二日に一話上げてた三月の自分をどうしても思い出せません。もしかして、もう一人の僕が書いていたのでしょうか? 別人格疑うくらい今は無理なんですけど……。
人と話すのが苦手だった。相手が何を考えているのか分からず、何を言っていいのか、言っては駄目なのかが分からなかった。所謂「コミュ障」という奴だろうか。
当時はそんな言葉は無かったから、俺はただただ引っ込み思案の暗い少年という烙印を押されていた。
中学校に上がった俺は常に教室の隅で読書をしていた。髪の毛も寝癖だらけでボサボサ。女の子所か男の子すら周りに居ない。友達も、勿論彼女もいないぼっちな少年。それが俺。
自分の現状に不満がないと言えば嘘だったが、一人でいる原因は俺に起因している。だから文句は言えなかった。自分が他人とコミュニケーションを取れないのが悪い。
でも、本当は言いたかった。叫びたかった。
友達と下らない話をして。馬鹿みたいに騒いで。そして、恋をした相手と、青春を過ごす。そんな何気ない日々に憧れていた。
俺も誰かと一緒にいたかったのだ。
「―――よろしくね。弟君」
最初にその人と会ったのは、家のリビングだった。
家に帰ると大学生の姉の友達が数人、リビングのソファーに座って談笑していた。
最初は会釈する程度だったが、顔を合わせる度に話しかけられて、緊張しながらも会話を続けるうちに仲良くなった。
いつも一人だった俺にとって、彼女は初めての「友達」だった。
「―――楽しいね。あきな君」
二人で遊びに出かけるのが楽しみだった。休日にゲーセンに行ったり買い物したり。基本的には彼女に引っ張られて連れ回されていたけど、それでも楽しかった。
こんな時がいつまでも続けばいいと、本気で思っていた。彼女との時間は俺にとって特別だった。
この時からだろう。俺が彼女を友達以上として見ていたのは……。
「好きです! 付き合ってください!」
「―――うん。いいよ」
人生で初めて、人を好きになった。それは、単純に他者を好意的に感じた初めての経験だった。
家族も友達も、自分も好きじゃなかった俺にとって、彼女の存在は色んな意味で俺を変えた。
誰かを好きになれる。それを教えてくれた。独りぼっちの俺でも、人を愛する事が出来る。それを知った。
彼女を一生愛する。そんな恥ずかしい台詞を言ってしまうくらいに、俺は彼女に依存していた。
彼女が知らない男の人と一緒にいるのを目撃した。
姉に聞いた。姉曰く、最近出来た彼氏だろうと。
俺は信じなかった。だって俺が居るのに他の男と付き合ってるなんて有り得ない。彼女は浮気する様な人じゃない。いつも優しくておっとりしていて、少し抜けているけど大人なお姉さん。それが彼女なのだ。そんな彼女が浮気なんてするはずがない。
だから彼女に聞いた。冗談っぽく、勘違いだよね?っと。
「―――本気な訳ないじゃない。馬鹿じゃないの?」
そう言われた。本気じゃない。そりゃそうだ。本気な訳ない。だって俺が居るんだ。俺が居るのに他の男と何て―――。
「アンタが私と付き合える訳ないじゃん。ちょっと優しくしてやったら直ぐに懐いてきて、面白かったから遊んでやっただけだし。勘違いすんな」
―――その後の事は余り覚えていない。
ただ、気が付いてた時には部屋に居て、布団の中で丸まっていた。
それから暫く、湿っぽい枕を抱えながら、真っ暗で鍵の掛かった部屋で蹲っていた。
どれくらいそうしていたかは分からない。ただただ、時間が流れるのを待っていた。時計の針を眺めながら、動く秒針を自身でも数えながら。
あの時の感情が何なのか分からない。後から考えれば、ただ失恋しただけなのだが、それ以上に、俺は打ちのめされていた気がする。
誰にでもある失恋。そのはずなのに、抉り取られた様に心には傷が残った。肺が無くなった様に息が出来なくて、心臓が潰された様に胸が痛い。
失恋何て有り触れている当たり前。友達もいない、彼女もいない。勉強もスポーツも、何もかも平均以下な俺が唯一手に入れた「皆と同じ物」。そのはずなのに。
受け入れられない俺は、本当に弱いんだなぁ。心から、そう思った―――。
「怖いんだよ。女の子が……」
異性相手に「女の子が怖い」なんて告白するとは、我ながら情けない話である。しかも、実年齢は六歳以上年下と来たもんだ。
真夜中の一室で、まひろに女性恐怖症を明かした。今まで誰にも言って来なかった俺の恥部。
俺が女性恐怖症なのを知っている人物は何人かいるが、全て俺から伝えた訳ではない。ちとせ先生もあかりも、偶然、或いは相手から感づかれたのだ。だから、俺から告白するのは初めてだ。
