先輩はおしまい!   作:朋也

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 今回の話には、アニメ未登場のキャラが出てきます。予めご了承ください。

 原作は最高に面白いので、まだ未読の方は是非!

 次回はアニメ視聴後にアップする予定なので、宜しくお願いします。

 後、今回はあきなとまひろの視点があるので、本分が長くなってしまいました。出来れば最後まで読んで頂けると嬉しいです。


あきなとまひろと好きな人

「……みはりちゃん?」

 

 突然の邂逅を果たす。大学の同期で、あかりと同じく飛び級で入学した天才少女。緒山みはり。

 

 緒山まひろに緒山みはり。確かに同じ苗字だが、一体誰が二人は姉妹なんて結論を出せる。二人の情報を知り得ていたとして、点と点を結び付ける事なんて不可能だ。

 

 開いた口が塞がらない俺に対し、みはりちゃんが小首を傾げる。

 

「私の事、知ってるの?」

 

「……ッ! ヤバ!」

 

 かなり遅れて口を塞ぐ。ヤバい。初対面の筈なのに名前を口走ってしまった。

 

 不自然に顔を逸らす俺を不思議そうに見ているみはりちゃん。……もしかして、正体がバレたりしないよな?

 

 バレたらどう言い訳すればいいんだ? 身体が縮んだから中学校に通ってますとでも言えばいいのか? 女子中学生と恋仲になるか実験してますとか言うのか? どう転んでも変態認定まっしぐらだ。

 

 そうなったら終わりだ。もうまともにみはりちゃんの顔なんか見れなく……あれ? よく考えたら、みはりちゃんも同じ研究室だよな? まさか……。

 

 今度は真っ直ぐにみはりちゃんを見る。もしかして、この子も一枚噛んでいるのか? 可笑しくはない。あかりと同じく天才大学生の彼女なら、何かしら絡んでいても不思議はない。

 

 じっとみはりちゃんを見つめる。みはりちゃんは俺の視線に困惑している様だった。みはりちゃんからのアクションはないのか? 杞憂だったか? 彼女もグルなんて。

 

 中学生の身体になるまでの一連の流れで、俺は大学周りの人間を信用できないでいた。みはりちゃんもその一人だが、明確に黒という証拠はない。何か、確認する方法はないか―――。

 

「もしかして、藤村あきな君?」

 

「……え?」

 

 みはりちゃんが今の俺の名前を呼ぶ。まさか、本当に―――。

 

「……そうですけど」

 

「やっぱり! 最近お……まひろちゃんが話してた子だぁ」

 

「おい! みはり! それは言うなって!」

 

「……はえ?」

 

 想定とは違う返しに困惑し、変な声が出てしまう。

 

 恥ずかしそうにみはりちゃんの服を引っ張っている緒山。そんな緒山を気にする様子もなく、みはりちゃんは俺に話しかける。

 

「もしかして、まひろちゃんから私の名前、聞いてたのかな?」

 

「……はい!」

 

 状況が上手く整理出来ないが、取りあえず相手の話に合わせよう。

 

「そっかぁ。君が藤村君ねぇ。成程成程」

 

「何を納得してるんだよ! もう!」

 

 顔を赤くしてみはりちゃんを叩く緒山。姉妹のやり取りの真意は読み取れないが、どうやらみはりちゃんは、俺の事を緒山から聞いていたらしい。

 

「初めましてお姉さん。藤村あきなと申します。いつも緒山さんと仲良くさせて貰ってます」

 

 恭しく頭を下げる。出来るだけ笑みを絶やさず、相手に良い印象を与えるのが、演じる時のコツで……あれ?

 

(どうして、俺は演じてるんだ?)

 

 遅れて気が付く。俺はみはりちゃんに対して演じている。同期で多少は交流もあって、みはりちゃんには恐怖心を抱かないはずなのに。……もしかして。

 

(今までは年下だったみはりちゃんが、身体年齢で年上になったから緊張してんのか!? 俺!?)

