オリジナル主人公なので、苦手な方はブラウザバックして頂ければと思います。
読んで頂ける方は、出来る限り楽しんで頂ければ幸いです。
過去の過ちなんて掃いて捨てる程ある。
給食後の体育で頑張り過ぎて吐いたとか、居眠りを起こされた先生を『お母さん』と呼んだとか、やったはずの宿題を忘れて急いで友達のを移したら、それがばれて結局怒られたとか、etc.etc
数えだしたらキリがないし、過去に戻ってやり直したいと夢枕に願う。そんな毎日。
特に今回のは強烈だ。どうしてこうなってしまったのか。誰か説明してくれ。聞いても理解できないけど。
あぁ、神様、仏様。どうか私めにお導きを―――。
「先輩には、中学校に通ってもらいます」
突き付けられた現実に絶望する。目の前の女は一体何を言っているのか。全く理解できない。
でも、置かれた状況が、身体が、心が、明確に現状を理解していた。映し出された俺の現実がこれから始まる日々を想起させる。
もし、過去に戻れるならやり直したい。これは明らかに
「……どうして、こうなった」
贅沢は言わない。戻るならせめて、昨日の朝くらいでいいんだが―――。
「先輩、おはようございまーす」
元気な挨拶が飛んでくる。振り向くと、白衣の裾をひらひらさせながら手を振っている女性が一人。
「よ、あかり。相変わらず元気だな」
彼女の名前は藤村あかり。大学の一年後輩。年齢に至っては四つ下である。
「元気じゃないですよ~。昨日も徹夜で大変で~」
「お前、まだ子供なんだから無理すんなよ」
「もー! 子供扱いしないでください!」
飛び跳ねながら怒るあかり。怒り方が子供であるとは言えない。というか、本当に徹夜明けか? 元気に飛び跳ねてる様にしか見えないが。
「でもお前、十六歳だろ? 飛び級で大学に入ってるとはいえ子供なのは変わらないし」
「何で私ばっかり子供扱い何ですか!? みはり先輩だって一個しか歳違わないのに!」
喚き散らすあかり。確かにあかりと同じ研究室にいる緒山みはりさんも、飛び級で大学に入学している。何かこの大学、天才多いな。
「みはりちゃんは年齢は後輩だけど、同期だから違和感ないんだよなぁ。……というか、しっかりしてるし俺より人間出来るし」
深い交友がある訳ではないが、同期の好で話した時はとても十六歳には見えなかった。確か四月が誕生日だと言っていたっけ? 今は三月だから、一ヶ月後か。
「お前は誕生日いつだっけ?」
「…十二月二十五日」
「また歳を放されるなぁ」
「どういう意味だ!!」
激昂するあかり。今にも飛びかかってきそうだ。俺は慌てて距離を取る。
「……」
俺の行動に無言になってしまった。不快に感じてしまったのだろうか。
「あー、悪い。悪気はないんだ。ただ、その……」
「……今日、研究室に来てください」
「え?」
突然の呼び出し。まるで先生に説教されるみたいな。
「どうしたんだよ。突然」
「今日も徹夜なので差し入れを持って来てください」
「…あぁ、なんだ。そういう」
額の汗を拭う。雰囲気がいつもと違うからびっくりした。本当に怒らせたのかと思った。
「分かった。絶対行くよ。じゃあ、講義始まるからまた後でな」
無理矢理その場を後にする。あかりは笑みを浮かべながら手を振っている。……やっぱり怒ってるんじゃないか?
「―――後でちゃんと謝んないとな」
悪いのは俺だし、怒らせてしまったのならちゃんと謝罪しなければ。
後になって思い返せば、この時に気付くべきだった。あかりの異変に。
引き返すならこのタイミングしかなかった。それを逃した俺の判断ミスなのだろうか。
しかし、あんな事になるなんて誰が予想できただろうか――ー。
研究室にやって来ると、残っているのはあかりだけだった。
「よ、一人か」
「……奥に先生もいます」
指さす方には仮眠室がある。あかりが先生と呼ぶのは、確か吾妻ちとせ先生の事だったか? あの人はいつもここにいるイメージはある。もしかして住んでいるのだろうか?
