【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。   作:サイリウム(夕宙リウム)

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39:よ~い!

 

「お母さん手伝ってたの?」

 

「あ、いえ。ちょっと話を聞いてもらってました。」

 

 

そう言いながら小さく手招きする彼女に耳を近づけると、『騎士の誤解についても説明しておきました』と彼女から教えられる。視線を軽くずらすと、アルの母が深く礼をしている。アルが内緒話のように話してる、ってことはお母さんにしか言ってないんだろうけど……、なんかまだ勘違いされてない? ん、どしたのアル、ヘンリエッタ様? ……あぁ、そういうこと。

 

私個人には権力とかないんで、普通にしていただけるとありがたいです。ヘンリエッタ様も悪い人じゃないですし、よっぽどな理由がなければあの人が力を使うことはありませんし、もし何か被害を受けてしまいそうなときは私が守りますから。

 

っと、そういえばちゃんと自己紹介してませんでしたね。

 

 

「レインさん、でよかったですか?」

 

「はい。……アルのこと、本当にありがとうございます。ジナさんのおかげで娘はちゃんと生きていて、もう一度会わせて頂いた。この恩は絶対に忘れません。」

 

 

そう言いながら、もう一度深く礼をしてくれる彼女。あ~、自分がいつも礼をしたりへこへこする立場なせいか、誰かにしてもらうのは無茶苦茶気が引ける。まぁまぁお母さんそんな頭下げないで、私も勘違いだったとは言え身分偽ってましたし、そもアルなら私がいなくても生き残っていたと思いますよ。私だって何度も助けられてますし。

 

そう言いながら頭を上げるようにお願いする、お母さんからすればアルが私のことを助けている、っていうのがあまりピンと来ていないみたいだが本当だからね? 恥ずかしくて言えないけど、私が心を壊さずにここにいるのは彼女のおかげだし、アルと出会わなければどっかで死んでただろうしねぇ。

 

 

「それで師匠……。」

 

「あぁ、うん。尋問ね、終わったよ。」

 

 

お母さんもいるし、この村で過ごしていたころのアルの様子でも聞こうかと思ったけど変に話を長引かせる様な形になってしまう、か。二人が知りたいのはアルの姉妹が今どうなっているか、ということ。拷問の詳細や、裏に何かいることは伏せて情報の開示を行う。「まだ二人は"無事"ではあること」、「奴らの根城が比較的近くにあること」、「もし助けに行くのなら早い方が良いということ」この三点だ。

 

 

「しッ!」

 

 

何か私に言おうとしたアルを手で押しとどめ、彼女の母の方へと姿勢を正す。アルが言いたい事、私に伝えたいことは解っている。だからこそ、母親に話を聞かないといけない。

 

一度アルを売ったとはいえ、やむを得ない理由だったしアルはそのことを恨んでいない。それにまだ少ししか話せていないが、彼女からはアルへの家族の愛が感じられる。決して、親の権利を手放したくて手放した人ではない。

 

彼女はそうは思っていないかもしれない。でも、私からすれば。アルの保護者は、この人だ。

 

 

「レインさん。貴方の考えを、お聞かせ願えますか?」

 

「……。」

 

 

少しだけ目を瞑り考え込んだ彼女は、しっかりとした意思を瞳に宿し、口を開く。

 

 

「……アルを奴隷として売ってしまった私が言えることではありません。ですが、私はアルに危険へ飛び込んでほしいとは思っていません。ずっと安全な場所で、健やかに育ってほしいと願っています。……そして、それ以上にあの子たち。アルの姉や妹も、同じように過ごしてほしいと願っています。」

 

 

親としての感情は、どちらも比べることはできない。そんなことが伝わってくる。だけど、現実を見てしまえば、答えは変わってしまう。今この村には何も残っていない、まともな食べ物に成りそうなものはないし、身を守る為の武器や防壁もない。その上生きる意味であった麦畑もすべて燃やされている。素人目に見ても、この人たちがどれだけの時間生き残れるか解らない。今はまだ近くにある森の恵みで生き残れるかもしれないが、その先は真っ暗。

 

そんなところに、さらに人を増やす。しかも心に大きなダメージを負っていて、介護を必要とする人たちを連れて来てしまうのは、確実な負担だ。彼女の頭の中には、いろんな考えが浮かんでいるのだろう。だけど、最後に彼女が選んだのは、母としての声だった。

 

 

「ジナさん、私の娘たちを、助けては頂けませんか? 先ほど助けていただいたのにさらに望むなど、どれだけ高望みなのかは理解しています。このまま、次に進むべきであることも。諦めないといけないってことは、理解してます。……ですが、私は母親です。そこに可能性があるのなら……、どうか! どうか!」

 

