アイツから、指導を受けて一ヶ月が経つ。ガキ扱いしてくるのはムカつくが教え方はそこそこ上手い。今日は土曜日なので、あいつと瀬古杜岳で特訓だ。
「燈矢」
後ろから俺の名を呼ぶ声がする。振り向けば母さんが真剣そうな顔で見つめている。
「何?」
「何処に行くの?」
「...ゲーセンだよ」
両親からは個性を使うのを止められているため、咄嗟に噓をつく。
「何も持たずに?」
「あ、忘れてた」
勘づかれるといけない為、とっさに誤魔化して母さんから離れようとするが、呼び止められてしまう。
「お山に行く気でしょう?」
「は?ちげーよ」
無駄に勘が鋭い。頭の中をフル回転させて誤魔化す方法を探す。だが一向に良い言い訳が思いつかない。もうゴリ押して行ってしまおうかと考えたが、面倒くさい事になりそうだ。
「燈矢、選択肢は無数にあるのよ。お父さんの様にならなくてもいいの。もっと外を見て、その中でなりたい自分を見つけてほしい」
そう言われ、別の仕事をしている自分を想像してみるが、出来なかった。理由はよく分からなかった。昔は父さんと一緒にヒーローをする自分を妄想したものだ。
しかし、今それをすると何故か俺は大嫌いなアイツの隣にいる。
つい、クスリと笑ってしまう。何を妄想しているんだ俺は?アイツは俺にヒーローなるための特訓をしてくれて恩はある。だが、あんなムカつく奴の下で動くなんて御免だろ。
「...もう、俺だけの夢じゃねえ」
「燈矢?」
「色んな物を見て、俺はヒーローを目指すよ」
そう言って玄関に向かう。何故か母さんは呼び止めてこなかったが都合がいい。俺は急いで瀬古杜岳に向かった。
▽▽▽
「そろそろ終わりにしよっか」
「おう」
そう言って燈矢くんは個性を解除する。少しずつ火力を上げてるが彼の腕には火傷の痕はない。
「次のステップに進んでもいいかもね」
「次のステップ?」
「出すだけじゃなく放つ練習」
燈矢くんの成長速度は素晴らしい。まだ一ヶ月なのに温度操作は完璧だ。見えないところでも頑張っているのだろう。夏休み前には火傷せずに戦えるようになるだろう。
「そう」
「リアクション薄いね」
「そっからがスタートラインだろ」
燈矢くんはそう言ってペットボトルに入った水を飲み干す。もっと喜んでいいと思うが、いろいろ焦っているんだろう。
「そこまで出来る中学生はいないだろうし、もっと自信持っていいんじゃない」
「...お前は中学の時、どうだったんだよ」
「俺?」
自分の中学時代は個性を使う特訓は出来なかった。危険な個性だし瀬古杜岳みたいな自由な個性を使える場所もなかった。燈矢くんほど個性は使えなかったかな。
「個性が個性だし、そこまで出来なかったなぁ」
「あっそ」
「聞いといて反応悪いなぁ」
それはそれとして、どうしようかなぁ...この特訓のことをエンデヴァーさんにどう伝えるか。真正面から言って納得するような人じゃないよなぁ...
「未来の自分が何とかしてくれるか」
「なんか言った?」
「いや何も」
何とかなるだろう。あっ、伝えないといけない事があるんだった。
「来週と再来週は来れないからよろしくね」
「なんかあんの?」
「テスト期間なんだよ。だからインターンもお休みで関西に戻るんだよね」
「へー」
「他人事みたいに言ってるけど君もそろそろテストなんじゃないの」
「...別に楽勝だよ」
なんか間があったな。燈矢くん大丈夫か?
「そういう事だから一人で頑張ってね」
「ああ、びっくりして腰抜かすなよ」
「生意気」
▽▽▽
久しぶりの登校に少し緊張する。最近は忙しかったから二週間の登校だ。すると懐かしい声が聞こえる。
「あ~操助くんがいる~」
「よっ!久しぶり!」
そこにいたのは指原と刃渡だ。俺は靴を下駄箱に入れてそっちを向く。
「テスト二週間前だからな。久しぶり二人とも」
「久しぶりって言ったけどニュースでちょくちょく見るんだよな」
「エンデヴァーの事務所だもんね~」
そう言って刃渡はスマホをこちらに向ける。そこには『エンデヴァーの新たなる右腕ギフト!』と書いてあった。まだインターン生なんだが。
「こんな風に言われてるんだ」
「卒業後はエンデヴァー事務所でサイドキックにするの?」
「いや、直ぐに事務所開くつもり」
「マジか!?でも毒島なら何とかやってけそうだよな~」
下駄箱で話していると委員長も登校してきた。委員長は俺に気付き話しかけてくる。
「毒島くん!おひさ!」
「久しぶり委員長」
「インターン中に配られたプリントとかは机の中にあるからね」
「うん、ありがとう」
「どういたしまして!それと生徒会選挙頑張ってね!」
「え?」
「また教室でねー」
そう言って委員長は教室に向かっていった。生徒会選挙?何の話だ?ふと刃渡の方を向けば大量の汗を流しながら明後日の方を見ている。
「おい刃渡説明しろ」
「いや、その...」
「毒島くんに言わないでやってたんだ...」
指原は何か知っているみたいだな。刃渡より指原に聞いた方が早いな。
「とりあえず教室行こ。ホームルーム始まっちゃうよ」
「そ、そうだぜ!遅刻は良くない!」