 

 とんでもない事実に気が付く。気が付いたらもう後には引けない。みはりちゃんを『そういう対象』として見てしまう。

 

「初めまして。緒山みはりです。まひろちゃんがいつもお世話になってます」

 

「別にお世話になってないけどね」

 

 礼儀正しいみはりちゃんの挨拶に、そっぽを向く緒山。俺は優しい笑みで返す。ヤバい。貼り付けた笑顔がどうしても外せない。

 

「姉妹水入らずを邪魔しても悪いし、俺はここで失礼します」

 

「えー? 出来れば、学校でのまひろちゃんの様子聞きたいなぁ」

 

「いいって! 恥ずかしい事聞こうとするな!」

 

「まひろちゃん、恥ずかしいのぉ?」

 

 顔を赤くして怒る緒山をみはりちゃんが揶揄っている。よく分からないが、姉妹がじゃれ合っているうちに離脱だ。

 

「それじゃあ、また今度。緒山さん、また明日」

 

 爽やかに手を振ってその場を後にする。みはりちゃんが「またね~」と手を振っている。緒山は何だかむくれているみたいだった。

 

 すぐさま会計を済ませ、そそくさとスーパーを出る。早足でアパートまでの岐路を歩く。

 

 まさか、みはりちゃんにまで女性恐怖症が発症するとは、この身体になってから初めて会う為、緊張しただけかもしれないが、正直、ショックだった。

 

 今まで普通に話せていた人物と話が出来なくなって落ち込むなんて知らなかった。何だか友達を失った気分だった。

 

「……みはりちゃんって、妹居たんだな。お兄さんがいるとは聞いた事あったけど」

 

 ふと、昔の会話を思い出す。名前は知らないが、兄がいると言っていたはず。という事は、緒山には兄がいるのか。

 

 友達と言っても、俺がみはりちゃんについて知っている事は多くない。同期の好で話していただけで、もしかしたら、あっちは俺を親しい仲だとは思ってないかもな……。

 

「……」

 

 アパートに着くまで、みはりちゃんの顔が頭から離れなかった。

 

 

 

 

 

「藤村君、お兄ちゃんから聞いてた人物像よりも真面目で礼儀正しくて、いい子だったなぁ」

 

「……」

 

「どうしたの? お兄ちゃん?」

 

「いや、なんか……ちょっと様子が変だった気がして……」

 

「そうなの?」

 

「うーん……」

 

 

 ~夜~

 

 

「うーん……」

 

 ベッドに寝っ転がりながら、スマホを睨む事数十分。トーク画面を眺めて、閉じては開き、閉じては開きを繰り返す。

 

 一旦はスマホを手放し起き上がるが、直ぐに手に取り、先程の行動に戻る。無限に繰り返す様はまさにループだ。

 

「みはりちゃんに連絡……しようかな~」

 

 こんな無意味な行動を繰り返しているのは、今日の邂逅をみはりちゃんに確認するか否かを迷っているからだ。

 

 みはりちゃんは俺の置かれた状況を知っている可能性がある。根拠と呼べる程のものではないが、彼女もあかりと同じ研究室の住人であり、確かちとせ先生はみはりちゃんの指導係だったはず。

 

 点と点が線で繋がる。俺にはどうしても彼女達が無関係とは思えない。何かしら繋がりあると見ている。

 

 しかし、今日あった印象は、初対面の俺に話しかけている感じがした。妹の前だから他人のフリをしてくれていた可能性は否めないが、それはみはりちゃんが実験に絡んでいる前提の話だ。俺の思考に余計なバイアスが掛かっているから疑わしいだけで、本当に初対面の反応の可能性もある。

 

 悩みに悩んだ末、本人に直接聞けばいいという簡単かつ確実な方法に辿り着く。悩むまでもなく最適解なのだが、それを実践するのを躊躇って、もう一時間が経とうとしている。

 

「うーん……」

 

 トーク画面を開いては閉じ、開いては閉じ、これで何度目だ? 勢い任せに文章を書いては、デリートを繰り返す。

 

 何故か分からないが、とても緊張する。どう話を切り出せばいいとか、もし知らなかった時に『こいつ何言ってんだ?』みたいに思われたらどうしようとか考えると、後一歩勇気が出ない。

 

「……そうだ! あかりに聞いてからにすればいい」

 

 事実確認を取ってから、結果が分かった上でみはりちゃんに尋ねれば、何も問題ないじゃないか。

 

 爆速であかりに電話を掛ける。この時点で、本末転倒な事に俺は気が付かない。

 

「―――出ない」

 

 応答はない。メッセージを送ったが、既読にならない。寝ているのだろうか。まだ九時だし、流石に就寝には早い。考えられるのは、何か他の事に夢中になって、スマホを見ていないかだが。

 

「大学で研究でもしてんのかな」

 

 あかりが無我夢中になる事なんて、それくらいだろう。もしかしたら泊まり込みで、怪しい研究でもしているのかも知れない。

 

 あかりに確認する事は出来なかった。振り出しに戻る。こうなったら直接聞くしかない。

 

「……明日でいいや」

 

