先輩はおしまい!   作:朋也

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 どうも、ゴミカスの嘘つきです。

 僕は嘘つきなので、信用しないでください。言っている事の九割は妄言です。

 嘘つきピエロは踊り続けるのみなのです。それが定められた運命なのです。














 投稿が遅れて大変、申し訳ありません!







あきなと夏と終わり(前編)

 ふと、昔の事を思い出していた。

 といっても、数年前で暦的にはそこまで大古ではないが、認識的には遥か昔、俺という人間が始まったレベルで古い。

 まさしくレベル1の頃。プロローグを回想していた。

 

 俺はどうやって恋をしたのだろう。

 

 初恋は中学一年生。その時の俺はどうして恋をしたのだろうか。

 容姿が優れていたから? 内面が美しかったから? それともたまたま、タイミングよく都合のいい場所に彼女が居たから?

 

 幾ら考えた所で思い出せない。思春期の複雑怪奇な思考をトレースするのは、今の俺には難しい。

 つまり、考えても意味はないのだ。答えは出ない。堂々巡りで巡り巡る。

 

 だと言うのに、そんな無駄な思考をしてしまうのは、俺の悪い癖なのだろうか。それとも、人間は無意識的にでも意識的にでも、過去を追い求める生き物だからだろうか。

 前を向いて生きている気になっていても、気が付くと振り返ってしまう。それは戻りたい時間への執着なのか、未来への恐れからなのかは分からない。皆が皆、後ろを振り返りながら、見えない道を進む。

 

 自分の事は自分が一番よく分かっている。……なんて、テンプレートな言葉は言えない。寧ろ逆。自分の事が一番分からない。

 それでも、何十年も付き合って来た「俺」の事なのだ。理由くらいは分かる。

 

 俺は後者だ。前者ではない。戻りたい過去なんてない。楽しかった思い出も、輝かしい時間も、俺にはない。

 それなのに後ろ向きで歩いて生きている俺は、後者も後者。後ろの正面から目を離せないで歩く、臆病者なのだ。

 

 俺はどうやって恋をした?

 

 いや、違うな。

 

 俺は、どうして人を好きになったのだろうか。

 

 今はただ、それが知りたくて、深い深い暗闇を見つめている。

 

 

 

 

 

 夏休みも終盤だと言うのに、うだるような気怠い暑さは健在な八月の猛暑。

 窓から覗き込むと、雲一つない青空は、眩しいくらいに鮮やかで、俺の心を嘲笑うかの様に透き通っている。

 

 そんな大海に溜息を吐きかけて、ベッドの上で膝を抱えて座る。所謂体育座りというやつだ。

 この座り方が健康に悪いと言われ始めたのは最近で、この座り方を強制されていた時代に生きていた俺からすれば、ファミコンのカセットに息を吹きかけると、金属に唾液が付着して劣化が早まると知った時くらい衝撃だった。

 だからと言って染みついた癖は簡単に治るものではなく、こうして体育座りで悩み事をするし、接触が悪いカセットには息を吹きかける。

 

「はぁ……」

 

 再び溜息。抱いた足をぎゅっと締め付けると、胸板と足の間にある緩衝材が潰れる。本来なら存在しないはずの肉の塊が押しつぶされ、何とも言えない感覚が脳から電気信号として身体に伝わる。

 

 俺の身体は現在「女の子」である。黒、もとい白ずくめ(白衣)の組織(大学の研究室)に所属する天才少女、緒山みはりの開発した「女の子になる薬」の作用で、男である俺の身体は、あるはずのない膨らみと、あるはずの出っ張りをそぎ落とした女体となってしまった。

 その前、女の子の身体になる前に、またも天才少女である藤村あかりの開発した「身体が若返る薬」で、大学生で身長百八十センチだったはずの俺の身体は、中学生程の身丈に縮んでいた。

 それだけでも始皇帝が求めたとされる不老不死に手を掛けているレベルの変化なのに、そこに加えて性転換までプラスのハッピーセット。いや、アンハッピーセット。

 

 キャラクリを間違えて手直しした感覚で変更された身体と性別なのに、それに加えてまさかまさかの、股に男性の武器が蘇ってしまった。ジメジメした日に股からキノコが生えそうとか冗談を言った事はあるが、まさか現実になろうとは誰が予想できただろうか。今回の場合、湿気を極めて水中だったが。

 

