ブルアカにTS転生してメス堕ちする話   作:アウロラの魔王

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3年生編だけで余裕で2万字いっちゃったー。ミカほぼいないのにがんばりすぎでは?

今回の話は書いてる間、涙ぼろぼろでつらかった…。花粉マジ許せねえ。

感想ありがとうございます!

一応、今回と次回の4年生編で修行編が終了となりますので、わざわざお付き合いいただきありがとうございます!


卒業の話

 

 目を覚ますと、そこは慣れ親しんだ校舎と薬品の香り。掛けられた布団をめくると、包帯を大量に巻かれた自分の身体。体を動かすと、すごく痛かった。口には呼吸器が取り付けられて、体の至る所に変な機械みたいなものが伸びている。すごく邪魔だ。とりあえず呼吸器は外しとこ。

 

 体の感覚が戻って来て、ふと右手が握られてることに気が付いた。

 

「……シエルさん」

 

 もしかして、ずっと付いててくれたのだろうか。……そういえば、夜みたいだけど今何時だろう?見た感じ、そんなに時間は経って無さそうだけど。そもそも、なんで寝てたんだ?朝、訓練してたのは覚えてるんだが……。

 

「……んぅ」

 

 右手を握っていたシエルさんが身じろぎして、目を覚ました。

 

「いけない、私また寝ちゃ、って、た……?」

 

「あ、シエルさん。おはようございます」

 

「ミ、ミサちゃんっ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

 シエルさんはオレを見るなり、急に抱き着いてきた。

 

「ミサちゃん!ミサちゃん!よかった、生きてて本当によかった……!」

 

「生きててって、そんな大げさですよ」

 

「大げさなんかじゃないよ!一ヶ月も目を覚まさなくて、もう二度と目が覚めないんじゃないかって、毎日不安で……!」

 

「一ヶ月ッ!?」

 

 一ヶ月も眠りっぱなしって、何やったんだオレ。全身包帯まみれだし。

 

「そうだよ!あのとき、あと一歩でも処置が遅れていたら助からなかったって、死んでたかもしれないって。でも、全然目を覚ましてくれなくて私……!」

 

「お、落ち着いてください!死って、なんでそんなことに」

 

「覚えて、ないの……?黒野サユリにされたこと」

 

「黒野、サユリ……ッ」

 

 一月前の出来事がフラッシュバックし、食道を熱いものがこみ上げてきて、思わず口元を抑える。

 

「ミサちゃん!?だいじょうぶ!?ごめんね、思い出したくなかったよねっ。ごめん、ごめんねっ」

 

「っすみませ、水を」

 

「ちょ、ちょっと待ってて!えーと、これ!ほら、飲める?」

 

 なんか透明なポットのようなものを差し出してきた。あまり、こういうのに直接口付けたくないけど、仕方ない。

 

「んくっ、んくっ……ぷはぁ」

 

「ミサちゃん、大丈夫?」

 

「ええ、なんとか……」

 

 ようやく落ち着いて状況を整理できる。自分の身体に巻かれた包帯を見る。全身隙間なく巻かれたそれによって、どれほどの大怪我だったか分かる。たしかに、ショットガン撃たれて、爆発に巻き込まれて、ショットガンに撃たれて、ショットガンに撃たれて、ショットガンに撃たれて……よく生きてたな。

 

「そうか、あのとき死にかけてたのか、オレ。道理でなんも感覚無かったわけだ」

 

 今は普通に痛いし。

 

「なんで、そんな落ち着いてるの!?」

 

「そういうシエルさんこそ、今日はずいぶん感情が爆発してますね……」

 

「当たり前だよっ!どれだけ、どれだけ心配したと思ってるの!?うぅ、うえぇぇーん!」

 

「シエルさん……」

 

 その後、シエルさんが泣き止み、落ち着くのを待った。

 

「ずびっ、ごめんね。今日ずっと、かっこ悪いとこ見せちゃってるよね」

 

「まあ、でもいつもと違うシエルさんが見られてうれしいですよ?」

 

「……いつもの私は、《委員長》ってメッキを張った私だから、どっちかって言うとこっちが本来の私になるのかな」

 

「そうだったんですね」

 

「うん……」

 

 そのまま、お互いに話さなくなり、無言の時間が流れる。その沈黙を破ったのは、シエルさんだった。

 

「あっ、あ……」

 

「急に変な声出してどうしたんですか?」

 

「いや、その……」

 

「なにか聞きにくいことなのはわかりましたけど、言ってくれないとオレも何も判断できないんですけど」

 