 スマホを放り投げて、ベッドで大の字になる。別に直ぐに確認する必要はない。明日、あかりからの折り返しを待ってからでも遅くはない。

 

 そう考えると、これまでの時間が馬鹿らしくなってくる。何を俺はみはりちゃんにメッセージを送るのに何十分も悩んでいるのだろうか。

 

「はぁ……疲れた」

 

 寝そべっていると、全身に疲労が広がっていく。肉体的にも精神的にも、疲れる事が多すぎる。少しは息抜きする時間が必要だ。

 

「シャワーでも浴びて……ゲームでも……する……か」

 

 視界が揺らいで、目が勝手に閉じる。数分後、俺は完全に寝落ちした。

 

 

 ~一年前~

 

 

「先生、おはようございます」

 

「やぁ、来たね。あきな君」

 

「頼まれてた資料。まとめておきましたよ」

 

 カバンから取り出し、ちとせ先生に渡す。受け取った先生は「どうも」と労いの言葉をくれる。

 

「僕は先生の小間使いじゃないんですよ」

 

「いやー、すまないね。あきな君優秀だから、つい頼っちゃってね」

 

「優秀な人は雑務やらないんじゃ?」

 

「そんな事は無い。どんなに優秀でも、下積み時代は必ずあるから」

 

「俺はこの研究室の下積みをする気はないんですが?」

 

 はははと笑って誤魔化される。相変わらず人使いが荒いちとせ先生だが、言う事を聞いている俺も俺か。

 

「それじゃ、俺は帰ります」

 

「ありがとう。またね」

 

 部屋を出ようと扉に手を掛けるが、向こうから勝手に扉が開く。

 

「あ、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 道を譲ると、ぺこりと頭を下げてお礼を言う女の子。この研究室では見た事無い子だな。

 

「あぁ、みはりちゃん。待ってたよ」

 

「先生、今日もよろしくお願いします」

 

 ちとせ先生の客人だった様だ。俺はそのまま部屋を後にしようとすると、ちとせ先生に呼び止められる。

 

「あきな君、ちょっと待って」

 

「何ですか?」

 

「あきな君はまだみはりちゃんと面識ないだろ?」

 

 振り向くと、ちとせ先生が手招きしている。自己紹介でもしろと言っているのだろうか。

 

「……八神あきなです。よろしく」

 

「緒山みはりです。よろしくお願いします」

 

 お互いに自己紹介をし、俺は爽やかな笑みを浮かべる。緒山さんもそれに笑顔で応える。

 

「あきな君、どうだい?」

 

「どう、とは?」

 

「緊張するかい?」

 

「……まぁ、そうですね」

 

 俺達の会話を不思議そうに聞いている緒山さん。ちとせ先生は「そうか」と一言。

 

「すまない。引き留めて。また今度ね」

 

「……はぁ」

 

 よく分からないが、これも『一環』なのだろうか。確かに緒山さんは若く見えるし、慣れれば普通に話せそうな気はするけど。

 

「それじゃあ、失礼します」

 

 言い残し、部屋を後にする。これが俺とみはりちゃんの初めての会話だった。

 

 この時はまだ、みはりちゃんが飛び級で大学に入学した十六歳の同期だとは知らなかった。

 

 

 

 

 

「……夢か」

 

 窓から差し込む陽光が眩しい。眠い目を擦りながら起床。朝に弱い俺は、自分がどういう状況か理解できなかった。

 

 昨日の事をぼんやりと思い出す。確かみはりちゃんに実験に関わっているか確認しようとして、あかりに電話して、出なくて、それで―――。

 

「……そうか。寝落ちしたのか」

 

 スマホを確認する。あかりからの折り返しの電話もメッセージもない。これは徹夜で研究コースだな。

 

 立ち上がって背伸びをする。最後の記憶では夜九時ごろだったと思うから、何時間寝たのだろうか。スマホの時計で確認する。

 

「十時間以上寝てんじゃん。身体痛いし、流石に寝すぎ……」

 

 時計を眺めていたら気が付いた。いや、流石に気が付かない訳ない。

 

 一時間以上寝坊している事に。

 

「ヤバい!!」

 

 完全に寝坊。そして遅刻コース。今すぐ家を出れば問題ないのだが、俺は昨日、風呂に入っていない。

 

「このまま行くのはまずい! 軽くシャワーを浴びて……でもそれだと時間が! 髪を乾かす時間は……!!」

 

 てんやわんやとはこの事だ。俺は大急ぎで支度し、大急ぎでシャワーを浴び、髪を乾かすのも中途半端に家を出る。朝飯は食わずに、全速力で学校まで走る。

 