「はぁ……」

 

 再三の溜息。股にある馴染んだ大きさのそれを軽く触り、電気も付けずカーテンの隙間から差し込む光しか光源がない部屋の天井を見上げる。

 

 プールから戻り、改めてあかりとみはりちゃんから俺の身体の変化について聞かされた。

 曰く、薬の効力が弱まってきているらしい。後から飲んだ「女の子になる薬」の効力が切れかかっている。だから、身体が元の男に戻りつつあるのだと言う。

 

 大変喜ばしい事ではある。だが何故俺がこんなにも憂鬱な気持ちなのかと言うと、薬が完全に切れて身体が男に戻るタイミングが分からないからだ。

 万が一、外出中に身体が戻れば、女装趣味の変態男になるし、そもそも服のサイズが合わずにはち切れて、真っ裸という絶望の未来すらある。

 そんな一発お縄にならない為に、身体が元に戻るまで外出しない様にして数日。もう少しで夏休みが終わろうと言う時期になっても、生えてきたキノコ以外、身体にこれと言って変化はない。

 

 夏休みが明けるまでに治るのかという不安。何日にも部屋に閉じこもっている罪悪感。その他諸々の事情によりつかえた胸を少しでも楽にするために、大きな溜息を一日に数回出している。

 幸も不幸も裸足で逃げ出す今日この頃、今日も今日とて引きこもっている俺であった。

 

「……」

 

 正直、引きこもる事に関しては一家言ある俺だが、仮にも学生の夏休みで、引きこもる理由も「変態にならない為」なんて不条理な理由で布団に包っているのは、精神的によろしくない。どうにも思考が落ち込むし、無駄にイライラしてくる。かといって不用意な散歩に出かけた瞬間に身体が戻ってしまう恐怖に外出を縛られ続ける生活。

 その結果が、体育座りで顔を膝に埋め、ジト目で壁を睨んで我慢する今だ。ストレスを溜めるなという方が無理だ。

 

 もし、このままずっと一人だったら、気が狂っていたかも知れない。もうどうでも良くなって外に飛び出していたかも知れない。

 しかし、俺はこの家で一人じゃない。より正確には、俺は一人でアパートの部屋にいるのではない。

 

「入るぞー」

 

 軽いノック音の後に開かれたドアから入ってきたのは、長い髪を後ろに束ね、肩まで出ている服に短パンを履いたまひろ。

 

「あきなー、ゲームしようぜ~」

 

「やっと起きたのか?」

 

「いや~、休みはどうしても、ね?」

 

 ふやけた笑顔で誤魔化すまひろに、俺はふっと息を漏らす。どうやら夜遅くまでゲームをしていておそようらしい。実にまひろらしい理由だ。

 

 まひろの後を追う様に部屋を出る。薄暗い部屋から、明るい外の世界に。

 この瞬間が嬉しくて、まひろが来るまで引きこもっている節もある。

 

 ここは緒山家。まひろとみはりちゃん、事情を知る二人がいる家。それだけで、俺の心は救われていた。

 

 

 

 

 

 こうして肩を並べ、二人でゲームをしているのは、どうにもむず痒い状況だった。

 

 小学生の頃は引っ込み思案で特定の仲のいい友達はおらず、基本的には一人で。中学は言わずもがな一人で。高校は色々と「諸事情」があって案の定一人だった。

 その為、誰かと画面に向き合ってコントローラーを動かすという状況は、人生で殆どない。最近だけの話なら、ゆうたやみなととそれっぽい場面があったが、プレイしていたゲームがR18では、趣が違う。

 

「友達」と一緒にゲームをする。そんな当たり前が、俺には掛け替えのない瞬間に思えた。

 

 だから、つい、特に意味もなく、余計な話を始めてしまう。

 

「……なぁ、まひろ」

 

「なに?」

 

「俺さ、中学一年生の時に女性恐怖症になってから、中三まで引きこもりだったんだよ」

 

「……は?」

 

「何か、俺が大学生と『そういう関係』って噂が学校で広がってたみたいで、周りがコソコソ俺を指さしている気がして。それもあって二年生の一年間、引きこもってたんだよね」

 

「いや……え? ちょっと待て」

 

