仮面ライダー555 SPIRITS   作:bassher

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エピソード0 村上峡児

 

 

 

 

 

 

 

 時は半年前、東京都は多摩市と府中市を結ぶ関谷橋、午前1時。

 

 

「巧、戦って。戦って巧!」

 

 

 カーキ色のパーカーにジーンズといういでたちの非常にカジュアルな、頬から顎にかけての丸みが柔らかそうな女、真理は男にその言葉を送った。

 

 

「毎回毎回ウゼえな。キツいよ。おまえの期待に応えんのは。」

 

 

 その男は異形であった。漆黒のスーツで全身を包み、胸板や肘、膝等要所に白銀のプロテクターが付着している。腰には白銀のベルトが巻いてあり、そこから血管のように体全身に伸びる紅いラインは夜の河辺に怪しく光る。もっとも特徴的なのは触覚が2本生えたマスク。オートバイのヘルメットのようでありながらも巨大な複眼をもつ蟲の顔のようにも見え、さらにその目と鼻筋の銀のラインはΦのマークに見えなくもない。

 

 

「仮面ライダー555。」その異形は眼前の対手からそう呼ばれた。「我がスマートブレインにファイズのベルトを返還なさい。最後通牒です。」

 

 

 そうスーツの男が叫んだ。スーツで身を固めているものの、ほのかな野心を漂わせ、なおかつ智性も匂わせる。それが層を為して調和し深みを加え、むしろスーツなど似合わない、鮮血に塗れた武者鎧か軍服が似合いそうな、死臭の威圧感すら感じる壮年の男。

 

 

「これはアンタらオルフェノクを倒すための武器なんだろ。だったら渡す訳にはいかないな。」

 

 

 ファイズである巧は、緊張感の欠け片も無い態度で答え、スーツの男はその冷徹な表情を嫌悪感で歪ませた。

 

 

「乾巧、園田真理。それは元々スマートブレインの物であり、それは即ち社長である私、村上峡児の管理すべきものであり、そして我々オルフェノクの所有物、オルフェノクの皇を守る為のベルトです。やはり力ずくでお返し願うしかないようですね。」

 

 

 我々オルフェノク、村上峡児の背後にはファイズとはまた違った異形の存在が3人、もしかして3匹がユラユラと立ちつくしていた。

 

 

 一人はフジツボを全身纏わり着かせたような体をしている。一人は両腕にリボルバーを持つコウモリ、最後の一人はいったいなんと形容したらよいのか、太古の昔より竜とも龍とも言われた伝説上の怪物を具現化したらこのようになるとしか言様の無い異形であった。彼らこそが《オルフェノク》。白灰の、人であって人でない像を持つ異形達である。

 

 

「死んで私に詫びなさい。ファイズ。」

 

 

 村上峡児が指で合図する。直ちにバーナクルオルフェノクとバットオルフェノクが躍り出る。

 

 

「いつもの展開かよ。」

 

 

 襲い来る敵になお不謹慎なまで緊張感の無いファイズ=巧は、面倒そうに腰のベルトから四角いバックルを取り外す。それを中折れの携帯電話のように展開、さらにヘの字に折ると、銃のように見えた。巧は2丁リボルバーを構えるバットオルフェノクに銃を、その名も《フォンブラスター》を構える。

 

 

 連射連射連射、

 応射応射、

 

 

 フォンブラスターは紅の光線を連射し、バットオルフェノクもまたリボルバーから徹甲弾を応射する。光弾と実体弾の応射は目に見えてファイズの優勢になり、バットは2丁拳銃を落して怯む。

 

 

「忙しいヤツラめ。」

 

 

 だが銃撃戦が展開されるその合間に、回り込んだバーナクルオルフェノクが突進をかけてきた。

 

 

 蹴りを鳩尾へ、

 

 

 まるで緊張感の無かったそれまでのファイズから一転俊敏な蹴りがバーナクルオルフェノクを捉える。その5トンの破壊力を鳩尾に受けたバーナクルはもはやその場を動かなくなってしまう。

 

 

「面倒くせえ」

 

 

 バーナクルに気を取られていた刹那既にバットオルフェノクは鎌を手にファイズに近接していた。だがファイズは右腕一本で無造作にバットの鎌を弾く。動作はあくまで柔らかく単調だが、対手の様態を素早く見取って直感鋭く隙を突く。

 

 

 拳2連打、

 

 

 続けざまファイズはバットオルフェノクの肺に左パンチで圧迫。破壊力と呼吸困難で怯むバットの顎に右パンチがヒットした。

 

 

 致命打を受けて燃える2体のオルフェノク、

 

 

 不可思議な現象が起った。攻撃を受けたオルフェノク2体はファイズの左右で突如燐光の炎をあげて爆発的に発火、一瞬で鎮火し、炭化したかのような体はボロボロと頭から灰ほどに細かく崩れ落ち、風に流れて跡形もなく消え去ってしまった。人間どころか生物ですらあり得ないそれがオルフェノクの死だった。炎は生命力の証、生命力を燃焼させたオルフェノクは灰となってこの世から欠け片も残さず消滅する。

