先輩はおしまい!   作:朋也

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 投稿時間がまちまちですみません。三月は朝に上げていたのですが、今はリアルの関係で夕方から夜となっています。もしかしたら、今後朝に上がる事もあるかも知れません。

 もし、待っている人が居ましたら申し訳ありませんが、作者の勝手をお許しください。お願いいたします。


まひろと疑惑の関係

 あきなの様子がおかしい。風邪から復帰してから、オレへの態度に違和感がある。

 

「うーん…、私にもそう見えるなぁ」

 

 放課後、もみじと岐路に付きながら最近のあきなの態度について話し合っていた。

 

「だろ!? なーんか余所余所しいというか、何というか…」

 

 話しかけても「うん」とか「へぇ」とかしか言わないし、対面で話してても何処か視線を逸らしてオレを見ない様にしている感じだ。

 

「…もしかして、わたし嫌われてる?」

 

 何かあきなを怒らせるような事をしたか? 身に覚えはない。風邪を引いていた時に看病していたんだから、寧ろ好感度が上がっていてもおかしくはない……と、思う。

 

「気付かない内に何かしたのかな…?」

 

「嫌われてるって感じじゃないと思うよ。理由は分からないけど、そんな気がする」

 

「根拠はあるの?」

 

「勘……かな?」

 

「勘、かぁ。信憑性ないなぁ」

 

 何だか自信が無くなってくる。配慮が足りない事に自覚はあるが、同性に気を遣う必要はないと思っていた。そういうのがいけないのかな。

 

「大丈夫だよ! まひろちゃん可愛いから、嫌われる事なんてないって!」

 

「…可愛いかは関係あるのか?」

 

 何の根拠もない励ましだが、もみじの顔を見ていると、そんなに心配する必要もないかもと思えてきた。

 

「―――ありがとう、もみじ。自信出てきた」

 

「うん。……でも、あきな君の話ばっかりじゃなくて、私の―――」

 

「なーに二人でイチャイチャしてるのかなぁ?」

 

「にゃん!?」

 

 突然至近距離から聞こえてくる声に驚き、変な声が出る。振り返ると、ニヤニヤと笑みを浮かべるかえでちゃんが立っていた。

 

「おっす」

 

「脅かさないでよ! お姉ちゃん!」

 

「ごめんごめん。楽しそうにしてるからつい、ね?」

 

「もー」

 

 穂月姉妹の微笑ましいやり取りを終え、改めて三人で下校する。

 

「私はスーパーで買い物してから帰るけど、二人も来ない?」

 

「夕飯の買い物だよね? 私も行くよ。まひろちゃんも行こうよ」

 

「うん。分かった~」

 

 三人で近所スーパーに訪れる。初めてもみじに会った時の事を思い出す。あの時はもみじを男の子だと思ってたなぁ。

 

「そのせいでデートみたいだとか、変な勘違いして―――ん?」

 

 スーパーの入り口付近に佇む一人の女性に目が留まる。あの白衣は見間違うはずのもない。

 

「みはり? …誰か待ってるのか?」

 

「どうしたのまひろちゃん? 早く来ないと置いてくって……あれは、みはり?」

 

 立ち止まったオレが見ている視線の先の人物を、かえでちゃんも見つけてしまう。かえでちゃんは少し悩む素振りを見せてから、オレともみじの肩を掴んで引き寄せる。

 

「どうしたの? お姉ちゃん」

 

「誰かと待ち合わせ……もしかして、デートかな?」

 

「は!? そ、そんな訳……」

 

 三人の視線がみはりに集中する。スマホを見たり前髪を弄ったり、待ち人現れずを体現する行動の数々。

 数分様子を伺っていると、みはりが一点を見つめて笑顔になる。その先には、みはりに近付く男が一人。

 

「……あきな!? どうしてみはりと!?」

 

「あー、成程。あきな君、意外とやり手だねぇ」

 

 ふむふむと顎を触っているかえでちゃん。まさかとは思うが、あきなと買い物デートって事か!?