「三年の歳に転校って形で通信制の中学に入ったんだよ。そこで必死で勉強して何とか高校に入学できた訳さ。あ、俺が男子校にいたって話は高校の時なんだ。まぁ、大学は共学だし、俺が女子を苦手に振る舞う設定作りに利用したんだけど、決して騙す意図はなかったと釈明させてくれ」

 

 淡々と話す俺に、まひろの手が止まる。画面のまひろが操作していたキャラクターは棒立ちのまま、まともに俺のキャラクターのコンボを食らう。

 

「おい、どうした? 一ラウンド目取られただけだろ? まだ諦めるには早いだろ、ゲーマーとして」

 

「そうじゃないだろ! いや、言い分は激しく同意できるんだけど……そうじゃなくて!」

 

 音を立ててコントローラーを床に置き、思い切り隣の俺に顔を向ける。

 

「高校? 大学? 何言ってんだ? あきなは中学生……だろ?」

 

 動かないまひろのキャラクターをいたぶりながら、出来るだけ起伏のない声色を保つ。

 

「俺……本当は大学生なんだ。二十歳の大学二年生」

 

「……え?」

 

「身長は百八十センチ。一浪で大学入って、実はみはりちゃんと同期なんだよね。知り合ったのは入学して暫くの時なんだけど、俺から話しかけたから最初はナンパだと思われたらしくて―――」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」

 

 両手を前に突き出して制止を求めてくる。そろそろ二ラウンド目を取ろうかという所で、コントローラーを動かす手を止める。

 

「一旦、整理させてくれ」

 

「どうぞ」

 

「えーっとぉ? あきなは中学生じゃなくて、大学生? え? でも……え?」

 

 頭を抱えながら頭上に?マークが浮かびそうなくらいうんうんと唸るまひろは、暫く脳を悩ませた後、何か気が付いた様にはっとする。

 

「ま、まさか……そんな『薬』が……?」

 

「……薬、ねぇ」

 

 ワナワナと震えるまひろ。信じられない物を見る目を俺に向けている。

 まぁ、言いたい事は分かる。誰だっていきなり「俺は大学生だ」とか、中学生である自分の同級生が言ってきたら、こいつ頭おかしくなったのか?と思うだろう。俺もノータイムで病院へ連れていく。

 でも、そうはならないだろうと踏んでいた。まひろなら信じてくれる。いや、信じるんだろうなという確信に近い自身があった。

 

 これまでのやり取りや経験が、目の前の『人物』への、ある意味信頼と言ってもいい感情を俺に抱かせていた。

 

「まひろ」

 

「はい!?!?」

 

 混乱するまひろへ真っ直ぐ声を掛ける。まひろはびくりと肩を震わせ、背筋を伸ばす。

 

「俺は『子供になる薬』で、大学生から中学生になった。経緯とかは一旦省くけど、まぁ不可抗力ではある。俺の意思ではない事だけ言っておく」

 

「そうなのか……?」

 

 これだけは否定しておきたい。決して俺が中学校に通いたいと自発的に行った行動ではない。騙されて嵌められた結果なのだ。決して。

 

「まぁ、言いたい事はそれだけ。以上」

 

 改めてコントローラーを握り直す。

 

「ほら、まひろも早く」

 

「え? あ、あぁ」

 

 促され、ゲームを再開する俺達。暫く黙々とプレイしていたが、しびれを切らしたまひろが再びコントローラーを勢いよく床に置く。

 

「いや、待てって! そんな話聞いた後に平然とゲーム出来ないって!」

 

「―――また負けるぞ。これで俺の勝率が―――」

 

「本当は大学生で、薬で小さくなったのは分かったけど、どうして中学校に通ってるんだ? 理由は……いや、聞くのは野暮かも知れないけどさ」

 

 慌てふためくまひろ。俺はコントローラーを動かす手を止めない。

 

「理由? 理由か……」

 

 少し考えて、目を瞑る。数秒後に頭に浮かんだ「答え」を、そのまま口にする。

 

「取り戻したかったから、かもな」

 

「取り戻す?」

 

 まひろが小首を傾げた所で、部屋の扉が開く。

 

「おに……ま、まひろちゃ~ん? 今日は夕方から皆で夏祭りに行く予定でしょ? そろそろ支度しないとだよ~!?」

 

 入ってきた途端、俺の顔を見て、慌てながら早口で捲し立てるみはりちゃん。

 

「あ、もうそんな時間か」

 

「そうそう、分かったら早く来る!」

 