「遅刻だぁー!!」

 

 こんなテンプレートな台詞を言う日が来るとは思わなかった。寝落ちも寝坊も、ここ最近の疲労のせいだろうか。

 

 これは流石に改善しなければ。そんな事を考えながら、学校まで走り切った。

 

 

 

 

 

 一時間目の授業が終わる。内容は殆ど覚えていない。

 

 朝からとんでもないカロリーを消費した。お昼休みまで持つだろうか。

 

「はぁ……」

 

「寝坊か?」

 

 緒山がニヤニヤしながら聞いてくる。何がそんなに嬉しいのだろうか。

 

「人の不幸を喜ぶ趣味でも?」

 

「いやー、そうじゃないけどさ。わたしも朝起きるの苦手だから、仲間だなぁって」

 

「……なら一緒に寝坊しようぜ」

 

 朝が苦手でも、起きれているんだから裏切り者だ。

 

「わたしはほら、み……お姉ちゃんが起こしてくれるから」

 

 はははと情け無さそうに笑う緒山。みはりちゃんが緒山を起こしている図は想像に難くない。大変微笑ましい光景である。

 

「なぁ……お姉さんってさ。どんな人?」

 

「え……? 急にどうしたの?」

 

「いや、気になって……」

 

 適当な返答をしてしまう。確かに突然そんな事を聞かれたら「何?」ってなるよな。

 

「普段のお姉さんって、どんな人なのか気になってさ」

 

「普段の……うーん。生意気だし、揶揄ってくるし、早く寝ろってうるさいし……」

 

「お母さんかな?」

 

 唸りながら出てくるのは、思春期男子の母親への文句のそれ。最後のは緒山が悪いだろ。

 

「そうそう、直ぐ子供扱いしてくるんだよ! アイツも子供なのに!」

 

 いや、緒山の方が子供だろ。肉体的にも精神的にも。何故か自分の方が年上みたいな物言いが気になる。

 

「愚痴が多いなぁ……お姉さんの事、嫌いなのか?」

 

「……いや、嫌いじゃないよ。寧ろ」

 

「寧ろ?」

 

「……何でもない!」

 

 プイっとそっぽを向く。まぁ、聞かなくても答えは分かる。

 

「大好きなんだな。お姉さんの事」

 

「……恥ずかしい事言うな。後、大って程じゃないし」

 

 顔を赤くしながら言っても説得力がない。余りの微笑ましさに笑ってしまう。

 

「……わたしばっかりに恥ずかしい事言わせたんだから、次は藤村くんの番だぞ!」

 

「……ん?」

 

「藤村くんにもお姉ちゃん居るんだろ? 何処が好きか教えてよ」

 

「……さぁて、トイレ行ってくるかぁ」

 

 勢いよく立ち上がり、教室を出ていく。緒山の「逃げたぁ!!」という声が聞こえてきたが、全く気にしない。

 

 もう緒山にみはりちゃんの事を聞くのは止めよう。姉の自慢大会なんて、絶対にやりたくないからな。

 

 

 

 

 

 ようやく四時間目が終わり、お昼休みだ。

 

 朝食を食べずに全力疾走した身体にはエネルギーが不足していた。大学生の時は朝食を食べないなんてよくある話だったのに、身体が縮むと一食抜くだけでこんなに疲労困憊になるのか。

 

 頭が回らない。とにかく飯だ。肉が食いたい。

 

 机にカバンを置き、中を漁る。しかし、一向に目的の物が発見されない。不思議に思いカバンを逆さまにする。教科書やらノートやら体操服やらが机に散らばる中に、食べ物は含まれていない。

 

「……弁当がない」

 

 考えてみれば当たり前だった。毎日朝起きて弁当を作っているのだ。俺は今日、朝何をしていた? 一時間も遅く起きて、僅かな時間でシャワーを浴びていた。何処に弁当を用意する暇がある?

