次回の話から二話は、動きのある話になりますのでご容赦ください。
『ゴールデンウイークは如何お過ごしでしたか? 先輩』
大型連休最終日の夜。あかりからの定期連絡を受け取る。報告する側は俺なので、本当なら俺から連絡すのが筋なのだが、あかりから毎回電話を掛けてくるので、その現状に甘えている。
取り立てて報告する事はない……とも言い切れない案件を抱えていた。天川なゆたの話だ。
「……」
『……? どうしました? 先輩』
無言の俺を訝しむあかり。俺は迷っていた。天川の存在をあかりに聞いていいものかどうか。
意図はどうあれ、あかりが天川の存在を知らないとは思えない。確実に関係性があるはずだ。しかし、ならどうして俺に存在を隠していた?
予想もつかないという結論が出ている。でも、この件が俺にとって重要かどうかは何となく予想できる。
結論、聞いても聞かなくてもどっちでもいい。どんな理由があるにせよ、俺に黙っていた事実は変わらないし、俺からの意図的な接触は求めていないのだ。
なら、これは天川側に問題があり、天川が俺に接触する必要性があっての行動だったと言う事だ。天川に俺と接触する意味があって、その行動を『おねーさん』と呼ばれる誰からから仕向けられた可能性。
そういう事なら、俺がわざわざ詮索する必要はない。きっと、天川と裏で糸を引く『誰か』の間でのやり取りに、俺が利用されたという事なのだ。つまり、天川にも俺の知らない都合があって、その過程で俺への接触が必要だった。それだけだ。
『先輩?』
「―――報告する事は特にないな」
だから、俺は天川の問題にはノータッチで行こうと思う。もし俺が必要なら、向こうから指示があるだろう。それに、これで俺があかりに天川の事を尋ねるのは、何だかあかりの計画通りって感じがして癪に障る。
『そうですか。そろそろ好きな人の一人でも出来た頃合いかと』
「いや、入学してから半月しか経ってないのに、早すぎるだろ」
こっちは何年も好きな人なんて出来てない身なんだぞ。そんな簡単に恋するかよ。
『そういえば、女の子の友達もいないんですもんね』
「……いるわ。知ってるくせに」
天川から情報を仕入れているなら、バーベキューに行ったことも把握しているはずだ。
『先輩。強がらなくていいんですよ。私は分かってますから』
「分かって無さそうに喋るな」
慈愛に満ちた声色のあかり。何処までも馬鹿にしているあかりに、少々腹が立ってきた。
『―――冗談です。友達のお名前、聞いていいですか?』
「はぁ? まぁ、いいけど。そうだな……まひろとか、もみじとか―――」
『緒山まひろ。三月六日生まれで、身長は一四四センチ。O型で体重は三十八キロ。スリーサイズは―――』
「待て待て待て!! とんでもない情報が垂れ流しになってんぞ!?」
スラスラと個人情報を暴露するあかり。
「どうしてお前がそんな情報を持ってるんだ!?」
『ちとせ先生が持っていた情報です。私にも共有してくれました』
「……何であの人がまひろの情報を握ってんだよ」
何処で仕入れているのか。というか、どうして仕入れているの。何か必要な情報なのか?
