて最新話を投稿する夢を見るとは…ってなったので更新しました。
感想返しってしたほうがいい?
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