職場体験も数日が立ち、もう最終日だ。現在俺はマーキュリーと一緒にパトロールをしていた。
「いや~もう最終日ねギフトくん。パトロールと訓練ばかりでつまらなかったでしょ?」
「いえ、プロヒーローについて理解を深める事が出来て有意義な一週間でした」
「お世辞でもそう言って貰えてうれしいわ」
お世辞抜きで有意義な一週間だった。事務の仕事についてや災害時の対処についてなど実際のプロヒーローから学べて良かったと思う。
「あ!ヴィランヒーロー!」
「ほんとだー!」
大きな声で駆け寄ってくる子供達。この一週間で子ども達にいつの間にか変な二つ名を付けられてしまった。近くにいた親御さんが「すみません」と頭を下げられるが特に気にしてない。子どもは生意気ぐらいで丁度いいのだ。
「こんにちは、今日はお出かけかい?」
「うん!たっくんとプールに行くの!」
「ヴィランヒーローもいっしょに行く?」
「ごめんね、俺はパトロールがあるから行けないんだ」
「そっかーじゃあまた今度ね」
「うん、今度ね」
そして子ども達は「じゃあねー!!」と手を振っていく。ふっ、可愛いやつらよ。
「子ども達に人気ね!」
「一緒に遊んだだけですけどね」
「それも才能よ。市民から愛される事も大事だからね!」
数日前にパトロールをしていたら、ヒーローごっこをしている子ども達に巻き込まれてしまった。それ以降はこんな感じに絡まれるのを繰り返している。
「そろそろ事務所に戻りましょうか」
「はい!分かりました!」
その瞬間、ドカンと爆発音が響く。音のする方を見ると煙が上がっており火災が起きてるようだった。あの方向にはショッピングモールがある。おそらく、そこで事件が発生したのだろう。
「ギフトくん!急ぐわよ!」
マーキュリーに「はい!」と返事をし、現場に向かう。
▽▽▽
現場に着くとショッピングモールは所々崩れており、辺りは文字通りの火の海だった。居合わせたヒーローに話を聞くとヴィランが現れたらしい。
「ギフトくんは避難誘導をお願い!私は消火に専念するわ!」
「はい!分かりました!」
マーキュリーの指示の下すぐに避難誘導を始める。初めての避難誘導は不格好だっただろうが何とか誘導出来た。ほとんどの人が避難を終え、辺りを警戒していると声が聞こえてきた。
「切奈!どこにいるの!」
「いたら返事をしてくれー!」
そこには二人の男女が人を探している様だった。
「どうかなさったんですか?」
「実は娘と逸れてしまって...」
「手を繋いでいたんですが、びっくりしたのか個性を使ってしまったようで...」
父親の手には切り離された小さい手があった。おそらく娘さんは体が分離する個性なのだろう。しかし、どうする?もし取り残されていたら大変なことになる。マーキュリーさんは消火に精一杯だろうし、周りのヒーローも救助やヴィラン退治に向かってしまいこの場にはいない。どうする?どうする?どうする?どうする?どうする?
お前が行けよ。
ふと、そんな考えが頭によぎる。そうだよ!何のためにここにいる!木偶の坊になるな!人を救うためにいるんだろ!
「すいません、最後に逸れたのはどこですか?」
「えっと...フードコートですが...」
「分かりました。ご両親はここで探していてください。外で迷子になっただけかもしれないので」
「分かりました。でもあなたはどうするんですか?あの火の中じゃあ...」
確かにまだ火の手は上がっている。無駄足かもしれない。でも!ここで引いたらヒーローじゃない!
