先輩はおしまい!   作:朋也

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 本当に今更ですが、お気に入り登録が三桁になりました。皆さまありがとうごうざいます。とても嬉しいです!

 百超えてると思ってみた時、実際にはこのアカウントのお気に入りも含まれていたので九九でした。自演乙ですね……。







あきなと無知の怪物

 俺は朝が弱い。起きてから数分はぼーっと座っている時間がないと身体が起動しない。

 

 今日も今日とて寝起きは思考が停止している。むくりと起き上がり、半目で前方一点を見つめる。

 

「……痛い」

 

 身体が痛い。どうやらフローリングの上で寝ていたらしい。そのせいか体中がバキバキで非常に痛い。特に腰が。

 

 ボサボサの髪。それを更に乱すかの如く頭を掻く。数分後、ようやく立ち上がる気力が湧いた所で大きく背伸びをする。

 凝った肩を解す様に腕を回し、錆びた足に油を指す様にマッサージする。ようやくまともな思考が出来るまでに覚醒した脳を携えて、俺は辺りを見渡す。

 

 知らない天井。見慣れない部屋。隣には俺の普段寝ているベッドではない物と、そこで掛布団を抱いて寝ている少女が一人。

 

「……ん?」

 

 眠い目を擦ってベッドの上を注視する。いびきをかいて寝ている少女はとても幸せそうな寝顔をしていた。

 

「……」

 

 ぼーっとその寝顔を見つめて、考えをまとめる為に天井を見上げ、ある程度結論付けた所で正面を向く。

 

「……ここ、何処だっけ?」

 

 何も分かってない。ほぼ思考停止の結論が出た所で諦めた。そして再びベッドで眠っている子の顔を見る。

 

 普段結んでいる髪を下して、普段から無邪気にはしゃいでいるを姿想起させる寝相はとても彼女らしい。垂れている涎を服の袖で拭ってあげると、嬉しそう微笑む。

 頭を撫で、頬を突いても起きない。掛布団は断固として放さず、このままでは風邪を引いてしまわないか心配になる。

 

 獣の冬眠の様な眠り姫、桜花あさひの寝顔を眺めながら、俺はもう一度最初の疑問に立ち返る。

 

 ここ、何処だっけ?

 

 

 

 

 

 七月も中盤に差し掛かった頃、ゆうたが机に突っ伏して愚痴をこぼしていた。

 

「テスト勉強怠いー」

 

「そろそろ夏休みだから、期末テストだねぇ」

 

 下敷きをうちわ代わりにしながら仰いでいるみなと。この気怠さはテストへの憂鬱もそうだが、夏日の蒸し暑さも関係しているのだろう。

 

「エアコン利いてるんだからそんなに熱くないだろ」

 

 俺が中学生の頃はエアコンなんて教室になかった。どれだけ教務室の冷気を恨んでいた事か。

 

「暑いもんは暑いだろ。設定温度も高めだし」

 

「だらしねーなぁ」

 

 へばっているゆうた。室温が外気以下なだけ有り難いと思え。

 

「俺、今回ヤバいかもなぁ」

 

「僕も自信ない……」

 

 項垂れる二人。今から期末テストに絶望している。確かに夏休み前のテストは、これから始まる大型連休への高揚感で一層鬱陶しく感じる。

 

「まぁ、頑張るんだな」

 

「……なぁ、あきな。頼みがあるんだ」

 

 机から起き上がったゆうたの真剣な表情に、俺は大体の事情を察してしまう。

 

「……勉強、教えて欲しいのか?」

 

「おぉ! 話が早くて助かる!」

 

 目を輝かせるゆうた。露骨にテンションが上がっている。

 

「僕も。出来れば教えて欲しいかな」

 

 手を合わせてお願いしてくる。ゆうたはともかくみなともとなると、本当に不安なのだろう。

 

「はぁ……しょうがねぇな。勉強会も悪くないか」

 

 渋々承諾する。俺としては前回の雪辱を晴らす為に目指せオール百点といきたい所だが、友人二人が困っているなら協力も止む無しだ。

 

「俺は優しくないから覚悟しろ」

 

「おう!」

 

「勿論」

 

「頑張るぞぉ!」

 

 おーと三人が腕を突き上げる。意気込みやよしと言った所……ん?

