【悲報】異世界、人がいない【人類滅亡】   作:Coeろじねら

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描写不足だと感じたためScene.14の最後の方を加筆修正しました。

緑と黒の魔力反応→緑色系統と黒色の魔力反応


Scene.19 泉

 

 昼過ぎの木漏れ日が差す空間にそよ風が吹き、さらさらと木の葉が擦れる音が聞こえる。湿った清浄な空気が硬い肌を撫で、先の戦闘により付着した煙の臭いを取り去っていく。視線を動かせば、透き通った水が仄かに虹色の光を放っているのが見えた。

 

 とても心地良い空間だ。ついつい写真を撮ってしまう。

 

 私たちは黒狗を退けた後、ベティの案内により泉へと到着していた。ここは当初、湖に撒く種を手に入れるための場所として目的地に定めていたところだ。泉の大きさは私が両腕を広げて…2.5人分くらい?の直径がある。予期せぬ遭遇により横道にそれてしまったが、何とかたどり着いたのだ。

 

 

『ムルさん、大丈夫ですか?』

 

 

 泉のほとりに腰掛ける樹霊に容体を問う。黒狗のライフルで体を貫かれてしまった彼は、傍から見ても重傷を負ってしまっていた。なにせ右肩から左脇腹まで穴が開いているのである。しかも、本人曰く魔力をごっそりそがれてしまったらしく、端的に言ってものすごくしんどい状態であるらしい。

 

 

「ああ…多少はマシになった。だが、まだしばらくは動けん…。」

 

 

 現在はとりあえず、泉の水を吸い上げ回復に努めている状態だ。私たちが泉に着いたとき彼は一足先に到着していて地面へ突っ伏し顔を泉へ突っ込んでいた。傍から見たら溺死しているようにしか見えないそのあまりの絵面に、大慌てで泉から彼を引き上げることになったのだが…どうやら彼にとっては魔力と水分の補充のためにはあの姿勢が最適であるらしかった。思いっきり脱力したのは言うまでもない。足からじゃないのかよ。

 

 …まぁそれはさておき、彼が十全に動けるようになるまではまだ相当時間がかかる様子だ。今のうちにパパっと種とやらを集めてしまおう。

 

 

『えっと…ヒシっぽいやつ、ミソハギっぽいやつ、セリ系の香りがするやつ…あとこの食虫植物っぽいやつもか。見た目からしてモウセンゴケかな?』

 

 

 手帳を取り出し、メモした植物たちが生えているか確認していく。これは道中でムル爺さんに特徴を教えてもらったものだ。今読み上げた4種以外にも色々と書かれているのだが、取り敢えず特に成長が早いこの4種を中心に集めればいいとのことだった。

 

 幸いなことに、この世界の植物は基本的に前世のものと生態がほぼ一致しているため、特徴さえつかめればあとはこれだろうと判断していくことができる。

 

 

『これと…これ、そこにあるのもだ。』

 

 

 さすがは森の精霊といったところか、ムル爺さんの植物に対する説明は非常に的を射ていた。4種それぞれの葉や茎の形状、あるいは見分けやすいポイント(毛や棘が生えている、葉に斑点があるなど)を詳しく教えてくれたため発見に困ることは無かった。

 

 しかし、ある一点において問題がある。

 

 

『…でも、この植物みんな種をつけていない…というか、花すらまだつけていないんだけど。』

 

 

 そう、肝心な種を付けている植物がいないのだ。今の時期は四季で言うとおそらく春に該当し、草木が芽吹き成長するタイミング。そもそも種をつけるまでに成長している植物の方が少数なのである。これでは種の確保というより植物を掘り出して移植するしか手が無いのではなかろうか。…まさか種ができるまで待てとは言うまい。

 

 どうしたものかと腕を組んだところ、ふよふよとベティが飛んできた。そして目的の植物たちの上をくるくると回りながら通り過ぎて…光の粒子を撒いていく。すごくキラキラしているけどそれは一体なんなのだろうか。

 

 

 しばらくその様子を眺めていると、突如として植物たちがにょきにょきと伸長を始めた。葉茎をのばし、周りの植物を押しのけながらにょきにょきと。そして花をつけ咲かせた段階に至ってその急激な成長はストップする。

 

 

『おお~!すごいすごい!!』

 

 

