懐かしき日々へ(デルフィニア戦記・暁の天使たち他)   作:shellfish

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第四十一話:瓢箪の中

「何のつもりなの」

 

 少女の低い声が、男の耳朶に響いた。

 闇である。

 暗い闇の中に、二人はいる。

 闇の中に、あたりの山から下りてきた木々の匂い、土の匂い、川の匂いが溶けている。

 遠くから聞こえる虫の音も、天球を埋め尽くす満点の星明かりも、体を撫でる風の気配も溶けている。

 無ではない、濃密な闇の中に二人はいる。

 二人以外にも、いる。

 家の中に、いくつもの気配がひしめいている。窓からこちらを覗いている気配が、いくつもある。

 車の、激しく吠えるエンジン音が、少しずつ闇に溶けていく。音が遠ざかるというよりは、音が闇に飲まれていくような感じがする。

 車は、男の妻を乗せているはずであった。後部座席には、先ほどの激戦の敵手であった少女と、おそらくはその少女の弟である少年を乗せている。

 ある意味では、男は一人だ。男の前に立つ、無骨な迷彩服に身を包んだ赤毛の少女は紛れもなく彼の敵であり、男をおもしろ半分に眺めるいくつもの視線もまた、彼にとっての敵であるはずなのだから。

 だが、男にとって、今は少女と二人であった。

 二人の間にある10メートルほどの空間が無いように、男と少女は二人で立っていた。

 

「何のつもりなのかと、わたしは聞いているんだけど」

「仕方ねえだろ。口に突っ込みたいのはやまやまだが、そうするとお前さんと話せないからな」

 

 男は──ケリーは、なんとも不本意そうな表情で、愛銃の銃口を、自分のこめかみに押しつけていた。

 まるで、これから拳銃自殺を試みるかのような、異様な格好である。

 なのに、その表情は、あまりに飄々としている。

 酒場で冗談を言い交わす若者のように、口元に緩やかな笑みを浮かべたまま、銃口をこめかみに押しつけているのだ。

 それでいて、彼の立ち姿のどこにも、死の気配がない。

 もしも彼の表情に今と違う感情が浮かんでいたならば──例えばそれが怒りでも、悲しみでも、苦しみでも、狂気でも、無表情であったとしても、それはこの世に別れを告げようとする男の、最後の瞬間にしか見えなかっただろう。

 

「こめかみを撃つと、意外なくらいに死にきれない場合が多くてよ。俺も、痛いのは好きじゃあねえんだ。口に銜えてずどんとやれば、痛いと思う暇もなくあの世行きだからな。どっちが楽かなんて、言うまでもねえや」

「質問を代えるわ。ケリー・クーア、拳銃自殺の真似事をして、あなたはわたしに何を求めているのかしら?」

「今、車で逃げていくあの女に、一切の危害を加えるな。もしも妙な真似をしたら、生かしちゃあおかないぜ」

「誰が、誰を?」

「俺が、俺の銃口の先にいる人間を、だ」

 

 それは間違いなく、ケリー自身である。

 ケリーは、ジャスミンを見逃さなければ、己が死ぬと言っているのだ。

 己の意志で。

 そうすれば困るのはお前達だよと、優男のようににやついた瞳が言っていた。

 少女──マルゴは、あざけるように笑った。

 

「それを信じろというの?」

「いんや、別に信じてもらようなんざ思ってねえよ」

「じゃあ、わたしにどうしろと言うの?」

「ご随意に」

「あなたはわたしにどうして欲しいの?」

「あんたの好きにすりゃあいいさ」

 

 ケリーの受け答えははっきりとしている。

 そして短く、なにより無造作だ。

 何に執着しているふうでもない。

 例えばこうだ。

 マルゴとケリーの間にテーブルと小洒落た椅子があり、綺麗にクロスの掛けられたテーブルの上に、ティーセットと箱詰めされた色取り取りのケーキがあるとする。

 どれも美味しそうなケーキばかりだ。最初にどれを食べようか、目移りしてしまう。

 その時に、俺はどれでもいいからお前から選べよ、とケリーが言ったとする。

 そういうときに、今のような声で、調子で、ケリーは言ったかも知れなかった。

 

「ふざけてるの?」

「いいや、俺はまじめさ」

 

 銃口は、相も変わらず、ケリーのこめかみに突きつけられている。

 その銃を握っているのは、間違いなくケリーの右手だ。

 そして、彼の意志だ。

 それを見るマルゴは、すでに笑っていなかった。

 

「それで交渉のつもりなの?」

「そんな上等なもんじゃねえな」

「じゃあ何?」

「いたちの最後っぺ、負け犬の遠吠え、キツネと酸っぱいリンゴ……は、少し違うかな」

「負け惜しみ?」

「そんなもんさ」

 

 ケリーは呆れたように肩を竦めて、

 