「お菓子とか、ジュースとか買ってきたぞ」
「夜にお菓子食べると太っちゃうんですよ?」
そう言いながら買ってきた袋を漁り、殆どのお菓子を持っていく。相変わらず発言と行動が一致しない女だ。
「そういう所だぞ」
「? よく分かりませんが、貰っておきますね。せっかくですから」
お菓子を摘みながら、パソコンに向かっている。凄まじいスピードのタイピング。いつ見ても凄いと思ってしまう。
「…すげーよな。お前って」
「突然、何ですか?」
「いやさ、飛び級で大学入学の時点でヤバいけど、誰に対しても物怖じしないし、交友関係も広いし、本当にすげぇって思う」
「……今更おだてたって、朝の事はチャラになりませんよ」
顔を真っ赤にしながら言われても説得力はないが、全く持ってその通りだ。俺もこれで無かった事にしようとは思っていない。
「あかり。朝はごめんな。揶揄っちまって」
「……先輩が揶揄ってくるのはいつもの事ですから」
俺の謝罪をどう受け止めたのかは分からないが、あかりの雰囲気はいつもと同じ。多分、許してくれたのだろう。こういう所は俺なんかより何倍も大人である。
「大人な対応、ありがとよ」
「私は大人です」
「流石にそれはダウト……とも言えない?」
ツッコミを入れようとしたが、意図せず視線が顔から首下くらいに落ちる。そこには年齢にしては育っている膨らみが、白衣を押しのけている。
「ッ!! 何処見てるんですか!? 変態!!」
「え! いや…すまん!」
胸を隠す様にして椅子ごと後退るあかり。俺はすぐさま土下座姿勢からの謝罪。
「もー! 先輩はもー! 本当にデリカシーないですね!!」
「……もうもう言ってると牛みたいだぞ」
「その言葉の真意はなんだぁ!!」
激昂するあかり。俺は頭を上げずに土下座姿勢を維持する。今のは明らかに俺が悪い。というかさっきから俺しか悪くない。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「先輩。謝れば済むって思ってません? いっつも」
「……思ってます」
出来るだけ正直に白状する。嘘は真実を織り交ぜる事で最大の威力を発揮する。思ってないなんて、一ミリも真実が含まれていないんだから直ぐにばれてしまう。
「……はぁ、分かりました。今回は許します。でも―――」
そう言いながら研究室の奥に消えていく。数分して戻ってきたあかりはペットボトルを持っていた。
「許す代わりにこれ、飲んでください」
「……何これ?」
「新しく開発した眠くならない飲物です」
サラッととんでもない物を飲ませようとしてくる。
「大丈夫です。エナジードリンクの延長線上です」
「いや、説明聞いただけだと劇薬なんですけど」
「私も飲んだから大丈夫です。問題ありません。……今のところは」
最後に小声で付け足した部分を声高らかに言ってほしい。……もしかして、それで徹夜明けでも元気なのかこいつ。
「被験者は多い方がデータが取れます」
「実験体の間違いだろ。人体実験はこの国では認められてないぞ」
「これは新薬の臨床試験です」
俺の顔に突き付けてくる。くそ。言い訳が思いつかない。何処にスマッシュを打っても返球されそうだ。
「―――分かったよ。飲めばいいんだろ。飲めば!!」
観念し、あかりからペットボトルを奪い取り勢いよく飲む。薬というだけあって味は不味いが、エナジードリンクとふかすだけあって飲めなくはない。
「……これで、私の研究、手伝えますね?」
飲み干した俺にあかりが不敵な笑みを浮かべる。研究を手伝う? それはどういう―――。
「―――まさか、最初から俺にレポートさせる気で!?」
気が付いた時にはもう遅かった。あかりはふふんと鼻を鳴らして上機嫌。最初から人材確保が目的か。
「俺を眠れなくして、文章を書くマシーンにさせる気だったのか?」
「そんな酷い事しませんよ。寧ろ先輩の為に行動してます」
いい笑顔なのが腹立たしい。俺の為? どうしたらそういう発想になる。大学の研究室で眠れなくなった大学戦士がやる事なんて、一つしかないだろうが。
「クソ……悪魔め」
「悪魔でいいですよ。……先輩、今夜は覚悟してくださいね」
まるで魔王が如く、只ならぬ威圧感を放つあかりは楽しそうに俺を指さす。
「一生忘れられない思い出。作ってあげますよ」
「……むにぁ、うん?」
何だろう。とても深く眠っていた気がする。どれくらい寝ていたのだろうか。
ここ何処だっけ? 昨日何したっけ? 確か、大学の講義が終わって研究室に行って、あかりに謝って―――。
「―――眠れなくなる薬飲んで……ん?」
そうだ。思い出した。あかりに謎の薬を服用された。効果は眠れなくなる。そういう謳い文句だった……はず。
「滅茶苦茶眠れてますけど」
寧ろ、普段より深い眠りについてますけど。どういう事なのだろうか。
確か新薬とか、データを取るとか、如何にも研究室らしいワードが飛び交っていたな。つまりこれは……失敗?
