それどころか、一話で名前だけでもアニメ未登場のキャラの名前を記載してしまったので、若干ネタバレをしているのに注意喚起の一文を記載しておりませんでした。誠に申し訳ありません。
学校に通うのは三話からになりますので、期待して頂いている方がおりましたら、もう少しお待ちください。宜しくお願いします。
登校初日はいつも緊張していた。小、中、高、大学でさえ不安でいっぱいで、朝食べたパンに何を塗ったかすら忘れる程だった。
心配性なのは分かっているが、こればっかりは二十歳になっても変わらない。まぁ、昔よりかは幾分マシになったとは思う。
そんな成人男性でも、中学校の初日は緊張するんだな~。貴重な体験だ。
……いや、貴重というか異常な体験だ。奇跡体験だ。信じられない。どうしてこの年で中学校に通う事になる? 俺は教員免許でも取りに来たのか?
もう自分でも何が何だか分からない。流される様にここまで来て、流される様に教室の前に扉に立っている。
中から声が聞こえる。多分教師が俺の話をしている。つかつかと扉に迫ってくる。
この扉が開いたら後戻りは出来ない。今ならまだ間に合うかもしれない。全力で逃げ出せばまだ―――。
しかし世界は、俺の優柔不断な性格を認めてくれない。内側から扉があき、教師が顔を覗かせる。
「入ってきて」
にこやかに手招きしている。その先は地獄か、それとも―――。
「……うぐ」
変な唾の飲み方をしてむせそうになる。やばい。吐きそう。何もかも飲み込むしかない。逆流する液体も、この状況も。
一歩。また一歩と足を進ませ、黒板中央で止まる。数年ぶりに触るチョークで名前を書き、真っ直ぐに前を向く。
もう振り返らない。進むのは常に前。そう生きると、何年も前に決めたじゃないか。
腹をくくれ。心で考え、頭で行動しろ。俺は、出来る!
「ふ、藤村、あきなです。よろしくお願いします」
―――やっぱり帰りたい。頼むから酒を飲ませてくれ……。
あかりが何を言っているのか分からない。中学校? 通う? 俺は大学生で義務教育は終わってますが?
「……意味が分からん」
「中学校に通って、好きな人を作ってもらいます」
「ますます意味が分からん!」
声を荒げてしまう。それ程に状況が理解できない。今、何て言った? 好きな人? 作る?
「馬鹿にも分かる説明を頼む」
「先輩の女性恐怖症を克服する為に、中学校に通って、同世代の女の子を好きなってもらいます」
「それで丁寧に説明したつもりか?」
発想が飛躍し過ぎだ。一体何処からツッコめばいいんだ?
「どうして中学校に通って好きな人を作らなきゃならないんだ?」
「女性恐怖症を克服する為です」
「女性恐怖症の克服と、中学校というワードが全然結びつかないんだが?」
何がどうしてその二つが同じ文章に介在するのか。混ぜるな危険って言葉知らないのか? 科学に精通する者にあるまじきだぞ、それは。
「観察の結果、先輩の女性への距離の取り方には法則性がある事が分かりました」
「法則性?」
「はい。先輩は女性の外見や年齢で、距離の線引きを変えています」
「……」
冷静に俺を分析しているあかり。何やら雲行きが怪しくなってきやがったぜ。
「年齢が高くなる、又は女性としての身体的特徴がはっきり分かる異性程、先輩は心身共に距離を取っています。逆に年齢が若く、幼い異性には抵抗感が薄い様です」
「ロリコンみたいに言うな」
「現に大学前で小学生の女児の手を握っていました」
「犯罪者みたいに言うな!」
とんでもない誤解を招きそうな言い方だ。そのエピソードは多分、一週間くらい前に大学の関係者に会いに来ていた小学生の女の子が、目的の人が居なくて迷子になっていたのを保護しただけだ。その後はちゃんと探していた人とも会わせたし、れっきとした人助けの話だ。というか、見てたなら手伝えよ!