 思わず拍手してしまう。とても面白い現象だ。タイムラプス映像を限界以上に滑らかにしたかのようなその光景に感嘆の意を抑えられない。これはベティの魔法なのだろうか。

 

 

≪植物成長促進 緑色系統魔法の一つです 主に魔力保有植物に由来する精霊種が行使し 植物を急速成長させます 人類種で使用できる者は極めて希少であったとされています≫

 

 

 すかさずコトさんが魔法に関する説明をしてくれた。草木の精霊が使える魔法なのか。もしも前世にこの魔法があったら…農家がものすごい大助かりしただろうなと思う。もしも農民がこの魔法を使えたならば無双できるのではなかろうか。…あいや、土地の栄養が枯渇するか。

 

 

『成長は花まで…ってことは、受粉は私たちがやらないとなのかな。』

 

 

 植物が種子をつけるには基本的に受粉の工程が必要となる。中には自家受粉と言って自分の花粉で種を作れてしまうものもあるが、普通は風や虫によって花粉を運んでもらうことで繁殖が行われるのだ。

 

 周囲を見回すと、ちょっとした花畑のような様相になっている。数十数百の花があるとみていいだろう。…これらを手作業で受粉させるのか。

 

 

「子らは育てることは得意だ。だが、種を作らせることはできん。どれ、儂が風を起こして…」

 

『いえいえ、ムルさんはまだ休んでいてください。ちょっと数が多いですけど…時間を掛ければやれないこともないと思います。』

 

 

 重傷の老人に鞭打つような行為はするべきではない。ここは時間こそかかってしまうが私に任せてもらおう。なに、花の構造には前世と大した差は無いはずだ。一つ花をとって他の花に花粉を付けて行けばいい。

 

 …花の茎を掴んだところでふと思い至る。これって花を手折ったりしてもいいのだろうか。ムルさんからすれば植物仲間だし傷つけるのは良くないか…?

 

 そう思い彼に視線を送ってみると、

 

 

「…うん?……ああ、気にするな。無暗に焼いたりしなければ構わん。」

 

 

 私の意図を察してくれたのか答えが返ってくる。逡巡する私の様子を見て判断してくれたのだろう。…無暗に焼いてしまった前科があるから何を迷っているかも一目瞭然だったのかもしれない。

 

 

『ありがとうございます。…では失礼して。』

 

 

 赤みの強いピンク色の花を ぷちっ と摘み取る。ミソハギとよく似たその花は、香りはしないが立ち姿が優雅で美しい。一つの茎に小さい花がたくさんついているので、左右に振りながら他の花に擦り付けて行けばいい感じに受粉させられるはずだ。

 

 

『……。』

 

 

 無心で花で花を撫で繰り回していく。ちょっと乱雑にやるくらいがしっかり花粉が付いてくれるので、そこだけ意識してあとはひたすら繰り返しだ。途中で新しい花を摘み取ったりもしてなるべく多くの花に受粉させていく…。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 2時間後。

 

 

『終わったぁ…。』

 

 

 安堵と達成感のこもった言葉が自然と漏れ出た。

 時刻は日暮れ直前。もうそろそろ空が暗くなってくる時間だ。

 

 持っていた花を地面へとそっと置き、作業の成果を見回す。まぁ全体を見ても花の見た目に大きな変化は無いのだが、とにかく泉の周りに生えていた草花の受粉は完了したはずだ。

 

 

『モウセンゴケが一番大変だったな…。』

 

 

 背が高くて花がたくさんついている花は多少乱雑な作業でもなんとかなったのだが、モウセンゴケ(仮称)は背が低く草むらをかき分けて探す必要がある上に、一株ごとの感覚が離れていたりしたため探すのに骨が折れた。…しかし、これも湖再生のため。できるだけ多くの種を得るために徹底的に作業して見せたのだ。ふふん。

 

 達成感に浸っていると、これまでムル爺さんの傍で遊んでいたベティが飛んでくる。そして再びキラキラと魔法を振りまいていくと、私が受粉させた花々が次々と実や種鞘を形成していく。

 

 ………大量に。待って、トラックが必要なくらい種できちゃってない?

