先輩はおしまい!   作:朋也

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 二日に一度程のペースの更新になります。アニメはもう9話ですね。もうおにまいがない生活には戻れないと言うのに……。
 二期が始まるまで更新し続ける所存です。(言い過ぎ)
 私の読みでは確実に二期があるので、それまでの時間つぶし的なポジションで頑張りたいと思います。


あきなと帰ってきた中学校生活

 朝がとても苦手だ。早寝早起きの生活バランスなんて、大学生活で完全に崩壊していた。

 

 アラームから一時間遅れで目が覚める。スマホの画面に映し出される時間に飛び上がり、急いで支度をする。

 

 朝食は食べない派だったが、流石に何かお腹に何か入れていかないと昼まで持たないだろう。今日は体育が午前中にあるし。

 

 顔を洗い歯を磨き、髪を整え着替える。食パンをくわえて如何にも急いでいるという出で立ちでアパートの部屋を出る。

 

 走って向かうのは、やっと通い慣れた大学ではない。ほんの数日前から通い始めた中学校だ。

 

 八神あきな、実年齢二十歳。今は中学二年生。元気よく登校する若人だ。

 

 ―――後一年、これが続くと考えると眩暈がする。しかし、終了する道程は余りにも遠い―――。

 

 

 ~登校初日~

 

 

「……なぁ、気になった事聞いていいか?」

 

『何ですか』

 

 初めての通学路を歩きながら、あかりに電話を掛ける。

 

「この実験って、俺の女性恐怖症を改善させる建前があるじゃん?」

 

『そうですね。基本的には薬の効力を観察するのが目的ですが、その過程で被験者の心境の変化を観察するのも、実験の一部です』

 

「……つまり、俺の女性恐怖症が治るかどうかは本題ではないと」

 

『―――私は信じていますよ。頑張ってください』

 

 信頼されてもこればっかりはどうしようもないのだが。

 

「……はぁ、先が思いやられるなぁ」

 

『……先輩、もしかしてやる気出ないんですか?』

 

「やる気満々の方がおかしいだろ」

 

 努力はするが、モチベーションはどうしても下降気味だ。今日までこの身体での生活に慣れるので精一杯で、気が付いたら登校初日になっていた。

 

「正直、不安しかない。今更中学校なんて、どの面下げて……」

 

『しょうがないですね。なら、終了条件でも作りますか?』

 

「終了条件?」

 

 あかりの提案に疑問符が浮かぶ。終了条件とは、実験の終わりという事だろうか?

 

『先の見えない努力は苦痛ですからね。分かりやすい目標があれば、頑張れるんじゃないですか?』

 

「それは願ったり叶ったりだけど、契約違反みたいにはならないのか?」

 

『私のプロジェクトですから。多少は特例を認めてもいいでしょう』

 

「……じゃあ、最初から取り止めにしてくれ」

 

 どうして俺の大学生活があかりに握られているんだ? 俺の権利何処行った?

 

「で? どんな条件で恩赦があるんだ?」

 

『そうですね……最初に言った通り、好きな人が出来たらにしましょう』

 

「……と、言うと?』

 

『付き合いたいくらい好きな人が出来たら、実験終了でもいいですよ』

 

 何を言っているんだこの女は? 相手は中学生だぞ。大学生が中学生に恋しろってか? 成人している事忘れてないか?

 

「例え誰か好きになったとしても、それで女性恐怖症が完治したとは言えないだろ」

 

『あくまでも女性恐怖症の完治は副次的なものに過ぎませんから。治るかどうかは問題ではないのです。それより、先輩が誰かに恋するという方が気になります』

 

「お前の知的好奇心で終わっていいのかよ。この実験は」

 

『実験なんて、科学者の知的好奇心を満たす為の手段ですから』

 

 時折見せるあかりのサイコパスが、こいつは普通じゃないんだなって改めて俺に教えてくれる。

 

 まぁ、どんな取り決めで大学側と話が付いているのかは知らないし、もう面倒なのでそういうもんだと納得しよう。そうしよう。

 

「じゃあ、今日一日で終わりだな。きっと素敵な女性が居て、俺は一目惚れしてしまうだろう」

 