「その、ミサちゃんはどこまで覚えてるのかなって。さっきも、記憶の混濁みたいなのもあったし、心配になって……」

 

 なるほど、またフラッシュバックして吐くかもしれないから、遠慮してたのか。あれから、頭の中で記憶を整理してるが、特に吐き気もない。

 

「今は大丈夫ですよ。記憶は、最後にシエルさんと話してた時、血を吐いた辺りまでなら覚えてます」

 

「……うん、最後だね。あの後、病院に運ばれて治療を受けたんだけど、ミサちゃんは全く目を覚まさなくって。お医者さんが言うには、ヘイローと肉体へのダメージが限界ギリギリだったんだって」

 

「ヘイローも……」

 

 自分の頭の上にチラリと視線をやる。普段そこにあるのは分かるが、触れないし、視界に入らないしであまり意識することなかったな。

 

「うん、あと一撃、撃たれてたらヘイローが耐えきれず、破壊されてたかもしれないって。傷の治りが遅いのも、意識が戻らないのも、ヘイローが回復するのを待たなきゃいけないって」

 

「あと一撃……」

 

 黒野サユリに最後撃たれてからもう一発……アイツは撃とうとはしなかった。あそこで撃ったら壊れるって分かっていたのか。いや、アイツもオレがあんなに持つとは思わなかったって言ってた。つまり、おかしいのは……。

 

「何をされたか、かいつまんでお医者さんに説明したら、あの状態でまだ生きてることが奇跡だって言われたよ。それでね、療養するなら親しみ深い学園の方がいいだろうって、私もお見舞い来やすかったし」

 

「奇跡……」

 

 奇跡。本当にそうなのか。小学3年生、8歳の子供が受け切れるダメージだったのだろうか。普通じゃない。それはきっと、異常だ。

 

『アタシだけがお前を理解してやることが出来る。それを忘れるな』

 

「……」

 

「ミサちゃん?どうかしたの?」

 

「……いえ、なんでも。そういえば、黒野サユリはどうなったんですか?」

 

「え?うん、ミサちゃんを病院に送った後、追跡したよ。けど、途中でヘリを捨てて徒歩か、別の足を使ってトリニティからは出たみたい。でも、ヘリに残ってた血痕の量から、黒野サユリもしばらくは療養に専念して動かないと思う」

 

「そう、ですか……」

 

 あれ、なんで今ちょっと残念だなって思ったんだろう……。

 

「ミサちゃん……」

 

 シエルさんは覆い被さるようにオレをやさしく抱きしめる。

 

「……シエルさん?」

 

「ごめん、今は、今だけは委員長の羽佐間シエルじゃなくて、ただの羽佐間シエルでいさせて」

 

 服が湿る感じがした。シエルさんは泣いていた。

 

「ごめん、ごめんね、私のせいで……」

 

 シエルさんを抱きしめようとした腕が、力なく落ちた。違う、シエルさんのせいじゃない。シエルさんを泣かせたかったわけじゃないのに。オレは、ただ……。

 

「……よし!ごめんねミサちゃん。肩貸してもらっちゃって」

 

「いえ、役に立てたのなら、うれしいです」

 

 シエルさんを悲しませるオレなんかが、そばに居ちゃいけないのは分かってる。それでも……。

 

「どうかしたの?」

 

「え?」

 

「なんか暗い顔してたから……」

 

「あ……その、そばに居てくれませんか。……ずっと」

 

「よくわからないけど、もちろん!ちゃんと、そばに居るからね」

 

 その言葉がうれしくて、笑みが浮かぶ。

 

「はい、ありがとうございます。ん、ふわぁ……」

 

 安心したら、眠気が襲ってきた。目が覚めるまで回復したとはいえ、まだ時間が必要なのだろう。

 

「ふふっ、今日は話し過ぎちゃったね。明日、改めて検査があるから今日のところは帰るね」

 

「あ、シエルさん」

 

「うん?」

 

「その、眠るまでいてもらってもいいですか……その、目を閉じると不安で」

 

「えっ、今日はずいぶんと甘えたがりだね」

 

「……」

 

「うんわかった、いいよ。ミサちゃんが眠るまで、そばにいるね」

 

「……ありがとうございます」

 

 できれば、ずっといてほしいけど、さすがにわがままなのかな……。

 

 布団に潜って、すぐに眠くなり、そのまま睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 ―――それから。次の日に、検査を行い、結局全治2か月の療養を言い渡され、暇な2か月を過ごす羽目になった。

 

 《正義実現委員会》からは正式な謝罪が来た。テロリストの横行を未然に防げなかったこと。一般人を巻き込んでしまったこと。色々だ。そのとき、シエルさんの幼馴染の副委員長さんに会ったけど、すごくいい人だった。人に言えない趣味を持ってるけどシエルさんと仲良くしてあげて欲しい、と言ってなんか高そうなおいしいものくれた。幼馴染思いだなぁ。でも、人に言えない趣味ってなんだろう?

