ヴァカめ!油断したな!私の勝ちだ(?)
建物の壁と建物の壁を蹴り、ジグザグに飛んで下からの砲火を躱し、回転を加えて上から蹴り落とす。
「……っ!」
余波で周囲の聖徒会のミメシスが声もなく消滅していくのを見届けて、ゆっくりと息を吐いた。
「……ホントにキリがないな」
すでに倒した数は千は下らないだろう。だが、それでも漏れたやつが学園に向かってしまった。
「……まあ、少しの数程度自分たちで対処してもらうか。……?」
《トリニティ総合学園》がある方角に目を向けると、一瞬チカッと何かが光った気がした。
「……狙撃手か。時計塔の鐘の下とは、また良いところを陣取ってるな」
顔までは判別できなかったが、シスター服を着ていたということは《シスターフッド》の生徒か。
「はぁ……ホントに休む暇がない……」
虚空から再び現れるミメシスに小さく溜息を吐きながら、学園に向かわせないように大きく踏み込んでミメシスへ向かう。
◇
学園に迫る《ユスティナ聖徒会》の……いや、《ユスティナ聖徒会》と思しき勢力たちの持つ銃の銃口に、それぞれ寸分違わず銃弾を撃ち込むと、内部で爆発し銃がバラバラになるも、なおこちらに進攻しようとする相手に対し、部隊へ指示を飛ばす。
「接近戦での反撃に注意を払い、一体一体確実に中距離から仕留めてください」
『了解っ』
「ふぅ……」
覗いていたスコープから目を外し、息を吐く。
高所で、かつ周囲の把握がしやすく、指示を飛ばしやすい学園の時計塔を陣取り、《ユスティナ聖徒会》に似た勢力へ対処してるが、一向に減る気配がないどころか徐々にその勢いを増しているのはどういう了見なのだろうか。
「サクラコ様……」
敬愛する《シスターフッド》の長の名を呟く。
本当なら、自分がサクラコ様の救出に直接赴きたかったが、己に課された役割を放棄してそんなことをすれば、主の怒りを買ってしまうだろう。不安から、母から受け継いだロザリオを強く握る。今はナギサ様を信じる他ない。
「……っ!?今のは……!?」
突如、ここからでも分かるほど大きな砂柱と爆発音。慌ててスコープを覗き確認する。距離は遠いが、脅威となるなら警戒しなければならない。スコープの倍率を上げて、輪郭を明らかにする。
「あれは……」
土煙の中に立つピンク髪の少女。
「光園ミサ……」
「……え?」
今、目が合った……?スコープの反射を見て?まさか、ここから何十㎞離れてると……。……いや、これは完全に目が合ってますね。こちらを見つめて怪訝な表情をしています。やがて、興味を失ったのか跳び上がってどこかへ去っていった。
「……これは、戦力分析を見直さなければいけませんね……」
◇
───アズサちゃんっ!待ってください!
───ごめん、ヒフミ。私にはやらなければならないことがある。だから……さようなら。
───アズサちゃん!!
