懐かしき日々へ(デルフィニア戦記・暁の天使たち他)   作:shellfish

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第百十二話:恋人たち

「てめぇリィ!何寝言ほざいてやがる!俺は、百歩譲ってウォルがお前の嫁になるのを認めても、こんな得体の知れねぇ蛇野郎の嫁になんて、死んでも認めねぇぞ!」

 

 インユェが牙を剥きながら叫べば、

 

「リィ、正気ですか!?陛下に、よりにもよってこの人非人の嫁になれとは、貴方に人の心とかはないのですか!?」

 

 シェラも、普段の沈着冷静さをかなぐり捨ててそう嘆く。

 夜更けの病室は今が正しく修羅場そのものであったが、突然花婿にされかかっている青年は、平然とした調子で、隣に腰掛けた黒髪の青年に問う。

 

「なぁヴァッツ。俺ってもしかして結構嫌われてたりする?」

「この様子だと、結構程度で済めば御の字だな」

 

 ヴァンツァーの冷静な指摘に、憮然としたレティシアであった。

 そして、驚天動地の提案をした本人であるリィは、不思議そうに首を傾げ、

 

「でもさ、それが一番手っ取り早いだろう?レティシアはウォルを狙わずに済む正当な理由ができるし、殺し合いとは違うけどウォルと親密になれるわけだから、それなりに楽しいと思う。ウォルだって、こんな厄介なやつから四六時中狙われることを考えたら、ちょっと一緒にいちゃいちゃするくらい許容の範囲じゃないか」

 

 無邪気な様子でそう返す。

 事の重大さを理解しているとは思えないその様子に毒気を抜かれたのか、インユェとシェラは黙ってしまったが、今度は張本人であるウォルが、当たり前のことではあるが猛烈に異を唱える。

 

「おいリィ、確かにおれはこの男と和解をしたが、それとこれとは全く別の話だぞ!結婚など断固拒否する!」

「じゃあウォル、黒すけの方が好みか?」

 

 平然とそう言って、ヴァンツァーの方を指さす。

 これには流石のウォルもがっくり肩を落としたが、指さされたヴァンツァーは、蛇蝎長虫の類をまとめて踊り食いしろと命じられたよりも顔を顰め、

 

「王妃、このくだらん騒動に俺を巻き込むな。無論、絶対にごめんだ」

 

 この男には珍しく、力強く断言した。

 リィは頷き、

 

「だと思った。それともシェラ、お前、ウォルを嫁にもらってくれるか?」

 

 まるで行き遅れの娘の嫁ぎ先を探す父親のようなリィの台詞である。

そして、多分次は自分の番だろうと予想はしていたが、いざ名指しされたシェラは、恐ろしいやら恐れ多いやらで言葉を失い、顔を青くして首を横に振るばかりである。

 二人の反応は予想通りだったらしいリィは一つ頷いてからウォルの方を向きなおり、

 

「なっ?やっぱり消去法でレティしかいないんだって」

「消去法で人の結婚を決めてほしくねぇなぁ」

 

 レティシアの、当然と言えば当然の嘆きは、当然の如く無視される。

 

「それにさ、ウォル、お前、アイドルを目指してるんだろ?」

「……どうしてここでその話が出てくる?」

 

 訝しむウォルの質問にリィは一つ頷き、

 

「お前がさ、おれたちと同じで『目指せ一般市民』で、例えばここにいる連中やケリーやジャスミンみたいに腕っぷしの強い人間とだけ縁を結ぶならともかく、アイドルを目指せば、そうじゃない人たちとも親交を深めることになるよな」

「……それはそうだろう」

 

 ウォルの頭に浮かんだのは、自分がTBSBに入局するきっかけとなった線の細い青年──ノーマンや、彼に紹介されたTBSBのスタッフたちの顔である。

 

「あっちの世界で、おれがこいつに狙われてた時のことを覚えているか?」

「無論だ。一瞬足りとて忘れたことはない」

「じゃあ、ポーラの従者だったレナって子がレティに殺された時のことは?それに、シャーミアンが攫われた時のことは?」

 

 ウォルははっとした。

 リィは真剣な表情で頷く。

 

