【書籍化】TS剣闘士は異世界で何を見るか。 作:サイリウム(夕宙リウム)
また最後に大事な発表がありますので、お付き合い頂ければ幸いです。
「テクラちゃん、聖都から出ていきなさい!」
「え……。」
固まる空気。
普段通りの人の好さそうなニコニコした顔をして言い張る聖女様に、その言葉を聞いた瞬間どんどんと顔色が悪くなっていくテクラちゃん。明らかに『あ、これ勘違いと言うか聖女様言葉足らず過ぎない?』という顔をする私達に、【これ私が口出していい奴?】という声を私だけに送って来る神。
そして目の前のテクラちゃんの顔が青を通り越して白になり始めたことをようやく察知し、笑顔そのままに大量の冷や汗をかき始める聖女のお婆ちゃん。
たぶんこの聖女見習いちゃん、さっきまで自分が破門されると思い込んでたみたいだから、出ていけを『破門はしないけど聖都にお前の席もうねぇから!』ってことだと勘違いしちゃった感じだよね。
あー、これ。どう収集つけます? 神ー、お前何とかして♡ というかしろ。
【えー、私ぃ? まぁ私が一番上だから何とかしなきゃいけない奴か。そういうキャラじゃないんだけどなぁ。……というわけでクソババアっ! 最初からちゃんと説明しろ! おしおき!】
未だに私の思考を読んでいるのだろう。こちらの問いかけに応えた後、この場にいる全員の脳に響き始めるその御声。
そしてそんな神の声が聞こえた瞬間。この部屋の天井全てが、文字通り吹き飛ぶ。思わず空を見上げてみれば、先ほどまで晴天だったはずの上空には真っ黒な雷雲が集まっており、明らかに人智を超える莫大な電量が蓄えられていた。
私達がそれを認識した瞬間。
そのすべてがお婆ちゃんの脳天へと、叩き込まれる。
「あばばばばばばば!」
「Oh……」
いたそ。
一瞬にして出来上がる、真っ黒こげな聖女様。
あまりのことに目の前にいたテクラちゃんは絶句してるし、アルとマリーナは目を白黒させてる。え、私? いや聖女お婆ちゃんのことだからなんやかんや生きてるだろうし、綺麗な頭髪が黒焦げアフロになっているせいでもうギャグにしか見えないと言いますか……。たぶんこのアフロの意味が解るの私だけなんだよね。ちょっと悲しいかも。
【えーっと、名前何だっけ。忘れた。まぁいいや、確かこの前声かけた酒カスちゃんだったよね。あ、今はヤニカスもしてる? Wカスか、ダブカスちゃん?】
「あ、いえ。テクラと申します。……あの、もしかして。」
【そうだぞ。女神ちゃんだぞ。……というか聖女、お前だったら即座に復帰できるでしょうが、いつまで寝てんの? 職務怠慢? それとももうボケた? もうお迎えが必要なのかにゃ~?】
「はっ倒すぞクソ神。黙っておいた方が話進むかと思ってただけですー! ……あの、ごめんなさいねテクラちゃん。貴女を傷付けるつもりはなかったの。勿論、追放するとかそう言う意図も全くないの。もう一度だけ、私に説明させてもらえるかしら?」
「あ、はい……。」
瞬時に立ち上がり、軽い緑の発光と共に完全な元通りになる聖女様。そんな彼女と信仰する神が口喧嘩しているとなれば、この世界で聖職者してる人には受け入れにくいのだろう。情報量に耐えきれず完全にフリーズしちゃったテクラちゃん、返事も機械的なものになっちゃってるね。
でもまぁ、さっきみたいな死にそうな顔色じゃない。このまま任せておいて大丈夫だね。私たち完全に部外者だし、空気になっておくとしましょうか。
じゃあジナちゃんはここから優雅にお茶の……、おん? どしたのアル。え、マリーナ? あ、また泡吐いちゃってるじゃん。やっぱりまだ神の声を聴くには早かった感じかな。私のことを観察してるらしい神がいる限り今後も何かと聞くことになりそうだから早めに慣れて欲しいんだけど……、ま、仕方ないね。
とりあえずお口拭いて、横にしておきましょう。サービスに膝枕もしてあげましょうねぇ。
「もう一度言いますが、テクラ。私は貴女を次代の聖女として考えています。先ほどは言いませんでしたが、一応神にも御認可を頂いています。」
「め、女神様にですか?」
【せやで。許可したで。】
