【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。 作:サイリウム(夕宙リウム)
さて、あの後の話をしよう。まぁちょっとした後始末って奴だからね。あんまりおもしろいものではないし、ぱぱっと終わらせるに限る。
あの戦闘の直後はまず、震えてまともに喋ることもできなくなってしまったアルを宥めるところから始まった。アルを襲おうとしていた奴らを視界に収めてしまったせいで、本気でキレてしまった私は彼女の目の前でも自身が纏う空気を変えることができなかった。いや変えること自体は出来たんだけど、それをするのに時間を掛けてしまった。
その結果、私の本気の殺気を彼女に当ててしまった。いくら彼女に向けていなかったものとは言え、その衝撃は大きなものに成ってしまったのだろう。普段は『加速』中に全てを終わらせ、周りが気が付く前に終わらせることで迷惑を掛けないようにしてたんだけど、あの時はアルの安否確認のために急ぎ過ぎていた。幸い彼女に傷一つなかったんだけど、私が纏っていた殺気をアルに感じさせてしまった。
「ぁあ…ぁ……。」
「大丈夫。大丈夫だから、私はここにいるから。もう誰も貴方のことを襲わないから、大丈夫。」
抱きしめ、その背を優しく撫でながら震える彼女を落ち着かせる。……本当に、私は。
強い自己嫌悪に陥りながらも、彼女の背を撫でる。アルを危険にさらしてしまった上に、自身の殺気で強いショックを与えてしまうなんて愚の骨頂だ。本当に今日の私は悪いところしかない。剣闘士を辞めて実戦を離れていたせいか、どこか気が緩んでしまっていたのかもしれない。今回はアルも私もケガすらしていないが、次回もうまく行くかどうかわからない。本当に、気を付けないといけない。
その後、何とか落ち着いてくれた彼女と二人で、洞窟の中を調べた。
結果から言うと、捕まっていた人達は助け出すことができたし、背後にいる存在に繋がる証拠らしきものも手に入れることができた。
息を整え、ようやく普段通り振舞えるようになったアルと二人で最初に探したのは彼女の姉と妹。洞窟の外にそれらしき建築物を発見できなかった以上洞窟の中に捕らえられていると考え、導きのルーンで調べながら内部を探索した結果。洞窟の構造を利用した牢屋らしきものを発見した。
「……ぁ、ルモ姉さん! ヘス!」
「ぁル?」
「アル姉ぇ!」
そこに捕らえられていたのは、アルの出身の村である村人たちの一部とすでに破壊された村々の住人の一部だった。それも多くが女性と子供。盗賊たちからすれば抵抗の可能性が少ない、扱いやすい者たちばかりだった。
アルの姉妹との再会に水を差すのは悪かったが、彼女たち以外にも人はいる。軽く50人弱いる者たちを宥めながら、簡単な事情の説明を行った。事実を疑う者や、ヒステリックになってしまう者もいたが、その者たちには気をぶつけることで黙らせた。殺意は含まない気だが、それでも一般人からすれば首根っこを掴まれるよりも大きな衝撃になる。彼女たちには悪いがそうさせてもらった。
「……うん、静かになったね。この後私は西に森を抜けた村まで移動する。悪いけどこっちにも全員の面倒を見る余裕はなくてね。ついて来たい者は付いてきてもいいけど、嫌な者の面倒は見切れない。好きにするといい。この時点でついて来たくない者は?」
誰も手を上げない。
「OK、なら全員でいこう。道中の魔物の処理はやってあげる。でも私も全部が全部助けてあげるほど優しくない。ついて来たい者は少し働いてもらうよ。」
そう言いながら、簡単な指示を飛ばす。動けない者や、盗賊たちが持つ物資を村に持ち帰るために、荷台とかに乗せて運べるように積み込みのお願いだ。まぁお願いというか、この人たちからすれば命令に近いのだろう。私が光源の確保のために魔法を使用していることは彼女たちに見られている。私が騎士か貴族と勘違いしているせいか、怖いぐらいに聞き分けが良かった。
あ、あと普通に血まみれで武器持ってる奴が怖かった、ってのもあると思う。
「アル。私はまだこの中を調べるけど、どうする? 結構派手にやってるし、積もる話もあるなら外で待っててもいいよ。」
「……ありがとうございます。」
「何かあったら呼ぶように。」