 いやいや、近所のスーパーでデートも何もないだろ。服装もいつもと同じだし、デートならこう、オシャレしてくるだろうし、第一、みはりに恋人なんて―――。

 

「二人が入っていったよ!?」

 

「追いかけるしかないっしょ!」

 

 ノリノリで後を付けていく穂月姉妹。オレも逡巡するが、意を決して後を追う。

 物陰に隠れながら二人を観察する。デートというよりも姉弟のお使いに近い空気感だが、二人の距離感が、最近知り合った以上の関係性に見えるのは気のせいだろうか。

 

「みはり、楽しそうだなぁ」

 

「お姉さんとあきな君、あんなに仲良かったっけ?」

 

「くッ! いつの間にあんなに……!!」

 

 恋人……とは思わないが、知り合い以上の間柄と見て取れる。完全に友達。何ならそれ以上でも不思議じゃない。

 暫く様子を見ていると、あきながみはりの傍を離れる。声は聞こえないが、雰囲気から察するにトイレに行ったのだろうか。

 

(…一体、何処であんなに仲良くなったんだ? オレのあずかり知らぬ所で交友があったのか?)

 

 以前このスーパーで出会った時が初対面だった筈だ。お互いに自己紹介をしてたはず……。

 

(そう言えば、あきな、みはりの名前知ってたよな? オレ、みはりの話したっけ?)

 

 うろ覚えなのだが、初めてみはりに会った時、みはりの名前を言っていた気がする。オレに兄妹が居る話ってしていたっけ?

 何か引っかかるが、違和感の正体を掴めない。気のせいかも知れないし、そうじゃないかも知れない。モヤモヤした感情が渦巻いていた。

 

「うーん……。何か、うん?」

 

「……おい」

 

「うひゃあ!?!?」

 

 近くから聞こえてきたあきなの声に、またしても変な声が出る。咄嗟に口を塞ぐと、かえでちゃんがオレの腕を掴んで、その場から連れ出してくれる。

 少し離れた位置から確認すると、そこにはあきなと、ゆうた君とみなと君の三人がいた。棚を挟んだ反対側から聞こえてきた声だった様だ。

 

「どうして二人が?」

 

「まひろちゃんの友達?」

 

「友達……というか、クラスメイト……かな?」

 

 煮え切らない態度に小首を傾げるかえでちゃん。オレも友達と呼んでいいのか疑問なので、出来れば追求しないでほしい。

 三人の様子を見る。あきなに二人が頭を下げている。さっきまで一緒に居なかった事と、この現状を鑑みれば、ゆうた君とみなと君も、オレ達と同じことをしていたのかも知れない。

 

(女の子と会ってる同級生を尾行。…まぁ、気持ちは分かるけど)

 

 オレ達も似たようなもんだ。好奇心と罪悪感の入り混じった複雑な感情で、二人の後をつけている。

 

「…わたし達も、見つかる前に切り上げるか」

 

「そうだね。みはりは案外、こういうの抜けてるけど、あきな君は鋭そうだし」

 

 三人で顔を見合わせ頷くと、静かにその場を離れる。最後に二人の様子を見てみると、ゆうた君とみなと君は釈放され、そそくさと離れていく二人を笑って見ている。

 

「あの二人、いい感じだねぇ」

 

「…何か、ちょっとドキドキするかも」

 

「……ぐぬぬッ!! あきな…アイツッ!!」

 

 笑い合う二人の様子に、どうしてか怒りの感情が込み上げてくる。これが、カップルに対する嫉妬心なのか。妹にちょっかい掛ける男への憤怒なのか。はたまた得体の知れない何かから来る発露なのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 結局、みはりに事実確認は出来なかった。

 妹の交友関係に干渉するなんて、兄がするのは流石にドン引きだ。過干渉というものだ。恋愛事情にもなれば特にだ。

 みはりに聞くことは出来ない。なら、情報源はもう一つなのだが、後一歩、聞く勇気が出ないでいた。

 

 翌日のお昼休み。みはりの手製弁当を食べながら、考え事にふけっていた。

 今日一日、あきなに昨日の件を聞くタイミングを伺っていたのだが、何やかんや話しかける事も出来ていない。

 

「何か悩み事?」

 

 頭を唸らせているオレに、どうしたの?と尋ねてくるみよ。

 

「大した事じゃないんだけど……いや、わたしにとっては大した事なんだけど…」

 

「もしかして、昨日の事?」

 

 もぐもぐと弁当を食べていたもみじが話に参加する。昨日?と小首を傾げるみよに、昨日の件を説明するもみじ。

 

「―――そんな事があったんだ」

 

「まひろちゃんのお姉さんとあきな君、楽しそうだったよ~」

 

「それは……由々しき事態ね」

 

 神妙のな面持ちになるみよ。何となく理由を察してしまったが、もみじはどうして?と不思議そうにしている。

 

「だってそうでしょ!? まひろちゃんのお姉さんには、もみじちゃんのお姉さんがいるのに!」

 