 

 床にへたり込む。希望が失われ、一気に叩き落されるのはまさに地獄。絶望とはまさにこの事か。

 

「あきな、飯にしようぜ……って、どうしたんだ?」

 

 一緒に昼食を食べるメンバーの一人、ゆうたが俺の惨状を見て心配してくれる。後からやってきたみなとも、俺を怪訝そうに見ている。

 

「どうしたの? 机散らかってるけど」

 

「……弁当がない」

 

「忘れたのか?」

 

「作ってない……」

 

 持ってくるのを忘れたのではなく、作ってすらいない。最悪走って帰って取ってくる事も出来ない。

 

「お弁当、普段あきなが作ってるの?」

 

「あの弁当、あきなが作ってたのか。すごいな」

 

 感心している二人。家事全般は俺の仕事……というか、一人暮らしだから当たり前なんだけど。

 

「腹減った……」

 

「何も食べずに走ってきたって言ってたもんね。それはお腹空くよ」

 

「今日、午後体育あるけど大丈夫か?」

 

 ゆうたの言葉で思い出す。今日体育あるのか。完全に忘れてた。昨日の俺は体操着をカバンに入れているから覚えていたのに……。

 

「……無理かも知れないね」

 

「他人事だな」

 

 ここまで来ると、実感も沸かない。どうしようもない現実に直面した時、人は思考が停止するんだなって、初めて知ったよ。

 

 項垂れる俺に、天使達のお言葉が聞こえてくる。

 

「俺の弁当、少しいるか?」

 

「僕も。ちょっとなら融通するよ」

 

「……神様ッ!」

 

 手を握り締め拝む。涙が止まらない。

 

「早く食べようぜ。腹減ってるんだろ?」

 

「……惚れちまいそうだ」

 

 男気溢れるゆうたに頬を赤くしながら、俺は急いで机の上を片付けた。

 

 

 

 

 

「いやー、食った食った」

 

「俺の弁当、半分も食いやがった……」

 

「同じく……」

 

 親友二人からのお恵みで、体力を回復する。この御恩は一生忘れない。

 

「食べたら飲物欲しくなってきたなぁ」

 

「集る気か!?」

 

 警戒するゆうた。流石にそこまではしないし、金ならあるから安心してほしい。

 

「逆だよ。何飲みたい? 買ってくるからさ」

 

「……じゃあ、バナナオレで」

 

「僕はいちごオレ」

 

「了解。直ぐに買ってきます!」

 

 カバンから財布を取り出し、自販機に向かう。エネルギー補給したおかげで足取りも軽い。

 

 自販機に到着。頼まれていた飲物を購入する。

 

「何飲もうかな?」

 

 自分の分を選ぶ。カフェラテにするか。食後だし甘い飲物がいいかな。

 

 三人分の飲物を調達し、教室に戻ろうとした時、進行方向に女の子が立っていて、その子が俺を見ている事に気が付いた。

 

「ん?」

 

 あれは確か同じクラスの穂月もみじだったか。短髪でボーイッシュな印象を受ける子で、よく緒山を含む数人で一緒にいる。その一人。

 

(俺の事見てるけど、気のせいか?)

 

 彼女と話した事は無い。話しかけられる案件も思いつかない。もしかして、自販機に用があって、待っているだけなのだろうか。というか、その可能性が一番高いか。

 

 穂月に近付き、さりげなく横を通り過ぎようとした時、穂月から声が掛かる。

 

「あの、藤村くん」

 

「な、何かな?」

 

 思わず動揺してしまう。もしかしたらとは思っていたが、本当に俺に用があるのか。

 

「ちょっとだけ、話があるんだけど、いいかな?」

 

「……いいよ。幾らでも」

 

 お決まりの爽やか演技で応じる。俺に話とは何だろうか。思い当たる節はないが。

 

「聞きたい事があって。その……」

 

 言いづらそうにモジモジしている。何だ? 全く予想できないのだが。

 

「何か言いづらい事なら後ででも―――」

 

 

「まひろちゃんとどういう関係なの!?」

 

 

「……え?」

 

 持っていた飲物を落とす。落下の衝撃で、バナナオレだけパッケージが変形している。

 

 ゆうた、めんご。そんな場違いな感想が頭を巡っていた。やっぱりまだ腹が減って、頭が回っていない様だった。

 

 

 ~数日前~

 

 

「……むにゃ」

 

 アラームの音に起こされる。眠い目を擦りながら布団から這い出て、階段を降りる。

 

「お兄ちゃん、おはよう」

 

「……おはよ~。みはり」

 

 妹に朝の挨拶。少し前まで自宅警備員だったオレからすれば考えられないが、一年近くも経てば慣れるというもの。

 

「……眠い」

 

「相変わらず朝に弱いなぁ」

 

 呆れるみはり。これは昨日、布団に隠れゲームをしていたからだ、とは口が裂けても言えない。

 

「ゲームも程々にね。まぁ、お兄ちゃんに言っても無駄っぽいけど」

 

「バレてる!」

 

 何でもお見通しか。兄貴としての威厳が日に日に薄れていく。

 

「……まさか、部屋に監視カメラでもあるのか?」

 

「―――朝ごはん出来てるよー」

 

 そそくさと台所に消える。あれ? 誤魔化された?

