「お、着いた。」
スキルの転移に身を任してそのまま突っ立っていると足の感触が石から木材に変わっていることに気が付く、どうやら私は素足で店内に転移されたようだ……。え? お店の床汚すんじゃないかって? それは本当にすまない。
光が収まるとそこは何かしらのお店、壁や床は温かみを感じる木材で出来ている。しかしながら台? でいいのだろうか、そこに並べられている商品や棚に載せられた売り物はどれも統一感がない。よく解らない石ころや小麦粉の横に投げナイフが置いてあったりとなんかもうぐちゃぐちゃである。
しかも店番らしき人物が台に突っ伏していびきをかいていらっしゃる。あの謎の石の部屋から脱出できたのはいいとしてすごいところに飛ばされた気がするぞ!
「あとなんかすごい違和感あると思ったら、ここそもそも出入口らしきドアがないじゃないですかもー。これもしかしてスキルでのみの一方通行ですかー。」
「んあ?」
口から漏れでた言葉に反応したのか、先ほどまで寝ていた店員さんが目を擦りながら頭を上げる。起こしてしまったようだ。
「あ~、久しぶりのお客さんじゃん~。いらっしゃい~。」
「ども、お邪魔してます。」
整った顔つきと声の高さ、あとお胸から女性のようだ。頭をすっぽりと隠すお帽子がチャームポイントの金髪ショート店員さんは眠気を振り払うために大きな伸びとあくびを一つ。そのおかげでぱっちりとしたまんまるお目目をこちらに向けながら問いかけてくる。……かわいい。
「見たことないお客さんだからご新規さんかな? 説明いる感じ?」
「お頼み申す!」
「あい分かった!」
何というかかなりノリのよい店員さんのようだ。堅苦しいのはイヤだと魂が叫んでいる気がするので助かる助かる。というかこの人の服装ヤバいな、男だったら完全に目線胸に行くぞこれ、露出ないのにくっきり形は出るセーターみたいなの。さっきの掛け声で揺れてたし。
「ここのお店の名前は『万事屋総合店YOU』! 『ショップ』っていうスキルを持ってる人しか入れない秘密のお店! なんでも買い取るし何でも売ります夢のお店! その日に欲しいものがなくても私に言ってくれれば次の日には入荷しておくから安心! ちなみに私は店長のあなたちゃんでっす!」
「……あなた?」
「うん、あなた。」
「あなたがあなた?」
「あなたがあなたなのであなたです。」
うん、とりあえず私は彼女を呼ぶときは“店長”って呼ぼ。絶対これ揶揄われる奴じゃん。
「というわけでお客さん、何かご入用で? それとも質問?」
「……じゃあ質問。ここ出入口ないような気がするけどもしかしてそのお店のバックヤードの先にあるの?」
「うにゃ、ウチはスキルを使っての行き来しかできないよ。『ショップ』で来るか、転移魔法とかで座標覚えてくるかのどちらか、お帰りも同じ。ま、深く考えないことですです。」
なるほど、このナナシ(名前は勝手に決まった)。深く考えないことは大の得意ですぞ! だって色々考えないといけないことすっ飛ばしてここに来ていますものな! ……というかお話の通りだと私まだあの石の部屋から脱出できてないことになるな。一生このお店に居座るわけにもいかんし。
「あ、そういえばお客さん。お名前は? あとお金持ってます?」
どうしたものかと悩んでいるところ、店主からそのような問いを投げかけられる。とりあえず名前は勝手に決められた“ナナシ”があるとして問題はお金だ。軽くその場で飛び跳ねてみると何の音も発さずに着地する。残念ながら記憶を失う前の私は無一文だったようだ。まぁ『暗視』を手に入れる前体をまさぐったときに硬貨らしきものを所有していないのは分かっていたことだけども。
「……Are you 無一文?」
「……イェア。」
先ほどまで店主の浮かべていたスマイルが急に冷たいものに変わる。温度を計測すれば数百度の差が出てきそうだ。もちろん先ほどが平熱で今が極寒吹雪である。もしこの手に先ほど使用したスキルオーブがあればかなり豪遊出来たのであろうが、オーブが宿していたスキルの判別が出来なかったので考えても仕方ないだろう。使っていなければそもここにはこれなかった訳であるし。
