懐かしき日々へ(デルフィニア戦記・暁の天使たち他)   作:shellfish

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第一話:発端

「どうしたのですか、リィ」

 

 気遣わしげな声で、美しい銀髪の少年は、傍らに立った金髪の少年に問いかけた。

 ぼう、と、ここではないどこかに意識を飛ばしていた様子のリィは、苦笑しながらそれに応じる。

 

「いや、別に何でもないんだ。何でもないんだが…」

 

 リィは、その美しい翠玉色の瞳を、窓の外にさ迷わせる。初夏のドレステッド・ホールの薔薇園は、正しく今が盛りのようで、色取り取りの薔薇がその美を競い合っている。

 真上からの陽光に照らされる、立派な薔薇園。華麗という文字を体現したような赤薔薇、清楚の中に堂々とした威厳を主張する白薔薇、可憐なピンク色の薔薇、他にも、紫色や青色、黒や黄色。その風景を写生するのであれば、既製の水彩絵の具のセットなどでは到底色彩が追いつかないに違いない。本来であれば開花時期もまちまちなはずのそれらの品種をこうも一斉に咲き誇らせることが出来るのは、偏にこの庭を管理しているマーガレットの腕前というところだろう。

 薔薇園の生け垣の端っこの方で、茶色い、子馬の尻尾のように柔らかそうな髪の毛が跳ね回っている。多分、いつも元気いっぱいなデイジー・ローズだろう。シェラが初めてこの屋敷に来たときのように、薔薇の花びらを拾って匂い袋を拵えているのだ。またチェイニーにいじめられたりしないかが少し心配だが、たっぷりと用意された宿題の世話にかかりっきりの彼に、そんな余裕があるとも思えない。リィは、蜜を含むように柔らかく微笑んで、椅子に座ったまま自分を見ているシェラの方に向き直った。

 シェラは、読書感想文の課題図書でもある分厚い装丁の本を閉じて、脇のサイドテーブルの上に置いた。

 

「何でもないのに、貴方がそんな顔をしているなんて、それこそ何かあったとしか思えませんよ」

 

 リィは、再び苦笑した。もっともだと思った。

 その時、開け放たれた窓から、初夏の爽やかな風が部屋に吹き込み、彼の黄金の髪を撫でていった。それだけのことなのに、天井の高いこの部屋の中に、金色の香気が満ちたように、シェラなどには思えたのだ。

 そんなシェラの内心など知らぬふうで、リィは、気のせいなどではなく金砂と見紛うような見事な金髪を一掻きして、溜息を吐き出した。そんな何気ない動作の一つ一つが見とれるように美しい。

 

「本当に、何があったわけじゃあないんだ。少なくとも、今のところは」

「今のところは、ですか」

「ああ。ということは、今日に何かあるはずなんだよ」

 

 奇妙な物言いである。この人の奇妙なことについては知り尽くしているといってもいいシェラも、流石に面食らったようである。目を丸くして、一体何がどういうことかと、無言で先を促した。

 

「今日で、連休も終わりだな」

「はい。今日の夜には連邦大学に帰らなくてはなりません」

「休みの内に、俺達は色々なところに行った」

「そうですね。ヴィクトリア湖に釣りに行き、サーキット場でカートに乗って、博物館でレポート課題の仕上げをしました」

「そうだ。全く、アーサーのお守りには心底苦労させられた」

 

 本当に疲れた様子のリィを見ながら、シェラは曖昧な笑みを浮かべた。

 シェラはこの世界に来てからまだまだ日が浅いが、しかし優れた理解力と記憶力を誇る彼であるから、この世界の常識というもののほとんどは身に付けてしまっているといっても過言ではない。

 その中に、家族サービスという言葉がある。普段は仕事にかまけて家族との時間を持てない父親が、たまの休日などには家族と一緒にレジャーに繰り出し、その時間を愛する家族のために捧げるという習慣だ。

 この数日、リィは珍しく、アーサーと共に休日を過ごした。無論親子水入らずなどではなくシェラも同行していたのだが、そんなことは気にもならないくらいにアーサーははしゃいでいた。もう、天にも昇らんばかりの有様であった。

