My Hero Academia If ヒロアカ妄想色々   作:思込激子

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決意するデク

「おいデク、てめェ進路どうすんだよ」

「うん、えっと……雄英サポート科を受けようと思ってて……だ、ダメかな?」

「そこでなんで俺の顔見んだゴラァッ!」

「ひッ!? だ、だって昔ヒーローになるって言ったら攻撃してきたじゃないか」

 

 出久の言葉に勝己の表情は一瞬歪み、直後に怒りの色を見せる。

 

「たりめぇだッ! 無個性って時点で可能性は低いってのに雄英ヒーロー科だぁッ!? こっちは本気でヒーロー目指してんだよ、自分(てめェ)の不利をひっくり返す策も考えねえでほざくてめェには虫唾が走ったわ! それに加えて鍛えるワケでも勉強するワケでもねェッ! 馬鹿にしてるって捉えて当然だろォが!!」

「そ、それは……ごめん……」

「チッ、今更謝んなや」

 

 突きつけられた親友の当時の心境。

 今思い返せば、行動を振り返ればそう捉えられるのも無理のない話だ。

 当時の自分は本気でヒーローを目指してそう言ったワケではなく、憧憬に突き動かされて、現実を突きつけられて、絶望の中で突き動かされた惰性で口にしていただけ。それを自覚しているからこそ後悔は強い。

 

「じゃ、じゃあ今ヒーローを目指すって言ったら応援――」

「するワケねぇだろうが! それを口にした時点でてめェは俺のライバルだ。そうなりゃ俺はてめェを叩きのめすぞ」

「ごめん……」

「だから謝んじゃねえ! てめェの対人反応(レス)優先一位は謝罪か!」

「……独特だね」

「ぶっ飛ばすぞ!」

 

 帰路。

 不意にスマホが鳴る。

 それは二人同時で、見ると同じ人物からのメッセージ。

 表示名は『心操くん』と『寝不足』。

 

「いつもの海浜公園にもう着いた、って」

「見りゃわかるわ!」

「ご、ごめん……」

 

 原作では漂着物が多く、また不法投棄がされていた海浜公園。

 二人と人使では住んでいる場所が異なるために頻繁に会えるワケではないが、今日は人使の学校の創立記念日ということで二人に会いに来ていた。

 

「二人とも、久しぶり」

「おォ」

「ひ、久しぶり」

「緑谷元気ないけど何かあったのか?」

 

 疲れた少年という印象の強い紫髪と隈の彼は気さくな雰囲気で手を挙げて声をかける。

 下がった左手にはいくつかゴミの入ったゴミ袋。

 

「あ゙~、気にすんな。テストで一問ミスって全教科満点が達成できなかったってだけだ」

「ゔ……。だ、だって皆勉強してきてるんだよ!? 雄英のテストは難しいしッ、他の受験生は僕なんかよりッ」

「うん……これはウザい」

「ヒドいッ!?」

 

 今に始まった事ではない出久のネガティブ暴走列車。

 付き合いからそういう時は無視に限ると理解している人使は先んじて実践していた爆豪のように出久を適当にあしらう。

 

「ンなことより。いきなり会いたいって、なんかあったんか?」

「え?! だ、だだだ、大丈夫!?」

「落ち着けよ緑谷。……大丈夫。何もなかったワケではないけど平気だから」

 

 二人の表情が僅かに歪む。

 人使のことをある程度知っているから説明されずとも何があったのかは察することが出来た。

 

「色々考えてさ、やっぱ改めて結論付けたんだよ。俺、雄英ヒーロー科を目指すよ」

「そぉかよ。なら全力で()ってやる」

「そういうってことは爆豪は変わらず雄英ヒーロー科?」

「たりめぇだろうが」

 

 雄英ヒーロー科。そういった人使の身体は二人が記憶しているモノよりも逞しくなっている。

 それはかつての出久の心に影響を与えた冷静な現実。

 

「緑谷はどうするんだ? そっちも最近だったろ、進路調査」

「う、うん。やっぱり雄英サポート科にしようかな、って」

「そうか。いっぱい勉強してたもんな」

 

 人使よりも細身。

 以前に比べれば鍛えて逞しくはなりつつあるがそれでもヒーローになるにも、ヒーローの卵になるにも頼りない肉体だ。

 

「今回来たのは目標を絶対にしたっつー決意表明と、お前らを蹴落として首席取るぞっつー宣戦布告」

「ッ!」

「緑谷はサポート科だから爆豪だけになったけど」

「上等だオラぁッ! 完膚なきまでに叩き潰して絶対の地位を手に入れてやらァッ!」

「……」

「それだけだ。悪いな、わざわざ時間作ってもらって」

 

