懐かしき日々へ(デルフィニア戦記・暁の天使たち他)   作:shellfish

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第四十話:いざなみのみこと

「悪かったな、勘違いして殺しかけて、その上医者の面倒まで見てもらってさ」

「いや、気にしてもらう必要はない。わたしのほうこそ、一度君の顔を見ていたはずなのに、それと気がつかなかった。不覚とはこのことだ」

「おい、そこらへんにしとけよ。お嬢ちゃんのほうも別に問題なかったんだしよ、どっちもどっちってことで、手打ちといこうじゃねえか」

 

 一台の車が、人気のない夜道を、法定速度を無視しながら走っていた。

 狭い車内であった。

 その車が小さいというわけではない。形式こそ、この星では一般的なセダンタイプであるが、相当の高級車であるし、第一この車の売りは広々とした車内スペースなのだ。

 一応は五人乗りの車であるが、それも相当の余裕を備えての五人乗りであって、普通の体格の人間が座ったのであれば、隣り合わせに座った者の体温を感じることなく快適な車の旅を満喫できるだろう、そういう車だ。

 その車内が幾分狭く感じられるのは、今、そこに詰まっている人間達の体格が、到底普通の人間のそれではないからである。

 ケリーとジャスミンは言うに及ばず、後部座席にふんぞり返るように座った少女のそれも、人並みを大きく外れている。

 少女の名前を、メイフゥという。つい先ほど、ケリーとジャスミンの二人と、文字通りの死闘を繰り広げた、少女である。

 普段はゆったりと布の多い派手な服を好むメイフゥだったが、今は我慢したように、病人用の患者衣を着ている。相当しぶったのだが、真夜中に開いている衣料品店も見つからず、もちろん裸でうろつくわけにもいかないので、本当の間に合わせとして着ているのだった。

 そして、頭部には分厚く包帯が巻かれている。

 精密検査の結果、幸いなことに骨や頭蓋内には異常が見受けられなかったが──この事実に、ジャスミンは天を仰いで呪いの言葉を呟いた──、大きな裂傷が出来てしまっていたので、十針ほど縫う必要があったのだ。少女自身は『こんなもん、唾つけときゃ治る!』と言い張って暴れるように抵抗したが、ジャスミンとケリーがその両手足を押さえつけて、何とか施術に成功したのである。

 今も、煩わしげに包帯を手でいじり、隙あらば解こうとしているのがありありと見て取れる。

 まるで動物病院から連れて帰られた犬が、包帯の上から傷口を舐めようと必死にもがいているようで、なんとも微笑ましい様子だった。

 

「ところでお嬢ちゃんよ、隠れ家とやらはいいが、ほんとにウォルはそこにいるんだろうな」

 

 運転席でハンドルを握ったケリーが、少し疲れたような声で言った。

 ジャスミンがメイフゥを叩きのめした後、この体格の良い少女を抱えて地下道を走り回り、信じられないほどに長い縄梯子を昇って、法外な診療報酬の代わりに臑に傷持つ人間でも診察してくれる闇病院まで担いでいったのだ。それも、熱追跡を受けないよう、出来るだけ痕跡を消してきたのだから、その苦労は並大抵ではない。

 結果として、流石のケリーも病院のロビーでへたり込んでしまった。全身汗みずくで、チアノーゼのために顔も青い。これではどちらが患者なのか分からない、そういう有様だったのだ。疲れた声の一つも出ようというものである。

 しかし、ケリーから献身的な看護を受けたはずのメイフゥは、柳眉を逆立てて、後部座席から運転席を蹴りつけ、役者のように大見得を切って見せた。

 

「おい、色男。あたしの名前は、お嬢ちゃんなんかじゃねえ。これでも親から頂いた立派な名前があるんだ。メイフゥ、美しい虎って書いてメイフゥだ。今度お嬢ちゃんなんて言いやがったら、その顔から生皮を剥いで醤油につけて喰ってやるからな」

 

 バックミラー越しに見える不吉な顔を見ると、どうにも冗談には聞こえない。だいたい、今、この車を運転しているのはケリーなのだから、彼に危害を加えれば車は制御を失い大事故を起こして全員お陀仏である。普通の人間なら、そんなことをするはずがない。

 だが、この少女の眼が、あたしは本当にやるぞと叫んでいた。

 ケリーは肩を一つ竦めて、少女に降参の意を伝えた。全く、最近の女どもは、どうしてこうも恐ろしい、否、たくましいのだろう。

 

「おい、海賊、今のはどう考えてもお前のほうが悪いぞ。メイフゥ、すまなかった、この無神経な男に代わって、非礼を詫びさせて欲しい」

「いいって、お姉様はちっとも悪くないんだから。悪いのは、そこの色男の頭の中だけだよ」

 

 あっけらかんとした様子で、メイフゥは答えた。

 にもかかわらずジャスミンは、別に飲み物を口に含んでいたわけでもないのに、大きく吹き出すはめになった。

 ケリーも、危うくハンドル操作を誤りそうになった。

 