「先輩は大人の女性に強い拒絶反応を示す様です」
「それがどうした?」
「なので、中学生くらいの女子なら抵抗感も少なく、恋愛に発展しやすいと考えました。高校生という案もあったのですが、最近の高校生は発育のいい子が多いですし」
「説得力……無い様であるな」
目の前は十六歳は、身長は低いのに胸部は出ている。これがいわゆるロリ巨乳―――。
「ぶっ飛ばしますよ?」
「…今の体格だと、無きにしも非ずで怖い」
全力で頭を下げる。普段ならまだしも、この身体で襲われたら無傷ではすまないだろう。心身共に。
「中学生の異性と恋愛関係に発展する事で、女性恐怖症の改善を促します。なのでまずは中学校に通い、中学生生活を身体に馴染ませていく事が重要で―――」
ペラペラと話が止まらない。俺が中学校に通う事を前提の様に話が進んでいる。
「俺は行かないぞ」
「―――と、何ですか?」
「俺は行かない」
きっぱりと断る。何だか流されそうになっていたが、その手には乗らない。
「俺は大学生なんだぞ? 講義もあるし単位もある。出席しなかったら留年だ。まさか俺に大学を辞めさせようとでもしてるのか?」
だとしたらやり過ぎだ。悪ふざけの域を軽々超えている。流石のあかりも、俺の人生を左右させる程の実験を仕掛けてくるはずがない。
「……俺が悪かったよ。ごめん。正直、年下のあかりが話しやすくてつい揶揄っちまうんだ。それがお前には苦痛だったんだな」
嘘偽りなしの本心。誠意のある謝罪。こんな悪戯をさせてしまう程にあかりを追い詰めてしまったのか。
女性恐怖症になってから、自分より年上の女性や、発育のいい女性と会話するのが怖くなった。女性恐怖症になったきっかけを思い出すからだ。だから意識的に避けていて、無意識でも距離を取っていたのだろう。
でも、あかりは話しやすかった。見た目とか年齢とかが関係しているのだろうが、それでも気軽に会話できる異性は俺にとって嬉しかった。だからつい、友達感覚で揶揄ったりしてしまった。人生で異性の友達が少なかったから、勝手がわからず同性の友達と同じノリになってしまった。
あかりは女の子だ。十六歳は立派な女子なのだ。それを男友達の様に雑に扱っていれば誰だって怒る。
これから気を付けよう。心に深く刻む。後、俺が出来るのは、精一杯の謝罪だけだ。
「本当に悪かった。この埋め合わせが絶対するから。だからこんな悪ふざけは止めて、身体を元に戻して―――」
「一年は戻りませんよ?」
―――。
――――――。
―――――――――。
「……ん?」
「持続力には自信があります。本当ならもう少し伸ばせたんですが、時間が足りませんでした」
申し訳ないといった様子のあかりだが、俺には話している言葉が一ミリも頭に入ってこない。
一年戻らない? 俺は一年間、この身体のままなのか?
「……え?」
「? どうしたんですか先輩。壊れたテレビみたいに言葉が途切れ途切れですよ?」
あかりが俺の頭を叩く。電化製品を叩いて直そうとするとか、お前は本当に十六歳か? いやいや、俺は電化製品ではなく人間……そうでもなく!
「嘘……だろ? 一年このまま……? だって、大学あるし……俺、一人暮らしだし……ね?」
「ご家族への説明の手間が無くて良かったです」
余りにも的外れな事を言っているゆかりに、もはやツッコむ気力も沸かない。ただただ、目の前の絶望に打ちひしがれる。
「……留年、確定。学費が……」
「元気出してください。先輩」
地面に手をついて絶望中の俺の肩をポンポンと叩くサイコパスあかり。……こいつ、人の心とかないのか?
