先輩はおしまい!   作:朋也

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 以前、五千字で収めると言っていたな? あれは嘘だ! 収まる訳なかったぜ!

 ……すみません。作者の技量次第で文字数は上下します。お許しを。







あきなと同盟で違う物

 日差しが照り付ける八月の始め。うだるような暑さを尻目に、俺は図書館で宿題をしていた。

 

 夏休みの宿題は早めに終わらせる派の俺は、こうして毎日せっせと宿題を終わらせていく。そのおかけで、夏休みが始まってから三日で残す課題は読書感想文と自由研究だけになった。

 そもそも中学生の勉学課題など、大学生の俺にとっては造作もない。量が多いのがネックだったが、無心で一日中図書館に缶詰めになる事で撲滅した。

 

 今日も今日とて図書館で勉強……と言っても、残す課題の一つである読書感想文制作の為、今日は本を選びに来た。

 本棚を回り本を物色する。正直、小説を嗜まない俺はどの本を読めばいいか分からない。課題は確か、純文学が推奨だったな。

 

「……夏目漱石。宮沢賢治。……定番はこころとか、銀河鉄道の夜とか?」

 

 覚えている純文学作品を何冊か手に取って、長机に備えてある椅子に座る。ペラペラとページを捲り、良さそうなのを厳選する。

 

「授業でちょっと触れてるし、こころかなぁ」

 

 一冊に定めて読書を開始する。普段は読まない本を課題の為に触れるのは夏休みの宿題の醍醐味だ。大学でも研究の為に適当なレポートを読むことはあるが、あれは大層苦痛に感じる。何が違うのだろうか? やはり作品としての完成度だろうか。

 

 読書を開始してから一時間程経過。流石に目が疲れてきた。少し外の風を吸ってこよう。

 冷房に身体を摩りながら出入口に向かうと、見知った顔が入ってきた。

 

「あれ? 室崎さん?」

 

「あ、藤村君。偶然~」

 

 手提げ袋を肩から下げた室崎が微笑みながら挨拶してくれる。

 

「室崎さんも宿題?」

 

「うん。読書感想文の本選ぼうと思って」

 

 ショルダーバッグを見せながら言うと、室崎も手提げ袋を突き出して応じる。目的は同じで、読書感想文の為の本探し。

 

「何か決まってるの?」

 

「何冊か目星は付けてあるよ。ちょっと読んでみて、気に入った本にしようかな~って」

 

「そっか。俺も読んでる最中なんだよ。さっきまで読んでたんだけど、ちょっと休憩」

 

 出入口を指さす。一旦その場で別れ、俺は図書館を出て蒸し暑い外へ。寒暖差で眩暈がしそうになるが、夏の日差しが冷房で冷えた身体を解してくれる。

 

「あっちぃな。……チっ、こりゃ夜も暑そうだな」

 

 迫る熱帯夜に舌打ちする。俺は自販機で買ったジュースを飲み干し、暑さにだらけながら図書館へ戻る。

 中に入り少し見渡すと、長机の隅で一人読書をしている室崎を発見する。近くまで行くと、室崎が隣に座ってと促してくれる。

 

「お邪魔します」

 

「どうぞどうぞ~」

 

 椅子に腰を下ろす。隣には何冊が積み上がった本と、綺麗に伸びた背筋で読書する室崎がいる。

 

「何読んでるの?」

 

「えっとね―――」

 

 表紙を見せてくれる。俺の知らない本だ。

 

「藤村君は?」

 

「これ」

 

 そう言いながら見せる。なるほど~と反応する室崎。

 

「授業で少し読んだよね」

 

「そうそう。何となくあらすじ知ってる方が書きやすいかなって」

 

 後は頭に思い浮かんだ純文学作品がこれくらいだったという情けない理由もある。

 

「室崎はどうしてそれを?」

 

「小学校の頃、少し読んだ事があってね。この機会に読んでみるのもアリかなって」

 

 とても真っ当な理由。消去法的に選んだ俺とは比べものにならない。

 

「……くッ! 中学生の方が余程しっかりしている……!!」

 

 胸を抑えて苦しむ俺を小首を傾げて見ている室崎。

 何とか立ち直った俺も読書を再開する。暫く二人並んで読書を進める。ひんやりとした室内は快適で、集中して読書を楽しめた。

 

「―――ふぅ。休憩」

 

「そうね。私も疲れちゃった」

 

 また一時間程読み進めた所で一旦休憩を挟む。目の凝りを解し、椅子に座りながら背伸びをする。

 

「もう直ぐお昼だ。私、この本借りて帰るね」

 

「おー、もうそんな時間か。昼飯食いに行くか? 奢るぞ?」

 