新たに光源をいくつか生み出し、捕まっていた人たちに追従するように設定してから探索を進める。心の内側にまだ大分ムカムカとした感情が残っているが、それを横に置いて情報を整理する余裕ぐらいはできた。気持ちの整理を続けながらも、少し歩いた先に奴らの使っていた倉庫を発見した。
最初は焼却処分でもされて、裏の手がかりの入手は絶望的かと思っていたのだが……。どうやら奴らの指揮官とやらは絶大な自信家であったようだ、運が良いことに全てがそのまま残っていた。まぁ単純に処分が間に合わなかっただけかもしれんけど。
対魔法、正確に言えば対貴族用の装備も大量にある倉庫。そのほかのかなり質のいい装備などを集められていたここには大き目の机も存在しており、様々な資料も置かれていた。ペンや明かりもあるし、ここでデスクワークもしていたのだろう。
「盗賊に貸し出せるぐらいの対魔法装備が充実していて、数は盗賊たちで賄える。ちょっとキレすぎて普通に殺しちゃったけど、あの正規兵みたいな奴らの質も悪くはなかった。その上指揮官らしい存在は魔物のテイミングが可能。……まぁ油断も仕方ないのかな?」
はっきりとは覚えていないが、あの熊の魔物も軍が出ないと難しい奴だったはずだ。それを複数体、しかも同時にテイムしてもまだ余裕があるというのだから、その油断も仕方のないモノなのだろう。さらに実際に男爵家を複数潰した事実も、油断に繋がったのかもしれない。
魔法を封じられても戦える奴はいるだろうが、それでも貴族にとって魔法は主力。それを補うはずの騎士たちを他の魔物や盗賊で抑えれば十分に対処可能だろう。それこそ、ララクラ子爵家も。
「ちゃんと組織化された軍隊みたいだし、読みやすい書類が多くて助かるね。……こっちは魔物の管理についてか。」
手に取ったソレには魔物の名称と、番号が記されたもの。そしてその育成や維持に使う"エサ"についても書かれていた。
「……あぁ、そうか。」
わざわざ盗賊を外に置いていたのも、洞窟内で魔物を管理するため。女子供を攫っていたのも、盗賊たちへの一種の褒美の側面もあったようだが、どちらかというと魔物の餌というのが正しいのだろう。人数の管理がされた書類を発見してしまい、その数の減少の推移を見て思わず戻しそうになってしまう。
抵抗される可能性が低く、されたとしても被害が少ない。……肉も、柔らかい方が好みとかそういう理由だろう。さらに女であれば数を増やすための母体としても使用できる。効率以外のすべてを考えなければ、確かに有用な方法だろう。
「クソが。」
思わず破り捨てそうになったが、これでも大事な証拠だ。人を人と思わない所業。本当に気分が害される。アルを連れてこなくて本当に良かった。こういう世界の黒い部分は、一生見なくてもいいものだ。
これ以上見る必要はないと断じ、手に取っていた書類を裏返しながら机の上に乗せる。交配についての資料も見受けられたが、もう読む気にすらならない。……あの捕虜たちがいた部屋と、母体になってしまった人たちが収容されている部屋は違う場所にあるようだ。資料を確保し終わったら、そっちを見に行こう。
(死を望むのなら死を、生きることを望むのなら、大都市の教会に連れていくしかない、か。)
頭の重い問題を後回しにして、他の資料を読み進める。一番欲しいのは敵のトップとここの指揮官が直接やりとりしている書類だが……。あった。
「…………やっぱり、厄介事だな。」
◇◆◇◆◇
「それで、私のところに来たってわけね。」
「……ごめんねヘンリ。いつも頼る様な事になってしまって。」
「ほほほ、そんなの気にしなくていいわ。あなたと私の仲でしょう?」
あれから数日後、明らかに自身1人では抱えきれない内容であったため、かなりの強行軍となってしまったが帝都まで帰ってきた。盗賊の基地は力技で洞窟を倒壊させて基地に火を放っておいた。けど急いでいたせいで何か燃え残っているかもしれない。それにアルの故郷には母体となってしまった者を含めて、捕虜の全員を置いたままだ。彼らには申し訳ないが、政治が関わる問題であったため許してもらいたい。
「まぁそれはそうなんだけどさ……、なんで風呂の中なの?」
「あら? お風呂は嫌いだった?」