「レティは、普段はこんな調子だから忘れそうになるけど、一度依頼を受けたら他人には容赦しない。お前の周りの人間全てが、お前を仕留めるための罠として危険に晒される。それくらいのこと、こいつは顔色一つ変えずにやるぞ」

「言うまでもねぇやな。それが俺らのやり方だし、何より成功率が高いし楽なんだ、身近な人間を囮に使うのが。鮎の友釣りみたいなもんかね?」

 

 リィの恐るべき言葉に、レティシアは平然と頷いた。

 人が聞けば、見た目に人懐こいこの青年の倫理観の欠如を嘆くかもしれないが、レティシアはそもそも倫理観を前提とした世界では育たなかった人間であるから、そこを期待する方が間違えている。

 それに、レティシアにはレティシアの言い分があるのだ。

 一度舞台に立ったレティシアにとって、人とは、自分と標的のことであり、その他は全て、いわば劇の小道具にすぎないのだ。どのような形で費消したとして、それは劇を完結に導くために必要だからなのであり、費消の仕方にけちをつけられても困ってしまうというのが彼の意見である。

 加えて言うならば、卑怯だの残忍だの外野に非難されても、こっちは必死で任務の成功のために駆けずり回っているのであるから、勝手なことを言ってくれるなとも思う。言うは易し、ならば代わりに、立派で勇敢で誰からも後ろ指さされない暗殺の仕方を教えてほしいものだ、というのがレティシアの本音である。

 

「こいつの性分を今更議論したって始まらない。こいつはこういうやつなんだ。その前提で、ウォル、お前がこれから作っていく友人知人を危険に晒したくないっていうなら、選択枝は二つに一つだぞ。ここでこいつを殺すか、それともこいつの標的にならない立場に自分を置くか」

 

 無茶苦茶なはずのリィの主張だが、こう言われてしまうと、一応の筋は通っているような気もしてくる。

 だからといって、いきなり毒蛇の花嫁になれと言われたウォルも可哀そうだ。凄絶に顔を歪め、毒杯を煽るよりも悲壮感のある顔で、自分の妻である少年に助けを求める。

 

「……リィ、これでもおれは、お前の婚約者のつもりなのだが、あの誓いは無効になったのか?」

「おれとお前が婚約者であることと、お前がレティと結婚することは直接矛盾しないだろう?もちろん、一夫一妻制が前提ならまずいんだろうけど、一夫多妻制、多夫一妻制の国もこの宇宙じゃ別に珍しくもなんともないんだから大丈夫だって」

「だからと言って、おれに、この男と一緒に暮らせというのか!?式を挙げ、婚姻の誓いを交わし、子を為し育てろと!?」

 

 全身を嫌悪感で戦慄かせながら、半泣きの声で縋り付くウォルに、リィはあっけらかんと返す。

 

「事と次第によっちゃあそうなるかもな。でも、多分そうはならない」

「……何故だ?」

「お前とレティが引っ付いたことを知れば、諸悪の根源の依頼主が別の動きをするだろう?そこを叩いて根っこから解決すれば、お前がレティとの婚姻関係を継続する理由もなくなる。つまり、期限付きの仮面夫婦っていうのが一番近い例えかな」

 

 そこまで聞いて、レティシアはついに堪えきれず、大爆笑した。

 

「いいねぇ、王妃さん、やっぱりあんた、面白い!あんたといると退屈しねぇぜ!分かったよ、当面の間、そこの王様と俺は夫婦ってことでいこうじゃねえか!それならしょうがない、依頼の方は棚上げだな!」

「おい待て、おれの意思はどうなる!」

 

 ウォルは抗議の声を上げかけたが、リィとレティシアには完全に無視された。

 そして、リィが、レティシアに対して真剣な調子でレクチャーする。

 

「夫婦っていっても、いきなりベッドに連れ込むとかは駄目だぞ。ウォルは、女の子としてまだそういうことにはうぶなんだ。まずは清い交際からだ」

「じゃあ、当面の間、がきを拵えるのは見送りってことか。仮面夫婦ならぬ仮面恋人からスタートってこったな」

「そういうことになるな。当然、キスとかも、お互いの同意がなきゃやっちゃ駄目だ」

 

 まるで、初めて女の子と付き合い初めた我が子に、男女交際の機微を教える親のような調子である。

 それを聞いて、レティシアは不服そうに唇を尖らせる。

 