『合否は私が判断します』

 

「採点基準は?」

 

『秘密です』

 

 つまり独断と偏見か。無理ゲーじゃないか。

 

『先輩のタイプはおくてで女の子らしくて、巨乳な美人ですよね』

 

「……何処から仕入れた情報だそれは」

 

『宝箱の中から』

 

「興味ないんじゃないのかよ!?」

 

 盗んだ挙句、勝手に中見たのかよ! お前も未成年だろうが。しかも中々いい線いってるのが余計腹立たしい。

 

「……全く的外れな推理だな」

 

『私の分析は間違ってると?』

 

「いや……間違ってる訳でもないが、そうじゃないのは確かなんだが……」

 

『?』

 

 クソ、上手く説明できない。というか説明していいのか? エロと恋の趣味は違うなんて、どう言えばいいんだ……。

 

「―――ともかく、それは違う。俺は今日で実験を終わりにするんだ」

 

『中学生に恋心を抱くなんて……変態ですね』

 

「……マジでふざけんなよ。お前」

 

 根底を否定するな。だったらもう、俺が真面目に取り組む理由もなくなるわ。……ただ、それはそうなのだ。

 

 何をまかり間違ったら、中学生相手に恋をするのだろうか。確かに中学生くらいなら俺の女性恐怖症も発症しない。だからといって恋愛に発展する程親密になるか?

 

 可能性として、向こうが惚れる事はあっても、俺が惚れるなんて、在り得ないだろ。

 

「……終了条件は、達成できそうにないなぁ」

 

 

 ~ホームルーム~

 

 

「ふ、藤村、あきなです。よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げる。出来るだけ爽やかな表情を保ち、緊張を悟られない様にする。

 

「それじゃあ、席は―――、一番奥。緒山さんの後ろね」

 

 先生の指さす方を見る。窓際の一番後ろの席。先生に一礼し、指定された席に向かう。

 

 季節は春。四月も少し過ぎた頃合い。四月の二年生に上がるタイミングに間に合わなかった転校……という設定らしい。

 

 それはいいのだが、どうして俺の苗字が『藤村』になっているんだ? ここは地元じゃないし、そこまで心配する必要はないと思うのだが。おかげで自己紹介の時にスラスラ言えなかったじゃないか。

 

 椅子に腰を下ろし、一息つく。これから一年間、中学生としての生活が俺を待っている。

 

 ……まぁ、特別何かする訳ではない。毎日学校に通って、勉強して、友達と遊んで、平凡な学生生活を送るだけだ。

 

 変に緊張する必要はない。周りは俺より六歳以上年下の子供達だ。大丈夫。俺はお兄さんなのだ。

 

 呼吸を整える。そろそろホームルームが終わる。予想通りなら、転校生ならではの『あの』時間だが―――。

 

「はい、それではホームルームを終わります。今日も一日、頑張ってねぇ」

 

 チャイムが鳴り、ホームルームの終わりを告げる。先生が教室を出ていくと、何名かの生徒が立ち上がり、真っ直ぐに俺の所に向かってくる。

 

「初めまして、よろしく」

 

 数人の男子生徒が俺の机に群がってくる。……予想通りの展開。勿論受け答えも考えている。

 

「初めまして。改めて、藤村あきなです。よろしく」

 

 爽やかな挨拶で返す。何人かの生徒が代わる代わる挨拶してくる。

 

「俺、桜田ゆうた。よろしく」

 

「僕は、千川みなと。よろしくね」

 

「あぁ、よろしく」

 

 一通りの挨拶を終えると、今度は質問の嵐が吹いてくる。

 

「何処から転校してきたんだ?」

 

「結構遠く。親の転勤でさ―――」

 

 用意してきた返答を答える。親が海外に転勤する事になったので、一人暮らしの姉と一緒に暮らす為にこっちに引っ越してきた。そういう設定だ。本当は一人暮らしなのだが、中学生の一人暮らしは信憑性にかける為、姉弟と二人暮らしという事にした。

 