「あかりの奴、不確かなものを人に飲ませるなよ」
顔を手で押さえて溜息を吐く。まぁ、被験者とか言ってたし最初から実験段階だったのだろう。そんな危ないドリンクを飲ませた事には遺憾の意を表明したいが、本人も飲んでいると言っていたし大目に見て―――。
「……ん?」
自分の手を見る。何だ? この違和感。
言葉に表すならそうだな。手が。手がちょっと小さい?
「……いや?」
そんな事もないか? 朝だから目がぼんやりしているだけか。まだ完全に身体が覚醒できていないだけか。
ひとまず立ち上がって背伸びをしよう。寝起きは身体を動かすのが、健康への秘訣―――。
「……あれ?」
違和感。違和感だ。何だろう。言葉に表すならそうだな。目線が。目線が低い?
「……いや? いや……いや!?」
明らかに低い。絶対低い。大きく違う訳ではないが、十センチは低い気がする。
気付いてしまったら、もう違和感なんて曖昧な感覚ではいられない。おかしい。身体がおかしい。
「手が小さい。目線が低い。……下も少し、短い?」
いや、これは変わらないかも。いやいや、そんなのはどうでもいい。
身体が縮んでいる。なんだ? 何が起こっている? まだ夢の中か?
「……取りあえず、外に―――」
歩き出そうとすると、大きさが合わないズボンと靴で転んでしまった。
「……服も大きく……いや、俺が縮んでるからか」
仰向けになって、ポケットからスマホを取り出す。内カメラにして顔を確認すると、映し出された自分の顔面に驚愕する。
縮むじゃなくて、
「何がどうなって……」
何とか足りない頭で状況を整理しようとしたその時、研究室の扉が開く。一人の女性が入ってきて、仰向けに倒れている俺を上から見下ろす。
「うんうん。上手くいきましたねぇ」
満足気に頷いているのは、今最も黒幕に近いと考察されている人物。あかりだった。
「……どういう事だ?」
「どうもこうもありません。見たままです」
ニヤニヤとしながら俺を見下ろすあかり。とても腹立たしいが、今はそれどころではない。
「説明、くれるか?」
「それはいいですけど……先輩はいいんですか?」
「ん?」
「そんな格好で寝そべってて」
あかりが指を指す。その先には俺の下半身がある。ズボンはずれ落ちていて、中に履いているパンツが丸出しになっている。
「うわぁあああ!!」
思わず素っ頓狂な声が出る。慌てて立ち上がりズボンを上げるが、今度は尻餅をついてしまう。
「いってぇ……」
「申し訳ありません、先輩。一服盛らせて頂きました」
指で少しとアピールしている。一服所の騒ぎじゃなかったぞ。普通に飲み干したぞ。
「……眠くならない薬じゃなかったのか?」
「それは嘘です。先輩を油断させる為の」
堂々とした嘘宣言。よく真顔で嘘だったとか言えるな。後、油断はしてなかったぞ。ばっちり疑ってたからな。
「本当は私が開発した薬。『子供になる薬』です」
「何処の名探偵だよ」
「似てるかも知れませんね。ただ、私のは中学生くらいまでが限界ですが」
残念そうに語るあかり。論点はそこじゃないのだが、ツッコんでも意味はなさそうだ。
子供になる薬。全然効果が違うじゃないか。誤表記にも程がある。訴えれば勝てるレベルだろ。
「詐欺だ」
「効果を間違えただけですよ。ちゃんと新薬って伝えましたし、被験体とも説明しましたよね?」
笑顔で仰るあかり博士。確かに言っていたが、肝心な部分を誤魔化していたのは言い逃れ出来ないだろ。
「……そういえば、お前も飲んだって」
「嘘です」
「嘘かい!」
真顔で即答するあかり。半分は嘘じゃないか。この詐欺師め。
「嘘を吐くときは真実を織り交ぜる方がリアリティがあるんですよ。先輩?」
「……全く、その通りだよ」
