先輩はおしまい!   作:朋也

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 今日も何とか帰ってこれたので、更新できました。残業は勘弁して欲しいですよ全く……

 五月中が正念場です。六月からは少しは楽になるかな?







あきなと誤解

 午後の買い物は主に洋服や小物等の日用品。女性の買い物と言えば定番のウインドウショッピングである。

 服屋に入店してから三十分。あかりがみはりちゃんの着せ替え人形と化していた。

 

「ど、どうですか。先輩……」

 

 恥ずかしそうに俯きながら試着室から出てくる。普段のヨレヨレダボダボの白衣姿からは考えられない小柄な体型が映える可愛らしい服装だ。

 

「うん。似合ってるよ」

 

「……どうも」

 

 頬を赤くして口を尖らせる。不満げな表情なのに、何処か満足そうなあかり。嬉しいのか怒っているのかどっちなのか。

 

「先輩もその……似合ってますよ」

 

「そりゃどうも」

 

 意趣返しとばかりにニマニマしながら俺の装いを褒めてくれる。確かに少し照れくさくて後頭部を掻く。

 みはりちゃんに着せ替え人形にされているあかりだが、俺は俺でかえでさんの着せ替え人形に成り果てていた。

 

「あきなく~ん。次これ着て~」

 

 ウキウキしながら服を手に持ってくるかえでさん。その様子に肩を落としながら渋々了承する。

 渡された服を着て試着室から出てくると、かえでさんが両手を合わせて嬉しそうにしている。

 

「やっぱり似合うなぁ~。あきな君、元が良いから」

 

「そっすかね」

 

 自覚はないが、よく言われるのでそうなのだろう。自分で自分が格好いいとは思いたくないが、客観的な意見として認識しよう。

 

「え~と……次はこれかな~」

 

「……あの、かえでさん?」

 

「ん?」

 

 楽しそうに服を品定めしている。格好いい系から可愛い系まで色々試着させられたが、かえでさん的にはまだまだ着させ足りないらしい。

 

「これがお姉さん流のデートですか?」

 

 意気揚々と引っ張られた俺だが、現在はあかりと一緒にマネキン代わりになっている。

 

「男の子の服を選ぶのやってみたかったんだよね~」

 

「それは弟とかにするものでは?」

 

 楽しそうに頬に手を当てるかえでさん。その様子が実姉と重なって嫌な記憶を呼び覚ます。

 

「姉貴にも同じ様な事させられたなぁ」

 

「経験済みなら話が早いよね?」

 

「……まぁ、初めてではないのは確かですね」

 

 中学一年生の頃に同じ様に連れ回されて散々付き合わされた。思えばあの時から年上の女性に抵抗感があった気がする。今思えばだが。

 

「なんか、いやらしい話してます?」

 

「思春期か」

 

「思春期ですが?」

 

 訝しむあかりがジト目でこちらを見ている。忘れがちだが、こいつの実年齢は十六歳だった。

 

「苦い思い出の話」

 

「トラウマってやつですか?」

 

「そんなもんかもなー」

 

「……」

 

 冗談交じりに言うと、何やら考え込んでしまうあかり。

 

「おい。あんまり真に受けんなよ。ただ姉貴にいじられたってだけで、姉弟あるあるだから」

 

「……先輩、それって―――」

 

「次はこれ! 絶対似合うから!」

 

 何かを言いかけたあかりだったが、言い終わる前に服を選んで戻ってきたみはりちゃんに連れていかれてしまった。その後ろ姿を眺めていると、俺の肩に手が置かれる。

 

「お次はこれで」

 

「……はい」

 

 抵抗せず、受け取った服を着る為に試着室へ。着替えて出てきて、またあかりとお互いを褒め合う。そんなやり取りを数回繰り返し、気が付いたら入店から一時間が経過しいていた。

 

 最終的には各々のお姉ちゃんズが数点の服を購入し、プレゼントしてくれた。貰える分には有り難いのだが、値札を見た俺の心境は穏やかではなかった。俺の食費一ヶ月分に等しいではないか。そう思うと罪悪感が半端なく、買って貰った服をそのまま着て店を出た。かえでさんは大変喜んでいたのでよしとする。

 

 

 

 

 

 疲れた。想像以上に疲れた。

 

 買い物袋を両手に提げながら、隊列の最後尾を歩く。皆の戦利品を一手に引き受けている。荷物持ちは男の仕事だとは思うが、流石に四人分は多いか。

 