 がっともみじの肩を掴む。もみじは何の事か分からずタジタになっている。

 

「え!? それって何か関係あるの?」

 

「大有りよ! 二人の間に挟まるなんて……藤村君は『分かってる』はずなのに!」

 

 ヒートアップするみよ。もみじは話に付いていけない様子だ。というか、みよの思考に理解があるのはオレだけだが。

 

「みよちゃん、落ち着いて。別に付き合ってるって訳じゃないんだから」

 

「…そうなの?」

 

「……多分」

 

 自分で言ってて自信が無くなってくる。本当に二人にそういった関係はないのだろうか。知り合って間もないし流石に進展が早すぎると思うが、オレの知らない所で関係を深めている可能性は大いにある。

 

「―――これは、確かめてみるしかないわね!」

 

 ぐっと手を握り締めるみよ。気合は十分で大変頼もしいが、どうやって確認するのだろうか。

 

「ふぁんぐぅむ……藤村は博士の事が好きなのかぁ?」

 

 むしゃむしゃと昼飯を貪っているあさひが、無垢な表情で聞いてくる。

 

「そうなの。でも、二人が付き合っているか定かではない。だから確認が必要なの」

 

「なるほどなー。じゃあ、聞いてみるのが早いな!」

 

 みよの説明に何故かノリノリなあさひ。何だか話が大きくなってきている気がする。

 

「別に無理に確かめなくても…」

 

「ダメだよ、まひろちゃん! もし付き合ってたら大変だもん!」

 

「大変かなぁ…?」

 

 みはりも普段は無頓着だが、女の子なのだから彼氏が居たって不思議じゃないし……いや、それは嫌だな。オレの目の黒い内はみはりに彼氏など。

 

「……確かめるしかないッ!」

 

「本当にまひろちゃんはお姉さんが好きだよねぇ」

 

 微笑ましい物を見る目を向けてくるもみじ。それは勘違いだが、みはりを誰かに取られるのは気に食わない。その気持ちだけは、不本意ながら認めざるを得ない。

 

 面倒な兄心だが、みはりにはもう少しオレの隣に居て欲しい。そんな恥ずかしい想いが湧いて来て、顔が赤くなった。

 

 

 

 

 

 放課後のチャイムが鳴り教室内に弛緩した空気が漂い始める中、オレはそれなりに緊張していた。

 帰りの支度をしながら背後の席に気を配る。あきなはまだ席に居る。話しかけるならここしかない。

 もみじの方を見ると、もみじもオレを見ている。みよは小さくガッツポーズしてオレを鼓舞している様だ。

 

 さりげなく。あくまで世間話といった体で聞き出す。何てことはない。男同士の女の子の話題をするだけだ。向こうは男同士だとは思わないだろうけど。

 

「…なぁ、あきな」

 

「……何?」

 

 少しぶっきらぼうな返事。最近のコイツの反応に違和感を拭えないが、今はその事には目を瞑る。

 

「聞きたい事があるんだけど、いいか?」

 

「…何だ? 聞きたい事って」

 

 視線を逸らすあきな。まるで後ろめたい事があるみたいな反応だ。もしかして、多少なりともオレからの問いを想定しているのだろうか。

 

「お前さ、その……みはりと、さ」

 

「…みはり、さん?」

 

「そう。みはりと……その」

 

 付き合ってるのか。と、言えばいいだけなのだがどうしても言葉が出てこない。口にできない。

 何を躊躇っているのだろうか。一言聞けばいいだけだろうに。どうしても次の句が出てこない。

 

「……その、みはりと」

 

「……?」

 

「みはりと……!」

 

 ―――もしかしたら、怖いのかも知れない。事実が確定してしまう事が。もし、本当に付き合っていて、それが確定してしまうのが。

 

 オレはそうなった時を勝手に想像して、恐れている。みはりが俺じゃない誰かの傍に行ってしまう事に。

 

「……ッ!! お前は、みはりと―――」

 

「藤村って、博士が好きなのか?」

 

「……え?」

 

 静寂が包む。静かに声が聞こえた方を見ると、あきなの隣に立っているあさひが目に入る。あさひまいつもの笑顔であきなに問いかける。

 固唾を飲む。あきなはあさひの方に向きゆっくりと口を開く。これはオレの体感で、本当に低速だった訳ではないだろう。なのに、オレにはこの時間が、酷くゆっくりに感じられた。

 

「博士? ……あぁ、みはりさんか。好きだけど。それがどうかしたか?」

 