 

「あれ、一人増えて……」

 

「頼んだぞぉ! 藤村!」

 

「桜花!?」

 

 両手をぐっと握り締めて気合十分の桜花。いつの間にか勉強会グループの一員になっていた。

 

「どっから湧いて出たんだ……」

 

「あさひも今回はヤバいんだ! 悪い点取ったら、当分おやつ抜きになるんだ……!」

 

「罰が小学生低学年並みだな……」

 

 ワナワナと震える桜花。大した刑罰ではない気がするが、彼女にとっては死活問題なのだろう。

 もみじの方を見ると、両手を合わせて頭を下げている。ごめんと言う事か。確かにしっかり手綱を握っていて欲しい。

 

「……まぁ、二人でも三人でもいいけどさ。明日は休みだから、勉強会は来週からでいいか?」

 

「俺は今日でもいいぜ。何ならあきなんちで泊りがけでも」

 

「それいいね。またあきなの手料理食べたいし」

 

「あのなぁ、お泊り会じゃねーんだぞ?」

 

 二人で盛り上がっているが、俺は承諾してないぞ?

 

「……別にそれでもいいけど。家でやる以上、青天井だから覚悟しろよ」

 

「おう!」

 

「勿論」

 

「頑張るぞぉ!」

 

 おーと三人が腕を突き上げる。意気込みやよしと言った所……ん?

 

「待て待て。聞いてたか桜花? 俺の家で泊りがけだぞ? 桜花は悪いけど来週から―――」

 

「あさひも藤村の家行くぞぉ! 藤村の料理食べたい!」

 

「だから勉強会だっつーの!」

 

 やる気満々、来る気満々のあさひ。もみじの方を見ると、また頭を下げてきた。おい、飼い主。この大型犬をどうにかしてくれ。

 

 結局、放課後ゆうたとみなと、あさひとお目付け役のもみじが俺の家に集合する事になった。あんまり大所帯になると部屋が狭くなるんですけど……。

 

 

 

 

 

 宿泊するゆうたとみなとは先に下校し、もみじと桜花の三人で自宅に到着する。

 

「俺は簡単に部屋の掃除するから、二人は親御さんに電話しとけよ」

 

 友達の家で勉強するだけだとしても、帰りが遅くなるなら連絡は絶対だ。特に女の子はな。

 

 電話が終わったら部屋に入ってきてくれと言い渡し、部屋の掃除をする。ゴミを片付けて、掃除機を軽く掛ける。一応シーツも変えておく。多分俺が座る事になるベッドだが。

 数分後、もみじ達が部屋に入ってきた。二人に麦茶を出して一息つく。

 

「……」

 

「どうした? キョロキョロして」

 

「いや、そう言えば前来た時はあんまり見てなかったなぁって」

 

 部屋を見渡すもみじ。前って言うと確か、お見舞いに来てくれた時……。

 

「……忘れよう。あの日の事は」

 

「?」

 

 ブンブンと頭を振る。その様子をもみじが不思議そうに見ていた。

 

「なんか、にーちゃんの部屋に似てるなぁ」

 

「桜花、兄が居るのか?」

 

「そうそう。ゆうやって言うんだよ」

 

 もみじが説明してくれる。桜花ゆうや。今年受験の高校三年生らしい。

 

「受験かぁ……懐かしいなぁ」

 

「? 前の中学校は受験だったの?」

 

 何年も前の事でもないのに、何故か遥か昔の事に感じてしまう。俺は現役では行けずに浪人した。是非ともお兄さんには現役合格して欲しいものだ。

 

「毎日勉強して、家事も手伝って、たまに遊んでくれるんだ」

 

「……なんか、応援する気が無くなってきたな」

 

「どういう事?」

 

 嬉しそうに語る桜花。俺は部屋に籠って勉強漬けで浪人したのに、そんな理想的な兄を演じながら現役合格はこの世の理不尽を感じざるを得ない。俺の中の邪な心が顔を覗かせている。

 

「藤村もねーちゃんがいるよな。仲間~」

 

「どっちかと言うともみじと仲間なんだよなぁ」

 

「私達って、兄姉のどっちかが居る仲間だね。まひろちゃんもいれば完璧だったのに」

 

 適当に駄弁っていると、ゆうたとみなとがやってきた。これで役者も揃ったし、勉強会を始められるな。

 

「と、言う訳で。勉強会を始めます。お互いに分からない所を聞いてもいいし、俺に聞いてもいい。とにかく苦手な部分は積極的に聞いていけ。勉強会の目的は、一人では行き詰まる部分の解消にある。普段は分からないから飛ばすところも、誰かに聞くことが出来る環境が複数人居る事の利点だからな」

