三章始まります。長らく投稿できなかったので、皆さん内容忘れていると思うのですが、ここから読んでも大丈夫です。多分僕も忘れてます。
一話目なので長くなってしまったのですが、お付き合い頂ければ幸いです。
注意
視点が変わる時は「♂♀♂♀♂♀♂」があります。
アイディアはパクりました。パクリ元すみません!許してください……
作品が長くなったので、あらすじ入れときます。ここから見れば大体の話の流れが分かるので、二章以前は読まなくて大丈夫です! 長いんで。
~あらすじ~
大学生の主人公『八神あきな』は、同じ大学の後輩『藤村あかり』に怪しい薬を飲まされて身体が縮んでしまった。
あかりの実験体として。そしてあきなの女性恐怖症を改善する為に、当時、引きこもりで殆ど行かなかった中学校に通う事になる。
学校生活を経て、何故か女性恐怖症が発症しなかった『緒山まひろ』に、恋心を抱いた。本当は男だと分かった後でもその気持ちは変わらず、日に日にまひろへの想いを募らせていくのだった……。
緒山家に泊まったり、女の子になったりする話もありました。今後それ関係の話題も出てくるので、情報として覚えていれば理解が早いと思います。
あきなとまひろと二人の距離
「―――いてっ!!」
ベッドから落ちる。後頭部を打つ。一週間に一回は落ちる。
頭を摩って眠たい目を擦る。見慣れた部屋の風景が瞳に映る。入居した当時は、とんだボロアパートだと思っていたが、一年以上も住めば慣れるもの。住めば都とはよくいったものだ。
我が家とも言える部屋で目を覚まし、カチコチになった身体を解す。
「……学校行くか」
夏休み明け。更に一週間が経った現時刻を持って、俺は中学校生活を再開する。
「おはよー」
久しぶりの学校は緊張するもので、何となく皆が自分を見ている感覚になる。まぁ大体は勘違いなんだけど。
「おはよー、久しぶりー」
「おはよう、あきな」
俺のぶっきらぼうな挨拶に返してくれたのはゆうたとみなと。夏休み中は殆ど会っていなかったが、休み前と変わらない二人にほっと胸を撫で下ろす。
「どうした? 心配事か?」
「いやさ。一週間自分だけ休んだ後の出勤って何となく緊張せん?」
「働いた事無いから分からないけど……」
何気ない会話を交わし変わりない二人の様子に、俺は何処となく安心感を覚えた。
暫く適当に話していると、女の子五人組が近付いてきた。
「おはよー」
「ああ、もみじ。おはよ」
仲良し五人グループに挨拶する。そう言えばもみじ達と話すのは彼女達にとっては久しぶりなのか。俺としては女の子の身体で会ったりしてたから久しぶりじゃないんだけども。
「久しぶりだなー。夏休み何してたんだ?」
あさひが無邪気に聞いてきたので、俺は事前に用意していた『言い訳』を披露する。
「……母親の実家に帰っててさ。去年は行けなかったから今年は、さ」
「祖父母の所って事?」
「そーそー」
みよが正確に事情を把握してくれ、もみじ&あさひが「なるほど」と頷く。
「……」
なゆたが無言でこちらを見ているが視線を合わせる気はない。何故そんな目を向けてくる? 君は俺の『事情』知ってるよね?
「帰ってくるのが遅くなって、一週間登校遅れたけど」
「まぁ、なんにせよちゃんと学校来てよかったよ」
「……」
まひろが話を締める。もう少しで予鈴が鳴る時間と言うのもあり皆自分の席に戻っていく。これで長らく休んでいた人間に対する洗礼は終わったかな?
