「来ないなぁ...」
テストが終わり燈矢くんの特訓の為に瀬古杜岳に来たのだが、全然来る気配がない。何かあったのだろうか?そんな事を考えているとぽつぽつと雨が降ってきた。
「今日はとりあえず帰るか」
明日は家に行ってみよう。来ない理由が分かるかもしれない。
▽▽▽
そう言う訳で俺は轟家にやって来た。相変わらず立派な日本家屋だなと思いながらインターホンを押す。「はーい」と返事が聞こえガラガラと扉が開く。そこに立っていたのは轟家の使用人だ。彼女は俺の顔を見ると驚いた表情を見せる。
「あら、お久しぶり」
「お久しぶりです。いきなりで悪いんですけど燈矢くんいます?」
「燈矢くん?えっと...いるにはいるんだけど...」
燈矢くんの名前を出したら急にしどろもどろになった。やっぱり何かあったみたいだな。すると奥から誰かがやってくる。
「誰かと思えば毒島くんじゃないか」
「どうも、エンデヴァーさん」
「何かあったのかね?」
多分、原因はこの人なんだろうけど、ぼかしとくか...
「いや~ちょっと用がありまして...」
「まぁ立ち話もなんだ、上がるといい」
「すいません。お言葉に甘えてさせてもらいます」
そうして俺は家に上がらせてもらう。ある程度、廊下を進むとエンデヴァーさんが話しかけてくる。
「で、何の用なんだ?」
「...それより子ども達は元気ですか?」
「ん?何故だ?」
「あれ以来、会ってませんから」
「...ああ、仲良くやっている」
「へぇー良かったです...燈矢くんは元気ですか?」
「燈矢?」
燈矢くんの名前を出した時、明らかにエンデヴァーさんの声色が変わった。
「はい。燈矢くんと結構仲良いんでs」
言い終わる前にエンデヴァーさんは俺の首を掴み、大きな音を立てながら壁に押さえつけた。
「急になんですか?エンデヴァーさん」
「とぼけるな!燈矢に妙な入れ知恵をしているのは貴様だな!」
ここまで来たら、誤魔化すのは無理だと思い、俺は正直に話すことにした。
「そうですよ。ヒーロー目指しているみたいなんで」
「燈矢の体質を知ってやってるのか?」
「もちろんです」
エンデヴァーさんの握る力が強くなる。
「貴様がやってる事は燈矢を死に追いやるだけだ」
「どういう意味ですか?」
そう質問するとドタドタと足音がする。やってきたのは冷さんと子ども達で、その中には燈矢くんもいた。燈矢くんは俺に気付くとバツが悪そうな顔をして俯く。
「何なさっているんですか!」
「冷は引っ込んでいろ!燈矢の個性は自分の体を焼いてしまう個性だ。もし自分より強いヴィランが現れたら戦闘にせよ逃亡にせよ、必ず身を亡ぼす事になる!」
確かにその通りだ。自分より弱い相手だけと戦う訳ではない。いつか必ず自分より強い相手と対峙する時は来る。燈矢くんの個性は格上相手には不利だろう。
「分かるだろう?燈矢はヒーローを目指すべきではない!」
エンデヴァーさんの言う通りだ。ヒーローを目指すのは諦めた方が良いのかもしれない...