 もしも、いかにも豪奢なこの家に住む家族の事情をよく知らない人間がみれば、州知事という要職を務める多忙な父親が、普段は一緒に遊んでやれない寂しがり屋の息子にかまってやるために、ほとんど無理矢理に捻りだした貴重な休日を費やしたと思うだろう。しかし、いかにも豪奢なこの家に住む家族の事情をよく知っている人間であるシェラなどからみれば、それが全くの逆の立場であったことは明らかである。

 それらの事情を弁えて、シェラは、愉快そうに笑いながら言った。

 

「リィ。家族サービス、お疲れ様でした」

「ふん、慣れないことをすると肩がこるって本当だな」

 

 片手で肩を揉みほぐしながら、リィは言った。結構、真剣な声色だった。

 

「あれ、お嫌だったのですか?」

「好きこのんでやっているように見えたのか、お前には」

「そう言われると返す言葉もありませんが…。そもそも、好きこのまないことをわざわざする人ではないでしょう?」

「まぁそうなんだがなぁ…」

 

 シェラは意外の念を覚えた。少なくとも彼の知るリィという少年は、自分が望まないこと、無駄な時間を費やすことに対して我慢の効く人間ではない。断じてない。例え一生を遊んで暮らせるような大金を目の前に積んだところで、この人の時間を一分足りとて買い取ることは不可能なのだ。

 そんな彼が、久しぶりの連休に実家に帰ると言い出し、その上、嫌っているわけではないが少々苦手としているアーサー(少なくとも遺伝上はリィの父親である)のお守りをしていたのだから、これは何か心変わりをしたのかと訝しんでいたシェラなのだ。

 

「ルーファに言われたんだ」

「ルウに?」

「ああ。普段お世話になってるんだから、たまには恩返しもしなくちゃいけないよって」

「恩返し、ですか。なるほど、あの人らしい言い方ですね」

 

 この場にはいない黒の天使が、にこやかに笑いながら金の天使を言いくるめている様を思い浮かべて、シェラは微笑んだ。万事につけて扱いづらい、まるで野生の獣を体現したようなリィであるが、自らが相棒と呼ぶ青年には妙に素直である。

 

「俺は別に恩を受けた覚えなんてないんだがなぁ」

「うーん、確かにリィは、今更学校に行かなくても一人で生きていけますからね。でも私は、この世界のことについてまだまだ学ばなければいけないことがたくさんありますから…。見ず知らずの私を学校に通わせて頂いているヴァレンタイン卿には感謝していますよ」

「そうだな。確かに、その点ではいくら感謝してもしたりないくらいだ」

 

 普段から好んで家に寄りつきもしない不良息子が、突然連れてきた見ず知らずの他人、それもロストプラネット出身(とアーサーには説明した)という曰く付きの他人の後見を、ほとんど二つ返事でアーサーは引き受けてくれた。

 普通は断る。それが普通の人間の反応だし、それを何人も非難し得ないだろう。それだけ、後見人というものの責任は重たい。例えば、万が一、未成年であるシェラが何らかの犯罪で他者に損害を与えた場合、その補償をするのは後見人であるアーサーの責任ということになってしまう。それが後見人というものだ。

 なのに、リィの遺伝上の父親はそれを引き受けた。ひょっとしたら、これで息子と仲直りが出来るかもというすけべ心があったのかも知れないが、しもしそのほとんどが息子への信頼からだったのは誰が見ても明らかである。

 もしもアーサーがシェラの後見人になることを断っていれば、彼がこの世界に馴染むには、更に膨大な労力と時間が必要だったはずだった。この世界で戸籍登録やら親権者やらがいないのは、それほどに致命的なことなのだ。シェラが、もといた世界で培った技術で身を立てるならばいざ知らず、リィと一緒に『目指せ一般人』の努力目標を達成するためには、州知事という肩書きを持つアーサーの存在が必要不可欠だったのは間違いない。

 そして、恩や義理は意外なほどに重んじるリィである。そんな彼が、言葉通りの気持をアーサーに抱いているとは、シェラは思っていなかった。

 

「だからその恩返しに、一緒に遊んであげているのかと思っていたのですが、違うのですか?」

 

 アーサーなどが聞けば大いに心外だと憤るような事実を、シェラは容易く口にした。

 