「本当に来てよかったよ」
「……本当か?」
前の席のまひろだけがその場に残り、先程の話の続きを少しだけする。
「そりゃ……友達が居なくなったら、寂しいだろ……?」
「……」
頬を掻きながら少しだけ恥ずかしそうに言う。
「可愛い事言うじゃん」
「なっ!? か、揶揄うな!」
頬を赤くして怒っている。俺は適当にジェスチャーで謝罪の意を表明すると、まったく……、と言いながらも許してくれた。
「冗談でも可愛いとか言うなよ? 『オレ達』の間で言う台詞じゃないんだから」
「……冗談じゃないんだけどな」
小声でぼそりと呟いたのでまひろの耳には届かない。俺が何か言ったのは分かった様で、「ん?」と聞き返してきたが、適当に手を振って流す。
予鈴がなり、先生が教室に入ってきてホームルームが始まる。先生の声だけが教室に響く。生徒が皆、前を向いて先生の話を聞いている中、俺は前に座るまひろの後ろ姿を眺めていてた。
「……」
この半年間、毎日の様に見ていたはずなのに、その姿を見るだけで胸がざわつく。こんな頭のおかしい身体になってしまったのかと思う反面、その状態に不快感を感じていない自分がいる。
もう二度としないと思っていた。そんな失恋ソングみたいな事を言っていた。人の心は本人の意志だけではコントロールできないと言う事なのだろうか。
過去のトラウマを経て、俺は性懲りもなく、恋をしていた。
登校を再開してから更に一週間が経過した。夏休み終盤にあったドタバタ感が嘘だったかの様に俺は日常を取り戻していた。
ただ、変わった事もある。それを今日も遂行している。
「……おっす」
「いらっしゃーい」
ここは緒山宅。慣れた態度で中に入り、待ってましたと言わんばかりのまひろと、リビングでテレビゲームをする。
お互いの素性を明かして以来、こうして『男友達』として互いの家に赴き、ゲームしたり漫画読んだり、ありふれた友人としての交流をしていた。
「RPGを誰かとやるのもいいな」
「確かに。俺も大体一人でやってたしなー。みはりちゃんとはした事無いのか?」
「みはりは効率厨だから。レベリングを無表情で淡々とするやつとは相いれない」
光景が容易に想像できてしまう。モンスターを経験値でしか見ていなさそうなイメージはある。その姿を隣で見ているまひろがいたたまれない。
ソファーに座りながら、肩を並べてテレビゲームをする。俺がコントローラーを操作し、まひろが適度に指示を飛ばしてくる。
「この道どっち?」
「左」
「おっけー」
間髪入れずに右に曲がる。
「おい! どうして逆行った!?」
「そういう流れかなって」
「フリじゃねーよ!? 右はモンスター多いし、レベルも高いから避けた方が―――あ」
まひろの忠告も空しく、パーティーは全滅しゲームオーバー画面が赤字で表示される。
「……何してんだ?」
両肩を掴んで揺さぶってくる。ぐわんぐわんと揺れる視界の中で適当な謝罪を繰り返す。
「めんごめんご」
「ったくよー。貸せ! オレがやるから」
コントローラーをぶんどって、プレーを再開するまひろ。
「詰めろ詰めろ」
ソファーの中心に座っていた俺を押しのける様に、身体を寄せてくる。自分がメインで操作するから場所を空けろって事なんだろうが、……出来れば一声かけて欲しい。
「……くっついてくんなって」
「ん? なんか言った?」
「別に……」
小声で抗議するが、まひろの耳には届いていない。何事も無かった様にゲームを再開する。
ピコピコとボタンを楽しそうに押しているまひろを横目に見て、俺は咄嗟に顔を背ける。
(―――っ!! くそッ!! 可愛いなぁコイツ……ッ!!)
なんだこの可愛い生き物は!? どういう事なんだ!? 誰か説明してくれって!!
隣に座る生物が余りに可愛すぎて顔を逸らしてしまう。鏡はないが、顔が真っ赤になっているのが分かる程に熱い。とにかく顔が熱い。
俺とまひろが同じ境遇。薬を飲んで身体が小さくなったもの同士であると分かってから、まひろの俺に対する距離感がバグりだした。さっきみたいに平気で身体をくっ付けてくるし、今までになかった身体への接触、ボディータッチが増えた。本人はそのつもりはないのだろうが、されている側であるこっちとしては気が気じゃない。こいつ、俺が女性恐怖症だってこと忘れたのか?
普段は女の子として生活しているまひろ的には性別関係なく気兼ねない俺は都合が良い存在で、それが行動に現れているのかも知れない。
しかし。だがしかし。俺としてはたまったもんじゃない。ここ最近。毎日毎日死にそうなくらい心臓が暴れている。
元からまひろには女性恐怖症が発症しづらく、中身が男だと分かった時点で、殆ど症状は出なくなった。確かにそう言う意味では俺にとっても異性(?)で症状が出ないまひろの存在は有り難い。しかし! だがしかし!
そんなことより何よりも、まひろへの想いを自覚して此の方恐怖症とは別に心臓がバクバクドキドキしている。女の子の外見をしているまひろより遥かに俺の方が乙女である。
(不用意に触れるな! 突然触れるな! 意味もなく触れるな!)
まひろの顔を見ると心拍数が上がるし、なんかいい匂いするし、身体が当たると柔らかいなとか思っちゃうし、声可愛いし顔可愛いしとにかく可愛い……ッ!!