 嘘ではあるが、実際に俺には姉もいるし、親は本当に海外赴任の為、あながち嘘ではない。真実の中に織り交ぜた嘘はリアリティがある。

 

「へー、藤村って男子中学だったのか」

 

「そうなんだよ。共学って初めてでさー」

 

 はははと笑う。一応、万が一に備えて、女子への免疫が無さそうな設定も盛り込んである。因みに高校は男子校だったので、嘘ではない。

 

「内のクラス、女子の方が多いから、大変かもなー」

 

 確かに見渡すと女子の方が人数が多い。最近の中学校はそうなのか? 俺の時はそんな事は無かったと思うけど。

 

 何人かの女子がちらちらとこちらを見ている。少しだが、背筋に悪寒が走る。

 

「ははは、頑張るよ。色々と……ね」

 

 言葉尻が小さくなる。例え中学生相手だとしても、不安がないとは言い切れない。気を引き締めていかなくては。

 

 転校生への質問コーナーは恙なく終わり、一時間目の授業が始まる。流石に授業内容は退屈だが、せっかく中学校の勉強ができる機会なのだ。真面目に取り組もう。

 

「舐めて掛かると、痛い目見るかも知れんしな……」

 

 

 ~放課後~

 

 

「何か、どっと疲れたな……」

 

 通学路を一人、下校しながらうな垂れる。この疲労は肉体的というより、精神的なものが強い。

 

「―――あかりか」

 

 振動するスマホの画面には『藤村あかり』の文字。

 

「もしもし」

 

『どうでしたか先輩。登校初日は』

 

「どうもこうもないけどな。まぁ、疲れたのは確かかな」

 

『お疲れ様です。先輩』

 

 俺を労ってくれるあかり。こういう時はあかりの素直さに感謝だな。

 

『授業とかどうでした? 意外と内容忘れてたりとか』

 

「いんや、そうでもなかったぞ。というか、予習はしてきてるし、この分ならいけそうだ」

 

『予習って……中学校の学習範囲を?』

 

「あぁ。一ヶ月近く、家に居たんだ。それくらいはな」

 

 薬を盛られてから今日までの約一ヶ月、この身体での生活に慣れるのと、中学の勉強を並行して行っていた。その成果はあったみたいだ。

 

『……意外です。成績のいい先輩が、わざわざ中学校の予習をしてたなんて』

 

「俺は馬鹿だからな。調子に乗らないだけだ」

 

『……想定していた展開と違って、少し残念です』

 

 あかりは俺が授業が分からなくて、てんやわんやするのを期待していたみたいだ。

 

「期待に沿えなくてすまんな」

 

『そうですよ。反省してください』

 

 どうして俺が咎められているのだろ。いい事をしたはずなのに……。

 

「まぁ、何だかんだ上手くやれそうだから、心配すんな」

 

『……そうみたいですね。分かりました。何か困ったことがあったら、連絡お願いします』

 

「おう」

 

 電話を切る。俺を心配して電話してきたのだろう。その気遣いがあるなら、始めからこんな状況にしないでほしいが、もう今更どうしようもない。

 

「―――明日からも、頑張るか」

 

 大きく背伸びをしながら、夕日が照らす通学路を歩く。この景色を、後何回見ることになるのだろうか。

 

 

 ~数日後~

 

 

 中学生生活が始まってから数日が経過した。学校生活にもそれなりに慣れてきて、よく話す友達も出来た。最初は不安だったが、中々に順調な滑り出しだと思っている。

 

 結論を言おう。しんどいです。中学校に通いながら、家事をこなすのは、この年齢の身体にはきつい。

 

「はぁ……疲れた」

 

 四時間目の授業が終わり、昼休みになる。机に突っ伏していると、二人の生徒が来る。

 

「お疲れ、あきな」

 

「どう? 学校は慣れた?」

 

 俺を労ってくれたのは桜田ゆうた。学校生活を案じてくれたのは千川みなと。二人とは、転校初日から仲良くなった。

 

「慣れはしたけど、大変なのは変わりないよ」

 

 肩を回すとコキコキと骨が鳴る。この歳で肩こりになってしまいそうだ。

 