 

 

「どこの誰が言い始めたかは知らないが仮面ライダーとはよく言ったものだ。いいでしょう。北崎くん。上の上たる君には申し訳ありませんが女の方をお願いします。このゴミムシ君は私一人でよろしい。」

 

 

 村上峡児はそう言うと、スーツ姿が陽炎のように消え、淡い光を放ったかと思うと、驚くべきことに異形、オルフェノクの白灰の像へと変貌を遂げた。そのしなやかな四肢は植物の細く青々とした茎を連想させ、ところどころのトゲ、そして頭に見える何層も重ねた花びらは明確にバラをイメージさせた。オルフェノクは人間が変身する。即ちオルフェノクは社会に融け込み、村上峡児のようになに食わぬ顔で人並みかそれ以上の生活を営んで、もしかしてすぐ近くの隣人、あるいは先程話したばかりの友人になっているかもしれないという事である。

 

 村上峡児の変身と共に、いままで静かに仁王立ちしていたドラゴンオルフェノクが悠然と歩きだす。

 

 

「真理に手を出すな、真理を殺す必要なんかない!」

 

 

 関谷橋は一直線、北側から村上峡児、ファイズ、真理と位置し、真理を襲う為にはファイズの眼前を通過しなければならない。止めに入ろうとするファイズ。だがドラゴンオルフェノクはなんのリアクションもなく素通りしようとする。

 

 

「見せしめです。」

 

 

 割って入るローズ、ファイズの顔面に掌底、

 

 

 ローズオルフェノク、村上峡児がドラゴンとファイズの間に割って入った。顔面に村上峡児の掌を食らったファイズは、怯んで一瞬狼狽えるも、

 

 

「じゃぇ」首振りしただけでただちに反撃に移ろうとする。

 

 

 2,5トンの右パンチを繰り出すファイズ、だがその破壊力を左腕で撓ってあっさりなぎ払う村上峡児、続けざまファイズの左パンチ、しかしそれも左腕で裁いてしまう。さらに反撃に村上は左腕を突き出し、ファイズをまたも掌底で弾き飛ばした。全ての動作が合理的でムダも隙も無い。

 

 

「乾巧君。私の嫌いな言葉は幸運と才能なんですよ。」弾き飛ばしたファイズにゆっくりと間合いを詰める村上峡児。「私は元々白血病で君ぐらいの年には既に寝たきりでした。神を呪いました。だが花形さんを知り、進んでオルフェノクにしてもらいました。私の生命力が神に勝ったのです。」

 

 雄弁な村上峡児と真反対の方角から少女の叫びが上がった。ファイズが振り返る。真理がドラゴンオルフェノクに首を捉まれ軽々と持ち上げられている光景が目に映る。ドラゴンの太い爪が真理の胸骨すぐ上の気管から食道を貫き、頚椎を挟む。

 

 

「キサマっ!」

 

 

 ドラゴンに絶叫する巧。

 

 

「まだ話は終わっていません。私は無視されるのが大嫌いなんですよ。」

 

 真理に歩み寄ろうとするファイズを村上峡児は背中から羽交い締めにして行動の自由を奪う。村上峡児の上腕二頭筋の痙攣がファイズのマスク越しに頬骨を圧迫した。

 

 

「た、タク・・・」

 

 苦痛と呼吸困難で失神しそうになりながら、ファイズ=巧に助けを求めその小さな手を差し出す真理。

 

 

「だが私のオルフェノクとしての能力は過小なものでした。それでも人間であった頃より鍛えられる肉体を持ち、知識を得る小さなチャンスを見出しました。私はその限りなくゼロに近いチャンスから全てを自力で積み上げて、今日の力と地位を手に入れたのです。」

 

 

 村上峡児の棘付の拳がファイズの左脇腹を強打する。

 

 

「マリ・・・・」

 

 

 身動きがとれないファイズはそれでも真理の手を握ろうと同じく手を必死に伸ばす。だが二人の距離はあまりにも遠かった。

 

 

「私の力は、この棘から注入される毒だけです。毒と言ってもほとんど麻痺しかしない程度の弱いものですがね。私はこの力だけでのし上がったのです。貴方のように偶々ベルトを手に入れ、偶々適合し、そして偶々超人的な力を手に入れたようなゴミムシ君とは、全てにおいて年輪が違う。」

 

 

 ファイズに映る真理がぼんやりと霞んでくる。肉体の感覚が失せていき、腕を上げているのか下げているのかすら自覚できなくなる中、ファイズに絶望の光景が映った。

 

 

「タクっ・・・ミ」

 

 

