今回は後語り的な内容と、これからの弾みをつける話でございます。まぁ、分岐点みたいなものですね。
「いやー、買った買ったー」
「……目が死んでるぞ」
帰り道。買い物袋を天に掲げる。中には夏服がわんさか。ついで日用品も何点か購入し、これからの夏休みの準備は万全だ。右手には自分用。左手にはまひろに買った服が入った袋を引っ提げている。
「俺の服の倍くらいの値段するんだよな……」
「買って貰ったものだから有難く受け取っておくぞ」
左手の袋をため息交じりに見る。自分で買ってしまったのが悪いのは分かっているが、余りの値段格差に何とも言えない気持ちになる。
考えなしに買い過ぎてしまった。でも、まひろが可愛いのが悪い所もあってだな―――。
「……」
「ん? どうした?」
振り返るまひろ。立ち止まった俺を不思議そうに見つめる。
「今日はありがとな。楽しかった」
「な、何だよ突然……」
動揺している様子のまひろ。心なしか頬が赤く見える。
「いやさ。今言わないと、素直になれない気がして」
「何だよそれ」
訝しむまひろに、俺は不格好に笑う。
「―――デート、楽しかったぜ!」
「はいはい。そりゃどうも」
ひらひらと手を振ってあしらわれる。流石に慣れてきた様だ。
「面白くない反応だなぁ」
「どんなの期待してたんだよ……」
「そりゃ、ね?」
溜息を吐くまひろ。俺としては、赤面して全力で否定してくれる展開を予想していたのだが……。
「―――じゃあ、こんなのはどうだ?」
下らない妄想をしていると、不意にまひろが近付いて来て俺の片腕を掴み、そのまま両腕を絡めてくる。
「また行こうね。あきな君」
上目づかいの可愛らしく微笑む。数秒間その笑顔と見つめ合い、先にギブアップしたのはまひろだった。
「―――ッ!! はい! 終わり!!」
凄まじい勢いで俺から離れて、背を向けながら頬に手を当てて悶絶している。かなり恥ずかしかった様だ。
荒い息を吐いて呼吸を整えたまひろ。改めて振り返り、俺に思い切り指を指す。
「か、勘違いするなよッ!? 別に好きだからした訳じゃないんだからな!? お前が面白くないとか言うから仕方なくだかんな!?」
「……それ、何てツンデレ?」
頬を真っ赤に染めながら叫ぶまひろ。夕陽と相まって茹でタコの様に顔を蒸気させている。
「とにかくッ!! 今のは違うからな~!!」
そう言い残し走り去るまひろ。その後ろ姿を眺めながら、俺は考えていた。
今日の趣旨は、まひろとデートして自分の気持ちをはっきりさせる事だ。俺がまひろの抱いている『何か』に名前を付ける為のデート。建前上は友人同士の買い物だが、真意は違う所にある。
そして今、選択を迫られている。今日一日、まひろとデートして俺の気持ちはどうなったのだろうか? 得体の知れない『何か』に、形を与える事が出来ただろうか?
走り去ったまひろが立ち止まり、振り返る。斜め下を向いた後、こちらに向かってべーと舌を出す。意味合いとしては『バーカ!』と言った所か。
その仕草に、表情に、俺の心は揺れ動く。さざ波はやがて大きな波に変わり、水しぶきを上げて寄せては返す。
俺は、まひろが―――。
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だから、まだ。
「―――また行こうな。まひろ」
「ふん! 気が向いたらな!」
再び並んで歩き出す。今日の出来事とか、買ったゲームの話とか。他愛のない会話をしながら岐路に付く。
並んで歩く二人の後ろ姿は、兄妹にも、友達にも、カップルにも見えただろう。どれにしても、気の置けない関係なのは間違いない。そんな勘違いに気付けぬままに。
七月の終わり。明日からの夏休みだ。
「夏休み中、どっか遊びに行かね?」
「いいね。何処行く?」
放課後。ゆうたとみなとの二人と並んで下校する。話題は夏休み中の予定について。
「夏と言ったら海だよな! 行こうぜ海」
「海パン買わんとな」
暫く海なんて行ってないし、水着は家にないから買わないとだが……。
「……金ねーな」
「金欠なの?」
「まぁ、そんな所」
財布の中身を思い出して項垂れる。殆ど自分のせいなのでどうしようもないが、出来ればお金を補充する手段を考えたい。
「バイトとか……ねぇよなぁ」
高校の時の夏休みはバイトをしていた。大学でもバイトはしていたし、浪人中も働いていた。俺の人生の半分は労働の歴史なのだが、中学生の身体ではそれも無理か。
「中学生に出来るバイトって何かあるのか?」
「新聞配達とか……今もあるか知らんけど」
昔はあったのだが、今もあるのだろうか。無くなる事は無いと思うんだけど。
「つっても、中学生は十五歳以上じゃないとバイト出来ないはずだしな……」
今は中学二年生。つまり最高でも十四歳だ。正直、この身体が何歳なのかは定かじゃないが。
そもそも、公的に認められた身分なのか? 保険証とかもこの身体では持ってないし、病気とかになっても病院に行けないのでは?
