そうこうしてる間に、晄輪大祭の復刻来ちゃった。ストーリーあまり知らないからって飛ばしたばかりだったのに……。いいもん……メインストーリーの話にはあまり関わらないし……。
「それでは、文芸部の予算はこれで提出しますね」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「では、失礼します」
文芸部の部室から出ると、その足で次の目的地に向かう。
「次は《放課後スイーツ部》か。とりあえず、ここを回ったら今日は終わりかな」
部室の前に立ち、扉に手を掛ける。
「ん、あれ?」
開かない。何度か扉を動かすものの、鍵が掛かってるようだ。
「留守か……仕方ない、日を改めるか」
一応、メモに訪問した旨を書いて扉に貼っておこう。
ふぅ、流石に百を超える部活を一人で回るのキツイな。とはいえ、書類仕事をミカに振ってる分、こっちはオレが片付けておかないとな。オレが書類の方を担当したかったんだが、首長の印がいるものばかりだったからな。それをオレが処理するわけには行かない。まぁ、ミカも仕事を覚えるいい機会だろう。
「さて、残ってる部活は《正義実現委員会》《救護騎士団》《シスターフッド》……」
見事に面倒な所ばかり残ってしまった。なんで三つとも明日しか時間取れないんだ。この後も、街の有力者や企業の責任者達に挨拶と今後の話をしに回らなきゃだし……。
「はぁ……面倒臭い」
「では、こちらはお話ししました通りの対応で」
「はい、お願いします。いやー、最初かの有名な天使が来られたと聞いた時は、度肝を抜かれましたが、丁寧な応対で、しかもこんなに可愛いお嬢さんだったとは!」
「ありがとうございます。昔の事ですが、そう思われるのも仕方の無いことだと思います。それでは、私はまだ仕事が残っていますので、失礼します」
「はい、次も是非お願いします!」
企業CEOの人に挨拶した後、会社を出て肺に溜まっていた空気をまとめて吐き出す。
「つかれた」
もう帰りたいけど、学園に戻って報告書やら資料やら、やることがたくさんある。学園に戻る途中、喫茶店の表に出ているケースの中のケーキやパフェが目に入り、思わず立ち止まって眺めてしまう。
「甘いもの欲しい、でもミカが頑張ってる手前オレが贅沢するわけには……」
「あれ?あのヘイロー、ミサ先輩?」
「ん?」
名前を呼ばれた気がしたので振り返ると、《放課後スイーツ部》の栗村アイリがいた。一人知らない子がいるけど、いつものメンバーで食べ歩きしていたらしい。道理で部室に居ないわけだ。
「アイリ、ちょうどよかった。さっき部室を訪ねに行ったんだけど、居なかったからさ」
「あれ!?部室来るの今日でしたっけ!?ご、ごめんなさい!新入部員の歓迎会をしてて……」
「まぁ、偶然会えたし結果オーライってことで」
アイリは、中等部時代にSNSのネタ探しにスイーツのお店巡りしてる時に知り合った。チョコミントが好きという変わった嗜好の持ち主ではあるが、それ以外は普通の女子校生だ。オレはチョコミントも食べられはするけど、バニラの方が好き。しかし、アイリはチョコミント好きを増やしたいのか、度々チョコミントを勧めてくる。
「あー、ミサ先輩じゃん、やっほ~」
「げっ」
「ちょっと、カズサ?どうしたのよ」
上から柚鳥ナツ、知らない子、伊原木ヨシミ。知らない子はオレを見た途端、フードを深く被りヨシミの陰に隠れてしまった。
「いや、どうしたもなにも、どうして三人ともこの人と普通に話せるの」
「どうしてって、この人普通に無害じゃない」
「うーん、もしかして先輩の噂のことじゃないー?」
「え?あんた噂を信じてビビってるの?」
「そう言って彼女は自らがビビってたことを棚に上げるのだった」
「は、はぁ!?ビビってませんけどぉ!?」
「カ、カズサちゃん!ああ見えて先輩すっごい良い人なんだよ!」
スイーツ部はカズサって子の言葉を皮切りに、わちゃわちゃと騒ぎ出した。正直、見てるだけでも楽しいけど、仕事があるので申し訳ないけど割り込むか。
「楽しそうなところ悪いんだけど、部長にちょっと聞きたいことがあって」
「ほぅ!この部長、柚鳥ナツがなんでも答えてしんぜよー」
「そうだった、お前が部長だった……」
急に生き生きとしだしたナツに思わず頭を抱える。こいつ、唐突に意味の分からないことを言うから、少し苦手だ。