「お母さんがお昼ご飯作ってるから、ごめんね?」

 

 手を合わせれ謝る室崎。大丈夫大丈夫と手を左右に振る。

 

「また今度誘ってくれたら……」

 

「おう。俺はいつでもいいぞ」

 

 本を抱えた室崎に手を振って別れる。残された図書館で、また俺は目の前の本を読み進める。

 

「後何日、もつかな……」

 

 ページを捲りながら、迫るタイムリミットに怯える日々を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 翌日も俺は開館ととも早朝から図書館に入り浸っていた。

 

 長机の端っこで、本を読みながら時々睡眠を挟む。図書館で寝るのはマナー違反だとは分かっているが、襲い掛かる睡魔に抗えなかった。

 

「―――藤村君」

 

「……んあ?」

 

 誰かに呼ばれて目を覚ます。顔を上げると、耳元で囁く様に呼びかけていた室崎と目が合う。

 

「大丈夫?」

 

「―――室崎? どうして……」

 

 幻覚かと思いしばしばする目を擦ってみるが、目の前で心配そうに見つめている室崎は消えない。

 

「体調悪いの?」

 

「……いや、そういう訳じゃないんだけど」

 

 ぼんやりと辺りを見渡す。そこは最近見慣れた図書館で、目の前には読書感想文用の本が一冊。

 スマホで時間を確認すると、お昼も過ぎて午後二時。最後の記憶でもう直ぐ昼飯だと思ったから、二時間程寝ていたのか。

 

「腹減ったな」

 

「お昼まだなの?」

 

「どうやら寝過ごしたみたいで……」

 

 空腹を訴える様に腹が鳴る。そう言えば朝も食べていないんだった。

 

「室崎さんはどうして図書館に?」

 

 昨日来ていた時は俺と同じで読書感想文の題材を探していたみたいだが。

 

「お勉強しようと思って。図書館の方が家より集中できるし。藤村君もその口かな?」

 

「いや。俺は避難民」

 

「避難民?」

 

 小首を傾げる室崎。俺は差し込む日差しに文句があると言わんばかりに窓を睨む。

 

「家のエアコンが壊れたから、図書館に入り浸ってんの」

 

「……え~!?」

 

 ここ数日。夏休みが始まってから五日間。俺はずっと図書館に居た。その理由は紛れもなく、家のエアコンが壊れたからに他ならない。

 

「家に居ると暑さで死にそうだから、無料で長時間居れて冷房完備の図書館にいるわけよ」

 

 勿論、何の目的もなく居座る訳にはいかないので、夏休みの課題を持ち込んで勉学に励んでいた。

 その課題も、残す所二つとなり、そろそろ図書館に滞在する理由が無くなってきていた。

 

「どうして寝てたの?」

 

「昨日、部屋が暑すぎて寝れなかったせいで寝不足なんだよ」

 

 三十度近い蒸し暑い部屋では寝れず、結果睡眠不足でこうして寝落ちしていた。

 

「三日前はゆうたの家に泊まって、一昨日はみなとの家。昨日は自室でって思ったんだけど、想像以上に暑くてダメだった」

 

 夏休み前日にエアコンが故障し、その日の夜は地獄だった。流石にこの部屋での睡眠は無理だと判断し、大急ぎでゆうた達に連絡。事情を説明して二日間は友達二人の家を梯子する事でなんとか凌いだが、泊まる宛てが無くなって昨日、意を決して自室で就寝したが無理だった。

 

「はぁ……。腹減ったし一旦帰るかぁ。でも、家に何もないんだよなぁ。作り置きもないし……」

 

 夏休みに入ってからは作り置きを食べていがそれも無くなり、もう料理するしかない。このクソ暑い中料理をするのは想像するだけで地獄だ。一応、火を使わないレシピもあるが、そうなると食材がないので買いに行かなくてはならない。この炎天下の中、買い物に行くのも面倒だ。本当なら、買い物の往復で熱せられた身体を冷やせる予定だったのだ。夏休み前の予定では。

 

「はぁ……」

 

「……よかったら、ウチくる?」

 

「え?」

 

 突然の提案に驚く。室崎の家にか?