「半分持つよ~」

 

 前の姦しい集団から離脱してきたかえでさんが手をこちらに向けて、渡してと言っている。

 

「大丈夫です。持てます」

 

「流石男の子。頼りになるね~」

 

 荷物を持ち直し、毅然とした態度を取る。かさばる荷物を上手くまとめ、遅れない様に歩く。

 

「……」

 

「……どうしました?」

 

 かえでさんが俺をまじまじと見ている。その視線に少し身構えてしまう。

 

「あきな君、今日は楽しかった?」

 

「え? ……まぁ、それなりに」

 

「そっか」

 

「……?」

 

 唐突に感想を求められる。取りあえず答えたがこれでいいのだろうか? 質問の意図が読めない。

 

「―――あきな君。もしかしたら楽しいんでないのかなって」

 

「それは、どうして?」

 

「あきな君ってなんだか一歩引いている気がするんだよね」

 

「……」

 

 ぎくりとしてしまう。一歩引く。言葉通りに一歩後ろを歩いている今の立ち位置ではない。心理的な話だろう。

 

「私、接客業でバイトしてるって話したでしょ? 接客してると、その人の他人に対する距離感が分かるんだぁ。なんとなくだけどね」

 

 その感覚は分かる。俺も大学一年の時は接客業でアルバイトをしていた事もあった。客の話方や身体の動かし方で自分との距離を一定に保っている人はいた。

 

「あきな君はなんだか少し引いてる感じがして、もしかしたら迷惑してるんじゃないかなって思って」

 

「そんな事はないです。……ただ」

 

 次の句が出てこない。どう言葉にすればいいのか分からない。穏便な言い回しが思いつかない。

 別に今日が楽しくなかった訳じゃない。迷惑している訳でも、不快だった訳でもない。俺が一歩引いている理由は他にある。でも、それをはっきりと口にするのは抵抗がある。

 

 ―――もし、受け入れられなかったら。もし、拒絶されたら。そう思うと唇が震えて、喉が枯れて。

 

「ただ……異性ばっかりで緊張するしてただけですよ」

 

 だから、それっぽい言葉で誤魔化す。あながち嘘でもないのが質が悪い。

 

「ふーん……それなら仕方ないね。でも、これってハーレムってやつじゃない? 男の子的には嬉しいんでしょ?」

 

「人に寄るんじゃないですか? 特に……ね」

 

 俺にとってそうではない。複数人の女の子に囲まれて浮足立てる程の度胸はない。

 

 たった一人でも傍にいてくれれば、俺はそれで―――。

 

「せんぱ~い。そろそろ帰りましょ~」

 

 気が付いたら結構な距離が離れていたあかりが手を振っている。小走りで近付くと、あかりが訝しむ目線を向けてくる。

 

「何してたんですか先輩?」

 

「ちょっとした世間話」

 

「怪しい……」

 

「何がよ」

 

 何を怪しんでいるのか分からない。かえでさんとのやり取りであかりが気掛かりな事柄があるのか?」

 

「そう言えば、あかりちゃんはどうしてあきな君の事を先輩って呼ぶの?」

 

「え? そ、それは……」

 

 口をもごもごとさせるあかり。いつもはペラペラと舌が回るあかりが、何故かかえでさんの前ではしどろもどろになっている。

 

「あだ名みないなものよね~。あかり」

 

「そ、それです!」

 

 見かねたみはりちゃんが助け舟を出す。それに全力で乗っかるあかり。

 

「あだ名かぁ。じゃあ私も呼ぼうかな。先輩」

 

「……違和感はないけど」

 

「そうですね……」

 

 他愛のない会話をしながら岐路を歩く。確かに傍から見ればハーレムこの野郎な光景だが、俺的にはただの荷物持ち要因の気分だった。

 

 駅前に到着する。あかりは電車で来ているのでここで別れる。

 

「じゃあ、私はここで。今日は楽しかったです」

 

「うん。また行こうねあかり」

 

「はい!」

 

 キラキラと目を輝かせてみはりちゃんを見ている。最初の反応とは真逆だ。

 

「私ともまた遊んでくれたら嬉しいなぁ~」

 

「お、お手柔らかに……」

 

 肩に手を置かれ、またしても借りてきた猫みたいに固まるあかり。どうやらかえでさんが苦手みたいだ。これは意外な発見だ。

 