「やっぱり授業とか、前の学校と習ってる範囲違ったりするの?」

 

「うーん……違うと言えば違う……かも?」

 

「何だそれ?」

 

 曖昧な回答に二人は首を傾げる。どう答えたらいいだろう。前の学校……大学の話なら、授業内容は全く違うが、そういう話ではないし。

 

「授業はいいんだけどさ。私生活が大変で……」

 

 取りあえず話題を逸らす。前の学校の話題は、出来るだけ避けよう。

 

「お姉さんと二人暮らし何だっけ?」

 

「疲れる事なんてあるのか?」

 

「……まぁ、家事は全部、俺がやってるし」

 

 この話題もボロが出そうだ。姉と二人暮らしの設定。本当に姉は居るが、一緒には暮らしてない。いつか、この二人には本当の事を話してもいいかも知れない。

 

「家事って……具体的には?」

 

「料理、洗濯、掃除……かな?」

 

「本当に全部かよ」

 

 驚く二人。確かに中学生でそれをこなすのは大したものだと思うが、精神年齢が成人済みの俺にとっては当たり前だ。

 

「慣れれば何とかなる」

 

「すげー疲れてるっぽいけど」

 

 得意げに親指を立ててみたが、ゆうたの指摘にあえなく撃沈。慣れてはいるが、大変な事には変わらない。四月の段階で、もう夏休みが待ち遠しい。

 

「腹減ったから、昼飯食おうぜ」

 

 俺の提案に二人が賛同する。机をくっつけて昼飯を食べる。

 

「昨日上がってた動画が面白くてさ―――」

 

 他愛のない会話が繰り広げられる。最初は今の中学生ってどんな話をするのか分からず不安だったが、普段の俺とそんなに変わらないみたいだ。動画の話だったり、ゲームの話だったり。男の話題なんて、幾つになってもどの時代も同じなんだな。

 

「最近は、ロスクエやってるんだよね」

 

「俺も最近またやってるよ。忘れた頃にやると面白いよな」

 

 話題を振るとゆうたが返してくれる。ロスクエとは、大人気ゲームのタイトルだ。シリーズ初めはかなり古いが、最近も新しいナンバリングが出ている。流石はロスクエ。今の子供達にも人気らしい。

 

「ロスクエⅤ」

「ロスクエⅨ」

 

「……え?」

 

 数字が噛み合っていない。Ⅸは去年発売のナンバリングだ。

 

「あぁ、Ⅸね。そうだよね。一番新しいし、そっかそっか」

 

 確かにⅨは面白かったし、何度もやりたくなる気持ちは分かる。俺も最近までやってたくらいだし。

 

「でも、やっぱⅤだよな。あれは人生の中でも五本の指に入る神ゲーだよ」

 

「……そうなのか? 悪い。俺やったことない」

 

「僕も……」

 

「おいおい、マジかよ。あんなに面白いのに」

 

 二人の反応が信じられない。当時は皆やってたぞ。

 

「……そうか、もしかして、生まれる前か。Ⅴは」

 

「もしかしなくても生まれる前だよ?」

 

 怪訝な様子のみなと。そうだった。見た目は同じ年齢でも、同世代ではないのだ。生まれる前のゲームなのだからプレイしていなくてもしょうがない。

 

「お、俺も姉貴がやってたのを見てて、やらせてもらったんだよね」

 

 はははと誤魔化す。実際は発売当日に朝までやり込んで、翌日に知恵熱が出た思い出がある。

 

「兄弟居ると、ゲームやらせてもらえるとかあるよなー」

 

 弁当を食べながら俺の話に合わせてくれるゆうと。何とか誤魔化せた……いや、誤魔化す必要あるのか?