「それとも、大人の意地ってやつだ」

「意地?」

「ここは俺たちの負けさ。それは、どうしようもねえよ。だがな、同じ負けは負けでも、納得のいく負け方と納得のいかない負け方ってやつがあるんだ。どうせなら、最後に一泡吹かせてやった方が、夢見がいいだろう?」

「どうせ同じ負けなのに?」

 

 マルゴも、薄く笑っている。

 紅を引いていないのに真っ赤な唇が、僅かに緩んでいる。

 酒場で女にこういう表情をさせたなら間違いなく男の勝ちだ、そういう表情で笑っていた。

 

「だから言ったろ。これは大人の意地なんだって」

「大人ってどういうこと?」

「つまらねえってことさ」

 

 我ながら気の利かないジョークだと、ケリーは思った。

 少女は、興の削がれたような顔で、右手を軽く掲げた。

 窓のいくつかで、銃口の降りた気配がした。

 

「いいわ、あなたのつまらない冗談に免じて、奥さんは見逃してあげる」

「やれやれ。相変わらずお前を笑わせるのは難しいな、マルゴ」

「何の話?」

「こっちの話だ」

 

 マルゴも、それ以上聞かなかった。

 

「あの方も、あなたの奥様はできればあなたと一緒に連れてきて欲しいって言ってたから。変に欲張ってあなたに死なれちゃ、本末転倒も甚だしいわ」

「へぇ。本当に俺が死ぬと思ったかい?」

「あなたが死ぬかどうかは別にして……引き金は、間違いなく引いたでしょうね」

 

 ケリーは嬉しげに頷いた。

 

「大根役者のへぼ演技でも、死ぬ気でやりゃあ何とかなるもんだな」

「とにかく、わたしはあなたの要求を飲んだのよ。その物騒なものは下ろしてもらえると助かるのだけど」

「ああ、そりゃあそうだ」

 

 ケリーは、右手を下ろした。

 マルゴが、左手を挙げた。

 直後、乾いた音が、屋敷の二階、窓の辺りで響いた。

 銃声であった。

 放たれた弾丸は正確にケリーの四肢を撃ち抜いた。

 

「がぁっ!」

 

 ケリーの口から、火のような叫びが漏れた。

 数歩、踏鞴を踏むようにして後ずさる。

 だが、倒れない。

 歯を食いしばりながら立っている。

 右手も、銃を取り落としてはいない。

 額に粘い汗を浮かしながら、しかし不敵な表情は普段の彼と寸分も変わるところはなかった。

 そして、それはケリーを眺めるマルゴも同じことだった。

 自分の命令で目の前の男の四肢に風穴を開けておきながら、涼しい顔で言った。

 

「またさっきみたいに馬鹿な真似をされても困るから。恨むかしら?」

「いや、当然の措置だろうぜ。ついでにこいつも抜いておくかい?」

 

 ケリーは大きく口を開けて、舌を動かしてみせた。

 唇からわずかに突き出されたところで動く赤黒い肉塊が、ちろちろと卑猥に動いている。

 俺はいつでもこいつを噛み切ることができるのだぞという、せめてもの抵抗であった。

 

「舌を噛み切った死体を、わたしはまだ見たことがないの。そんなことで人が死ねるなんて、信じられないわ」

「ああ、俺もそうだぜ。これでもけっこう長く生きてきたつもりだが、舌を噛み切って死んだ人間を、俺はまだ見たことがねえな」

「じゃあ、噛んでも無駄だと思うわ」

「そうかね」

「それに、あなたと話しているとけっこう楽しいのよ。だから、あなたが喋れなくなると、少しだけ嫌だわ」

「なら、こいつを引き抜くのは無しだな」

 

 流石に疲れたのか、血を流しすぎたのか、ケリーはその場に座り込んだ。

 水の跳ね散る音がした。

 闇に紛れてわかりにくいが、彼の足下には小さな水たまりが出来ていたのだ。

 赤く、鉄臭い水たまりである。

 ケリーの命そのもので出来た水たまりである。

 これ以上その水たまりが大きくなることは、その源泉であるケリーの死を意味するだろう。

 事実、寒さと恐怖以外のもたらす震えで、ケリーの体は細やかに震えていた。

 

「意地っ張り」

 

 マルゴが拗ねたように呟いた。

 

「今から止血をするけど、妙な真似をしたらただじゃおかないわよ」

「妙な真似っていうと?」

「おしりを撫でたり、耳に息を吹きかけたり、キスをしたり、とにかくそういうことよ」

「もし悪戯心を起こしたら?」

「あなたの粗末なモノを踏みつぶしてあげる」

 

 赤毛の少女は、奇妙に醒めた口調で言った。

 ケリーは苦笑した。

 

「残念だぜ」

「あなたって、少女愛好趣味があるの?」

「さぁてね。おじさんが怖いなら逃げ出してもらっても一向に構わねえんだぜ?」

 

 にやりと笑ったケリーを無視して、少女が近づいてくる。

 ベストのポーチから止血帯を取り出し、てきぱきとケリーの四肢に巻き付けていく。

 それだけで、出血は劇的に収まった。

 

