エイプリルフールにはまだ早いと思うんですけど……どうしてですかねぇ。
翌日、熱はすっかり下がっていた。体調は良くなっていたが、大事を取って今日も休むことにした。
目が覚めたのはお昼過ぎ。部屋から出て一階に行くと、みはりちゃんがソファーに座ってパソコンのキーボードを叩いていた。
「あ、おはようございます。あきなさん」
「おはよう。みはりちゃん」
「体調はどうですか?」
「もう熱はないよ。寝すぎて身体が痛いくらい」
昨日は道端で倒れるくらいの重傷だったのに、今は嘘みたいに身体が軽い。
「熱以外に何か気になる所はありますか? 吐気とか、頭痛とか」
「……何か、医者みたいだな」
白衣という服装も相まって、看護師の様だが、どうにもあの研究室の関係者と思うと、胡散臭さが勝ってしまう。
「……俺が飲んだ薬って、市販の風邪薬だよな?」
「はい。そうですけど」
過去の経験で、投与された薬が合法か否か疑ってしまう。相手の言い分を鵜呑みにしたせいで、俺は今、身体が縮んで中学校に通う事になった。みはりちゃんに限って誰か自身の実験の非検体にするとは思わないが、どうしても、警戒してしまう。
テーブルに麦茶を用意してくれる。俺はそれを飲み一息ついてから、意を決して話をする。
「みはりちゃん。話、いいかな?」
「……お願いします。私も聞きたかったので」
生唾を飲む。正直、言いたくはないが、俺の正体がバレてしまった以上、説明しない訳にはいかない。
俺は話した。今日、ここに至るまでの経緯を。あかりに騙され、怪しい薬を飲み、あかりの実験の一環として中学校に通う事になった。そして、偶然にもこの身体のままみはりちゃんに出会い、今に至る。
「―――成程。そんな事が」
全てを話し終える。考え込むみはりちゃんの態度を、俺は固唾を飲んで見守る。
「あきなさん」
「……はい」
「その……何というか……大変でしたね」
「……え?」
思っていた反応と違い、思わず変な声が出てしまう。
「私からは大変言いづらいんですけど……ごめんなさい。あかりがご迷惑を」
「……それだけ?」
「え? それだけって?」
「もっとこう、罵倒されるかと……」
「しないですよ! どうしてそうなるんです!?」
どうしても何も、不可抗力だったとは言え、大学生の大人が中学校に通っているというのは、多少なりとも不快感があっても可笑しくない。特に未成年の異性に合法的? に接触する機会があるのは、倫理的にもどうかと思う。
「……例えば、俺が中学生の女の子と楽しいそうにしてたら、どうですか? 外見は中学生でも、中身は二十歳の大人ですよ?」
「それは……別にいいと思いますよ?」
「……本当ですか?」
「本当ですよ! 誰が誰と仲良くしてたって、それを咎める事なんてしないです。……犯罪じゃない限りは」
「犯罪スレスレだと思うけどなぁ」
我ながら、危険な橋を渡っている。一歩間違えれば逮捕物だ。最近は慣れていて忘れていたが、俺は大人なのだ。中学生の輪の中では異端の存在。その事を肝に銘じていなくてはならない。
―――そう。あってはならないのだ。中学生の女の子に劣情を抱くなんて。
「……」
「どうしました?」
「いや、何でもない」
ブンブン顔を振って思考を霧散させる。忘れろ、昨日の事は。あれは夢だ。
「―――はぁ。緊張したら疲れた。一安心だよ」
「安心、ですか?」
「……正直、嫌われるんじゃないかって、ドキドキしててさ」
もし、中学校に通っている事をみはりちゃんが受け入れてくれなかったら……。みはりちゃんに拒絶されたら……。そう思うと居ても立っても居られない気分だった。
怖かったのだ。みはりちゃんに嫌われる事が。女の子に、嫌われる事が。
「俺は、みはりちゃんの事……友達、だと思ってるから。友達に嫌われたらどうしようって、気が気じゃなくて……」
「あきなさん……」
言葉にすると恥ずかしいが、俺はみはりちゃんを快く思っている。大学の同期だけじゃない。対等な友達関係だと思っている。
「俺だけの勘違いかも知れないけど。それでも俺は、みはりちゃんに嫌われたくないんだ。……好きだからさ」
「……え!? ……す、好き?」
「……友人としてね? 他意はないぞ!?」
お互いに顔を真っ赤にする。危うくとんでもない告白をしてしまう所だった。いや、傍から聞いていれば、告白以外の何物でもない。
「―――とにかく! 俺はみはりちゃんが友達として好きだから! 嫌われたくないんだよ! お分かり!?」
「……は、はい。分かりました」
逆ギレの様に言い切る。俺の剣幕に気圧されてこくりと頷く。
「……あきなさん」
「……何だ」
「あきなさんって、可愛いですよね」
くすりと笑う。それがどういう意味か分からなかったが、馬鹿にされている事は伝わってくる。
