先輩はおしまい!   作:朋也

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 今回の話は前回の後語りの様な話なので、かなり短いです。スナック感覚で読んで頂ければ幸いです。

 もしかして、短い話を何話も書けば、話数のかさ増しになりますかね?(悪しき心)


あきなと正しい回答

 夜道を爆走する。緒山宅にスマホを忘れてきてしまった。

 忘れただけならいいのだが、万が一道に落としていた場合、街頭の明かりだけでは探すのは難しく、捜索は明日か、緒山宅で電話を借りて、鳴らしながら夜道をつぶさに観察して歩くしかない。

 歩いた距離はさほど長くは無いし、最後に触ってから無い事に気付くまで 把握できていない場所は歩いていないから、見つからない事は無いと思うが、中々に骨が折れる作業になる。

 俺は緒山宅にある事を信じて、夜道を走った。

 

「はーい。どちら様ですかぁ?」

 

 緒山宅のチャイムを鳴らすと、みはりちゃんが出てきた。

 

「ハァ、ハァ、すみません。……もしかしたら、スマホ、置き忘れてたり、しませんか?」

 

 息も途切れ途切れの尋ねると、俺を見た途端、みはりちゃんが待っていたといった様子で白衣のポッケからスマホを取り出す。

 

「あぁ、藤村君! テーブルに置き忘れてたよ」

 

「ッ! ありがとう……ございます!」

 

 みはりちゃんからスマホを受け取る。良かった。置き忘れただけか。最悪の事態は回避できた。

 

「……」

 

「……お姉さん?」

 

 喜びを噛みしめる俺を、みはりちゃんがまじまじと見つめている。少しだけ背中に冷や汗が流れる。

 

「ちょっとだけ聞きたい事があるんだけど、いいかな?」

 

「何ですか?」

 

 改まった様子のみはりちゃん。一体なんだろうか?

 

「藤村君、お姉さんが居るって言ってたよね?」

 

「……そうですけど」

 

 今日、二人でスーパーで買い物した時、姉が居ると話したのを思い出す。大した話はしていないと思うのだが、何か気になる事でもあるのだろうか。

 

「その、お姉さんってもしかして―――」

 

 みはりちゃんが言い終わるより早く、持っていたスマホが振動する。それにビクリと肩を震わせる俺とみはりちゃん。

 

「お、お先にどうぞ」

 

「すみません……あ」

 

 思わず声が出てしまう。画面に映し出されている名前は『藤村あかり』。よりによってこのタイミングでか……!

 どうする。電話に出るのはいいが、みはりちゃんを目の前にあかりと会話するのは、余りにも心臓に悪い。バレる事は無いとは思うが、万が一という事もあるし……。

 

「? 出ないの?」

 

「……出ますよ。出るんですけど―――」

 

 全身から嫌な汗が出る。震える指でスマホを操作し、電話を―――。

 

「―――ッ!! すみません! お話はまた今度、お願いします! それじゃ!」

 

「あ―――」

 

 そう言い残し、その場を全力で逃げ出す。チキンハートの俺にはどうしても耐えられなかった。

 全力疾走で来た道を戻り、それなりに距離を離したところで、一旦深呼吸。ただでさえ緒山宅に戻る時に走ったのに、碌に休まないまま再びの全力疾走。酸欠で頭が痛くなるのを、呼吸を整える事で解消に努める。

 数分である程度回復し、改めてあかりに掛け直す。

 

『出るの遅いですよ先輩! 何処で何をしてるんですか!?』

 

『ハァ、ハァ、何処でもいいだろ』

 

『良くないです。どうして出てくれないんですか!? 私の事嫌いですか!?』

 

「メンヘラ彼女か……」

 

 面倒な絡みをしてくるあかり。最近、俺に対するあかりの扱いがおかしい気がする。揶揄う立場が逆になったみたいだ。

 

『冗談です。ただ、少し心配になったので』

 

「別に風呂とかあるだろ。心配性だなぁ。全く、何てタイミングで掛けてきやがる」

 

『? 不都合な時間でしたか?』

 

 疑問形のあかり。しまった。迂闊な言葉だったか。

 

「……いや、別に」

 

『何だか息も荒い様ですし、何か―――成程。失礼致しました。私の配慮が足りませんでした。男の子ですもんね。理屈は分かります』

 

「……滅茶苦茶誤解だから、説明させてくれ」

 

 不本意な勘違いを正す為に、俺は事の成り行きを話す事にする。

 

「実はさっきまで、みはりちゃんと会ってたんだよ」

 

『みはり先輩と?』

 

「あぁ、それが―――」

 

 俺は緒山宅で夕飯を食べる事になった経緯を掻い摘んで説明する。

 

「―――てな訳で、この身体でもみはりちゃんと交友を持つことになったんだよ」

 

 以前、スーパーで会ったことは話したが、あの時は自己紹介程度だったし、交友が出来たという程ではなかったが、今回は完全に知り合いの定義に当てはまるくらいの仲にはなった。

 

『……』

 

「あかり?」

 

 俺の説明を聞いて黙りこくるあかり。数秒経過した後、神妙な声色で話し出す。

 

『私に言われたくないかも知れませんが、大丈夫ですか?』

 

「何が?」

 

『みはり先輩にも、嘘を吐く事になって……』

 

 何の話か思ったら、そういう事か。確かにこの状況になったのは、元を辿ればあかりのせいなので、どの口が言っているのかとは思う。しかし、それが無かったとしても、心配される様な事柄ではない。

 

「そんなの、今更だろ?」

 

 みはりちゃんに嘘を吐くのは心苦しが、嘘を吐き続けてきた俺が、今更相手の気持ちを思いやるなんておこがましい。

 

『先輩が大学でモテていたのは、そのルックスで誰にでも優しく接するからです。特に女性にはあえて優男を演じていたと思います』

 

 的確なあかりの指摘。演じる―――そこまで彼女には見抜かれていたのか。しかし、その事は今、関係あるのか?