「人生に迷える子よ、案ずるなスイーツの光がそなたを導く」
「はいはい、聞かれた事だけ話してねー。今、部室で欲しい設備とかある?」
「うーん?みんなーなにかあるー?」
「あれじゃない?空調壊れてるから直して欲しいかも」
「空調ね……それは学園の設備だから、修理の申請してもらえたらこっちで修理の依頼出しとくよ。他には?」
「だったら、新しい冷蔵庫欲しいです。今あるの結構古いから」
手元のタブレットを弄り、スイーツ部から聞いた話の内容を書き留める。
「ミサ先輩、もしかして今年の部費ですか?」
「そう、各部活から話を聞いて予算をまとめてる所。話を聞いた感じ、これぐらいになるかな。スイーツ部は大会とか実績を残してるわけじゃないから、多くは出せないけど」
そう言って、アイリたちにタブレットを見せる。
「え?こんなに貰って良いんですか!?」
「こんなにって、予算から出せる部費の最低ラインだけど?」
もしかして入力間違えたかと、タブレットを確認するがちゃんと正しい値が入ってた。
「これだけあれば、色々買えるね~」
「もう少ない部費でやりくりする必要が無いのね!」
「えぇ……」
前期の生徒会は何やってたんだホントに。
「部活動として正式に申請を出して活動してる以上、活動人数に応じた最低限の部費はちゃんと支給されるから。あ、大丈夫だったらこれにサインして」
「これが新生《ティーパーティー》の手腕という事ですかな、感謝ー」
「いや、ちゃんとお礼言いなさいよ!」
「え、この人《ティーパーティー》なの?」
驚いた顔でカズサがこちらを見ていた。オレを見るその目は、良く知るものだった。
「あ、あのねカズサちゃん!」
「いいよアイリ、慣れてるから」
フォローしようとしてくれたアイリの言葉を遮って止める。そういう風に見られるのは、元々覚悟の上だったし、今までの事について弁解する気も無い。
「それより、一つ聞きたいんだけど、この辺りで《トリニティ自警団》見なかった?」
「あ、それならこの先の公園で見かけましたけど……」
「そうなんだ、ありがとう。活動の最中だったのにお邪魔してごめんね。用事はこれだけだから」
そう言って、オレは足早にその場を離れることにした。オレが居ては話も弾みにくいだろうと思い、オレなりに気を遣った結果だ。……でも、やっぱりちょっとだけ傷付いた。オレ、怯えられるほど怖く見えるんだ……。
「ふぅ……」
「おつかれ、スズミ」
「えっ、ミサ先輩?」
暴れていた不良を制圧したスズミに声を掛ける。驚くスズミにオレは缶コーヒーを差し出す。
「喉乾いてるだろうと思ってね」
「あ……お金……」
「いいよ、先輩からの奢り」
「ありがとうございます……」
倒れてる不良は連絡しておいた委員会が、じきに引き取りに来るだろう。オレとスズミは近くのベンチに座って、コーヒーに口を付ける。
「また派手に暴れたね」
「先輩に比べたら、まだまだですよ」
「オレを比較対象にするんじゃない」
守月スズミとは、昔不良に絡まれていた所を助けたことがあったらしい。らしい、というのはオレが覚えて無いからなんだけど。その後、自主的にトリニティ生を守る為に自警団を名乗って活動していた所、偶然オレが不良をボコしてた現場に出くわし再会した、という経緯があった。
「そうだ、予算の件だけど、やっぱり《トリニティ自警団》に部費を下ろすのは難しそう」
「非公認の部活ですからね。団員も各々が勝手にそう名乗って、ゲリラ的に活動してるだけですし」
「せめて、弾薬費ぐらいは融通出来たら良かったんだけどね」
「仕方ありませんよ。元々、お金欲しさにやってるわけではありませんから。それに、組織立って動くと色々しがらみが多いですからね。今ぐらいがちょうどいいです」
「はぁ、組織とゲリラの利点と欠点がそれぞれ分かってるなら、オレからは何も言えないな」
組織的な行動の遅さをカバーできる点は、かなり助かるからな。ただ、あくまで個人活動の範疇だから、命令系統が存在しない事とか、人数差による不利が大きい大規模な戦闘には介入しづらいとか、色々個人は個人で面倒は多い。
「とりあえず、自警団活動でスズミ達の立場が不利にならないようにサポートしておく。少なくとも、オレみたいに停学寸前みたいにならないと思うよ」