「いや、ほとんどはその通りなんだ。それに、あんまり長い間実家に帰らないと、教授連中も訝しむ。あまり変な注目は浴びたくないから、良い機会だったのも確かだ」

「でも、それだけではなかった、と」

「ああ。それだけの理由で、わざわざ里帰りなんかしないさ」

 

 ホームシック気味の同級生などは、小さな連休などでも、機会を見つけては実家に帰りたがるものだが、しかしリィはホームシックなどとは最も縁遠い存在である。彼は既に独り立ちして久しいのだし、そもそも彼の実家はこのように古めかしい造りの家などではない。無限に見渡すことの出来そうな草の海と、抜けるような青空の下にこそ、彼の本当の住処はあるのだ。

 そのことを知っているシェラは、どこか遠い目でリィを見つめた。少なくとも、彼の知るリィは、こんな機械だらけの街の中が似合う少年ではない。もっと広い、無限のような草原を、飛び抜けるように駆ける姿こそが最も美しいのだ。

 

「では、一体どんな理由があったのですか」

「シェラも知っているだろう。例の手札だよ」

「ルウの、手札、ですか」

 

 シェラの面持ちが、一際真剣みを帯びた。

 手札とは、カードを使った占いの一種である。無造作にきったカードの束から不作為にカードを抜き、その絵柄で未来の吉兆を知るのである。

 無論、ただの占いだ。この、科学万能という新たな信仰の生まれた世界において、それは年頃の少女の恋心を満足させたり、あるいは藁にも縋りたい心配性な人間にとっての藁になる以外、如何なる価値も持っていないものである。この時代だけではない。シェラのいた、まだ夜の闇の濃かった世界ですらそれを真剣に信じていた人間などほとんどいなかった。

 シェラも、そしてリィも別に運命論者というわけではないから、当然そんなものは信じない。

 それが、ルウのものでなければ、である。

 

「…ルウは、一体何と…?」

 

 意図せずに低くなった声色で、シェラは尋ねた。

 幾度となくルウの手札に助けられたことのある彼にとって、その占いの結果は確定した未来図にも等しい。

 それはリィにとっても同じことなのだが、しかしそのリィの表情が優れないということは、好ましからざる結果だったということか。

 シェラの緊張が、否応なしに膨らんでいった。

 そんな彼を見て、リィは微笑んだ。

 

「おいおい、そんな顔するなよ」

「しかし…」

「凶兆が出たんなら、すぐにシェラにも教えているさ。俺が今まで黙ってたのは、正直俺にも、どういうふうに理解したらいいかイマイチ分からなかったからなんだ」

「…どういうことでしょう」

 

 リィは腕を組み、何やら難しい顔で語り始めた。

 それは、先週末の、連休を控えた夜のことだった。

 

 

『こんどの連休、暇?』

『うん?…まぁ、課題を仕上げる以外には用事と呼べる用事は無かったはずだけど…』

『じゃ、家に帰って』

 

 突然の電話に、リィは面を喰らった。

 アインクライン校の学寮は、基本的に身内以外の人間からの電話を、直接生徒に通すことはない。安全上、あるいは非行防止等の観点から、いったん守衛室が電話を取り、電話の向こうにいる人間の身元をはっきりとさせた上で生徒に取り次ぐのが常となっている。兄弟校とはいえ他校の生徒であるルウにしてみれば、無用の時間を浪費する手段であるといわざるを得ない。

 だから、ルウがリィに対して連絡を取るときは、よっぽどの急ぎでない限り、パソコンのメールを使うのが常である。本当に急ぐときは直接やってくるから、電話で連絡をしてきたこと自体が珍しい。

 そして、突然の一言だ。流石のリィも面食らった。

 

『おい、ルーファ。いきなり電話してきてそれか。わけを話してくれ』

『うん。エディは、そうする必要があるからだよ』

 

 普通の人間の友人同士ならば、からかわれているとしか思わないだろう。

 しかし、この二人は普通の人間ではなかったし、友人と称して満足できるほどに薄まった間柄でもなかった。だから、この短い、会話とも呼べないような会話で、お互いの言いたいことは理解していた。

 