「……うるせー」
だから、まともにみはりちゃんの顔が見れず、そっぽを向いて返答する。この時鏡でもあればきっと、俺の顔は耳まで赤かっただろう。
顔が熱を発してるのが分かる。出来れば風邪のせいだと言い訳したい所だ。
「―――私があきなさんを嫌いになる事なんてないですよ」
「……根拠は?」
「それは……ちょっと恥ずかしいですけど、今日のあきなさんに免じて教えます」
少し頬を赤らめ、顔を逸らす。不自然な態度に訝しむ俺。
「何か、告白するみたいな雰囲気だな」
「……当たらずも遠からず、かもですね」
一つ、咳払いをしてから、俺の目を見て話しだす。
「私、あきなさんには感謝してるんです。一年前、大学に飛び級したばかりの頃。年の離れた人達ばかりで緊張していた私に声を掛けてくれて」
「……それは」
大学一年の時。ちとせ先生の研究室でみはりちゃんと出会った。そこでちとせ先生から、みはりちゃんが飛び級で入学した十六歳と聞かされた。それを聞いて、大学内で会った時は、声を掛ける事にした。
勿論、同期なのでそれなりに仲良くなりたいとは思っていたが、他意があったし、そっちの方が本命だった。
女性恐怖症の俺からすれば、年下の、しかも高校生の年齢のみはりちゃんは話しやすかった。同世代の大学生の異性は、俺にとって恐怖の対象だったから。
「優しい人だなって思いました。いつも話しかけてくれる時は、大学に慣れたかどうか、聞いてくれましたよね。いつも、私の事気にかけてくれて、嬉しかったです」
みはりちゃんの告白に、俺は胸が締め付けられる思いだった。気に掛けていたのは、それが一番話のネタに良かったからだ。年下で緊張しないとは言え、どんな話をすればいいか分からなかったから、取っ掛かり易い話題から会話を組み立てていたのだ。
飛び級少女の心配より、自分の打算的な思いの方が強かった。だから、彼女の告白を、俺は心の底から受け止める事が出来ない。
「……これは、本当に恥ずかしいから、言いたくないんですけど。今日のあきなさんに免じて、言っちゃいます」
「……」
「少しだけ。ほんの少しだけ。あきなさんが、お兄ちゃんみたいだなって、思ってました……」
視線を逸らして、耳まで真っ赤になった顔で白状する。その様子を見ていると、こっちまで恥ずかしくなってくる。
お兄ちゃんとは、前に聞いたみはりちゃんの実兄の事だろう。まひろの兄でもあるその人に、俺を重ねていたのか。
「……みはりちゃんって、可愛いな」
「……うるさいですね」
頬を膨らませて怒っている。少し揶揄い過ぎたか。さっきの意趣返しだと思って、受け取って欲しい。
「そう言えば、前に聞いた事あったな。―――お兄さんか。俺は姉しか居ないから分からないけど、年上に安心感を抱く気持ちは、何となく分かるかも」
今となっては女性恐怖症で年上の異性は恐ろしいが、小学校の頃とかは、自分より年上の人に惹かれた。子供特有の大人への憧れみたいなものがあった。
「みはりちゃんのお兄さん。いつか会ってみたいかも」
「……えーと、そうですね。機会があったら……まぁ、いつでもあるんですけど」
ごにょごにょと何か言っている。よく聞き取れないが、いつか会える日を楽しみに待つとしよう。
「はぁー、何か腹減ったな。もう昼過ぎてるもんな」
「お昼、何か作りましょうか? お粥とか」
「俺も手伝うよ。話の続きは、飯の後で」
まだ、昨日の顛末を聞いていない。俺が緒山宅に運び込まれた経緯を。どうやらかえでさんが運んでくれたらしいが、詳しく聞いてみないとな。
「そう言えば、これからあきなさんの事、どう呼べばいいですか?」
「今まで通りでいいじゃないか?」
「藤村君……藤村って、あかりの苗字ですよね? どうしてあかりの?」
「知らん。本人に聞いてくれ」
苗字を変えたのはあかりだ。理由は聞いてない。大方、身バレ対策だとは思うが、地元から離れた大学を選んでいるので、過剰な心配だと思う。
「―――なら、あきな君って呼びますね。かえでと同じく」
「まぁ、何でもいいけど。俺はこれからも敬語で……あれ?」
「どうしたんですか?」
「いや……俺、演じなくて喋れてる?」
今更気が付く。見た目年齢が低下した状態でみはりちゃんに会った事で、恐怖症が発生していた。でも今は、普通に会話できている。大学にいた頃と同じように。
やはり、俺の気持ちしだいなのだ。後は慣れか。どっちにしても、またみはりちゃんと気負わず話せるのは嬉しい。
「……じゃあ俺は、みはりさんって呼びますね」
「うん。よろしくね、あきな君」
握手を交わし、そのままソファーから立ち上がる。二人で並んで昼食を作る様は、まさしく兄と妹。いや、姉と弟か?