 

 正直、思いのほかショックだった。自分の当時ハマってたゲームが、生まれる前という事実に。何だか、今俺がここに居る事が場違いな気がしてくる。いや、場違いなんだけども。

 

「……こうなったら、今からⅤの魅力を語ってやろう」

 

「え……?」

 

「まだ未プレイなら、俺がプレイしたくなる様なプレゼンをしてやる」

 

 二人の返事を待たず、ロスクエⅤの魅力を滔々と話す。途中若干引いていたが、昼休みが終わるまで俺は止まらなかった。

 

 

 

「ふぅ、居息抜きになったぜ」

 

 五時間目を終了のチャイムが鳴る。机の教科書類を片付けながら、昼休みの一席を思い出す。

 

 休み時間終了ギリギリまで語った。二人は白目向いてたし、他の生徒が対岸の火事と言わんばかりに見ていたが、気にせず喋り続けた。

 

 好きな物を誰かに喋る時間は何とも幸福な時間だ。二人には悪いが、俺のストレス発散に一役買ってもらった。

 

「―――帰ったら、Ⅴやろう」

 

 話していたらやりたくなる。日常生活で些細な楽しみを見つけるのは、一人暮らしを楽しく送る為のコツだ。

 

 久しぶりに上機嫌だった俺は、鼻歌交じりに次の授業の準備をしていた。

 

「ねぇ」

 

「―――ん?」

 

 急に声を掛けられて反応が遅れる。見ると、前の席の子がこちらを向いていた。

 

「さっき、ロスクエの話してたよね?」

 

「そうだけど……」

 

 目を爛々とさせて話しかけてくるのは、整った顔立ちに綺麗な髪が良く似合う、所謂美少女と言って差し支えない女の子。

 

「―――緒山、だっけ?」

 

「そうそう、緒山まひろ。よろしくね」

 

「よろしく。……緒山もやるのか? ロスクエ」

 

「やってるやってる。面白いよなぁ」

 

 嬉しそうに答える。流石は天下のロスクエだ。男女問わず人気がある。

 

「さっきさ、Ⅴの話してたよね? わたしもⅤ好きなんだぁ」

 

「お? Ⅴやった事あんの?」

 

 思いがけない返答が返ってくる。さっきはジェネレーションギャップを感じていたが、まさかその齢でⅤをプレイした事があるとは。

 

「……お主、中々のやり手だな?」

 

「ふふん。ゲームには少々うるさいぜ?」

 

 不敵に笑い合う。まさかⅤの話が出来る人間と中学校で出会えるなんて。

 

「その分だと、違うシリーズもいける口か?」

 

「任せろ。全シリーズプレイ済みだ」

 

 ―――これは、試されているのは俺の方か。気合を入れなくちゃな。

 

「Ⅴと言えばさ―――」

 

 五分ほど話し込んだが、緒山は俺以上にロスクエに詳しかった。驚いたのと同時、ゲームの話をこんなに出来る人がいるのが嬉しかった。

 

「いやー、すげぇな。緒山ってかなりゲーマーだな」

 

「ふふん、当然」

 

 誇らしげにしている緒山。その姿に、俺は少し目を奪われてしまう。

 

「? どうしたの?」

 

「―――え? いや、何でもない」

 

 顔を振る。しまった。つい見つめてしまった。女の子を無言で見つめるなんて、余り宜しい行為じゃない。しかし、ゲーム女子ってこんなにも魅力的に映るんだな。ネットで人気があったりするのも頷ける。

 

「まさかⅤの話が出来るなんて嬉しいよ。こんな近くに同志が居たなんて」

 

「いいって事よ。あ、そうだ。因みにさシリーズなら何が一番好き?」

 

「そりゃあ、ロスクエファンなら『あれ』だろ」

 

「―――うんうん、そうだよなぁ。『あれ』だなぁ」

 

 頷く緒山。それは愚問だな。言うまでもないという空気が漂う。

 

「「勿論」」

 

 

「Ⅲ」

「Ⅵ」

 

 

「「……」」

 

 二人の間に沈黙が訪れる。数秒の後、先に俺が静寂を破る。

 

「―――あぁ、Ⅵね。はいはい、分かります。面白いよね。その意見は一理あるけど、ロスクエファンならまずⅢじゃないか?」

 

「―――いやいや、確かにⅢは名作だけど、やっぱりⅥでしょ? ロスクエファンなら」

 

「いやいやそれは流石に」

 

「いやいやそれは流石に」

 

 

「「ニワカだろ」」

 

 