 信念の宿った瞳で立ち去る人使の背中を出久はジッと見つめる。

 それを横目で見た勝己は出久のお尻を強く蹴った。

 

「帰んぞ!」

「あ、う、うんっ」

 

 

 

「それじゃあ最後進路希望のプリント回収するぞ~。持ってきた奴は前に持って来~い」

 

 教師の言葉に従って順にプリントを提出する。

 

「なんだ緑谷、ヒーロー科じゃないのか? おいおい、もっと向上心をだな――って雄英サポート科か」

「「「「「雄英?!」」」」」

「マジか……」

「サポート科とはいえかなりムズイだろ!?」

「てかむしろ開発とかやる分学力はヒーロー科以上に必要じゃない?」

「「「「「……頑張れよ! 緑谷!」」」」」

 

 時代と若さゆえに全員がヒーロー科だと考えていた教師の言葉に出久の表情がピクリと動くが直後の驚きと感心の籠った声と、クラスメイト達の応援の言葉に出久は笑顔になった。

 

「うん! 頑張るよ! かっちゃんも一緒に頑張ろう!」

「あァ」

「この学校から二人も雄英進学者が出るのかぁ」

「カツキも頑張れよ」

「オイッ、なんだそのついでみてぇな適当さはァッ!」

 

 称賛の嵐にあいたいワケではないが扱いの差に叫ぶ勝己とそれを笑って躱すクラスメイト達。

 

「チッ、てめェら……」

 

 

 

「終わった終わった~!」

「カツキ~、遊び行こ~ぜ~」

「おォ。デク、お前も行くか?」

「……ううん。今日はちょっと用事あるから僕は良いや」

「……そぉか」

 

 ごめんねと謝りながら足早に教室を出る出久。

 

「ん? オイデクぅッ! ノート忘れてんぞ!」

「ご、ごめん! ありがとう!」

 

 渡される『ヒーロー分析 No.35(・・)

 

 それは子どもの頃からの習慣であり、もう一つの意味もあった。

 

(えっと、お母さんの言ってたのは全部買ったよね? 強力粉・塩・トマト缶・ソーセージ……うん! 大丈夫、全部ある)

 

 人通りの少ない場所。

 そうして運命の場所へと辿り着く。

 

(かっちゃんは雄英ヒーロー科を目指して頑張ってる。心操くんも周囲の目に抗って前を、上を見て努力してる! そうさ僕だって! グイッと上見てつき進め!! 僕、だって……つき、進め……)

 

 闇を抜ける。

 マンホールを通り過ぎ、気配に気づく。

 

「Mサイズの…隠れミノ…」

 

(!?)

 

 マンホールに開いた穴からネトネト(GLOOP)と噴き出すヘドロの生き物。

 

「わっ プッ」

 

 出久を優に上回る大きさの個性(ヘドロ)の人間。

 

(ヴィラン)!!?)

 

「大丈ー夫。身体を乗っ取るだけさ、落ち着いて。苦しいのは約45秒…すぐ楽になるさ」

 

 口に、鼻にと侵入するヘドロ。

 息が出来ない。取り払おうと足掻くが流動体を前にそれは意味を成さない。

 けれどどうにか抗おうと、無抵抗はダメだと。掴む代わりに自らの手で口を、鼻を塞ぐ。そうして侵入を防いでどうにかならないかと。

 

「考えたあじゃあないか。でもそれじゃダーメ。不完全さ」

 

 出久の動きを封じ込めようと腰を抑えていたヘドロが僅かに蠢き、少し下に範囲を伸ばす。

 それは服の中に、下着の中に侵入し、出久はその真意を遅れて理解した。

 

(コイツッ! お尻の穴から!?)

 

 涙が零れる。死を覚悟する。

 恐怖の感触が、出久を甚振って楽しむかのようにゆるりと垂れる。

 

(死ぬ! 死ぬのか!? 誰かっ! 死ぬっ! 嫌っ…)

 

「もう大丈夫だ少年!」

「!?」

 

 その時、マンホールから憧憬(こえ)が響く。

 

「私が来た!」

 

 巨躯の男はマンホールを殴り上げて穴から抜け出し、拳を振りかぶった。

 

TEXAS(テキサス)SMASH(スマッシュ)!!」

 

(オ……え!? オール…マ…ィ…)

 

 殴りかかった風圧だけで出久の身体を這っていたヘドロは全て吹き飛ぶ。

 と同時に出久の意識もそこで途切れる。

 

「ヘイ! ヘイ!!」

 