 

 シエルさんは、毎日お見舞いに来てくれた。ミレニアムで流行ってるらしいゲームを持って来てくれるのだが、持って来た8割くらいクソゲーだった。シエルさんはクソゲーハンターだったのだろうか。

 

 2か月経って退院したあと、学園に行くとみんな余所余所しかった。なんか噂が流れてて、テロリストとガチったやべーやつのレッテルが張られてた。事実だけども!まあ、元々大して親しくなかったし、それは別にいいかな。

 

 学園に行っても、結局やることが無くて、ずっと訓練していた。訓練は引き続き、シエルさんが見てくれることになった。シエルさんといるのは楽しいので、うれしかった。

 

 そういえば、一つ大きく変わったことがあった。それは、街の不良たちがオレを見るなり、襲ってくるようになったことだ。裏社会において、大きな力を持っていた黒野サユリを負傷させ撤退させた、という噂がトリニティに留まらず、別の学区にも広まっており、噂を聞いた不良たちがオレを狙いに集まってきているらしい。

 

 らしい、というのは委員会からのまた聞きだ。普段は委員会の人たちが対処してくれるが、オレのせいなのにずっと頼りっぱなしなのもどうかと思い、一人の時は自分で不良を倒している。それをすると、毎回怒られるんだけども。

 

 委員会の人たちは、黒野サユリの件を申し訳なく思ってるらしく、不良たちのことも含めて罪滅ぼしをさせてほしいと言われてしまった。オレは別に気にしてないんだけどなぁ……。

 

 やがて、季節が過ぎ、卒業のシーズンがやってきた。卒業。シエルさんは3年生だ。だから、今年で卒業してしまう。そのことは、オレに暗い影を落とした。

 

 

 

「―――やーっ!卒業式終わっちゃったー!」

 

 そう言って、両手を上げて叫んでるのはシエルさんだ。

 

「はぁ、今日でこの学園ともお別れかぁ」

 

「シエル、さん」

 

「ミサちゃん……」

 

 そばで立ち尽くすオレに、シエルさんはやさしく微笑みかける。

 

「ちょっと、二人で話そっか」

 

 

 

「ミサちゃんと会ってから、色んなことがあった気がする。嬉しいことも、悲しいことも、楽しいことも、……怖かったことも」

 

 卒業式が終わり、賑わってる中庭から外れ、裏庭のベンチで二人座っていた。

 

「オレ、は」

 

 言いたいことはあるのに、言葉がでない。

 

「私、ミサちゃんに会えてよかったって、思ってるよ。ミサちゃんは?私に会えてよかった?」

 

「そんなの」

 

 当たり前だ。シエルさんに会えなかったら、オレは今ここに居ない。どうして、今そんなこと、そんなのまるで……。

 

「……私ね、トリニティの外の学校に行こうと思うの」

 

 ―――っ!

 

「ど……して」

 

「うーん、私たちってトリニティしか知らないわけじゃない?だからトリニティ以外の学区って、どうなってるかわからない。そういうのを勉強したくてね。……きっと、将来の役に立つ」

 

 ……いやだ。

 

「それと私ね、夢があるんだ!」

 

「ゆ……め……」

 

「うん、オシャレなカフェを経営してみたいの!やっぱり、そういうこと勉強するために、トリニティ以外を知っておくのは必要だと思うんだよね」

 

 ……いかないで。

 

「ミサちゃんとは、離れ離れになっちゃうのは寂しいし、全く違う土地に行く不安もある。でもミサちゃん応援してほしいな!」

 

 ……ここで引き止めるのは簡単だ。でも、シエルさんには幸せになってほしい。オレのそばに居ても悲しませるだけだから。オレのそばじゃ、シエルさんは幸せになれないから。

 

 ……ちがう。

 

「は、い。もちろん、応援してます。がんばってください、シエル、さん……」

 

「うん、ありがと!―――それじゃ、戻ろっか」

 

「あっ……」

 

 ベンチから立ち上がり、歩き出したシエルさん。反射的に伸ばした手が空を切る。行く、行ってしまう、シエルさんが、いやだ、いかないで、オレは、まだ……。オレじゃシエルさんをまた悲しませてしまうかもしれないけど、でも……!