ほんの少しだけ、その光景に懐かしさを感じだ。姉弟で料理した事なんて、一度しかないんだけどね。
翌日、体調も全回復し、二日ぶりの登校。土日休みと変わらない日数なのに、どうしてか久しぶりの感覚だった。
「あきなくん、大丈夫だった?」
教室に入って真っ先に声を掛けてくれたのはもみじだった。
「うん。心配かけて悪い」
「無事で良かったよ~。道で倒れてた時はどうしようかと……」
みはりちゃんから聞いた話では、現場にはまひろとかえでさん、もみじに天川が居たらしい。人が道端で倒れている所の遭遇したら怖いよな。トラウマになっても可笑しくない。
「本当にごめん。今度、お詫びするよ」
「またクッキー作る?」
「それもいいけど、今度は料理作るからさ。食べてくれるか?」
「うん! 楽しみにしてるね」
「それは、僕も食べられるです?」
もみじの後ろから、ぬっと姿を見せる天川。
「勿論だ。楽しみしててくれ」
「前に食べた焼きそばは美味しかったです。また藤村君の料理、食べたいです」
嬉しそうにしれくれる二人。今からでも気合が入る。
「お! また藤村君の料理食えるのか! あさひも食べたいぞ!」
「……私も、食べたいかな」
桜花と室崎も集まってきた。何だか大所帯になったが、どうせ作るなら、皆に食べて貰いたい。
「おし! 考えておくよ。大人数ならそれなりに準備がいるから、直ぐには無理だけどさ」
腕まくりする俺に、皆が期待を込めた眼差しを送ってくれる。いつか、パーティーみたいなものを開く事になるかもな。
「何々、飯の話?」
遅れてまひろも来る。ウキウキした様子で聞いてくる。
「……おはよ、まひろ」
「おう。体調はもういいのか?」
「……うん」
「……? 何でどっか向いてるの?」
明後日の方を向いて喋る。俺の様子を訝しむまひろ。
「なぁ。どうしてこっち見ない―――」
「おお!! ゆうた! みなと! 元気だったか! おっはー!」
友人二人に飛びかかり、無理矢理集団から抜け出る。まひろがぽかんとした様子で俺を見ていたが、気に出来る精神状態ではなかった。
「うお! 何だよあきな! お前こそ元気だったか?」
「その様子だと、風邪は治ったみたいだね。元気で良かった―――あきな?」
「……」
肩を組んで俯く俺を訝しむ二人。さっきから疑われてばかりだが、俺も俺自身を疑っていた。
(……まひろ見てると、鼓動が激しい!! 何だこれ!? どうなってんだ俺!?)
原因不明の病魔に襲われている様な。何故かまひろを前にすると、心臓の音が五月蠅くて、真顔を保っていられない。
「おい。大丈夫か? あきな?」
「まだ何処か悪いんじゃない?」
「……悪いかも知れない。頭が」
二人の肩を掴んでいるはずが、いつの間にか二人に肩を回されて運ばれている図になっていた。そのまま机まで運ばれ、人形を置く様に椅子に座らされる。
生気が抜けた状態で、ホームルームが始まる。チラチラとまひろが俺の様子を伺っていたが、窓の外を眺めるという誤魔化しで何とか乗り切る。
そして今日一日、新手の病に身体を脅かされながら過ごした。これは、まだ休息が必要かもしれない。病気はまだ治っていなかったらしい。
アニメはもう、終わったんですね……。これから先、どう生きればいいのでしょうか? 現実を受け止めきれません。
二期は来年の秋かな? それまでは生き続けなければなりませんね!
ここから少し真面目な話になります。四月からリアルの多忙につき、投稿頻度が三日に一話、一週間に二話程になります。その片鱗がもう出てしまっているのですが、楽しみにしている方には大変申し訳ありません。
これだけは宣言させて頂きたいのですが、この作品は完結まで書き続けます。アニメが終わったこれからが、寧ろ本番です。二期が始まるその日まで、活動を続けていきたいと思っております。
これからも、読んで下さっている方。応援して頂いている方。僕が力尽きるまで頑張りたいと思います。よろしくお願いします。