「て、店主? いや店主様? 帰るときはどのようにすればよろしいのでしょうか?」
「『ショップ』のスキルを使えば帰れるよ。あぁ、それとウチはどこの国の硬貨・紙幣でも扱ってるし、買取とかもやってるから今度は何かしら持って来るように!」
「解りました……、かえりま~す。」
「と、言うわけで帰ってきたわけですが! とりあえずまぁこの石の部屋の探索いたしますか。まだ階段の先とか見てないし。」
謎の店から帰ってきて暗闇の中女が一人、仁王立ち。まぁ誰もいないからいいよね? いいですとも。と言うことで早速探索していきましょう! と、言っても今いるこの部屋なんもないですけど。
「台の上とか下はもう見たし、柱の上とか下も目ぼしいものなし! あ、でもこの柱なんか高そうな石使ってる感じするな。何の石かわからんけど。」
と、言うことなので一番の目玉? である階段を上ることに致す。『暗視』のレベルが低いのもあって石の部屋自体細かく&くまなく探せたわけではないけどまぁ一通り見たしね。
それで階段さんなのですが、こちらも石の部屋の壁を形作っていた石のレンガみたいなので出来ているようですな。上に昇るための階段で下がるためのモノはなし、んで上を見ても先は真っ暗なのでどれだけ上がればいいのかもわからぬ。これも『暗視』のレべ……、これはもうやったから飛ばす。
「じゃあ上に昇りまぁ~す!」
てくてく
てくてくテクテク
てく、てく、テク………
「くっっっっっっっっそ! 長いな!! いやココどれだけ深いの!! なんで私そんなところで寝てたん!? ボッチか!? ひきこもりか!? 友達もいないしお外に出るの怖いから地中深くに埋まりに行ったんかいワレェ!? あと記憶もついでになくせばまっさらな女の子の完成ってか? ふざけるな! ふざけるなよ! バカヤロー!!」
階段の段数を数えるのが億劫になり、足で昇るのがしんどくなり、腕の筋肉を使って何とか上り、もう色々なんか耐え切れなくなって叫んじゃった少女! ナナシちゃんでっす! VIT:1という最低値はつれぇぜ!
「というかこれまでずっと階段だけだし、ほんとこれどんな気持ちで私下に下りて行ったんだ? 世界に絶望でもしたんか? それともお外に魔物でも大量発生したんか? もしくは魔法実験失敗して死の土地でもなったんか地上? というかそれだったら出たらヤバいんじゃ……、アダァ!!!」
ブツブツ言いながら虫のように階段を這い上がっていたところ、嘆きを口から出すことに気が行っていたのか、それとも上ることが作業と化していたのかは分からないが、とにかく注意力散漫だったようだ。行き止まりに気が付かず天井に頭をぶつけてしまったようです。痛い。
「ッ~~~~! これ勢い入れてぶつかってたら死んでたじゃんかぁ! ナナシもっと前見ろよぉ! あとなんでちょうど私の手が伸びてるところは何もないのに頭にぶつかるような石があるのさ! 理不尽!」
あ~~、へこむわぁ! 『暗視』のレベル低いからわかりにくかったとしても自分からぶつかりに行くとかマゾじゃないんだし……。って、ん? これもしかして詰んだ? 詰んだ詰んだか? 積み木か?
これまで分かれ道とかなかったわけじゃろ? 階段だけだったわけじゃろ? それでその階段が行き止まりなわけじゃろ? ……あ、終わったな、私。
◇◆◇◆◇
「ってなことがあったんですよ~。」
「なぁ~~にぃ~~! やっちまったな! ……とでも返せばいいの?」
はい! 現在ナナシちゃん『ショップ』の方にお邪魔というか避難しております! だってあのままだと何もできないけんね。STR:2の力で押しても通せんぼする石は全く動きませんしお手上げ! しかも戻ったとしても辿り着く場所は石の台がある部屋のみ! 詰みですわ、詰み!
「まぁ確かにねぇ……。下に降りる労力もバカにならないし、埋まってるということは空気の問題もある。いたずらに酸素減らしてお陀仏になるくらいなら恥を忍んでここにいた方がいいと。」
頬杖を突きながらため息一つ、おそらくだが店主の目の先にはきれいな土下座を決めたナナシちゃんがいることだろう。見よ! これが伝統芸的謝罪だ! 正確には嘆願ですけど!