 

 

 

「それでさー、アイツ全然分かってなくて―――」

 

 朝食を取りながら数日前の事をみはりに話す。転校生との口論を掻い摘んで話すつもりが、次第にヒートアップしてしまっていた。

 

「どう思う? みはり」

 

「―――お兄ちゃん、男友達いたの?」

 

「いるわい!」

 

 驚くみはり。ここまで話を聞いて驚くのそこかよ!

 

「いやーごめんごめん。お兄ちゃんから男の子の話なんて、初めて聞いたからさー」

 

「……確かに、昔からあんまり友達いなかったけども」

 

「わーごめんね!? そんなつもりは!」

 

 過去の記憶に落ち込むオレを慰めるみはり。頭を撫でる慰め方が完全に妹扱いである。

 

「―――冗談だ。今更そんな事で落ち込まないって」

 

「なんだ……良かった」

 

 ほっと胸を撫で下ろす様子にオレも満足だ。仕返しではないけど、少しは意趣返ししないと、本当に妹化してしまいそうで怖い。

 

「でも本当に珍しいよね。いつもはもみじちゃん達の話ばっかりだから」

 

「……言われてみれば、そうだな」

 

 みはりに見栄を張った手前言いずらいが、男友達なんて殆どいない。ゆうたくんとみなとくんは友達だろうか? 多少話すが、友達と呼べるほど交友は無い気がする。そもそも、友達の定義を教えてほしい訳で―――。

 

「―――お兄ちゃん、大丈夫?」

 

「……は! いや、違う。ちゃんと友達いるぞ!?」

 

 ぼうっとしていて、つい変な事を言ってしまう。みはりは分かっていない様子だからセーフ。

 

「と、とにかく! 男友達くらいいるぞ。バカにするな」

 

「別にバカにしてないんだけど……ふーん、そうなんだねぇ」

 

 何やらニマニマとしているみはり。凄くバカにされている気がするが気のせいか?

 

「……言いたい事があるなら言えよ」

 

「お兄ちゃん、彼氏が出来たら教えてね」

 

「ぶふー!!」

 

 盛大に吹き出しむせてしまう。みはりが背中を摩ってくれて、何とか呼吸を取り戻す。

 

「できるかー!!」

 

「あはは」

 

 楽しそうに笑うみはり。やっぱりバカにしてんだろ!

 

「冗談冗談。所で、その子転校生なんでしょ? 名前は何て言うの?」

 

「えっと、藤村あきなだったかな?」

 

「名前うろ覚えって、本当に友達なの……?」

 

 これは弁解の余地もない。流石に失礼だし、ちゃんと覚えておかないと。

 

「藤村……あきな……」

 

「? どうしたみはり?」

 

 何か悩まし気なみはり。名前に気になる事でもあるのだろうか。

 

「いやね。大学の後輩に『藤村』って子と、同期に『あきな』って人がいるから、足し合わせたみたいだなぁって」

 

「あー、たまにあるよな。知り合いの苗字と名前が合体している人見るの」

 

 テレビとかネットでそういうの見ると、印象が強く残って忘れられないよな。

 

「変な偶然ってあるよね」

 

「そういえば、もみじに初めて会った時も、たまたまかえでちゃんの妹だったりしたし、偶然って侮れないなぁ」

 

 偶然の出会いが長く続くと、それは偶然じゃなくて必然になるって、昔見たアニメで言ってたっけ。もしかしたら、もみじとの出会いも、必然だったのかも知れない。

 

「……つまり、オレが女の子になるのも必然?」

 

「よく分かんないけど、元気出して……?」

 

 項垂れるオレの肩にそっと手を置くみはりの優しさに泣かされる朝だった。

 

 

 

 

 

「おはよ~」

 

 学校に到着する。するといつものメンバーが出迎えてくれる。

 

「おはよう、まひろちゃん」

 

「まひろん! おっはよー」

 

「おはようなのです」

 

 みよ、あさひ、なゆたんの三人が挨拶を返してくれる。

 

「もみじちゃんもおはよう」

 

「おはよう、みよちゃん」

 

 もみじも朝の挨拶を交わす。

 

「もみじ! いっつもまひろんと一緒に来てて羨ましいぞ!」

 

「い、家が近いからね。お姉ちゃんも一緒だし」

 

 もみじに絡むあさひ。鬱陶しそうにへばりつくあさひを引き剥がそうとしている。

 