「お、おねえさまだと?」

 

 助手席から振り返ったジャスミンが見たのは、自分を熱っぽい視線で見る、少女の瞳だった。

 その少女は、嬉しそうに頷いた。

 

「ああ、あんたはあたしのお姉様だ。もう決めたんだ。あのバックドロップ、本気で死ぬと思った。それを、三回も……。痛かった……。あんなのは、生まれて、初めてだった……」

 

 感じたぜ、と呟いたメイフゥは、思わず熱い吐息をはきだしていた。

 ぺろりと、驚くほどに長い舌が、艶やかな唇を舐める。たっぷりとした唾液が唇をコーティングし、エロティックな輝きを帯びる。もとが整った容姿だけに、とてつもなく淫靡な雰囲気を醸し出している。

 どこからどう見ても、未成年の少女には見えない。それどころか、名うての商売女であったとしても、これほど官能的な表情を作ることの出来る者がどれほどいることか。

 ジャスミンの背を、冷たいものが走り抜けた。

 

「ちょ、ちょっと待て!君はこの男を種馬にしようとしていたんじゃなかったのか!?」

 

 ジャスミンには珍しく、狼狽えた様子で運転席に座ったケリーを指さす。

 自分の夫を身代わりに捧げるなど、夫婦の契りを立てた男女にはあるまじき裏切りだったかも知れないが、この場合は四の五の言っていられない。溺れる者は、藁だろうが夫の命綱だろうが、掴める物は何だって掴むのだ。

 そのケリーはといえば、当初の驚愕から立ち直り、予想外の告白劇を面白そうに眺めていた。自分に火の粉の降りかからない痴情のもつれ話ほど楽しいものは、この世に二つとないからだ。

 そして、当のメイフゥは平然とした様子で、

 

「それとこれとは別の話だ。あたしが子を産むなら、その男の種を頂くさ。でも、恋人と種馬は別だろう?」

「これはそれ以前の話だ!君は未成年だし、だいたいわたしには同性を恋人に迎える趣味はない!女ならば、正々堂々と男を銜え込むべきだ!」

 

 よく分からない理屈で、ジャスミンは反論した。

 だいたい、あまりに男前のジャスミンであるから、今までだってその手のお誘いがなかったわけではない。

 軍隊に入り、強面の男どもを片手でぽんぽんとやっつけていくジャスミンは、女性隊員のあこがれの的だったのであり、狭い社会の中では、彼女に対して本物の恋愛感情を抱く女性も少なからずいた。

 だが、もちろんのこと、ジャスミンにその手の趣味はない。当然の如く、全てのお誘いを丁重にお断りしてきた。

 今回のそれも同じ事といってしまえばそれまでだが、自分とケリーの二人をたった一人、しかも素手で追い詰めるという人間離れした戦闘能力の持ち主である少女から、まさか愛の告白を受けるなどと、どこの誰が想像しうるだろうか。

 さらに付け加えるなら、その相手は自分達の孫と同じ歳の頃の、正真正銘の未成年である。

 どこをどう間違えたとしても、ジャスミンの食指が動くはずがないのである。

 そんな、慌てふためく女傑を眺めて、メイフゥは腹を抱えてけらけらと笑った。

 

「ああ、おかしい!冗談だよ、冗談!あたしも、お姉様と同じでどノーマル、女とベッドで乳繰りあう趣味はねえさ!」

「……冗談にしてはたちが悪いぞ」

「ま、お姉様が本気で乗ってくれるなら考えないでもなかったけど、そこまで鳥肌を立てられたら、やる気の一つも失せるってもんだろう?そこの色男のお兄さんも、心配しなくったって奥さんを手籠めにしたりしないから、安心しな!」

「ああ、そりゃあほっとしたぜ!」

 

 ケリーも腹を抱えて笑っている。

 そうすると、一人しかめっ面をしているのが流石に馬鹿らしくなったジャスミンは、体内の圧力レベルを下げるように鼻をふんと鳴らした。

 

「だいたい冗談が終わったなら、そのお姉様とかいうふざけた呼び方も止めたらどうなんだ」

「おや?お姉様が駄目なら、ジャスミン様のほうがいいかい?」

 

 まじめな顔で、そんなことを言う。

 ジャスミンは、がっくりと肩を落とした。ケリーは、火がついたように笑った。

 

「もう、お姉様でいい……」

「そうだろう?なにせ、お姉様はあたしを正面から叩きのめしてくれたんだ。しかも、素手でだぜ?故郷の男どもだって、そんなことは誰一人出来なかった。少しぐらい敬わせておくれよ。これぐらい我慢してくれないと、嘘ってもんだぜ」

「敬うにしても、もう少しやり方があるのではないのか……?」

 

 妻の呟きを聞いたのは、幸いなことに夫だけだった。

 そして、それと同時に妻は、笑い続ける夫の脇腹を思い切りに抓くってやった。

 ケリーの、悲しげな声が車内に満ちた。

 

