先輩はおしまい!   作:朋也

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 前回の続きです。主人公には姉が居ますが、今の所、本編に出てくる予定は無いです。

 オリジナルキャラは扱いやすいですけど、おにまいには魅力的なサブキャラが多くいるので、そちらにスポットを当てたいので、出来るだけ自粛致します。

 この調子でアップを続けるぞ! もうすぐ息切れなんですけど……。


あきなとお姉ちゃん達

「クッキーの材料、ちょっと多くない?」

 

 穂月宅にて、穂月姉妹と手作りクッキーを作っていた。姉のかえでさんが、俺が買い込んだ材料を見て疑問を抱いている。

 

「失敗した時の為の余剰分です。後―――」

 

 少し躊躇いながらも、誤魔化す事ではないと判断する。

 

「緒山のお姉さんの分も作りますので」

 

「みはりの?」

 

「ご存知ですか?」

 

「当然! 中学からの友達だからね」

 

 姉妹揃って交友があるのか。みはりちゃんの中学校時代からの友達。みはりちゃんは高校一年生で飛び級していると聞いているので、最後の同級生なのかな?

 

「中学からの……」

 

「みはりとも知り合いなんだ~。どうしてみはりの分も?」

 

 気になると言った様子のかえでさん。緒山が受け取ってくれなかった時の保険……とは言えないし、他の理由も―――。

 

「……姉妹に揃って、食べて欲しくて」

 

「ふーん。それだけ?」

 

 怪しいと問い詰めてくる。勘ぐられても、これ以上言える話は無い。

 

「―――それだけです」

 

「そっかぁ。じゃあ、張り切って作らないとね」

 

 

 

 

 

「何作ろうか?」

 

 夕食の買い出しで近所のスーパーに訪れた三人。まひろと仲直りするだけのはずが、何故か緒山&穂月シスターズと夕食を共にする事になった。

 かえでさんの提案なのだが、意図は分からない。まぁ、皆でご飯を食べるのに理由なんて要らないだろうけど、余りに唐突だったから驚いた。

 

「みはりは何食べたい?」

 

「そうね……。ハンバーグとか、かなぁ?」

 

「オッケー。じゃあハンバーグで!」

 

 指で輪っかを作って了承のサイン。みはりちゃんは慌てた様で、

 

「私の意見でいいの?」

 

「実は、みはりの誕生日祝いも兼ねてるんだよね~」

 

(え? 誕生日? ……そういえば)

 

 忘れていた。そういえば四月はみはりちゃんの誕生日だった。中学校の事とかでバタバタしていて完全に頭から抜け落ちていた。確か二十二日だったよな。……もう過ぎてる。

 

「そうなの?」

 

「ほら、プレゼントは渡したけど、誕生日って言ったら御馳走じゃない? 御馳走って程じゃないけど、何か作りたいな~とは思っててね。ちょうど良いかなって」

 

「かえで……ありがとう!」

 

 喜ぶなみはりちゃんにかえでさんも嬉しそう。見ている俺は尊過ぎて泣きそうだ。俺、この場に要らなくないか? 場違い感が半端ないんだが。

 

「よし! それじゃあ急いで買い物終わらせて、ハンバーグ作りますか!」

 

「おー!」

 

「おー」

 

 掛け声に呼応して、みはりちゃんと俺は腕を上げる。そうか。誕生日か。覚えていれば、クッキーを渡す口実になったのに。でも、俺が誕生日を知っているのも変か。まひろから聞いた訳でもないし、話を合わせる様にまひろに言うとしても、今度はどうして俺がみはりちゃんの誕生日を知っているのか、まひろに言い訳する事になる。そうなると嘘の連鎖が止まらない。

 

「二手に分かれよう。私はハンバーグの材料買うから、二人は付け合わせのパスタの材料買ってきて」

 

「了解!」

 

「分かりました」

 

 ビシっと敬礼ポーズのみはりちゃん。パスタだけなら俺一人でもいいのだが、説明するのは時間が掛かるか。

 

「上手くやりなよ」

 

「……?」

 

 近付いてきたかえでさんに耳打ちされる。突然の接近と、耳に掛かる息で冷や汗が止まらない。恐怖症で麻痺した思考では何の事を言っているのかさっぱりだ。多分、パスタの話だと思うんだけど。

