まずは休日出勤からです! 帰ってきたら小説書くんだぁ(白目)
「八神あきな、ちゃん?って言うの?」
「そ、そうです。よろしくお願いします」
引きつった笑みを携えて、面の皮の厚い嘘を並べ立てる。
「あきなぁ~? あきなか! うちの友達にもあきないるぞ! 兄妹か!?」
「兄妹だったら同じ名前にしないよぉ~」
場が笑いに包まれる。その中で苦笑いをする俺とまひろ。小首を傾げながら俺を見ているなゆた。
「……八神あきな、です?」
「……」
訝しむ様子のなゆた。彼女は藤村あきなが偽名で、本当は八神あきなである事を知っている。年齢も中学生でなく、大学生で二十歳である事も。
それを踏まえて目の前の幼女が八神あきなを名乗っている。なゆたからすれば訳が分からない状況だが、俺は伝わると思わないがそれっぽく目配せをしてみる。
「……!」
それを見たなゆたが少し考える素振りを見せた後にポンと手を打つ。そしてグッと親指を立てて自信満々といった表情をする。
正直、不安しかないが意図は伝わったと思いたい。とにかく適当に話を合わせて欲しいという意図が。
「あきなはまひろとどういう関係です?」
「え!? えっと~……」
初手で際どい質問してくるなゆた。……本当に意図伝わったか?
「ネットゲームで知り合ってさ~。ほら、わたしって自宅療養長かったじゃん? その時の繋がりでさ~」
オドオドしている俺に代わって、まひろが俺達の関係(設定)を説明してくれる。先程かえでさんに言った穴凹だらけの設定だが、まひろの説明を三人は聞いてうんうんと頷いている。
「へー、泊まりに来てるんだぁ」
「そうそう。夏休み中だけね?」
はははと笑いながら、それっぽい理由を即席で設定していくまひろ。……なんか手に負えなくなってきてるが、大丈夫か?
「と言う事は……一つ屋根の下って事!?」
ずいっとまひろに詰め寄る室崎。たじろぐまひろと、何処となく不満げな表情のもみじ。俺の方をじっと見つめるあさひ。……ん?
「……」
「あ、あの……何か?」
「……何か、あきなに似てるな」
「え!?」
ドキリと心臓が跳ねる。想定外の言葉にどう返していいか分からない。
「何言ってんの? あさひ」
じっと俺を見つめるあさひに、もみじがツッコミを入れる。
「あきな、あきなに似てないか?」
「バカなの?」
頭を軽く叩かれているあさひ。もみじ的にはあさひが何を言っているか理解できていない様だ。
あさひ視線から逃げる様に距離を取ると、あさひもそれに習って距離を詰めてくる。気が付くと、壁際まで追い詰められていた。
「んー?」
じりじりと止め寄ってくるあさひ。後ろは壁でこれ以上下がり様がない。左右のどちらかに逃げればいいのだが、どういう訳か身体が竦んで動けない。
「や、やめ……」
身体が密着するくらいまで近付いて来て、涙目になりながら目を瞑る。もうダメだと思ったその時、ぶへっというあさひの鳴き声が聞こえた。
「こら! あさひ! あきなちゃん困ってるでしょ!?」
目を開けると、頭を殴られたあさひがもみじに引きずられて行く。ほっと胸を撫で下ろすと、俺の前にまひろが立ち塞がった。
「こいつ、結構人見知りだからさ! 出来れば優しく接して欲しいな」
「ごめんね、あきなちゃん。内のあさひが馴れ馴れしくて」
あさひも床に伸びながら手で謝罪を意を示している。
「謝る必要ないです。ただちょっと……ビックリしただけ」
二人が謝る必要はない。寧ろ謝らなければならないのは俺の方だ。
もみじとあさひ、まひろにも、嘘を吐いて吐かせている。俺だけが嘘つきならまだしも、加担させてしまっている。
その事が、俺の胸を締め付けていた。これまで嘘ばかり吐いてきた男が、今更都合良く人並みの感情を抱いてしまっていた。
「今日は宿題する為に集まったんだよな!? 早速取り掛かろうぜ!」
話を逸らす様に切り出すまひろ。まひろの言葉で各々がテーブルに課題を広げる。あさひだけはもみじに促されて準備していた。