 

 その後、車内でお互いの情報を交換した。

 メイフゥは真実ジャスミンに対して敬意を抱いていたから、自分達の情報を包み隠さずにしゃべった。

 自分達が資源探索者であること。

 仕事の途中でレーダーにかからない不思議な居住用惑星を訪れ、そこでウォルを保護したこと。

 借金に首が回らなくなって、この星に逃げ込んできたこと。

 この国で、彼女たちの保護者代わりの人物──ヤームルというらしい──が旧知の人間と再会し、友の死を知らされたこと。

 その無念を晴らすために、この星で戦っていること。

 

「……なるほど、そういうことか……」

「細工は流々、あとは仕上げをごろうじろってわけには中々いかないのが正直なところでね。どれだけ奴らの大本を辿っても、どっかでぷっつりと途切れちまうのさ。やつらにはこっちの居場所もばれちまったみたいだし、力業でガンガンいくもの限界っぽいね」

 

 メイフゥはふてくされたように言って、大きくあくびをした。

 人目を憚ろうともしないその様子は、やはり年頃の少女は言い難い風情である。

 

「そうか、そのヤームルとかいうお人は、海賊だったのか……」

 

 ジャスミンがしみじみと呟いた。

 彼女にとっての海賊という単語は、およそありとあらゆる感情の坩堝と表現しても過言ではない。

 自分の夫が海賊なら、自分の息子を助けてくれたのも海賊。自分の父親だって、海賊まがいの宇宙の男であった。

 だが、今、彼女の息子の安全を脅かしているのも海賊であり、彼女自身だって幾度となく命を危険に晒されている。

 憎しみと愛着。憧憬と侮蔑。相反する様々な感情が、そのたった一つの単語に揺り起こされる。

 それが、不思議と不快ではない。

 ジャスミンにとっての海賊とは、そういう言葉であった。

 

「君は、その人のことが、好きなのだな」

「ああ、大好きだぜ。あれでもう五十歳、いや、四十歳も若けりゃほっとかねえのになぁ……」

「おや、年上の男性は苦手かな?」

「別に。男は女と違って打ち止めがないからね、男前でありさえすりゃあ、どれだけ年上だってかまやしねえよ。でも、あっちが相手にしてくれねえんだもん。仕方ねえじゃん……」

 

 少女は、とろりと落ちてくる瞼を、ごしごしと擦った。

 先ほどまで溌剌としていた様子が嘘のように、静かになっている。

 無理もないだろう。特殊部隊を相手に大立ち回りをし、そのあとでケリーとジャスミンの二人を相手にしたのだ。疲れないほうがどうかしているのである。

 その様子には気がついていたが、隠しきれない興味を浮かべて、ケリーが問うた。

 

「じゃあ、そのヤームルっていう男は、どこかの一味に加わっていたんだろう?」

「ああ、そう聞いてるよ」

「じゃあ、どこの一味だったんだ?差し支えなけりゃ、教えてくれるとありがたい」

「……どうしてそんなことを知りたがるんだい?」

 

 メイフゥは不審げに眉根を寄せたが、ケリーは朗らかな口調で、

 

「なに、ここ最近は昔なじみと顔を合わせることも少なくなっちまってね。そういう話なら、聞けるだけ聞いておきたいのさ」

「昔なじみ?おかしな事をいうねぇ。あんた、どこからどう見たって、ヤームルの昔なじみって歳には見えないんだけど」

「確かに、その男と顔なじみかどうかは知れないがね。一昔前の海賊たちとは、けっこう付き合いが広いんだぜ?」

「ふぅん……。ま、別にいいけど」

 

 ケリー自身、海賊と呼ばれる一団に所属したことはない。加えて言えば、世間一般で言うところの海賊行為の片棒を担いだことも、一度だってない。

 だが、ある時期において、ケリーは彼らと共に宇宙を駆けた。それは時に友として、あるいは商売敵として。鼻持ちならない連中も多かったが、気の置けない連中も多かった。

 そして、今の時代に生き残っているのは、ほとんどが鼻持ちならない連中の方だ。気の置けない連中、気のいい連中は、時代に取り残された自分を恥じるかのように、静かに身を引いていった。

 ゲートを用いた長距離制限ワープ航法からショウドライブを用いた短距離無制限ワープ航法へと時代は移ろい、海賊たちが必ず持っていた秘密のゲートはほとんど意味を成さなくなった。重力波エンジンを積んだ船ではショウドライブを用いて短距離ワープを繰り返す船を追いきれないし、ショウドライブを積んで追いかけたのでは結果としてより高性能な軍艦に捕縛されてしまうのである。そして、その両方のエンジンを積み込めるような船は、大型戦艦を除いては、本当に限られた船しか存在しなかったのだ。