 

「―――シエルさん!!」

 

 走って追いかけて、後ろから力いっぱい抱きしめる。

 

「ミサちゃん!?」

 

「いやだ、いかないで!ずっと、ずっとそばにいて……どこにもいかないでよ!」

 

「ミサちゃん、泣いてるの?……そっか、泣いてくれるんだ、私のために。うれしいな」

 

「約束したじゃん。ずっとそばに居てくれるって!なのになんで……!」

 

「約束……?あっ!……あはは、私ほんとダメだなぁ。ミサちゃんのSOS。いつも見逃しちゃう」

 

「オレ強くなるから……!シエルさんを悲しませないように、もっと強くなるから!だからお願い……いかないで。オレを見ててよ……ずっと……」

 

「ミサちゃん……」

 

 オレはシエルさんに縋り付き、泣き続けた。行ってほしくない、卒業してしまったら、もう二度と……。

 

「ねぇ、ミサちゃん」

 

「いや!離れない!絶対離れない!」

 

「ミサちゃん、聞いて」

 

「やだぁ!聞きたくない!」

 

「―――光園ミサッ!!!」

 

「ひぅっ……」

 

 怒鳴り付けられ、反射的に手が離れてしまう。離れまいと、もう一度手を伸ばすが、先にシエルさんに顔を両手で挟むように掴まれてしまった。

 

「いいから、聞いて、ミサちゃん」

 

「ぐすっ、は……い……」

 

「ねぇミサちゃん、訓練を始めるとき言ったこと覚えてる?」

 

「……絶対に、無茶なことしない……」

 

「うんそうだね、じゃあもうひとつは?」

 

「もう、ひとつ……」

 

 覚えている。でも、それは……。

 

「うん、覚えてない?」

 

「お、覚えてます。でも……」

 

「じゃあ、言って」

 

「う、……オレの生き方を否定する子が現れるから、……ちゃんとその子の話を聞く」

 

「うん、そうだよ。なんで私がそんなこと言ったか、分かる?」

 

「……わからない、ずっと考えてたけど、なにも」

 

「うん、そうだろうね」

 

「……もしかして、オレがわかってないから、シエルさんオレのそばに居てくれないんですか?」

 

 そんなのいやだ!でも、考えても考えても答えが出ないよ。なにがダメなの。なんでダメなの。

 

「シエルさんも知ってるでしょ?オレが今学園でなんて呼ばれてるか。なんて噂されてるか。誰も近寄ってこないよ?だから、この約束だって意味がない」

 

「……ううん、私は確信したよ。絶対にミサちゃんの所に現れる。だから、その時は約束を守ってほしい」

 

「どうして?シエルさんじゃダメなの?オレはシエルさんじゃないとダメだよ!」

 

「ダメなの、私じゃ、ダメだったの。だから、先輩として最後のお願い。約束、守ってね」

 

「そんなの―――ずるいよ!シエルさんはオレとの約束を守ってくれないのに!ずるいよ……!」

 

「そうだよ、知らなかった?私はね、ずるい女なんだよ」

 

 シエルさんは、顔を掴んでいた手を離し、そっとやさしく抱きしめる。

 

「うぅ、うううううぅぅぅっ!!」

 

 頭を撫でる手が、暖かくて、涙が溢れて止まらなかった。

 

「そういえば、プレゼントを銀の時計にしたもう一つの理由、言ってなかったよね。銀にしたのはね、ミサちゃんの目の色にそっくりだったから。あの日初めて会った、ミサちゃんの目に。私が好きになった―――銀の瞳に」

 

 その後、泣き止むまでシエルさんはオレの頭を撫で続けてくれた。泣き止んでも離れないオレを見て、苦笑しながらやさしく引き剥がされた。

 

「ミサちゃん、笑って?私、泣き顔で見送られたくないよ」

 

「ぐすっ、う……こ、こうですか?え、へへ」

 

 涙に濡れた顔で、精一杯の作り笑顔。きっとシエルさんは気付いてる。でも、シエルさんは何も言わなかった。

 

「うん、いい笑顔だね。そうだ!これ渡そうと思ってたんだ」

 

 そう言って取り出したのは、赤い封筒だった。それを不思議に思って見てると、シエルさんが説明してくれた。

 

「これは《正義実現委員会》の特別推薦状。本当ならミサちゃんの今の年齢だと入れないんだけど、この推薦状を渡せば委員会に入れるようにしてあるから。もし、その気があるなら良かったら使ってね」

 

 いらなかったけど、黙って頷いて受け取った。シエルさんのいない委員会に価値なんてない。

 

『シエルー!みんなで写真撮るってー!』

 

「はーい!今行くー!それじゃあね、ミサちゃん。何かあったら、普通に連絡してくれればいいからね」

 

「あっ……」

 

 最後に見たシエルさんが悲しい笑顔なんて嫌だ!

