「キャー!ひったくりよ!だれか捕まえて!」
「捕まえられるもんなら捕まえt、うお!?」
ひったくり犯がバイクで逃げ去ろうとすると目の前から炎の球が放たれた。男はギリギリの所でそれを避け、放たれた先を見るとエンデヴァーの姿があった。
「ちっ、よりにもよってエンデヴァーかよ!」
そう言うと男は懐から拳銃を取り出し撃とうとするが、その瞬間にチクリと痛みが走る。
「いっ!?何だ!?」
慌てて首元を触るが特に異常はない。謎の痛みに困惑しつつも目の前のエンデヴァーに銃口を向けるが指先が動かない。それどころか全身が動かない。
「な...何で...うっ!?」
その瞬間、男の体とバイクに鞭のような物が体に巻き付けられてバイクは止まった。何が起こったのか分からず混乱していると後ろから軍服姿の男がやってくる。
「毒を撃ち込みました。1、2時間後には動けるようになりますので安心してください」
「く...くそったれ...」
男はそう言って意識を手放した。するとエンデヴァーのサイドキック達が遅れてやってくる。
「日に日に成長していくねギフト君!」
「恐縮です」
毒島は犯人が持っていた銃を拾い上げ、まじまじと見つめる。
「改造ですね。下手に撃てば暴発してたかもしれないので、その前に止められて良かったです」
「詳しいね」
「クラスメイトにドが付くほどのガンマニアがいるので」
すると無線から事件発生の連絡がくる。それを聞くと先輩サイドキックは手を差し出す。
「後処理はやっておくから行ってきな!」
「ありがとうございます」
先輩に拳銃を渡して毒島は現場に向かって行く。その背中はあっという間に見えなくなった。残されたサイドキックの一人がポツリとこぼす。
「いや~どっちがプロなんだか分かんねぇな」
その言葉にその場にいたサイドキックは全員頷く。毒島くんはアザラシの様にドンドン成長していっている。最近では言葉を交わさずともエンデヴァーと連携できており皆から驚かれている。
「毎日どんなこと考えているのか脳みそ見てみたいよ」
(気まずぅぅうううううう)
エンデヴァーと一緒に現場に向かう最中、毒島はそんな事を考えていた。あれから仕事以外の会話はほとんどない。お互いに間合いをはかるようになり相手の事を考える様になったからなのか連携力が上がった。
(こんな事で成長したくなかったなぁ...)
そんな事を考えながらエンデヴァーさんと連携し事件を解決していき、今日も仕事以外の話をせずに一日が終わろうとしていた。
「エンデヴァーさん今後のインターンについてなんですけど」
「何だ?言ってみろ」
「実は生徒会長になりまして、生徒会の仕事があるので行く頻度を減らしたいんです」
それを聞くとエンデヴァーさんは少しの間、静かになり口を開いた。
「構わん。君に頼ってうちのサイドキックも鈍っているだろうしな。鍛え直すのに丁度いい」
「「「え!?」」」
エンデヴァーさんの言葉にサイドキック達は固まる。そんな事は気にせずエンデヴァーさんは話を進める。
「学生なのだから学校の事を優先していい。今日はゆっくり休め。今後の予定は明日話そう」
「はい!お疲れ様でした!」
エンデヴァーさんはそう言ってこの場を後にし俺とサイドキック達が残された。
「マジかぁ~」
「いや...まぁ、頼ってたのは事実だし...」
「噓だと言ってくれ...」
「えっと...なんかすみません」
▽▽▽
士傑高校生徒会室にて、四人の生徒が作業をしていた。
「疲れた~休憩しよ~」
「刃渡先輩まだ休憩してから十分も経ってないっス」
「同じ作業の繰り返しで飽きた~毒島~交換しようぜ」
そう言いながら刃渡は俺の方を向く。何の作業をしているかと言うと夏休みにある学校見学会の準備だ。刃渡と大神さんは見学会で配るプリントをホチキス留めをする作業をしており、俺と金森さんでプレゼン用のスライドと原稿を作っている。
「お前がそっちやりたいって言ったんだろ」
「楽だと思ったのに量がバカ多い」
「はぁ、別にいいけどさ」
そう言うと「うっひょー」と言い席を交代する。すると大神さんが口を開いた。
「刃渡先輩って思ってたより、だらしないっスね」
「急なパンチ」
「見たとおりだろ」
「毒島!そんな事ないって言うところ!」
