先輩はおしまい!   作:朋也

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 四月一発目の投稿ですが、今回は少し短いです。プロローグ的な立ち位置だと思ってください。

 章管理している訳ではありませんが、ここから第二章だと思ってもらえると、いいかも知れません。


二章
あきなと知らない感情


 女性恐怖症になって以来、俺は恋愛感情を抱いた事がない。まぁ、それ以前に誰かを好きになった事があるかと聞かれたら、はい、と即答出来る訳でもない。

 

 そのせいなのか。俺は人を好きになる事に疎い。どういう感情が、恋愛なのか。何をもってして恋心なのか。知識としては身に着けていても、それを自分の感情に当てはめる事が出来ない。

 この感情は本当に恋なのか。これが人を好きになるという事なのか。はっきりとした正解が分からないのだ。

 

 だから、この気持ちに、名前を付けられない。きっと、自分の中で認められるのは、もっと先だ。

 

 何処まで行っても、過去が追い付いてくる。経験が邪魔をする。素直に認めさせてくれない。

 

 過去の自分が、今の自分を許してくれない―――。

 

 

 

 

 

「……」

 

 授業に集中できない。気が散って仕方がない。

 黒板に注視するが、視界の端に映る後頭部が、俺の心をかき乱す。

 

 気が付くと、目線は真っ直ぐ机の前に釘付けになっていた。

 

「……」

 

 シャーペンを回しながら、ぼんやりと眺める後ろ姿。偶に頭を動かす事でたなびく髪に、俺の意識は持っていかれる。

 

「―――じゃあ、この先は…藤村さん。読んで」

 

「……へ?」

 

 名前を呼ばれて我に返る。気が付くと、教室中の視線が俺に向いていた。

 

「えーと……何処でしたっけ?」

 

「…もう。ボーっとしてちゃダメですよ」

 

 注意を受けて縮こまる。言い訳のしようもない。小さく頭を下げ、教科書で顔を隠す。

 授業が再開し、顔を隠す教科書を下げると、前の席に座る女生徒が、振り返って俺を見ている。

 

「どうした? 大丈夫かぁ?」

 

 俺を気に掛ける女生徒。小柄で愛くるしい容姿。大きな瞳には俺が映っている。

 

「……」

 

「…もしかして、また体調が悪いんじゃ―――」

 

「……大丈夫だ。問題ない」

 

「それ、大丈夫じゃない時の台詞だろ。前にもこんな事言った気がする」

 

 手で前を向く様に促す。俺の態度に納得がいっていない様だったが、黙々と板書をノートに写す様子を見せ、無理矢理納得させる。

 先程と同じ状況に戻り、暫くすると手が止まり、再び後頭部を眺めながらぼんやりとする。

 

 一日中、そんな感じで過ごす。無論、授業なんて手に付かず、代わる代わる先生に注意される一日だった。

 

 

 

 

 

「あきな~。帰ろうぜ~」

 

 放課後、机で伸びている俺の所に、ゆうたとみなとが集まってくる。

 

「…やっと放課後か」

 

「何だかお疲れだね」

 

「毎授業、先生に注意されてたけど、どうしたんだ?」

 

 不思議そうな二人だが、正直、俺の方が不思議だった。今日一日、自分の行動原理が理解できないでいた。

 

「俺にも分からん」

 

「なんだそりゃ」

 

 そう言われても、俺にも分からない。どういう訳か、一日中物事に集中できなかった。原因は何となく分かるのだが、因果関係がはっきりしない。

 

 どうして俺は、まひろの気を取られているのだろうか……。

 

「ま、何でもいいけどさ。帰ろうぜ」

 

「何処か寄って帰る?」

 

 放課後の解放感で浮かれ気分の二人。しかし、その空気に俺は水を差す。

 

「今日、用事があるから先帰るわ」

 

「用事ってなんだ?」

 

「ちょっとな。近所のスーパーで買い物」

 

「今日って特売日だっけ?」

 

「…そんな所かな」

 