「有名な話ですね。先輩のおかげで平和が守られていたのに、当時の《ティーパーティー》は何を考えていたんでしょう」
「さぁな、派閥同士で協力よりも、派閥同士で足の引っ張り合いが激しいからな。当時も何かあったんだろ」
そうこうしてるうちに、《正義実現委員会》の制服を着た生徒達が現れ、不良達を捕らえていく。
「これはミサ殿、お疲れ様です!この者達はミサ殿が?」
「うん、暴れてたから自警団のスズミに手伝って貰って制圧しておいたよ」
「……なるほど、そうでしたか。ご協力感謝します!」
それだけ言うと委員会は撤収していった。
「先輩?あの、今のは」
「まぁ、ああ言うのが収まり良かったでしょ。ここで言い合いされても時間の無駄だしね?」
「あはは、ありがとうございます」
スズミは残っていたコーヒーを飲み干し、立ち上がる。歩いてゴミ箱まで行くと、空になった缶を捨てた。
「先程のサポートの件、私の知り合いの自警団員にも話しておきますね。団員から別の団員に話が飛びますから、すぐに広まると思います。それに、自警団ってミサ先輩に憧れてる子が多いので、喜ぶと思いますよ」
「それは、スズミも含めて?」
「さぁ、どうでしょう?」
スズミは笑ってそう言うと、失礼しますと一声掛けて見回りに戻って行った。
「……生意気な後輩だなぁ」
オレもコーヒーを飲み干し、空になった缶を宙に放ると、見事な放物線を描いてゴミ箱に入って行った。オレもそろそろ学園に戻るか。ミカに書類仕事任せっきりだしな。
「ミカー?仕事終わったー?」
日の暮れた校舎を進んで、ミカの執務室に向かった。扉を開けると、そこには真っ白に燃え尽きたミカの姿があった。
「ミサちゃん……もう無理……」
横には大量に積み上がった書類。オレは溜息を吐くと、書類を二つに分ける。
「こっちはやっておくから、残った分は頑張って」
「うぅ……ミサちゃん、ありがとぉぉぉ」
ミカの隣に置いてあるオレの机に座ると、分けた書類をさっさと終わらせる。書類を片付けた後、うんうん唸ってるミカを横目にPCを立ち上げ、今日のデータをまとめたり、予算案を作成したり、全体会議用に資料を作成したりする。
「ミサちゃん、これなんだけど……」
「これは……はい、こっちの資料にあるデータを参照して」
「あ、ホントだ。ありがとう!」
ミカの質問に答えながら、キーボードのパネルに指を滑らせる。……ハードは最新式で揃えてるのに、どうしてソフトウェアは古いの使ってるんだ。滅茶苦茶使いにくい。管理システムも中身がグチャグチャで見辛いし……いっそのこと一から組んだ方がいいか?でもオレ、プログラムは齧った事がある程度だからなー。となるとミレニアムに依頼するしかないか……。仕様書作って……要望送って……またやることが増えた。
「ミサちゃーん!やっと終わったー!」
終わった書類をパラララとめくり確認する。
「うん、ちゃんと出来てる。一先ず、全体会議までに終わらせないといけない書類は全部かな。おつかれミカ」
「もう、ホントに大変だったよー……ミサちゃん、膝枕してー」
いいよ、と言う間も無くミカはオレの膝の上に寝転がる。仕方ないなと思い、ミカの好きにさせる。
「久しぶりのミサちゃんの匂い~」
「何言ってるの、使ってるボディソープ一緒じゃん」
「ミサちゃんの体臭と汗の匂いが混ざって、なんか甘い香りが」
「ちょ、汗の匂い嗅ぐのやめてよ。今日も外歩き回って気にしてるのに……ってスカートの中に潜り込まないで!」
もぞもぞとスカートの中で動き回るミカの頭を叩くが、特に気にした様子も無く動き続ける。
「んー……ぺろっ」
「ひゃあっ!?どこ舐めてるのバカ!」
急に止まったかと思うと、敏感な部分を舐め始めるミカ。流石にこれ以上は困るのでグーで殴って止める。もぞもぞとスカートから這い出てくると、頭をすりすりと撫でていた。
「……いたい」
「痛くしてんの」
「ミサちゃん、えっちしたい」
「生理だからダメって言ったでしょ」
「うー!そうだったぁ……!」
ミカは、うーうー唸りながら人の膝の上で転がる。一番きつい時期は過ぎたとはいえ、まだきついモノはきつい。この状態でえっちに集中できるわけない。
「それにまだ仕事片付いてないし」
「……なんでミサちゃんの方が仕事多いの?」
「私が聞きたい」
ミカを膝に乗せたまま仕事をしていると、ふと膝の上が静かな事に気が付き、ミカを見るとすやすやと寝息を立てて眠っていた。気付けば外も暗くなってる。