 

 簡単な開始の合図とともに勉強会がスタートする。部屋のテーブルは四人が占拠し、俺はベッドに座って求められるのを待つスタイルだ。

 黙々と勉強する面々。しかし、その中で一人手が止まっている人物が一人。

 

「桜花、どうした?」

 

「おやつ食べたいぞ……」

 

「それは早くないか?」

 

 テキストを見ながらお腹を鳴らしている。その様子に溜息を吐くもみじ。

 

「こら、あさひ。勉強しに来たんだよ」

 

「う~、お腹すいたぞ……」

 

 テーブルに突っ伏す。更なる溜息を吐くもみじ。これじゃあ勉強どころじゃないな。

 

「……しゃあない。何か用意するからまっとれ」

 

 台所から適当にお菓子を持ってくる。クッキーにチョコレート。前にゆうた達が泊まりに来た時に貰ったポテトチップスや煎餅。

 

「ほら、好きなだけ食え」

 

「おおぉ! ありがとな!」

 

 渡すや否や袋を開けてお菓子を貪る桜花。もーと不満げな声を漏らすもみじ。

 

「あんまり甘やかさないでよね?」

 

「そんなつもりは……」

 

 ない。とは言い切れない節があった。

 桜花が妹だと知った時に少し感じていた。もし自分に妹がいたらこんな感じかなぁと。

 

「食い終わったら再開させるからさ」

 

「全く、しょうがないなぁ」

 

 渋々納得してくれる。その間も自分の事なのか分かっていない様子でお菓子を食べ続けるあさひ。

 

 数分後。それぞれに勉強を教えながら、桜花の食欲が満たされるのを待っていた。

 

「そこはさっき教えた公式を使うんだ」

 

「あぁ、成程な」

 

「あきな。ここは?」

 

「連立方程式か。それはな―――」

 

 二人に同時に教えていると、もみじが感嘆の声を漏らす。

 

「ほぇ、凄いね、あきな君」

 

「ん? あぁ、同じ数学だから何とかな」

 

 流石に違う教科を同時にとなると大変だが、中学生レベルの数学なら何とかこなせる。寧ろ、出来なければ何の為に俺が居るのか分からない。無駄に物を知っている大学生の脳なのだから。

 

「もみじも分からない所があったら聞けよ」

 

「うん、じゃあここ教えて欲しいかな」

 

 三人を相手に数学を教える。流石にしんどいと感じていた時、桜花が食った食ったーとお腹を摩っているのが見えた。

 

「満腹か?」

 

「おう、ありがとな! 藤村!」

 

「それは良かった。食べ終わったのなら、桜花も参加しろよ」

 

「でろでろ……」

 

 よく分からない効果音と共に溶ける様に倒れる桜花。

 

「べんきょう……やだ……」

 

「じゃあ何しに来たんだ?」

 

「藤村の料理を食べに……」

 

「おい。最初はやる気だったじゃないか」

 

 教室で会話に入ってきた時は気合十分といった様子だったのだが。

 

「あさひっていつもそうなんだよ。最初はやる気満々なのに、いざやりだすと拒否反応起こしちゃって」

 

「それでこんなスライムみたいになってるのか?」

 

 難儀な性格だが、その気持ちは分からんではない。俺も勉強が好きな訳ではないし、中学の一時期は全く勉強なんてしてなかった。

 

「……」

 

 ゲルみたいになっている桜花を座り直させる。

 

「ほら。起きろ桜花。分かんない所は俺が教えてやるから」

 

「うごー……」

 

 寝起きの怪獣みたいな唸り声をあげている。本当に手のかかる妹みたいだな。

 

「とにかく数学だ。皆がやってる所を……」

 

 パラパラと教科書を開いて桜花の前に置く。ここと指定した所を解かせてみるが、一向にペンが動かない。

 

「……分からんぞ」

 

「どこら辺が?」

 

「全部」

 

「……まずはそうだな。ここは連立方程式なんだが―――」

 

「れんりつ……?」

 

「……方程式は分かるか?」

 

「ほうてい……?」

 

「……おい」

 

「こっち見ないで」

 

 目が点になっている桜花。もみじを見るが目を合わせてくれない。

 