「うんうん。王道のまひろ×もみじもいいけど、原点のあさひ×もみじもいいよねぇ……!」

 

「……? マッチアップの話です?」

 

「なゆたんは気にしなくていいよ……」

 

 疑問符を浮かべているなゆたん。あながち間違ってはいない気がするけど、説明は難しい。

 

「あさひもまひろんといっしょー!」

 

「うわ! 急にくっつくなって!」

 

 もみじにあしらわれたあさひは、今度はオレに抱きついてくる。

 

「あー! あさひ! 離れて!」

 

「いいじゃんか。あさひもまひろんを堪能したいぞ!」

 

 今度はオレにへばりつくあさひをもみじが引き剥がそうとしている。

 

「はぁ、はぁ。……あさひ×まひろもやっぱりいいッ!!」

 

「ナチュラルにわたしが受けなのが納得できない……!」

 

「……は! 乱闘というやつなのですね!?」

 

 興奮している様子のみよに、よく分からない閃きをしているなゆたん。もう収集がつかなそうだ。

 

 どうしようかと困り果てていると、教室の扉が勢いよく開く。

 

「―――ッ!! 間に合ったぁ!!」

 

 息を切らしながら教室に入ってきたのは、数日前にクラスにやってきた転校生。藤村あきなだった。

 

 藤村君はフラフラとした足取りで、自分の席へ。椅子に座るや否や、机に突っ伏してダウンする。

 

「……大丈夫か? アイツ」

 

「お疲れの様子なのです」

 

 突っ伏して微動だにしない藤村の所にゆうたくんとみなとくんが近寄っていく。

 

「学校まで走ってきたのか。凄いぞ……。あさひも明日からそうしよう」

 

「止めときな、あさひ」

 

 藤村の姿を見てやる気を出しているあさひの肩にそっと手を置くもみじ。あさひの事だから、止めないと本当にやりそうだ。

 

「まひろんも一緒に走らないか?」

 

「……遠慮しておきます」

 

 目を輝かせるあさひには申し訳ないが、オレだったら確実に死んでしまう。確かに昔は学校に遅刻しそうな時に走った事は何度かあったが、あくまで男の身体だった事の話であって、今のオレにはとても無理だ。

 

「男って、体力あるよなぁ……」

 

「お兄さんは?」

 

「……聞くな」

 

 小声で問いかけてくるなゆたん。面目なさ過ぎてなゆたんの顔が見れない。

 

「……」

 

「? どうしたの? もみじ」

 

 ふと見ると、もみじが藤村を見つめていた。オレは思わず聞いてしまう。

 

「……え? な、何でもないよ。まひろちゃん」

 

 慌てて手を振るもみじ。何だか不思議な反応だ。気のせいだろうか。

 

「もしかして、もみじも走りたいのか!?」

 

「え? あ、そ、そうだよ! そうそう」

 

 あさひの言葉に便乗するもみじ。さっきは止めてたのに……。

 

「明日から走ろうな! もみじ!」

 

「あ、あはは、はぁ……」

 

 肩を組んで元気いっぱいのあさひ。苦笑いのもみじだが、本当に大丈夫なのだろうか。

 

「もみじちゃん……」

 

 その様子を心配そうに見つめるみよちゃん。あさひが本気じゃない事を祈るしかない。

 

「みんなー、ホームルーム始めるよ。席ついてー」

 

 まり先生が教室に来て、予鈴が鳴る。みんなが一斉に着席して、ホームルームが始まった。

 

 何となくちらりともみじを見ると、視線がオレの後ろの席に向いていた。

 

(また見てる。……どうしたんだろう?)

 

 さっき藤村くんを見ていたのは気のせいじゃないかったみたいだ。しかし、ならどうして見ているんだろう?

 

 疑問は解決しないまま、ホームルームが終わり、午前中の授業が始まった。

 

 

 

 

 

(怪しい……)

 

 今はお昼休み。いつも通り五人で机を囲っている。お弁当を食べながら、談笑するもみじを盗み見る。

 

 今日一日、もみじをバレない様に観察していた。すると、もみじは偶に藤村くんを見ていた。特にオレが藤村くんと話している時に見ている回数が多かった。

 

 何かあるのだろうか。学校にいる分には話している所は見た事無いが、プライベートまで分からない。オレの知らない接点があって、二人にしか知り得ない関係があるのだろうか。

 

「……」

 

「まひろちゃん、どうしたの?」

 

「……え?」

 

 もみじの声で我に返る。気が付くと、ぼーっともみじを見つめていた。

 

「もみじちゃんに熱い視線を……!」

 

「まひろんってよくぼーっとしてるよなー」

 

 みよちゃんの勘違いと、あさひの偏見。オレってそんなにぼーっとしてる?