身体の力が抜ける。幾ら話してもあかりに罪を認めさせる事は出来ない。諦めよう。
事実確認はもう十分だ。次はもっと核心に迫る質問をしよう。
「何の為に、こんな事を……?」
「それは……分かりませんか? 先輩」
そう言うと、一歩、また一歩と、尻餅を付いている俺に迫ってくる。
「……何だよ。どうした? 取りあえず一旦止まれ」
「どうしてですか? 先輩が聞いたんでしょ? どうしてかって」
どんどん迫ってくる。俺も後退りするが、壁に当たってしまう。もうこれ以上後ろに下がれない。咄嗟に右に退けようとするが、あかりが先に左手を伸ばし俺の行く手を阻止する。
「何してんだあかり。止めろ」
「教えてあげますよ。先輩……」
あかりと壁に挟まれ、近付いてくる顔を避ける術がない。徐々に迫るあかりの顔に、俺は汗が止まらない。
「止めろ」
「先輩……」
「止めろって……!」
「先輩の為ですよ」
「止めてくれッ!!」
気が付くと、頭を抱えてうずくまっていた。
「……」
あかりが俺から離れる。何事も無かった様に立ち上がり、堪えきれなくて漏れてきた笑いが聞こえてくる。
「先輩、それです」
「……」
「先輩って、結構モテるじゃないですか。私と居る時は自分の話したがらないけど大学では割と有名ですよ? イケメンで成績もよくて、運動もできる。女子が話しかけると、いつも爽やかに笑顔を返す。さぞおモテになりそうなのに、誰かと付き合っているという話を聞かない。告白した子もいるらしいじゃないですか。でも、全員振ってるんですよね? 学校外に彼女が居るのか。女性に興味がないのか。色々噂が飛び交っているんですが、私、気が付きました」
「……」
「私の前では隠せませんよ」
「……」
「先輩、女性恐怖症なんですね?」
―――突き付けられた真実に、喉が渇いた。これは嘘も弁解も、言い訳のしようもない。
間違いない真実に俺は打ちのめされた。
「先輩って、女性と居る時、一定の間隔を開けてるですよ。意識しているか無意識かは分かりませんけど、常に自分のテリトリーを保っている。猫みたいなもんですね」
「……よく見てらっしゃる」
「研究の基本は観察ですから。一応、それなりに優秀なもので」
不敵な笑みを浮かべている。昨日今日だけで何度こいつのこの顔を見た事だろうか。初めは朝会った時か。去り際にもこんな腹立つ顔をしていた。
「つまり朝のやり取りも、お前の仮説を実証する役に立ってたって訳か」
「あの時点で既に確信してましたけどね。出なければ今日の計画は在り得ませんよ」
まさに計画通りといった所か。見事ではあるが、それだけに分からない事もある。
「俺が女性恐怖症なのと、俺を子供にする事の因果関係が分からないんだが……」
俺の秘密を暴いたのはいい。何の目的で暴いたかは分からないが、大方俺の弱みを握りたかったとかその辺だろう。普段から揶揄ってくる俺への意趣返しは理解できる。しかし、それと俺を子供にするのに何の関係があるのだろうか。
あかりは『今日の計画は在り得ない』と言った。つまり子供にする事も、女性恐怖症を暴くことも計画の一部なのだろう。その二つが混在する計画とは一体何だ?
俺の疑問にあかりは得意げに鼻を鳴らしながら、俺を真っ直ぐに指さし、こう言い放つ。
「先輩には、中学校に通ってもらいます」
「……どうして、こうなった」
―――凡人には、天才の考えは理解できない。そういう事でファイナルアンサー?
如何でしたでしょうか。如何もクソも、オリキャラが暴れてただけじゃねーかと、避難轟轟かも知れません。申し訳ありません。二話からはちゃんと登場いたしますのでご容赦ください。
読んで頂けた方には最大の感謝を申し上げます。今後とも宜しくお願いいたします。