「……みなと。お前が一番出来るから、もみじの疑問にはお前が答えてくれ。二人でも分からなかったらゆうたも協力して、それでも分からなかったら俺に聞け」

 

「それはいいけど……」

 

「悪い。俺は問題児の相手するから」

 

 プスプスと頭から煙を出している桜花の隣に座る。これはかなり手が掛かりそうだ。もはや中一の数学が頭に入っているかも疑わしい。

 

 それから数時間。桜花にマンツーマンで指導した。最後の方は白目を向いていたが、俺も似たような状態だったのでお互い様としよう。

 

 

 

 

 

 勉強もひと段落したところで、時刻は六時を回っていた。そろそろ夕飯時だ。

 

「取りあえずこの辺にしておくか」

 

「ふー、疲れた」

 

 背伸びをするゆうた。想像以上に真面目に取り組んでいた。

 

「千川くん、教えてくれてありがとう」

 

「こっちこそ。テスト、お互いに頑張ろう」

 

 俺の指示通り二人で教え合っていた。そのせいか友情らしきものが芽生えている様子。

 

「……うで~。やっと終わった~」

 

 テーブルに突っ伏す桜花。大変お疲れの様子だが、やっと終わったは俺の台詞だ。

 

「さてと。二人共帰るだろ? 送ってくよ」

 

「もうそんな時間かぁ。そうだね。ほら、あさひ! 帰る―――」

 

「ご飯!! 料理!! 食べるぞ!!」

 

 もみじが起こそうとすると、それより早くガバっと起き上がる桜花。

 

「いや、もう遅いし。帰らなきゃだろ?」

 

「藤村のご飯を食べるまで帰れないぞぉ!!」

 

 がおーと口から火が出そうな勢いだ。今から作って食べ終わるとなると、八時過ぎくらいになると思うが……。

 

「……桜花はこう仰ってますが、もみじさんは?」

 

「私は大丈夫だよ。お姉ちゃんに言わないとだけど」

 

 ゆうたとみなとを見ると、二人共頷いている。同席しても構わないと。

 

「桜花はちゃんと親御さんに言ってあるのか?」

 

「今から電話する!」

 

「……分かったよ。もみじ、桜花を頼んだぞ」

 

「任せて!」

 

 もみじが桜花を連れて部屋を出ていく。数分後、戻ってきたもみじが親指をぐっと立てる。

 

「人数が増えたから買い物行かなきゃいけないんだけど、待ってられるか?」

 

「大丈夫! あさひは我慢強いからな!」

 

「どの口が言うか」

 

 なら少しは勉強も我慢して取り組んでくれ。

 

 買い出しに俺ともみじ、荷物持ちのみなと。留守番に疲労困憊のゆうたと、多分付いて来ても役に立たなそうな桜花の二グループに分かれる。

 当初より二人も増えた。何を作るかを道中もみじと相談する。みなとも会話に参加し、雑談を交えながらスーパーに向かう。

 

 今更だけど、珍しい組み合わせだな。というか、この勉強会自体が普段は絡みのないグループの交流みたいで貴重な体験だと改めて実感していた。

 

 

 

 

 

「いやー、食ったぞぉ~」

 

「あんなにお菓子食ってたのに、どんだけ食べるんだよ……」

 

「お菓子は別腹らしいよ。あさひにとっては」

 

 街灯の明かりだけでは心もとない夜道を三人で歩く。夕飯を食べ終わり、帰宅する二人を見送る事になった。

 

「まずはあさひの家に行こう」

 

「お! 対抗してもみじはうちに泊まるか!」

 

「なんの対抗心だよ」

 

 暫く歩くと桜花の家に着く。桜花がただいまーと玄関を開けると、奥から母親らしき女性がやってくる。

 

「お帰り。あ、もみじちゃん、こんばんわ~」

 

「こんばんわ。あさひのお母さん」

 

「今日はありがとね。この子に勉強教えてくれたんでしょ?」

 

「いや~、私は何もしてないですよ。あさひに勉強教えたのはあきな君で……」

 

 もみじが俺を見るのに釣られて、桜花のお母さんが俺を見る。

 

「どうも」

 

「あら、こんばんわ。まさかもみじちゃんの彼氏?」

 

「ち、違いますよッ!! 何言ってるんですかぁ!!」

 

「ふふ、冗談よ。……もしかして、この子の?」

 

 そう言いながら靴を脱いでいる桜花を見るお母さん。

 

「……友達です」

 

「そうよね。そうよね。冗談よ。ごめんね」

 

 愉快そうに笑う。取りあえず愛想笑いするが、正直どう反応したものか分からない。

 

「母さん。もみじ帰ってきたの?」

 

 そう言いながら奥から現れたのは、好青年風の男。まさか噂に聞く桜花の兄。ゆうやさんだっけ?