 

 かえでさんと別れ、みはりちゃんと二人で買い物を続行する。みはりちゃんにも緊張してしまう自分が情けないと思いつつ、演じる事を止められない。出来ればまひろや穂月みたいに慣れで普通に会話できるようになりたいが……。

 

「パスタ何にしようかなぁ~。藤村君は好きなパスタある?」

 

「ペペロンチーノとか好きですが、ハンバーグの付け合わせなら、無難にケチャップですかね? デミグラスソースを掛けるなら、他にも選択肢が―――」

 

 ブツブツと喋ってしまう。その様子をみはりちゃんが意外そうに眺めていた。

 

「藤村君、料理するの?」

 

「はい。普段から」

 

「お家のお手伝いとか?」

 

「いえ、料理は全部僕が作ってます」

 

「へぇー! 凄いね」

 

 驚くみはりちゃん。一人暮らしなので当然だが、中学生の一人暮らしとは思っていないだろう。そう考えると、賞賛はする気持ちは分かる。

 

「僕しか作る人がいないんですよ」

 

「ご両親は?」

 

 当然の疑問。まぁ、中学生くらいなら母親が料理を作ってくれるのが普通だろう。ただ、母親は海外だし、本当は姉とも住んでいないし、父親は―――。

 

「母は海外に居ます。今は姉と二人です。―――父は僕が幼い頃に亡くなってます」

 

 言うか迷ったが、別に隠す事でもない。父親は俺が小さい頃に亡くなった。母親からは事故で亡くなったと聞いている。当時の記憶は曖昧で、写真でしか父親の顔を知らない。

 

「あ……ごめんなさい! その……無神経で」

 

 みはりちゃんが落ち込んでしまった。まずい。こんな態度を取らせる為に言った訳じゃない。

 

「大丈夫ですよ。慣れてますし、亡くなったのも僕が物心つく前なので、顔も覚えてませんし」

 

 慌てて陽気に振る舞う。俺からしたら何でもない事なのだ。何でもないと言うのは表現として不適切かも知れないが、気を遣ってもらう程の事ではないと分かってほしい。

 

「……そっか。でも、ごめんなさい。知らなかった事とは言え、気軽に聞いていい話じゃないよね」

 

 頭を下げるみはりちゃん。俺は素直に謝罪を受け入れる。これでこの話は終わりだ。

 少し気まずい空気になりながら買い物を続ける。こんな時は俺が何とか話題を切り出して場を繋がなくちゃいけなのだが、まだみはりちゃんに慣れていないせいで、寧ろ沈黙の方が楽まである。本当に情けない限りだ。

 

「お姉さんは料理作ったりしないの?」

 

 それ見ろ。みはりちゃんに気を遣わせてしまっただろ。しかも、触れられたくない話題に舵を切られてしまった。

 

「……見た事無いですね。まぁ、作れるとも思えませんし、食べたいとも思いませんね」

 

 昔の記憶が蘇る。俺が中学生くらいの頃、今ではなく当時だ。姉の作ったおにぎりが部屋の前に置いてあり、空腹だったから食べたら腹を壊した。それ以来、姉の料理は食べていない。おにぎりでどうやって腹痛を誘発させるのか。今となって恐ろしくて聞けない。

 

「辛辣だね……」

 

 苦笑いしているみはりちゃん。もしかしたら、同じ姉として思う所があるのかも。確かにまひろにこんな辛辣な言葉を言われたら立ち直れなさそうだ。

 

「……お姉さん」

 

「? どうかしましたか?」

 

 俺の姉エピソードを聞いて、何か考え事をしている。まさか、自分にも思い当たる節があるとかか?

 

「……ううん。何でもないよ。―――さて、材料も揃ったし、かえでと合流しましょ」

 

 何事も無かったかの様に歩き出す。俺もその後を付いていった。

 姉同士でしか分からない感覚でもあるのだろう。俺には下の兄弟は居ないからなぁ。

 

 

 

 

 

「本当に材料費払わなくていいんですか?」

 

 買い物から帰宅し、早速料理に取り掛かった。キッチンには俺とみはりちゃん、かえでさんが並んで料理を作っていた。まひろと穂月は目の前のリビングで勉強をしている。

 

「いいっていいって、私のお祝いなんだし」

 

「そーそー、誘ったのも私だしね」

 

 二人から支払いを拒否される。かえでさんはともかく、みはりちゃんは寧ろ払われる側ではないだろうか? パーティーの主賓が費用を払うのは違くないか?