「……もう、仕方ないな」
ミカの頭を撫でてから、もうひと踏ん張り……という所で、先程から気になってる扉の向こうに声を掛ける。
「……ねぇ、迷うくらいならさっさと入って来てもらえる?―――ナギサ」
そう、声を掛けると遠慮がちに扉が開き、気まずそうな表情のナギサが入ってくる。
「あの……どうして私だと?」
「なんとなく、見知った気配だなって思っただけ」
「……ミト様みたいなことをされたので、ドキッとしました」
ミト……二つ前の生徒会長か。確か、フィリウス派の首長だったな。
「それで?こんな時間にどうしたの?」
「実は相談があって……あれ?ミカさんはどこに?」
「ここ」
オレは膝で寝てるミカを指すと、ナギサは「あぁ……」と納得した表情になる。
「仕事頑張ったから、そっとしてあげて」
「そういうことですか。でしたら、ミサさんにこちらの意見を頂きたいのですが」
そう言って差し出してきた一枚の書類。オレはそれを見て怪訝な顔になる。
「……アビドス?」
「はい、《アビドス高等学校》からの支援要請です」
「支援……」
書類に書かれてることはシンプルに助けて欲しい、という話だった。確か、アビドスと言えばゲームだと対策委員が……ダメだ、何故か覆面しか思い出せない。
「アビドス高校の件はご存じですよね?」
「うん、数十年前に大規模な砂嵐で学区全体が砂に覆われたんだってね。で、その対処に色んな所から金を借りまくって、借りた金返すのに自分の所の土地の権利を手放したとか」
「そこまで知っていたんですね。えぇ、《ティーパーティー》の情報部が掴んだ情報によると、その借りた所がカイザー系列だったらしく……」
「……なるほどね。つまり、借金を盾に土地を安く買い叩かれたわけだ。普通に考えて、元々担保に入れてたわけでもない土地の権利を、人が離れた土地を買う理由は無い。逆に言えば、わざわざ土地を買わないといけない理由があったのか」
「セイアさんも、同じ結論を出していました。『アビドスがその事実に早くに気が付いていれば、もっと対処のしようがあっただろうに』と」
「そうだね、私もセイアと同じ考えかな。土地を売るにしても、借金を一回で返せるぐらいには値を吊り上げられた」
「砂にまみれた土地を高く売れるんですか?」
「少なくとも数千万なんてはした金で売らないよ。人が居なかろうが、砂にまみれようが数十億か数百億は稼げるね」
「……セイアさんも同じ事言ってましたね」
セイアの言っていたこと思い出し、苦笑するナギサ。それはそれとして、話が逸れた。
「話を戻そうか。それで、支援の件だよね。特にうちにメリットは無いから、お断りかな」
「はい、私とセイアさんも同じ結論に至りました。可哀想ではありますが、廃校秒読み段階に入ってる相手に支援したところで、返ってくる物は無いでしょうし、こちらも向こうに支援出来るほど余裕ありませんからね」
「ふむ……余裕、余裕か」
「ミサさん?」
急に考え込んだオレに、ナギサは訝しげな表情をする。オレは目の前のモニターに映る数字を見て、余裕は無いが無理では無いと思った。
「……この件、既に対応は決まってる感じ?」
「いえ、私とセイアさんはあくまで方針として話して、最終決定はまだですが」
「そう……だったら、ちょっとセイアにこの件で話がしたいから明日以降、全体会議までの間で空いてる日を聞いておいて貰える?自分で連絡取りたいけど、ちょっと今手が離せないんだよね」
「それは構いませんが……あの、今何のお仕事されてるんですか?」
「予算案と全体会議の資料と各部活動の報告書と街の有力者や企業との連携などエトセトラ」
「え‶っ。ま、待ってください!なんですかその仕事量は!?他の人は何してるんです!?」
「誰もやらないから、私がやってるの。あ、PCのソフトがゴミだから、アップグレードや新システム導入も視野に入れるようにセイアに言っておいて。仕様書はこっちで作っておくから」
「えぇ……何言ってるんですか、これ以上仕事増やしたら倒れますよ!?よく見たら、化粧で誤魔化してますけど、かなり顔色悪いですね!?」
「はぁ、やらないでいいならやりたくないよ。でも、どれも必要な事だから、出来る人がやらないと」