 実は特に安売りでもないが、都合がいい勘違いをしてくれているので、そのままで行く。

 

「俺達も買い物手伝おうか?」

 

「あぁ、それいいかも」

 

 ゆうたの提案に乗り気のみなと。大変有り難い申し出だが、今日に限っては都合が悪い。

 

「ごめん。先約が居るんだ」

 

「先約?」

 

「今度説明するよ。またな!」

 

 すぐさま立ち上がり、誤魔化す様に教室を飛び出る。説明していると待ち合わせに遅れるので、適当にあしらう。すまん、友人二人よ。また今後買い物に付き合ってくれ。

 

 

 

「…怪しいな」

 

「そうだね」

 

「……つけるか」

 

「……それ、いいね」

 

 

 

 

 

 向かったのは近所のスーパー。入り口付近に待ち人がいた。

 

「お待たせ。待ったか?」

 

「待ってませんよ。今来た所です」

 

 白衣をたなびかせるみはりちゃん。今更だけど、いつもこの格好だよな。

 

「何で白衣なんだ?」

 

「これが一番着慣れるんです」

 

「少しはオシャレしないのか?」

 

「オシャレですよ。逆に」

 

 一回転して俺にアピールしてくる。何が逆なのか分からないが、本人が気に入っているならそれでいいか。

 

「…まぁ、デートでもあるまし。オシャレする必要もないか」

 

「そうですよ。近所のスーパーで買い物するのに、オシャレはいらないです」

 

「近所のスーパーで買い物するのに、白衣が一番ないけどなぁ」

 

 何処となくずれている彼女と、昨日買い物をする約束を取り付けていた。理由は特になかったが、折角とうか何というか。正体もバレたし、家も近所だから何となく誘ってみたという具合だ。

 

「あきなさんからお誘い。嬉しいです」

 

「そりゃどうも」

 

 スーパー内を二人、並んで歩く。買い物カートを俺が引き、みはりちゃんが商品を入れていく。

 

「あきなさんとお出かけって、実は初めてですよね」

 

「あー、そうだな」

 

 みはりちゃんと交友があった大学時代。基本は大学内だけで話す関係だったから、特に遊びに誘った事は無い。というか……。

 

「みはりちゃん、ずっと研究室に籠ってたよな。熱心に何の研究してたんだ?」

 

「えーと……、新薬の開発を……」

 

「凄いな。その歳で医療に貢献なんて」

 

 流石は飛び級で大学に入学した天才少女。レポート提出にも苦労していた俺とは大違いだ。あかりにも少しは見習ってほしいものだ。

 人を縮めて人間観察するサイコパス女に、みはりちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたい。

 

「尊敬するよ」

 

「ははは、そうですかね?」

 

 何故か引きつった笑顔をしているみはりちゃんが、印象的だった。

 

 

 

 

 暫くショッピングを楽しんでいると、不意に視界の端に見覚えのある人影が写る。

 

(…あれは)

 

 気になって見えた方を向くが、それらしい人はいない。まるで、俺の視線から外れる様に姿を消す。

 

「……」

 

 買い物を続けながら、目だけを動かして辺りを警戒する。

 

「…みはりちゃん。トイレ行ってくるから待ってて」

 

 そう言い残し、現在地から少し離れる。標的が居ると思しき地点から見えない様なポジショニングをキープし、素早い動きでターゲットの元へ。

 上手く背後を取る事に成功した。目の前には、さっきまで俺が居た場所。今はみはりちゃんが一人で待っている場所を覗き込む二人組がいる。

 

「……おい」

 

「うわ!?」

 

 二人の肩に手を置く。ビクリと震えた二人は驚きながら振り向いた。

 

「何してんだ? ゆうた。みなと」

 

「……いやー、何だろう。人間観察?」

 

「勝手に観察するな、ストーカー共」

 

 気まずそうな二人。どうして二人が俺をつけていたのだろうか。

 

「何で付いてきた?」

 

「その…暇つぶしと申しますか…」

 

「気になってつい…」

 