「……うぉおおお!?!?」
「うわっ!? どうした!? いきなり叫んで」
高まる感情を声に出して吐き出す。隣のまひろがびっくりしてこちらを見ているが、俺はそれどころではない。
(ヤバい! ヤバい! なんだ? どうしてこんなに……!)
胸の高鳴りを抑えられない。ちらりと隣のまひろを見ると訝しむ様にこちらを見ている。
「だ、大丈夫か?」
「な、ななな何が!?」
「いや、いきなり叫んだりして」
「違うぞ!? さっきのは遠吠えだぞ!? 勘違いすんな?」
「……何が違うか分からないけど、本能かストレスかで対応変わってきそう」
再びゲームプレイに戻るまひろを見て、一旦冷静さを取り戻す為に深呼吸をする。
(……落ち着け。好きと言っても、あくまで一般的な恋愛感情のはずだ。相手が男なのは一旦置いておくとして、こんなに興奮するのはおかしい。初恋って訳でもあるまいし。これじゃあまるで、思春期男子の性欲全開のオナ猿ではないか……! 落ち着くんだ俺。心を鎮めるんだ……)
ふぅ、と一息。平常心。平常心。写経をしていたあの時の感覚を思い出せ。無心の境地を。
(―――よし。大丈夫。いつも通りだ)
調子を取り戻した俺はゲーム画面に視線を戻す。今俺は『友達』と二人でゲームをしている。それを肝に銘じて置けば取り乱すことはない。
何てことのない。友人との放課後でないか。意味もなく駄弁って、意味もなく笑い、意味もない時間を過ごす。これ程の至福を差し置いて何が恋愛だと、私は言いたい。
(お、気が付いたらさっきより進んでんな。そろそろボス部屋だし、セーブポイントが近いはず………………こいつ、まつ毛長いな)
気が付くと隣のまひろを見ていた俺は、はっと我に返る。
「違うだろぉがぁあああッ!?!?」
「えぇ!? ボス前だし、ちょっとレベル上げようと思ったんだけど!?」
絶叫しながら両目が潰れんばかりに手で押さえつける。まひろはまた肩をびくりとさせる。
(はぁ、はぁ、はぁ、これは本気でマズイぞ……!)
俯きながら荒い息を吐く。隣のまひろが若干引き気味でこっちを見ているが、またしてもそれどころではない。
「―――トイレ行ってくる」
「お、おう。お大事に?」
ふらふらとした足取りでリビングを出る。トイレに向かう道中で、誰も応えてくれない疑問が口から零れる。
「本当にどうすんの、これ……」
♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂
最近、あきなとゲームする機会が増えた。お互いの『素性』を明かしてからは『女の子として取り繕う』必要がなくなり、気兼ねなく一緒に居られるあきなとの関係はオレにとって貴重な一時となっていた。
しかし、いつも何となく二人でゲームするだけの時間に飽きが来ていた。
「負けた方が罰ゲームな」
そこで提案する。日常のスパイスとして。
「自分が優位のゲーム展開の最終盤で言うの質悪くね?……別にいいけど」
「言ったな?」
思わず笑みが零れてしまう。対戦ゲームをしているオレ達。ゲーム展開は間違いなくオレが優勢。逆転の芽も殆どない状況にも関わらず提案に乗って来るとは。余程自信があるのか?
