先輩はおしまい!   作:朋也

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ノリと勢いで投稿。
大体直ぐにガス欠になる。







あきなと未成年(?)達

「やぁやぁ、よく来てくれたねぇ」

「……」

 

 ニタニタと笑う変質者を前に身の危険を感じる。鳥肌を抑える様に両腕を抱える。

 

「緊張しなくていいんだよ。お姉さんに任せて、さぁ」

「通報します」

 

 取り出したスマホを軽快に操作すると、慌てた様に縋りついてくる。

 

「ごめんごめん! 冗談だよ……」

「先生が言うと冗談に聞こえないんですよ」

 

 いや~と後頭部を掻きながら謝罪するのは吾妻ちとせ。あかりやみはりちゃんがいる研究室所属の若き准教授。『小さくなる薬』や『女の子になる薬』の開発に関わっている真の黒幕である。

 今日は俺の身体の検査をしたいと言われて呼び出された訳だが、会って早々にセクハラを受けそうになっている。

 

「あきな君は小さくなる薬と女の子になる薬を同時に服用した貴重なサンプルだからねぇ」

「人をモルモットみたいに言わないでください」

 

 怪しく光る眼鏡が実にいやらしい。

 

「体調が心配なんだよ。まだ試みていない実験にはイレギュラーが付き物だから」

 

 相変わらずの被験者扱いだが、彼女的には直接的な分かりやすい表現をしているだけなのだろうが、彼女の理系的な物言いは『昔』から変わらない。

 

「まぁ、俺も不安なんで協力はしますけど」

 

 いそいそと服を脱ぐ。上半身が裸になった所でちとせ先生がじっとこちらを見ている事に気が付く。

 

「どうしました?」

「―――いやなに。随分躊躇なく脱ぐものだと思ってね」

「恥ずかしいんですか?」

「逆に恥ずかしくないのかい?」

「昔から姉に見られてたんで、『そういう人』にはあまり抵抗ないですね」

 

 昔はよく、勝手に風呂に入られたものだ。まぁ、昔も昔、小学生までの話ではあるが。

 

「……言い回しから何となく失礼な気配を感じたんだが、気のせいかな?」

「気のせいです」

 

 間髪入れずに否定する。納得はしていない様で不服そうだったが、それ以上言える言葉もない。

 年上の女性には恐怖もあるが、それと同じくらい異性としての対象では無くなっていた。

 

「先生を異性としてみる事は死んでもないので安心してください」

「やっぱり失礼なニュアンスが含まれていたね……?」

 

 

「―――これで一通りの検診は終わったかな」

 

 紙パックの百円ジュースを飲んで待機していると、バインダーを見ながらちとせ先生が部屋に戻ってきた。

 

「結果は後日ね」

「まだ出てないんですか?」

「検査結果をそのまま伝えるのは味気ないだろ?こちらで簡単に要点をまとめてから知らせるよ」

 

 人間ドッグみたいにね、と付け加えて机にバインダーを置く。まぁ、専門家が整理して教えてくれるというのなら有り難い話だ。

 

「……まぁ、問題なしならいいですけど」

「それはどうかな?」

「不安になる事言わないでください」

 

 にししと笑う顔が実に忌々しいが、俺には天命を待つしかできない。

 

「―――あぁ、帰るならそこのお菓子を上げるよ」

 

 そう言いながら机に置いてある紙袋を指さす。

 

「貰い物なんだけど、私一人では食べきれないからね」

「研究室の人で分ければいいのでは?」

「まぁ、それはそうなんだけど……そのお菓子、チョコなんだけどブランデー入りなんだ」

「?」

 

 説明を聞いてもよく分からない。ブランデー。つまり酒の一種だが、それの何が問題なのだろうか?

 

「チョコ、苦手な人がいるんですか?」

「チョコではないんだけど……。―――うん、とにかくあげるよ。結構お高い物らしいから」

 

 どうぞどうぞと勧めてくる。高価なものと聞くと胡散臭く感じてしまうが、貰えるものは貰う。まぁ、それはそれとして。

 

 紙袋を見ながら無意識に口元が歪む。

 

 ―――まひろの所に行く口実ができたな。

 

 

 

「あきなさん、いらっしゃーい」

「お邪魔します」

 

 玄関で出迎えてくれたのは、ツインテールに白衣姿の、よく考えればどういう組み合わせなのかと頭を捻ってしまうファッションの少女、緒山みはり。あかりと同じ研究室所属で、まひろの妹さんだ。