 

「お泊りは流石に無理だけど、夜まで居るだけなら。それにお腹減ってるなら、私が中に作るよ!」

 

「それは有難いけど……悪くないか?」

 

「バーベキューの時のお礼だよ。それに、私達は『同志』でしょ?」

 

 同志。その言葉で通じ合える者達。それが俺と室崎の間柄だった。

 

「―――それなら、お願いしようかな」

 

「うん! 任せて!」

 

 腕まくりをする室崎。場所を提供してもらう上に、食事も用意してくれるとは。天使かこの子は。

 

「……でも、一旦家には戻るよ」

 

「え? どうして?」

 

「お世話になりっぱなしは性に合わないからな。室崎さんが気に入りそうなやつ、何冊か持ってくる」

 

「~~~ッ!! 本当にぃ!?」

 

 目を輝かせている。それくらいでいいのならお安い御用だ。俺のコレクションを何点か譲渡するのも吝かではない。

 

 ウキウキの室崎と図書館を出る。うだるような暑さも、室崎と談笑しながらの歩くと不思議と忘れられた。やっぱり、同じ趣味の友達は得難い存在だ。

 

 

 

 

 

 異性の部屋というのは何度でも幾つになっても緊張する。大学生の精神を宿した中学生である俺は、それをひしひしと感じていた。

 

 室崎の家に訪れ、部屋に案内される。内装は綺麗で、配色やら小物等が女の子らしさを醸し出している。

 出来るだけ落ち着いて座るが、どうしても視線がきょろきょろしてしまう。

 

「そんなに見られると恥ずかしいなぁ~」

 

「わ、悪い! 緊張しててさ……」

 

 恥ずかしながら、女の子の部屋に緊張しているのだ。情けない話ではあるが、異性の部屋に入る経験が少ないもので、どうしても気になってしまう。

 

「まひろの部屋とは大違いだな」

 

「まひろちゃんの部屋って、お兄さんが使ってた部屋なんだよね?」

 

「そう言えばそんな事言ってたな。まぁ、あの部屋の趣味が本人のものな訳ないしな」

 

 壁に貼られていたポスターとか、本棚の漫画本とか。如何にも男子御用達みたいなラインナップだったし。趣味は人それぞれではあるし、何となくだがまひろが見ていても不思議じゃないと最近は思い出している。

 

「好きなものに嘘は吐けないよな」

 

「そうなの! 好きなのは好き! だから、ね?」

 

 目を輝かせながら近づいてくる。その勢いと距離感に若干引きながらも、俺は持ってきた本を渡す。

 

「室崎が好きそうなのと、俺のオススメが入ってるから」

 

「ありがとうー!! では早速―――」

 

 鼻息を荒くしながら渡された本を開く室崎。その様子を見守りながら、俺も持ってきた本を読む。……冷静になると、女の子の部屋に来て二人で百合本を読んでるのってどうなんだ?

 

 ―――数十分後。お互いの本を回しながら本を読み終わる。それはまさしく夏休みに友達と自宅で遊んでいる時の光景だった。

 

「―――ん~~~!! いい! 凄くいい~!!」

 

 満面の笑みで本を抱きしめている。気に入ってくれた様で何よりだ。

 

「お気に召したかな?」

 

「最高!! 私も買おうかな?」

 

「だよな! それは特にオススメでさ~。年上の主人公と年上のお姉さんの関係性が良いんだよなぁ。でも、お姉さんの妹も絡んできて―――」

 

「……」

 

 思わず興奮して語ってしまった俺を何処か訝しむ目線で見ている室崎。

 

「あ、悪い。一人で盛り上がっちゃって」

 

「……あの、藤村君!」

 

「は、はい!?」

 

 少し語気が強い室崎。その迫力に背筋が伸びる。

 

「藤村君の聞きたい事があるの」

 

「聞きたい事?」

 

「藤村君はその……好きな人とか、いる?」

 

「……え?」

 

 少し恥ずかしそうにもじもじしている室崎。

 

「えっと……いないよ?」

 

「目が泳いでるよ?」

 

 鋭い指摘に動揺する俺。いや、決して図星な訳ではなく、この状況に困惑しているだけなのだ。

 室崎の真意は測りかねるが、こんな質問をしてくるのは当然ながら俺に思い人がいるか確認する為だ。そして、異性に好きな人がいるか確認する理由は限られる。そう。丁度今手に持っている漫画本基準で言えばこうだ。

 

 相手の事が好きだから、他に思い人が居ないかの確認。

 

 そう考えた時、今日一日の出来事が都合よく繋がっていく。

 少し違和感があった。室崎から自宅に招待された事が。勿論友達を家に誘うのに大層な理由はいらないし、俺と室崎はソウルメイト。同じ趣味を共有する仲なので、二人で遊ぶことに不思議はない。だから大した事ではないと考えなかったが、女子が異性を家に招き入れるのは他意があってもおかしくない。二人きりとなれば特に。

 

 室崎の顔を見ると、真剣そのものだった。まるで何かを覚悟している人の顔。……まさか、本当に?

