【悲報】異世界、人がいない【人類滅亡】   作:Coeろじねら

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Scene.15 咎を圍う

 びゅう、と…一際強い風が吹いたと認識した瞬間。こちらに向かっていたつむじ風が途端に解けた。…これで危機が去ったと思えるほど、お花畑な頭はしていない。

 

 周囲に目をやり、新たな“精霊”の居場所を把握しようとする。緑と黒の魔力はどこだ?右、違う、左、いない、…

 

『…後ろか!』

 

 

 その場から前方へ向けて飛び退く。予想は当たったらしく、件の精霊は私を背後から襲おうとしていたようだ。今まさに、私がいた場所に長大な腕が重さと速さを伴って通り過ぎた。

 

 そして、その主の風貌は……老人だった。

 

 非常の背の高い、豊かな白いひげを蓄えた老人だ。状況が異なれば仙人かとも思っただろう。だが、当然ながら人間ではないとすぐに認識できる。

 

 身の丈は私よりもはるかに高く、おそらく3メートルは下らない。しかしそれにもかかわらず、枯れ木のように痩身だ。素肌をさらした上半身は生きているとは思えないような青白い肌をしており、ところどころコケすらもまとわりついているのが見える。

 

 そして目を引くのが手足だ。人体のバランスとは異なる、膝辺りまで達するであろう長い腕。木の根元のような、およそ歩行には適さないであろうどっしりとした足。それぞれ肘の先、膝の先からの部分が樹木のようなごつごつとした様相を呈しており、両手共に鋭く、そしてあたかも鎌のように長く伸びた凶悪な爪が存在している。

 

 しかし何よりも…その眼が印象的だった。暗い曇り空の下、その赤い双眸だけがぎらぎらと輝き、こちらを見据えている。いや、正確にはそこにあるのは眼ではない。二つの空っぽな()()の中に、揺らめく光が灯っているのだ。そして、そこから感じるのは…怒りだ。

 

 

「九?ょセ偵↓闕芽干繧貞ョウ縺励?∵?縺悟暑莠コ繧貞ア?縺」縺溷ョウ縺吶k閠??縲」

  ≪「貴様らか。徒に草花を害し、我が友を屠った悪魔は。」≫

 

 

 コトさんの同時通訳により、相手の言葉を認識できる。しわがれた声はしかし、深い威厳を感じるものだ。彼はどうやら、弑してしまった水の精霊と懇意であったらしい。私が湖を荒らし、あまつさえともがらを手に掛けた相手となればその怒りは当然の事であろう。

 

 そして、責任は果たさねばならない。

 

 

「むぅん!!」

 

 

 二の手が振るわれる。

 

 頭上からたたきつけるように振り下ろされるその右腕を、私は“跳躍”により右方へ移動し回避する。腕が振り下ろされた瞬間、ドンと地面に負荷がかかり、湿った灰が飛び散った。人が受けたらぺしゃんこ間違いなしの威力に戦慄する。

 

 しかし、どうしたって退くことはできないのだ。したくないのだ。私はコトさんに一言頼み、言葉を翻訳・拡声してもらう。

 

 

『どうか!話を聴いていただけませんか!!』

 

 

 相手に確かに聞こえる大きさのはずだ。訴えに応えてほしいと切に願う。

 だがしかし、彼はこちらへの攻撃の手を止める気は無いらしい。彼の周囲に緑の光が集まっている。…何かする気だ。

 

 

「「 ルドゥ(根よ) 」」

 

 

 彼は音が2重になったかのような特殊な発音で…何らかの言葉を発した。音が響き渡るその瞬間、集まっていた明るい黄緑の光──魔力が地面へと広がり、超常現象(魔法)を引き起こす。

 

 

『っ!?なんだっ!!?』

 

 

 私の周囲、灰で染まった地面がぼこぼこと盛り上がり、褐色の何かが次々と突き出てくる。それはグニャグニャといびつで、見覚えのあるものだ。

 

(樹木の根か!!)

 

 ラクウショウという木がある。湿地に生える針葉樹で、時には水の中から生えていることもある水辺に適応した樹木だ。この木は根を呼吸させるため地面から垂直に突き出すような“気根”を伸ばすのだが……いま目の前に生じたものはそれとよく似た形状をしている。

 

 しかし、これがどういう意味を持つのだろうか?