 俺も経済状況にゆとりがある訳ではないので、お言葉に甘えさせて貰う。タダで食べられて、料理も作れるなんて、最高じゃないか。

 

「藤村君、手際良いね」

 

「……ども」

 

「普段から料理するんだってぇ」

 

 挽肉をこねている俺の姿を称賛するかえでさん。これくらいは誰でも出来ると思うのだが。

 

「これくらい、誰でも出来ますよ」

 

「グヘッ!!」

 

 何故かまひろのえずく声が聞こえてくる。なんだ? 腹でも殴られたのか?

 

「料理男子はモテるぞ。みはりも好きでしょ?」

 

「―――まぁ? 出来た方がいいよね~?」

 

「ガハッ!!」

 

 またしてもまひろの悲痛な声。見てみるとテーブルに突っ伏してピクピクしている。……本当に殴られたのか? 穂月のバイオレンスか?

 そんなこんなで調理は続く。時々聞こえてくるまひろの声は、そういう物だと思ってスルーした。

 

 

 

 

 

 出来た料理をテーブルに運ぶ。ハンバーグに付け合わせのパスタやサラダ。オニオンスープ等が並ぶ。

 

「美味しそう」

 

「……凄いな」

 

 穂月が感嘆の声を零す。まひろも驚いた様にテーブルに並んでいる料理と俺を交互に見る。

 

「本当にあきなが作ったのか?」

 

「一部な」

 

 主導はかえでさんなので、俺はあくまでも手伝い程度だ。かえでさんもかなり料理上手だったので、俺が出しゃばる所なんて無かった。

 

「……何を作ったの?」

 

「作ったなんておこがましいよ。野菜切ったり肉こねたりしただけだ。後はパスタ茹でたりとか、誰でも出来る事しただけで」

 

「ギャ―――ッ!!」

 

 何度目か分からない悲鳴でまひろが後ろに倒れる。本当に大丈夫なのか?

 

「それじゃ、食べよっか」

 

 皆が席に着いた所で食事が始まる。かえでさん作のハンバーグは、俺が作る物よりも美味しい。少しだが悔しいと思ってしまう。

 

「ハンバーグのソース、藤村君が作ったんだよね。凄く美味しい」

 

「……それは良かったです」

 

 みはりちゃんの感想に、俺が思った以上に心が弾んだ。よく考えてみたら、俺は自分の料理で誰かに食べて貰った事がない。今日は完全に俺が作った訳ではないが、俺の手が加わった料理の感想を言ってもらったのは初めてだった。

 

「料理も出来るし格好いいし、学校じゃモテるんじゃない?」

 

「いえ、そんな事は」

 

 ない……とも言い切れない。中学ではそういう経験はないが、大学では何回かあった。顔が良いと言うのはあんまりピンとこないが、大学に居た時はそれなりに身だしなみに気を遣っていたし、女性には出来るだけ優しく接する様に演じていた。その効果で多少だが、女性に好意を向けられた事はある。

 

「クラスの女の子は何人か、藤村くん格好いいって言ってるよ」

 

「それは初耳なんだが!?」

 

 穂月がハンバーグを食べながら何気なく発した一言は、俺にとってはかなり重要な話だ。俺が同年代の異性に恋をするのは、この実験の終了を早めてくれる。もし女子の誰かが俺を好きだと言うのなら、その子と恋に落ちれば実験終了に―――。

 

(いや、恋に落ちればって何だ? そんな訳ないだろ)

 

 自分でも何を言っているのか分からない。例え相手が好きと言ってきても、俺が好きになる訳はないだろうが。大学生だぞ俺は。恋される事はあっても恋焦がれる事はない……。

 

「モテるねぇ~。このこの」

 

「……ウザ絡みするな」

 

 横腹を突くようなジェスチャーをするまひろ。言い方がどことなくオッサンみたいなのが余計に腹立つ。

 

 そんなこんなで食事は続いた。久しぶりの大勢の食事に、俺は少しだけ心を弾ませていた。

 

 

 

 

 