「そうだな。刃渡ホームルーム後に話してもらうからな」
「ういっす...」
一人、項垂れながら俺たちは教室に向かった。
▽▽▽
「よし話せ」
「えーどこから話せば良いものか...」
頭を搔きながら刃渡はぼそりぼそり話し出す。
「えっと、二週間前にお前がインターンに行って、直ぐに生徒会の立候補の話が出たのよ」
「そうらしいな。机の中に立候補の紙入ってたし」
「そん時に、いつもの面子で話して『毒島って生徒会長やってそうだよな』ってなって」
「うんうん、それで」
「俺が気を利かせて生徒会長に推薦しといたぜ!」
「制裁」
「ぎゃあああああああ!?」
刃渡の目に催涙ガスを浴びせる。刃渡は打ち上げられた魚のように目を抑えてのたうち回るっていた。
「ったく、勝手な事しやがって」
「すまんな操助。ホンマにやるとは思わなかったんや」
「気にすんな。しかしどうすっかな生徒会」
「辞退してもいいんじゃない」
「え!?せっかく推薦したのに!?」
「お前は反省しろや」
大変そうだけど別にやってもいいんだよな。前世では面倒くさくてやらなかったが、せっかくの学生生活やれることやってこそじゃないか。
「やるか!生徒会!」
「流石だぜ!毒島!」
「学生時代の不完全燃焼感は死ぬまで尾を引くものだからな」
「何歳やねん」
冗談はさておき生徒会選挙のためにいろいろ始めないとな。俺はインターンで居なかったし選挙活動できてない。ビリからのスタートだ。
「ビリからのスタートって思ってるな毒島!」
「実際そうだろ」
「ふっ、これを見よ!!」
刃渡が勢いよく突き出したのはA4サイズの紙であり、そこには『生徒会選挙予測速報』と書いてあった。
「なんだそれ?」
「これは新聞部が作った新聞だ。そして注目するのはここ!」
刃渡が指差す所を見ると支持率が53%と書かれていた。部活で作った新聞なのだから偏りもあるだろう。しかし学校の半分の生徒が支持しているは勝ち目はないか?てか、いったい誰...ん?
「毒島...操助?」
「そう!生徒会選挙のトップはお前だ!」
なんで?俺は何もやってないんだが?まさか...!?
「刃渡お前...」
「そう!ビラ配りとか諸々の選挙活動は俺がやっていた!」
「行動力のある馬鹿」
「なっ!馬鹿とは失礼な!この支持率はお前の所為でもあるんだぞ!」
俺の所為ってどういうことだ?
「お前は人が困ってたら学年問わず助けてるだろ?」
「ああ、ヒーロー志望だからな」
「だから毒島の事は殆どの生徒が知ってる。さらにお前は主席合格者だし、エンデヴァーの元でインターン受けてるしな」
「なるほど」
情けは人の為ならずとは言ったものだ。しかし、それだけで生徒半分の支持を得られるだろうか?こいつのプロデュース力が高いのか?
「すまん刃渡。これだけで53%も支持率を得られる気がしないんだが...」
「俺の選挙活動のお陰と言いたいが、もう一つ理由がある」
「もう一つの理由...」
「お前のファンクラブのお陰だ!!」
「ファン...え?」
ファンクラブってあのファンクラブか?え?俺のファンクラブあんの?怖...
「ああ、あれか」
「知ってるのか豊満?」
「前に操助を見とる女子がおってな。話しかけたらファンクラブの子やったんや」
「何で教えてくれなかったんだ?」
「すまん。『認知されたない』って言うとったから」
推しに認知されたくない気持ちは分からなくないが、ファンクラブの事は教えてほしかった。てか、たまに感じる視線はファンクラブの人だったのか。自意識過剰かと思って無視してたが怖くなってきたな。
「いつからあるんだ...」
「さっきの話が去年の9月の事やから。少なくともその時には出来てたやろなぁ」
「マジかぁ...」
衝撃の事実に物思いにふける。すると刃渡が手を叩いて現実に引き戻してくる。
「というわけで毒島はトップからのスタートってわけよ」
「そういえば生徒会の話してたんだった」
「ファンクラブに持ってかれたね~」
あれ?選挙活動する意味あるか?もう勝ち確定では?いや慢心は良くない。あくまでも現在の支持率、いつ変動してもおかしくない。最後までキチンとやらなければ当選はできない。
「演説の日っていつだっけ?」
「明後日やで」
「本当に時間ないな。ビラ配りに演説の内容まとめたり色々あるな」
「時間ないんやから、演説に集中すればええんちゃう」
「そう言う訳にはいかんだろ」
他人に選挙活動全部任せて本人は何もしない奴を支持する奴はいない。この支持率なんて奇跡みたいなもんだ。支持率を下げないためにも本人が動かなきゃな。
「とりあえず放課後にビラ配りするか。付き合えよ刃渡」
「おうよ!任せな!」
少しは反省して欲しいがきっかけくれただけ感謝するとするか。
おまけ
「生徒会選挙かぁ...毒島にピッタリじゃね?」
「生徒会長とかやってそうやもんな」
「毒島くんって、そんな感じするよね~」
「立候補しといてやるかぁ」
「何言うとんねん。そんな事したら後が怖いで~」
「「「あはは!」」」
その後、何も考えず提出する刃渡であった。