パソコンを打ちながら、刃渡は器用に反応している。
「すいませんっス。選挙活動を熱心にやっていたので、ギャップが凄くて」
「前から思ってたけど、なんか俺達に謎フィルターかかってない?」
「良くも悪くも先輩達は選挙前から有名人ですから」
「そうなの?」
金森さんの発言に刃渡が反応する。俺も同じく何故有名なのか気になった。
「そうッスよ。優秀な生徒が多くて仮免取得が早まった事とか」
「あーそれかぁ」
「あと先輩達と豊満先輩と指原先輩の四人でトラブル四天王って聞いた事もあるっス」
「なんだその不名誉な四天王は」
トラブルの原因は殆ど
「まぁ、それは噓だと思ってたっスけど、今の刃渡先輩を見ると納得っス」
「そんなに頑張ってたのか?コレが?」
「あなた失礼ですよ」
「突風でチラシが飛ばされたり、急な雨が降ってきたりした中で一生懸命に頑張ってたっス」
ああ、
「まぁ、それだけ見たら健気な人に見えるのか」
「俺はいつだって健気だろ?」
「そういえば毒島先輩、明日の放課後空いてるっスか?手合わせしたいっス」
「無視!?」
大神さんも刃渡の扱いに慣れてきたようだ。明日は予定はないし付き合うとするか。
「空いてるよ。体育館の使用許可は?」
「もう取ってあるっス!」
「元気だねぇ」
「刃渡先輩も一緒にどうっスか?」
「明日は放課後、マンガ買いに行くからパ~ス」
そう言って刃渡はパソコンに視線を落とすが、何か疑問に思った事があったのか俺の方を向く。
「毒島インターンの頻度減ったよな。今も普通に多いけど」
「そうだけど、急にどうした」
「いや、いつもだったらインターンで断ってたなと思ってさ」
確かに俺はインターンに行く頻度を落とした。理由は生徒会長になって仕事があるからと言う訳ではなく、単純にエンデヴァーさん気まずいからだ。まぁエンデヴァーさんには生徒会を理由にして少なくしたのだが...
「生徒会長になったし、任せっぱなしは良くないからな」
「ふ~ん...で本当は?」
「気まずいから減らした」
「ぶふっ」
子供っぽい理由だったからか刃渡はそれを聞いて思わず吹き出し下を向いて笑いを堪えていた。笑い過ぎだろコイツ。ていうか、なんで分かるんだよ。
「もしかして、仮免のエンデヴァー顔面パンチ作戦のやつ?」
「何っスか!?そのヒーローらしからぬ作戦は!?」
「違ー」
笑いながら聞いてくる刃渡の質問に否定しようと思った時、あの時の事を思い出す。
「いや、エンデヴァーさんのこと思いっ切り蹴っ飛ばしたな」
「どうしてそうなったんスか!?」
「あはははははは!!!」
刃渡は腹を抱えて爆笑する。一度、堪えようと口を塞ぐが、我慢できずに吹き出して俯きながら笑っている。そんなに面白いか?数十秒後、落ち着きを取り戻した刃渡が口を開く。
「ふぅー、で何がどうなってそうなったん?」
「家庭の事情だから詳しく言えん」
「家庭の事情...エンデヴァーを蹴り飛ばす...は!娘さんを貰うために!?」
「違うわ」
「じゃあ奥さん?寝取られ物はあんま好きじゃないんだけど」
「なんでお前はそういう方向に持っていくんだ」
こいつの頭はどうなっているんだと思いつつ、エンデヴァーさんが息子の夢を諦めさせようとしたので喧嘩したと大雑把に事の顛末を話した。
「なるほどな、最終的にどうなったんだ?」
「エンデヴァーさんの奥さんが、認めないなら出ていくって言って治まった」
「奥さん強いっスね」
俺もそう思う。あんな儚げな人からあんな言葉が出ると思わなかった。すると急に刃渡が喜々として話し出す。
「じゃあ夏休み予定空いてるよな!皆で遊びに行こうぜ!忙しくなる前にさ」
「空いてたらな」
「言質取ったかんな!夏休み楽しみだなぁ」
「はいはい、夏休みエンジョイしたいなら目の前の作業を終わらせろよ」
「おうよ!」
そう言って刃渡は作業を再開した。
「なんやかんや刃渡先輩の姿を見ると元気が出るっス」
「まぁそういう所はヒーローに向いてると思うよ」
俺にはない太陽の様な明るさ。そういう面では彼を尊敬している。
「うわ!?何故かブルースクリーンに!?保存してないのに!?」
「
「あはは...」
▽▽▽
トラブルもあったが見学会の資料作りも終わり、帰る準備をしていた。
