【悲報】異世界、人がいない【人類滅亡】   作:Coeろじねら

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Scene.16 光の子ら

 

『ん…』

 

 

 視界の端が明るくなる。慣れ親しんだその感覚は、少しの倦怠感と共に意識と体を覚醒させた。のそりと体を起こすと結露してできた朝露がパラパラと体を伝って落ちて行く。一つ伸びをしてみれば、体のあちこちに詰まった汚れが取れるようで心地いい。

 

 

『朝か……って、』

 

 

 私は体のあちこちをまさぐり、損傷がないことを確認する。締め上げられていたはずの身体は開放され、特に傷やへこみといった痕は残っていない。角も両方とも再生している。

 

 

『あれ!?生きてる!!』

 

 

 私は驚愕とも歓喜ともつかぬ声をあげることとなった。

 

 

≪覚醒を確認 損傷修復率:100% おはようございます≫

 

『コトさん!おはよう!』

 

 

 同伴AIも無事で何よりだ。

 

 今度ばかりは本気で死んだと思ったのだが…どうやら無事であるらしい。いや、こんな短期間(この世界で目覚めてからまだ2週間くらい)で何度も死にかけているのが異常なのだが、それはそれとして生きてるって素晴らしい。

 

 …しかしなぜ?あの精霊は私を本気で殺しに来ていたはずだ。見逃してくれるようなそぶりも皆無だったし…

 

 

「…煩い。」

 

 

 肩が跳ねた。非常に聞き覚えのある声だ。

 それも、トラウマ物の体験を私に行った人物…精霊のもの。

 

 視線を巡らせれば、少し離れた位置に小高く積まれた木の葉があった。そしてそれは数秒と経たないうちに風によって撒き上がり、一つ強い風が吹いた次の瞬間にはその場に件の精霊が現れていた。

 

 

『ひっ…すいませんっ。』

 

 

 強面のでめちゃめちゃ背の高い老人がいきなり現れたらどんな反応をしてしまうだろうか。…私はびっくりするし怯む。そしてさらに相手が威圧感満載で来たら…この反応は自然な事だったと思う。

 

 

「…。」

 

 

 当の精霊は現れたその場で座り込み、胡坐をかいてこちらを見つめている。座っていても存在感と威圧感は全く消えないため普通に怖い。しかし、なんだか先の時よりも雰囲気が穏やかになってはいる気がする。…あ、目が赤くない。ていうか光ってない。木の()()そのまんまだ。

 

 

「…おい、何を固まっている。」

 

『え、あ、はい…?』

 

 

 精霊はじっと私を見つめている。…状況から察するに、見逃してやるから改めて謝罪しろとかそういうことなのだろうか。となればやることは単純だ。頭を下げる。

 

 

『えー…この度は貴方様やご朋友様に対して極めて横暴を働いたことを改めて…』

 

「ええい、謝罪など求めておらん!!」

 

 

 怒号にも似た声量に吹き飛ばされるかと思った。

 謝罪でないのならば、私にいったい何を求めているのだろうか。

 

 

「…む、よもや、わしに説明しろというのか。…全く……。」

 

 

 やれやれといった風に首を振っているが、私の頭の中にあるのは終始 ? マークだけだ。未だに状況が理解できていない。彼は一体何のことを言っているのだろうか。

 

 

「ふん…仕方ない。 …此度の一件、貴様を許してやろう。」

 

『…それは、どういった理由からなのでしょうか?』

 

「儂に誤解があったからだ。」

 

 

 そう言うと、彼はどこからか布の塊を取り出した。青と黒で彩色され、ところどころから蔓で編まれた肩掛けが伸びるそれは…私のバッグだ。そして彼はバッグの中から未使用の布を取り出して見せる。…どうやらぐっしょりと濡れてしまっているようだ。

 

 

『それは私の荷物…ですね。』

 

「いいや、そちらではない。これに染み込んだ水の方だ。」

 

 

 次の瞬間、彼は布を小さくまとめて見せるとその両腕で絞り始めた。

 

 

『…?……!!』

 

 

 絞られた布から、じゃばじゃばと水が染み出される。そしてその水は…確かに青い光を放っていることが見て取れた。

 

 

『青い魔力…!もしかして、』

 

 

 言い終わる前に風が吹き、それを基に構成された小さな竜巻が地面へと注がれている水を受け止め、その場に留めた。空中にごく小規模な渦潮が出現していると表現するのが適切だろうか。

 

 

「そうだ。この水は我が友、アンダインの一部だ。体の大部分を失った今となっては、これこそがアンダインの本体ともいえるだろう。…つまり、友は生きていたのだ。」

 

 

 彼は布を絞ることを止め、一度ばさりと布をはためかせると綺麗にたたんでいそいそと私のバッグの中へと戻してくれた。…どうやら几帳面な性格であるらしい。

 