 結果として残ったのは、電撃的に客船を襲い、自分達の居場所が知れる前に乗員を皆殺しにして積み荷を奪い取るという、中世の山賊と代わらないような無法の輩のみである。

 ケリー自身が海賊たちの命脈に終止符を打ったといっても過言ではないのだろう。だが彼は、寂しさを覚えることはあっても、申し訳なく思ったり、自分の行動を後悔したりはしなかった。ショウドライブというすばらしいシステムは、自分が世に送り出さなくてもいずれ誰かが発見し、世に送り出していた品物だからだ。そのことで彼の愛した海賊たちが生き場を失ったとするならば、それは時代に適応できなかった彼らの責任である。

 まかり間違えても、ケリーの知る海賊たちは、その一事でもってケリーを恨んだりはしない。しないはずだ。もしかしたら売り上げの一部を寄越せとでも脅しつけたかも知れないが。

 ケリーは苦笑した。自分が古馴染みを懐かしいと思うなど、意外なことだったからだ。

 もしかしたら、少し前に一人の老ゲートハンターと出会ってから、その思いが強くなったのかも知れない。

 その老人の親分だった男は、既にこの世を去っていた。殺しても死なないと思っていた男が、意外なほどにあっさりと死んでいた。その知らせを聞いたとき、ケリーは理由もなく身を切られるような寂寥感を味あわされたのだ。

 そんなケリーの思いを汲んだわけではないだろうが、メイフゥは誇らしげに胸を反らし、ヤームルの属していた一味のことを語り始めた。

 

「ヤームルが何ていう一味で飯を食ってたのか、ちゃんとした名前は知らない。でも、この宇宙で一番大きくて、一番精強な海賊たちが集まっていたんだ。その海賊艦隊の行くところ、連邦軍の艦隊だって恐れをなして逃げ出した。まさに、向かうところ敵無しだったんだ」

「へぇ、そいつはすごいな。なら、きっと俺も知ってる一味だと思うぜ」

 

 連邦軍と正面から戦える海賊など、本当に存在するはずがない。どれほど大きな海賊団であっても、精々哨戒艦隊とドンパチやって引き分けに持ち込めれば万々歳といったところのはずだ。だからこそ、海賊は自分達のゲートに拘ったのだし、その縄張りを死守しようとした。

 少女の言うことは、話半分どころか、三割、いや、二割で正答と考えるべきか。

 しかしケリーは、頭のどこかに、少女の言っていることを信じたがっている自分がいることを自覚していた。

 ジャスミンは隣に座ったケリーの顔を、ちらりと見た。

 ケリーは、唇の片側をつり上げて、不敵に笑っていた。その笑みが意味するところは、妻であるジャスミンにも分からなかった。

 

「じゃあ、他に何か、その海賊団のことで知ってることとかはねえのか?」

「あるさ。とっておきのやつがな」

「へぇ、何だ、そいつは?」

 

 メイフゥは、焦らすように一拍おいて、誇らしさに満ちた声で言った。

 

「聞いて驚けよ。その一味を率いていたのはな、何を隠そう、伝説の海賊王だったのさ」

 

 彼女の一言が爆弾だったとすれば、それは効果的に破裂したとは言い難かった。

 ケリーもジャスミンも耳を疑ったが、それは信じられないという驚愕ではなく、どう考えてもおかしいという疑念からである。

 運転中のケリーに代わって、ジャスミンが後部座席を振り返り、

 

「試みに問うが、それは、広く一般に知られるところの海賊王のことでいいのかな?」

「もちろんだ。最近話題になってるじゃねえかよ、トリジウム鉱山を個人で秘匿し、無数のゲートを隠し持ち、連邦軍だって共和警察だって一度も捕まえられなかった伝説の海賊。それが、一味の頭だったんだ」

 

 熱っぽく語ったメイフゥだったが、ジャスミンの首はどんどん傾いていくばかりである。

 なにせ、ジャスミンは伝え聞いたのではなく、知っているのだ。海賊王と呼ばれる男が、決して組織の頂点には立たない男であることを。

 彼女の代役としてクーア財閥のトップを受け継いだことはあっても、それはただ妻の大切なものを守り、妻に返すために努力した結果であって、男自身が望んだことは一度もなかったはずである。

 その男が、他でもない海賊団の頂点に立っていた?