「ですが貴女が思うように、少々経験不足であることも否めません。ちょっと聖女としては戦闘経験が足りませんし、世俗への理解もまだまだです。聖女は全ての信徒の見本にならなければならないのです、なら信徒への理解が無くては務まらないでしょう?」
流石聖女と言うべきか、言葉の一つ一つがゆっくりと心の中に染み込んでいくような話し方をする彼女。
テクラちゃんの戦闘経験はどうか解らないが、私と普通にタイマン出来ちゃいそうなハイパーお婆ちゃんの戦闘力を考えれば、ちょっと足りないのかもしれない。世俗の理解に関しても、彼女の得意分野みたいな酒やたばこに限った話ではなく、聖都から出てもっと多くの人とふれあって経験を積みなさい、ということなのだろう。うーん、私も師匠って呼ばれる立場だし。こういう誰かに指南してる話は参考になるねぇ。
……え、どうしたのアル? あ、アルも膝枕して欲しいの? そりゃもちろんウェルカム! というか大好きなお腹に沈めてあげるよ。あはは、そんな抵抗しなくても! 大好きなんでしょう? 私二人の性癖知ってるし、理解あるから大丈夫だって。ほら楽しんじゃいなさいな。
「……はい、仰る通りかと思います。」
「でしょう? ですのでこんな居心地の悪い聖都から抜け出して勉強してきてくださいな! ……正直な話、私も今の教会の『固さ』に関しては思う所があるのです。根本的に変えていくなら、上からも下からも変化を促さねばなりません。貴女なら、そのよい道しるべになれると思うのです。」
「聖女様……。」
テクラちゃんに向かって優しく微笑みかける聖女様。
……敢えて私達がいる前でこんな話をしていると言うことは、私にもその手伝いをしてほしいってコトなのだろう。テクラちゃんはテクラちゃんでこれから成長しないといけないことがあるってワケ。まぁこっちはダンジョン攻略のための人員を借りに来てるんだ。それぐらいのお手伝いは望むところだし、お酒とヤニが入ってない時の彼女であれば、アルとマリーナによい影響を与えてくれるだろう。
お互いWIN‐WINで上手くやっていきましょ? ってことだね。
「と、いうことを言いたかったのです。まぁちょっと端折り過ぎたせいで勘違いさせてしまいましたが。」
「い、いえ! 聖女様の御心、大変ありがたく……。」
「なら良かった。では話を戻しますが、貴女には聖女見習いとしてそこの彼女、ジナちゃんに付いて行ってもらいたいのです。……ジナちゃん?」
「あ、私の番? ちょっとこのままでいいかな。」
ちょっと二人とも寝ちゃっててね? このままで失礼させてもらうよ。
「さっき知り合ったようなものだけど……。改めて、私はジナ。ビクトリアっていう芸名、芸名でいいのかな? まぁそれで剣闘士やってた人間。今はまぁ、何でもない一般市民? んで私のお腹に顔を埋めて気絶しているのが弟子のアルで、さっき目を覚ましたけど私に膝枕されてるのに気が付いて2度目の気絶したのが弟子のマリーナ。」
「き、気絶?」
あはー! まぁいつものことみたいなもんだから気にしないで! 起きたら色々話してもらえると助かる! んで、何の……。あぁそうそう旅の目的だったね。
「実は二人にもっと実戦経験を積ませようと思っててさ。優秀な回復役を探してたの。元々そこのユアお婆ちゃんと付き合いがあったから、その伝手で貴女を紹介してもらった、って感じ。あ! そう言えばさっき案内のお礼がまだだったか、おかげさまで楽しめたよ。」
「い、いえ。お気になさらず……。し、しかし聖女様への伝手、ですか?」
「あぁそれね。いやちょっとジナちゃん特殊なのよ~。……言っちゃっていい?」
あぁ、あの話? まぁ聖女様が言ってもいいと思うのなら大丈夫ですけど……。お願いだから態度変えないでね? というかタメ口で友人みたいに接してほしいです、はい。
「実はジナちゃんね? 神との対面+神による復活を遂げてる子なのよ。世界が違えば救世主一直線な経歴なのよね。本人が拒否してなかったら普通に聖女一直線だったから……。」
「え”」