「大丈夫です!娘さんは必ず見つけます!」
そう言い残し、ショッピングモールに入る。中にはマーキュリーがおり消火活動をしていた。俺が入ってきたことに気付いたようで声を上げる。
「ギフトくん!?なんでいるの!?避難誘導は!?」
「すいません!フードコート近辺に逃げ遅れた子どもがいるかもしれないので保護しに行ってきます!」
「えっ!?ちょっと待って!まだ上の階は消火がしてないから危険よ!」
マーキュリーの静止を振り切りフードコートまで駆け上がっていく。それと同時に体が燃えないよう体から毒の粘液を出す。
「切奈ちゃん!いたら返事してー!」
返事は聞こえない。だが、微かにすすり泣く声が聞こえた。急いで声のした方に向かうと下半身を瓦礫に挟まれた女の子がいた。
「切奈ちゃん!大丈夫?」
「えっ?ひっ!?」
俺の顔を見た瞬間、切奈ちゃんは怯えてしまった。何故だと一瞬思ったがすぐに原因が分かる。俺は燃えないよう体を粘液で覆っておりフルフェイスのガスマスクをしている。どっかどう見てもヴィランだ。そうと分かればすぐにガスマスクを外し笑顔を向ける。
「大丈夫、君を助けに来たんだ。お母さん達の所に行こう」
「.....うん゛」
安心したのか涙声でそう答える。そしてすぐに瓦礫を退かすために行動を開始する。まず、瓦礫が崩壊しないように瓦礫の間に毒の液体を流しそれを固体に変化させる。そしてバランスに作用してない瓦礫を退かし切奈ちゃんを救助した。怪我の具合だが奇跡的に骨折などの怪我はなく擦り傷だけだった。
「よし!これでもう大丈夫だ!急いで脱出うお!?」
建物が激しく揺れた。もう時間は残されていないらしい。すぐに切奈ちゃんを抱えて出口に向かう。頼む!間に合ってくれ!
▽▽▽
「待って!まだ中に人がいるの!」
「流石に無理だ!もう崩れちまう!」
マーキュリーはショッピングモール内に戻ろうとするが他のヒーローがそれを抑える。そしてまた大きく全体が揺れた。この揺れで完全に崩れると思った瞬間、それは飛び出してきた。
「うおおおおおおお!!!」
それはまるでペットボトルロケットの様にガスを噴射して飛び出し、何かを抱えながら転がるように着地した。
「切奈ちゃん...大丈夫?」
「うん...大丈夫」
「それなら良かった。怖がらせてごめんね」
何とか脱出することが出来た。切奈ちゃんも無事を確認し安心していると切奈ちゃんの両親が駆け寄ってきた。
「切奈!良かった無事で!」
「ヒーローさん!本当にありがとうございました!」
「いえ、無事で何よりです」
切奈ちゃんが両親と再会できて本当に良かった。無茶した甲斐があるというものだ
「ギフトくん!大丈夫?」
「まぁ、なんとか」
マーキュリーが駆け寄り心配してくれる。でも、少し怒ってる様だった。
「もう!勝手に行動しちゃ駄目じゃない!今回は大目に見るけど今度は無茶しちゃ駄目よ!」
「すみません...」
「まぁ、そんな落ち込まないで!あなたのおかげで助かった命があるのよ!」
マーキュリーの言う通り助かった命がそこにある。それだけで救われた気がした。
▽▽▽
崩壊から数分が経った。現在は警察や救急隊が到着し現場の処理をしている。しかし、考えてみると大変なことをした気がする。資格持ってないのに個性を使用してしまったからなぁ...これからどうなるんだろうか...
「あの!」
声を掛けられ振り返るとそこに切奈ちゃんがいた。
「切奈ちゃんどうかしたの?」
「あの、来てくれたのに、怖がってごめんなさい...」
律儀にあの時のことを謝りに来たようだった。別に気にしていないし、むしろ謝るのは俺の方だ。
「気にしてないよ。怖がらせてごめんね」
「ううん、あとね!そのね!」
「ゆっくりでいいよ。落ち着いて」
そう言うと切奈ちゃんは大きく深呼吸をする。かわいらしい光景を見てほっこりする。そのおかげか落ち着いてきたようで言いたかったことを口にする。
「助けてくれて!ありがとう!」
ふっと心にその言葉がしみ込んだ。さっきまであった不安も不思議と霧のように晴れていった。まったく、助けられたのはどっちだよ。
「どういたしまして!こちらこそありがとう!」
俺の感謝の言葉に切奈ちゃんはきょとんとしてしまう。するとマーキュリーと切奈ちゃんの両親がこちらに向かってきた。
「もう!切奈!急に離れちゃ駄目でしょ!」
「ごめんなさい...」
会話から察するに切奈ちゃんは俺を探すのに両親から離れてしまったようだ。マーキュリーはご両親と一緒に探していたらしい。
「この度は本当にありがとうございました。じゃあ、行こうか」
「待って!」
そう言って切奈ちゃんは俺の方を向く。まだ、言いたいことがあるのだろうか。
「わ、私もヒーローになれるかな?」
不安そうに俺に尋ねる切奈ちゃん。もちろん俺はこう答えた。
「絶対になれるよ」
それを聞き笑顔になる切奈ちゃん。その後、姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。確証はないがきっとヒーローになれる。元気づけてくれた彼女は俺にとってはもうヒーローだ。
完
皆さん、ご愛読ありがとうございました!
普通に続きますのでこれからもよろしくお願いします!