 しかし、しかしだ、これは何よりも朗報と言えよう。

 私が殺してしまったと思っていた水の精霊は…生きていたのだ。

 

 

『よ、よかったぁ…!!』

 

 

 強張っていた体から一気に力が抜ける。本当に取り返しのつかないことをしたと思っていただけに、この安堵感は今この時実に耐えがたかった。

 

 

「…貴様がこの湖を焼いたという事実に変わりはない。友もこれほどまでに小さくなってしまった。」

 

『うっ…』

 

 

 そして、一気に現実に引き戻される。

 はい。そうです。私が焼いたし地形を変えました。

 

 

「貴様にはこの後始末を付けてもらう。それが見逃す条件だ。」

 

 

 ……なるほど。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 場所は変わり、今の私たちは対岸の森…“奏風の森”という名前のその場所で、あるものを探していた。茂みをかき分け、木の根元をじっくりと見まわし、目的のものが無いかと視界を凝らしている。

 

 

「まだ見つからんのか?」

 

『なにぶんまだまだ生き物の知識が足りていないもので……っと!』

 

 

 手を伸ばし、ようやく見つけたそれに飛び込むように手を伸ばす。人の身ではかなり危険な行為だが、今の身体であれば気にせず掴んでしまって大丈夫だ。

 

 

『よし!捕まえた!!』

 

 

 そうして掬い上げる様に拾い上げたのは、以前も道中で見たことのある緑色の粘体…モリスライムだ。森林に生息するスライムで、強酸性の液体で核を包んでいる。表面部分には膜があるらしくただ触れるだけならそこまで危険ではないのだが、中の液体に生物が触れるとたちどころに腐植されてしまい大変危険だ。緩慢な動きの生物だが、待ち伏せしてネズミなどの小動物を捕らえることで糧を得ているらしいことがこれまでの観察でわかっている。

 

 私は茂みから立ち上がり、その成果をこの森を守護する精霊…“ウ・ムル・カド・セナムジィ”、略してムル(じい)さんに見せた。

 

 

「…ふむ。良い質だ。そのまま使えるだろう。…持っておけ。」

 

 

 ムル爺さんはスライムを一瞥して、すぐに次の目的地へと向かい始めた。…せめて容器が欲しいのだけれど、贅沢言ってはいられないので仕方なく余っている布で包んで持ち運ぶことにする。幸い、スライム表面の膜によって液が滲んだりはしないため不都合は無いはずだ。

 

 

『確か次に必要なものは…種でしたか。』

 

 

 スライムをバッグの中へ仕舞った私は、移動を始めたムル爺さんに確認を投げかけながら追従していく。どんどん森の奥の方へ進んでいるものの、移動と同時並行でメモ帳に記録をしているため迷うことは無いはずだ。

 

 

「そうだ。だが、その前にジムダグルの子らに力を借りに行く。」

 

 

 簡素な返事だが、含まれる言葉は難解だ。このご老木が使う言葉には知らない名詞が多い。先ほどのスライムだって「質のいいミズルアシドを捕らえろ」という指示だった。…まぁ当然か。スライムという呼び方は私が前世の知識から勝手につけたものであって、この世界での呼び名ではない。むしろ彼の言う名前こそが適切な呼び名なのだろう。

 

 …ま、それはそれとして今後も私は個人的に覚えやすく呼びやすい名前を付けていくつもりだけど。今しがた彼が言った“ジムダグルの子ら”が何かはわからないものの、取り敢えず彼についていけばわかるだろう。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 10分程度移動したところで、一行の足が止まる。視界の先にあるのは倒木によって生じた()()()()だ。森林と言えば樹木が密に生えていて、薄暗いイメージを持つ人も多いだろう。そしてそれは実際にそうだ。樹木の葉は効率的に陽光を吸収するため、必然的に林内は暗くなる。しかしながら、樹木の寿命や台風などの自然災害によって倒木が発生すると、木の葉という屋根が失われたその場は一気に明るくなるのだ。これをギャップという。

 

 そしてギャップでは日の光を好む植物がよく成長するのだが…

 

 

『おお…幻想的だ…。』

 

 

 明るい陽光の下、小さな光の玉がいくつもふよふよと飛び回っている。大きさはソフトボールほどで、左右に妖精チックな薄い羽が付いているのが見て取れた。明るい緑色、鮮やかなピンク色、眩い黄色…色とりどりの光の玉が宙を舞う光景は実に幻想的で美しい。

 

 

「“ジムダグルの子ら”だ。日の光を糧とし、より小さな仲間たちを育む。」

 

 

 そう言いながら彼は踏み出し、小さな光たちへと近づいていった。

…今のうちに数枚写真を撮っておこう。これはいい記録になる。

 

 

「「子らよ。友の住処を治したい。力を貸しておくれ。」」

 

 

 以前にも聞いた、2重に聞こえる特殊な発音で彼は呼びかけた。道すがら聞いたところ、これは精霊特有の言語であるらしい。残念ながら私では真似できないということまでは教えてくれた。