「手際がいいんだな」

「慣れているからね」

「いつもこんなことばかりしているのかい?」

「それが仕事ですもの」

「そうか、お前はまだ、こんなことばかりしているのか」

 

 少女の顔には、何も浮かばなかった。

 間近に見る少女の顔は、ケリーの記憶にある、少女の顔であった。

 勝ち気で、太陽のようにきらきらと輝く、鳶色の瞳。

 柔らかにウェーブした、赤茶色の髪。

 健康的に日焼けした、小麦色の肌。

 全てが少女を形作る重要な要素であり、その悉くが少女のそれと一致していた。

 今、自分の目の前にいるのは、あの時、自分の腕の中で死んだ少女そのものである。

 その認識が、ケリーの心をどれだけ傷つけただろう。

 涙を堪えた幼児みたいに切ない表情のケリーが、少女の柔らかな髪に触れようとしたとき、少女は無慈悲に立ち上がった。

 

「さぁ、もう満足したでしょう?なら、そろそろ行きましょうか」

「どこへ?」

「私たちの主のところよ。でも、その前に……」

 

 マルゴはケリーに向かって、無言で手を差し出した。

 掌が上になっている。何かを渡せというアピールだろう。

 ケリーは嘆息して、

 

「今さら暴れたりしねえよ。おら、もってけ」

 

 激痛の走る右手を無理矢理に持ち上げ、愛銃を手渡した。

 やはり無言で受け取るマルゴ。安全装置を下ろし、懐にしまう。

 そして、もう一度手を差し出した。

 

「何だ、その手はよ。もう、何も持っちゃいねえよ」

「右足のブーツの中に、携帯用の拳銃が一丁。ベルトのバックルに、ナイフが一本」

「……ちっ」

 

 マルゴの言うとおりであった。

 いかにも渋々といった様子で、右足から拳銃を抜き取り、ベルトのバックルを外す。そこには、ぎらりとどぎつい輝きを放つ白刃が隠されていた。

 マルゴは、やはり無言でそれを受け取り、自分の懐に収める。

 そして、もう一度手を差し出した。

 

「何だよ、その手は。もう、逆さに振ったって何も出てきやしねえよ」

「右目」

「はっ?」

「わたしが気づいていない、それとも知らないのだと思われているなら、それは許し難い侮辱だわ。そこがあなたのトレードマークなんでしょう、義眼の海賊さん?」

 

 ケリーの顔が、険しいまでに強張った。

 目の前の少女は──マルゴは、自分のことをどこまで知っているのか。

 先ほどは、自分のことをケリー・クーアと呼んだ。

 この星に入国するときは、当然のことであるが偽名を使っている。ならば、その名前はどこから漏れたのか。

 そして、義眼の海賊という呼称である。

 この少女は、否、この少女が主と呼ぶ人物は、自分のことをどこまで把握しているのか。

 何のつもりで、この少女を、自分のもとへと遣わしたのか。

 ケリーは、自分の心が冷たく研ぎ澄まされていく感覚を味わっていた。

 そのとき、小屋のドアが、神経に障る軋み声を上げながら、ゆっくりと開いた。

 

「終わったかい、マルゴ」

「ええ、ザックス。怪我人は?」

「この元気なおじいさんに暴れられて、何人かやられた。ま、一晩寝れば治るくらいの怪我だけど」

 

 ザックスと呼ばれた少年は、その細い肩に、大柄な人間を担ぎ上げていた。

 その人間は、両手を後ろに縛られ、足にも頑丈そうなロープが巻き付けられている。

 例え猛獣でも、少しも抵抗出来ないような有様だ。

 そのうえ、意識はないらしい。

 

「お姫様は、アネットが確保したよ」

「手荒なことはしてないでしょうね?」

「おれ達はね。でも、正規軍の連中が、お姫様の足を撃ってた。傷はけっこう深い。ま、そのおかげで楽に捕まえることができたんだけど」

 

 マルゴが、忌々しそうに舌打ちをした。

 

「ったく、あの馬鹿連中、女の子に銃を向けるなんて、何を考えてんのかしら。だいたい、あいつらにだってお姫様を無傷で捕まえるように指令が出てたはずでしょ?本当に使えないぐずばかりなんだから……」

「ねぇ、この子、早くお城に連れて行ってあげよう?ほとんどちゃんとした治療もされてないよ。こんなの、可愛そうだよ」

 

 ザックスの後ろから、少女が姿を見せた。

 背中に、意識を失った少女──ウォルを負ぶっていた。

 

「アネット。お姫様は?」

「薬で眠ってるわ。でも、時々魘されてるみたいで苦しそうなの。ねぇマルゴ、早く帰ろう?」

「ええ、そうね。もうここには用はないわ。早く帰りましょう」

 