「何か解決法見つけるまでここに居させてくださいねぇ……。追い返したらその石の部屋とやらで窒息か餓死、そんなの受け入れるしかないじゃん……、あなたちゃん頭の隅に君を放り出したこと残り続けるの嫌だしねぇ。」
「……と、言うことは!」
「まだ期待するのは早いよお客様? とりあえず立ち上がって両手を広げてちょ。」
言われたとおりに立ち上がって体をTの字にする。
「そのままじっとしててね~。」
そう言いながらさっきまでいた台の向こう側から軽やかなジャンプでこちら側へ。わお、すごい跳躍力。そのあと私、というか私の着ていた服を舐めるように見つめる店主さん。うん、このひと“あなた”ってふざけた名乗り(ブーメラン)した人だけど顔がいいな。そんな人がこんなに顔を近づけて私のこと見つめてくるとなると……
うむ! 意識してしまうな! こうやって脳内でふざけてないと変な声が出てしまいそうだ! 顔とか耳とかすっごい熱いぞ!
「ふむふむ……、なるほど? かなりボロってるけど素材はいい感じ? 手入れすれば骨董品として売れるか?」
「え! いいんですか!?」
「……うん、いいよ~。」
おぉ! マジですかい! 今のところ無一文どころか持ち物がこの服ぐらいしかないクソザコナメクジなナナシちゃんかと思ってたけどこの服が活路になるとは! 確かに手触りいいなぁとは思ってたけど!
「じゃあどうする? 買い取りか質に入れるか、聞いた話だと記憶ないんでしょナナシちゃん。名無しだし。だったら手掛かりになるこの服とか置いといたほうがよさげだけど。」
「あ、じゃあそれでオナシャス。」
「了解~。」
あ、そういえば私記憶ない美少女でしたね。ナチュラルに忘れてたぜ☆ ま現状あの石の部屋からの脱出だから忘れてもよくない? よくないか?
「ま、このボロで出してあげられるお値段とかたかが知れてるからかなり甘めに査定、色も付けてあげるから恩を感じちゃってね?」
「アッハイ。」
つまりこのお姉様に貸し一ということだな! まぁ私死ぬの目覚めが悪いとか言ってくれる人だし……、まぁええやろ。して、おいくらぐらいになるんですかね?
「そうだね……。あ、ちなみにウチの店はどんな世界・国の貨幣でも使えるようにポイントで売り買いするお店なの。現金をポイントに変えてお買い物~、って感じね?」
「最初の内は色々戸惑うだろうけどスキル持ちのお客様だし慣れるでしょ、普通じゃ手に入らないようなモノ扱ってるしね? 毎日来たくなるお店です。」
なんか営業始まったぞ?
「と、言うことで今回ナナシちゃんにあげるポイントについて発表……、と行きたいところなんだけど今回は道具の貸し出しって形はどうかな?」
「ほう、道具とな?」
「正確には魔道具ね。ほら魔物から取れる魔石で動く道具、アレね? そのナナシちゃんが今いる石室から脱出できるように便利な道具を貸してあげようと思うの。」
便利な道具、と言いながら店の中を回りながらいくつかの魔道具らしきものを取ってくる店主。腕からはみ出たものを見る限りかなりお高めのものもある気がするんですけど……
「確かに高いよ? でもナナシちゃんが着ている服を買い取ったとして大体1:50ぐらいの差だもん。でもま、このお店お客来ないしね。せっかく来てくれた久しぶりのお客が死んだら困りますから。」
そう言いながらいくつかの魔道具を私の目の前にある台に乗せる店主。なるほど、この恩はたくさん買い物して返せってことだな! 了解した!
「じゃあ説明していきますかね……。一つ目は魔道ドリル、この先端の金属のところが回転して土とか岩とかが掘れる道具だね。鉱山とかで使うやつ、ボタン一つで非力な女性でも簡単に使える優れもの。」
「二つ目はパワーグローブ。STRが10倍になるグローブね、これで重いものとか持ち運びできる。ま、その分動力の魔石のへりが早いから使いすぎ要注意だね。一応代えの魔石三つ付けてあげる。」
「最後に鉱夫のイヤリング。これは風の魔法が込められている道具で呼吸ができない場所で10分間空気を生み出してくれるやつ。勝手に起動して光りだすから安心安全、石室にいるときはずっとつけといて光始めたら安全確保してこっちに戻ってきたらいいよ。魔石取り替えたげる。」
……うん、大盤振る舞いじゃねぇか! ええんか!? ホントにええんか!?
「いいとも! 貸してあげるからちゃんと脱出してたくさん稼いでウチにお金落としていってね!」