 リビングに案内され椅子に座ると、待ち構えていたかのようにコーヒーが運ばれてくる。

 

「ありがと」

「どういたしまして」

 

 ブラックのコーヒーを一杯。身体に染みわたる。

 

「ふぅ……あ、これ、お土産」

「何ですか?」

「いい所のチョコらしい。ちとせ先生から貰ったんだけどさ」

「先輩から? ―――わぁ、確かに高そうなお菓子ですね」

「結構量あるっぽいし、俺一人じゃ余るから」

 

 ありがとうございます!と喜んで受け取ってくれる。

 

「でも、多いならあかりと食べればいいじゃないですか?」

「アイツにシェアの気持ちなんてない。絶対一人で全部食べる」

「あかりが聞いたら泣きますよ~」

 

 軽い雑談をしながら、俺はわざとらしくきょろきょろと辺りを見渡す。

 

「……まひろは?」

「もみじちゃん達とお出かけです」

「そうか……」

 

 休日の午後なので可能性としては大いにある話なのだが、若干テンションが落ちている自分がいた。余りにも女々しい自分が恥ずかしくなる。

 本来の予定では持参したチョコを二人、又は三人で食べ、兄妹の微笑ましい光景を眺めなが午後の一時を過ごしたかったのだが……まぁ、ここに来るにあたってまひろではなくみはりちゃんに連絡を入れて、まひろの所在はあえて確認しなかった辺り、己の姑息さと不甲斐なさが敗因ではある。

 

「……あきなさん」

「ん?」

「―――あきなさんはまひろちゃん……お兄ちゃんの事を知って、どうですか?」

 

 コーヒーを飲む手が止まる。カップを置いてみはりちゃんの顔を見る。

 唐突な問いだった。みはりちゃんの表情には真剣みがあって、何処か不安げな様子も見て取れる。もしかしたら、ずっと機会を伺っていたのかも知れない。

 

 まひろが男だと知った日。一応みはりちゃんにも電話で話した。内容は簡単な確認事項みたいなもので、お互いの意思確認みたいなものはなかった。

 まひろを女の子にした張本人。やはり思う所があるのだろう。

 

「―――どうって言われても、別に?って感じ」

「……本当に、それだけですか?」

 

 俺の回答に想定外だったのか目をぱちくりさせている。

 

「まひろの性別がどうだからって、友達って事に変わりはないし、年齢云々の話なら誰が言ってんだって訳だし」

 

 俺も見た目と中身が伴ってない側の人間だ。その点はまひろとの共通点でもある。

 

「人と一緒にいるのってその人の出自とか立場じゃない。俺はまひろがす……好きで一緒にいるんだよ。性別がどうとか、年齢がどうとかは今更関係ないっていうか……」

 

 途中、言ってて恥ずかしくなってきた。何をドヤ顔で語っているのか俺は。今までの人生で友達が殆どいなかった奴が偉そうに。そ……それに、す、好きとか自分で言ってるしっ……!?

 

「―――あきなさん」

「ち、違うぞ!? 好きってのはあくまで友人としてって話で―――」

「ありがとうございます」

「……まぁ」

 

 みはりちゃんの微笑みに俺は後頭部を掻きながら、

 

「どう、いたしまして?」

 

 

 

「チョコ、食べようか?」

 

 何となく気恥ずかしい空気を払拭するべく提案する。

 

「そうですね。お兄ちゃん夕方まで帰ってこないですし」

 

 紙袋から箱状の入れ物を取り出す。中には個包装された数個のチョコ。確かに高級感があっていい所の物っぽい。何個か残しておけばまひろも文句あるまい。

 みはりちゃんが入れ直してくれたコーヒーを飲みつつ、チョコレートを二人で食べる。

 

「いただきま~す」

「おう。どんどん食ってくれ」

 

 みはりちゃんが人と食べる。その様子を見届けて俺も一つ頬張る。

 

「……うま。流石高いだけある」

 

 チョコの甘さとブランデーの苦いがコーヒーに合う。

 

「まぁ確かに? 最初から疑念というか、匂わせてる部分はあったよな。まひろの趣味嗜好って俺に近いし、偏見ではあるけど女の子ってよりも男って感じはしてたんだよなぁ……」

 

 チョコを何個か食べながら改めてまひろの性別の話をする。後から振り返ってみると考察の余地はある。

 