 ケリーは、彼らの会話をほとんど聞いていなかった。

 いや、より正確を期すならば、聞いていた。しかし認識することが出来ていなかったと表現するほうが正しい。

 ザックス・エヴァンス。

 アネット・エヴァンス。

 その名前は、マルゴの名前と同じく、ケリーの記憶の最も奥底、ジャスミンですらが暴き立てることに恐怖を覚える、決して暴かれざる場所に、大切に仕舞い込まれている、名前だった。

 そして、顔と声であった。

 西ウィノア特殊軍。ほこり臭く狭苦しい宿舎の中で、輝くように笑っていた笑顔。

 血と硝煙が香る見世物小屋の中で、共に石に齧り付きながら戦った、ピエロ仲間たち。

 その全てが、目の前にある。

 偽りではない。マルゴはマルゴだ。あの茶色の、悪戯気な瞳。あんなものは、今まで一度しか見たことがない。その閉じられて、永遠に開かれなくなる瞬間を、自分は確かに見たのだ。見せつけられたのだ。

 ザックス。いつだって俺に突っかかってきた。あいつも、マルゴのことが好きだったんだ。飯のとき、マルゴの隣の席に座りでもしたら、つんつんの髪の毛と同じくらいに背筋を突っ張らせてた。

 アネット。そばかすの散った、気弱そうな顔立ち。本当は戦うことが好きじゃないと言っていた。戦争が終わったら、お花を育てて生きていきたいと。いつだったか、俺のことを好きだと言ってくれた。俺は、他に好きな人がいると断った。

 酷い男だ。あんなに可愛い女の子を泣かせるなんて。

 昔のことだ。

 昔のことの、はずだ。

 みんな、死んでいた。くそったれな毒ガスで、保健所の犬猫を処分するみたいに、あっさりと、味気なく。

 なら、今、目の前で楽しげに会話をしているこいつらは、何なのか。

 幽霊や化け物であってくれれば、どれだけ気が楽か。俺が狂ってしまっただけなら、どれほど救われるか。

 ケリーは、この場にはいない、何かを司る絶対的な存在に、ありとあらゆる罵詈雑言をぶちまけながら特大の呪いを捧げていた。

 

「さ、あとはあなただけよ。あまりわがままを言うと、勝手に抉り取らせてもらうけど、それでもいいの?」

 

 マルゴが、差し出した掌を、くいと動かした。

 ケリーは無言で右目に指を突っ込み、いくつかの操作をして引き抜いた。

 昔、田舎海賊に毟り取られたときのように、血が溢れたりはしない。ただ、右目のあった場所には暗い、無限のように暗い眼窩が口を開けているだけだ。

 体液でぬらりと光る右目を、少女に放り投げた。

 

「おらよ。そいつは特注品だ。壊すと高いぜ?」

「心得ておくわ。それに、これはただ預かるだけ。折角、私たちの父があなたと会いたいって言ってくれてるのよ。無粋な人工頭脳に邪魔されちゃたまったもんじゃないわ」

 

 ダイアナのことを言っているのだ。

 マルゴはケリーの右目だった球体を、物々しい金属箱の中に仕舞った。おそらくは、電波を完全に遮断する類の箱だろう。

 念の入ったことだ。

 

「じゃあ行きましょうか。ケリーさん、あなたはどうするの?おんぶして欲しい?それとも、救急用担架で運ばれるのがお好みかしら?」

「そんなご大層なもんはいらねえよ。他人様の手を煩わせるまでもねえさ」

 

 ケリーは億劫そうに立ち上がり、風穴の開いた足で、ほとんど普通の調子みたいに歩いて、軍用のジープに乗り込んだ。

 自分が危地に陥っていることは、すでにダイアナに伝わっているはずだ。義眼を外しこちらの消息が途切れれば、彼女は嫌でもそれを知ることになる。

 以前のように、無秩序にすっ飛んでくるということは考えにくい。今は、ジャスミンという強力な仲間がいるからだ。彼女たちの間に築かれた信頼関係は、ダイアナの恐慌を押さえて余りあるだろう。そしてジャスミンとは連絡が取れる状態にある。

 ケリーは意味なく夜空を見上げた。そこに輝く星々のどれかが、ひょっとしたら顔を真っ青にした自分の相棒かも知れないのだ。

 悪いことをしたなと、この男らしくなく、少し落ち込んだ。

 

「これを着けて」

 

 隣に乗り込んだマルゴに、黒く分厚い布を手渡される。

 意味するところは明確だったし、断れば強制的に着けられるだけの話だ。

 ケリーは、痛みに震える腕で、それを顔に巻き付けた。

 視界の一切が奪われた。

 もともと、星明かりだけの真っ暗闇である。ケリーは夜目の利く方であったが、義眼を外された状態では、暗がりの奥を覗けるわけではない。

 そのうえ、分厚い布を顔に巻き付けては、ものが見えるはずもない。

 上手に巻けば、僅かな隙間からものが見えないわけでもないが、隣に座った少女がそれを許しはしないだろう。そんな姑息なことでかつての思い人に失望されるのは、どうにも嫌だった。