できれば、事務作業得意な人材が欲しい所。どうも優秀な人は、フィリウスかサンクトゥスに流れてるようだ。羨ましい。
「溜め息吐きたいのはこちらですよ。わかりました、仕事をいくつかこちらにください」
「……何言ってるの、そっちだって忙しいのは変わらないでしょ。それに、他の派閥に仕事振れるわけ……」
「それこそ何言ってるんですか!派閥は関係ありません。同じ《ティーパーティー》ではありませんか。それに倒れでもしたらミカさんが悲しみますし、ミサさんが行っていた仕事分の負担が、全部ミカさんに行くんですよ」
「うっ……分かったよ。……はい、これ」
記憶メディアにデータを移し、ナギサに渡す。
「いくつかの必要な資料も添付してあるから、そこまで時間は掛からないと思うけど……」
「資料はもう用意してくださってるんですね。でしたら、問題ないと思います。むしろ、ここまでお膳立てされて、どうしてそちらで片付かないのでしょう……」
「知らないよ」
その後、いくつか話をしてナギサは自分の部屋に戻ろうとする。
「あ、ナギサ」
「はい?どうしました、ミサさん」
「その、ありがとう。体には気を付けて」
「―――ッ!い、いえいえ、ミサさんもお体に気を付けてくださいね」
それだけ言うと、ナギサは帰って行った。ミカの寝息だけが響く室内で、オレはどっと疲れを感じ、イスにもたれ掛かる。無意識の内に疲れを溜め込んでいたようだ。今日の分の仕事は、ナギサが持って行った分で最後だ。本当なら家に帰ってベッドの上で休みたいけど、帰る気力も湧かない。ミカを担いで帰る元気もない。仕方ないので、オレもちょっとソファで横に……あ、ダメだ意識がもう飛びそう。イスに座ったままだと、起きた時体痛くなりそうだなと思いながら、意識が沈んで行った。
◇
「―――それでは、これより三首長を交えた"トリニティ全体会議"を始めます」
あれから三日後、オレ達は万全の状態で全体会議に臨んでいた。
「司会・進行を務めさせて頂きます2年の光園ミサです。よろしくお願いします」
パチパチと会場内からまばらに拍手が返ってくる。
「まず、今日までに必要な仕事をこなしてくださった《ティーパーティー》各位、忙しくも時間を取ってくださった各部活動の皆様方、この場を借りて感謝を述べさせてください。ありがとうございます」
マイクスタンドの前で軽く頭を下げる。
「では、最初は各部活動の報告から読み上げさせていただきます」
このトリニティ全体会議は、通常《ティーパーティー》が集まる会合と違い、各部活動の部長も召集される。ここで発表される予算案も、本来は前期の時点で予算会議を通しておかなければならないのだが、これまた前期がサボっていた為、同時進行でこなす必要がある。
「(あぁ、見てくださいミカさん。ミサさんが立派に進行をしています!)」
「(ナギちゃん、落ち着いて。今、会議中だから……!)」
「(ナギサ、君はミサが関わると急に情緒がおかしくなるな……)」
ちなみに、何故オレが司会と進行をやらされているのかと言うと、これにも事情があり選出は首長がそれぞれ行い、話し合って一人を決める。しかし、現首長であるミカ達三人ともオレを指名した為、すんなりと決まった。オレが他派閥からやっかみを受ける以外は、まぁ仲が良いみたいで何より。
「続きまして、遅くなりましたが今年の各部活動の予算が決まりましたので、発表させて頂きます。それでは、こちらに映像の方を……出ませんね。どうしました?」
巨大スクリーンに何も映らず、機材の操作をしている子が、わたわたと焦った表情で操作している。何かトラブルが発生してるのか、オレはその子に歩み寄り確認する。
「あ、あ、あの……こ、これは!何かの手違いと言うか!そ、その私も何が起きてるのかっ」
「大丈夫、怒ってないので落ち着いて、何があったのか話せますか?」
「いや、その……手順通りに操作したはずなのですが、映像が出なくて……」
「ふむ……」
確かに操作は間違ってない。なら……。
「……どうやらコードが抜けていたようですね」
「あ、ホ、ホントです。会議前に確認した時は繋がってたはずなのに……」
……なるほど。オレはチラッと視線を会場に張り巡らせると、合点がいった。
「繋ぎ直しましたので、これでどうですか?」
「あ、行けました!あ、ありがとうございます!」
「はい、次からは落ち着いて周りをよく見てください」