 彼女は四十年の長きを眠り続け、世俗のことには疎いと自分でも思っているが、それだけはあり得ない。あり得ないと断言できる。

 ジャスミンは、我知らず疑わしげな顔をしていた。だが、メイフゥはそれを見ても驚かないし、気を悪くした様子もない。むしろ当然というふうに頷いた。

 

「その顔、やっぱり信じてねえな」

 

 ジャスミンの返答は、簡潔だった。

 

「ああ、到底信じることが出来ない。無論、全面的に君を疑っているわけではない。きっと君の言うところの海賊団は確かに存在したのだろう。だが、その頂点に立っていたのは、巷で海賊王と呼ばれる男ではなかったはずだ。それだけは断言できる」

「そこまで言うってことは、お姉様、海賊王を知っているのかい?」

 

 鋭い質問であった。単純であるだけに、避けることが難しい。

 それでも人生経験の豊富なジャスミンである。海千山千の古狸連中相手に交渉事を繰り返してきた、クーアの二代目でもある。自分の背後に座った年若い少女を煙に巻くくらい、何ほどでもなかっただろう。

 だがジャスミンは、この少女の問いをかわそうとはしなかった。無論、嘘を吐くわけでもない。

 正直に答えた。

 

「ああ、知っている。よく知っている」

 

 それが隣でハンドルを握る男である、とまでは言わないが。

 

「ほんとかよ!?じゃあお姉様は、その男がどこにいるのかも知ってるのか?」

「ああ、知っている」

 

 隣でハンドルを握っているのだ。

 ジャスミンは、内心でとても愉快だった。隣にいる男が、どうにもむくれたような表情をしているのが一層楽しい。

 先ほどの仕返しとばかりに獰猛な笑みを浮かべるジャスミン。

 しかし彼女に向けられた次の言葉は、流石に予想を超えていた。

 

「じゃあさ、今度会わせてよ、絶対に!約束だぜ!会わせてくれなかったら恨むからな!」

「おい、わたしは一言だって、そんな約束をした覚えはないぞ」

「覚えのあるなしじゃあねえんだ!あたしは、絶対にその男に会わなけりゃいけないんだよ!」

「どうして?」

 

 メイフゥは、一つ大きく息を吸い込んで、

 

「決まってる!海賊王って呼ばれた男が、あたしら姉弟の実の父親なんだ!」

 

 

 すうすうと、可愛らしい寝息が、車内を満たしている、

 後部座席で丸くなった少女──メイフゥは、あの後、楽しみだ絶対に会ってみせると一頻り喚いた後、糸が切れるようにして眠りに落ちた。

 おそらくは相当の疲労が溜まっていたのだろう、今は、身動ぎしないほどに深い眠りの中にいる。

 翻って前方座席を見てみれば、運転席でハンドルを握る夫と助手席で腕組みをする妻は、終始無言だった。

 その無言が、ケリーなどにはとても怖い。別に彼自身疚しいことをした覚えはない──こともないのだが、それを怒られる所以はないはずである。

 だいたい、この夫婦は、お互いがお互いを拘束することを望んでいない。ケリーはジャスミンが隣にいてもあっさりと道行く女性に声をかけたりするし、ジャスミンはジャスミンのほうでも、魅力的な男性に声をかけられればケリーの傍から離れていったりもする。

 そういうとき、無言の了解として、お互いの行動に口は挟まない。

 もちろん、愛情が冷めているとかそういう理由からではない。逆に言えば、どんな異性に靡いたとしても最後は自分のところに帰ってくるだろうという、不撓不屈の愛情があるわけでもない。

 ただ、彼らにとっては、それが自然だからだ。美しい女性がいれば声をかけ、好ましい男性から食事に誘われれば無碍に断ったりはしない。

 そしてそれ以上に、彼らはお互いが共にいることを自然だと思っていた。そして、相手もそう思っていることを知っていた。それだけの話だ。

 だから、例え一晩の過ちから成った種があったとしても、それを非難されるいわれはない。ないはずであった。

 第一、この少女の話しぶりからすれば、彼女たち姉弟の父親であるという海賊王と、自分が一緒であるとは、ケリーには到底思えない。

 ああ、そうだ。俺はこの娘の父親なんかじゃない!

 だが、その反論がこの状況では如何に寒々しいものか、ケリーは知り尽くしていた。

 

「あのよ、女王……」

「わたしが眠っている間も、さぞお盛んだったようで何よりだよ、海賊」

 

 この、美しく輝く金色の瞳を向けられて、冷や汗を流さない男が、この女の知り合いに一人だっているだろうか。

 いや、いるはずがない。

 

「おい、一応は言わせてもらうがな──」

「冗談だ。そんなに怒るな、可愛すぎて抱きしめてしまいそうになる」

 

 ジャスミンは、口元に手を当てて、くすくすと笑った。

 ケリーは、憮然とした表情で肩を揺すった。

 

「冗談にしても、そいつはあんたにしちゃあタチの悪い冗談だ。寿命が一年は縮んだぜ」

「そうか、ちょうどいいじゃないか。人より二倍も長生きしているんだから、そういうことも度々あれば不公平が少なくなる。そうすれば、変なことで嫉妬を覚える連中も少なくなるんじゃないか?」

 

 ジャスミンは、ケリーの若返りの秘密を暴こうとして自滅していった、何人かの老人の顔を思い出していた。

 

「それにしても海賊、お前も、こんなことで人並みに動揺するんだな」

「全くの童貞以外で、見ず知らずの子供が自分のことをお父さんって呼んで動揺しない男がこの世にいるなら、その顔を拝んでみたいもんだ。俺は無条件にそいつのことを尊敬する自信があるね」