 だから、しっかりと巻き付けた。

 やがて、エンジンの吠える音が聞こえた。

 布の外の世界では、ヘッドライトの灯りがともり、暗闇の世界を僅かながらに押し戻したりしているのだろう。

 だが、ケリーにはどうでもいいことだった。

 

「ウォルと、ヤームルってじいさんはどうした?」

「別の車に乗ってるわ。心配しなくても目的地は同じよ」

「そうかい。じゃ、俺は少し眠るからよ。適当な頃合いに起こしてくれ」

 

 そう言ってケリーは、シートに深く体を埋めた。

 自分の体の状態は、嫌と言うほどに分かっている。極度の疲労に、いくつかの打撲傷。そして極めつけが四肢に開いた控えめな風穴である。

 眠れるときに眠っておかないと、動けなくなるという確信があった。例えそれが虎の巣の中でも、今喰われるわけでは無い以上、眠っておくべきだ。

 撃ち抜かれた四肢が、ずきずきと、心臓の拍動に合わせて酷く疼く。止血をしただけで、まともな治療はしていないのだ。常人であれば、気を失うほどの痛みである。

 だが、少なくとも、布の下に隠されたケリーの顔に、苦痛の色彩は全く無かった。

 車は、山道をしばらく走った。カーブを曲がる度に体に横向きの重力がかかり、傷が痛んだ。

 やがて、激しい振動が無くなる。綺麗に舗装された道路にかわったのだろう。そこを、山道を走った時間と同じほどに走った。

 

「降りて」

 

 マルゴの声がする。

 うとうととしていたケリーは、連れ出されるようにして車から降りた。

 そして、別の車に押し込まれる。

 

「おいおい、少しは手加減してくれよ。これでも怪我人だぜ」

「これ以上怪我を増やしたくなければ黙っていなさいな」

 

 ケリーは黙った。

 その車で、少しまともな治療を受けた。

 止血帯を外されて、傷口に応急処置的な治療を施される。増血剤は遠慮無く頂いたが、痛み止めの注射は断った。

 そして、次の車もしばらく綺麗な道を走った。

 途中、何度か耳の奥がツンと突っ張る感じを味わった。

 トンネルに入ったのか、それとも急激な高低差があるような道を走っているのか。エンジン音が籠もるように響くこともあった。

 どちらにせよ、そういう場所で、何度か車を変えた。おそらくはダイアナによる監視を巻くための処置だろう。彼女は優れた眼を持っているが、地下の隅々まで見渡せる千里眼を持っている訳ではなかった。

 しばらくは、ダイアナの救援を望むことはできないだろう。ケリーはそう考えた。

 そういうことを続けているうちに、車は目的地に着いたらしかった。

 

「降りて」

 

 今まで何度も聞いた指示である。

 ただ、今回はそれに、もう一つ指示が加わる。

 

「もう、その布を外してもいいわ」

 

 ケリーは遠慮無く外した。

 分厚い布から解き放たれた左目がまず捕まえたのは、少しずつ青みがかっていく東の空だった。

 夜が、明けようとしている。

 あの時、小屋を発ったのが深夜であったから、かなりの時間を車で走ったことになる。

 それほど遠くにきたのか。それとも、同じ場所をぐるぐると回っていただけなのかも知れない。

 とにかく、夜が明けようとしていた。

 濃い群青色に薄まりつつある夜の気配、その下に、激しい起伏を描く稜線が見える。

 この場所は、山に包囲されている。

 そしてケリーの目の前には、こんな場所には不似合いな、石造りの城が聳え立っていた。

 

「……ひでえ冗談だ」

 

 吐き捨てるように言った。

 山の高さに挑むかのように聳える城壁と、荘厳を通り越して滑稽なまでに巨大な門。

 それは紛れもなく、人が空を飛ぶ鳥に憧れしか抱き得なかった時代の、城だった。

 どこの酔狂者がこんな無駄なものを、こんなへんぴな場所にこしらえたのだろうか。その努力をもう少しまともな方向に向けることが出来なかったのか。

 こういう状況で、城の見事さに感心することが出来ないのは、人生という視点に立ったとき、得なのか損なのか。

 

「降りなさい」

 

 もう一度、聞こえた。

 今度無視すれば、文字通り力尽くで引きずり出されるのだ。

 それは嫌だから、痛む四肢に鞭打って、這うように車から降りた。

 高地特有のひんやりとした空気が肌を刺す。吐息が、僅かに白む。遠く、一番鶏の鳴く声がした。

 四肢の痛みは、引くどころかますます酷くなっている。痛み止めを拒否したのだから当然のことだ。だが、薬で鈍らされた神経がどれほど役立たずかを知っているから、そう易々と痛みを手放すわけにはいかなかった。