 食事は恙なく終わった。後片付けを手伝おうとしたら、まひろが率先して茶碗を洗っていたので、俺の仕事が無かった。後片付けまでが料理なので、少し物足りなさを覚えたが、俺は大人しくスマホを見ながら待っていた。

 洗い物が終わった所で、時刻は八時を回っている。流石にもう帰らないとだな。

 

「そろそろ帰らなきゃね。みはり。改めて誕生日おめでとう」

 

「ありがとう、かえで。かえでの誕生日は私が御馳走作るからね」

 

「うん。楽しみにしてる」

 

 二人の微笑ましいやり取りを眺める。これを見れただけでも、今日、この場に居た甲斐があった。

 

「藤村君」

 

「……はい?」

 

 突然呼ばれた事で反応が遅れる。

 

「クッキーありがとう。大切に食べるね」

 

「それは……どうも」

 

 笑顔のみはりちゃんから顔を逸らしてしまう。こんな時、どう言葉を選べばいいか分からない。初めての感情が心で渦巻いていた。

 

「また来るからね。勿論、藤村君も」

 

「……いいんですか?」

 

 何故か後ろの方でこっちを見ているまひろを伺いながら聞いてみる。正直、俺の常識では何度も異性の家に来るのはそれなりの関係性でないと成立しないと思っているのだが。

 

「……偶にな」

 

 プイっとそっぽを向きながらまひろが答える。その様子をみはりちゃんとかえでさんが微笑んで見ている。

 

「いつでも来ていいからね。今度来た時は、学校でのまひろちゃんの様子とか聞きたいなぁ~」

 

「それは止めて!」

 

 慌てて駆け寄ってくるまひろ。姉妹のやり取りを微笑ましく、普段からの関係性が伺える。

 

「ふふ、それじゃ帰るね。二人共、また今度ね」

 

「またね~」

 

「まひろちゃん、また明日」

 

「お~う。またな、もみじ」

 

 別れの挨拶を交わす。俺もそれに習って、小さく手を挙げる。

 

「……またな、まひろ。それとお姉さん」

 

「じゃあな」

 

「また今度ね」

 

 二人に別れを告げて家を出る。何でもない事のはずなのに、どうしてか嬉しく感じてしまう。

 まるで、失った時間を取り戻した。そんな気分だった。

 

 

 

 

 

 穂月姉妹と薄暗い夜道を歩き、分かれ道まで辿り着く。

 

「それじゃ、ここで。穂月、また明日」

 

「また明日~」

 

「……お姉さんも、また何処かで」

 

「いつでも遊びに来ていいよ。待ってるからね」

 

 笑顔の二人。思えば、二人の協力が無かったら、今日の時間もなかった。穂月がクッキー作りを後押ししてくれて、かえでさんが皆で食事を提案してくれたお陰だ。

 このまま別れていいのだろうか。何か、俺にできる事は……。

 

「……あの」

 

「?」

 

「昨日はありがとうございました。改めてお礼をさせてください」

 

 二人に頭を下げる。その様子を見て、穂月姉妹は揃って驚いている。

 

「そんな、別にいいのに。律儀だねぇ。最近の中学生ってこんなにしっかりしてるの?」

 

「藤村くんが特別だと思う。藤村くんって偶に大人っぽいと思う事あるし」

 

「……今度、何かお返しを―――」

 

「本当に中学生? 私のクラスの男子でもここまでじゃないよ!?」

 

 確かに中学生らしくはない、かえでさんの前で、少し演技が入っているのもある。でも、お礼をしたいと言うのは、正真正銘の本心だ。与えらた恩には報いたい。

 

「―――でも、そうだなぁ。じゃあ、して貰おうかな。お礼」

 

 かえでさんが意味深に微笑んでいる。かえでさんの妖艶な笑みを見て、無意識にかえでさんの身体に目線が行ってしまう。

 アホか俺は! そんな訳ないだろ。そもそも、そういう展開になったら困るのは俺だ。お前には女性恐怖症がある訳で―――。

 

「今、返してもらうね」

 

「え?」

 

 一瞬、思考が止まる。今? 今俺に出来る事なんて―――。

 

「かえで。名前で呼んでくれるのがお礼って事で、どうかな? 私もあきな君って呼ぶから」

 

「―――分かりました。……かえでさん」

 