「疲れたー!あの時はどうしようかと思ったわ」
「自動保存されてて良かったですね」
「それな」
「全部消えてたら、お前だけ居残りだったな」
「ひっでー!残ってくんねーのかよ!」
刃渡は笑いながら返事し、外の景色を眺める。外は美しい夕焼けの風景が広がっている。
「いや~すっかり日も伸びて夏になってく感じがするな」
「そうっスね。どんどん暑くなってきてますし」
「夏休みが待ち遠しいぜ!」
「はしゃぎすぎだろ」
俺がそう言うと、刃渡は信じられない物を見る目でこちらを見てくる。
「何言ってんだ!夏休みはその為だけに存在する様なもんだろ!」
「そういえばヒーロー科一年は職場体験あったよね。行き先決まったの?」
「俺を無視するの流行ってるの!?」
うるさい刃渡を無視しし、俺達が去年の夏休みにやった職場体験の事を聞いてみた。
「はいっス!武闘派ヒーローの所っス!」
「得意な事をもっと伸ばす感じかな」
「そうっス!」
「あんま期待しすぎない方が良いぞ。俺も似た感じのとこ行ったけど雑用ばっかだった」
「そうなんスか?」
まぁ確かに期待しすぎると面食らうかもしれない。資格を持っていない学生を預かるのだから、危険な事はやらせないのは当然だろう。
「まぁ学べることはあると思うよ」
「ヒーローっぽい事したいなら毒島を参考にするといい」
「あれはグレーゾーンだからな」
「ショッピングモールで子供を救助した事ですよね!」
去年の職場体験を知っているなんて流石は金森さんだ。あの件は結果的に救助できたからお咎めなしになっただけで、許可なく単独行動と個性使用するのは良くない事だ。
「ヒーローっぽい事したいのは分かるけど物事には順序がある。一歩一歩着実にね」
「はいっス!」
「そう言う毒島くんは突っ走り過ぎじゃないですかー」
「うるさいでーす。順序は守ってまーす」
刃渡が小馬鹿にしたように話すので俺も小馬鹿にして返す。それを聞くとクスリと笑い話し出す。
「俺さ、毒島を入学式で見た時、イケメンで主席で住む世界が違うんだろうなぁって思ってさ」
「どうした急に?」
「しかも俺の後ろの席で仲良くなれっか心配だったんよ」
俺の質問答える素振りもなく話し続ける。仕方がないから黙って聞くことにした。
「でも豊満に何歳?って聞いてるの見て意外と面白い奴なのかなって思ったんだよ」
「その件については、まだ清算できてないから言うな」
「あはは!引きずり過ぎだろ!で話してみたら良い奴で仲良くなれて今に至る感じじゃん?」
「そうだな、お前らに振り回されっぱなしだけど」
それを聞いて刃渡は「すまんすまん」と笑いながら謝ると、少しトーンを落とし話し出す。
「でも時々思うんだよ。こいつは俺なんかより凄いヒーローになるんだろうなって...あっ!?別に嫉妬してるって言いたい訳じゃないぜ!!むしろ尊敬してる!」
「お、おう、ありがとう?」
慌てて訂正する刃渡に、どう返事すればいいか分からずとりあえず礼を言う。結局は何が言いたいんだ?
「え~と何が言いたいかと言うと...お前なら世界一のヒーローなれるから頑張れよって事!」
「...世界一は無理だろ」
「おいいい!?そこは素直に返事しろよ!?」
「お前に言われてもなぁ...」
「どういう意味だ!コラァ!」
ヒーローを目指す時にトップ10入りを目標にはしていたがNo.1は目指さなかった。いや、目指そうと思えなかった。原作以上にオールマイトの活躍を見てきた俺には、あれを超えられるイメージが湧かなかった。
「てか、自分でなんねぇのかよ」
「兼業しながらはキツイかなって」
「兼業?」
将来の話で刃渡から兼業なんて聞いた事がなかった。だから何をするのか聞こうと思ったが、それより先に刃渡は答えた。
「先生になろうと思ってるんだよ」
意外だった。兼業するのも意外だと思ったが、兼業先が教師なのは想像していなかった。
「先生...意外ですね」
「そう?中学の頃は教えるの上手くて先生になれよって言われたよ。あ~でも士傑に入ってからは、そういう事しなくなったな。みんな勉強できるし」
刃渡は基本的にちゃらんぽらんだから意外に思われても仕方がない。入学して最初のテストで高得点を取り、みんなから驚かれてたのが懐かしい。