 ケリーは、マルゴに促されるままに歩いた。靴底に、砂利と雑草を躙る感触が伝わる。

 既に落とされていた跳ね橋の先に、巨大な門がある。

 牛を丸呑みする巨人でも立って潜れるような門が、ひとりでに開いた。中にいる人間は、当然のことながら、マルゴの帰りを今や遅しと待っていたのだろう。

 ケリーが背後をちらりと見ると、十数人の少年少女が自分達の後をついてきていた。

 その中には、ヤームルを担いだザックスの姿があり、ウォルを背負ったアネットの姿がある。

 それ以外の少年少女のうちに、ケリーの見知った顔はなかった。

 ケリーの口から、深い安堵の溜息が漏れた。

 

「どうしたの。早くしなさい」

 

 肩をひとつ竦めて、マルゴの後を追う。

 大きな城門を潜ると、その奥にはまっすぐに伸びる石畳の道と、その脇に広がる広大な庭があった。

 庭は綺麗に整備され、幾何学模様に配置された庭木と噴水が見事な調和を描いている。もう少し鮮やかな陽光の下であれば、もっと映えたに違いなかった。

 ケリーは無言で石畳を歩いた。マルゴはケリーの怪我には一切気をつかわなかったから、かなり辛い道行きであった。

 次に現れた門は、先ほどの城門に比べれば大きさでこそかなり劣るものの、その重厚さでいえば一歩も引かない、立派な門だった。綺麗に彫刻がされ、年月を経た樫の木材は得も言われぬ深みを醸し出している。

 少女が近づくと、その門もひとりでに開いた。どこかに監視装置のようなものが仕掛けられているに違いなかった。

 そこを潜ると、いよいよ古めかしい城の内部だ。

 内部も石で作られており、所々に小さな火の点った燭台が設えられている。廊下は長く、途中にいくつもの部屋があった。その奥に、どこまで続くのか知れない長大な階段がある。

 今からあそこを昇るのかと思うと、流石のケリーもうんざりした。昨日から過重ともいえる肉体労働を強いられているのだ。そのうえ、手足には一つずつ風穴が開いている。

 なんとなく立ち止まったケリーの脇を、後ろに続いていた少年達が追い抜かしていく。その中には、当然のことながら、未だ意識の戻らないウォル達の姿もあった。まだ目を覚まさないということは、余程の低血圧なのか、それとも薬でも嗅がされたか。

 ケリーも彼らを追おうとした、そのとき。

 

「あなたはこっちよ」

 

 マルゴが、すぐ近くの扉を開けた。

 途端、ケリーの鼻を、嗅ぎ慣れた臭気が刺激した。

 消毒薬の匂い。白衣の匂い。オゾン消毒された機械の匂い。

 中世めいた石造りの城には似つかわしくない、近代的治療機器の揃った、真っ白な部屋だった。

 

「へぇ、サービスのいいことだな」

「あなたは、本当ならお客様だったのよ。それを、妙な真似をするからあんなことをしなくちゃいけなかったんじゃない。これじゃあ、お父様に怒られるわ」

 

 マルゴが、唇を尖らせるように言った。

 先ほどと比べて、彼女の口調が、幾分柔らかくなっている。

 それは、自分の住処に帰ってきたという安堵から来るものだったのかもしれないし、任務を完了したということで気が緩んだのかも知れなかった。

 とにかく、その口調はケリーの記憶にある。初恋の少女のそれに近いものだったのだ。

 

「で、俺はここで何をすりゃあいいんだ?」

「そうね、まずは服を脱いで頂戴。上も、下もよ」

 

 ケリーは動じることなく、服を脱いだ。ジャケットとシャツ、その下に着ていた肌着をハンガーに掛け、ズボンと下穿きを籠の中に突っ込む。

 身に纏うものを無くしたケリーの体は、すらりと均整のとれた若獅子のような見事さだ。筋骨隆々というわけではないのに、必要な筋肉は必要なぶんだけ、必要な箇所にしっかりとついている。一見すれば痩せているように見えなくもないが、例えば首や胸板などは、驚くほどに分厚い。

 無駄のない肉体だった。

 マルゴは、それを無感動に見遣り、ケリーを部屋の奥へと誘った。

 そこには、人一人が楽々と横たわれるカプセルタンクがあった。

 

「組織再生療法か」

 

 医術には人並みに疎いケリーであったが、自分が何度もお世話になったこの機械を見間違えるはずもない。

 このタンクに特殊な薬液を注ぎ、患者はその中に横たわる。患部に細胞分裂を促す薬を注射し、電気的な刺激を与え続けることで組織を劇的に回復させる。

 外科的な負傷に対しては、驚くほどに効果が高い。腕や足を失った場合でも、患部の応急処置が適切であり、万能細胞の培養に成功さえすれば、その再生も不可能ではない。

 ケリーはもともと極めて高い治癒能力を有している。野生の獣と同じだ。簡単な怪我であれば、飯を食って寝れば一晩で治ってしまう。

 加えて組織再生療法の恩恵にあずかることが出来るならば、この程度の銃創、一昼夜で回復するだろう。

 

「ありがたいね」

 

 ケリーは遠慮無くタンクに横たわった。

 マルゴはそれを確認するふうでもなく、機械のスイッチを入れる。

 ブゥンと、モーターの起動する音がした。ケリーの体にも、微細な振動が伝わってくる。

 