トリニティにある廃墟ビルの一つ。そこにアズサはいた。《アリウススクワッド》の拠点を割り出し、そこに罠を張り、待ち伏せる為に。すでに日は落ちて辺りは暗い。だが、夜間戦闘の訓練があるアリウスにとって、闇は敵ではなく、味方だ。
「ヒフミ……」
彼女から貰ったペロロ人形を取り出す。大切なもの、それを
「だからヒフミ、どうか私を許さないでほしい……」
人の気配を感じ、人形を懐にしまう。……来た。アズサは銃を取ると、静かに移動を開始する。
「……」
「リーダー、これって……」
「ああ……」
拠点に戻ってきた《アリウススクワッド》は、前回来た時と様子が変わっていることに気が付いた。スクワッドのリーダー、サオリは手に持った石ころをその辺に投げると、何かの作動音と共にガスが噴出するのを見る。
「ふ、なるほど」
「ミサキとヒヨリは姫を。私が先行する」
「え、ひ、一人でですか!?」
「問題ない、よく知ってる相手だ」
「それって……」
「……(スッスッ)」
「……うん。気を付けてね、リーダー」
スクワッドと別れ、一人で奥へ進む。罠の仕掛けられているであろう箇所を避け、ある程度進むと足を止める。ここまで来る途中の罠の仕掛け方を見るに間違いないだろう。足を止めれば、恐らく……。
「……!やはり来たな!」
後ろに動く気配を感じ、振り向くもそこにあったのはただの布だった。
「……!?チッ……!正面だとッ!」
先程まで向いていた正面から銃撃。意表を突かれたサオリは横っ飛びでそれを躱す。
「ぐっ……!?」
当然、動かされた方向には罠が仕掛けられている。爆発で目が眩む中、"してやられた"とサオリは頭に血が上る。
「いいだろう……!お前は私が確実に仕留める……!覚悟しろ、アズサ!!」
ビルの中を互いに銃撃しながら駆けあがる。
「……っ!」
有利な盤面で挑んだにも関わらず、苦しい顔をしているのはアズサのほうだった。というのも仕掛けた罠が悉く看破されてるせいもあるだろう。アズサに戦い方や罠の仕掛け方を教えたのはサオリなのだから、それは当たり前と言わざるを得ない。
「くっ……!」
サオリが銃撃の合間に投げる手榴弾の爆発に巻き込まれ、体勢を崩しかけるもすぐに立て直し、階を跨いで状況をリセットさせる。
「いつまでこんなことを続けるつもりだ、白洲アズサ」
「お前に戦い方を教えたのは私だ。お前では私には勝てない。全てはそう、虚しいだけだ」
「……っ」
周囲を警戒しながら通路を進むサオリ。その足は、迷うことなくアズサが身を潜めている場所へ向かっている。
アズサはあるモノを握り締めると、意を決してサオリの前へ飛び出す。
「ふ、そこかアズ───なにっ!?」
アズサは握り締めていたあるモノ───閃光手榴弾を自分とサオリの間に放り投げる。瞬間、光が視界を埋め尽くし、世界から音と色が消える。
「くっ───だが、逃がさんッ!」
「……っ!?」
サオリは直前の記憶を頼りに、音と色が消えた世界を突き進み、首を手で掴むとそのまま押し倒し銃を突きつける。
「詰めが甘かったな白洲アズサ……」
やがて世界に音と色が戻り───サオリの後頭部に銃口が突きつけられる。
「……!?」
後ろから銃口を突きつけてるのはアズサだ。では、自分が捕まえたのは一体?そう思い、視線を落とすと、そこにいたのはただのマネキンだった。
「閃光手榴弾を使ったときに入れ替わったのか……」
下の階で頭に血を上らせたのも、このためだったのだろう。
「……そのままで、動かないで。動けば撃つ」
「……」
両手を上げようとしたサオリを、先んじて牽制する。サオリなら手を上げる
「……」
「……」
その状態のまま、二人の間に沈黙が流れる。
「……何故撃たない?」
「……サオリに聞きたいことがある」
「聞きたいことだと?」
「どうして、あの二人を巻き込んだのか。ずっとそれが知りたかった」
「……何の話だ?」
見当がつかないと、眉を顰める。《アリウススクワッド》を指しているわけではないのは、言葉の端々からも読み取れた。
「とぼけないで。聖園ミカに、百合園セイアを直接手を下すように命令したのはあなただろう?」
「……本当に何の話だ」
そんな命令を出した覚えはない。だが、その命令を出した者には心当たりがあった。サオリは、頭の中でアリウスの生徒会長を名乗る"あの女"の姿を思い浮かべる。
「……もう一つある。
「……」
サオリにとっても、その問は触れてほしくない痛い部分だった。光園ミサがその怒りをアリウスに向けるのも当然だ。先に裏切ったのはアリウスのほうなのだから……。
「……あいつらは、トリニティだ……」
絞り出したように出た答えがそれだった。
「だから、彼女らの仲を引き裂くことも厭わない?私たちのモノではない、誰かに植え付けられた悪意を彼女らにぶつけることに何の疑問も無いと、本当にそう言うのか?」