けど、
「それを決めるのは!お前じゃないだろ!」
そう言ってエンデヴァーさんを思いっ切り蹴って引き剝がす。無理な体勢で蹴ったため、俺は思いっ切り背中を打ったが気にせず立ち上がる。
「燈矢くんだって分かってるんだよ!それでもなりたいから頑張ってるんじゃないか!」
「なったところで言った通りになるだけだ!」
「なってもないのに何が分かるんだ!未来予知でもしてもらったか!」
「減らず口を!俺は燈矢の将来のために言っているんだ!」
「なら!今の燈矢くんを見ろよ!」
エンデヴァーさんはたじろぐが、そんな事お構いなしに俺は言い続ける。
「燈矢くんの事を思っているなら、燈矢くんと向き合えよ!さっきの話なんて誰にでも当てはまる事だ!あんたはそれを理由にただ逃げてるだけじゃないか!」
俺の言葉にエンデヴァーさんは鋭い目つきで俺を睨みつける。だが俺は臆せず最後に言い放つ。
「燈矢くんはヒーローになれる!」
その瞬間、エンデヴァーさんに強く胸倉を掴まれる。
「無責任な事を!燈矢に何があったらどうするつもりだ!」
「そんな事になんかさせません!」
「何を根拠に!そんな事が言える!」
そんな言い合いをしていると冷さんがこちらに向かってくる。エンデヴァーさんはそれに気付くと一蹴する。
「引っ込んでいろと言っただろう!俺はこいt、ぐはッ!?」
「はえ?」
間抜けな声が廊下に響く。誰の声だろうか?もしかしたら自分自身の声かもしれない。それほど俺は困惑していた。なぜなら冷さんの平手打ちがエンデヴァーさんの頬に叩き込まれたのだから。
「冷!?なっ何を!?」
「私、考えてたんです。どうしたら燈矢にヒーローを諦めてもらえるか」
突然のビンタに困惑しているエンデヴァーさんに、冷さんはぽつりぽつりと話始める。
「でも燈矢は諦めなかった。ちゃんと自分の意志で決めたのなら、背中を押すだけです」
「分かって言ってるのか?それは燈矢を危険な目に合わせる事になる!」
「燈矢は賢い子です。そんな事になっても無茶をする子じゃありませんよ。それにちゃんと見てくれる人もいます」
俺の事をチラリと見ながら冷さんはそう言った。少し照れ臭い。そして冷さんは再びエンデヴァーさんの方を向き直る。
「認めてくれないなら、子ども達を連れて出ていきます」
「なっ!?」
「えっ!?」
冷さんのとんでもない発言に俺も一緒に驚いてしまう。そんな事を気にも留めずに冷さんは俺に話しかける。
「毒島くん背中大丈夫?ぶつけてたでしょう」
「え?ああ!大丈夫です」
「一応、手当しましょう。立てる?」
「えっと、その、」
俺はエンデヴァーの方を見る。さっきの話のせいで石の様に固まっている。俺の意図を汲み取ったのか笑顔で口を開く。
「良いのよ、ほっといて」
「え」
「さぁ行きましょう」
「は、はい...」
母、強い...
▽▽▽
なんやかんやで俺は冷さんに怪我がないか診てもらっている。冬美ちゃんや焦凍くんも一緒になって手伝っている。一生懸命に手伝う様子はとても可愛らしい。
「大丈夫そうだけど、一応冷やしておきましょうか」
「すみません、俺が勝手にぶつけただけなのに」
「良いのよ。むしろ燈矢の事ありがとうね」
「いや、なんか家族の問題に首突っ込んで、余計なお節介だったかなって」
「そのお節介が燈矢を助けてくれたの。本当にありがとう」
すると燈矢くんがこちらにやってくる。目元が赤い。いっぱい泣いたのだろう。
「えっと...」
「泣き虫直せよ。ヒーローになるんだったら」
「なっ!泣いてねーし!」
申し訳なさそうな顔から怒った顔に変わる。あんな顔は燈矢くんに似合わない。
「目元、真っ赤なくせに何言ってんだ」
「謝ろうとして損した!」
そっぽを向く燈矢くんの頭をわしゃわしゃと撫でる。「やめろー!」と言いながら燈矢くんは離れていく。元の燈矢くんに戻ったみたいで良かった。だが、気になる事がある。
「あの...冷さん、さっきの話って本気なんですか?」
「ええ、本気よ。連れ出すって言ったって決めるのは子ども達だけど」
そう冷さんが言うと焦凍くんが間髪を入れずに答える。
「ぼく!おかあさんといっしょがいい!」
そう言うと夏雄くんも冬美ちゃんも頷く。二人とも冷さんと一緒が良い様だ。残るは燈矢くんだが尻込みしているようなので助け舟を出す。
「冷さん、あれは思春期で素直に言えないだけですので、もし出ていくことになったら気にせず連れ出してやってください」
「うふふ、そうするわ」
「うっせーな!黙ってろ!」
燈矢くんは悪態をついてそっぽを向くが、冷さんが後ろから抱き寄せて頭を撫でる。
「今更って思うかもしれないけど、お母さん応援するからね」
「...ガキ扱いすんな」
「ごめんなさい。でも、もう少しこうさせてちょうだい」
微笑ましい家族の光景。そんな中、俺はとあることを全く別の事を考えていた。
(明日のインターン、エンデヴァーさんと会うのクソ気まずいな)