「溺れないようにしてよね。ここであんたに死なれたら、わたし、お父様から大目玉をもらっちゃうわ」

 

 ケリーはその言葉を無視して、ゆったりと目を閉じた。

 パイプを伝って染み出してきた薬液が、少しずつタンクに溜まっていく。その温い感覚が、疲れた肉体には心地いい。

 車では、結局一睡も出来なかった。努めて眠ろうとしているのに、うつらうつらと意識が揺らぎ始めた瞬間を狙うようにして、車の乗り換えを強制されたのだ。今は、眠ろうとしなくても、意識を緩めれば睡魔に襲われてしまう。

 ケリーは、遠慮無く目を閉じた。治療中は、別に何をしなければならないわけでもないのだ。大人しく横たわっていれば、それでいい。

 ここまでしておいて、今さら殺されるわけでもないだろう。少なくとも、今から殺そうという相手をわざわざ治療してやる酔狂もいない。

 カプセルの閉じる音がする。外界の音が遮断され、じわじわと薬液の染み出す液体音と、自分の拍動音以外、何も聞こえなくなる。

 海のようだ。

 そう思ったケリーは、どこか懐かしい、子供達の笑い声のさざめく場所に誘われていった。

 

 

「まだ起きてるの?」

 

 空気の抜ける音とともに開いた扉、その向こうには、黒髪の青年が立っていた。

 サファイアのように澄んだ青い瞳が、今は深い憂いを帯びている。

 ベッドの端に腰掛けた少年は、己の罪を自覚した。青年にそんな辛そうな顔をさせるのは、どうしても嫌だったのに、そうさせたのは確かに自分なのだ。

 

「そろそろ眠るよ。今、寝ておかなくちゃ、いざというときに動けない」

「そうだね。宇宙船の中で走り回って到着するのが早くなるなら、どれだけでも走り回るんだけど」

「だから船はあまり好きじゃない」

 

 少年は、視線を窓の外に移した。

 寒々とした宇宙空間に、無数の輝きがある。ぽつりぽつりと輝くもの、星雲、ガス状の惑星。

 どれだけ見ていても見飽きない。

 

「一度、あいつに一服盛られたことがあるんだ」

「うん。王様自身から聞いた」

「それが原因で大喧嘩した」

「でも、きみは王様を殺さなかった。ぼくが、きみに危害を加える連中は許すなって言ったのに、エディはそれを守らなかったんだ。偉かったね」

 

 いつの間にか少年の隣に腰掛けた青年が、少年の、黄金色の頭を優しく胸に抱いた。

 少年は、心地よさそうに目を閉じた。

 

「今でもシェラに愚痴を言われるんだ」

「だって、エディと王様が本気で大立ち回りをしたんだもの。部屋の一つくらい、使い物にならなくなったんじゃないの?」

 

 少年は、青年を見上げた。

 

「ルーファは何でも知っているんだな」

「ううん、その逆。ぼくは何も知らない。知らなさすぎて、この世界がたまらなく面白い。愛しい。それは、きみのことも」

「ああ、おれもルーファのことは何もわからない」

「だから、ぼくたちは相棒なんかをやってるんだよ」

「知ってる」

「だから、もっとぼくを頼ってね」

「ああ、知ってる」

 

 少年は、はにかむように笑った。

 

「あいつに、言われたんだ」

「王様に?」

「きちんと食べて、きちんと寝ろって。そうすれば、二度と薬を盛ったりなんかしないって」

「エディはなんて答えたの?」

「これからは無様な姿をさらさないよう、きちんと食べてきちんと寝るって誓ったよ」

 

 青年が、少年の髪を、細い指先で梳った。

 

「じゃあ、約束は守らないと」

「うん」

「もう寝ないと、明日が辛いよ」

「うん、もう寝る」

 

 船は、静かに、しかし可能な限りの巡航速度で宇宙空間をひた走る。

 彼らを足止めしていた宇宙嵐は、既に収まった、もしかしたら、どこかの誰かが収めたのかも知れないが。

 航海が順調に進むならば、時計の短針が十回も回れば、この船はヴェロニカに到着するだろう。

 なんとも間の抜けた通信文が届いたのは、今日の夕刻過ぎのことだった。

 

『早く来ないと、可愛い奥さんが悪い狼の餌食になっちゃうわよ』

 

 誰が送り主か不明。どこから届いたのかも分からない。

 そういう通信文だった。

 だが、少年と青年には、その通信文が誰から送られたものなのか、分かりすぎるほどに分かった。短い文言の中から、溌剌とした微笑みを浮かべる月の女神の息遣いが感じられるほどだった。

 そして、その通信文に同封された、少女の写真。

 あどけない様子でカメラを見上げる、黒髪の少女。初めて見た薄化粧は、見事なほどに美しく、少女を飾り付けていた。

 頭の先で揺れるウサギ耳も、首に巻かれた黒いチョーカーも、幼い肢体を包むバニースーツも、少女には似合いではなかったが、確かに可愛らしかった。

 そして、生きていた。

 それが何より、少年には嬉しかった。

 