 そう言いながらまひろを連行し部屋を出ていく。部屋を出る前にまひろが俺の方を振り返っていたが、俺は画面を見つめたままだった。

 

 残された部屋で一人、動かない対戦相手を蹂躙しながら、益体のない言葉を呟く。

 

「未練がましいなぁ、俺は」

 

 

 

 

 

「あ、あきなさんも降りてきてください。着付けが間に合わないんで」

 

「え? どういう事?」

 

 

 

 

 

「……ハメられた」

 

「諦めろ。現実は非常なんだ」

 

 ポンと肩に手を置かれる。半泣きで振り返ると、優しいような、悟った様な目をしたまひろがいた。

 浴衣姿のまひろはとても可憐で、一度参道を歩けば目を惹かれる事請け合いだ。かく言う俺も、惹かれた男の一人でもある。

 

 そしてもう一人。両手に花(?)と言わんばかりで満足気な女の子がいた。

 

「二人共かわい~」

 

 そう言いながらうっとりとした表情でハートマークが飛び交っているみはりちゃんは、まひろと俺を交互に見やる。

 

「……まぁ、こうなるわな」

 

「慣れてるな」

 

 みはりちゃんからの賛辞に一切動じていないまひろ。俺の方は、着ている浴衣を見ながら変な所がないか探す。

 

「可愛い……か?」

 

「可愛い可愛い~」

 

「おうおう、似合ってるぞ」

 

 二人からの賛辞の言葉に、俺は恥ずかしさに視線を逸らす。格好いいだの可愛いだの、誉め言葉は幾ら聞いても慣れない。

 

 近所の花火大会に訪れた三人。浴衣姿のまひろと私服のみはりちゃん。そして、何故か浴衣姿の俺。

 

「どうして俺まで……」

 

「ちょうどまひろちゃんの浴衣頼んでたから、ついでにってね」

 

 嬉しそうに人差し指を立てるみはりちゃん。何がそんなにご満悦なのか分からないが、彼女的には俺に浴衣を着せる事に喜びを感じているのだろうか。まぁ、女の子に好みの服を着せたいという欲求は理解できるし、せっかく身体が女の子になっている現状なら、普段とは違う装いになるのも悪くはないけど……。

 

「……そうじゃなくて。今、外出するのは危険じゃないか?」

 

 ここ数日、緒山宅に引きこもっていたのは、身体が男に戻りつつあるからなのだ。もし、外出中に身体が元に戻ってしまったら大変な事になる。事件になってもおかしくはない。そんな危ない状態で、女物も浴衣を着て外に出ているのはどうにも落ち着かないしヒヤヒヤする。

 

「私もそう思いますけど、ずっと引きこもってるのも身体に悪いと思うんですよね。気持ちも塞ぎがちになるし、少しは外の空気を吸うのも大事だと思います」

 

「それは……そうだけど」

 

「何かあったら私がフォローします。だから、今日は花火を楽しんでみてもいいんじゃないですか?」

 

 微笑むみはりちゃんを見て、少しだけ涙が出そうになる。元を辿れば身体の女の子化はみはりちゃんが原因で、彼女的にはその責任を果たそうとしている為の行動なのだと分かっていても、その優しさに心が救われる。

 

「―――それに、あきなさんを花火大会に連れ出そうって言いだしたのは、まひろちゃんなんですよ?」

 

「え?」

 

 不意に顔を近づけたみはりちゃんからの耳打ち。

 

「内緒ですよ?」

 

 悪戯っぽく笑うみはりちゃん。当の本人であるまひろに視線を向けるが、俺達のやり取りに気付いておらず、辺りをキョロキョロと見渡している。

 

「もみじちゃんに誘われたのがきっかけなんですけどね。本人は恥ずかしがって言わないと思いますので、私から」

 

「それは秘密にしといてやってくれ……」

 

 表に出さない優しさが格好いいのに、台無しである。まぁ、男の子特有の分かりずらい優しさは、女の子から見れば煩わしいのかも知れない。

 

「……」

 

 今回のお出掛けはまひろの提案で、俺の身を案じていたのはみはりちゃんだけでなく、まひろもその一人だったと。

 

「……クソ、どうすんだよこれ」

 

 胸を抑えながら人探ししているまひろの背中を追う。履き慣れない下駄で転びそうになりながら。









 後編に続く。

 多分、今週中に投稿します。

 何としても。はい。
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