「……」
サオリ自身も分かっていた。それでも、もう後戻りはできない。なにより、"彼女"に従わなければアツコが、スクワッドのみんながひどい目に遭わされてしまう。それだけは駄目だ。だからこそ……。
「……ッ!?」
地面に手をついてアズサの足を払う。サオリの動き出しに発砲するも、体勢を崩され弾丸はあらぬ方へ飛んでしまう。解放されたサオリはすぐさま体勢を崩したアズサに銃撃を行うも、受け身を取ったアズサは地面を転がってそれを回避する。
「チィッ……!」
失敗を悟ったアズサは、起き上がるとそのまま近くの窓を破り脱出する。
「……!逃がしたか……!」
これだけ周到に準備をしていた以上、今から追っても無意味だろう。そう考えながら、空になった弾倉を交換する。
「……私は、もうこうするしかないんだ……姫を……アツコを護るためには……」
ふと、アズサのいたところに何かが落ちているのを見つける。
「……人形、か」
(トリニティで出来た友達から貰ったのだろうか……利用するのは気が引けるが……)
「……リーダー!」
声を掛けられ、そちらを見るとミサキたちが二人を追ってビルを上がってきたようだ。
(……?なんだ?人形の中に何か……)
指先に硬い感触。悪いと思いつつナイフで人形を裂いて中身を確かめる。
「……ッ!?これはッ……!?」
そこにあったのは、アズサに持たせた《ヘイローを破壊する爆弾》だった。所有者が一定距離離れると、自動で起動するようになっていたのだろう。残り少ないカウントを見て、サオリは声を荒げる。
「姫ッ!来るなッ!」
「───サッちゃんっ!!」
失敗した。
サオリたちを止められなかった。
失敗した。
"こんな手"、使わずに済ませたかった。
……失敗した。
「ごめん……ヒフミ……ごめん……みんな……」
先程まで自分とサオリがいた階が爆発するのを見届けながら、アズサはあらかじめ用意してたクッションに落ちた。追撃を警戒して、出来るだけ早くその場を離れる。外は、雨が降り始めていた。
◇
「……これが、現在に至るまでのおおよその出来事と言えるだろう。いかがだろうか───先生」
そう目の前で宣うのは、百合園セイアもといセクシーフォックスだ。あまりにも背中がガラ空きすぎだし、脇なんて手を入れてくださいと言わんばかりに空いている。……制服ってオーダーメイドなんだろうか。
「いかがも何も、みんな自分が出来ることを頑張っていて先生として誇らしいな、って感想しか出てこないよ」
「ふふ、その言葉が聞けただけでも十分さ」
セイアはそう朗らかに笑う。
「アズサに関してだが───」
「アズサなら、きっと立ち上がれるよ」
「───ああ、私もそう思う」
「……」
「……」
わぁ……すごく話がスムーズだぁ……。
「まあ、焦らずゆっくりとお茶を楽しもうじゃないか。ミサの淹れたモノに及ばないのは申し訳ないがね」
促されるままに紅茶に手を付ける。……おいしい。十分おいしい紅茶だが、ミサの淹れた紅茶はさらにおいしいらしい。飲んでみたくはあるが、これに慣れるとコーヒーに帰ってこられなくなりそうで恐ろしい。
「……先生は不思議に思っているのだろう?どうして私がこんなにも落ち着いているのか」
「ミサがいるからじゃないの?」
「それもある」
否定はしないんだ。さすがはミサ大好きクラブの《ティーパーティー》。
「私がこんなにも落ち着いていられるのは、あなたが理由だよ先生」
「私?」
セイアに何かしたっけな私……。
「ああ、
セイアのその言葉に、口に含んだ紅茶が苦くなったような気がした。
「何故、と先生は思っているのかもしれない。だがね、迷いもなく行動しているのを見れば、そう確信せざるを得ないだろう?私も同じような経験があるしね」
「……参ったね。そう思わせる様な行動は、見えるところではあまりしてなかったと思うんだけど」
実際、《エデン条約編》に入ってからは、こっちからアクションを取ってはいない。基本、生徒の自主性に任せてたし。だから、ヒフミのサポート程度に留めておいたはずなんだけどなぁ。
「そうだね。たぶん、気付いているのは今のところ私ぐらいだろう。ただ、私の場合。この"夢"を通して俯瞰的に見ることができたからね。……まあ、ミサが冷静だったならば気付かれていた可能性はあっただろう」
……ミサに気付かれる可能性があるってことは、ハナコも気付く可能性があるってことでは?というか、すでに怪しまれてる可能性もある……。
「ちなみに、後学の為にもどこで気付いたのか、教えてもらっても?」
「……ふむ。確信を得たのは、あなたがミサにトロッコ問題の様な問いかけをした時だったね」
……アレかぁぁぁぁぁ~~~~~っ!!!!後々の為にって原作にない行動したのが、こんな結果を呼ぶとは……。これだからオリチャーは駄目だと。ぐぉぉぉぉ……!!