 固唾を飲んで室崎と見つめ合う。数秒の後、室崎の口が動く。俺はそれを瞬きせずに見守る。

 

「藤村君―――」

 

「―――」

 

 心臓の音がやけに五月蠅くて、これから起こる事に期待と不安をしている。こんな感覚は初めてで―――。

 

 

 

 

 

「藤村君は、まひろちゃんのお姉さんが好きなんだよね!?」

 

 

 

 

 

「………………え?」

 

 ポカンと口を開けて固まってしまう。きっとこの時の俺は相当間抜けな表情をしていただろう。

 暫く固まっていると、業を煮やした室崎が再び聞いてくる。

 

「藤村君、まひろちゃんのお姉さんが好きなんだよね?」

 

「……いや?」

 

「え? 違うの?」

 

 あれ?と首を傾げる室崎。首を傾げたいのは俺の方だ。

 

「好きって言うのはあれか? ライクじゃなくてラブの?」

 

「うん」

 

「いや、別に好きじゃないよ?」

 

 俺がみはりちゃんに恋してるという意味なら、そんな事実はない。

 

「そうなの?」

 

「逆にどうしてそういう結論に至ったんだ?」

 

 どうして俺がみはりちゃんを好きだと思ったのだろう。俺、勘違いされる様な事したっけ?

 

「それはその……聞いちゃったんだ。もみじちゃんと話してたの」

 

「もみじと?」

 

 俺がもみじとみはりちゃんの話を? ますます話が見えてこない。もみじとの会話でみはりちゃんの話題が出てきた事ってあったか? 覚えてないが一、二回くらいはあるだろうけど……。

 

「……実は―――」

 

 そして聞かされた。俺が入学して間もない頃、もみじと自動販売機の前で会った時の会話を盗み聞きしていた事を。その時俺が『みはりちゃんを好き』と言っていたのを聞いた事。

 

「―――成程。確かに言った……か?」

 

 記憶は曖昧だが、みはりちゃんの名前は出てきた気がする。確か、もみじにみはりちゃんが好きか聞かれて、大切な友達だし嫌いな訳じゃないから好きって……。

 

(……確かに傍から聞いてたら勘違いされてもおかしくないかもな)

 

 改めて振り返ると自分の発言の危うさに気付かされる。まるで鈍感系の主人公みたいな文法だ。

 

「ごめんなさい! 盗み聞きなんて……」

 

「それはいいけど、もみじは知ってるのか?」

 

「うん。前に話した事があって……」

 

「それなら俺は全然。まぁ、気になる年頃ではあるしな」

 

 転校生と友達が何やら怪しげな会話をしているのは気になるよな。会話の内容も確か、まひろとの関係性を問われた様な……。

 

「本当にごめんね!? お詫びって訳じゃないけど、クッキー作るから食べてって」

 

「あ、あぁ。そう言えば腹減ってたんだった。作るの手伝おうか?」

 

「大丈夫! お客さんなんだからゆっくりしてて」

 

 そう言い残し部屋を出ていく。残された俺は一人、自分で持ってきた本を読んで過ごす。

 

 さっきまで自分を殴りたい。恥ずかしい勘違いをしていた自分を。室崎に全く他意なんてないじゃないか。俺に好意があるなんてとんだ勘違い野郎だ。

 つまり、今日は室崎が俺に聞きたい事があって家に招いてくれたという事か。それだけなら図書館でも良かった気がするが、他に理由でもあるのだろうか。

 

 ―――数十分後。クッキーと飲物を持った室崎が帰ってきた。両手が塞がっている室崎の代わりに扉を開ける。

 

「お待たせ~。今日のはちょっと自信作だよ!」

 

「お~、それは楽しみ……ん?」

 

 机に置かれたクッキー……らしき固形物を見て、俺は固まってしまう。

 

(……クッキーって、こんなにレインボーだっけ? それに丸くないし……)

 

 前衛的アートの様なクッキー。室崎はニコニコしている。

 

「どうぞ~」

 

「……うん。頂きます」

 

 取りあえず一口と思って口に運ぶ。見た目はあれだが、料理は味が命だ。美味ければ何の問題も―――。

 

 ―――次の瞬間から目が覚めるまで、俺の記憶は飛んでいた。室崎曰く「寝不足はダメだよ」との事。

 

 夜に目を覚ました俺は、蒸し暑い夜道を覚束ない足取りで自室に帰った。何か重要な話を聞いた気がするが、何も覚えていなかった。









 記憶喪失設定は鉄板で都合がいいですよね。僕もその時代のギャルゲーをしていた民なので、利便性は抜群と言えるでしょう。

 まぁ、あきな君は記憶障害程度だと思いますので、後で思い出します。演出程度に思っていて下さい。

 所で何にも下調べしないで書いたんですけど、今の子って授業で「こころ」やるんですか? もしやらないなら、上記の件と合わせて年齢バレしそうなんですが……
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