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瀬古杜岳の木々がなく開けた空き地に、二人の男がいた。一人は仰向けに倒れ、咳交じりの息切れを起こし、もう一人はそれを見てニヤニヤ笑っている。
「なっ...んで...ゴホッ、個性のっ...特、訓っで...筋っ...トレしてんの?」
「ん?ああ、これ個性の特訓とは関係ないよ」
「はあああああああ!?」
疲れは何処へ行ったのか。燈矢くんは俺に詰め寄ってくる。
「あんた!俺に個性の調節の仕方教えるって言ったよな!」
「教えるよ。これはあくまでも身体づくり」
「本当かよ...」
ジト目で俺を疑り深く見つめている。生意気な奴め。元気が有り余っているようだし、もっと厳しくしても大丈夫そうだ。
「変なこと考えてねぇか?」
「いや全然、元気そうだし個性の特訓始めよっか」
「...人選ミスったか?」
「聞こえてんぞー」
俺は少し離れて燈矢くんと向き合う様に立つ。
「燈矢くん、ヴィランとの戦闘でヒーロー側の勝利条件って何だと思う?」
「?...ヴィラン倒すことじゃねぇの?」
「半分不正解。それプラス、怪我人や死者を出さない。これはヴィランも適用される」
俺の言葉に目から鱗が落ちる思いだったのか、目を見開いてハッとした表情を浮かべる。
「ヴィランを倒す為じゃなく、人を守る為に個性を使うってことを頭に入れといて」
「なるほど...」
「じゃあ火傷しない程度に炎出してみて」
燈矢くんは手に纏うように炎を出した。この前に俺に向けた青い炎ではなく赤い炎だ。
「燈矢くんが火傷しちゃうのは温度のコントロールが出来ないからだと思うんだよね。今は出すだけだから火傷してないけど、これが放つに変わると火傷してしてしまう。何でか分かる?」
「...放つ方に集中して温度のコントロールがブレるから?」
「正解。それが理解できてるなら話は早い。後は出来るまでやるだけ」
「簡単に言うなよ...」
「こればっかりは実際にやるしか方法ないからね。それとこれ渡しとく」
ため息をつきながら呟く燈矢くんにあるものを渡す。
「メモ帳?」
「そう、できた事、できない事、何でもいいから書いてみて」
「なんで?」
「できた事、できなかった事には絶対に理由がある。それを文字に起こす事で理解してほしい。理解することで、それ以上の事ができたり、できなかった事ができるようになったりするからね」
そう言うと燈矢くんはメモ帳をジッと見つめる。会って日も浅い男の指導だ。信頼なんてできないだろうし、プライドに障るだろう。
「まぁ、これはあくまでも俺のやり方だし、合わなかったらやらなくても構わないよ。人に合うやり方があるからね。ただ、考えるのをやめたらいけないよ」
「どういうこと?」
「よく天才は勘が鋭いと言うけど、あれは第六感的な意味じゃなくて思考の速さが違うだけだと思うんだよ。暗算が凄く速くできるみたいな」
「どうした急に」
燈矢くんが怪訝そうな顔をしてこっちを見てくるが無視して話を進める。
「練習もなしに自転車に乗れた人がいたとしよう。凄いと思う?」
「普通に凄いだろ」
「俺もそう思う。でも結果だけ見ると自転車に乗れただけ、練習すれば俺達でもできる事だ」
「屁理屈だろ」
「ははっ!そうだね!」
燈矢くんの指摘についつい笑ってしまう。確かに屁理屈だ。
「でも、努力で天才に追いつけるって事でもあるよね。天才は舗装もされてない荒れた道をなんてことない顔で歩く。でもそれは無意識に思考し疲れないよう歩いているだけ。それ以外の人は考えなければいけない。どう進めば疲れないのか、速く進むにはどうすればいいのかってね。そう考えている内に無意識にできるようになる。だから常に考えて行動してね。その積み重ねで俺たちは天才に近づける」
そう言うと燈矢くんはメモ帳を見つめ直す。少しの沈黙の後、燈矢くんは口を開いた。
「他の方法知らねぇし試してやるよ」
「うん色々試して見るといいよ」
そう言って俺は燈矢くんの頭を撫でるが、直ぐに振り払われてしまう。
「ガキ扱いすんな!」
「この前、わんわん泣いてた癖に何言ってんだ」
「あ、あれは泣いてたんじゃねぇ!雨だよ!」
「はいはい、そういう事にしといてあげる」
顔を真っ赤にして犬のように吠えるが全然怖くない。むしろ可愛いぐらいだ。
「クソっ!これだけは言っとくけどな!てめェは絶対超えてやるからな!」
「おう、やってみろクソガキ」
ニヤリと笑って、そう言ってやった。
▽▽▽
特訓を始めて数時間。スマホで時間を確認すると三時になっていた。
「燈矢くん、そろそろ休憩にしよう」
燈矢くんは腕に纏っていた炎を解除し、メモ帳を取り出して書き始める。
「どう?感覚は掴めそう?」
「なんとか」
「それは良かった」
そう話しながら、休憩用の飲み物とお菓子の準備をする。それを見ていた燈矢くんは何故か固まってしまった。どうかしたのだろうか?気になって声を掛ける。
「どうかした?」
「いや、なんだそれ?」
燈矢くんが指差す方には、俺が間食に持ってきた『ヒーローズチップ』があった。
「ヒーローズチップ。あれ?嫌いだった?」
「そうじゃねぇーよ!なんで!それチョイスした!?」
「お菓子の方が好きだと思って」
「ガキ扱いすんなって言っただろ!!プロテインバーとか他にあるだろ!!」
どうやら、お気に召さなかったようだ。今度からはプロテインバーにしておこう。