「厳しいねぇなかなか。そんなんで俺の依頼主に、王様が俺の恋人になったって判断してもらえるかね?」

「そういうふうに装うのは、レティ、お前の得意分野だろう?手を繫いで仲良く登校するくらいが、学生同士の健全なお付き合いなんじゃないのか?あと、せっかくだから、この馬鹿のボディーガードもついでに頼むよ。こいつ、本当に危なっかしくてさ。レティが目を光らせていてくれるとすごく助かる」

「おいおい、俺、王様を殺す依頼を受けるかどうか悩んでたんだぜ?そんなやつにボディーガードを頼むって、なんか間違えてないか?それに、俺は俺で学業やら実験やら、結構忙しいんだぜ?」

「なんだレティ、けちけち言うなよ。夫なら、妻を守るのも義務のうちだろう?」

 

 唖然とするウォルの前で、まるで悪夢としか思えない会話が繰り広げられている。

 

──おれは明日から、この殺人鬼と一緒に、お手々を繫いで和やかに会話しながら登校しなければならないのか。

 

 無論、いきなりベッドインして肌を合わせることに比べればハードルは低いが、それにしても、周囲の友人にはなんと説明すればいいのか……。

 あまりといえばあまり過ぎる事態に絶望したウォルは、決して弱いとはいえない目眩を覚え、ふらりと後ろに倒れかけた。それを、隣にいたインユェが辛うじて抱きとめる。

 

「おい、大丈夫か!しっかりしろ、ウォル!」

 

 かと思えば、たまりかねたシェラが、怒りと共に叫ぶ。

 

「やはり駄目です!陛下がこんな下郎の慰み者になるなど、どうしたって認められません!考え直してくださいリィ!」

 

 ぎゃあぎゃあとやかましい513号室の扉が、先ほどと同じ、しかし今度は閻魔の顔をした看護師の手で開かれる。

 

「静かにしなさい!それとも即刻出てお行きなさい!」

 

 その叫び声で、深夜の会合は文字通りお開きとなったのだ。

 

 

「ま、あんたが気の毒なのは事実だけどさ、こういうのって楽しんだもん勝ちだと思うんだよ。俺があんたを鼻息荒く押し倒すつもりはないってことくらい分かってるだろ?なら、役者修行の一環と割り切って、肩の力抜いてみたら?」

 

 朝の登校途中、ウォルと並び歩くレティシアは、自由な方の左腕を自身の首の後ろに回して天を仰ぎながら、気楽な調子で言った。

 対してもう片方の右腕はといえば、何と隣の少女と仲良く手を繫いでいるのだ。それも、手だけではない、指と指を絡めた、いわゆる恋人繋ぎである。

 今の二人をシェラあたりが見れば、間違いなく卒倒するだろう。

 だが、第三者から見れば、二人は恋人以外の何物でもない。

 もちろん、内心は別である。ウォルは、全身の棘を逆立てたヤマアラシのような有様で、いつ何時、隣を歩く青年──何の因果か、自分の恋人になってしまった殺し屋である──が自分に襲い掛かってきても対応出来るよう身構えている。

 見る人間が見れば、狂暴な肉食獣同士、例えば熊と虎が、唸り声を上げながら睨み合っている様を想像したかもしれない光景だったが、一般人が見れば、何とも甘酸っぱい、付き合い立ての恋人同士が織りなす、青春の一幕の情景であった。

 そんなふうに歩いているレティシアの恰好は、いつも通り、洗いざらいのシャツと細身のジーンズ、足元はキャンバススニーカーという軽快な出で立ちである。対するウォルは、足元は革製のローファー、足首まで隠れるベージュのロングスカート、上半身はなんとガーリー系の、フリルも愛らしい白ブラウスである。

 似合う似合わないでいえば、この上なくウォルに似合っている服装だ。すれ違う誰もが振り返る、とてつもない美少女として仕上がっている。だが、レティシアは拭いきれない違和感に、内心で顔を顰める。まるで、あちらの世界に居た頃のリィが、ドレス姿で街中を闊歩しているような塩梅なのだ。

 そして、興味深そうに言った。

 

「あんたもそういう服、着るんだ。まぁでも、よく似合ってるじゃん」

「言うな。貴様にそういうことを言われても反応に困る」

 