「気になる?」

 

「先約があるって言ってたからさ。てっきり彼女か何かかと」

 

「今日、一日様子が変だったから、デートの予定があってソワソワしてるのかと」

 

 俺の不審な言動が、二人の好奇心を煽ってしまったらしい。確かにこの歳の男は、何かにつけて恋愛に絡めたくなるよな。気持ちは分かるが、黙ってついてきたのは頂けない。

 

「全く、馬鹿どもが」

 

「「すみません」」

 

「謝るくらいなら最初からするなよな」

 

 説教をするつもりはないが、反省している様子なので、今回は許す事にする。まぁ、友達同士のじゃれ合いのレベルだと思うし、不審な行動をしていた俺にも責任はある…かもな。

 

「別に怒ってないよ。ただ、もうするなよ。俺以外の奴だと、どうなってたか分からんぞ?」

 

「あきな以外にはしないよ。それと、あきななら許してくれるかなって」

 

「そうそう、あきな優しいしな!」

 

「…ったく。そうやって罪を軽くしようってか? 浅ましい奴ら―――」

 

「あきなさん、どうかしました?」

 

 気が付くと、離れた所で待っていたはずのみはりちゃんが、買い物カートを押してこちらに合流していた。

 

「あれ? その制服…」

 

 みはりちゃんの目線が、ゆうたとみなとの方を向く。

 

「あきな『君』のお友達?」

 

「は、はい! 桜田ゆうたです!」

 

「千川みなとです! 初めまして!」

 

「私は緒山みはり。初めまして」

 

「緒山…授業参観の時に居た、緒山の親御さん?」

 

 何気ないゆうたの疑問に、みはりちゃんの顔が引きつる。

 

「…そんな歳に見えるかな?」

 

「変な格好してるし、見えなくはないんじゃないですか?」

 

「ちとせ先輩も、こんな気分だったのかな…」

 

 みはりちゃんの肩に手を置く。確かに授業参観の時のみはりちゃんは所帯じみてたし、あながち間違っていないかも。

 

「…とにかく、お前たちは帰れよ。目的は達成しただろ?」

 

「あ、あぁ、そうする」

 

 二人がここにいる理由は、俺の尾行。俺が誰かと会うと言ったから、その誰かが気になって後を追って来た。誰かの正体も割れたし、もう二人がここにいる理由はない。

 

「つかぬ事を聞くんだけど、二人はどういう関係なの?」

 

 みなとが俺とみはりちゃんを交互に見ながら聞いてくる。ゆうたも気になっている様子でソワソワしている。

 さっきも言っていたが、疑われているらしい。只ならぬ関係を。

 

「友達だぞ。ゴールデンウイークの時、まひろ達と出掛けるって言っただろ? その時知り合ってさ」

 

「…そっか。そうだよね。あはは……」

 

「? 何の話?」

 

 二人は分かってくれた様だが、みはりちゃんだけは何の話か理解していない。それはそれで都合がいい。

 

「じゃあな。俺達、帰るわ!」

 

「おう。また明日な」

 

 逃げる様に立ち去る二人の後ろ姿を見送る。まさか、尾行までして俺に恋愛事情を確かめに来るとは。若者の行動力を舐めていた。今度から気を付けないとだな。

 

「結局、何だったんですか?」

 

「…まぁ、いつか分かるんじゃない? みはりちゃんにも」

 

 

 

「あの二人、いい感じだねぇ」

 

「…何か、ちょっとドキドキするかも」

 

「……ぐぬぬッ!! あきな…アイツッ!!」

 




 この度、評価が付いた事で、総合評価がぐんと伸びました。付けて頂いた方。作品を読んで頂いている方。本当にありがとうございます!

 初投稿なので至らぬ点は多いと思います。それでも付き合ってくれる皆様に、最大限の感謝を申し上げます。

 自分本位の二次創作ではありますが、少しでも楽しく読んで頂いている方が居るのでしたら、幸いでございます。

 今後とも、よろしくお願いします!
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