「そうそう。だからというか、神の超お気に入りというか、監視対象というか、おもちゃというか……。まぁそんな感じなのよね。だから一応教会としても護衛と言うか、見張りと言うか? そういうのもした方がいいのかな、って。単純に貴女とジナちゃんが合いそうっていうのもあるんだけど。」
そうなんですよねぇ、ほんと。私如きが地球における偉大な救世主様と同じなんて口が裂けても言えないんだけど、列聖されるレベルの恩寵を受けているのは確かなんだよねぇ。扱い間違えたら救世主どころか異端者超えて魔女or悪魔扱いからの処刑一直線だから誰にも言えないんだけどさ。
「こ、この方が次の聖女になられたほうが……?」
「そうもいかないのよねぇ。この子、ウチの神どっちかというと信仰してないのよ。気分的には“以前”の続きなのでしょう、ジナちゃん。」
「あぁ、確かにどっちかというと日本の神道っぽい感じではあるよね。無宗教っていうのがいいのかな? 神の存在は信じてたし、こっち来てから知ってるんだけど、他の人みたいに信仰してるとは言えない感じ?」
「とまぁちょっと特殊な子なのよ。」
「……ぇえ。」
なんかすごいものを見る顔で、こっちを見てくるテクラちゃん。
いや、全員が一人の女神を信仰するのが基本なこの世界で無宗教っていう存在は異物極まりないのは理解できるけど、存在自体を信じられないみたいな感じで見られるのは結構心にダメージが……!
「じゃ! まぁそんな感じでお願いね! ジナちゃんにアルちゃんにマリーナちゃんにテクラちゃん。みんなでダンジョン攻略頑張ってね~。……多分クソ神のせいで色々面倒なことになると思うけど。」
◇◆◇◆◇
そんな不穏なことを最後に言ってきた聖女のお婆ちゃんと別れた後、私達は帝都に戻る馬車へと乗り込んでいた。
勿論テクラちゃんも一緒に。
スカウトした直後にダンジョンに行くんじゃなくて、一回帝都に帰って用意したりお世話になってる人にご挨拶したりした後に向かう予定だったから、一旦テクラちゃんとはさよならする予定だったんだけど……。聖女ちゃんがね? 『どうせならテクラちゃん、帝都も観光して来ちゃいなさいな。あっちの大司教に手紙書いてあげるから!』とのことで一緒に向かう感じになったんだよね。
そんな感じで、聖女様がテクラちゃんと二人きりで話したいことがあったり、彼女の旅の準備とかがあったりしたから少し待ったのは確かだけど、十分予定通りに帰れそうな時間に出発できた。
「あの……、テクラさん? そんな小さい鞄で大丈夫ですか?」
「えぇアルさん。私達聖職者は巡礼の必要もあるので、旅支度は最低限なんです。……あ、これでも多い方ですよ? 多分他の人に見られたらまた陰口叩かれる奴です。」
そう言いながら彼女が抱える、小さな鞄。ちょうどアルぐらいの子供が遠足とかで持って行くレベルの大きさだ。話しぶりからして、帝都までの荷物ではなく、ダンジョンまでそれで行くつもりなのだろう。
初めて会った時は超高級なお酒をラッパ飲みしてたから金使い荒い方なのかと思ってたんだけど、多分趣味にだけ散財してそれ以外は清貧なタイプなんだろうねぇ。聖女のお婆ちゃんが推薦してくれたわけだし、お酒とたばこが関係しなければ真面目な聖職者ってわけか。
「あ! ちなみに多い分はお酒とたばこですね! 私の命……!」
「「「あぁ、うん……。」」」
「すいませんちょっともう吸って良いですか? ヤニ切れて来ちゃいまして。」
「良いけど窓開けてね。」
ニコニコしながら煙草、この前吸ってたシーシャみたいなものじゃなくて、紙巻きの方を取り出し火をつける彼女。一応副流煙とかを気にして魔道具で風の結界を張ってくれているようだが、こちらでも追加でルーンを刻みアルとマリーナの方に煙が行かないようにしておく。
にしてもまぁ、美味しそうに吸うよなぁ。
色々追い詰められてお酒や煙草に依存し始めたってお婆ちゃん言ってたけど、多分本人の気質的に合ってたんだろうね。
……別に悪いとは言わないけど、アルとマリーナが興味持って手を出さないようにお酒と煙草の危険性を授業しておいた方がいいかな? 付き合い方間違えたら体壊しちゃうし。
「にしても……、まさかあの『ビクトリア』殿だとは知りませんでした。」
「あれ、知ってたの?」