 ドラゴンオルフェノクがその腕を無造作に突き込む。ドラゴンの腕が真理の血で塗れる。一度では無い、二度、三度、何度も突き入れ、その度真理の肉体がピクと反応する。もっといろいろな表情を見たいのかドラゴンはさらに同じ腹を突き続けた。動脈血が飛び散った。そのうち真理の伸ばした手がダラリと下がる。

 

 

「おまえ・・・・」ファイズの手もダラリと下がってしまった。

 

 

「もう貴方は肉体があるかどうかも知覚できないはずです。念入りに殺してあげますよ。私は貴方が大嫌いですからね。」

 

 

 もはやほとんど見えない視界に、なんの反応もしなくなった真理の姿が映る。ファイズはその意味を理解した。そして理解した瞬間急激に巧の意識が覚醒していく。

 

 

「ふざけんっな!」

 

 

 頭に左拳、

 

 

 ファイズの左拳を頭のバラに食らう村上峡児、

 

 

「バkカqっ」

 

 

 花びらが散って、おしべが潰れてしまう。

 

 

「ノyウ#ガ%ョノ=ウVガF」

 

 

 途端にファイズを解放し、頭を抑えながら身悶えする村上峡児。

 

 

「ふざけんな、てめえ真理をよくも!」

 

 

 解放されたファイズは、ドラゴンオルフェノクしか見えていない。バックルを開くファイズ。それは本当に携帯電話のようにテンキーが並んでいる。テンキーをいくつか入力すると『complete』の合成音がそのバックルから流れ、ファイズが両手を突き出して構えた虚空から、光と共に箱のようなものが出現する。それは極端にラジカセにカモフラージュした武器《ファイズサウンダー》。ベルトから両腕を伝って紅い光がそのサウンダーに注ぎ込まれると、スピーカーに模した二つの砲門が同じく紅く光り、

 

 

「ゆるさねえぞ!」

 

 

 発射っ!

 

 

 二門の砲が強大な光弾を発射し、ひるんだドラゴンオルフェノクを呑み込んでいく。呑み込んで飽和爆発、ドラゴンオルフェノクの遺体も欠け片も残さずただ暗闇だけが残った。

 

 

「真理をよくも、」

 

 

 ドラゴンオルフェノクが跡形も無く消え去ったことを認識したファイズは、ファイズサウンダーをかなぐり捨て、

 

 

「オuレ\の、ノ、脳が」

 

 

 怒りのままに今度はローズオルフェノク、狂いから立ち直りつつある村上峡児に目を向ける。

 

 

 腰に装着していた、スコープに模した《ファイズポインター》を右足に着け直す。

 

 

『ready』

 

 

 途端にベルトから紅い光が足を伝ってそのスコープに注ぎ込まれる。右足に紅い光が過剰に蓄積されていく。

 

 

『exceed charge』

 

 

「うぉぉ」

 

 

 村上峡児に向かって、100メートル5,6秒の疾走をするファイズ、

 

 

「はぁ!」

 

 

 そして跳躍、その高度は約35メートル、

 

 

「っお!」

 

 

 跳躍頂点に達したところで一回転、紅い光の集まった左足を突き出し跳蹴の体勢となる。村上峡児の目にはその光景が奇妙なほどスローモーに映る。死の直感とはそういうものかもしれない。ポインターが前方へ傘を半開きにしたような紅光の立体を産む。この巨大な杭のポインティングマーカーが突き刺さって回転しながら圧力を加え、村上峡児の行動を完全に抑止する。

 

 

「やァァァ!」

 

 

 ファイズは蹴撃の体勢からその紅い杭を村上峡児に向けて圧し込んでいく。杭は回転を起し、ゆっくりと、しかし確実に、全く抵抗感無くファイズの肉体と共に、村上峡児の体を突き抜けていく。これこそが17トンの破壊力を誇るファイズ必殺技《クリムゾン・スマッシュ》。

 

 

「こんなバカな、オレの努力の全てがこんなところで、」

 

 

 着地し、オルフェノクを振り返ったファイズの目に映る光景は、そのマスクと同じΦの光の紋章。それをかき消すようにオルフェノクの肉体から燐光が燃え、灰と化して、ボロボロと崩れ去る。村上峡児、35歳、AB型の人生の終わりだった。

 

 

「努力なんて、口に出して、言うものかよ。」

 

 

 敵がいなくなったのを確認したファイズはベルトから先程のバックル、《ファイズフォン》を取り出した。途端にスーツが幻であったかのように消失し、どこにでもいる青年の顔が現れる。だが青年、乾巧の足はおぼつかない。緊張の糸が切れ、先程のオルフェノクの毒が今更になって効きはじめ、傷つけられた脇を抑え、ベルトをアスファルトの上に落す。

 

 

「死ぬな・・・・、真理。」

 

 

 関戸橋の高くない柵にもたれ掛った巧は、頭が振られるままに倒れ込み、薄れ行く意識の中、俯せに倒れた真理を見つめながら、多摩川の暗闇に落下していった。

 

 

 

 

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