 

もう一度、深く頭を下げる彼女。答えはもう、最初から決まっている。

 

彼女の肩を掴みながら頭を上げさせ、軽く微笑む。

 

 

「引き受けましょう。」

 

 

そして、彼女の視線から外れ、アルの方へと向いてもらう。彼女が付いて行きたいと思っていることは最初からわかっている。お母さんも、それが解っているのだろう。

 

 

「……アル、私が貴方に何か指図する資格はありません。だから、貴方がやりたいことを、したいことをジナさんに言って、自分で説得しなさい。……私はここで、貴方がもう一度会いに来てくれることを、待ってます。」

 

「はい。」

 

 

彼女が母に、力強い返事を返す。

 

私は私の価値観を変えるつもりはない、それが自身を証明する要素の一つだから。でも、自身の価値観を誰かに押し付けるのは間違っている。アルはまだ幼いけど、物事の判別はできる子だ。なら自分で考えて、結論を出したのであればその背中を押してやろう。何か失敗したら、全力でフォローしてやろう。それが、大人ってものだ。

 

 

「師匠。」

 

 

彼女の前まで移動し、膝を曲げてアルの視線まで腰を下ろす。見下ろすのではなく、対等に。師と弟子という関係性だが、戦いにおいて賭け金は二人とも同じ。人の命に貴賤はなく、その価値に違いはない。幼子を戦いの場に出してしまう私の、精いっぱいの抵抗みたいなもの。

 

目線を、合わせなきゃ。

 

 

「私も、連れて行ってください。……父の仇を討ちたい気持ちも、この村を焼いた奴らに復讐したい気持ちもあります。でも、それ以上に姉さんや妹を助けたい、です。」

 

「……いい答え。あなたが持つその黒い感情は、確かに力をくれる。でもそれに振り回され、破滅した人を私はたくさん見てきた。常に冷静に、自身の芯を意識し続けなさい。守る為の剣、明日を掴む為の剣は……、案外強いよ?」

 

 

先達から後に続く者へ。アルの頭をいつもより強く撫で、勢いよく立ち上がる。

 

湿っぽい空気はみんな苦手だろうしね、マルっと切り替えていきましょうか。

 

 

「さっ! やること決めたのならさっさと準備! 早ければ早い方がいいからね、ほら駆け足!」

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

岩肌をくりぬいて作ったのか、それとも元々存在していたのかはわからないが裂け目のように生じた洞窟の付近に数多くのテントが建てられている。また一部は簡易ではあるが木造の建築物も存在していることから見て、ここが本拠地で間違いないだろう。

 

まぁそもそも三桁の人間を洞窟内に放り込めば絶対どっかで暴動が起きる。狭いしジメジメしてるし暗いからね。それを防ぐために洞窟の前を切り開いて基地化した訳だ。結構な大所帯なこともあり、遠くから見ても結構な物資が集まっている。

 

 

「待たせたなッ!」

 

「……マジで何してるんですか師匠。」

 

 

こちらジナーク、敵基地の付近まで来た。だが遮蔽物が少なく潜入が難しい、至急段ボールを……、え? 何? 今ヘビさんごっこで忙しいんだけど。……え、何。飛ばし過ぎ? 何がどうなってるか解んない? あぁ確かに。んじゃま最初から行きましょうか。

 

 

 

 

アルの意思を確認した後、準備をするために私たちは荷物。ルぺスとコピアがいる場所まで移動した。今回突撃する予定の洞窟は森を抜けた先にあるらしく、馬で行くと逆に遠回りになってしまうような場所らしい。お馬さんは森の中走れないからね、迂回するしかないのよ。

 

となると移動方法は徒歩で、時間がもったいないからアルを担いで走ることにしようと思ったんだけど、……さすがに私も疲れてる。早く蹂躙しに行きたいのは山々だけど、元々旅の途中で疲労は溜まってるし、さっきの戦闘でカロリーも魔力も消費しちゃってる。いくら雑魚とは言えさすがに300相手するときに疲労困憊で……、ってなるとちょっと怪しいところがあるからね。『戦いは数だよ兄貴!』はあながち間違ってないんです。

 

というわけで持ってきた食料とか、お土産とか全部開放して村のみんなとお食事会ってのをしました。そろそろ日が沈みそうだったからねぇ。生き残った人たちが集めてきた森の恵みと、私が持ち込んだ保存食とか。襲撃からみんな無事に生き残ったし、ちょっとした戦勝記念の宴って感じだった。

 

ま、さすがにそれだけだとみんなお腹いっぱいにならないので、ちょっと森に入って獲物を探したんだけど……。

 

 

「……運良すぎない、私?」

 

 