「絶対に真実には辿り着けないけどね、はは。―――ん? みはりちゃん?」

 

 乾いた笑いが出てしまう中、ふと気が付く。

 

 みはりちゃんが俯いて動いていない。

 

「え? どうかした?」

 

 呼びかけても反応がない。立ち上がってみはりちゃんの傍に行く。

 

「みはりちゃん? どうし―――」

 

 肩に触れようとした瞬間、急に動きだしたみはりちゃんが飛び付いて来て床に押し倒される。

 

「いたッ!! みはりちゃん!?」

「……ハァ、ハァ」

「へ?」

 

 俺の上に覆いかぶさっているみはりちゃんは荒い息を吐いていて、目も正気ではない。まるで獲物を目前の肉食獣の様だった。

 

「どう、どうした―――」

「―――!!」

 

 若干発症している女性恐怖症とこの状況に怯えながら震える声を出すと同時に、みはりちゃんの顔が迫ってくる。

 

「うおっ!?」

 

 咄嗟に顔を逸らすと、みはりちゃんの頭突き(?)が空を切る。マウントポジションに戻ったみはりちゃんは再度、顔を押し付ける様に迫ってくる。

 

「ヤバッ!!」

 

 また逸らしては空を切る。二回の攻撃で流石に目的がはっきりする。

 確実に唇を狙っている。何故か分からないが、みはりちゃんはキスしようとしてきている!!

 

「危なッ!? みはりちゃん、どうしたっ!?」

 

 問いかけても返事がない。涎を垂らしながら目をグルグルとさせている様はまるで酔っ払い―――ん? 酔っ払い?

 

「ま、まさか!?」

 

 今食べたチョコレートのブランデーで酔ってるのか!? いや、待て待て。あの程度の酒でここまで酔うのか!? みはりちゃん、寄ったらキス魔になるのかよ!? 

 納得は出来ないが実際に目の前で起こっている事情が全てなのだ。くそ、始めから知っていればチョコを食べようなんて言わなかっ―――ちょっと待て? まさか……!?

 

「あの女ぁ! 初めから知ってやがったなーっ!?」

 

 頭に浮かぶのはしたり顔で嘲笑ってくるちとせ先生の顔。研究室で『みんな』にチョコを配れば、当然みはりちゃんもいる訳で。……あの時に違和感に合点がいった。もう手遅れではあるが。

 

「ッ!!」

 

 ちとせ先生への怒りに気を取られている一瞬に、両腕を掴まれて押さえつけられてしまう。眼前には、焦点の合っていない目を携えたみはりちゃんの顔。

 

「……ま、待て!? 流石にこれはマズイ!! 恐怖症とかそんな話じゃない。研究室の女の子同士ならまだしも、男の俺とは絶対マズイってッ!!」

「ふへへ~……」

 

 制御不能なみはりちゃんの顔が迫ってくる。普段なら男の力で押し返せるのだろうが、恐怖症の影響下で上手く身体に力が入らない。

 

「ヤバい……ッ!!」

「にゅふふ~……」

「正気に戻れ!!」

「はえぇ~……」

「言語能力がゼロ!?」

 

 じりじりと迫ってくるみはりちゃんにもう覚悟を決める。―――酔っている時の記憶がない系の人であると祈りながら目を閉じる。

 

「くっ……!!」

「……」

「……?」

 

 いつまで経っても想像していた感触がこないので薄目を開けて確認すると、俺に覆いかぶさって眠っていた。

 

「た、助かった~」

 

 ギリギリの寝落ちに命拾いする。捨てる神あれば拾う神ありか……いや、全然意味違うな?

 そんな下らない事を考えられるまでには余裕が出たが、今度は女の子が身体に乗っている事に緊張してくる。

 

「う、動けん……。このまま寝てたらまひろが帰ってきて変な勘違いを―――」

 

 いいながら何となくリビングの出入り口に目を向けると、逆さまの視線でもはっきりと分かる人物が立っていた。

 

「あ……かえで、さん?」

「みはりに勉強教えてもらう約束してたんだけど、家に入ったら大きい声と物音がして……」

 

 口元を小さく手で抑えている。あらまーみたいな態度で、

 

「お邪魔だったみたい?」

「ぜんっぜん邪魔じゃないです!! むしろ、今必要な人材です!! 助けてください!!」

 









あきな君もお酒、弱そう。
まひろ(♂)と飲み明かす話とか面白そう。
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