「「……」」

 

 再び静寂。今度は緒山が勢いよく静寂を破る。

 

「Ⅵ一択だろ! シナリオ、ゲームバランス、BGM、どれをとってもⅥ最強だ!」

 

「確かにⅢはハードも古いし、グラフィックという面ではどうしても劣るけど、当時の技術であそこまでの完成度だから素晴らしいんだ!」

 

 バチバチと睨み合う二人。さっきまでの意気投合具合は何処へやら。今度は如何に相手に納得させるかの、論争バトルになっていた。

 

「Ⅵ!」

 

「Ⅲ!」

 

 お互いに一歩も譲らない。立ち上がって互いのゲームの良さをアピールし合う。もうどちらも引くに引けない戦いとなっていた。

 

 だから気付かなかった。もう六時間目の授業が始まろうとしていた事に。

 

「あー、後ろの二人。もう授業始まるよ」

 

「「―――え?」」

 

 二人同時に教壇を見る。もう先生が居ると言う事は、チャイムが鳴っていたのか。全然気づかなかった。

 

 冷静になって辺りを見渡すと、皆席について、俺達を見ていた。先生は困った様子で、生徒達は笑っていたり、心配そうに見ていたり、様々だ。

 

「あ、あはは、はぁ……」

 

 愛想笑いが徐々に弱くなっていく。緒山も顔を赤くして乾いた笑いをしている。

 

「……とにかく、席に着きなさい。授業を始めますよ」

 

「「……すみませんでした」」

 

 二人で頭を下げ、席に座る。しまった。ヒートアップし過ぎて周りが見えていなかった。

 

 無駄な注目を集めた事と、中学生達以上に幼稚だった事のダブルパンチで、恥ずかしさが止まらない。

 

「はぁ……やっちまった」

 

 息抜きをしたのも束の間、またストレスが溜まる結果となった。完全に自業自得だ。反省しよう。

 

 冷静になって考えてみれば、どうしてあそこまでムキなったのか。正直、どっちも名作だし、俺が直ぐに折れていれば済む話だった。

 

 それなのに、言い争いになったのは、何故か、緒山と話していたら思い出したのだ。昔、友達とどっちのゲームが面白いかで喧嘩した事を。

 

 今思えば下らない内容だが、あの時は絶対に譲れないって、友達だからこそ分かってほしいと思って言い争っていた。

 

 緒山を見て当時の同級生との勢いを思い出すなんて。あの手の感情は、同性だからこそ張り合うのだ。女の子相手に突っ張ってどうするんだ。俺。

 

 自分の未熟さを思い知ったのと同時に、どうしてか緒山の顔が頭から離れない。そんな一時間を過ごした。




 やっとまひろが出てきた……。やっぱり原作キャラが絡まないとモチベーションがあがりませんよね。これからはやる気マックスで書いていく所存です。

 今回から本格的に本編が始まるので、主人公の情報をまとめておきます。読まなくても本編に支障はないので、気が向かれた方は読んでいって頂けると幸いです。

 八神あきな・中学校では藤村あきな

 二十歳の大学二年生。イケメンで勉強も出来て、運動もこなす。本人は自己評価が低く、周りからの評価を気にしていない。何度か告白された事があるが、一度もオーケーをした事は無い。

 面倒見がよく、筋を通すタイプ。しかし何処か抜けている所があり、いつも物事が終わってから気付く。

 姉が一人。母子家庭で母親は海外で仕事をしている。高校卒業までは日本におり、大学入学と共に海外に旅立った。因みに姉が苦手。

 高校は男子校で、女性恐怖症だったあきなが選んで受験した。

 料理が得意で常に節約レシピを考えている。スーパーへの買い物も、特売の日を把握して行っている。

 実は百合が好き。高校生の時、本人が異性と恋愛できない反動で百合好きになった。何だったら、男同士にも理解がある。


 他にも細かい設定があったりするんですが、先の展開のネタバレもありますので、この辺で終わりたいと思います。

 次回の後書きでは、藤村あかりの設定と、みはりのちょっとした考察なんかを書きますので、もしよければ楽しみにしていてください。
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