「その点、女はいいな。自分が生んだ子供は、種が誰のものであっても自分の子供だ。疑いようがない」

 

 的の外れたことを、ジャスミンが言った。

 ケリーは、無言で肩を竦めた。

 それから二人は、無言で車を運転した。

 車内には、時折少女の寝息が響く程度で、ほとんど何も聞こえない。

 周囲の景色はどんどん寂しくなり、ヘッドライトの灯り以外は漆黒の海の中に沈んでいる。

 すれ違う車もない。本当にこの世の道を走っているのか、疑ってしまうような孤独の中に、その車はあった。

 まるで、黄泉路を走っているようだと、ケリーは思った。

 二人は、その間も無言だった。

 やがて、遠く先の方に、ほのかな灯りが見えた。

 人家だ。山の麓、到底こんなところに人が住むとは思えないような場所に、人家がある。

 さきほどメイフゥが設定したナビゲーションシステムも、そこを目的地としているようだった。

 

「ようやく到着か」

「さて、ウォルは怪我をしているらしいが……大丈夫かな」

 

 緊張から解放されたからだろう、二人の声にも安堵の色が濃い。

 車は、静かに人家の少し手前で止まった。

 あらためて全景を見ると、それほど大きくはないが、隠れ家としてはちょうどいいくらいかもしれない。

 二人は、ほとんど同時に車から外に出た。

 メイフゥは、とりあえずそのままにしてある。今起こすよりも、寝かしたまま後で部屋に運んでやればいい。あの眠りようでは、抱きかかえたくらいでは眼を覚まさないだろうから。

 ケリーが先に門の前に立つ。

 そしてそのまま立ち止まった。

 

「……どうした、海賊」

 

 後ろから、ジャスミンの訝しげな声が聞こえる。

 

「……女王。さっき、あの嬢ちゃんの一味は何人だって言ってた?」

「……確か、ヤームルとかいう初老の男と、メイフゥ自身、その弟に、あとはウォル。全部で四人だったと聞いているが」

「なら、どうしてあの家の中には、十人を超える人間がいやがるんだ?」

「なに?」

 

 ジャスミンの体に、緊張が走った。

 この男は冗談好きで油断のならない人間だが、しかし時と場所というものを人並みには弁える人間でもある。

 こんな状況で、笑えないジョークを口にしたりは決してしない。

 

「……どういうことだ」

「状況は、予想以上に不味いかもしれん」

 

 声を潜めて会話をしていた、その時。

 人家の一階部分の、小さな窓ガラスが割れる音が、二人のいるところにまで響いてきた。

 すわ何事かと、二人の視線が集中する。

 きらきらと、星明かりに煌めくガラスの破片。

 その中に、銀色の頭をした少年が、倒れていた。

 

「そこにいるのは、ケリーどのか!?」

 

 聞き覚えのある少女の声が、自分の名を呼んだ。

 見れば、割れた窓の奥に、青白い少女の面立ちがある。

 間違いなく、黄金狼の伴侶である、あの少女だった。

 

「ウォルか!?」

「インユェを──その少年を連れて、逃げてくれ!」

「なんだって!?」

「詳しいことは後で話す!俺のことはいいから……!」

 

 少女は、最後まで自分の意志を伝えることができなかった。何者かの手が少女の口を後ろから塞ぎ、闇の中に引きずり込んだからだ。

 ケリーとジャスミンは、窓のそばまで駆け寄り、ガラスの破片の中で倒れ伏す少年を、助け起こした。

 細かいガラス片で小さな怪我を負ってはいるものの、どれも命に関わるような怪我ではない。

 ケリーはとにかく少年を担ぎ上げ、車まで走った。ジャスミンも油断無く銃を構えたまま、それに倣う。

 少年を、後部座席に放り込む。それでもなお、少年の姉である少女は、目を覚まさなかった。

 ジャスミンは、歯ぎしりをする思いだった。

 間に合わなかった。どういう理由かは定かでないが、ウォル達の隠れ家は敵に捕捉されていた。そして、自分達が到着する前に、既に制圧されてしまっていたらしい。

 さしものウォルも、相手が多勢に無勢、そして手負いの身とあっては、少年を家の外に投げ出すので精一杯だったのだろう。

 ウォルは、敵の捕虜だ。もう一人のヤームルという男は、既に殺されていると見るべきだろう。

 どうする。どうやって、この失地を挽回する。

 ジャスミンが、己に対して絶望的な問いかけを繰り返していた、その時。

 彼女の夫たる青年が、表情を消しながら言った。

 

「……女王、あんたはこのまま車に残ってくれ」

「どうするつもりだ、海賊」

「やっこさん達と話し合って見るさ。意外と話の分かる連中かも知れないぜ?」

「正気か海賊!?」

 

 ジャスミンは思わず声を荒げていた。

 

「任務を帯びた軍人に、話し合いが通じるとでも思っているのか!」

 