 ぺぺぺぺぺぺぺと頬を軽く叩く感触と声に意識が戻る。

 眼前には寝起きに悪い憧憬の姿。奇妙な叫びが漏れ出ていた。

 

「元気そうで何よりだ!! いやあ悪かった!! (ヴィラン)退治に――」

 

 警戒に謝りながら何やら話すが憧憬を前に出久の理性はそれを聞き届けない。

 問題なく終わったと見せる(ヘドロ)の入ったペットボトルを目にしてもそれよりもNo.ヒーロー(オールマイト)の方へと意識が向いてしまう。

 

「そうだ! サイっ、サイン!」

 

 いつの間にか落としていたヒーロー分析ノートにとページを開くとそこには既に『ALL MIGHT!』の文字とマーク。

 

「わあああ~!!! ありっありがとうございます!! 家宝に!! 家の宝に!!」

「じゃあ私はこいつを警察に届けるので! 液晶越しにまた会おう!!」

 

 ペットボトルをズボンのポケットに押し込みながら飛び去ろうとしゃがみこむオールマイト。

 

「って。コラコラーーー!」

 

 まだ聞きたいことが一つあった出久は憧憬と青さに背を押されて気づけばオールマイトにしがみついていた。

 離せと言うが離せば死んでしまうというやりとり(ギャグ)を挟みつつも出久の必死の懇願にオールマイトは折れ、僅かではあるが話に応じることにする。

 

 

(くそう…!! あのヤロウ…あのヤロウさえいなけりゃ…!!)

 

「緑谷ってカツキの幼馴染だっけ?」

「おまえの性格的に『折寺中初にして唯一の雄英進学者(おれのみち)にいたのが悪い』って言ってぶっ飛ばしそうだけどな」

「あァッ!!? 既にやったわ! 雑魚が現実見ねえでガキの夢のままほざきやがるからぶん殴ったわ。けどよぉ……アイツが現実的に考えて本気で言うならサポート科(あっち)だろぉがヒーロー科(こっち)だろぉが反対はしねえよ。俺は本気でヒーロー目指してんだよ。同じく本気で来んなら止めねえし正面から向かい合ってぶっ飛ばしてそんでもって上回――つーかてめェらタバコやめろっつったろ!! 歳考えろ!!」」

「「お…おい!!」」

「?」

「良い“個性”の、隠れミノ」

 

 

 

「怖っかっった…………」

「全く!! まあそれも若さだ! これからの私にとっての良い学びになったとして強くは言わないでおこう! それで? まだ少し時間があるから話を聞こう。ちょっとだけだよ」

 

 ムキッ。と筋肉で怒りを表しながらもお茶目(ユーモア)も混ぜて出久の話に応じようとするオールマイト。

 だが絶えず真剣な様子に出久もより一層真剣に話す。

 

「“個性”のない人間でもあなたみたいになれますか?」

「“個性”が…」

「僕には“個性”がなくて……だからヒーローを諦めました。けれどやっぱりヒーローを諦めきれません! 人を助けるってめちゃくちゃかっこよくて。恐れ知らずの笑顔で助けてくれる! あなたみたいな最高のヒーローに僕も!」

 

 憧れは止まらない。

 それは未練として残り、今なお加速する『ヒーロー分析 No.35』が一番の証。

 カッコいいヒーローのことを知りたいと言葉で肥大化させて最も大きな理由を無意識に隠していた。

 

「少年。残酷な現実だが君に無謀をさせられないからあえて突きつけよう。誰にも言うんじゃないぞ」

「えっ――ひっ!?」

 

 筋骨隆々だったはずのオールマイトは途端に骸骨のように萎む。

 そして捲られたシャツ。

 そこから覗くオールマイトの肉体は惨たらしい。

 

「呼吸器官半壊。胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまって私のヒーロー活動の限界は今や一日三時間ほど。……もう一度言うがこのことは世間に公表しないでくれ」

「オール……マイト……」

「人々を笑顔で救い出す“平和の象徴”は決して悪に屈してはいけないんだ。私が笑うのはヒーローの重圧と内から湧く恐怖から己を欺く為さ」

 

 平和の象徴(ヒーロー)の舞台裏。非情な現実に声が出ない。

 確かに残酷。

 それでも教えてくれたのはせめてもの情け。

 どう足掻いてもヒーローになれないだろうと、そう考えたからこその二つの道を見ての残酷な現実。

 

「プロはいつだって命懸けだよ。『“個性(ちから)”がなくとも成り立つ』とはとてもじゃないがあ…口に出来ないね」

「は、い……」

 

 オールマイトは子どもに無茶をさせないためにヒーローとしてではなく一人の大人として出久に現実を教え、そして屋上の扉を潜り階段を下りる。

 だが子どもを傷つけたことには変わりないと心を痛めながら(ヴィラン)を警察に送り届けようとポケットに手を伸ばし、手が空を切った。

 ボゥ…と窓から遠くの爆炎が見え。まさか……と口から漏れ出る。

 

 

 

「おおォオオオ!!!」

 

 街中で爆発と炎が猛る。

 

(こんなドブ男にぃい――俺が呑まれるかぁあああああ!!)