「わ、わかりました!気を付けます!」
オレはその子から離れ、元の位置に戻る。どうも、オレを会議の場で恥をかかせたい連中がいるらしい。
「失礼しました。少々トラブルがありましたが、無事解決しました。では、改めてこちらが予算表になります」
派閥争いとか面倒だし、関わりたくないんだけどな。タブレットを操作しながら、説明を続けていると、一部の生徒から声が上がる。
「ちょっと待ってください、去年とは大幅に変更があるようですけど、どういうつもりですか!?もしや、権力を振りかざして《ティーパーティー》を私物化しようとしてるんじゃありませんか!?」
早速なんか来た……。
「……つまり、私が独断で予算を書き換えたと?私は下っ端なので、そんな権力ありませんよ。大体、何のための三頭政治ですか」
「しかし!現実としておかしな予算が提出されている以上、言い逃れ出来ないでしょう!?」
「おかしい、ですか……わかりました、そこまで言うなら穴の開いた腐ったチーズのような頭でも理解出来るように、1から10まで説明してあげます。皆々様、申し訳ありませんが少々お付き合いください」
オレは手元のタブレットを操作し、スクリーンの映像を動かす。
「こちらのグラフをご覧ください。左が去年の物、右が今年の物です」
表示された棒グラフは一目瞭然にある事実を示していた。
「……分かりますよね?一部の部活に異常なほど予算が振られています。その一方で、ほとんど予算が与えられていない部活があったんです。《トリニティ総合学園》に定められた規則にある通り、正式な手続きを経て設立された部活は、最低限の予算を保障されています。しかし、去年はその最低ラインにすら乗っていない部活が山の様にありました。これらは《トリニティ総合学園》に定められた規則に反している為、正確な数字に直した物がこちら、今年の予算になります」
多すぎる所を削って、少ない所へ分配しただけだが。ただ、かなり水増しされてたのか分配した後も結構余って、残りは《ティーパーティー》の予算に回されることに。
「だ、だからって無断でこのような事を!」
「無断?まさか、許可を得ずにやったと思ってらっしゃる?そんなわけないでしょう」
オレは鼻で笑うと、スクリーンにでかでかと証拠を映す。それは署名状だった。
「こ、これは?」
「見て分かる通り、署名状です」
「い、一体何の」
「無論、今回の予算に対する同意。全ての部活動の署名ですよ」
そう、オレがわざわざ全部活を回ったのは、大幅に変えた予算の説明と同意の署名を得るためだ。
「もちろん、三首長の署名もあり、正式な認可を得たものです。ご理解頂けましたか?」
「うっくぅぅ……!」
女生徒は悔しそうな顔をして着席する。別にこのために用意した署名ではないが、役に立ってよかった。と、何のために署名を集めてたのかと言うと、トリニティの規則でそう決まってたからとしか言いようが無いんだけど。予算決める時は各部活の同意を得てねって、誰が決めたんだか。トリニティは何かと手続き踏まされるのが面倒だ。
「では、各部活動が予算に同意してるとして、今年の前期の予算はこれで決定とします」
始まった時に比べて、大きな拍手が会場内を包み込む。なんで?よく分かんないけど進行出来ないから、静かにして。
「お静かに。次に、こちらセイア様にご相談させて頂きまして、PCのソフトやシステムを―――」
その後も順調に会議を進めて、最後の議題に移る。
「最後に、皆様も噂でご存じかと思いますが、アビドスへの支援についてです。こちら―――《アビドス高等学校》へ支援することが決定しました」
『えっ?』
―――ざわざわ。オレの告げた言葉により、会場内が大きくざわつく。
「お静かに!理由を説明いたしますのでお静かに願います!なので、そちらの方も席を立たない!!」
腰を浮かせて抗議しようとした生徒を、こちらから先に牽制する。
「まずこちらですが、三首長と議論に議論を重ねての結論だという事を、先に言っておきます。皆様も知っての通り、今アビドスは苦難に立たされています。砂による公害に、借金。こちらから支援したとして、向こうから返ってくるものは無い、と断言できるでしょう」
アビドスにはお金が無い。人がアビドスからどんどん去っているため、貸し出せるような人材も無い。なら、アビドスに求めるものとは?