「終わった……俺の人生」
「終わりませんよ。寧ろ始める為の計画です」
「まぁ、そんな所だよねぇ」
突然聞こえてくる第三者の声。研究室の奥から現れたその人は、片手に瓶の飲物を持ちながらにへらと笑いながら話に参加する。
「どうだい? 実験は成功?」
「大成功です。先生の協力のお陰です」
女性は俺の方を見て、微笑みながら語り掛けてくる。
「随分、可愛らしくなったじゃないか」
「……可愛くない後輩の手によってね」
彼女は吾妻ちとせ。若き准教授で、いつも徹夜で研究に励んでいる怪しい人物。研究所のメンバーからは『先生』と呼ばれている。
「……変態どもめ」
「誉め言葉として受け取っておくよ」
ニヤリと笑う。奥のあかりは何のことかと首を傾げている。
口ぶりから察するに、この人も一枚噛んでいるのか。いや、この人がいるなら諸悪の根源の可能性すらある。
「先生、先輩の入学手続きお願いします」
「あぁ、もちろん。任せてくれ」
「大家さんへの交渉は住んでいるので、大学の方も先生にお願いする事になりますけど……」
「根回しは得意だから大丈夫だよ」
不穏な会話をする二人。何かとんでもない方向に話が進んでいる気がする。
「そう不安そうな顔しないで。大丈夫、勝手は分かってるからねぇ」
「……前科持ちか」
いつもの調子でしれっと恐ろしい事を言いやがる。この人が言うと冗談に聞こえないのが更に怖い。
どんどん二人で話が進んでいく。このままでは本当に中学校に通わされそうだ。
「……俺は行かない」
「―――もぉ、またですかぁ? 先輩」
そっぽを向きながら拒否する。俺の様子に溜息を吐くあかり。何で俺が我儘言ってるみたいな反応なんだ。
「別に身体が若返ったって、中学校に通わなきゃいけない訳じゃないだろ? 一年間家で大人しくしてるさ。貯金もそれなりにあるし、切り詰めれば何とかなる」
幸い、俺は大学に通う為にアパートでの一人暮らし。親の仕送りと浪人時代にバイトで溜めた貯金で一年くらいなら働かなくて生活できる。
「それに、流石にこんな身体にしておいて金銭面の援助がない訳ないよなぁ? この身体じゃバイトも出来ない。たまたま今バイトしてなかったからいいけど、一人暮らしの大学生がバイト無しで生きていける訳ないもんなぁ?」
「―――勿論、金銭面の援助は用意してます。お金の心配はしなくていいですけど、大学の単位はどうするんですか?」
「先生が何とかしてくれるんだろ? どんな手口でそんな事出来るのか知らないけど、この身体じゃどのみち講義に出席できないし」
子供の身体にする前に考慮しなければならない問題だ。俺には到底思いつかないし、どんな権力があればそんな事が出来るのか分からないが、身体が戻れなくて大学に通えない一年間は何かしら対策があるのだろう。見切り発車で人を若返らせたとは思えない。あかりもそこまで鬼畜じゃない……はず。
「あれ? 本当に大丈夫か? あかりのする事だぞ? 何も考えてない可能性も……?」
「とっても失礼な不安を抱いてますね。ちゃんと考えますよ。ただ……」
そい言いながらちとせ先生の方を見る。ちとせ先生は後頭部を掻きながら答える。
「あきな君には悪いけど、中学校に通う事が単位習得の条件の一つなんだよねぇ」
「……はい?」
困ったなーみたいな雰囲気でそう言うちとせ先生。全く理解できない。どうしてそうなるの?
「先輩は私の研究に協力するという形で単位を与える事を約束されています。中学校に通わないのなら研究に協力しているとは言い難く、必然的に単位も貰えないのです」
「何でそんな重要な取り決めを当の本人が知らないんだ!? どうなってるんだこの大学!?」
とんでもない理不尽が襲い掛かってくる。俺の個人情報とか平気でやり取りしているのか? 何処の市場に流れているのか教えてくれ!