どうして言うと思ったのか。言った後になって急に分からなくなる。
何でも相談して欲しいというまひろの言葉があったから……と言うのはいい訳で、本当は違う。でも、何が違うのか分からない。
まひろの思いやりは関係ない。それはきっかけに過ぎず、告白したのは俺の意思。俺が、まひろには知って欲しいと思ったのだ。彼女には、このまま隠し通す事は出来ないと。
それが何故なのか。どうして言おうと思ったのか。その気持ちに、今の俺では納得できないでいた。
「怖い……。てことは今まで―――」
「あぁ。クラスの女子とは距離を置いてた」
「そんな風には見えなかったけど……普通に話してる所は何度も見たぞ?」
まひろの言う様に、ある程度の会話をしていた。でも、俺は明確に線を引いていた。物理的にでなく、心理的に。
「全く話せない訳じゃないんだ。まひろも見た通り、話は出来る。―――でも、それは本当の俺じゃないんだよ」
「本当の……オレ?」
「―――異性と話す時、俺は『演技』してる。なるべく角の立たない優男って設定で」
「設定……」
「要は、嘘吐いて話してんだよ。本当の自分を包み隠して、しらばっくれてる」
弱くて情けない自分を見て見ぬフリして、都合のいい人格を演じる。
「演技してるとさ、結構自然に話せるんだよ。本当は怖くてたまらないのに……笑っちまうだろ?」
震える手を見る。さっきの抱擁での後遺症がまだ残っていた。
「じゃあ、オレと話している時も?」
「……よく分かんないんだ」
「え?」
「恐怖症ってのは精神病の一種だから、必ずしも同じ条件で発症する訳じゃない。要は気持ちの問題なんだ。最初はクラスの女子相手に演じてたんだけど、今は自然に、ありのままの自分で喋れてる。理由は……俺にも分かんない」
本当は、年下には発症しづらいという特徴があるのだが、上手く説明するのは難しい。
「だから、今は演じてない。俺は俺だ。……特にまひろ、お前の前では」
「それはどういう……?」
「何でか分かんないんだけど、お前とは最初から普通に話が出来た。女の子相手には必ず演じる所から入るはずなのに……」
クラスの女子と話す時、始めのうちは演じて話していた。でも、まひろだけは初手から素で話が出来た。それが謎だった。
「……それは―――」
「だから、まひろには感謝してるんだ。最初に話せたのがまひろだったから、少し自信が付いた」
もし、ファーストコミュニケーションが違う女の子だったら、自分への不甲斐なさに愕然としていたかも知れない。
でもまひろとだけは自然に話せた。女性恐怖症の事を忘れて、自分の言いたい事をはっきり言えた。……内容は口論のそれだったけど。
「―――は、恥ずかしいから一回しか言わないぞ!? 心して聞けよ!」
「お、おう?」
「あ……ありがとう、まひろ。……友達になってくれて」
―――結局の所、これが言いたかったからバラしたのかも知れない。女性恐怖症の件なんて、この言葉を伝える為の前振りに過ぎない。
ただ、感謝を伝えたかった。それが、風呂で言って貰った言葉に対する、俺の気持ちだ。
「……」
「……何か言えよ」
「……恥ずかしい奴だな」
「そんな事言うなよぉ……」
「ごめん……」
耳まで真っ赤になった俺達。お互いに暫く俯いていた。
今すぐ逃げ出したいくらい恥ずかしいが、これが紛れもない俺の本心。認められない部分は一旦置いておいて、まひろに伝えたかった俺の気持ち。
こんな回りくどい事をしないと感謝の一つも言えないのは、大人として、男として不甲斐ない事この上ないが、少しは進歩したと自負している。
あの頃、蹲って泣いていた頃の自分からは、考えられないくらい成長した。これで少しは、人並みに成れただろうか?
「―――なぁ、聞いていいか?」
「?」
「見た目はこんなんだけど、俺は男な訳じゃん? なのに、どうして風呂に入ってきたの?」
「風呂場なら逃げ場ないと思って。今日のあきな、言いたい事言う前に逃げそうだったし」
「それは……悪かった」
「―――それと、男同士だし、あきなならまぁ、見られても―――」
「ん? 何か言ったか?」
「―――っ、何でもないッ!」
「おい! 枕投げんなって!?」
偶にですけど、活動報告書くことにしました。執筆活動の合間の息抜きではあるので、不定期ですし中身のスッカスカだと思いますけど、もし興味があったら見てやってください。
この世の誰かが見てると思うだけで、個人的には励みになったりします。よろしくお願いします。