「つまり、アビドスからは見返りを求めない」
「では、何故か?」
「これは、一種の外交手段です。アビドスに無償の支援をするトリニティ、という構図を作るための。それにより、"トリニティは他学区に支援するほどの余裕と懐の深さを持ち合わせている"とトリニティ外に示すことが出来るでしょう。最初に支援したのがトリニティとあらば、他三大校、特にゲヘナに対し優位に立てますし、他校がトリニティに続いたとして、それはトリニティの真似をしたという印象を世間に与えるだけです。これによって、トリニティの存在感と国力の強さを他校に見せる事が出来ます。と、まぁアビドスに支援する理由は大体こんな所です。何か不明な点があれば挙手を」
会場内を見渡すと、《シスターフッド》の方から手が上がる。
「サクラコ様?どうぞ」
「支援……と仰られましたが、どのような形で支援されるのでしょうか?」
「あぁ、確かに肝心な所を説明していませんでした。支援は1回、3か月分の食糧や生活用品があれば十分だと考えてます」
「え、それだけですか?炊き出しなどは……」
「これ以上の支援は、アビドスの自立性を阻害するだけでしょう。継続性は依存性を高めます。それは、あちらが望む事ではないと思います。支援に掛かるお金は、部活予算を組んだ際余ったので、そこから捻出します」
「なるほど、そういうことならこちらから言う事はありません」
ふぅ、あの《シスターフッド》から聞かれると思わなかったから、ちょっと緊張した。サクラコとは、この前予算について話しに行った日が、初めての会話だったからな。話した限り変な人じゃないと思うんだけど、妙に緊張する。
「他に何かある人いらっしゃいますか?……全員納得して頂けたと、言う事でよろしいでしょうか?後から、やっぱり納得できないと言われても……まぁ、ちゃんと納得するまで答えますが」
今度は《救護騎士団》から手が上がる。どうしたんだろう、救護しに行きたくなったのかな。
「……ミネ団長、どうされました?救護したいならあと少しで終わりますよ」
「ミサは私の事をなんだと思っているんですか。救護はしますが、それよりお聞きしたいことがあります」
「なんでしょう?」
ミネが救護のことをそれより?会場内が再びざわつく。救護より大事なことなのか、何聞かれるんだ。
「他校にトリニティの強さを見せる、と先程仰いましたが、その目的はなんでしょう?」
……普通にまともな質問が飛んできた。救護してる最中に頭を打ったのか?
「もしや!武力を背景に他校に侵略する気ですか!?」
「しません」
よかった、いつものミネだ。
「本当ですか!?みんなミサならやると言ってますよ!」
「やりません。とりあえず、その"みんな"の言葉は無視してください。逆に聞きますけど、ミネ団長は他校に侵略してくださいと言われたらするんですか?」
「……余程のことが無い限りは」
「ええ、私も余程のことが無い限りはしません。第一、《救護騎士団》が従わないのに他の部活が従うわけないでしょう?《シスターフッド》は中立、《正義実現委員会》も掲げる正義にそぐわなければ、従わないでしょう。ほら、私に動かせる戦力なんてありませんよ」
「……確かに、いくらミサが単騎で強いと言っても限界があるでしょうし、では他校に侵略する気は?」
「だからありませんって」
そもそも、私的な目的で軍を動かす力はオレには無いから。まぁ、奥の手も使えば一人でも出来ないわけでは無いと思うけど。
「……友人を疑うとは末代までの恥っ。かくなる上は切腹を!」
「あ、セリナさん。邪魔なので、ミネ団長を連れてってください。会議ももうすぐ終わりますので」
「あ、は、はい!」
「セリナ!邪魔をしないでください!私は団長としての責任を!」
何人かに引きずられるように退出するミネを見届けた後、他に無いか確認する。
「では、他に無いようですので、トリニティ全体会議を終了とします。支援の件は、追って各所に連絡します」
―――後日
「いやー、私達いるだけだったね!」
「何かあれば、割って入ろうとは思っていたのですが、まさか全員説き伏せてしまうとは」
「ふっ、ミサなら問題無いだろうとは思っていた。それより、ミカが暴れないように見るつもりが、まさかナギサが暴走するとは思わなかったよ……」
「う、も、申し訳ありません。ミサさんの苦労も知らず、好き勝手言う輩ばかりだったのでつい……!」
「……ん?待って、私が暴れないようにってどういうことセイアちゃん?」
「おっと、そういえばミサはどうしたのかね」
「ちょっとセイアちゃん!?」
「ああ、それなら―――」
◇
―――アビドス高等学校・分校舎。
