先輩はおしまい!   作:朋也

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何か、気が付いたら莫大な話数になってますね。

ここまで来るのに三十話かかりました。







あきなとこれからの決意

「先輩、何してるんですか?」

 

「見てわからんのか? ライン送ってる」

 

 スマホをピポパと操作する。メッセージアプリで連絡を取り、会う約束を取り付ける。

 

「誰に送ってるんです?」

 

「誰でもいいだろ」

 

「浮気ですか?」

 

「束縛彼女か」

 

 目的を終えたスマホをベッドに投げ、大きく背伸びをする。最近、寝転がっている事が多かったせいか、身体のあちこちからパキパキと音が鳴る。

 

「……成程。まぁ、そうなりますよね」

 

 冷蔵庫から飲物を取り出して戻ると、あかりが俺のスマホの画面を神妙な面持ちで眺めていた。

 

「決戦の時って感じですか?」

 

「何故、勝手にスマホを開いているのか。どうして開けれるのか」

 

「番号ロックは、指の動きを盗み見れば簡単に開けますよ」

 

「何でもない事みたいに言うな」

 

 人のラインを鼻歌交じりに漁る。相変わらず倫理観も道徳性も斜め上にずれている。

 

「約束は夕方ですか。なら、私はそろそろ帰った方がいいですね」

 

「? まだ昼前だけど」

 

「気持ちを落ち着ける時間とか、覚悟決める時間とか、必要でしょ?」

 

 またしても何でもない事の様に言ってのける。無駄に気が利く所もこいつにはある。

 常識的な行動はとらないが、知識としては持ち合わせている。それが藤村あかりという人間だ。

 

「さんきゅーな」

 

「お礼を言われる筋合いはありません。本当に」

 

 無表情のあかりが部屋を出ていくのを、小さく手を振って見送る。残された俺は、ベッドに身体を投げて、天井を見やる。

 

「覚悟、ねぇ……」

 

 あかりが何処まで理解しているのか分からないが、その言葉は言い得て妙だ。

 覚悟。それが問われるのは果たして、俺か、それとも―――。

 

 俺は不安な気持ちを振り払う様に、散歩に出かけることにした。このまま家に居ても、余計な事を考えてしまいそうだ。

 叶わない希望ほど、虚しいものはないからな。

 

 

 

 

 

 初めて目にした時、不思議と目が吸い寄せられた。

 

 初めて話した時、自然と会話が出来た。

 

 初めて手を握った時、心が安らいだ。

 

 最後のは朧げな記憶だけど、その時感じた温もりは、確かに残っている。

 

 もう後戻りは出来ない。変わらなければ前には進めない。もう後ろを見るのは止めにする。

 

 未来に向かって歩き出す。それが、どんなに険しくて過酷な道のりだとしても。

 

 

 

 

 

 玄関のチャイムを押すと、ドタドタと音が聞こえてきて、ドアが勢いよく開く。

 

「あきなッ!!」

 

 まひろが飛び出してきて、勢い余って転びそうになるのを支える。

 

「大丈夫か!?」

 

「それ、俺の台詞」

 

 俺に身体を支えられながら俺の心配をしている。どう考えても立場が逆だが。

 

「まぁ、なんだ。……大丈夫。元気だぞ」

 

 心配そうに見上げてくるまひろを安心させ、ひとまず緒山宅にお邪魔する。

 麦茶が注がれたコップに口を付け、一息ついてから本題に入る。

 

「ふぅ……、まずは謝らせてくれ。ごめん」

 

 テーブルを挟んで対面に座るまひろに深々と頭を下げる。勢い余ってテーブルにおでこをぶつけてしまった。

 

「連絡も無視して一週間も音信不通はやり過ぎた。本当にごめん。黙って居なくならないって言ったばかりなのに」

 

「別にいい……事はないな。心配したんだぞ。本当に」

 

 頬を膨らませるまひろ。可愛らしい態度ではなく、怒りの感情を多分に含んだ顔色。本当に心配してくれていたと伝わってくる。

 

「マジでごめん」

 

「……何かあったのか?」

 

 まひろの問い。意味合いとしては、『連絡が取れない程の理由はなんだ?』という事だ。学校を休んで、一週間音信不通だった理由とは何なのか、と。

 

「……」

 

 言葉に詰まる。求められている事は分かるし、答えの用意もある。でも、簡単には口にできない。それこそ、『答えられない理由』があった。

 数分間、沈黙が二人の間に漂い、お互いに気まずい空気感が揺蕩う中で、俺が重い口を開く。

 

「……俺の事情を語る前に、一つ聞きたいことがある」

 

「なに?」

 

「俺は薬を飲んで身体を縮ませて中学校に通ってた訳だが」

 

 確実な事実ではないけれど、俺の中では確信している。もし、違ったら、それでいい。それの方がいいかも知れない。どっちにしても希望はないのだが、ここではっきりさせなければならない。

 

「まひろ。お前はどうなんだ? お前は俺と同じなのか?」

 

 今までのやり取りや出来事から、疑わしくはあった。余りにも繋がり過ぎる配役。都合が良い人間関係に、怪しすぎる匂わせの数々。

 

 状況の全てが一つの答えに導いていた。まひろが俺と同類だと。

 

「お前も俺と同じ、大人なのか?」

 

「……」

 

「まひろ、お前は」

 

 

 

「女なのか、男なのか」

 

 

 

「―――オレは、」

 

 

 

 

 

『もしもーし、先輩?』

 

 軽いトーンで電話に出る後輩は、いつもの通りの口調だった。

 

『どうですか? 上手くいきました?』

 

「どうもこうもねーよ。……まぁ、上手くは纏めたけど」

 

『詳しく聞きたい』

 

「……取りあえず、学校は止めない。明日からは通う」

 

『ん?』

 

「帰ったら薬飲むよ。何か副作用とかないよな? 発熱とか。最初に飲んだ時はフラットな状態だったけど、今は一回違う薬を飲んだ後だし、なにか問題が出ても―――」

 

『ちょ、ちょっと待ってください!』

 

「ん?」

 

『そういう話が聞きたい訳じゃないんです!』

 

「じゃあ、何を?」

 

『分かるでしょ!』

 

 声を荒げるあかり。余りのボリュームにスマホを耳から離す。

 

「別に何もないよ。本当にさ」

 

『本当にぃ~?』

 

「本当に」

 

 念押しすると、でかいため息が聞こえてくる。

 

『ヘタレ』

 

「何がよ」

 

『……まぁ、先輩がいいならそれでいいですけど。―――聞いていいですか?』

 

「なに?」

 

『知った上で、どうですか?』

 

 あかりに似合わない真剣な声色で聞いてくる。まるで、俺に覚悟を問いただしているみたいだった。

 意味深な問い方だ。何をどう『知った』なのか。―――その答えは、俺の中にしかない。

 

「……そうだな」

 

 短く息を吐き、夕暮れの空を見上げ、清々しさと諦めにも似た感情が入り混じって、頭を乱暴に掻き毟る。

 

「―――知ってもなお、変わらなかったよ」

 

『その感情を、何て言うか知ってますか?』

 

「知ってる知ってる」

 

 電話を切って、空に向かって呟く。

 

 

 

「『面倒くさい』ってやつだろ? 思い出したよ」









ここで二章終わりって感じです。次回からは三章だと思ってもらえれば。

当初は、ここからの話を考えていたので、随分な遠回りです。おにまいは人生を教えてくれますね。
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