宿題をする準備が完了し、皆で夏休みの課題をし始める。
「そう言えば、かえでちゃんも今来てるんだけど、もみじ一緒に来なかったよな」
「私が先に家出たんだ。お姉ちゃん、準備に時間かかるし」
「もみじのねーちゃんもいるのか!?」
「あさひちゃん、もみじちゃんのお姉ちゃん苦手っぽいよね」
「水着を買いに行った時もそんな感じだったです」
女子達が会話に花を咲かせているのを、俺は少し離れた所から膝を抱えて見ていた。
出来ればこのまま二階にフェードアウトしたい所だが、どうにもタイミングを逃してしまっている。
「……」
「……?」
ぼんやりと皆を眺めていたら、不意にもみじと目が合う。
「あきなちゃんは宿題とかないの?」
「え?」
「そう言えば、あきなちゃんって幾つ? 中学生?」
「あー、えっと……一年生」
年齢は考えていなかったが、咄嗟に一個下と答える。
「学校の宿題とかないの?」
「宿題はもう終わってます」
「何ー!? ズルいぞ!」
「何がズルいの?」
声を上げるあさひに呆れ気味のもみじ。学校の宿題はもう終わってるから、嘘ではない。
「勉強終わったら一緒に遊ぼうね」
「遊ぶ……」
「おー! ゲームするぞ! ゲーム!」
「今日の分の宿題終わったらね」
既にやる気のあさひを咎めるもみじ。不服そうに課題に戻り、再び勉強が始まる。
もみじに気を遣われてしまった。中学生の女の子に気を遣われる大学生とは一体。そう思うと恥ずかしくなってきた。
今の俺はこの場で完全に浮いている。まひろもどう扱ったらいいのか分からずにチラチラとこっちを見ている。
気まずい。非常に気まずい。俺だけがそう思っているだけなのかも知れないが、複数人の中で一人孤立しているこの状況に身体がムズムズしてくる。
そろそろ強引にでも退室しようか。そう思っていると、まひろがわざとらしく「そうだぁ」と手を叩く。
「あきなも勉強しようよ! こいつ、実は頭いいんだよなぁー」
「え? そうなの? でも、一年生なんだよね?」
「大丈夫! 全然イケるから!」
そう言うと、俺の所まで来て腕を掴み、強引にまひろの隣に座らされる。
「ほら! 出来るだろ!? あきな?」
「お、おい。……まぁ、出来るけど」
促されるままに何問か解いて見せる。答えは全て正解。
「凄ーい! 本当に解けてる!」
驚く三人。中学生の範囲なので出来て当たり前だが、一個下の子が平然と解いていたらその反応は当然か。
「……良かったら、手伝いましょうか? 宿題?」
「え? いいのかぁ!?」
予想以上に食いついてくるあさひ。身体ごと接近してきた彼女に引き気味になっていると、もみじがあさひを離してくれる。
「こら! 驚かさないの! ……いいの? 手伝ってもらって」
「はい。暇ですし」
「ありがとうぉ!! あきなぁ!!」
こくりと頷くと、もみじの手から逃れたあさひが抱きついてくる。
「内の代わりに頼んだぞぉ!!」
「手伝って貰うだけで、代わりに宿題する訳じゃないんだよ!?」
ぎゅっと抱きついてくるあさひを引き剥がそうとするもみじ。その間俺は泡を吹いて青ざめていた。
「……」
その様子をまひろが心配そうに見ている事に、俺は気が付かなかった。
「はぁ……疲れた」
湯船に浸かりながら溜息を一つ。足を湯船で思い切り伸ばすことが出来るのは、身体が縮んだ恩恵だ。
熱めのお湯に浸かりながら今日の出来事を回想する。
皆で勉強(主にあさひ担当)をして、終わったらテレビゲームをした。夕方まで白熱して、中々楽しい時間ではあったが、もみじ達と「また会おう」と約束してしまった。この場合、藤村あきなではなく、八神あきなとして。
「面倒な事になったなぁ」
自分で招いた結果とはいえ、女の子の身体でもかえでさんやもみじ達と関係を持ってしまった。それが良い事か悪い事かはさておき、自分の中で男と女を使い分けなくてはならないのは相当に苦労しそうだ。
「……」
しかし、それは些細な事だった。問題……というか、発見してしまった事が一番重要だった。