 

「あ、お兄さん。こんばんわ~」

 

「お、もみじろう。久しぶり」

 

 気軽な挨拶を交わす二人。顔見知りなのか。というか、もみじろうって……。

 

「もう、じろうは止めてよね」

 

「ごめんごめん。つい癖でさ」

 

「本当よ。女の子に失礼でしょ」

 

 もみじと母親に責められてタジタジのゆうやさん。何となくだが家庭内での力関係が分かった気がする。

 

「ん? そちらの方はもしかして、もみじの彼氏?」

 

「それは桜花家の鉄板ネタなのか?」

 

 どうして男女が一緒に居ると只ならぬ関係を疑うのか。普通に友達でいいだろうに。

 

「違いますよ。お兄さん」

 

「ま、まさか! あさひのッ!」

 

「……そうです」

 

「え……?」

 

「嘘だからね」

 

 適当に相槌を打つと、もみじが注釈してくれる。

 

「だ、だよな~。びっくりした~!」

 

 はははと笑うゆうやさん。まぁ、妹に彼氏がいたらびっくりするよな。俺も姉の彼氏見た時は驚いたし。

 

「……そろそろお暇しようか。もみじも早く帰らないとだろ?」

 

「そうだね。それじゃあ、また今度」

 

「今度は遊びに来てね」

 

「待ってるぞ~」

 

 母親とゆうやさんが手を振っている。そして桜花が元気に手を上げている。

 

「もみじ~、藤村~! またな~!」

 

「また来週ね」

 

「予習忘れんなよ~」

 

 最後に念押しすると、げんなりした顔で項垂れた。分かりやすい子だな、本当に。

 

 

 

 

 

「あさひとは幼馴染みなんだよ」

 

 もみじの家に向かう道中。もみじと桜花の間柄を教えてくれる。

 

「成程。だからお兄さんとも気安かったのか」

 

「昔から知ってるからね~」

 

「もみじろうってなんだ?」

 

「それはまぁ、なんというか……昔のあだ名みたいなものかな」

 

 何やら言いづらそうにしている。あだ名なのは何となく分かるが、じろうという部分はどういう経緯で付いたのだろうか。あまり女の子に付けるあだ名ではないと思うが。

 

 暫く歩いていると、もみじの住むマンションに到着する。

 

「ありがとう。送ってくれて」

 

「暗い所を女の子一人で歩くのは危ないからなぁ」

 

「女の子……そうだよね。それが普通だよ。全くあさひの奴は……」

 

 ブツブツ何か言っている。よく聞き取れないが怒っている様だ。

 

「じゃあ、俺は帰るよ。アイツら待たせてるし」

 

「まだ勉強するの?」

 

「まぁな。今日は徹底的に叩き込んでやんよ」

 

「……お手柔らかにね」

 

 二人の身を案じている様子のもみじ。その気持ちだけ伝えておいてやろう。

 

「出来れば桜花にももう少し教えたかったところだが」

 

 せっかく教えたのだからいい点を取って欲しい。今のままではギリギリといった所だろうな。

 

「それなら、来週もあさひに付き合ってあげてよ」

 

「……そうだな。考えておくよ」

 

「あさひの事、よろしくね。何だかんだ言っても、真面目でいい子だから」

 

 そう言い残し、手を振って別れる。普段は気の置けないやり取りをしているとは思っていたが、幼馴染みだったのなら納得だ。

 

「真面目でいい子ねぇ。そりゃ、お前もだと思うぞ」

 

 こういう台詞を面と向かって言えれば格好いいのかも知れない。そう思いながら岐路に付く。

 

 ……いや、ないな。流石にすかし過ぎだ。似合わないよ、俺には。




 今日はおにまいDVDの発売日です。届いたら擦り切れるくらい複製原画を見たいですね。勿論、書下ろし漫画も擦り切れる程読みますし、本編ディスクも擦り切れる程見るんですけど。

 僕が三人欲しいです。影分身とか出来ないですかね? 完全にオレオレオ状態です。

 今回も次回に続きます。後編も楽しみして頂ければ幸いです。
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