「……狂ってやがる」
「失礼な。研究の一環です」
「科学の発展に犠牲はつきものだからねぇ」
この状況をおかしいと思っているのは俺だけなのか? 後、犠牲って言いやがったか。この准教授様は。
―――もう逃げ道はない。八方塞がりとはこの事か。薄々諦めてはいたが、もう抗う術が無くなった。
一年は戻らない身体。中学校に行かないと貰えない単位。この分だと生活費の支給も実験に協力していないと配給されないとか言い出しそうだ。
「……はぁ、分かったよ。もういい。疲れた」
「観念しましたか?」
手のかかる子供扱いされている。どうして俺が加害者みたいな構図になっているのか。
「素直なのが一番だからねぇ」
「お二方は素直すぎます」
もう少し自分を抑えてくれないと、被害を被るのは俺みたいな善良な一般市民なんだ。
「いやー、天才達の考える事は、とても面白いよねぇ」
「……それ、自惚れしてます?」
「いや? 私はそんな大層なもんじゃないよ」
俺からすれば十分、マッドサイエンティストだ。もしかして、他にもこんな非人道的な事をしている人がいるのか。きっと碌な奴じゃないだろう。この研究室怖すぎる。闇の組織の研究所だったのか。
「取りあえず、諸々の手続きは私達がします。先輩は後一ヶ月程でその身体の生活に慣れてください。中学校に通う事になっても、一人暮らしなのは変わらないので、私生活をこなしながらになります」
「……鬼畜すぎるけどまぁ、しょうがないか」
一人暮らしの中学生なんて、何処の世界にいるんだろうか。少なくとも現代日本とは思えない生活状況だ。ただ、だからと言って誰かと一緒に暮らすのは御免だ。関係者ならまだしも、家族に今の状況がばれたら人生の終わりである。
「……一つ確認なんだが、家族に何か吹き込んでないよな?」
「安心してください。無許可です」
「ありがとう。全く安心できない」
親指を立てながら堂々とふざけた事を言ってくる。一安心ではあるが、その行動力は常識が欠けていると言わざるを得ない。
どうやら、もう後には引けないらしい。というか、そんな選択肢は与えられていない。どうしてこうなったのかはもう考えない。それよりも、これからどうしていくかを考えるべきだ。きっと洗脳ってこんな感じで掛かっていくんだろうな。
「……もう一つ、確認したい」
「確認事項ならこの後幾らでもしますよ? 生活に不安な事があれば、何でもご相談ください」
手厚いサポートに涙が出そうだ。その気遣いを少しでも俺の心に向けてくれれば。
小首を傾げているあかり。正直、聞く意味もないかも知れないが、一応聞いておこう。
「どうして俺の女性恐怖症を直したいんだ? こんな大掛かりな事までして……」
「……それは」
言い淀むあかり。何だ。何か言いづらい事でもあるのか?
