【悲報】異世界、人がいない【人類滅亡】   作:Coeろじねら

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やけに戦闘シーンばかり書いている気がします。


Scene.18 黒

 魔力痕を辿ること数分。彼を見つけることができた。

 

 森の奥だというのにやけに立木の少ない、開けた空間で二つの存在が対峙している。片方は長身痩躯の樹木の精霊、ムル爺さんだ。鋭利な爪を長く伸ばし、全身に魔力をたぎらせたその姿は見る者に自然と恐怖を抱かせるほどに威圧的で、完全に臨戦態勢に入っていることが容易に見て取れた。

 

 そしてもう片方は…

 

 

『あれが…黒狗(くろいぬ)…。』

 

 

 一言で言えば、異様だ。

 

 その体躯は犬というにはあまりに歪で、大きい。

 犬というよりはむしろ、人間大の巨大な蚤のように思えた。

 

 …いや、違う。もっと、もっと良くないものだ。

 

 ヒト、そう、ヒトのような何か。背の高いヒトのようなものが四つん這いになっている。しかし、決定的にヒトと異なるのは、胴体と下半身が180度逆を向いているということだ。ブリッジの姿勢で、上半身だけをぐるりと回転させたかのような、明らかにヒトでは不可能な姿勢。

 

 漆黒の甲殻に覆われ、全身から紫がかった黒い靄が立ち上っている。その靄の奥からは、滔々と鮮血のような赤い光が漏れ出ているのが見て取れ、背中と右わき腹の2か所にやけにグロテスクな…鈍い黄色の光を放つ瘤のようなものがある。

 

 そして、さらに恐ろしいことが分かってしまう。

 

 

『 私…? 』

 

 

 …黒狗は、今の私によく似ていた。私とほぼ同等の体躯で、鉱物質の身体。そして、顔面には赤い発光器官があるのみで鼻や目、口といった生物的な部分は存在しない。そう、それは明らかに、私の身体を形作るモノと同様の技術によって成り立っていることが分かるのだ。明確な差異と言えば体色、姿勢…あとはあちらには角が無い程度か。つるりとした頭部は体型も相まってマネキンのようにすら見える。

 

 

≪獲得情報から分析:実体“黒狗”は ギロテクノァ製戦闘用ユニットであると思われます≫

 

『戦闘用…』

 

 

 コトさんの言葉を反芻する。

 

 私の身体が哨戒用、すなわち情報収集とそれを持ち帰るということに特化しているというのは以前に聞いた話だ。それに対して、あちらは戦闘用。つまり、より敵を排除することに重きを置いた機能構成となっていることが予想される。

 

 

(…これ、拙くないか?武装次第では被害規模が…)

 

 

 頭に過るのは、あのエネルギー砲だ。戦闘用ということは、ああいう超兵器が平然と搭載されていても不思議じゃない。もしもあれをところかまわず使われたとしたら…甚大な被害が出るだろう。

 

 心に危惧を抱きながら、彼らの様子を食い入るように見つめる。どうやら既に戦闘は始まっているようで、激しく何かがぶつかり合うような衝撃音が響いてきた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「「落枝の(ベルジェン)──

 

 

 仲間に協力を呼びかけ、風と共に枝葉を集めていく。森の仲間たちは、須らくこの敵を倒すために力を貸してくれる。今までにも数多くの同胞が奴らによって弑されてきたのだ。ここからそう遠くない場所には未だに種が芽吹かぬ土地すらもある。今この場で撃滅せねば、さらなる被害が生じるだろう。

 

 

 ──棘弾(ニドゥ)!!」」

 

 

 無数に集う枝葉の一つ一つに素早く破裂の呪いをかけ、目の前の邪悪に向かい投げつけた。解き放たれる暴風と共に枝葉は猛烈な勢いで砕け、数百数千もの微細な槍となって襲い掛かる。命中すれば肉を削ぎ、繊維を断ち切り、組織を破壊する。動物であれば多量の出血を、岩のような無機物であっても一度傷が付けばそこから数多の棘が食い込み穿っていく代物だ。

 

 だがしかし、そうはならなかった。

 

 

≪ … ≫

 

 

 奴は放った攻撃に対して、あろうことか真正面から飛び込んできた。しかしながら、様子がおかしい。枝葉の破裂音から、呪いは確かに発動しているはずだ。にもかかわらず、敵が砕ける音が聞こえてこない。