 

「シエルさん!……卒業、おめでとうございます!」

 

「―――うん!ありがとね!」

 

 嬉しそうに笑って去っていくシエルさんを、今度は止めなかった。シエルさんが見えなくなるまで、ただその場で立ち尽くしていた。

 

 ―――シエルさんとはこの日以来、会うことは無かった。

 

 

 

 

 

 

「―――全く、卒業だっていうのに忘れ物なんて、貴女らしいわね」

 

「あはは、付き合わせちゃってごめんね」

 

 学園の長い廊下を副委員長いや、"元"副委員長と歩いていた。《正義実現委員会》の部室に忘れ物をして、それを取った帰りだ。

 

「これだけはどうしても、持って帰らなきゃ!って思ったから」

 

 手に持ったのは、ぬいぐるみのキーホルダーだ。ミサちゃんと私そっくりのそれはとてもかわいらしかった。

 

「光園ミサから貰ったものね。改めて見ると初めて作ったにしては、よく出来てるわね」

 

「そうなの!もううれしくてうれしくて!」

 

 誕生日になにが欲しいか、と聞かれてつい反射的にミサちゃんが欲しいと言ったら、最初は難しい顔をしていたが、当日に自分はプレゼントできないけど代わりに、と渡してきたものが手作りのぬいぐるみキーホルダーだった。あまりの嬉しさに抱き着いて頬擦りしてしまったくらいだ。

 

「―――はぁ」

 

 ミサちゃん、ちゃんと帰れたかな。ミサちゃんのためだったとはいえ、やっぱり突き放してしまうのはやり過ぎだった気がしてきた。特に、最近のミサちゃんは心が不安定なことが多いし……。今日だって、あそこまで取り乱すとは。

 

「また、光園のことで溜め息?」

 

「だって心配なんだもん!ハミちゃんだって好きな人出来たら分かるよ!」

 

「……私は今恋する気はないわ」

 

「ふーん?あ、さっきハミちゃんと新しい委員長の子が下駄箱でむぐぐっ」

 

 凄まじい速さでハミちゃんは私の口を塞ぐ。

 

「―――幼馴染といえど、それ以上踏み込むのはどうかと思うわ?というか見ていたの!?」

 

「いやー、偶々ね?ほんと偶々目に入っただけだから」

 

「貴女に見られたことが最大の失態よ……」

 

 ちょっと!それどういう意味!

 

「はぁ、まさかハミちゃんに先越されちゃうとはなぁ」

 

「むしろ貴女がまだ手を出してなかったことの方が驚きだわ」

 

「いやいや、ハミちゃんだってミサちゃんに会ったんだから分かるでしょう!?あの純真で無垢な肢体を穢していいものか、毎日ミサちゃんに触れるたびに葛藤する私の気持ちが!?」

 

「とりあえず変態チックな言い方はやめなさい」

 

「あ、すんすん、このぬいぐるみミサちゃんの匂いがする、すぅー」

 

 これ、ミサちゃんの髪と同じ匂いするな。シャンプーかな。

 

「今ほど貴女の友人をやめたいと思ったことは無いわ」

 

「なぁんでよぉぉぉ!」

 

「わかった!やめないからダル絡みしないで!」

 

 ふふん、ハミちゃんが私に勝てるわけないでしょ?何年幼馴染してると思ってるの。

 

 ふと、廊下の向こうから歩いてきた子と目が合った。

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 ピンク髪のミサちゃんに似た子だ。印象的だったからよく覚えている。ミサちゃんと違って髪は長いし、目の色は違うし似ているところはあまり無いはずなのに、なぜかすごく似ていると思った。

 

「シエル、知り合い?……あれ、この子って」

 

「ごめん、ハミちゃん。ちょっとこの子と話したいから、先行っててもらえる?新しい委員長の子とイチャイチャしてていいから」

 