「……先輩の将来の事を思いまして、この先の人生、女性恐怖症を抱えたまま生きるのは大変生きづらいだろうと思い、こういった症状は年齢を重ねるごとに改善が難しくなっていくので、出来るだけ若いうちからリハビリをしていくのが大切で―――」
「本音は?」
「―――私の実験を正当化するのに都合が良かったからです」
やっぱりか。そんな事だろうとは思ってたが、よくもまぁ真顔でペラペラと嘘が言えるなこいつは。
「……なんか。それを聞いて安心した」
「あきな君も毒されてるねぇ」
脱力した俺に、労いの言葉を掛けてくれるちとせ先生。これが労いだと思っている俺は、確かに毒され過ぎているかも知れない。
「まぁ、頑張りたまえ。私も出来る限り協力するから」
「……一つも信用できません」
「本当さ。……人間、素直なのが一番だからねぇ」
そう言いながらあかりの方を見る。素直なのにも限度があるだろ。自分の欲望に忠実に生き過ぎだと思う。
「もう少し、オブラートに包んでくれてもいいんですよ」
「どれだけ頭が良くても、不器用なのは変わらないのさ。あかりちゃんも、君もね」
「はぁ……疲れた」
大学近くのアパートの一室にて、ベッドにうつ伏せで倒れる男が一人。一切身動きを取らない状態でかれこれ二時間以上経過している。
出来ればひと眠りしたいと思い寝っ転がっていたのだが、昨日の安眠で目が冴えまくって全く眠れない。ここに来て眠れなくなる薬の効力が発揮されているのだろうか。
「嘘だったらしいけど…」
昨日からあらゆる角度で騙されている。今なら開運の壺も勧められたら買ってしまいそうだ。もう何が嘘で何が本当なのか分からない。出来れば現状が嘘なら一番いいのだが。
仰向けになり自分の掌を見る。昨日より小さくなった手。大差がある訳ではないが、それでも違和感がある程には縮んでいる。
ベッドから起き上がり、部屋にある姿見を見る。体格も身長も、一回り程スケールダウンしている。俺は高校の時に背丈が伸びたから、中学生程の年齢だとどうしてもちんちくりんに見えてしまう。
「……なんか、何にもできない馬鹿ガキに戻った気分だな」
見た目が変わっただけで、中身は変わっていないのに、どうしても引っ張られてしまう。目の前の自分に在りし日の姿を重ねてしまう。
馬鹿で情けないく、うじうじしていた自分を―――。
「―――ん?」
唐突にスマホがなる。画面には『藤村あかり』の文字が。
「何か用か?」
『聞き忘れていた事がありまして。毎月の生活費を送る為、口座番号を教えてください』
「断る」
ピ。通話終了。詐欺の電話か。危ない危ない。壺だったら買っていた所だ。
また鳴りだすスマホ。画面には『藤村あかり』の文字が。
「何か用か?」
『どうして切るんですか!? 大切なお話中ですよ!?』
「誰が他人に口座番号を教えるんだ?」
あかりに口座番号を教えるなんて自殺行為、する訳ないだろう。
『勝手にお金使ったりしませんよ。お金に困ってないですし』
「困ったら使うってニュアンスに聞こえるのは俺だけか?」
『曲解ですよ。信じてください』
「鏡見てから出直してこい」
昨日今日だけで、あかりの信頼は地の底を貫いてマントルまで到達している。一挙手一投足も信じられない。
『……分かりました。それじゃあ毎月手渡しでいいですか?』
「……毎月十六歳の女の子から現金手渡しは犯罪の香りがするな」
『今は先輩の方が年下に見えますけどね』
つまり毎月のお小遣いを、他人の女性からもらう中学生か。更に危険な香りがしてしまう。
『じゃあ、私の口座を使ってください。そこに毎月入れときますから』
妥協案として提示されたが、他人の口座を使うのは流石に気が引ける。
「……分かった。教えるよ」
『いいんですか?』
「お前は無駄な嘘は吐かないだろ? それに、俺の口座で悪さしたら真っ先に疑われるんだから意味ないし」
『―――ありがとうございます』
素直な感謝。素直なのは大変いい事だと思うが、加減してほしいものだ。
「素直すぎるのも問題だな」
『―――私は全然素直じゃないですよ』
声のトーンが下がる。どうしたのだろうか? 何か変な事言っただろうか。