 

 その答えはすぐにわかることとなる。周囲四方八方から突き出た根は、立ちどころに私へと殺到したのだ。メキメキと音をたてながら ぐん、と一気に伸長し、私を貫かんばかりの勢いで迫る。

 

 咄嗟に回避を試みるが、前後左右からの攻撃に対して取れる手立ては上部への回避のみであった。私は両足で地面を蹴りつけ、迫りくる根の槍を跳び越える。……なんかこの状況覚えがあるな。

 

 既視感を覚えて一瞬の間も無く、再び地面に魔力が迸るのが見えた。

 そして根の槍が ぐい と方向を変え、未だ空中にいる私に対して追撃として新たに急速な伸長を始めた。

 

 

『ああもうやっぱり!!』

 

 

 若干の苛立ちに声を荒げつつ、私はクールタイムの開けた“跳躍”により距離をとる。根の槍の速度からして5メートルほど離れれば次に追撃が来たとしても十分回避可能なはずだ。

 

 

 ざぁ、と風が吹く。

 

 

 私は地面へ着地し、出来る限り最速の動作で精霊を見据えるために視線を動かした。

 

 

(この隙に説得を…って、)

 

≪警告 後方より敵接近≫

 

 

 視界の先、今の今まで地面に手を伸ばしていたはずの精霊が何処にもいない。見上げるほどの巨躯がだ。いくら屈んでいたとはいえ、周囲に遮蔽の無いこの場に置いて見逃すはずがない。そればかりか、コトさんの警告は後方を示して──!?

 

 

『っ!?』

 

 

 動く暇は与えられなかった。コトさんの警告が聞こえたその時、既に私の首に精霊の手が掛かっていたのだ。ざぁざぁと木の葉が舞い散り、緑と黒のつむじ風が渦を巻いている。そこから突き出た腕によって掴まれた私は、そのまま強大な力で拘束され、強引に空中へと持ち上げられた。

 

 

『このっ!!』

 

 

 首を掴む腕に殴るけるでの抵抗を試みるものの、びくともしない。ぎっしりと材の詰まった立木を思い起こさせる強健さだ。

 

 

(駄目だ、抜け出せない。掴まれているから跳躍もできない!)

 

 

 “跳躍”のクールタイムは既に開けている。しかしそれができないのは、この動作があくまで高速移動であるためだ。体が拘束されている状態では身動きできず、そもそも使うことができなくなる。何度も使用している便利な能力だが、これとクールタイムに関してだけは明確な欠点と言えるだろう。

 

 

 追い打ちをかけるがごとく、私の手足も拘束され始めた。視線を向ければ、フジに似た極太の蔓がぐるぐると巻きついて来ている。おそらく、先程の根の槍と同じようなものだろう。少なくとも、私を逃がす気は一切ないらしい。

 

 そして、頭と胸を除く全身が蔓によって拘束されたところで私を掴んでいた腕が離れる。

 

 

「…この程度か?この程度の者に友はやられたというのか!!」

 

 

 彼は慟哭していた。眼窩から涙を流し、長大な両腕を空へと掲げて。

 

 

「どうした、悪魔よ!!友を屠った光を出して見せろ!!」

 

 

 憎悪にあふれた視線が私へと突き刺さる。体を拘束する蔓がギリギリ、パキパキと音をたて、全身がさらに締め上げられる感覚がする。このままでは色々と折れてしまうだろう。しかし、脱出方法は…

 

 …いや、一々逃げているんじゃ駄目だ。

 私がやったことは事実なのだ。ならば、対話するしかない。

 

 

『…あなたの友を殺してしまったのは、事実です。』

 

 

 言葉を発した瞬間、赤い光の色が濃くなり、より一層鮮烈な色となる。同時に彼の身体、そして私を締め上げる蔓から黒い靄が生じ始めた。

 

 

『あまりに過剰な反撃であったことも自覚しています。けれど、』

 

 

 私は、心にある出来る限りの誠意を込めた口調で言葉を発した。諭そうなんて微塵も思っていない。ただ、相手に何があったかを知ってもらおうとして。

 

 

『けれど…!!そうしなければ私は死んでいました。もとより私に戦闘の意思はなく、あなたの朋友が先にこちらを攻撃してきたがために抵抗したのです!!』

 

 

 黒い靄を立ち上らせる彼が私に肉薄し、背を屈ませながらこちらの顔を覗き込んでくる。

 

 