「ごめんごめん、次からはプロテインバーにするよ。どっちがいい?」
「どっちも同じ味だろ」
「カードが付いてるから同じじゃないよ」
このヒーローズチップには、ランダムでヒーローのカードがおまけに付いてくる。子どもやコレクターに大人気なのだ。かくいう自分もコレクターであり、カードはコンプリートしてある。
「じゃあ、右の方」
「ほい」
ヒーローズチップとお茶を受け取ると近くにあった倒木に腰掛けて食べ始める。俺も隣に座ってヒーローズチップを食べ始めると、燈矢くんは嫌そうな顔でこっちを見る
「なんで隣に座るんだよ」
「いいじゃん、燈矢くんともっと仲良くなりたいし」
「俺はあくまでお前の事をコーチとして認めただけだ。仲良くするつもりはねぇ」
「つれないなぁ」
仕方がないので無言で食べ進める。すると先に食べ終わったのかヒーローズチップの袋を俺に渡してくる。
「ごちそうさま」
「どういたしまして...ん?カード付いたままだよ」
「いや、いらねーし」
そんなことを抜かす燈矢くんに、袋からパックを外して無理矢理渡す。
「せっかくなんだから開けなって」
「だから、いらねっつの」
「そんなこと言わずにさ、別に捨ててもいいからさ」
燈矢くんは深くため息をつき、呆れたように口を開いた。
「...分かったよ。開けりゃいいんだろ」
「うんうん、俺も開けよっと」
そうしてパックを開封していくと、俺の方にはキラキラと輝くエンデヴァーのカードが入っていた。封入率の低いレアカードなので普通に嬉しい。燈矢くんは何が当たったんだろうか?気になりチラリと様子を見る。手に持つカードを見て俺はとても驚いた。
「燈矢くん凄いね!オールマイトを当てるなんて!凄いレアだよ!」
「ふ~ん、お前は何当たったの?」
「俺?俺はエンデヴァーさん」
燈矢くんはそれを聞いてバッと俺の方を向く。エンデヴァーのカードを数秒見つめ、俺の視線に気付くとまたそっぽを向く。おそらく欲しいのだろう。
「俺エンデヴァーさんのカードもう持ってるんだよね。いらないから貰ってくれない?」
「...そういう事なら、貰ってやるよ」
カードを受け取ると燈矢くんはジッとカードを見つめる。喜んでいる様で良かった。すると燈矢くんは俺の方を向き、オールマイトのカードを俺に渡してくる。
「別にいらないよ。燈矢くんが当てたんだし燈矢くんが持ってたらいいよ」
「お前に借り作んの嫌だから交換だ」
気にしなくていいのにと考えていると、ある事を思い付いた。
「...じゃあ、そのカードは焦凍くんに渡しな。それで借りはなしだ」
「なんで焦凍が出てくるんだよ」
「焦凍くんはオールマイトが好きだからね...あ!これ秘密ね!」
「なら、お前が渡せばいいだろ」
「焦凍くんと仲悪いでしょ。まぁ一方的に君が嫌ってるんだろうけど」
そう言うと燈矢くんはバツが悪そうな顔をする。自分より優秀な個性を持っている弟に嫉妬などの感情を向けるのは仕方がないだろう。
「だから、仲良くなるための第一歩だよ」
「いや、でも...」
「よし、特訓再開するか!燈矢くん準備して」
「...ああ」
▽▽▽
時刻は五時、お父さんとの訓練もなくお母さんと一緒にテレビを見て過ごしていた。番組には大好きなヒーローであるオールマイトが映っている。
『本当に大事なのはその繋がりではなく「自分の血肉、自分である」と認識すること!そういう意味もあって私はこう言うのさ。「私が来た!」ってね』
内容は難しくてよく分からなかったが、凄くかっこいい。自分もこんなヒーローになりたいと思った。すると隣に座っていたお母さんが立ち上がる。
「お母さん、ちょっとトイレに行ってくるね」
「うん、分かった」
お母さんが部屋を出て、すぐに視線を感じた。気になり襖の方を見ると、隙間から誰かが覗いており、まるでホラー映画のようで「ひっ!」と声を出す。それを聞いた相手は襖を開けて申し訳なさそうにしている。
「...わりぃ」
「
覗いていたのは燈矢兄だった。お父さんの所為で話したことはほとんどない一番上の兄だ。燈矢兄は誰もいない事を確認すると、目の前までやってきて何かを渡してきた。
「要らないからやる」
「何?...オールマイト!」
燈矢兄が渡したのはオールマイトのカードだった。何故、僕の好きなヒーローを知っているのかは分からないが、そんな事はどうでもいいと思える位に嬉しかった。
「いいの?」
「いいよ、父さんにはバレんなよ」
「うん!」
それを聞いた燈矢兄は何も言わず部屋を後にした。その後はテレビには目もくれず、貰ったオールマイトのカードを穴が空く程に見つめていた。数分経っただろうか、お母さんが部屋に戻ってきた。
「ただいま...?焦凍、何を持ってるの?」
「お母さん!あのね!燈矢兄がくれたの!」
「燈矢が?」
お母さんに燈矢兄から貰ったオールマイトのカードを見せる。するとお母さんは何とも言えない顔をしたと思えば、何事もなかったかのように微笑む。
「...そう、良かったわね」
「うん!また燈矢兄と話せるかなぁ」
「ええ、話せるわよ」
そう言って、お母さんは左頬を撫でてくれた。
おまけ ~思い付いたけど何か書かなかった~
「借り作りたくねーから、オールマイトと交換だ」
「別にいいよ、オールマイトも持ってるし」
「高校生なのに、こんなの集めてんの?」
「...燈矢くん、それ俺以外には言っちゃ駄目だからね」