『どんな結果が出た?』

『分からない。こんなの初めてだ。何が何だか分からない。吉兆なのか凶兆なのか、それすら分からないなんて』

 

 電話の向こうの相棒の声は、想像以上に狼狽していた。

 

『…ルーファが自分の手札の結果が分からないなんて、俺も初めて聞いたよ』

『結果が読めないわけじゃあないんだ。でも、それがどんな結果をもたらすのか、それがさっぱり』

『なのに、帰らなくちゃいけないのか?』

『うん』

『なんで?』

 

 もっともな質問である。

 それに対して、ルウの返答は簡潔を極めた。

 

『うーん、勘、かな?』

『勘か』

『うん。勘』

『わかった。じゃあ、さっそく荷物を纏めないと』

『ありがと』

 

 受話器の向こうから、当然のような声があった。自分の言うことを信じて貰えないかも知れないとか、そういう不安はもとから無かった、そういう声だ。

 

『ちなみに、ルーファ。家って、アーサーの家でいいのか?』

『うん。アーサーの家だよ。ちょうどいいじゃないか。この機会に、思う存分甘えたら?学校行かせて貰ってる恩もあるんだし、たまには恩返しもしなくちゃ』

『甘えさせてやるの間違いだろう?』

『違いないね』

 

 くすくすと、快い声が耳朶を擽る。リィは、知らずに笑みを作っていた。

 

『シェラも連れて行っていいのかな?』

『うーん、多分大丈夫だと思うけど、何で?』

『まかり間違ってアーサーと二人きりになるなんて、あまりぞっとしないからな』

『あはは、それは同感』

 

 もしもそうなれば、アーサーの『お父さんと呼べ』攻撃が始まるのは目に見えている。それ自体はリィにとってもいつものことだから問題無いのだが、しかしそれが加熱しすぎれば問題である。

 主に、アーサーの肉体的な健康にとって。

 ヴァレンタイン副知事・謎の襲撃事件を繰り返すのは、アーサーのことを結構気に入っているルウなどにとっても心安らぐことではない。そのための安全弁としてシェラがいてくれるのであれば、それに越したことはないのだ。

 加えて、アーサーはこの世界におけるシェラの後見人である。少し大袈裟な言い方をするならば、養い親と言っても過言ではない存在だ。今はもちろん、成人してからだって良好な関係を築いていかなければならない。ならば、機会を見つけて二人が顔を合わせる場所を作るのは必要なことだ。

 そんなことを、記録上の年齢がたったの13歳の少年が考えていると知れば、人は驚くか呆れるか、それとも不気味に思うだろうか。

 

『じゃあ、もしよかったらルーファも来いよ。デイジーもチェインも、きっとお前に会いたがってる』

『それは嬉しいな。…でも、残念ながらレポートの提出期限が迫ってて。今回は遠慮しないといけないみたい』

『そうか。全く、俺にだけ厄介事を押し付けて優雅にデスクワークとは、たいそうなご身分だよなぁ』

 

 くすくすと笑いながら、リィは言った。それに応えるルウの声は、ぷりぷりと怒った調子だった。

 

『あっ!エディ、非道い!エディも、このレポートの量を見てみればいいんだ!そうすれば、僕の苦労のほんの少しだって分かってくれるに違いないのに!』

『ごめんごめん。じゃあ、何かお土産持って帰るから、期待しててくれ』

『じゃあ、断然マーガレットの手作りのお菓子がいいな!こないだご馳走してもらったストロベリーパイ、凄く美味しかったんだ!』

『…もうそろそろ、莓の季節は終わりじゃないか?もしあったとしても、熟しすぎた莓だけだ思うけど…』

 

 菓子作りには、あまり甘すぎる果実は向かない。特に、ジャムや焼き菓子にするなら尚更である。糖度が凝縮されて、甘くなりすぎるのだ。

 

『だからこそだよ!今の時期の莓はすっごく甘くて、お菓子にするともっと甘くなって美味しいの!エディも食べたらいいのに!』

『…遠慮しとくよ』

『えーっ?勿体ないなぁ…。エディも、一口食べたらきっと気に入ると思うんだけどなぁ』

 