(えれぇ力!! こりゃ大当たりだぜえ! この“個性”と力ならば奴に報復できる!)

「「こぉんのおお!!」」

 

 周囲を取り巻く見物人(ガヤ)

 その場にいるヒーローたちも“個性”の相性からか手出しできずにいた。

 

「私二車線以上じゃなきゃムリ~~~!」

「爆炎系は我の苦手とするところ…! 今回は他に譲ってやろう!」

「そりゃサンキュー。消化で手一杯だよ! 消防車まだ?」

「ベトベトで掴めねえし良い“個性”の人質が抵抗してもがいてる!」

「おかげで地雷原だ。三重で手ぇ出し辛え状況!!」

 

「うえ゙っ」

 

 爆発(BOOOM)

 勝己にヘドロが侵入しようとしてその苦しみから抗うために使用していた“個性《ばくは》”が暴発して苛烈さを増す。

 

「っとぉ!!」

「ダメだ! これ解決出来んのは今この場にいねえぞ!!」

「誰か有利な“個性(やつ)”が来るのを待つしかねえ!!」

「それまで被害をおさえよう。何! すぐに誰か来るさ!」

「あの子には悪いがもう少し耐えてもらおう!」

「くそ!!」

 

(あの時だ! 時間ばかりに気をとられた! 一般人(ファン)を諭しておいてこのミスか!! 情けない……情けない!!!)

 

「ハアーーーーーーー」

 

 失意のため息。悔しさの涙。

 地面ばかりが目に入る。

 

(泣くな! わかってた現実さ……。かっちゃんにわざわざ教えられたじゃないか。だから僕に出来ることを、サポート科を、って)

 

 その時。耳に入り続けていた音が意識にも届く。

 それは爆発の音。

 長年のヒーロー分析の癖で戦いの音に誘われた、飛んで火にいる夏の虫のごとき行為。

 

(今はやめとけ……ヒーローのサポートアイテムを作るのに役立つって纏めてたけど、今は――!? あいつなんで!!!?)

 

 自分で言って直後に気づく。あの時オールマイトにしがみつき、自分が暴れたせいだと。

 

「ヒーローなんで棒立ちィ?」

「中学生が捕まってんだと」

「てかダメだろ。広い場所でしか戦えないのとか、苦手だからって偉そうに逃げたり、それに被害者の必死の抵抗を揃って邪魔扱いしたり。しかも子ども見捨てて自己犠牲の人間が他人頼りって」

「ッ!!」

 

(僕のせいだ…!! 僕のせいでオールマイトは動けない!! あいつは掴めない! この場の誰もどうしようも――)

 

 抗う勝己。

 助けるはずのヒーローを見ようとしたのか、五月蠅い見物人を睨もうとしたのか、それとも偶然か。

 足掻く勝己と後悔に苛まれる出久の視線が交差する。

 

「――――ッッ!!!」

 

 気づけば飛び出していた。

 自ら危険に飛び込むワケがないという思い込みから油断していたヒーローや警察の抑え(バリケード)を無視して直後には前にいて、自分ですらその行動に驚愕していた。

 

(デク!!? 来るんじゃねえッ! てめェじゃ何もッッ)

(何やってるんだ僕は!!? 考えもナシにッッ)

 

「爆死だ」

 

 抗い、その威力を身を以て理解している(ヴィラン)はドロリと蠢きながらそう呟く。

 だがそうはならなかった。

 出久の登場と、巻き込んでしまうという思考から勝己の抵抗が止む。

 命懸けの綱引きをやっている最中に相手が突然引く力をゼロにすることなど考えもしない(ヴィラン)はその事実に理解が及ばず、流体を数瞬硬直。それによって出久は一つの策を思いついた。

 

(僕はバカだ!!)