「一言多いわよ!やっぱり貴女に知られるんじゃなかったわ。……それじゃあ、先に行ってるから」

 

 ハミちゃんが離れたことを確認してから、目の前の子と話す。

 

「キミって確か、前ミサちゃんが不良に襲われてた時に教えてくれた子だよね?あの時のお礼が言いたかったんだ」

 

「そう。お礼とか別にいらないから。話はそれだけ?」

 

 すっごい小生意気!冷ややかな目も相まって、ミサちゃんとは正反対なのに、妙にミサちゃんと重なるのはなんでだろうか。

 

「ううん、ちょっとキミと話がしたくて」

 

「私は別にないけど?もう行っていい?」

 

 ……会話を即ぶった切って、そのまま通り抜けようとする。

 

「ミサちゃんのことなんだけど」

 

 そういうと、ピタっと止まり、明らかに不機嫌そうにこちらを見る。私この子に何かしたかなぁ。

 

「キミってミサちゃんの同級生なんだよね?」

 

「……1年生の頃に同じクラスだっただけなんだけど?それがなに?」

 

「ちょっとミサちゃんのことで頼みたいことがあるんだ」

 

 同級生ってことなら都合がいい、私がいなくなった後のミサちゃんを頼もうと思ったのだが。

 

「じゃあ、断るね」

 

「え?」

 

「え?じゃないけど、断るって言ったんだよ」

 

「え、聞く前からなんで」

 

「私がその頼みを聞く必要ないじゃんね?それがあなたの頼みって言うならなおの事」

 

 この子、私に怒ってる?でも、なんで?

 

「……なんで、私の頼みだとダメなのかしら?」

 

「分からない?流石は戦闘だけしか能がない集団だよね」

 

「っ、私はともかく委員会の悪口はっ」

 

「―――ミサちゃんに戦いを教えたのってあなただよね?」

 

「え、そう、だけど」

 

「それが答えだよ」

 

 え、どういうこと?私がミサちゃんに戦い方を教えたから、この子は怒っているということ?

 

「まあ、あなたでなくとも、誰の頼みでも受ける気は無いけど。私には私のやり方があるから、私のやりたいようにやるね。じゃあね、先輩。あっ、もう先輩じゃなかったね」

 

 それだけ言うと、彼女はそのまま廊下の奥へ消えて行った。

 

「―――はぁ、これじゃ戦いしか能がないって言われても否定できないよ」

 

 あの子には、あの子なりの思惑があって動いてるのだろうか。今の私にそれを探るすべはなかった。しかし、あの子口悪いな。

 

 




光園ミサ
体は痕も残らず治ったが、心はボロボロだった。すぐ近くに居たシエルに依存したが回復しきらないうちに、シエルが卒業することになり、メンタル削られすぎて幼児退行した。が、元々幼いので年相応になったようにしか見えない。基本、自分の世界で完結するタイプなので、自分と親しい相手にしか興味がない。一人は嫌だが、自分から友達を作りにはいかない受け身型。元々メンタルが脆い部分があり、それを虚勢とフィジカルで誤魔化してる。ぬいぐるみ作ったり、料理が出来たりと女子力が高い。

羽佐間シエル
今回の話で卒業。トリニティの外の大学に進学した。ミサが自分の世界に引き篭もるタイプなのは気が付いていたが、今回でさらにメンタルも弱いことに気が付いた。どうにか改善しようと動いていたが、ミサの交友関係が狭すぎてどうにもならなかった。ミサの危機を知らせてくれた子に、ミサの事を託そうとするが、にべもなく断られる。でも、なんとなくあの子なんかしそうだなーと思ったので、勝手に任せることにした。ミサから貰ったぬいぐるみは宝物。ミサの匂いがして幸せ。モチーフになった天使はシェムハザ。

ハミちゃん
《正義実現委員会》の元副委員長。シエルの幼馴染。シエルが頭を悩ませていた裏で、新しく委員長になった後輩の子と百合百合してた。

ピンク髪のミサ似の生意気なロリ
語尾が面白いじゃんね?全然似てないのに、すごくミサに似ている。なぜかシエルにすごく怒っていた。この頃からお口が悪い。


基礎を固めたのでミサは経験積めば、あとはもう坂道を転がり落ちるように強くなっていきます。なので修行編終わり!

今回の話書いてて思ったのは、肉体を傷つける話じゃなければ、メンタルブレイクくらい別にいいかって思ったのやばすぎじゃんね?ミサの前に、私の情緒がおかしくなってんよ。

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