 リィは、げんなりとした表情を隠そうともしなかった。ただでさえ甘い莓が、煮詰められ、シロップやら蜂蜜やらでギトギトに甘くなるなど、最早悪夢としか思えないリィである。

 彼にとってのルウは、かけがえのないという安い言葉では到底表すことの出来ない、唯一無二の、比翼連理が如き相棒であったが、しかし甘いものが苦手な自分に、執拗に菓子を勧める癖だけは、正直何とかして欲しい気もした。

 

『ま、ルーファの分はちゃんと頼んどくよ。ちなみに、もし莓じゃなくて違うやつになっても、文句は聞かないぞ』

『もちろん!マーガレットのお菓子に、文句なんて言うはずがないじゃあないか!』

 

 先ほどの怒った調子はどこへやら、子猫のように機嫌のいいルウだった。

 

『じゃあ、レポートの邪魔しても悪いから、そろそろ切るよ』

『うん。突然、ごめんね』

『何を言ってる。こちらこそ、わざわざありがとう』

『そんな、他人行儀だよ』

『親しき仲にも、だろ』

 

 受話器のこちらと向こうで、同時に笑い声が響いた。

 

『ちなみに、一つだけ』

『なに?』

『どんなヴィジョンが出たんだ?意味が分かるものだけでも教えて欲しい』

『うーんと…』

 

 ごそごそと、何かをまさぐる音が聞こえた。

 

『メモの準備はいい?』

『そんなこと、わざわざメモしなくても忘れないよ』

『でも、凄く複雑なんだけどなぁ…。えぇっとね、まず、【遠い昔に別れた人】』

『うん』

『で、【最近別れた誰か】』

『は?遠い昔なんじゃあないのか?』

『だから言ったでしょ?僕も、なにがなんだか分からないって。それに、凄く複雑だとも言ったよ』

 

 確かに、とリィは頷いた。

 

『悪かった。続けてくれ』

『うん…。後はね、【薔薇の館】【小さな女の子】【森と湖】【博物館】【王冠】【黒い自動車と黒い服の男】…これくらいだね』

『【薔薇の館】は、ドレステッドホールのことだろうな。あとは…さっぱりだ。ルーファは?』

『お手上げ』

 

 やはり簡潔な返答だった。

 

『一番最後は…なんとなく想像が付く。多分、僕達が一番関わりたくない種類の人間のことじゃあないかな』

『ああ、同感。王冠も、ひょっとしたらその暗示かな?』

 

 黒塗りの自動車に乗った、黒いスーツを着た男達。

 かつて、何度となく二人の前に現れ、そしてその度に迷惑をかけていった人間が所属している組織と、おそらく似たり寄ったりの組織の人間だろう。そして、王に近しい身分の人間の使い。要するに、政府の息のかかった種類の人間ということだ。

 

『あいつらも懲りないなぁ』

『まぁ、まだ彼らと決まったわけじゃあないけど…。散々脅してあげたのに、まだ足りなかったのかなぁ…』

 

 げんなりとした二人の声である。

 しかし、確かにこれだけで、政府が二人に接触をしてくると読むことは出来ない。それに、もしもそれだけのことであれば、もっと正確で読み取りやすい結果が出ていてもおかしくないのだ。

 リィは、気を取り直したように言った。

 

『あとは?』

『【博物館】は、前にも出たことがある。文字通り博物館を指すこともあったし、とんでもなく古い何かを差して博物館の札が暗示として出ることもあるんだ。これだけじゃあ、なんとも…。他のも、右に同じくだね』

『ふぅん…。ま、とりあえず分かったよ。連中が俺達に用があるってことは、それだけで碌なことじゃあないのは間違いないんだ。要するに、用心しろ、と。そういうことだな』

『エディの場合はやり過ぎに用心した方がいいのかもしれないけどね』

 

 努めて明るい声を出しながら、ルウはそう締めくくった。

 

『じゃあ、何かあったらすぐ連絡する』

『ちゃんと指輪は付けておいてね』

『ああ。剣もちゃんと持ち歩くさ』

『アーサーにはばれないようにね…って、そんなこと言うまでもないか。じゃ、とりあえず今日はこれで。おやすみ、エディ』

『おやすみ、ルーファ』

 

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