何だかんだで三十話です。いつ終わるか僕にも分かりません。取りあえずやりたい事をやりつくしてからでしょう。やったもん勝ちの青春なので。
「先輩、買い物に行きましょう!」
開口一番、はつらつとした声が鼓膜を揺らす。
八月の蒸し暑い夜。アパートの自室で身体を投げ出して寝っ転がっていると、あかりから電話が掛かってきた。
「……何で?」
「約束したじゃないですか! 今度買い物に連れて行ってくれるって」
「覚えてないなぁ……」
記憶にございませんが?
「先輩が変態な事をバラさない代わりに取り付けた約束ですよ」
「それは脅迫って言うんだぞ」
思い出した。そう言えばそんな約束をさせられていた。
「明後日、駅前のベンチに集合でお願いします」
「勝手に決めるな」
予定を抑えられる。幸いなのかどうなのか、夏休みの予定は今のところない。
「行きたくない」
「どうしてですか? 私の事嫌いですか?」
「メンヘラ彼女か」
以前にもした様なやり取り。いつも、否定するとこの返しをしてくる。
「……金欠なんだよ」
まひろとのデートもどきで散財したせいで、最近はもやしと仕送りの米だけでやり繰りしている毎日。肉を食っていない影響か身体に力が入らなく、こうして暑さに負けてだらけている。
「無駄遣いでもしたんですか? 珍しいですね」
「……まぁ、そんな所だ。だから買い物はまた今度―――」
「でも私には関係ありません。ということで明後日、十時に駅前に集合で」
そう言い残し電話が切れる。話中音が鳴るスマホを見つめ、後に放り投げる。
あかりとの買い物が確約されてしまった。別に出掛けるのは構わないのだが、確かあの時、俺にプレゼントをねだっていた。金欠の今、何を買わされるかも分からない買い物に赴くのは地獄だ。あかりの暴走は俺には止められない。どうしたものか……。
「―――そうだ。これなら」
一つ、案を思いつき早速連絡を取る。この方法なら何とかなるかも知れない。
当日、駅前のベンチに座っていると、待ち人が一人現れる。
「逃げずに良く来ましたね」
「逃げて良かったのか?」
そんな事をしたら後が怖そうだが。
「勿論、答えはノーです。今日は思いっきり財布の中身軽くしてやりますよ!」
ビシっと指を突き付けてくるあかり。そう言われても、既に何も入っていないんですけど……。
「……」
「……? 何ですか?」
俺の視線に小首を傾げるあかり。改めてあかりを見ると、いつものぶかぶかの白衣姿ではない。髪も綺麗に整えていて、いつもの寝癖と癖毛でボサボサのヘアーが嘘の様だ。
夏の爽やかさを感じさせる装い。歳相応のオシャレをしている。
「今日は随分と気合入ってんな」
「それは―――そうですよ。せっかくの先輩とのデートですから」
「これはデートなのか?」
「デートですよデート! 男女が二人っきりでお出かけするのは紛れもなくデートなんです!」
言い切るあかり。例え先輩後輩、友達同士であっても異性と共に行動するのはデートという事みたいだ。……まぁ、その意見には賛成なのだが……。
「……悪いけど、デートではないな」
「どうしてですか!? 私とデートは出来ないと? 私の事嫌いですか!?」
「だからメンヘラか。……そうじゃなくてだな。二人っきりがデートの定義なら、今日は違くて―――」
「ごめ~ん。待ったぁ~?」
手を振りながら駆け寄ってくる人物が二人。俺は小さく手を上げる。
「大丈夫です。今来た所ですから」
「良かったぁ~。みはりの服が中々決まらなく」
「いつもの格好で良かったのに……」
「お出かけに白衣は在り得ないって。それに、こんな機会でもないとオシャレできないし」
合流した二人。一人は緒山みはり。大学の同期にしてあかりの先輩。もう一人は穂月かえで。みはりちゃんの親友で同級生。
「み、みはり先輩!? どうしてここに……」
「え? 皆でお出かけするんでしょ? 誘ってくれてありがとう~」
「え? え?」
動揺するあかり。どうやら状況を理解できていないらしい。
「今日は来てくれてありがとうございます。お二人共」
「それはこっちに台詞だよ~。私まで誘って貰って悪いねぇ」
「いえいえ。かえでさんにも日頃の俺がしたいと思ってましたので」
「相変わらず大人っぽいねぇ。あきな君は」
「いやー、あはは」
愛想笑いをする俺の袖を引っ張るあかり。振り向くと、顔を青くしてこちらを睨んでいた。
「どういうことですか!?」
「どうもこうも、見たままですが?」