「後悔すんなよ!」
「そっちが、な?」
表情を変えずに淡々とプレイするあきな。オレもコントローラーに力が入る。絶対に負けられない戦いがここにある。
結果、オレの勝利。両手を挙げて歓喜する。
「シャアァッッ!!」
「……なんか頼み事でもあんのか?」
「アイス食いたい!」
「その為の罰ゲームか……呆れた」
はぁ、と溜息を吐くあきな。反論したい気持ちはあったが、まぁ実はそうだから何も言えない。
「わかったわかった。買ってくるよ」
「おし!」
思わずガッツポーズ。勝利の余韻に浸っているオレを『見た事無い目』で見ているあきな。どういう感情なのか。友達をパシリにする所業に呆れているのだろうか。
アイスは後で買いに行ってもらうとして、ゲームを再開する。
「次も罰ゲームな」
始まって早々に今度はあきなが罰ゲームの提案をしてきた。
「なんだぁ? 悔しいのか?」
「……」
挑発するが反応はない。さっきと同じく黙々とプレイする。つまらんと思いながらも提案を承諾する。
二回戦目。またしてもオレの勝利。
「おっけー!!」
はしゃぐオレの隣で無表情のあきな。
「よわーい、よわーい」
「メスガキかよ」
煽りまくると流石に顔をしかめる。
「さーて、アイスにケーキも追加するのもいいけどなぁ~」
フレーバーをどうするか若干悩んだが、食べ物を奢らせるだけなのは芸がない。罰ゲームというくらいなのだから、苦痛を伴うものもいいかも。
「―――そうだ、くすぐりとかどうだ?」
「……?」
指を立てて提案すると、首を傾げて疑問符のあきな。
「小学生かな?」
「いやいや、くすぐりって結構辛いんだぞ。拷問にもあるくらいだし」
「拷問する気なん?」
「いいからいいから、ほらほらぁ」
構えながらにじり寄ると、あきなは不満そうな顔で、
「……はぁ、幼稚だな。まぁ、まひろの考える案なんてその程度かー」
「―――っ!! このやろーッ!!」
カチンときて勢いであきなに飛びかかる。正面から押し倒しあきなの脇腹をくすぐる。
「うわッ!? 何して……ふふ、ん……ふぅ……!」
「どうだ! 苦しいだろ?」
馬乗りになって脇をくすぐると、声を我慢しながら悶えるあきな。
「ほれほれ、参ったか?」
「ふ……ふふ。べ、別に……?」
「強がりやがって。―――これでもかぁ!?」
更に激しく脇をまさぐる。顔を赤くしながら耐えているあきなの顔を見ていると、段々『おかしな気分』になってきた。
これ……エロいな。―――ヤバい。何か変な気分になってきた……!
息を荒くしながらくすぐり続けるオレ。床に爪痕が残るのではないかというくらい指を立てながら荒い息づかいで我慢するあきな。
お互いに止める様子もなく、数分間くすぐり続けた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「だ、大丈夫か……?」
ソファーに横になって疲れ果てているあきなをうちわで仰ぐ。結局あきなは根を上げず、オレが先にギブアップした。
汗びっしょりの額を袖で拭いてムクリと起き上がる。
「……全然余裕だったな」
「まだ強がるのかい」
荒い息づかいで全く説得力はないが、表情だけは余裕そうだ。
「ゲームするぞ」
「まだやるのか?」
「当たり前じゃ」
コントローラーを握り臨戦態勢。流石の負けず嫌いだ。
さっきはやり過ぎたし一回くらい負けてやってもいいかも知れない。そんな贖罪の気持ちで対戦した結果、手加減した訳ではないのに負けてしまった。
「あ」
思わず声が出てしまった。そのせいもあるのだが、画面に気を取られていたせいであきなの次の句が聞こえなかった。
「―――計画通り」
「……え? 今なんて―――」
「それじゃ、遠慮なく」
聞き返すが返答はなく、代わりに伸びてきたあきなの手がすっと、オレの脇に触れる。
「ひゃいっ!?!?」
またしても思わず声が出る。
「な、ななな何して―――!?」
「いや、罰ゲームだろ?」
「罰ゲーム?」
両腕を抱きながらソファーの端まで離れる。対するあきなは『不自然なくらい無表情』で、
「まひろが提案したんだろ? くすぐりが罰ゲームって」
「そ、そうなんだけど……」
「まさか人には罰ゲームと称して拷問しておいて、自分は無しなんて言わないよな」
「うぅ……それは」
ぐうの音も出ないロジックを掲げながらにじり寄ってくる。勿論罰ゲームは受けるつもりだったが、自分がくすぐられるとは思ってなかった。
別にくすぐられたくないとかじゃないんだけど……さっきの『変な気分』を今度はあきながオレに対して感じるのかと思うと……。くっそ! 最初にくすぐったせいで断りづらいっ!!