 ウォルは眉根を寄せて、何とも難しい顔である。

 

「なんだ、そういう服、嫌いなのか?」

「少なくとも、好き好んで着ている服ではない」

「へえ、じゃあなんでそんなヒラヒラを着ているんだい?」

「それは、お前も知っているペギーどのがだな……」

 

 ウォルのルームメイトであるペギー・メイは、最近、生活習慣が変わるのと同時に、服の趣味も、簡素で質実なものに変わっていった。動きやすい、スポーティーな服装を好むようになったのだ。

 必然的に、以前着ていた、ひらひらふわふわした如何にも女の子な服は、残念なことに箪笥の肥やしとなってしまっていた。

 いっそのこと捨ててしまおうかと思ったペギー・メイだったが、それは少し勿体ない。かといって、フリーマーケットやネットで売るのも面倒だし、万が一変な人間に買い取られることを思うとなんだか気味が悪い。

 そんなふうに悩んでいたとき、突如天啓が降りてきた。

 

 ──自分には、こういう服が間違いなく似合うだろう、最高に愛らしいルームメイトがいるではないか!

 

 自らのアイデアに感激したペギー・メイは、その日のうちに、自分がかつて愛したひらひらふわふわな装束を、丸ごとウォルにプレゼントしたのである。

 結果として、今のウォルのクローゼットは、ひらひらふわふわに占拠されてしまっていたりする。

 

「はぁ、なるほどねぇ。そいつは、あのお嬢ちゃんのお下がりってわけか」

 

 レティシアは納得とともに頷いた。

 

「でもよ、着るのが嫌なら断ればいいんじゃないの?」

 

 当たり前と言えば当たり前の意見に、ウォルはツンとした表情で、

 

「おれは今のところ、何の稼ぎもない養い子の身の上だ。被服費とて馬鹿にはならん。それが節約出来るなら是非もない。それに、今のおれにはどうやらこういう服が似合っているらしいことは、ペギーどのが太鼓判を押してくれた。無碍に断るのも気が引ける」

 

 そんなことを言った。

 確かに、養い親であるヴァレンタイン一家に出来る限り迷惑はかけたくないという、ウォルの言い分にも一理ある。

 それでも、レティシアとしては違和感を覚えざるを得ない。

 彼にとって、ウォル以外で男から女に着替えさせられたサンプルケースといえばあちらの世界のリィであるが、もしもリィならば、今のウォルと同じような事情があったとしても、こういう可愛い系の服はどうしたって着ようとしなかっただろう。

 

「ふぅん、男から女に着替えさせられたのは一緒でも、王妃さんとあんたじゃやっぱり違うんだなぁ」

 

 レティシアは興味深そうに、そう呟いた。

 実のところ、レティシアの感じた違和感は正鵠を射ていた。

 もしもウォルがこちらの世界に生まれ変わったばかりの時分ならば、他に理由がなければ、どうしたってこういう可愛い系の服は嫌がったに違いない。

 しかしウォルの羞恥心やら男としての拘りやらは、既に、女の子服の遥か彼方にある上級者向き装束──扇情的なバニースーツを着こなして夜のお店で働いた経験から、徹底的に打ちのめされ鍛え上げられてしまい、この程度の服には動じなくなってしまったのだ。

 とにかく二人は、まるで恋人がそうするように手を繋ぎ、内心は天敵のあぎとに手を突っ込んでいる心境で、並び歩いていた。

 だが、その表情はといえば、レティシアはともかく、ウォルのそれは素人目に見ても決して恋人と一緒に幸せいっぱいに登校しているふうには見えない。

 二人を恋人に見立てるならば、特大の地雷を踏み抜かれて怒り心頭の彼女と、どうにかしてその許しを得られないものかと途方に暮れている彼氏といったところか。

 レティシアは、諦めたように軽く鼻で息をした。客観的に見ればウォルの気持ちも理解出来るのだが、自分だって別に望んでこんな役回りを演じているわけではない。少なくとも、今のところは。

 それに、自分達の仲睦まじい様子を見せないと、暗殺の依頼主──ブラウンの髪を綺麗に撫でつけたあの男──に、自分が依頼を受けなかったことが伝わらないのではないか。それでは、この茶番劇そのものが意味を失い、本当の意味で茶番劇になってしまうことになる。