うん、いやまぁ急いでたのは確かで。帝都に付いたらそのままお屋敷に向かっちゃった私が悪いところもあるんだけどさ、なんで風呂に入ってるんですかね。私たち。一緒に入る必要性あります? しかもヘンリエッタ様のお屋敷のお風呂なわけだから、無駄なくらい豪華な大浴場。ローマ風の変な柱とか彫刻とか大量にあるし……。
ほらアルが設備のヤバさに圧倒されてすみっこぐらしになってる。ウチにある簡易のお風呂でも贅沢すぎるって騒いでたから仕方ないよね。私も正直ビビってるし、まさにお貴族様のテルマエって感じ。でもまぁ今の状況をまるっきり楽しむのは難しいよね、大変な状況に置かれてる人たちを放置しちゃってるわけだし。私がこんないい目にあっていいのか、と。
「いやまぁお風呂は好きですけどね?」
「ならいいじゃない。お客様が血みどろで旅の疲れもすごい溜まっている。さらにあ~んな顔してたんですもの。そのまま客間に通してしまえば家の者に私の品位が疑われるし、外の者からすれば『我が家は客人をもてなすことすらできない』にしか見えなくてよ? 役得と思ってリフレッシュしましょ。」
「……ごめん、ありがとう。」
「どういたしまして♡ それに、ビクトリア様の裸体が見れるとかものすごく、すごいじゃない? ……わ、なにこれ。張り付いてくる。」
楽しそうに笑いながらそういう彼女。最後のソレ、私の太腿とか触りながらじゃなかったらすごく決まってたよ、うん。いやまぁ肌質の維持とか無茶苦茶手間と労力とお金掛けてるから評価してもらえるのはありがたいんだけど、もうちょっと元老院議員夫人の仮面を続けてもろて。
「……後で化粧水とか何使ってるのか教えてくださる?」
「もちろん。」
「感謝するわ、ビクトリア様♡ ……さて、本題に入りましょうか。」
彼女の纏う雰囲気が気のいい友人の一人から、政治家のものへと変る。彼女に合わせ私も気持ちを切り替えながら、ことの顛末を最初から紡いでいく。その話を聞くごとに彼女の顔色が変化していき、ある程度話し終えるころには大きなため息をついていた。
「つまり、ララクラ子爵領とその傘下を丸ごと取り込もうとするお家騒動に巻き込まれて、それを全部潰してしまった、というわけね。いやほんとウチの貴族は何やっているんだか……。」
簡単に言うと、領土拡張戦争。ララクラ子爵家を筆頭とした地域の隣には、大体二倍くらいの大きさを持つ子爵家が存在している。この子爵家がララクラ家を取り込むために起こした襲撃を、私が途中で止めてしまったという形だ。同じ国に所属している貴族のやらかしに頭を抱えながらも、ヘンリエッタ様は私に物事を教えるような口調で状況を整理していく。
「ララクラ家を取り込めば、領土的に伯爵家に格上げされてもおかしくない面積になる。それにララクラは建国から皇室を支える名家。取り込んで兼任すればそれだけで格が上がるし、やらかした子爵家は最近議員の家とかに色々すり寄ってたみたいだから、うまく行けば元老院入りも夢じゃないってところかしら……。」
子爵では格が落ちすぎるが、伯爵であれば公爵家や元老院の家の継承権のない子供を婿や嫁にもらってもおかしくはない。そこから関係性を構築し、ゆくゆくは国の中枢へ。彼の代では無理かもしれないが、長期的に考えれば可能性は十分にある。
「私たちの価値観にね、『魔物や盗賊に負ける貴族など、貴族ではない』みたいな考え方があってね? まぁそういう風に処理できれば単純に『貴族として求められる力量を備えていなかった』という形で収まるのよ。そこに兵を派遣して、自身が指揮を執ったりしていれば『隣の子爵家の危機を救いました!』という着地点になる。その功績でララクラ家領土を任されてもおかしくない。というか、民の混乱を抑えるためにもそうする。」
私も詳細を知らなければその決定に賛成しただろうし……、と彼女は付け加える。纏めると大規模なマッチポンプ、貴族を滅ぼせる魔物を従えた盗賊集団を生み出し、隣の領を襲わせる。統治者が全滅したところで証拠もろとも全部消し飛ばせばうまく行く、という寸法だ。
「帝国も一枚岩ではないし、その上海を越えた先に属州も保有している。しかも最近は小康状態とはいえドワーフとの戦争も続いてるから、足元に目を向ける余裕はない。あ~~~、嫌になるわね、これ。」
「そんなにかい?」