 

 

 そして次の瞬間、暴風を何事もなかったかのように突っ切る奴の姿がそこにあった。

 

 

 粘つく悍ましい瘴気をまき散らしながら、その黒いモノは駆けてくる。奴は今まで潰してきたどの黒狗よりも大きく、素早い。その姿はつい先ほどまで行動を共にしていた()()()()()()()に似ているが、その内は似ても似つかない。話をした時間こそ短いが、あの間抜けはただの物知らずだ。力を有しているが、それを無暗に振るうような狂猛な存在ではない。()()()()を加味したとしても──同胞を焼いたことは実に腹立たしいことだが──危険ではないと判断できた。

 

 

 それに対し、この存在はなんだ。

 

 

 内にあるのは底知れぬ敵対心と…それと相反する空漠だ。生きるため、あるいは何かに対する憎しみのため…などといった情動は感じられず、ただただ他を脅かすという意思がそこにある。それも奇怪なことに、その身の内にあたかも二つの意思が宿っているかのようにくっきりと敵意と空漠が分かたれているのだ。実に気色が悪い。少なくとも野放しにしていていい代物ではないのは一目瞭然だ。しかし…

 

 

「むぅ…!!効かんか…!!」

 

 

 奴は傷一つない体で向かってくるではないか。今まで潰してきた黒狗どもよりも明らかに厄介だ。

 

 “落枝の棘弾”は己が使える術の中では威力に重きを置いている。それが真正面から打ち破られたのは厄介だ。これ以上の術は仲間たちへの負担も大きい…それに、容易に打ち破られてしまったことからして1回の発動で倒せるとも思えない。とすれば、残るは絡め手か、あるいは術を使わずに仕留めるかか。

 

 奴との距離はおよそ黄蝋樹2本*1。風になれば容易に近づけるだろう。しかし、奴は四足だ。足が武器と見た。ただ近づくだけでは逃げられてしまいかねん。ならば、あの間抜けと同じように意を引き付け、手足を封じてしまえばいい。

 

 

「「根よ(ルドゥ)!!」」

 

 

 呼びかけに答えた木々が黒狗に向け、地下から根を伸ばしていく。そして地上へと突き出した幾本ものたくましい根は檻となって奴を覆いはじめる。

 

 だがしかし、そこまで甘い相手ではないのは分かっている。奴は地面から突き出た根をするすると搔い潜り歩みを始めた。複雑に絡む檻の間を滑るようにして抜けてくるその様子はこの世のものとは思えない不気味さを感じるものだ。この程度では注意を惹き付けるどころか多少の足止めにもならんか。

 

 ならば、足の踏み場を無くせばどうだ?

 

 

「「蔓海の新生(オジエバル・イクシャァ)!!」」

 

 

 長く伸びる仲間…茶藤たちに対し、この一帯を覆い尽くすよう呼びかける。彼らは繁茂する力に長けているため、権能を行使し手伝ってやれば一瞬でここを埋め尽くすだろう。

 

 すぐさま地表にいくつもの蔓が蔓延り、ざわざわと、奴の足をからめとろうと蠢き揺らめいていく。これから逃れようとして蔓を千切ろうとも、彼らはそこから新たに根を出し増えることができる。容易く逃れることは不可能だ。

 

 

(どうだ。いくら迅くとも地表全てが我らの仲間だ。逃しはしない……何?)

 

 

 黒狗が消えた。

 

 音もなく、前触れもなく、ただただ唐突にその場からいなくなる。

 逃亡か?いや、これは…

 

(あやつと同じ、消える移動か!)

 

 あの間抜けは蔓にとらわれまいとして宙へと逃げ、その時消えるように位置を変えたときがあったことを思い出す。あのときはその後の隙をついて捕らえることができた。ならば、此度もあと隙があるはずだ。どこだ?どこに移動した?

 

 周囲に意識を巡らせるが、足音がしない。ならば、樹上か?