「それがどうした。我が無二の友を屠った事実は消えぬ。」

 

 

 次の瞬間、頭に強い衝撃が走った。拘束され押さえつけられた体は脳天から伝わる衝撃を一切逃してくれず、余韻によって視界がチカチカする。殴られたのだと認識するまでに数秒を要した。経験はなかったのだが、大きな鈍器で殴られたらこのような感覚になるのか。

 

 

「貴様にはここで枯れ果ててもらう。」

 

 

 続けざまに、何度も何度も何度も殴打が繰り返される。 明確な殺意がこもったそれは、頑強であるはずの私の身体を軋ませている。

 

 

≪警告 重度損傷の恐れ 抵抗用の武装を転送開s『駄目だ…!』

 

 

片方の角に、罅が入った。

 

 

…駄目だ。使いたくない。

今、私がどうしても使わねばならない状況なのはわかっている。

 

でも、どうしても、あの武器を使いたくない。

 

 

「 オオオ…!!!! 」

 

 

ばきり。

 

 

振り下ろされた拳が、側頭部から伸びる角の片方をへし折った。

 

 

『う……あ……』

 

 

 強烈な眩暈、平衡感覚の乱れ、嘔吐感が押し寄せてくる。自身の身体を認識した当初、この角はただの飾りだと思っていた…しかし、その実態は通信用のアンテナであるとともに私の平衡感覚維持のための地形情報獲得を行うメインの部分だ。端的に言って、折られると私は強烈な不快感と共にしばらくまともに動けなくなる。

 

 

≪重度の損傷:急速補修開始≫

 

 

 補修機能作動のアナウンスが聞こえるが、焼け石に水だ。

 

 

(やばい…死ぬ…)

 

 

 意識が朦朧としてきた。殴打は止む気配がない。

 

 

「ぬぅ!!なぜだ!!なぜ使わない!!!」

 

 

 べきり、と体が砕ける感覚がした。

 

 

「貴様は友を屠ったのだろう!?焼いたのだろう!?同胞を!!」

 

 

 残るもう片方の角も折れてしまったようだ。

 いよいよもって世界が形を失い、視界が急速に黒く染まり始める。

 

 

「 今更!! 何を!! 躊躇うことがあろうか!!!」

 

 

 

(コトさん…ごめん…)

 

 

 

 自分で打開策を拒否してしまった。

あの武器を使えば、この状況を覆せたのかもしれないというのに。

 

…だが、それでも、私はこれ以上、自らの手でこの世界を壊してしまうのを恐れた。どうしようもなく、恐れてしまった。

 

くだらない、わがままだ。

 

 

 

「「 エムン トル モーリィ(凋落の衝撃)!! 」」

 

 

 

 一際強烈な、確実な殺意のこもった一撃が突き刺さる。

そしてそのまま、私は意識を暗闇へと沈めることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

「…ふん。」

 

 

 他愛もない。アンダインを殺したというのがにわかには信じがたいほどあっさりと気を失いおった。このままさらに締め上げ、引きちぎり、朽ちさせてやろう。

 

 

「「蔓よ(オジム) 絞れ(エスラ) 壊せ(バルクァム)」」

 

 

 権能により仲間たちへ呼びかけ、目の前の異物を残骸にするよう働きかける。ラトゥ(茶藤)の仲間はすぐにも密度を増していき、圧し潰さんと力を籠め始めた。

 

 

 錯乱、白痴、死…得意とする(まじな)いが効かなかったという事実には多少驚きもしたが、なに、締め上げてしまえばいいだけの簡単なことだ。

 

 

 仲間たちがゆっくりと、確実に彼奴の躰を覆い尽くしていき、蔓を絞って圧縮していく。存外頑丈な躰をしているが、巨岩をも数秒で砕くその圧を受けて無事でいられるのは時間の問題だろう。

 

 …ただ一つ気がかりなのは、彼奴の胸…そこから発される違和。生気を感じぬ彼奴の躰の中で、唯一己のものと似た気配を感じた部分だ。それも、ただ似ているのではない。己に宿る権能や魔力とも違う、もっと奥深くの………

 

 

 

 

 

 ──── ≪ 緊急対処プログラム起動 ≫

 

 

 ≪ 相変わらず、仕方のない人ですね。…あなた ≫

 

 

≪ リミッターコード:圍咎:解除 反転コード:草薙:発動 ≫

 

 

         ≪ うふふ ≫

 




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