今まで、女の子に触れられる事は何度かあったが、せいぜい手を握るとか、男女間での気楽なスキンシップ程度だった。だから気が付かなかった。
俺は女の子と密着すると、身体が震えて青ざめて、果てはリバースしてしまう程、女性恐怖症が深刻だった事に。
かえでさんに捕まった後もそうだったが、あさひに抱きつかれた後もトイレに駆け込んだ。まひろがまた心配してくれたが適当に誤魔化し、その後はあさひの飛び付きを警戒して事なきを得た。
ここまで重傷だったとは。確かに女の子と握手以上に触れ合った経験が俺にはない。まさか抱きつかれただけであの醜態とは……。
こんな体たらくで本当に女性恐怖症を克服できるのだろうか。中学生の異性と触れ合う事で改善を促すと言うのが謳い文句だったが、触れ合うとは何処までの行為を指すのか。正直、ハンドシェイク如きでは改善したとは程遠い。それこそ、男女の関係の果てに至る行為まで想定しなければ―――。
「―――何考えてんだ!? 相手は子供だぞ!? 犯罪にも程がある!」
熱いお湯で顔を洗う。これ以上想像するのは駄目だ。中学生の女の子相手に大学生がどうこう何て完全にアウトだ。身体が同じ年齢でも、倫理的にアウトなのだ。
女性恐怖症の克服は勿論大事だが、その結果で誰かに迷惑をかける訳にはいかない。あくまで俺の問題で、俺が悪いのだから、誰かの手を煩わせる訳にはいかない。
「問題は山積みだな」
女性恐怖症への認識や、女の子になった身体。自室のエアコンまで、どうにかしなくてはならない問題は尽きない。一つ一つ確実に対処していきたい所だ。
先ずは部屋のエアコンだが、これは修理業者が一週間後に来る。それで解決だが、修理の立ち合いにこの身体ではいけないので、あかり辺りに頼まなくては。そもそも、この身体についても相談しなくてはならない。みはりちゃんが連絡してくれると言っていたが、出来れば俺からの方がいいだろう。人任せにしてはならない。
これは俺の問題で、俺が解決しなくてはならないのだから。
「―――よし! 気合入れるかぁ!」
ざぱりと水しぶきを上げながら勢いよく立ち上がる。その勢いで揺れる二つの塊に違和感を覚えつつ、気を引き締め直す。
丁度、俺が立ち上がったタイミングと、風呂の入り口が開くのが同時だった。
「……」
「……へ?」
侵入者と目が合う。相手は胸元までタオルを巻いていて、少し恥ずかしそうに胸でタオルを押さえている。
対する俺は素っ裸。風呂に入っているのだから当たり前だが、お互いの髪の色とも相まって、白黒別れている構図みたいだった。
風呂に突然入ってきたまひろと数秒間目を合わせて、最初に悲鳴を上げたのは―――。
「きゃあああぁぁ!?!?」
俺だった。
最近は俺の力の及ばない出来事が多すぎる。身体が縮んだり、女の子になったり。文言だけで聞くと訳が分からないが、実際に起きている事なのでしょうがない。それらに比べれば、今直面している事態は割と普通だ。女の子と一緒に風呂に入るなんて、彼女が居れば有り得る展開だし、幼い頃をカウントしていいのなら、きょうだいや母親まで対象内だ。まぁ、女の子かと言われるとダウトだが。
詰まる所、当たり前なのだ。俺が今、まひろと肩を並べて風呂に入っていても。それは当たり前で普通の事……そう言い聞かせないと、精神が持たない。耐えられない。
湯船に二人。中学生と推定小学生の女の子が一緒に風呂に入っている。傍から見れば姉妹が二人でお風呂に入っている様な微笑ましい光景なのだが、現実はそんな生易しいものではない。
俺は男だ。見た目が女の子でも男なのだ。それが現役中学生の女の子と一緒に風呂に入っていい道理はない。それが家族、所謂身内で合意の元なら成立するのだろうが、事情を何も知らない子と一緒に入るのは普通に犯罪ではないだろうか? 俺が男と分かってて入ってきている分、情状酌量の余地はある程度か。
「……」