 軍隊に身を置いたことのあるジャスミンだから分かる。

 一度動き出した軍部というものは、堰を切った河の氾濫に似ている。水一粒の意志がどうであっても、そんなことはおかまいなしに、全てを飲み込んでいくのだ。

 それに逆らおうとするならば、より大きな流れをぶつけて氾濫そのものを制する以外、方法は無いのである。いわんや、話し合いの余地などあろうはずもない。

 

「そんなこと、俺だって重々承知してるさ」

「なら──!」

「だがな、女王。いま、あの家の中に人間の死体は一つもないぜ。一つもだ」

「……なんだと?」

 

 それはおかしい。

 彼らの任務は、ウォルの身柄の確保と、その周囲の人間の抹殺だったはずだ。それは、あのダイアナが確認したのだ。誤りようがない事実であろう。

 なら、あの家の中に、少なくとも一つは死体が転がっていなければならない。ヤームルという、ウォルの周囲の人間の死体だ。

 それがないということは、つまり、この家を制圧した部隊は、先ほど店を襲撃したのとは違う指揮系統にあるということになる。

 だが、だからといって話し合いに応じるとは、到底思えない。

 

「それに、あの家の窓という窓から、こっちを狙った銃口が差し向けられてやがる。なのに、一向に引き金を引く気配がないんだ。これはちっとばかし妙だぜ」

「……わかった。なら、わたしも行く」

「馬鹿を言うな。あんたはメイフゥとの一戦で、今日のところは出涸らしさ。あの黄金狼の同盟者を取り押さえた部隊と、もう一戦やらかせるとでも思ってんのか?本当にそう思ってるならついてくるがいいさ」

 

 ジャスミンは、言葉を飲み込んだ。

 確かに、あの戦いは、お互いの死力を尽くした戦いだった。

 正直なところ、今の彼女の体に、激しい戦闘に耐えうるだけの体力は残されていない。メイフゥの鋭い蹴りをくらった腹部は激しく痛み、今だって浅く呼吸をするのが精一杯といった有様だし、頭もがんがんと疼く。筋肉は、そこかしこで断裂寸前の悲鳴を上げている。

 今の状態で得体の知れない敵とことを構えるのは、無謀を越えて自殺行為というべきだった。

 

「……わかった。だが、無茶はするなよ。お前が死ぬと、ダイアナが泣く」

「ああ、さっきからうるさいんだ。こいつは、ここに置いていくぜ」

 

 ジャスミンは、信じられないものを見た。

 ケリーが、手首に巻いたダイアナとの通信装置を外し、空になった助手席に置いたのだ。

 

「海賊、何を考えている!」

「勘違いするなよ。これは、辛気くさい形見なんかじゃあねえぞ。俺がやつらにひっ捕まったときは、あんたとダイアンだけが頼りなんだ。心配しなくても、俺とダイアンは右目を通じて繋がっている。だから、そんな泣きそうな顔、しなさんな」

「誰が泣きそうだ、誰が!」

 

 むしろ大噴火寸前の巨大火山のような顔色で、ジャスミンがうなり声を上げた。

 だが、ケリーの判断そのものは正しい。

 こういった事態に陥ったときに最も頼りになるのは、間違いなくダイアナの情報収集能力と、情報操作能力である。彼女との繋がりが分散できるのであれば、それをしておくに越したことはない。

 ジャスミンは、ケリーの半身とも呼べる通信装置を受け取った。

 それを見て、ケリーが頷く。

 

「じゃあ、ちょっくら行ってくるぜ」

「ちょっとだけだぞ。あまり長引いたら、許さんからな」

 

 ジャスミンの視界に映ったケリーの後ろ姿が、少しずつ闇に飲まれ、小さくなっていった。

 

「おい、聞こえてるんだろう!?ちょっくら話し合いといこうじゃねえか!なに、下手な悪あがきなんて考えちゃいねえよ!それとも、そんなに俺が怖いかい!?」

 

 ケリーが朗々たる声で叫んだ。

 台詞はなんとも陳腐なものだったが、この状況で、少しも声を震わせることなく堂々と言えるのは、彼が海賊王と呼ばれた男だからできる芸当だ。

 ジャスミンは、両手で愛銃を握りしめ、何かに祈った。

 何でもいい、神様でも、精霊でも、この際魔物だっていい。

 どうか、あの男を殺さないでくれ。あの男を、この宇宙から奪わないでくれ。あの男のいなくなった、色を失った宇宙など、死んでも見たくないんだ!