 いや、仲間は誰も声をあげていな────

 

 

 ──── 熱い 

 

 

 右の肩口から左の脇腹へ、一筋の光の線が貫いた。事前に幾重にも施していた守りの術は全て打ち砕かれ、躰が焼けていく痛みが思考を支配する。

 

 

「ぐお、おぉああ…!?」

 

 

 体の内側に火が点き、耐えがたい熱さに悶える。光の照射はたった数秒の出来事であったが、しかしそれで十分だった。己の身体はそれだけで、抵抗の力を失ってしまった。

 

 

「あぁっ…!?」

 

 

 光自体はすぐに止んだが、炭化した体は激しく痛み続けている。さらには己を構成する魔力すらも削られたらしい。動くための力が無くなり、全身の動きが緩慢になっていく。

 

 そして、奴は再び姿を現した。

 

 樹冠を超えた上方から、空中を歩いて降りてくる。その足には黒い靄がまとわりつき、何もないはずの空中に足場を作りだしているようだ。

 

 

(…間抜けと同じと思ったが、こやつはさらに…!!)

 

 

 音も立てず、ただただ無感情にこちらへ向かってくる黒狗の様子は、あたかも罠にかかった獲物を捕らえんとする蜘蛛のようだ。こちらの様子を伺いながらも、しかし確実に仕留めんとする意思が見えた。

 

 

「…ついに、大地へ還る時が来たか…!!」

 

 

 慢心がたたり、魔力を削がれてしまったせいで挽回のための大術は…使えてあと1回が限度だろう。しかし、迷っている暇はない。心中で仲間たちへ謝り、持てる限りの権能を行使し、己諸共周囲全てを飲み込む最大術を発動せんとして──────

 

 

 

『うおおおぉぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!』

 

 

 

 大莫迦者が飛び込んできた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 気付けば駆けだしていた。

 

 草木をかき分け、茂みを跳び越え、木立の隙間目掛けて一直線に“跳躍”する。そうして躍り出たそこには、肩口から脇腹まで焼け焦げ煙を上げている樹霊と、空中にへばりつく不気味な…私によく似た存在がいる。

 

 

『うおおおぉぁぁぁぁぁああ!!!!!!!!』

 

 

 必死に声を張り上げ、黒狗を威嚇して見せる。効果があるとは到底思えない。しかし、それでもいいのだ。これは私自身に対する鼓舞でもあるのだから。

 

 私はバッグから取り出していた超硬質ナイフを右手で握りしめ、空中にいる敵を睨みつけた。刃の大きさは三徳包丁よりやや大きい程度。大変心もとないが、しかし無いよりよほどましだった。

 

 正直、自分でも馬鹿なことをしていると思う。けれども、自分の目の前で、今まさに知り合った人が殺されそうになっているのを…黙ってみていられるような性分ではなかったのだ。

 

 

≪ …!… ≫

 

 

 そんな私を見るや否や、黒狗は両肩口からガシャリと黒色の四角柱を伸ばした。その側面には赤い光を放つラインが走っており、先端は私へと向けられている。非常に既視感のある物体だ。

 

 

≪警告 照準を検知 高エネルギーの集中を確認 防御を推奨します≫

 

 

 それを認識できた瞬間、私はすぐさま左手に持っていたものを広げて自身と、背後にいるムル爺さんを覆った。

 

 次の瞬間、閃光により カッ と周囲が明るくなり、バチバチという火花と衝撃音が混ざった音が鳴り響く。黒狗が銃撃を行ったのだ。

 

 

『…よしっ!!』

 

 

 心の中でガッツポーズを決める。

 

 今まで戦闘の一部始終を見ていたことから、奴が私と同じように跳躍できること…そして強力な火器…威力と規模からして、コトさん曰く“ライフル”をも有していることは分かっていた。故に、対策も出来ていた。

 

 イェルマスで回収した布には表面に強力な磁場を発生させ、敵からの攻撃を防御する機能がある。実に指向性エネルギーライフルであれば4発まで耐えられるということから、あらかじめ取り出しておいたのだ。果たしてその判断は正しかったと言える。現に、黒狗の攻撃を無傷で防いで見せたのだから。

 

 

≪ 敵ユニット 砲身変形を開始 ≫

 

『ムルさん!!今のうちになんとか逃げて!!』

 

 

 アナウンスも半ばに、私は布を背後のムル爺さんへ向けて放った。相手には私のことを十分に印象付けられたはず。このまま攻撃の対象を私へと誘導していこう。ムル爺さんをかばい続けるのは困難。故に、可能かどうかわからないができればこの場から退いてほしかった。

 

 バッグにさらにしまっていた布を取り出しながら、ちらと彼の様子を伺う。彼は苦痛に顔を歪ませていたが、小さく頷くと風になってその場を後にした。それと同時に、今まで地面を覆っていた藤蔓も引いていく。