「そうよ! しかもこの子爵家。よりにもよって急進派の派閥ですもの……。もしこのまま事が起きていれば孫の世代には面倒なことになっていたかも。」
先ほども言ったが、ララクラ子爵家は子爵家ではあるがかなりの名家であり、一応保守派に属する家である。それがまるっきり急進派に代わるわけだから、この世界の政治に疎い私でも面倒なことになりそうなのは理解できる。どこまで行っても議会形式で行われる政治は数の勝負、票の勝負で決まる。未来の確実な一票に、名家ボーナスに釣られて持っていかれる数票を考えると頭が痛いだろう。
「しかもララクラ家、継承者が娘しかいないから……。最悪でもその子を捕らえて自身の長男にでも嫁がせれば確実にララクラ家が手に入る。聞いた話だと、多分物資の補給とかも直接届けるんじゃなくて盗賊に盗ませるっていう段階を踏んで行っていたようだし……、貴方が潰した基地だけど、変に馬車とか多くなかった?」
言われてみれば確かにその通りだ、馬車や荷台のおかげで物資や捕虜たちを連れ出すことができたので何とも言えないが、確かにそれだけの量を保有しているのは違和感が残る。表向きはただの商会の荷物輸送だけど、本当は盗賊に奪われる前提の物資の補給ってわけだ。
たぶん私が知らない部分でもそう言った小細工が仕掛けられていて、最終的に全部処分できるようになっていたのだろう。
「やっぱりねぇ……、多分だけど耐魔の魔道具を大量に持ってたってことはあの家とあの家も関与してるだろうし……。」
私の知らない貴族の名前を羅列しながら、深い思考に入る彼女。まぁ纏めると、実行犯の子爵家も将来的に元老院議員になれて幸せ、急進派の貴族たちも名家の一つが同じ派閥になって幸せ、ということなのだろう。私が思っていた以上に面倒な話で、すぐにこの件を彼女の下に持ってきて正解だったと強く思う。
「……うん、でもビクトリア様が止めてくれたおかげで阻止できたし、その上あっちの切り崩しもできる。証拠となる書類は持って帰って来てくれたのよね?」
「もちろん、それだけでは弱いかなって思って耐魔法用の装備も全部持ち帰ってきたよ。」
「助かるわ!」
そう言いながら飛び上がって抱き着いてくる彼女。はいはい、嬉しいのは解ったから……、ってどさくさに紛れて胸触ろうとしない! というかさっきから色々ボディタッチ多いよヘンリ! あなた孫もいる結構いい歳でしょうが! 『恋に年齢なんか関係ないわ』? いやいい言葉だとは思うけど、さすがに許容限界超えてますから!
「え~! これから面倒なお仕事が待ってるから元気づけてもらおうと思ったんだけどな~、すごく大変そうで疲れちゃいそうなんだけどな~?」
「ん~~~ッ、ああもう! お好きにどうぞ!」
「やった! あ~~、この肌の吸い付き。30歳ぐらい若返りそぅ……。」
「はいはい。」
あー、もう私。何してるんでしょうね。しかもこの人動作や声色は完全にふざけてるんだけど、眼の色が仕事モードから一回も変わってないし、ずっと考えてくれてるのよね……。いや私が原因ではないんだけど、私が持ち込んでしまった案件だし、罪悪感というかなんというか……。うん、もうジナちゃんし~らない。私は私で、もっかいアルの故郷に行ったときに何持っていくか考えることにしよ。
難しい政治のことは、全部ヘンリエッタ様お任せ!
「あ、そうだビクトリア様。この機会に、私のものにならない? ほら肌を見せあった仲でしょう?」
「はいはい、考えが纏まったのね。のぼせる前に上がりましょうか。ほらアル~、でるよ~。」
アル
(そういえばヘンリエッタ様って顔も体も年齢に比べたら滅茶苦茶に若いなぁ……、どんなに高く見積もっても30代後半だし。髪が白いおかげでお婆ちゃんって解るけど、アレで染めてたらマジで解らなくなりそう。強い魔力持ちは老化が遅いって聞いたけど本当だったんだなぁ。)
未来アル
ちなみにあの人15年後もずっとあんな感じだぞ?
アル
マジで!? というかなんでいるのお前!
この章も後何話かで終わりそうですね、最後までお付き合いいただければ幸いです。あと今回の後半部分の需要に関しては解りません、希望が多ければ定期的にヤリマス。
誤字報告いつも大変お世話になっております。
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