 まぁ、それはそれで面白いか、と、レティシアは片頬を歪めて微笑んだ。

 そんな彼氏の様子など横目にも見ようとしないウォルが、すたすたと歩きながら、

 

「そういえば、まだ礼を言っていなかったな」

 

 そんなことを言った。

 果たして何事かと思ったレティシアだったが、すぐに、今朝がた、ウォルとペギー・メイを暴漢から助けたことを思い出した。

 もっとも、あの程度のことはレティシアにとって、文字通り相手を遊んであげた程度のことなので、少女の形をした猛獣を助けたなどとは決して自惚れていない。

 

「なんだ、さっきのことか。あの程度、礼を言ってもらうほどのことでもないぜ。俺にとっちゃ暇つぶしみたいなもんさ」

「うむ。それで一つ聞きたかったのだがな、貴様、毎日おれとペギーどのがジョギングに行くのをこっそりつけていたのか?」

 

 じとりとした視線でウォルがレティシアを睨みつける。まるで不審者を見るような冷たい視線である。

 対するレティシアは悪びれるふうではなく、

 

「悪いが王様、毎日あんたの駆けっこを眺めるほど俺も暇じゃないわけよ。ただ、今日はなんとなく嫌な予感ってやつがしてね。このまま放っておくと、哀れな子羊があんたに叩きのめされて病院にお世話になるような気がしてよ、不承不承で早起きしたってわけさ」

 

 にやりと笑いながらそんなことを言う。

 そんなレティシアを見上げて、ウォルは呆れたように息を一つ吐いた。

 果たしてこの男が、言葉のとおりに第六感でウォル達の危機を察知したのか、本当は毎朝自分たちを見守っていたのか、それはウォルにはわからない。しかし、もしも怒りに任せてあの三人を叩きのめしていたら、自分はともかくペギー・メイにも何らかの累を及ぼしていた可能性もあるので、実はウォルはレティシアに結構感謝していたりする。

 そんなふうにして通学路を二人歩き、セム大学行のバス停のところで、二人は別れた。

 バス待ちの列の最後尾に向かいかけたレティシアが、思い出したように振り返り、ウォルに向かって尋ねる。

 

「ちなみに王様、今日の放課後の予定は?」

「……貴様、放課後もおれの傍にべったりいるつもりか?」

「しゃあねえじゃん、普通の恋人ってそんなもんだろ?」

「……今日はTBSBで打ち合わせだ。今週末、おれの試合の中継をしてもらう予定だからな。時間は結構遅くなると思うぞ」

「ふぅん、ま、俺も今日は実習で遅くなりそうなんだ。時間が合えば迎えに行くから、携帯端末に連絡くれよ」

 

 すでに、ウォルはレティシアとお互いの連絡先を交換している。恋人同士ならば当然のことではあるのだが、律儀なことでもあった。

 そうこうしている間に、バスが到着し、列の人間がどんどんバスに乗車していく。レティシアも、その流れに続いた。

 

「じゃな、王様……じゃなかった、俺の可愛いフィナ。愛してるぜ」

「……ああ、おれも負けず劣らず愛しているとも」

 

 軽い調子のレティシアに、思いっきり渋面のウォルがそう応えた。

 そしてバスは走り出す。それを見送ったウォルは、先ほどまでレティシアと繋いでいた左手を、スカートでごしごしと拭った。

 

 ──やれやれ、こんなことが毎朝続くのか……。

 

 軽い頭痛を感じたウォルは大きくため息を吐き出したが、その苦悩も、これから始まる動乱の序章に過ぎないことを、すぐに知ることとなる。

 何せ、学校へと向かう曲がり角の向こうから、きらきらと好奇心で輝いた瞳をこちらに向ける顔なじみのクラスメイト達が、ウォルがこちらに来るのを今や遅しと待ち受けているのだから。

 

「あ、ははは……」

 

 乾いた笑いをこぼしたウォルは、猛獣の群れに飛び込む子ヤギの気持ちで、クラスメイトの方へと歩を進めた。

 

 

 どうでもいい追記

 

 最近、漫画「メダリスト」にドはまりしました。TSしたウォルは、多分狼嵜光ちゃんみたいな感じだと思います。

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