「ま、待て! 他の罰にしないか?」
「なんで?」
「いやー、ほら? オレくすぐり苦手じゃん?」
「知らんけども」
何とか言い訳を捻りだそうとするが全くまともな理由を思い付かない。その間もあきなが指をワキワキと楽しそうに躍らせながら近づいてくる。
結局何も思い付かないで壁際まで追いやられる。もはや涙目のオレだが、あきなは止まる気配を見せない。
「お、女の子に乱暴する気か!?」
「乱暴? くすぐりだろ?」
「くすぐりは拷問にも使われてるんだぞ!?」
「友達に拷問するな」
「女の子に拷問するのか!?」
「男だろ?」
「―――っ!! そうだけどさぁ!?」
壁を背にしてもう逃げ場はない。背中を擦る様に座り込むと、すかさずあきなが片手をダンッ!、と壁に付ける。所謂、壁ドンだ。
「う、うぅ……」
「往生際が悪いぞ。それでも男か?」
「……ま、まひろ女の子だから分かんな~い」
てへっ、と可愛らしく愛想を振りまいてみてもあきなは止まらない。
「わーっ!! ご、ごめんなさいっ!! 許してー!!」
「大丈夫。優しくするから」
「無駄にいい声で言うな!!」
あきなの手が身体に触れる寸前、オレは何も考えず咄嗟に、
「何でもするから許してくれぇーっ!!」
「!」
涙目で叫ぶとあきなの手がピタリと止まる。
「何でも?」
「……へ? あ、いや―――」
「今何でもって言ったよね?」
不敵に笑うあきなを見て気が付く。まさかこれを狙っていたのか!?
「くっ、卑怯者!」
「人聞き悪いなぁ。自分で言ったんだろ?」
意味がないのは分かっているけど文句を言ってみる。勿論オレの意見は聞き届けられない。
「―――安心しろ。別に大した要求をするつもりないから」
「へ? そうなの?」
「大それた要求しても実現しなさそうだし」
「……何となく言い回しが気になるなぁ」
少し不服だがほっと胸を撫で下ろす。そりゃそうだよな。何でも言う事聞くなんて漫画やアニメじゃあるまいし。
「それで? どんなお願い?」
「うーん……、じゃあ、ハグで」
「あぁ、ハグね。はいはい、りょうか……え?」
気楽に聞いていたので、理解するまでに時間が掛かった。
「は、はぐぅ?」
「ハグ」
聞き返すと真顔でオウム返ししてくる。
ハグって、所謂あれだよな? 抱きつくみたいな……それも正面から……。
「曲がりなりにも罰ゲームという建前があるからな。されて嫌な事じゃないと。苦痛っていうのは何も肉体的ダメージだけじゃない。精神的ダメージもある」
「精神的?」
小首を傾げるとあきなはニヤリと笑って、
「恥ずかしいだろ? ハグ」
「……ん~!」
見透かされた様な気分になって腹が立つ。ここまでの流れもその笑みも。
「……別に恥ずかしくないけど?」
「ほぉ~?」
「別にハグぐらい楽勝だしぃ? 別に男同士だしぃ?」
「別に多いな」
精一杯強がってみせるが全くあきなには響いていない。口笛を吹きながら両手を頭の後ろ手にしている様は、心なしかこちらを嘲笑っている様にも見える。
「くそっ、バカにしてるな……!?」
「べっつにぃ~、ほれほれ」
そう言いながら両腕を広げるあきな。
「どうしたぁ~、来ないのかぁ~?」
「……っく!」
明らかな挑発だが、まんまと乗ってしまう。
「お、お前から来いよ!」
「えー、だってー。またビビって逃げられたら困るしー。“また”、“ビビって”」
こちらも両腕を広げて応戦したが、何てことないといった様子で煽ってくる。無駄にビビるを強調してきやがって……!
「―――っ!! ええいっ!!」
ここまで来たのは自分のせいだ。もう後には引けない。そんなちっぽけなプライドを捨てられないオレは、意を決してあきなの胸に飛び込んだ!
「おっと」
真正面からタックルに近い形で突撃したオレを受け止めるあきな。
「……おい」
「ナニ?」
「これはハグじゃなくないか?」
「ナンノコトカワカラナイ」
不満を口にするあきな。それもそうだ。身体と身体の間に両腕を挟んで、抱きついてるのではなくくっ付いているだけの状態をハグとは言わない。オレもそう思う……けど。
「うぅ……、だってよぉ~」
だってめちゃくちゃ恥ずかしいんだもん! 何でこんなに恥ずかしんだ!?
ハグではないけど抱きつかれる事は何回かあった。かえでちゃんにもみじやあさひ。決して自分から抱きつく事はしていないが、経験として多少は慣れているものだと思っていた。
それがどうだ? あきなの胸元に身体をくっ付けているだけなのにとんでもなく恥ずかしいし、身体が謎にムズムズする。見てなくても顔が赤くなっているのが分かる。
今すぐにでも離れたいが、どうしてもあきなの表情が気になって、真っ赤な顔で胸元から見上げる。
「……」
「え? もしかして」
あきなの顔を見ると、貼り付けた様な無表情に薄っすらと赤らめた頬が見て取れた。
「お前も恥ずかしいのか……?」
「……別に?」
ちょっと前にも聞いたような言い訳。声のトーンも同じ。くすぐりを我慢している時と同じだ。
つまり、嘘。あきなも恥ずかしがっていると言う事か?