「今日は先輩と二人で出掛けるんじゃ……?」
「二人でなんて約束、した覚えないなぁ」
結ばれた約束の内容に『二人きり』なんて文言はない。あくまで俺とあかりが買い物に行けばメンバーは自由だ。
「……? どうしたの二人共?」
こそこそ小声で話している俺達を訝しむみはりちゃん。
「すみません。何でもありませんよ。行きましょう」
あかりの腕を掴んで無理矢理引っ張る。観念した様子のあかりを二人の前に立たせる。
「あかりちゃん、だよね? みはりから話は聞いてるよ~。私はみはりの友達の穂月かえで。よろしくね~」
「よ、よろしくお願いします!」
握手を交わす二人。その様子に俺は疑問符が浮かぶ。
「あかりちゃんも飛び級で大学に居るんでしょ? 凄いなぁ」
「い、いえいえ! そんな大した事ではないですよ!?」
「あかりは凄い優秀なの。先生達もいつも褒めててね~」
和気あいあいとする三人の様子は実に微笑ましいが、俺にはあかりの態度が気掛かりだった。
あかりは社交的な一面がある。初めての人にも物怖じせずに接するし、表面上は明るい性格で友達も多い。それがどうした事か。かえでさんを前にカチコチではないか。その様子にみはりちゃんが当たり前みたいにしているのも変だ。普段のあかりを知っていれば疑問に思うはずなのだが。
「―――あきな君。行こ~?」
みはりちゃんに呼ばれる。どうやら初対面のやり取りは終わったらしい。あかりの肩に手を置いているかえでさんは満足そうに微笑んでいる。対するあかりは借りてきた猫の様に固まって頬を引きつらせている。
今日、みはりちゃん達を呼んだのは、あかりの暴走を抑止する為だ。俺一人ではあかりは手に負えないが、直属の先輩であるみはりちゃんの前ではあかりも好き勝手出来ないと踏み、一昨日あかりとの電話を終えて直ぐにアポを取った。最初はみはりちゃんだけ呼ぶ予定だったが、どうせならかえでさんも呼んで四人でという話に落ち着いた。
結果、あかりに手綱を付けたのはかえでさんで、大成功と相成っている。この調子で二人にはあかりをコントロールして欲しい。
こうして、俺、あかり、みはりちゃんにかえでさんの買い物が始まった。
現地に来るまで考えていなかったが、俺は今日何処に行くか何も聞かされていなかった。あかり主導の買い物なので、プランも何も考えていない。男女比的に女性の方が多いので、彼女達の行先を優先する形なのだが、女の子は休日に友達と買い物に行く時、どんな所に行くのだろうか。
男ならゲーセンとかゲーム屋とか、如何にも男の子が行きそうな所に赴く所だが……。
街中をドリンク片手にそんな事を考えていた。俺の前を歩くのはあかりとみはりちゃん。その様子を見ながらしんがりを務める俺と、その隣を並走するかえでさん。
「意外とまともだな」
昼下がり。午前中は街中を当てもなく歩きながら、目についた店に入ったりした。大体はスイーツを販売している店で、殆ど買い食いをする会になっていた。昼飯はかえでさんがアルバイトしているらしいファストフード店に入り、ハンバーガーやらポテトやらを食べた。あかりがかえでさんの質問攻めでタジタジになっている様子が見ていて愉快だった。あかりの隣で楽しそうに笑っていたみはりちゃんも見れて、貴重な時間を過ごさせてもらった。
今は服や小物を買う為に店に向かっている道中。前を歩くあかりは相変わらずで、普段の飄々とした様子からは考えられないくらい背筋が伸びてオドオドしている。そのあかりに何も違和感なく接しているみはりちゃん。
よく考えたら、あかりとみはりちゃんが一緒に居る所を始めて見た。もしかして、普段からみはりちゃんの前ではあれなのか? それならみはりちゃんが気にした素振りがないのも納得だが。
「俺の知らない関係があるって話か」
「んー? 何の話ぃ?」
独り言を呟くと、隣でドリンクを飲んでいたかえでさんが俺の顔を覗き込んでくる。
「僕もまだまだだなって話です」
「ふーん。よく分かんないけど、あきな君は結構いい線いってると思うなぁ」
「いい線?」
かえでさんの俺に対する評価に首を傾げる。一体何に対していい線なのだろうか。
「そう言えば、まひろちゃんとのデートはどうだった?」
「どうと言われましても……参考にはなりましたよ」
「それってもしかして、本命の為のって事? それはお姉さん的にいただけないなぁ」
少し怒っている様子のかえでさん。今の会話に怒る要素あったか?