「先輩も、また今度」

 

「もう会いたくないけどな」

 

「……それは、私の事嫌いって事ですか?」

 

「いや、そうじゃないぞ! ただ、金欠の時に呼び出されるのが嫌だってだけでさ!」

 

 しょんぼりとするあかり。いつもの返しがくると思っていたので、これまた意外な反応に動揺する。

 

「冗談です」

 

「冗談かよ」

 

「それはそうですよ。先輩が私の事好きなの、知ってますから」

 

「いや、それは……」

 

「おい!」

 

 その勘違いはどうかと思う。まぁ、本人が思う分には関与しないけど。

 

「……冗談ついでに相談があるんだけどさ」

 

「なんですか?」

 

「その……今日、お前の家に泊めてくれないか?」

 

「……は?」

 

「内のエアコン壊れてんの知ってんだろ? 修理まで後一週間あるんだけど、そろそろ暑さも限界なんだ」

 

 最初の頃は友達の家に泊めてもらう事で対応していたが、ここ三日間はクソ暑い部屋で我慢の日々だ。気温がどんどん上がっていく今年の夏は流石に耐えがたい。

 

「頼む! 一日でいいから!」

 

「……」

 

 頬に手を当てて考え込むあかり。出来れば明るい返答を聞きたい所だが。

 

「……そうですね。正直私の家は汚いですからオススメしませんが」

 

「掃除するって!」

 

「まぁ、別に構わないですけど……それじゃあ面白くありませんね」

 

「え? 面白……?」

 

 あかりの口元が歪む。こういう時は大抵ろくでもない事を考えている。

 

「あーあ、困りましたねぇ。こんなに暑い毎日なのに部屋のエアコンが故障してるなんて!」

 

 突然大声で俺の部屋事情を説明し始めるあかり。一体何をしているのかと思ったが、直ぐにその真意を察する事になる。

 

「どうしたの? あかり」

 

「みはり先輩大変なんですよ! あきな先輩の部屋、エアコンが故障してるみたいで……」

 

「この暑い中、それは大変だねぇ」

 

「かえでさんもそう思いますよね!? いやー、修理は後一週間来ないみたいなんですよ~。毎日暑いのに大変だなぁ~」

 

「お、おいあかり。何言って……」

 

「私の家は狭いし、何処か泊めてくれる家とかあればいいんですけどー」

 

「……だったら、家に泊まる?」

 

「え!?」

 

 みはりちゃんがそうだと提案する。この流れはマズイと本能が訴えている。

 

「いや、それは流石に―――」

 

「いいじゃないですか! みはり先輩のお家は広いですし、親御さんも今は海外ですもんね!?」

 

「そうそう。だから部屋も余ってるし、一週間くらい泊まっても大丈夫だよ」

 

「ありがとうございます! そうしましょう! 先輩」

 

 何故か当事者の俺を置き去りにして話が進んでいる。

 

「―――と言う事で、一旦荷物を準備してからみはり先輩の家に行きましょう!」

 

「待ってるからね~」

 

「……いや、その……はい」

 

 流されるままに返事し、ぼんやりとしながら家に帰り、荷物をまとめて緒山宅へ。気が付いたら扉のチャイムを鳴らしていた。

 

 

 

 

 

「あきな君、いらっしゃ~い」

 

「……お邪魔します」

 

 ぺこりと頭を下げて中に入る。リビングにはポテトチップスを食べながら寝っ転がってゲームをしているまひろがいた。

 

「みはり~、誰か来た―――ん?」

 

「……お邪魔します」

 

 再びぺこりと頭を下げる。顔を上げると、まひろが唖然とした表情でこちらを見たいた。

 

「あきな? ……なんだ? その荷物」

 

「……なんだろうな。本当に」

 

「あきな君、今日から一週間家に泊まるから」

 

「あぁ、成程。それでその荷物……えぇ!?」

 

「……お邪魔します」

 

 まひろの叫ぶ声に、またしても頭を下げる。

 

 驚くまひろにニコニコしているみはりちゃん。そして何とも言えない表情で立ち尽くす俺という奇妙な光景が広がっていた。









 エアコンがない夏場は地獄ですよね。経験があります。休みの日なんて一日中マクドナルドにいましたよ。

 次回からドキドキ同棲生活編ですかね? 同棲かどうかは定かではありませんが……。
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