 

 ちょっとやりすぎたかもしれない。いくら何でも種が豊作すぎる気がする。泉の周りにあった花全部を受粉させたのは過剰だったか。

 

 

「…うむ。ちと多いがいい成果だろう。」

 

 

 私が内心で少し焦っていると、起き上がったムル爺さんが声を掛けてきた。焼けてしまった体はもはや再生しないらしく、傷が癒えたとは到底呼べない状態だが、それでも戦闘直後より多少はマシになっているらしい。

 

 

『動いても大丈夫なんですか?』

 

「ああ、まだ痛みはするが、泉の魔力で少しは和らいだ。なに、これからの作業に不都合はない。」

 

『そうですか…無理はなさらないでくださいね。』

 

「ああ、ああ。わかっておる。」

 

 

 彼は重そうな足取りでゆっくりと歩を進め、左腕を前へと突き出した。すると彼の左腕は木の葉を纏った風に変化し、泉へと向かっていく。

 

 

「「落果(メシス)」」

 

 

 彼が呪文を唱えると、種を付けた泉周辺の草花がざわざわと一斉に揺れ出す。そして実った種がパラパラと落ち始め、風の腕によって空中へと撒き上がった。…量が多すぎて米袋の中身をぶちまけたみたいになっているのだけど大丈夫なのだろうか。

 

 

「「浪者の腕荷(ワンデラ・ヴェサクルム)」」

 

 

 そんな心配を他所に、彼が先程とは違う呪文を唱えた。すると空中に舞い上がっていた大量の種子が風によって集められ、次の瞬間には両手で抱えるくらいの大きさの球体状にまとまってしまった。しかもそれは落ちて来たりもせず、すいすいとムル爺さんのもとまで飛んできてそのまま空中で停止した。

 

 

(空中の細かな粒を全部集めて運べるって…つくづく魔法は便利だなぁ…。)

 

 

 私に使えないものだとは理解しつつも、そうは言ってもロマンがあってあこがれるものだ。…魔法が込められた道具とかはないのかな?もしあったら魔力の無い私でも使えたりして…。

 

 

「では、これを湖へと持っていくぞ。」

 

 

 妄想の世界の入り口に立っていたところで、移動の声によって現実に引き返す。見れば既にムル爺さんは森を進み始めており、彼が荷物を運んでいなければ見失ってしまいかねない程度には奥へと行ってしまっていた。

 

 

『おっと、今行きます!』

 

 

 ガサガサと茂みを突っ切って彼についていく。人にとって都合よく整備された前世の森林と違い、下草狩りや間伐・除伐など一切されていないこの世界の森を進むのはなかなか大変だ。足の踏み場があるとしたらそれはほぼ例外なく獣道ってくらい。幸い肌に枝やら毒虫やらなんやらが刺さるようなことが無くなったため、汚れることさえ気にしなければ茂みをそのまま突っ切っていける。

 

 しかしそんな私とは対照的に、ムル爺さんは木々をすり抜けるようにすいすいと移動していく。流石は森の精霊だ。きっと木々の上手な避け方とかを熟知しているのだろう。

 

 

「…日が暮れる。子らをずいぶん待たせてしまった。足を速めるぞ。」

 

 

 そして彼は答える間も無く風が木立を通り過ぎるように…ていうか実際に風に変化して高速で移動を始めた。今更ながら森の精霊なのに樹木の魔法だけじゃなく風の魔法も得意なのが不思議だ。

 

 

『はい。どんどん進んじゃってください。』

 

 

 復路のルートは記録してある。例え彼を見失っても迷うことは無いだろう。

 

 私は踏み込みを強め、跳躍しながら日暮れの森を進んでいく。

 

 




感想・評価よろしくお願いいたします。



Tips

ウ・ムル・カド・セナムジィ(ムル、ムル爺)

アクリョウカエデの森で生まれた古い森の精霊。この場合“森の精霊”は周辺一帯の森を支配する精霊の事であり、種族分類ではない。種族自体は実は風の精霊である。木立の間を吹き抜ける風から生まれた。

生命を司る緑(黄緑)の魔法と呪いを司る黒の魔法を得意とする。
緑の魔法では主に植物を操ることができ、成長促進や病気の治療などが行える。精霊種特有の魔法であり、

黒の魔法では対象となった存在に狂気を与えたり呪死させたりできる。ただし主人公や黒狗は生命体ではないため直接的な効果は無かった。


補足として風の魔力は青緑色。(描写不足)
魔力の色は多岐にわたるため系統が近いと似通った色となってしまう。
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