自分がどれだけ危うい存在かを再確認する。下手に動き回るより、あかりに相談するのが安定か。
「……なんか、気が重くなってきたな」
「大丈夫か?」
げんなりしていると、ゆうたが心配してくれる。なんと優しい友人だろうか。
「―――取りあえず、後で連絡するわ」
夏休みの予定はひとまず保留とし、自宅にて連絡を取り合って決める方向に。別れの挨拶をして解散する。
自宅に到着する。相変わらず蒸し暑い室内だ。
「クーラー、クーラーっと」
部屋を探しながら、これまでの自分を振り返る。
あかりに謎の薬を飲まされて身体が縮み、中学校に通う事になった。あかりの真意は分からないが、俺は長年苦しめられている女性恐怖症の克服を目的としている。
最初はどうなる事かと思っていたが、最近は同級生なら大体は自然体で話せる様になって、俺としては良い兆しが見えている。初めてあかりに聞かされた時は馬鹿な提案だと思ったが、同世代の異性(正確には違う)と接するのは、女性恐怖症の克服に一役買っているかも知れない。あんなんでも立派な科学者で、言う事はまともと言う事か。
中学生として過ごして約四ヶ月。不安なスタートだった当初からすれば、かなり馴染んできて経過は良好である。自分にこんなにも適応力があるとは思わなかった。今では何の違和感もなくこの生活を受け入れている自分が居る。
これから夏休みが始まる。アルバイトの出来ない夏休みとは一体何をすればいいのだろうか。そもそも、中学生の夏休みって何してたっけ? 何年も前の記憶を引っ張り出すが、まともな思い出がない。
リモコンが枕元に置いてある。それを手に取りエアコンに向ける。
「―――思い出作りも悪くない、か」
学生の夏休みと言えば青春だ。青春と言えば仲間たちと過ごす掛けがえのない一瞬。それを積み重ねてアルバムにする。青春という名のアルバムに。
俺も、そんな柄にもない事をするのもいいか。今まで縁のない話だと思っていたが、今の俺にはそれを可能に出来る友達がいる。彼彼女達と思い出作りも悪くない―――。
「……?」
ポチ。ポチ。ポチ。何度もボタンを押すが、うんともすんとも言わない。向けられたリモコンが空しく点灯するだけだ。
「……」
色々な角度から試し、目の前までリモコンを持っていき押し、コードを引っこ抜いて指し直すが、エアコンは依然として沈黙を続けている。
七月の終わり。明日には夏休みが始まる今日。俺はまさに青春を味わっていた。
青春と言えば仲間だ。そして付き物なのはハプニング。それを仲間と乗り越える事で、思い出一ページとなる。だが、例え仲間とでなくとも、ハプニングに見舞われればそれは青春で思い出の一ページなのではないだろうか。例えそれが、生命に甚大な影響を及ぼす事になろうとも。
窓を開けても風邪一つ吹かない蒸し暑い部屋で一人。俺は無気力にベッドに寝転がる。いや、倒れ込むと言った方が正しいか。
夏。これから更に勢いを増す猛暑を前に、エアコンが壊れた部屋で俺は死体の様に眠るのみ……。
とうとう夏休みが始まります。あきな君の運命や如何にといった所で次回に続きます。
……まぁ、何となく予想ついちゃいますよね。不得手で申し訳ないです。