 少し躊躇いながら名前を呼ぶ。徐々に声が小さくなって、最後の方は殆ど発声出来なかった、……思春期の様な思考だった自分をぶん殴りたい。いや、もうぶん殴ってくれ。

 

「顔、赤いよ?」

 

「……恥ずかしくて」

 

 不思議そうに指摘する穂月。色んな意味で悶えそうな俺は、そりゃあ顔も真っ赤だろうな。見たくもない。

 

「ッ!! かえでさん! これでいいですか!?」

 

「うん、よろしい。これからよろしくね! あきな君」

 

 羞恥心をかき消す様に名前を呼ぶ。まぁ、みはりちゃんと一緒にいると、どっちもお姉さんだから、呼び方が違うのは有り難い。今後、二人が揃った場面に遭遇するかは定かじゃないが。

 

「―――じゃあ、私ももみじで」

 

「じゃあって何だよ」

 

 唐突に穂月が張り合う様に宣言する。

 

「ほら、穂月だとどっち呼んでるか分からないでしょ?」

 

「……いや、その問題も今、解決したけど」

 

 姉をかえでさんと呼ぶんだから、穂月の時は妹と言う事になるんじゃ?

 

「今からもみじね」

 

「……分かったよ。もみじ」

 

 何だか強引に名前呼びになった。俺はどっちでも良かったので、もみじが望む方に合わせよう。

 

「俺の事は何て呼ぶんだ?」

 

「じゃあ……あきな君でいい?」

 

「……おう」

 

 もみじに名前を呼ばれ、少しドキッとしてしまう。何故か女子に名前を呼ばれると心が弾んでしまう。とんでもなく恥ずかしいが、いい傾向と前向きに捉える事にする。

 

「そうだ。ライン交換しない?」

 

「いいですよ。ライン交換……は!」

 

 かえでさんの提案を聞いてハッとする。連絡先を交換するという展開が、もし緒山宅で起こっていたらまずかった。俺のスマホには既にみはりちゃんとのトークがあるので、危うく素性がバレる所だったではないか。俺も平然と食事後にスマホ見てたし、忘れてきたと嘘も付けなかった。危ない危ない。

 

「よく考えたら、みはりの家に居た時に言えばよかった! ごめんね。あきな君」

 

「いやー、ははは。大丈夫ですよー」

 

「何だか棒読みな気が……」

 

 知らずに危機を回避できた事に感謝。今日は運もいいのかも知れない。

 そう思いながらスマホを取り出そうとカバンに手を入れるが、目的の物を発見できなかった。

 

「……ん?」

 

 カバンの中を見る。スマホは無い。ポケットにも何処にもスマホは無い。最後に触っていたのは緒山宅のテーブル前。もしかして……。

 

「忘れてきた」

 

「「えぇ!?」」

 

 俺の一言に二人で驚く。多分落としたとかではないので、取りに行けば問題は無いはず。

 

「すみません。取りに戻ります。ライン交換はまた後日に!」

 

「一緒に行こうかぁ?」

 

「大丈夫です、一人で。また今度。もみじはまた明日な!」

 

 二人に別れの挨拶をして、来た道を走って戻る。前言撤回だ。全然運良くない。いや、俺の不注意か。忘れてきた事も。スマホを取り出した事も。

 己の不覚を反省しながら、俺は夜道を走った。

 

 

 

 

 

「ふぅ、帰ったか。全く、あきなの奴、今度はもう手伝ってやらないからな―――ん?」

 

「どうしたの? お兄ちゃん」

 

「テーブルにスマホが……? もみじのじゃないな」

 

「かえでのとも違うし、もしかして藤村君の?」

 

「アイツ、忘れていったのか。結構そそっかしい所が……うわ!」

 

「着信だね。出ちゃダメだよ?」

 

「出るかぁ! 人のスマホなんだから!」

 

「ははは、ごめんね。冗談……あれ?」

 

「? どうかしたのか?」

 

「画面に表示されてる名前……『藤村あかり』って、もしかして……?」




 次回は男子サイドメインの話になるので、少し短いかも知れません。その分ではないですけど、もしかしたら木曜日のアニメ視聴に興奮し過ぎて、二話連続で掲載するかもしれません。

 ……二日に一話を長く続けたいので、多分自重します。多分。
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