「ハハ……ソッカ……」
「……あの問いかけに、答えは無いのだろう先生?なにせ、あの問いかけそのものが答えなのだから」
「……ああ、うん」
やっぱり気付くよね。そりゃそっか。
「あの問いかけで、私自身も間違いに気付くことができた。今、私がやってることも、ただの独り善がりにすぎないのだと。私は彼女らを守るために選択したが、逆に彼女らを追い詰める結果になってしまった。それは、私の反省すべき点だ」
「……そうだね」
「そのことに気付かせてくれた先生には、改めて礼がしたい」
「……強いなぁ。いや、強くなれたのか。己を省みて、成長できる。普通出来ることじゃないっていうのに」
「私が、強く……?……もし、そう思ってもらえたのなら、それはミサのおかげだろう」
そう言ったセイアは、何かを思い出すかのように手を口に当てる。
「ミサはずっと戦っている。それこそ、とっくに折れててもおかしくないくらいなのに。……いや、今回に限った話じゃない。《ティーパーティー》の記録に残っている分だけでも、数度。なのに、ミサは必ず折れるギリギリで踏みとどまる」
セイアの話はアレだろう。トリニティの過去編小説で語られた話だ。一部、ゲーム内イベントでもあったけど、かなりショッキングな内容なんだよな。
「記録を調べていた時、どうしてミサが折れないのか、不思議でたまらなかった。でも、今ならその理由が分かった気がするよ。……彼女は誰よりも優しいからなのだと」
「……その言葉を聞いたら、きっとミサとミカは喜ぶよ」
「ふふ……ミカはともかく、ミサは否定しそうな気もするが」
まあ、十中八九否定するけど。恥ずかしがり屋だからミサは。
「ミサには人を惹きつける何かがある。でもそれは、必ずしも良い人間ばかりではない。……悪い人間すらも惹きつけてしまう。それはきっと、今回の騒動にも関わっている。そうじゃないかな、先生?」
……これだから頭の回転が早い奴はよぉ。
「……さあ、どうだろうね」
「先生はもう少し、腹芸というものを学んだほうが良い」
セイアはとてもいい笑顔でそう言った。トリニティ式の腹の探り合いを、先生に求められても困るんだよなぁ。
「あーそろそろ起きなきゃー」
「おや、もうかい?私はまだまだ先生と語らいたかったが」
うるせー!!これ以上情報ぶっこ抜かれてたまるかって話なのよ!
「では先生。向こうでまた会おう。今度は、私が勇気をもって踏み出す番だ」
その言葉を最後に、視界が白く塗り潰されていく。……今回は迂闊だったなぁ。セイアのことだから言い触らしはしないと思うけど。一応、あとで口止めはしておこう……。
光園ミサ
必ず騒動の中心にいるロリ。え?アリウス自治区?……行動力の塊が服着て歩いてるのに、どうして何もしてないと思ったんですか?ちなみに、皇の情報網に引っ掛かったのはミカではなく、ミサのほう。だって、ミサは詳しく知らないからね皇グループについて。
聖園ミカ
ミサの行動の巻き添えを食らった女。情報網に引っ掛からないように動いてたのに、気付かれるの早すぎじゃんね?
アリウス自治区
ミサに物資の支援だけじゃなく、水引いてもらったり瓦礫ばかりのエリアを開墾してもらったりしてる。冗談抜きで足向けて寝られねぇ。
かなえ先生
本日の最迂闊賞。やっぱオリチャーは駄目だね。