頭の高さが私よりも大きい鹿、その群れを発見できた。いやまぁ私が見つけた時と、相手がこちらを捕捉したのは同時で、最初の踏み込みは鹿ちゃんの方が早かったんだけど……。私に速度で勝てるわけないよね、ってことで。

 

一番大きい鹿の頭を切り落とした後、軽く血抜きして持ち帰っちゃいました。いや~、喜ばれたよね。すごく。この鹿ちゃんも魔物の移動の影響を受けたのか、ちょっとあばらが見えるぐらい痩せてたけどサイズがサイズ。みんなお腹いっぱいになれるサイズでした。しっかりと焼いて、持ち込んでた岩塩で味付けした鹿肉は大変美味でした。うまうま。

 

 

……まぁ普段通りに食べたらその量にビビられて無茶苦茶引かれたけどね。いやまぁ確かに私の体より大きい鹿の大半を腹の中に収めるのを見れば引くのは解るけど、もうちょっと手心というか……。

 

しかもアルがふざけて子供たちに『悪いことしたらビクトリア様にぺろりと食べられちゃいますよ~!』って言い始めたし。普通ならわーきゃー言いながら喜ぶんだろうけど、私の食べる量を真近で見たせいか何人か顔真っ青になってたでしょうが! ジナちゃん人食いの趣味はありません! というかアルもアルで年にしたらかなり食べてて、お母さんに『えぇ……。』って顔されてたの私知ってるからね!

 

 

 

そんな感じでカロリーを補給した後は、武器防具の手入れをした後に就寝。日の出の少し前に起きて、アルちゃんを抱えて全力ダッシュして敵基地までたどり着いた、って感じです。

 

 

「さてアルちゃん、現在敵の本拠地の近くまで来ているわけですが……。作戦は覚えてる?」

 

「はい、叩き込みました。」

 

 

敵アジトには防壁らしい防壁がない、つまり物資や奴らの家やらすべてが剝き出しって感じだ。これはまぁ結構な森の中だから敵が攻め込んでくる想定をしなくていいのと、魔物避けの香が焚かれていることからそっちの心配が必要ないってのもあると思う。ついでに言うとすぐ森の中に逃げ込むことができるって利点もある。

 

攻め込む側、特に私みたいな全滅させたい人間からすれば、防壁がないのはありがたいけど逃げられる可能性があるってところがちょっと嫌なところ。盗賊っているだけで治安悪化させるからね、一人二人程度ならまだしも十数人も逃がしちゃうとそれだけで徒党を組んでどこかを襲いに行ってしまう。

 

 

「それを防ぐために私が樹上から観測と、射撃ですね。」

 

「そゆこと。」

 

 

流石に私が加速しても300すべてを把握し続けるのは不可能、そのため逃げそうになった奴のところにアルがパチンコを打ち込み、私がその音を頼りに急行して殲滅ってのをしようとしている。アルの実力的に一対一ならまだしも、囲まれたらヤバいからね。遠距離からの射撃者兼観測者をお願いするわけです。

 

 

「んでまぁそんな感じでお外に出てる人を全部オタッシャデー、したら次は洞窟の内部。」

 

 

軽く見た感じ、相手さんの重要そうなものは大体洞窟の中にありそうだ。ほんとは騒ぎを聞きつけた敵が情報を隠すために書類とかを処分する可能性も考えて、先に洞窟内部を攻略したかったんだけど……。あいにく私は狭いところや暗いところでの戦闘経験が極端に不足している。力押しで出来ないこともないんだろうけど、安全を考えれば後回しにした方がいい。

 

まぁそんな感じで表を片付けた後は、洞窟の中で防御を固めたであろう奴らの処理をする。んであとは、捕まってる人を助けて、残ってる証拠品を回収して、基地に集積されてる食料や使えそうなものを全部まとめて回収して村に帰るって寸法。

 

 

「一応再確認したけど……、大丈夫そう?」

 

「はい!」

 

 

ならよし。んじゃ最後に装備の点検をしまして……。

 

 

意識を、切り替える。

 

 

普段使いのロングソードを抜き、もう片方の手で予備として持ってきていたもう一本の剣を引き抜く。今回は数が多いし、観客もいない。効率と手数を重視してやっていくとしよう。……日も十分昇っているし、視界は良好で明度も問題なし。休んでいる盗賊もいるだろうが、敵が来たのを察知すればすぐに動き出してくれるだろう。

 

纏まってくれた方が、殺しやすいからね。

 

 

「アル。」

 

「いつでも。」

 

 

上から彼女の声、木の上に登った彼女が答えてくれる。

 

よし、じゃあ待たせちゃうのも悪いし……。

 

 

 

「始めようか。」

 

 

 






すたーと!




誤字報告いつも大変お世話になっております。

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