「なんで急に教師になろうと思ったんだよ?」
「ん~挑戦的な?お前見てたらなんかやらなきゃな~って思ってさ...だからさ」
「ん?」
「将来、生徒に自慢したいからマジで頑張れよ!」
「やめよっかなヒーロー」
なんて不純な理由で応援するんだコイツ、まさに虎の威を借りる狐だ。
「冗談!冗談!ちょっとしか思ってないから!」
「ちょっとは思ってるんかい」
「四割ぐらい」
「ほぼ半分じゃねぇか!」
一瞬でも信じた俺が馬鹿だった。刃渡はこういう奴だった。
「残りのうち、四割は同期が有名になれば俺にもワンチャンあると思うからと、二割は普通に友達だから」
「ほぼ私欲じゃねぇか!」
「でも俺のお前への気持ちは本物だ!」
「二割がな!」
「あはは!冗談だって!ちゃんと応援するって!」
「もう信じられん!帰る!」
「あっ!待てよ!じゃーね二人共!」
「「お疲れ様でした」ッス」
そう言って毒島と刃渡は生徒会室を後にした。二人っきりになってしまった彼女らも帰る準備を済ませ校門へ向かう。
「刃渡先輩も意外っスけど、毒島先輩もギャップ凄いっスよね。こうやって一緒に活動するまで完璧主義者とか堅物な感じの人だと思ってたっス」
「いつもはしっかりしてるけど友人の前だと砕けた口調になるのいいよね!!!」
「う、うん...そうっスね」
大神にとって一番意外だったのは金森が毒島先輩ファンだった事だ。中学からの付き合いだったので先輩の時よりも驚愕だった。本人は友人の新たな一面を見られて良かったと自身に言い聞かせている。
「歳が一つしか違わないのに先輩達って凄く大人に感じるよね」
「そうっスね。もう進路の事考えてるし、自分もあんな風になれるか不安っス」
「ウルルちゃんなら大丈夫だよ...あれ?先輩達だ」
彼女が言う方に視線を向けると、そこには先輩達が先生と一緒に教材を運んでいた。
「ホントっスね。さっきまで早く帰りたがってたのに流石っス!」
「刃渡先輩の方は巻き込まれただけだと思うなぁ」
刃渡先輩はしかめっ面をしており確かに巻き込まれただけなのだろう。でも、なんやかんや手伝っているのだから良い事だ。ふと先輩の言葉を思い出す。
”一歩一歩着実にね”
大神はその場に立ち尽くしたと思えば毒島達の方へ走り出す。
「ウルルちゃん!?」
「自分!手伝ってくるっス!先帰ってて良いっスよ!」
「えっ!?ちょっと待って!?廊下走っちゃダメだよ~!」
先輩達に負けてられないっス!!
おまけ:一年生テスト返し
「はぁ~67点かぁ...操助は何点やった?」
「97点だ。ケアレスミスした」
「さすが主席やなぁ...俺は刃渡と傷の舐め合いしよ...」
そう言って豊満は立ち上がり刃渡の席に向かう。
「刃渡!何点やった?俺は67...て...え!?95点!?」
「「「ええっ!?」」」
豊満の声に全員が驚く。本人はキョトンとして周りを見る。
「えっ?何に驚いてるの?」
「お、お前...バカやないんか!?」
「失礼すぎんだろ!?」
刃渡はキョロキョロと見渡し口を開く。
「えっ!?みんな俺の事そんなに頭悪いと思ってたの!?」
「「「・・・・・・・」」」
「噓だろ!?おい!?」
クラスメイトの無言の同意でたじろいでしまうが、一部の望みに賭け毒島に詰め寄る。
「毒島ぁ!?お前もそうなのか!?」
「いや前に四人で勉強会した時、スラスラ問題解くから頭は良いんだなって」
「頭”は”ってお前も失礼だぞ!!!」
「あっ、ごめん」
刃渡はプルプルと体を震わせ教室から飛び出していく。
「皆のバカ!もう知らない!」
「待つんや!刃渡!」
豊満も教室を飛び出し刃渡の腕を掴む。
「放して!」
「放さへん!さっきは言い過ぎたわ...すまんな」
「な、何よ!今さら謝って!どうせ私とは遊びなんでしょう!」
廊下のド真ん中で謎の茶番劇が始まった。大声で話すものだから他のクラスにも見られている。
「遊びやない!俺は本気や!」
「...本当に?」
「ああ、ホンマや」
「...じゃあ、抱きしめて」
「いくらでも抱きしめたる」
そう言って二人は抱きしめ合う...俺達、何見せられてんだ?
後日
「なぁ、操助」
「どうした?」
「さっき別のクラスの女子が俺の事見て、
「...知らない方がいいと思う」