 

 7,8つの光がムル爺さんへと近づいていき、かれの周囲をくるくると回った。淡く明滅しながら時折早くなったり上下へ浮き沈みするその様子はなんだかはしゃぐ子供のようにも思える。なんだかかわいい。

 

 

「…おい、黒いの。」

 

『あ、はい。なんでしょう。』

 

 

 少し移動しながら写真を撮りつつ、目の前に広がる穏やかな光景に浸っていると、不意に雑なあだ名で呼ばれた。確かに私は全身ほぼ真っ黒だが、もうちょっと他に無いのだろうか。

 

 

「子らが貴様を怖がっている。…なにか捧げて機嫌をとれ。」

 

『えぇ…?』

 

 

 捧げものと言われても…特に持ち合わせなど無い。となるとそこらへんで何か取ってくるべきなのだろうか。…流石に、生贄的とか体の一部をささげるとかそういう猟奇的なモノではないと思いたい。

 

 

『なにを捧げればよいのでしょうか?』

「ふむ…貴様、荷物にミズルアシドの中珠を持っていただろう。」

 

 

 ミズルアシドの中珠。つまりモリスライムの核の事か。

 確かにサンプルとして一つ確保していたな。

 

 

『はい。えっと…これですかね。』

 

 

 私はバッグの中をまさぐり、くすんだ抹茶色のそれを取り出した。大きさはピンポン玉くらいで、触った感触はゴム毬に似ている。…スーパーボールといった方が分かりやすいかもしれない。

 

 

「それを割ってそこの根株に置け。」

 

 

 彼が指差したのはギャップのほぼ真ん中に位置する根株だ。真横に倒木があることから、この倒木の根の部分だろうことが分かる。なかなかの大木だったらしく、目測だが直径50センチはあるように思えた。

 

(割るって、こうかな?)

 

 私はスライムの核に親指の先端を突き刺し、横に割く形で真っ二つにした。感触はやはりゴム毬、あるいは硬いゼリーだ。これをそこの根株に置くと。

 

 私はすたすたとギャップに立ち入り、落ち葉が堆積した根株の上に二つになった核を配置した。特に何も考えず置いたが、これでいいのだろうか。

 

 

「うむ。少し離れろ。」

 

 

 指示に従い、数歩離れる。すると根株の周りに“子ら”が集まり始めた。

 

 

『……おお…!』

 

 

 10…匹?体?人?数え方が分からないが、“子ら”は根株を中心に円陣を組んで時計回りに飛び始めた。ちょっとした儀式みたいに思える。

 

 そしてそんな光景をしばし眺めていると、二つになったスライムの核が淡い光となって消え始めた。これは一体どういう現象なのだろうか。

 

 

≪魔力実体の形象崩壊です 魔力の凝集によって実体を獲得する存在は 死後その空間内の魔力へ時間経過とともに摩耗し還元されるほか 他の魔力実体によって分解されることにより分解が行われます≫

 

 

 なるほど。つまりこれは葬式…あるいは食事に近いものなのだろう。死んだ動物を他の動物が食べて分解するのと似た行為だ。

 

 

「ミズルの中珠は混じり気が多い。だが、それでもしっかりと糧となる。」

 

 

 2通りの方面から説明を受けていると、光となったスライムの核が分割されて“子ら”に吸収されていった。そして、子らはまたふよふよと自由に動き回り始めるかムル爺さんの方へと集まっている。

 

 

「…うむ。子らは供物を受け取り、貴様は信頼を得た。協力してくれるだろう。」

 

 

 彼がまたいくつかの言葉を子らと交わすと、その場にいた9つの子らが空へと飛んで行った。木々の高さを超えた辺りで、彼らは湖の方へ向かって飛んでいく。どうやら向こうで待機してくれるようだ。

 

 

「あとは種だ。良い場所にこの子が案内してくれる。」

 

 

 見れば、ピンク色の子がこの場に留まってゆらゆらと動き回っている。ムル爺さんの言葉から察するに、自分についてこいという意思表示なのだろうか。

 

 

「行くぞ。」

 

『はい。』

 

 

 何であれ、付いていくのが吉だ。私はメモ帳にこの場所を記し、先行する光球を追って再び薄暗い森のなかへと進んでいく。

 

 




評価・感想よろしくお願いいたします。


Tips

ジムダグルの子ら

陽光を糧とする草花の精霊。
幼子程度の知能を持ち、魔力の豊富な明るい場所によく出現する。
物理的な干渉能力は殆ど無く、使える魔法もごく弱い。
しかし草花を健康に育てることに関しては一流。

捧げものをすることで信頼を得られる可能性がある。
捧げもの自体の質は関係なく、捧げものをした人物の性質によって結果が異なる。

見た目はゼ●ダの伝説の妖精
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