 

 

≪ 次弾発射まで推定約5秒 外観よりさらに貫通性能を高めたものと推測 ≫

 

『一対一。』

 

 

 ドスン と黒狗が地面へと着地した。彼我の距離はおよそ6メートル。両肩にある銃は既に変形しきっており、より細い形状となっていた。いかにもこちらの守りを貫通して撃ち抜こうと言わんばかりだ。これは布一枚では防げないかもしれない。幸い布大きさは充分…いや、攻撃の方向はもう決まっている。ならば…

 

 

『…やるんだ。』

 

 

 心臓の代わりに、胸中の動力源から全身に向かってエネルギーが注がれる感覚がする。いつもよりやや過剰なそれは、いわば心臓が早鐘を打っているようなものなのだろう。しんと静まり返ったこの空間で、双方の駆動音だけが聞こえてくる。

 

 

 …………。

 

 

≪ …!… ≫

 

 

 火花が散る。

 

 

 先手を取ったのは黒狗だった。右肩から放たれた一筋の光が外套越しに私へ着弾する。激しく火花が散り、念のためと体を覆える面積を減らして3重にした布越しであるにも関わらず、加熱された薬缶に触れたかのような本能的に触れてはならない熱さを感じる。このまま受け続けては拙い。

 

 

『っ!!こなくそぉおお!!』

 

 

 私は必死に体を捻り、布の作用と合わせて何とか光線を逸らすことに成功する。残りの光線が通り過ぎ、森をの木々を貫通していった。散らされた光線が当たったせいか、地面すらも焼け焦げ独特の匂いが立ち上る。

 

 何とか受け流すことにした。しかしながら、ここで頼みの綱であった布は焼け焦げてしまった。その機能の大半を失ってしまったことを悟り、私は布を放棄して駆けだす。

 

 黒狗は既に態勢を変え、左肩の銃口を私へと向けている。

 そして、銃口に光が集約したその時────

 

 

『そこだぁぁあああッッ!!!!!』

 

 

 私は“跳躍”した。

 

 光が解き放たれるその数コンマと無い瞬間を狙い、黒狗の左真横へと。銃撃の仕様を利用して。私は体感していたのだ。銃撃の際に、ほんの一瞬だけ体が硬直するということを。そのほんの一瞬の隙に、懐へと至ったのだ。

 

 そしてそのまま、右手のナイフを背中の瘤…()()()()()()()に目掛けて突き刺した。

 

 

≪ …!!… ≫

 

 

 途端にそれは破裂し、黒い靄となって周囲に霧散した。黒狗はもだえ苦しむような様子を見せ、効果があったことを私は認識する。しかしながら、ナイフを突き刺す際に全体重を込めたことと、瘤の霧散により支えがなくなったこと、そして…動揺により、私はバランスを崩してしまった。

 

 すぐさま立て直し、二つ目の瘤を破壊しようとナイフを突き出すも──―空を切ることになる。黒狗が跳躍したためだ。ダッシュしても到底届かないほど距離をとられてしまい、チャンスを逃したことを悟る。

 

 

(くそっ…!仕留めきれなかった…!!)

 

 

 自分の力不足に心中で歯嚙みする。もはや先と同じ先方は通じないと見た方がいい。なぜなら、()()()()()()()()A()I()()()()()()()()()らしいからだ。コトさんのような情報の統制や管理に長けるものではなく、より洗練された戦闘をこなすための自己進化を行うAI。戦闘で得た経験から学習し、敵の奇襲へも対処できるようになってしまう。

 

 あのタイミングで仕留めそこなってしまったのは痛恨だった。2度目が通じるような相手とは思えない。どうすれば…

 

 

≪ …テッタイ… ≫

 

 

 …焦る私を他所に、黒狗は踵を返してその場から逃走を始めた。

 

 

『逃げっ!?待っ…!!』

 

 

 咄嗟に手を伸ばしても、意味は無い。

 黒狗は脱兎のごとく木立の間を抜け去ってしまったのだった。

 

*1
約10メートル




評価・感想よろしくお願いいたします。
作者が浮きます。

Tips

ムルが使用する“呪い”や“術”は精霊版の魔法。
普通の魔法との違いはフロムゲーで言う知力と信仰どっちを使っているかくらいの差。精霊のは信仰。
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