「えぇ、今はかけ離れてしまっていますが、剣神祭は元々神事だったんです。優勝者の話題を世間話程度にすることもありましたので、軽く。」
なるほどねぇ。
「そんなお強い方と、そのお弟子さんお二人。その片方は貴族の方だったとは……。あの、マリーナ様。自身は田舎の出でして何かご無礼ありましたら申し訳ございません。」
「畏まらずとも大丈夫ですわテクラさん! 貴女から聖職者としての視点を学べと師に言われているのです! 教えをいただく方に敬語など使われれば困りますもの。それに……、アルも同じ農民の出ですし、ジナ様は……。」
「身元不明の謎多き美女、ってやつだね。……自分で美女とか言うの凄い恥ずかしいけど。」
ヘンリエッタ様主催で行った劇で、ある程度私のバックボーンは語られている。けれどあれはお話なわけで、事実とはかなりかけ離れているのだ。この前マリーナに聞かれてアルにもしたような話せることは話して、それ以外は作り話で逃げたけど……。実際この体がどこの出身だとか、どんな身分だったのかは全く解らないんだよねぇ。
あるのは10年ぐらい前の、奴隷スタートからの記憶だけ。言ってみれば一番私が身分低いんじゃない?
「とまぁそんな感じですので、お好きなように接して頂ければ幸いですわ!」
「ありがとうございます、マリーナさん。アルさんもよろしくお願いしますね?」
「はい、もちろんです!」
うんうん、仲良きことは美しきかな。
初対面がアレだったからちょっと不安だったけど、仲良くなれそうで何よりだね。テクラちゃんも流石聖女見習いと言うべきか、アルたちみたいな年齢の子たちと付き合うの慣れてるみたいだし、色々任せても大丈夫そうだ。
そんなことを考えていると、キュッキュっとボトルの蓋を開けてお酒を飲み始める彼女。
自然な動き過ぎて何も突っ込めなかったが……、ごめん前言撤回していい?
「……というか鞄の中お酒と煙草しか入ってなくないですか?」
「お! よく解りましたねぇ、アルちゃん! そうです! それだけ持ってきました! というかそれ以外要らないです! なんでも数百年前の巡礼者は棒一つで世界中の教会を巡ったと聞きます! つまり私の棒がコレ! んっんっんっ!」
ガラスの瓶に入っていた琥珀色の液体をどんどん口に流し込んでいき、ぷはぁという音と共に広がる酒精の香り。風の結界を突破して香って来るあたり、かなり度の高いものなのだろう。……楽しみ方に文句付ける気はないけどさ、喉焼けない? それ絶対水とかで割って飲む奴じゃん。
「いえいえ! これが良いんですよ! それに喉をやっても回復魔法で治せますから! 全く問題ありませんっ! もちろん聖書にもやっちゃダメって書いてないから合法ですっ!」
「ルールで禁止されてないってだけでしょソレ。」
……でも聖女お婆ちゃんのこと考えたらこれでも可愛い方な気がするんだよなぁ。
あの人いい人ではあるんだけど、色々ぶっ飛んでるハイパーお婆ちゃんだし。なんかお酒周りでも凄い失敗……、神様? なんか【んぁ? アイツの酒絡みの話? 昔地球の神との酒宴に連れてったとき樽一個飲み干して裸踊りしてたぞ。めっちゃ好評だった】……これも墓まで持って行かないといけない話だね。うん。
これまで色々抑圧されてたみたいだし。聖女に色々言われたり、神と初めてやりとりしたりとテクラちゃんにとってかなりビックなイベントが重なったんだ。それから解放されたわけだし、色々弾けちゃうのも仕方ないのかもね。
(ま、とりあえずこれで、ダンジョン攻略のメンバーはそろったわけか。)
帝都に着いたら色々挨拶と準備して、向かうとしますかねぇ。
あ、あっちまで船旅だから酔い止め買っておかないと。
この度、『TS剣闘士は異世界で何を見るか。』がドラゴンノベルズ様から書籍化されることになりました。
6/5発売です。どうかよろしくお願い致します。
(https://www.kadokawa.co.jp/product/322501000520/)
誤字報告いつも大変お世話になっております、励みになります。
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