 その声に応えたわけでもないだろうが、ケリーの声に応えたのは、銃声ではなく人の声だった。

 それも、年若い少女の声だ。

 

『こちらも、無駄な争いは望まない。まして、無益な殺生は好むところではない。話し合いには応じさせてもらおう。ただし、君たちの無条件降伏を前提とした話し合いならば、だ』

「へぇ、そいつはなんとも虫のいい話だねぇ。これでも俺もそこにいる女も、腕っぷしにはちょいと自信があってね。あんたらのうちの何人かを道連れにするくらいなら、別に難しいことじゃあないんだぜ?」

『我々は、同胞の一人や二人が死ぬことなど、任務遂行上の障害であるとは認識しない。もっと簡単にいうならば、やるならやってみろこちらには受けて立つ用意があるぞ、ということになるかな』

 

 くすくすと、家のあちこちから忍び笑いが漏れ出した。そのどれもが、年若い少年少女の笑い声だった。

 どうやらあの家を制圧した連中は、相当に茶目っ気があるらしい。普通の軍人であれば、こんな馬鹿な問答などには耳を貸さず、迅速に己の任務を遂行するものだ。

 これならば、何とかなるかも知れない。

 ジャスミンの胸に、淡い期待が点った。

 

「いいだろう、お前達の望みは何だ!?どうして雇われた!?金か!?もしそうなら、俺が、浴びるほどにくれてやるぜ!一生喰うに困らないだけの金をくれてやる!その代わり、ウォルって女の子と、ヤームルってじいさんを解放しろ!」

『駄目だな。我らはヴェロニカ特殊軍の軍人だ。命令を金銭で購うほどに、恥知らずではない』

「とにかく、顔の一つも見せてみろよ!それが交渉の礼儀ってもんだろうが!」

 

 ケリーの交渉は、全くもって交渉術の初歩も弁えない無茶苦茶なものだった。

 だがジャスミンは、この方法が間違えていないと確信した。

 ケリーと少女は、どこかで息が合っている。馬が合うというのだろうか、会話のリズムがいい。

 これは、交渉が上手くいっているときの兆候だ。

 それを示すように僅かな空隙が生まれ、玄関のドアが開く重たい音が響いた。

 

「これでどう?満足した?」

 

 やはり声は、年若い少女のものだった。

 ジャスミンからは、遠すぎて、そして暗すぎて、その少女の顔ははっきりと見えない。

 ただ、星の光を跳ね返す、赤茶けた髪の毛だけが、不思議と印象に残った。

 

「わたしたちの目的は、あの少女と、彼女に近しい人間を我らの主人の城に招待することよ。それも、できるだけ穏便にね。当然、あなたも任務対象に含まれるわ。むしろ、あなたは特に歓待するように申しつけられているの。だから、大人しくしたがってくれると嬉しいんだけど」

 

 なんとも蓮っ葉な口調だが、それが少しも嫌みではない。それは、少女の言葉のどこにも、自分が事態をコントロールしているという優越感が存在しないからだ。

 ジャスミンは、注意力の全てを聴覚に雪いだ。会話の一つも聞き逃すまいと。

 そして、聞こえた。

 闇夜に、男の喘ぐような、浅い呼吸が響いてくるのを。

 

「……どうしたの?わたしの顔に、何かついてる?そんな、死人でも見つけたような顔して」

「どうして……どうしてお前がここにいる!いや、どうしてお前が生きている!」

「……あなたの言っていることが、ちっとも理解できないわ」

「お前がどうして生きているんだと、そう聞いているんだ!答えろ、マルゴ!」

 

 ジャスミンは、我が耳を疑った。

 ケリーは、確かに叫んだ。マルゴ、と。

 それがどういう意味かを理解しないジャスミンでなかった。

 マルゴ。マルゴ・エヴァンス。西ウィノア特殊軍の、少女。ウィノアの大虐殺で、雑草を刈り取るように、奪われた命。

 そして、ケリーの、初恋の少女。

 彼女は、死んだ。他ならぬケリー自身の腕の中で、冷たくなっていったと聞いている。

 ならば、先ほどのケリーの叫びは、どういう意味だ。

 いや、そんなことは、今はどうでもいい。

 大事なのは、ケリーをしてマルゴと呼ばせる少女が、自分達と敵対したということ。

 そして、そのことはたった一つの事実を指し示している。

 ケリーは、その少女には、決して勝ち得ない──!

 

「……へぇ、どうして知っているのかしら、そうよ、わたしの名前はマルゴ。マルゴ・レイノルズ特殊軍大尉。一応、初めましてのはずよね、ケリー・クーアさん?」

「女王、何してやがる!逃げろ!さっさと逃げろ!」

 

 ジャスミンは思い切りに車のアクセルを踏み込み、強引に車をスピンターンさせた。

 そして窓を開け、叫んだ。

 

「海賊、死ぬな!絶対に迎えに行く!だから、絶対に死ぬな!」

 

 返答を待つ間もなく、車は走り出した。

 誰もそれを妨げようとしない。狙撃されることもなかった。

 ただ、遙か後方で、銃声が数発、鳴り響いた。

 

「ちくしょうっ!」

 

 ジャスミンは、固く握りしめた拳を、思い切りダッシュボードに叩き付けた。

 スピードメータの針が、悲しげに折れ曲がった。

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