「……へへ」
「何にやけてやがる」
「自分も恥ずかしいなら最初からそう言えっての」
「……恥ずかしくないけど?」
抑揚のない声で否定するがオレには分かる。強がっている姿を見ていると、くすぐっていた時と同じ、名状し難い高揚感が湧き上がってくる。
「ほれほれ、恥ずかしいんだろ?」
胸元を指でなぞると、背中をびくりと震わせる。
「身体は正直だなぁ」
「……おのれっ」
顔をしかめるあきな。その態度に大層満足するオレ。これでお相子だ。
「ふぅ、お互い罰だったって事で終わりに―――」
あきなの身体を両手で押す様に離れると、瞬時にあきなが抱きついてくる。
「ひゃっ!!」
三度目の変な声。何度驚かされれば気が済むのか。しかも、今回は今日一番の驚愕なんだけど!?
「な、なななっ!?!?」
正真正銘。真正面からのハグ。身体の全面が密着していて、心臓の音を感じられそうな程だった。
「お、おま、おま、な、なにして……!?」
「……恥ずかしくないし」
「まだ強がってんのかよ!?」
そう言いながら見上げたあきなの顔は真っ赤だった。負けず嫌いにも程があるだろ!?
行き場を無くした両手が意味もなく空を切る。背中に回された腕から、くっ付いている身体から、あきなの体温が伝わってくる。
心臓が張り裂けそうな程バクバクしている。それが果たしてどちらのものなのかも判断できない。それくらいには冷静さを失っていた。
「これがハグ。そうだろ?」
「……まぁ、そうだな」
「分かったなら、お前もする事があるだろ」
「?」
「罰ゲームは“ハグ”、だぜ?」
頬を真っ赤に染めながらも不格好に笑みを作るあきな。
……言いたい事は分かる。分かってはいるが、………………ああ、もうっ!!
「っ!! 分かったよ!! やればいいんだろっ!!」
もうやけくそだった。恥ずかしいとかムカつくとか、罰ゲームとかもうどうでもいい。
ただ、ここで引いたら男じゃない。色んな意味で男としての尊厳もプライドも失ってしまう。そんな気がした。
震える両手をあきなの身体に回し、今まさに『ハグ』が成立する瞬間、
「ただいまー」
突然、リビングの扉が開いたのだ。
「靴があったんだけど、あきなさん来てる……の……」
固まるみはり。オレ達は「あ」っと綺麗に声がハモる。
「………………お邪魔しましたー」
自宅であるにも関わらず、そそそとリビングから出ていく。暫く沈黙が部屋を包んだ後に、オレは慌ててみはりを追いかけた!!
「違うぞみはりぃ!! お前は勘違いしてるっ!!」
縋りつく様にみはりを捕らえ、身振り手振りで説明という名の言い訳を並べ立てる。
結局、あきなと協力して誤解を解くことになった。しかし誤解が解けたら解けたで冷ややかな目で見られる羽目になった。
……罰ゲームなんてオレが言いださなければこんな事にはならなかった。悪い事を考えるとそれ相応に罰が下る。最初から、オレには罰が決定していたって訳か。もう二度と賭け事はしないと心に誓った。
♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂♂♀♂♀♂♀♂♀♂♀♂
「はぁあああ、死ぬかと思った~……」
心臓を抑えながら、荒い息を吐く。過呼吸になりそうな程口をパクパクさせて、その場に仰向けに倒れる。
「やっばい。どうにかなりそうだった」
ぼそりと自分でもドン引きの発言をしている。正直、最初はこんな事になるとは思ってなかった。
自分からそういう展開になる様に誘導しておいて、いざ思惑通りの状況になると尻込みしてしまった。だからまひろからくっ付いてきた時は心臓が止まるかと思った。実際には、爆発するくらい心臓が過剰に動いていたけれど。
廊下から聞こえてくるまひろの声を聞きながら、まだ鼓動が早い胸の上に手を置いて、虚空にぼそりと呟く。
「―――またしたいな。罰ゲーム」
こんな感じで進みます。最終章ではありますが、何処まで続くかは僕の頑張り次第でございます。
誤字脱字があったら、教えて頂けると助かります。
読んで頂いてありがとうございます。次話もなるべく早く投稿致しますので、よろしくお願いいたします。