「そうなのか! 博士と付き合ってるのか?」

 

「え? …いや、付き合ってないよ?」

 

「そっかぁ。教えてくれてありがとな!」

 

「お、おう?」

 

 じゃあなと手を振って離れていく。あきなも何が何だかといった様子で手を振っている。

 

「……」

 

「何だったんだ? 一体。…あぁ、すまん。みはりさんが何だって?」

 

「―――ッ!! 何でもない!」

 

「うお!? 何だよ、大声出して…」

 

 びくりと驚くあきなを無視して、ずかずかとした足取りで教室で出る。オレの後をもみじ達が追いかけてくる。結局、皆でいつもの下校となった。

 

 

 

 

 

「いやー、良かったな。まひろん! 博士と付き合ってないって」

 

「…はは、そうだね」

 

 げんなりとしながら岐路に付く。あさひが背中をバシバシと叩いてくる。

 

「あさひ…少しは空気読んでよね」

 

「? どういう事だ?」

 

 もみじがあさひを引っ張りオレから遠ざける。確かに時と場合を弁えない行動だったが、正直助けられた。

 

「…いや、ありがとう。あさひ。お陰で恥ずかしい事聞くとこだったよ」

 

「何だか分かんないけど、褒められてるのか!? ならもっと褒めるがいいぞぉ!」

 

「おう! こっち来い! 撫でてやる!」

 

 両手を広げると頭から胸に突っ込んでくる。大型犬の様なあさひを撫でていると、もみじが頬を膨らませて近付いてくる。

 

「あさひを甘やかさないで!」

 

「えぇ~。少しくらい、いいじゃん」

 

「もっと撫でるがいいぞぉ~!」

 

「それなら私が撫でるから! まひろちゃん、貸して!!」

 

 そう言いながらあさひを取られる。わしゃわしゃと子供の髪を拭く様にするもみじ。髪の毛がぐちゃぐちゃになっているが、当のあさひは楽しそうなのでそれでいいか。

 

「…うん。眼福眼福」

 

「確かに癒されるけどね…」

 

「仲がいいのですね」

 

 楽しそうと目を輝かせるなゆたんと、違う意味で目を輝かせるみよ。同じ様な反応なのにどうしてこんなに意味合いが違うのだろうか。

 

「―――もしかして藤村君の態度がおかしかったのって、お姉さんが原因だったりしないかなぁ?」

 

「え? どういう事?」

 

 そう言えばと指を立てるみよ。どういう事だろうか。

 

「私は姉妹が居ないから分からないけど、漫画とかだと、友達の姉妹と内緒で仲良くしてたら何となく友達に気まずい思いをするってよくあるし。そう言うのかなって」

 

「……それは、考えた事無かったなぁ」

 

 昨日の件から、あきなとみはりがオレの知らない所で交友を深めているのは確定だ。もしかして、あきながそれに負い目を感じているというのだろうか。もしそうならとんでもなく真面目というか、不器用な奴というか……。

 

「…よく考えたらオレってあきなの事、何にも知らないな」

 

 あきなが転校してきて数ヵ月。話す様になって、家に招いて、一緒に出掛けて。何やかんやあったけど、アイツのパーソナルな情報をあまり知らない。お姉さんと二人暮らしで家事全般をしている。話に聞いた情報は幾つかあるけど、実際にお姉さんを見た事がある訳じゃない。料理をしている所は見たがそれ以上は何も。

 もう少し、あきなの人となりを知っていれば今日みたいな勘違いも、余所余所しい理由も、自然と分かっていたのだろうか。

 

 歩み寄る必要がある。友達に。

 

「……ハードル高いなぁ」

 

 自宅警備員の魂をまだ宿しているオレにとって、人間関係は鬼門だ。もみじ達のお陰で多少はマシになったけど、まだまだ人とのコミュニケーションは苦手だ。

 まぁ、いつまでもそんな事を言っていられないのかも知れない。せめて、自分に良くしてくれる人達には全力で答えないといけないだろう。もみじやかえでちゃん。あさひやみよちゃんになゆたん。みはり。……そしてあきなにも。

 

 もみじとあさひのじゃれ合いを眺めながら、オレは密かに決心した。もう少し、皆の事を知って、自分を知ってもらう努力をしようと。




 作中の時系列的には、次から七月に入ります。夏はイベントが多いので、それなりに書くことが多いかと思いますので、気長にお待ち頂ければ幸いです。

 あ、因みにあきな君は泳げません。泳ぎだけは練習してないので。
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