『まひろさんだけじゃないですよ? あのクラスの情報は大抵揃ってます』
「どっから仕入れてんだ……」
何だがきな臭いな。犯罪を犯してなきゃいいんだが。中学校への入学を根回ししている辺り、闇は深そうだ。
『冗談はこのくらいにして、本当にお友達が出来た様で何よりです』
「どっから何処までが冗談なのか分からない……」
少なくとも、まひろのプロフィールは口走ってたぞ。真偽は定かじゃないが。
『私が心配する事は無さそうですね』
「……何かあったらこっちから連絡する。だから大丈夫だ」
わざわざあかりを頼りにする事案はないと思うが、そう言って置かないと、必要以上に干渉されそうだ。
『分かりました。では、また次の定期連絡で』
「おう。またな」
通話を切る。俺としては、定期連絡なんて無くてもいいんじゃないかと思うが、あかりが必ず行うと言って来たので、了承した。特に断る理由もなかったし。
結局、あかりから天川について言及はなかった。あえて言わなかったのか。天川があかりと通じていないという可能性もある。もしかしたら、ちとせ先生専用のエージェントなのか? 大穴でみはりちゃんという線も。
何にせよ。俺はもうこの件には関わらない。天川が俺の情報を悪用しない限り、今の生活に何か支障が出る訳ではない。
どうでもいいじゃないか。そもそも、中学生の一人暮らしというだけで大変なのに、他人に構っている暇はない。これ以上気苦労を増やす必要はない。
もう寝よう。明日も早い。前みたいに寝坊なんてしたら大変だ。朝起きたら弁当も作らなきゃだし、誰かが起こしてくれる訳でもない。何があっても自己責任なのが、一人暮らしのメリットでもあり、デメリットでもある。
俺はいつもより早い時間に就寝する。五月病にならない様に、出来るだけ健康的な生活を心掛けなくては。
一人暮らしの病気は、想像以上にしんどいからな。
休み明けの学校は思っていた以上に気怠かった。どうにも力が入らず、ぼーっと黒板を眺める。そんな一日を過ごした。
「あきなー、帰ろうぜ」
「んー、あぁ……」
「どうしたの? 元気ない?」
心配してくれるみなと。俺は「別に」と言って立ち上がり、背伸びをする。
「休み明けは気合が入んなくてさ。特に長い休みだと」
「五月病ってやつだね。親も今朝言ってたよ」
「そんな時は気分転換が必要だよな。帰り、ゲーセンでも寄って行かないか?」
「お、いいねぇ」
ゆうたの意見に賛同する。よく考えたら、二人と帰りに寄り道するのは初めてだ。昔はよく学校帰りにゲームセンターに行っていた。寄り道の代名詞だったが、現代っ子も同じなのか。
「俺、今日日直だから、先に玄関行っててくれ」
教務室に日誌を届けたら直ぐに行くと付け足し、二人と別れて教室を出る。俺も大分中学生に慣れている。いい事なのかどうなのかは一考の余地ありだが。
数分後、一仕事を終え、ゆうたとみなとの二人と学校を出る。ついでに自販機で買ってきた飲物を二人に渡し、放課後の帰り道を歩く。
「ゲーセン、よく行くのか?」
「うーん、偶に。金がある時だけな」
「いつもは家でゲームするのが多いけど、気分転換にはちょうどいいし」
「いい考えだ。やっぱり臨場感が違うもんな。ひりつく戦場じゃないと生きているって実感が湧かない」
「……ゲーセンって、そんな場所だっけ?」
久しぶりのゲームセンターにワクワクする俺だったが、どうも二人とはテンションが違う様だった。
「もうそろそろ付くかな~。……ん?」
暫く歩き、もうすぐ目的地周辺で、向かいの道に見覚えのある顔がいた。
(あれは……まひろと、室崎さん?)
二人が並んで歩いている。二人だけなのに少し違和感がある。見てきた訳ではないが、もみじとか、他のメンバーも一緒に帰っているイメージがあった。
(まぁ、二人だけの時もあるか。考えすぎ……ん?)
またも向かいの道に見覚えのある顔が。もみじと桜花と天川が、前を歩く二人から距離を取って歩いている。途中で物陰に隠れたり、コソコソと後を付けている。
(尾行しているみたいに見える。どうして二人を……まさか!?)