「あかり……?」
『……ごめんなさい』
「どうした? 突然」
『迷惑、でしたのよ? こんな事になって……』
唐突の謝罪に懺悔。全く持ってその通りだが、これも素直な感情と受け取っていいのだろうか。
「本当に迷惑だよ。どうしてくれるんだ。バイトも出来ないし講義も受けられない。車の免許も使わない店のポイントカードより財布の中で邪魔な存在になっちまった。頑張って勉強して入った大学で学びの機会を奪った責任は重いぞ」
『……』
「……でも、まぁ、いつまでも女の子に怯えて生きるのも嫌だったし、いい機会かもな」
『先輩……?』
確かに不便になった事も多いし、大学生の肩書もなくなって踏んだり蹴ったりだが、正直、人生で二度と訪れないチャンスでもある。
「せっかくの中学校生活。それなりに頑張ってみるよ」
『……ありがとうございます』
またしても素直な感謝。やっぱり素直なのが一番だな。
「真面目な事言ったら熱くなっちゃったよ。飲物取って来るわ」
スマホを置き台所へ。冷蔵庫を開けて中からペットボトルのお茶を取り出す。コップは洗ってあったっけ? 今朝使ったからもう一個あるはず―――。
「……あれ?」
お茶を置き、もう一度冷蔵庫を見る。何度か掛け閉めする無駄な行動を取ったのち、慌ててスマホを手に取る。
「おい! 酒は! 俺の酒!」
『? 回収しましたけど……』
「はぁ!? 何で……」
『何でって……未成年ですよね? 先輩」
当たり前の事の様に言うあかり。いやいや、もう二十歳だし、今年で二十一歳なんだから未成年じゃ―――。
「あ」
『年齢は心じゃなく、身体で判断するものですよ』
スマホを床に落とす。正論過ぎて言葉も出ない。普通に考えれば当たり前のだが、何でこんなに騙された気分になるんだ。
「酒の力にも頼れないのか……」
一人暮らしの中学生なんて、想像もつかないきっと気苦労が多くなる。全ての家事をこなしながら学校に通うなんて、中学生の範疇を超えている。そんなストレスマッハの生活で、唯一の救いだと思っていた飲酒が出来ないなんて……。
「クソ……ッ! どうしてこんな……」
慈悲はないのか。どうしてこんなに辛い事ばかり。没収した酒はどうするんだ? もしちとせ先生が美味しく頂きましたとか言い出したら、俺はあの人を一生許さない。
そもそも、人の家に簡単に侵入して物を漁っていくとか。この部屋のセキュリティはどうなってる!? 確かあかりが大家との交渉がどうとか言ってたな。入居者が突然中学生に変わっているなんてあり得ないし、事前に連絡を取り合っていたというかとか。それにしても俺のプライバシーは守られてなさすぎる。どんな交渉があれば成立する取引なのか。科学者ではなくネゴシエーターだったのかあかりは。
「確かに未成年だけど、何も没収までしなくても……」
言い終わる前に気が付く。未成年。没収。この二つのワードが、頭の中で繋がりあう。
「―――ッ!! まさか!!」
無駄のない動きで、最短時間でベッドの下に手を入れる。しかし、そこには何もなく、這いつくばって見ても、跡形もなく消えている。
「ぬわわわわぁぁぁ!!」
思わず絶叫してしまう。これが叫ばずにいられるか? まさか、あかりの野郎―――ッ!!
「人の宝物を盗んでいったな!? 海賊が!!」
『やっと喋ったと思ったら……お酒は二十歳になってからです』
「そっちじゃない! ベッドの下から宝箱を盗んだだろ!」
『……あー、そうですね。私は宝箱には興味ないんで安心してください』
お前の興味はどうでもいいんだ。無くなっているという事実が肝心なんだ。
「……戻せ。今すぐ元の身体に……ッ!」
『一年は無理ですよ。先輩』
「くっそおおおぉぉぉ!!!」
断末魔が響き渡る。翼をもがれ、地に落ちたが如くうつ伏せで倒れる。
次の日、大家からクレームが入ったのは言うまでもない。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。ここまでが実質的なプロローグとなります。次話から本格的にスタートとなります。原作お馴染みのキャラクターが登場いたしますので、読んで頂けたら幸いです。