 

 (ヴィラン)にとって今の優先順位の最高は勝己(ひとじち)ではない。

 それよりも対処すべきは目の前の出久(いぶつ)

 出久が“無個性”であると知らず、どんな攻撃をしてくるのかわからない(ヴィラン)にとってはその一挙手一投足全てが警戒すべき事柄。

 それを排除するのが最優先であり、それさえ達成してしまえば先ほどの自分有利の拮抗状態から考えてどうとでもなる、と。

 

「しぇい!!」

 

 だからこそ(ヴィラン)は出久の投げたカバンに意識が向いた。向き過ぎてしまった。

 (ヴィラン)とはいえ所詮は戦いの素人。放り投げられた武器(カバン)を目にして、その中から飛び出すノートやペンを凝視し、どんな武器がと警戒し、少しの時間出久そのものから意識が外れる。

 そしてその隙に出久は手に持っていた袋から二つのモノを投げつけた。

 

「ぬ゙っ」

 

 それは強力粉の袋と塩の袋。開けられた袋からは粒が舞い、そのほとんどが(ヴィラン)に掛かる。

 ヘドロは要素分解をすれば『泥』と『水分』だ。ヘドロの異形はつまりヘドロが肉体であり、それが変質してしまえばそれは正常ではなくなる。

 指先が壊死すればそれがかつての肉体であっても肉体ではなくなるように、ヘドロの肉体から水分を奪ってしまえばそれはヘドロではなく乾燥した泥となる。

 

「かっちゃん!!」

「なんで!! てめェが!!」

「気づいたら!! わかんないけど!!」

 

 理屈は考えれば色々あった。けれどそのどれもがその時の出久の頭にはなかった。

 

「助けを求めてる顔に見えたから」

「!!」

「やめっ…ろ…!」

 

(情けない…情けない!)

 

 出久を乗っ取ろうとした一度目、出久にしてやられた二度目。

 そのどちらも“個性”を使おうとしなかったことから(ヴィラン)は出久の“無個性”を理解し、勝己への侵食を再開し、また出久の殺しも並行する。

 だが同時にオールマイトが駆けていた。

 

「君を諭しておいて…己が実践しないなんて!!! プロはいつだって命懸け!!!」

 

 出久と勝己の腕を纏めて掴む。

 

DETROIT(デトロイト)SMASH(スマッシュ)!!」

 

 

 

『ニュース見たよ。爆豪大丈夫か?』

『あ゙ァ!? あんくらい平気だわ! ……デク、助かった。ありがとな』

『爆豪が緑谷にお礼!? やっぱヴィランに乗っ取られたんじゃ?』

『ちゃんとあの後病院に行って検査したよ。かっちゃん問題ないって。あと一応僕も平気』

『オイコラデクぅッ! その流れだと俺の頭調べに病院行ったみたいだろうが!! ぶっ飛ばすぞ!』

『相手の個性的にある意味そうじゃない?』

『アハハ』

『デク、笑うんじゃねえ』

 

 開けた窓から夜風が吹く。

 傷を負って、かさぶたになったばかりの心にはそれが酷く沁みた。

 

『二人とも。少し通話できない?』

『良いぞ』

『こっちも平気だ』

「……なんて言えば良いんだろ」

「さっさと言えや」

「そう焦るなよ爆豪。……ちゃんと聞くから落ち着いて整理しろよ、緑谷」

「う、うん。ありがとう。でも答えは決まってるんだ。けどいきなりだからもう少し何か言おうかって――」

「余計なことすんじゃねえ!」

「同感。普通に思ったこと言えよ」

「……僕も、雄英ヒーロー科を目指すよ」

「――ならライバルだな」

「――チッ」

 

 勝己が通話から抜ける。

 そしてそれぞれの形でその夜が磨かれた。




SSTips1:二人と心操人使の繋がりは幼少期
     雄英に憧れて何度か高校を身に来ていた人使が二人と遭遇
     意外なことに先に知り合い友人になったのは勝己の方で、経由して出久も友人に

SST2:本気には本気で応える勝己
   勝己の不器用な優しさに出久は気づき、ヒーローを目指すことは一度諦める
   その結果二人の仲はそれなりに改善されている

SST3:人使は周囲からの目は原作とほとんど変わらないが友人二人に関しては良好
   二人とは出会って少ししたあたりからヒーロー像を語り合うなど心も開く
   
SST4:原作でゴミだらけだった海浜公園は三人のヒーロー像語りの場であり、その犠牲
   清掃ののち三人の訓練場に(街中では多分“個性”使用は原則禁止ですが出久母が家で使用している描写から家など使用許可が下りている場所があるとして海浜公園はその許可が下りているという設定)
   勝己と人使の戦いが主だが、純粋な格闘や“個性”に頼らない相手に対する戦いの練習として出久が加わることもある(その真意はヒーローを諦めきれない無意識)
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