その時、電流が走る。まひろと室崎の組み合わせ。一見仲良しグループの二人だが、片方が室崎なら話は違う。
彼女は、俺以上にGL好きの百合大好き女子なのだ。その彼女がまひろと一緒に下校。しかも友達がこっそりと後を付けている事情はもしかしたら、そういう事なのかもしれない。
「……気になるな」
「ん? どうしたあきな?」
思わず呟いてしまった俺に反応するゆうた。ゆうたも俺の見ている方向を見る。
「あれって……緒山と室崎。なんか後ろに三人いるけど、どういう状況なんだ?」
「分からないか? 室崎さんが女の子と二人で下校中だぞ? ゆうた。お前ならその意味が分かるはずだ」
「意味……? ……もしかして!」
状況を察したゆうた。ゴールデンウイークの一日を思い出す。俺はゆうたを沼に沈めかけ、ゆうたは今、片足が浸かっている状態だった。
「で、でも。リアルにそんな事が……」
「現実は小説よりも奇なりという言葉もある。それに、もしそうなら、見てみたくないか?」
「……ぐ、確かに」
生唾を飲み込むゆうた。大分こっち側に染まっている様子だった。
「二人共、そろそろ付く……って、どうしたの? 立ち止まって」
「……みなと、ゲーセンは中止だ。もっといい気分転換を見つけてしまった」
「どういう事?」
理解していないみなとを置いて、俺も二人の尾行に加わる。まひろと室崎を尾行する三人の後ろを更に尾行するという形だ。
急いで反対車線に向かう俺と、その後を黙って付いてくるゆうた。何が何だか分からなずに、とにかく後を付いてくるみなとの三人で尾行が始まる。
暫く尾行を続けていると、ターゲットがとある建物に入っていく。どうやらショッピングモールの様だ。これはますますデートの香りがしていきた。
もみじ率いる三人が入っていったのを確認し、俺達もショッピングモール内へ。
(冷静に考えると、中学生女子を尾行する成人男性って、ヤバいよな)
文字だけで見ると犯罪の香りがするが、絵面は異性が気になる男子中学生だから、ギリギリセーフか? いや、ゆうたやみなとだけなら未だしも、俺は確信犯なのだから、アウトだろう。
今更罪悪感が芽生えてきた。俺から言い出した手前、引くに引けない現状。こうなったら、行く末を見守るしかない。
ターゲットがとあるコーナーに入っていく。俺は離れた所に二人を待機させ、単身で近付きコーナー内を確認に行く。
場所は衣料品コーナー。二人がいるのはその中でも、女性用下着が並べられている場所だった。
「……成程」
何となく状況を察し、そそくさと二人の元へ帰還。
「どうだった?」
「……あー、うん。帰ろうか」
「え……?」
俺の回答に唖然とするゆうた。どういう事だと問い詰めてくる。
「二人が居るのは衣料品コーナーで、まぁ、濁さず言うなら、下着を買いに来たんだと思う」
「……し、下着?」
「それって……」
「パンツとか、ブラとかだろ」
俺の言葉を聞いて二人の顔が赤くなる。まぁ、中学生には少し刺激が強い話か。
「生活必需品って事だ。残念だけど、思っていた展開ではなかったな」
「……そうか。まぁ、そんなもんだよな」
「二人の会話が分からないのは僕だけか……?」
肩を落とす俺達。みなとだけは終始置いてけぼりだった。
結局、何の成果も得られぬまま、残されたのは疲労感と罪悪感。そして行き場を無くした邪な心だけだった。
反省しよう。友達のプライベートを詮索していい事は無い。中学生男子特有の好奇心で、得られたのは虚しさだけだった。
何度も言うが、ゆうたやみなとは良くても、俺は成人済みの大人なのだ。出来心でなんて言い訳が通用する時期を過ぎている。
中学生としての自分に侵され過ぎている。大人としての矜持を取り戻さなくては。
「……悪い。変な事に付き合わせちまって。お詫びに何か奢るよ」
そう言いながら、ショッピングモール内にあるファストフード店を親指で差す。
「まぁ、俺も乗り気だったし、俺は自分で払うよ。だから、二人でみなとに奢るか」
「よく分かんないけど、奢ってくれるなら遠慮しないよ」
優しい友達二人に救われる。大人として矜持の示し方が金を払う事とは、少し情けないとも思うが、真理でもあると考える。その考え方が大人としての証明と言っていい。
とにかく自分に言い訳を重ね、ファストフード店に入る。奢ると言った手前、口出しできなかったが、みなとがバーガー三つにポテトにコーラとやりたい放題してきた。もしや、いつか弁当を必要以上に食べた腹いせだったのだろうか。
アニメ最終話まで後、二日とちょっと。とんでもないです。終わったら僕の私生活も終わりレベルです。
この作品はアニメが終わっても続きますので、長く見守って頂けると幸いでございます。