まひろが風呂に入ってきて、咄嗟に湯船に身体を隠し、そのまま同じく湯船に入ってきてから数分が経過した。出来るだけまひろから離れ、背を向けている。
―――熱くなってきた。このままだとのぼせる危険がある。そろそろ頭を洗いたいのだが……。
「……」
まひろをちらと見てみるが、まひろもまひろでそっぽを向いていた。何が目的で入ってきたのかは測りかねるが、こちらを向いていないなら好都合。さっさと洗ってさっさと風呂を上がろう。
「……なぁ」
湯船から上がろうとした時、まひろが話しかけてくる。中腰になっていた俺は、再び座り直す。
「……何?」
「余計なお世話かも知れないけどさ。聞いてくれるか?」
いつもより低いトーンで喋るまひろ。その声からまひろの真剣みが伝わってくる。
「オレはあきなの味方だから。何かあったら絶対に相談に乗る。頼りないかもだし、必ず解決できる保証はないけど……」
「……」
「何でも言ってくれ。力になるから」
「……あぁ」
また、気を遣われたのか。これも最近多いな。六歳も下の子に気を遣われて、本当に立つ瀬がない。
悪い癖が出た。何でも一人で解決しようとする悪い癖。風邪を引いた時に懲りた筈なのに。また一人で背負いこんでいた。
「……本当に、いいのか?」
「え?」
「本当に、頼っていいのか?」
背を向けながら聞く。まひろを直接見るのは犯罪と戒めているが、それ以上に顔を直視できない。
「―――勿論! と、友達だろ? オレ達」
「……ふん。言いおる」
思わず笑ってしまう。どういう訳か一人称も相まってまひろが男らしく見えてしまう。……もしかして、身体が女の子になっている弊害か? だとしたら恐ろしい。
誰かに迷惑はかけたくない。その気持ちは変わらない。でも、少しくらいなら、人に相談してもいいのかも。そう思えるくらいには、俺の中でまひろの存在は大きくなっていた。自分の弱い部分をさらけ出していいと思えるくらいには。
これが、まひろが言ってる、所謂―――。
「友達……か」
夜中。みはりちゃんも寝静まった頃、借りている主寝室の扉が開く。
パジャマ姿のまひろが入ってくる。まひろは俺が腰掛けるベッドの隣に座る。
「……」
数分間、沈黙が続く。まひろは俺が話し出すのを待ってくれている。本当に気を遣われる事しかないな。
「……話がある」
「あぁ」
「俺がかえでさんから解放された後、トイレ行ってただろ? あの時、俺を心配してくれたよな?」
「なんか、顔色悪そうだったから」
「あさひと絡んだ後もトイレ行ったけど、理由は同じなんだ」
「同じ……理由?」
小首を傾げるまひろ。俺は生唾を飲み、一旦深呼吸。
「まひろ。ちょっとこっち向いてくれるか? 身体ごと」
「ん?」
隣に座るまひろが、こちらを向く。ここでまた深呼吸。呼吸を整える。
「―――悪い」
「え? なに―――」
不思議そうにしているまひろを無視し、正面からまひろに抱きつく。
「お、おい!?!? な、何して―――」
「……!」
数秒抱きついた後、ばっと身体を放す。俺はベッドに身体を投げ出して、荒い息を吐く。
「今の何? と言うか、どうしたんだ? 息苦しそうにして……」
「……これが、俺なんだ」
動揺しながら自身の身体を抱いているまひろ。俺は天井を見上げ、目元を腕で隠す。
「俺は……」
初めて。自分から暴露するのは初めてだ。だから、目を見て話す事が出来ない。それが恥ずかしさなのか悔しさなのか、はたまた違う得体の知れない感情なのか、俺には分からなかった。
名状し難い複雑な思いを胸に、俺は吐露する。
「女性恐怖症なんだ。……俺」
「女性……恐怖症?」
「怖いんだよ。女の子が……」
怖い。あぁ、怖いんだ。女の子が。だから恐怖し、身体が拒絶する。
女の子を見るといつも思い出す。呪いの様に。振り払えない記憶として―――。
次回に続くと言った感じです。そろそろあきな君の過去に触れていこうと思います。
なんか散々匂わせてましたしね。本当はもっと上手く書きたいと思い続けて三ヶ月連載しています。そう簡単には成長出来んですね。