 

「力が抜けているのがまひろのいい所なのです」

 

「それはフォローになってないよ。なゆたん……」

 

 友人の想いが心に染みるが、出来れば身体に害のない言葉で頼む。

 

「いや……それが―――」

 

 言う前に気が付く。どう言えばいいんだ?「もみじ、今日はどうして藤村くんを見てるの?」って聞くのか? それは流石にデリカシーがない発言だ。

 

 もしかしたら、センシティブな内容かも知れない。女の子への配慮は、この一年で何度も思い知らされてきたじゃないか。

 

「―――何でもない」

 

「えー、なにぃ。気になるー!」

 

 もみじが抗議してくるが、聞く耳を持たない。上手い言い訳も思いつかないので、黙るしかない。

 

 よく考えたら、オレが気にしてどうするんだ? もみじが誰を見てようといいわけだし、例えそれが異性で『そういう感情』を向けていたとしても―――。

 

(……何か、モヤモヤする)

 

 もみじが他の異性と仲良くしているのを想像すると、無性にイライラしてしまう。もしかして、これが嫉妬?

 

「……そんな訳ない……か?」

 

「よく分からないけど、まひろちゃんから尊い波動を感じる」

 

 エスパーみよちゃんに「ないない」と手を左右に振る。結局もみじは納得いかない様子だったが、申し訳ないがそのままで。

 

 お昼ご飯も食べ終わり、皆で話に花を咲かせていると、ふと、藤村くんが教室を出ていくのが目に入った。

 

 ついもみじの方を見ると、もみじも藤村くんが出ていくのを見ていた。

 

「……私、ちょっとお手洗い行ってくるね」

 

「あさひも行くー!」

 

「直ぐだから待ってて」

 

 そう言い残し教室を出ていく。あさひがちぇーと鼻を曲げていたが、オレはそれどころでなかった。

 

(……怪しい)

 

 わざわざあさひを制して一人で行く。言葉通り本当に直ぐ帰ってくるからかも知れないが、男子ならともかく、女の子のトイレにスピードの概念がないのは知っている。

 

 出ていったタイミングも、丁度藤村くんが出ていった時だし、後を追って行った様にも見える。

 

 どうする。正直気になるが、好奇心だけでもみじの後を付けて良いものか。

 

 オレが悩んでいると、みよちゃんがオレの腕をがっと掴む。

 

「行こう。まひろちゃん」

 

「え?」

 

「もみじちゃんを追うの。早く行かないと間に合わない!」

 

 そう言うが早いか、みよちゃんに引っ張られる様に教室を出る。廊下に出ると、もみじの姿はない。見失った。

 

「多分、二人は自販機の所にいるはず」

 

「どうして分かるの?」

 

「さっき男子が飲物買いに行くって話してたから!」

 

「……みよちゃんもしかして、わたしよりもみじの事気になってた?」

 

 もみじが藤村くんを見ていたのに気づいていたのは、オレだけじゃなかったらしい。男子の会話にも聞き耳を立てているなんて、相当もみじの言動が気になっていたのだろう。

 

 自販機の近くまで到着する。曲がり角に隠れて様子を伺うと、確かに男女二人が何かを話している。

 

「もみじと藤村くん……!」

 

 間違いなく目標の二人だ。気付かれない様に接近し、会話が辛うじて聞こえる距離まで詰め、物陰に隠れて内容を聞く。

 

「―――」

 

「―――」

 

 ぼそぼそと聞こえる二人の会話。みおちゃんと顔を見合わせ、お互いに耳を澄ませる。

 

 所々だが、二人の会話がはっきりと聞こえてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藤村くん……まひろちゃんのお姉さんの事……好きなの?」

 

「好きだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

 思わず漏れてしまう変な声。慌てて口を抑える。みよちゃんの方を見ると、そっちはそっちで驚きの表情で固まっていた。

 

 今、なんて? 藤村くんが、みはりを好き……好き? 好き!?!?

 

 突然の出来事に脳の処理が追い付かない。せっかく声が聞こえるくらい近くまで来たのに、会話の内容が入ってこない。

 

 二人の話が終わるまで、オレはその場で固まって動けなかった。




 次回からやっと話が動きだす感じですね。今後はあきな以外の視点からのエピソードもありますので、お楽しみに
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