 

『でも、本当の先輩はもっと意地悪で、性根が腐ったダメ人間です』

 

「悪口が過ぎるな」

 

『先輩が女性に対して一定の距離を保つ為に、あえてそういうキャラを演じているのだと思います。でも、それはずっと嘘を吐いているのと変わりません』

 

「……」

 

『先輩。嘘を常習化しないでください。特に親しい人に嘘を吐き続けるのは、自分でも知らない内に心を壊してしまいます』

 

 心配そうに語り掛けてくるあかり。その言葉に、俺は胸を締め付けられる思いだった。

 

『何の為に中学校に通っているのか。考えてみてください』

 

「……忠告、痛み入るよ」

 

 あかりとの通話を終え、一人夜道を歩きながら、先程の会話を思い出していた。

 嘘の常習化。確かにそうかも知れない。俺は女性に対して絶対と言っていい程演じる事から入る。勿論女性恐怖症の関係もあるが、何より、俺は女性に対して自分を出すことを恐れている。

 本当の自分なんて理解してもらえない。本当の自分を見せると幻滅される。そうなるとまた―――。

 

「……」

 

 都合のいい妄想ばかりしてしまう。皆が、ありのままの俺を受け入れてくれる。そんな妄想。

 

 そんな世界は、この世の何処にもないと知っているのに……。

 

 

 

 

 

 もうすぐGWだ。しかし、その前にテストがある。中学校で初めてのテストな訳だが……。

 

「どうだ~みなと。俺全然自信ないわぁ」

 

「……僕も、勉強はしてきたけど」

 

「……」

 

 テスト前の休み時間。ゆうたとみなとの二人と、テストの意気込みについて話す。

 

「あきなぁ、お前はどうだぁ?」

 

「……」

 

「おーい、あきなー?」

 

「……え?」

 

 顔の前で手を振られて気が付く。ゆうたが俺に話しかけていた。

 

「大丈夫か?」

 

「すまん。ぼーっとしてて」

 

「一夜漬けで眠いとか?」

 

「まぁ、そんなとこ」

 

 みなとの指摘に乗っかる。一夜漬けではないが、眠いのは合っている。最近はぐっすり眠れていない気がする。

 

「ほーん、じゃあ、テストの自信はどうよ?」

 

「テスト? まぁ、それは―――」

 

 中学校のテストなのだ。大学まで行っている俺が苦戦してはいけないだろう。自信とか、そんな次元では語れない。

 

「―――ぼちぼちかな?」

 

「まぁ、そんなもんだよな」

 

「そうだよねぇ」

 

 うんうんと頷く二人。満足させる回答が出来たのならそれでいい。例え、それが間違っていても。

 胸が痛む感覚に苛まれながら、テストの時間が訪れる。始まったテストに目を通す。ある程度見てみたが、分からない問題はなさそうだ。

 

(初めてのテスト。満点は流石にまずいし、適当に何問か間違えて―――)

 

「……」

 

 これは、目立ち過ぎない様にする為に、仕方なく行う工作作業だ。決して嘘を演じている訳ではない。

 それなのに、あの時のあかりの言葉が頭から離れない。さっきもそうだったが、あの言葉が俺の言動を常に監視している。

 

「嘘の常習化……」

 

 女性に対して演じるのは、確かに常習化している。でも、テストや男友達に対して嘘を吐くのは、ただ自分の都合のいい様に話を進めたいだけの、自己保身の嘘だ。これを正当化出来るだけの言い訳を思いつかない。

 目の前のテスト用紙は、単純に授業の復習を聞いているのか。それとも、俺自身を試しているのか。

 

「……はぁ、もう、ダメだな。俺は」

 

 考えるのを止めた俺は、俺の中で正しいと思う回答を記入する。それが合っているのか間違っているのか。今の俺には分からなかった。

 

 テストが終わり、一息ついていると、ゆうたとみなとが机に集まってくる。

 

「テストどうだった?」

 

「まぁまぁ、かなぁ。ゆうたは?」

 

「ヤバいかも知んない。あきなは?」

 

「―――俺は」

 

 相手を満足させる回答。それが俺の嘘の吐き方。演じている時もそうじゃない時も、嘘を吐くときは、出来るだけ相手に不快感を与えない。それがポリシーだ。

 

「―――俺は、全部できた」

 

「「え―――!!」」

 

 二人のハモリ絶叫。からの俺の肩を掴んで揺らしてくる。

 

「話が違うだろ!」

 

「そうだよ! ぼちぼちじゃなかったの?」

 

「思ったより簡単だったなぁ」

 

「「裏切り者ぉ!!」」

 

 揺すられたり頬を摘まれたり、散々な扱いを受ける。やっぱり、相手を不快にさせるくらいなら、嘘を言った方がいいんじゃいか?

 

 ―――まぁ、でも、こういうのも悪くない。そう思えるくらいには、中学生生活に慣れてきたのかも知れない。




 次回からはGWに入ります。原作でもある話に介入していくので、ある意味原作改変かも知れませんが、温かい目で見守って頂ければ、幸いでございます。

 もしかしたら、金曜日に上がるかも知れません。頑張ります。
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