「王様、可愛かったね」

「あんなの、あいつには似合わないと思う」

「可愛くなかった?」

「可愛かったよ」

 

 青年は嬉しそうに頷いた。

 

「今度、シェラも連れて遊びに行こう。そこで、王様の服を選んであげよう。あんな色っぽすぎる格好より、もっとあの子に似合う服を探してあげるんだ」

「きっと嫌がるだろうな」

「そう?意外と喜ぶかも知れないよ?」

 

『ええい放せ、俺はこんなに可愛らしい服を着るつもりはない!』

『おお、けっこう似合うではないか。どうだリィ、こっちとどちらが俺に合っているかな?』

 

 どちらも、あの脳天気なもと王様の言いそうな台詞だった。

 少年は、くすりと笑った。

 

「ありがとう。少し、落ち着いた」

「眠れなかったら、ぼくの部屋においで。一緒に寝よう。鍵は、あけておくから」

「うん。でも、多分このまま眠れると思うから、大丈夫だよ」

 

 青年は、少年のなめらかな額にキスを一つ落としてから、立ち上がった。

 

「なぁ、ルーファ。一つ、聞いていいかな」

「うん?」

「あの時、あいつがあの星で行方知れずになったときのことだけど……」

「手札のことだね」

 

 少年は、青年を見上げながら言った。

 

「どうしてあの時、手札は間違えたんだろう」

「ぼくも分からない。ずっと、不思議だったんだ」

 

 青年は頷いた。

 

「王様を占った時、何回カードをめくっても、結果は王様の死だった。あれほど明確にヴィジョンが出ることも珍しいくらいに、それは明らかだったんだ。でも、現実は違う。どう考えても、あの子はまだ生きてる」

 

 少年は頷いた。

 

「エディは、この齟齬をどう思う?」

「分からない。今までルーファの手札が間違えたことなんて一度もなかったのに」

「それは違うよ。手札は間違わない。間違うとしたら、それは手札を読み解く側、つまりぼくなんだ」」

 

 手札は間違わない。間違えるとすれば、それを読み解く側だ。常日頃からの青年の持論である。

 しかし、それを言うならば、青年は一度だって手札を読み違えたことはなかったのだ。

 

「正直に言うと、ぼくも手札の読み方には一応の自信を持ってる。じゃないとあんな大事な場面で使うことは出来ないからね。でも、あれほど明確に読み間違えたのは初めてだ。だって、あの子は生きているんだから」

「──」

「王様は、あのとき確実に死んでいたんだ。でも、今は生きている。これは、王様自身の命のことを表してるはずがない。一度死んだ生き物は、二度とは目を覚まさないのがこの世の決まり事なんだから」

「そのわりには、その決まり事を守らない不届き者が意外と多いよな」

「そうだね、不思議なくらい、ぼくたちの周りにはそういう人が多いね」

 

 青年は、うっとりと微笑んだ。

 

「だから、ぼくはこう思う。手札は、王様の命そのもの以外の何を読み取って、死に神のヴィジョンを顕した。そうとしか考えられない」

「確かに、おれもそう思う。だけど、あの時占ったのはあいつの安否だったはずだ。なのに、それ以外のものを占ってしまうなんて、そんなことがあるのか?」

「あり得ないとは言い切れないんだ。万有引力じゃあないけど、この世に遍く事象は、それ自体が互いに強く影響し合っている。その中で特定のものを結ぶ因果を引き抜いて、その起承と転結を探るのが占いなんだ。当然、事象を結ぶ因果に他の事象が結びついていれば、占いもその影響を受けざるを得ない。特に、そのエネルギーが強すぎると、占いの結果もそれに引きずられることがある」

「……よくわからないけど、結論を聞かせて欲しい」

「エディ。君の王様の性質は、君と同じく『太陽』だ。全ての生き物に光と熱を与え、正しい方向に導こうとするのがその本質なんだけど……」

「あいつはともかく、おれはさっぱりそういうふうじゃあない気がするけどな」

 

 青年は一拍おいて、真剣な調子で言った。

 

「あのとき、きっと、王様の中の太陽が死んだんだよ」

 

 少年は、青年の瞳を見つめた。

 凪いだ湖のようなその瞳には、一切の感情が浮かんでいなかった。

 

「おやすみ、エディ」

「うん、おやすみ、ルーファ」

 

 扉の、静かに閉まる音が、部屋に響いた。

 そして、翌日。

 驚くべきニュースが、ピグマリオンⅡの艦内を走り抜けた。

 

『ヴェロニカ政府が共和宇宙連邦からの脱退を表明。また、それと同時に、同国において執り行われる大規模な宗教的な儀式において、惑星ベルトランの州知事の娘を人身御供に捧げるという、信じがたい暴挙を行う旨を発表した。これに対して共和宇宙連邦政府首脳陣は──』

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