数機の輸送ヘリが校庭に降り立ち、複数のコンテナを置いていく。
「見てください!こんなにたくさんの物資が来ましたよ!3か月どころか1年持ちそうですよ!」
「うへ~、ダメ元で支援要請したら、まさかトリニティから送られてくるとはねー。……しかも、食糧は日持ちする缶詰、寝具は砂で汚れやすいシーツ類多めに。よく下調べしてるねぇ」
「こちら、受け取りのサインお願いできますか?」
「あ、はーい!」
少女は豊満な体を揺らしながら、トリニティから来た生徒の元へ向かう。ピンク髪の少女は、ふと空中に留まっている一機のヘリが気になり、そちらに視線を向けると一瞬驚いた表情をする。
「……なるほどね、風の噂で聞いてたけどホントに生徒会に入ったんだ……《トリニティの破壊天使》」
「え?《トリニティの破壊天使》って……あの?」
「まぁ、有名人だよね。うへ、面倒な相手に借りを作っちゃったかな」
「……あれが《暁のホルス》」
こちらを見るピンク髪の少女に、オレは感嘆の声を漏らす。
「弱くなったって聞いたけど、やっぱりただの噂か」
どう見たら弱くなったと言えるんだか。それより、覆面の人居ないな。これから入学してくるんだろうか?今回、支援をゴリ押した理由は、エデン条約編にアビドスが関わっていたような気がするので、それまでに潰れちゃ困るから物資の支援をセイアに提案した。
あれやこれやの理由は大体後付けだ。トリニティの体裁を守りつつ、アビドスを支援できる理由があれば何でもよかった。ついでに、記憶の補完をするために顔を見に来た。……アビドスって最終的に5人くらいだった気がするけど、記憶の中の覆面6人いるのは何故……?
「ミサ様、そろそろ学園に戻る時間です」
「あ、うん」
様?《ティーパーティー》の生徒に首を傾げながら、ヘリの椅子に座り直すとスマホが震える。モモトークにメッセージが来たみたいだ。誰だろ、ミカかな?
「あ、ユイノだ」
『トリニティ全体会議の公開映像見ましたよ!流石、ミサさんですね!』
会議の一部を録画した映像を見たらしい。《トリニティ総合学園》の公式サイトで見れるが、いつもはあまり再生されないらしいのだが、何故か今回はいつもの数百倍再生されてたそうな。
「んー、『でしょ?』」
なんて返すか少し迷ったあと、オレはドヤ顔スタンプ付きでそう返した。
ふー、会議も終わって少しは仕事減ってくれてたら嬉しいんだけど。
光園ミサ
ミカ以外弱点が無い女。ミサはミカの手伝いをするために、ミカの執務室に自分の作業デスクを置いている。割と一人で抱え込みがちなので、仕事ぶりは有能であるがちゃんと見てないと気が付いたら倒れる寸前まで頑張ってる。インフラも握ってるので、ちゃんとした理由があればクーデターを成功できるくらいには、コネと戦力がある。
聖園ミカ
ミサが気絶するように寝た後、ミカは訪ねて来たナギサに起こされ、ミサがそれほど疲れを溜めてた事に気付かず爆睡してたので、ミサに「ごめーん!」した。ミサとのスキンシップが減って、ミサニウムが枯渇しかかって性欲が暴走しそう。なので舐めた。
桐藤ナギサ
久しぶりにミサと沢山会話出来て、ちょっと距離感がバグってる。会議中、紅茶を飲みながらミサを責める生徒を凄まじい形相で睨んでた。ミサと普通に会話出来るまで信用を回復できたので、そろそろ結婚できそうと思ってる。
百合園セイア
今まで、議論できるような相手がいなかったのでミサと話すのが楽しい。普通にミサが有能すぎてサンクトゥスに欲しいと思ってるが、ミカから奪うのは至難の業なので、とりあえず手始めに、ミサを押し倒そうと思ってる。
放課後スイーツ部
アイリ経由で知り合った。アイリとは不良に絡まれてたところを以下省略。なお、助けた後ミサに襲われてると勘違いしたナツとヨシミに襲われた。カズサは天狗になってた頃ボコボコにされ、普通の女子校生の姿を見て「……何やってんだろ」と我に返り、不良をやめた。ミサにボコされたのは普通にトラウマになってる。その後も、ミサがスイーツ部に会うたびにカズサに威嚇されてる模様。
すでにお気付きの人もいるかもしれないけど、ミサがティーパーティー抜けると重要な仕事を回してる人間がいなくなるので、ティーパーティーが死ぬ。まぁ、ミカがティーパーティーやめない限り大丈夫!
次の話はがっつり原作の話が来ます。次回、エデン条約の話。
感想返しってしたほうがいい?
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いる
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いらない