「まひろちゃんを練習台にするのはどうかと思うなぁ~」
「練習台……?」
聞き慣れない言葉を言われる。何の練習だ?
「あの……話が見えないのですけど」
「みはりとのデートの予行練習にまひろちゃんを使うのは良くないよって話」
「みはりさんとの……デート?」
プンプンと頬を膨らませているかえでさん。更に話が分からなくなった。
「どうして俺がみはりさんとデートを?」
「それはそうでしょ。いつかはする事になると思うし」
「……?」
首を傾げると、同じようにかえでさんも首を傾げる。
「……一つ確認したいんだけど、いいかな?」
「はい」
「あきな君はその、みはりが好きなんだよね?」
「……それは、ライクじゃなくて?」
「ラブで」
なんだか最近も同じやり取りをした気がするが、頭に靄が掛かって思い出せない。……確か、えっとぉ―――。
―――まひろちゃんのお姉さんが好きなんだよね!? ―――いや、別にすきじゃないよ?
「―――は!?」
思い……出した! そうだ。数日前、室崎にも同じような事を聞かれた。みはりちゃんの事が好きなのかと。
どうしてそんな事を聞いてくるのか分からなかったが、どうやら俺ともみじの会話を盗み聞きしていて、その内容で俺がみはりちゃんを好きだと勘違いしていたらしい。
この状況はあの時とよく似ている。何故今まで忘れていたのだろうか。その理由だけはどうしても思い出せないが、今その事はどうでもいい。
「どうして俺がみはりさんを好きと?」
「もみじから聞いた―――訳じゃないんだけど、何となく雰囲気的にそうなんだろうなと」
「もみじ……」
名前が挙がった人物。穂月もみじ。かえでさんの妹で今の俺の同級生。室崎が勘違いする原因となったのはもみじとの会話だ。そのもみじから聞いた訳ではないらしいが、多分もみじも俺がみはりちゃんを好きだと勘違いしていて、その雰囲気をかえでさんの悟られたのだろう。
「―――これは、大分盛大に勘違いされてるかもな」
俺と会話していたもみじ本人も勘違いしていて、聞いていた第三者も勘違いしている。無関係なかえでさんも知っているとなると、他にも知っていそうな人物はいそうだ。例えばもみじや室崎がいつも一緒にいる五人組は知っていそうだ。……そう言えば、あさひに聞かれた事があった気がする。みはりちゃんを好きなのかと。あの時は突然なんだ?と思ったが、まさかこんな背景があったとは。
「あきな君?」
「……そうですね。まずはかえでさんから」
一呼吸置き、改めてかえでさんに向き直る。
「僕はみはりさんが好きな訳じゃありません。勿論、友人としては好きですが、恋愛感情はありません」
「そう、だったんだ……。それは少し残念だなぁ」
「どうしてですか?」
「いや~、みはりのそういうのって見た事無いから、少し期待してたんだよね~」
はははと笑うかえでさん。みはりちゃんに男の影がないから、恋愛に発展する様子が見たかったという事か。
「ご期待に沿えずに申し訳ありません」
「いやいや、勝手に勘違いしてたのはこっちだった訳だし。逆にごめんね? 今まで要らない気を回してたよね」
謝罪するかえでさん。要らない気というのが具体的に何か分からないが、どうやら気を遣わせていたみたいだ。
「―――そっか。みはりが好きな訳じゃないんだ。へぇ~」
「……何でしょうか?」
「別にぃ~。なら、今日はお姉さんとデートって事でどう?」
「どう、とは?」
怪しげに微笑むかえでさん。その様子に背筋に嫌な汗が流れる。この感じ、久しぶりな気がする。
「まひろちゃんともデートしたんだから、私ともして欲しいなぁ~」
「そこの因果関係は分かりかねますが!」
「ほらほら、いいからいいから!」
そう言いながら俺の手を握ってくるかえでさん。それだけで一気に汗が噴き出して、例の病気が発動する。
「緊張しなくていいよ。お姉さんがリードしてあげる」
「彼氏いた事無いって言ってませんでしたっけ!?」
無理矢理引っ張られる様に連れていかれる。前を歩く二人も追い越して歩いていく俺達。
その様子を見たみはりちゃんは手を口元に当てて驚いていて、あかりが睨み付けていたのが印象的だった。
長くなったので切ります。何も考えずに書いていたら一万字を超えたので。
やっぱり難しいですね。短くまとめるのは。