「行け!」
カイザ草加雅人は、エラスモテリウムオルフェノクが飛ばした無数の針を、全身に受け真理を守った。
「草加君、どうしてそこまで、」
真理とカイザに差すオルフェノクの影はあまりにも強大だった。足が竦んで動けない真理。
「おまえ邪魔なんだ!」
その真理を強引に起し上げて突き飛ばすカイザ。その背中にさらに針が数本刺さる。
「アタシ、雅人がアタシの危ない時に真っ先に駆けつけてくれたの。アタシ分かってるから!」
そう言って真理はようやく立ち上がりマンションの影へ。見送るカイザの表情は仮面で見えない。奇しくもこれが二人にとって最期の別れとなった。
「なんともない。これだけの攻撃を受けても、大した損傷が無い。初動も軽い。プログラムの修正でこれだけ変るのか。ならば。」
全高7メートルのエラスモテリアムオルフェノクへ振り返るカイザ。振り返り様カイザブレイガンを抜く。
連射、
14トンの巨体が黄の銃撃に怯む。
「速射性能も威力も上がっている。大したものだ。これで速い敵には銃撃だけで対処できる。ありがとよ、いずれこの力でもろとも汚らわしいオルフェノク共を始末してやるせ!」
カイザは怯む巨獣を目視しつつブレードを伸ばす。
拘束弾発射、
「頭だけか。まあいい、徐々に削り取ってやる。」
首を振りながら網目の拘束を振りほどこうとする巨獣に、カイザは30メートルの跳躍をした。
水曜日午前。石川台木造2階建アパート。 日中は、沙耶がパートに出ている為、取り残された形で部屋でゴロゴロしている乾巧だった。
「沙耶は、気にして、いないのか。」
月曜の昼に帰ってくるまで、巧はまる一日アパートを空けた事になるが、沙耶はただおかえりと一言ことばを交わしただけで、その日は無言で視線を合わせなかった。
「・・・・・なんだこの地鳴りは。」
その日の昼。寝転がっているが故に背中全身で振動を感じた巧。街道近くでトラックの騒音は特に酷いが、何十トンのトラックも聞かせる事ができない重低音が響いてくる。響くどころではない。それは音撃の圧迫だった。
「なんなんだ。」
巧は窓を開け、身を乗り出し外を眺めた。その巧に覆い被さるように影が差す。巧は愕然とそれを見た。いや、見上げた。
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その情景が失神するまでの記憶だった。刹那の記憶など大概は脳が自主的に忘却してしまう。
「ここは、どこだ、」
まず目覚めた時、横向けの体に強烈な圧迫感を上下左右から感じた。首を動かすと首筋に痛みを感じたが、それよりも頬が擦り切れる痛みの方が強かった。光が無い中まだ目が慣れないが、おそらく巧の上からアパートの壁か天井が覆い被さっているのだろう。脚は両方とも挟まれて動かない。横向けに挟まれている為腕は上下になるが、下側が己の肉体から圧迫されているのに対して、上側は手首が何か挟まれて動かない。その手首は外気の流れを感じた。
「俺は、確か、花のオルフェノクと戦って、なにか大切な、大切な何かを守り切れなかった・・・・」
巧は深い闇の中で、腕の痺れだけを感じた。
「ぐぉぉぉぉ!」
弾き飛ばされるカイザ。叩きつけられたマンションは草加雅人の部屋があったそれだった。だがそのマンションも、今やエラスモテリウムオルフェノクという巨獣の為に半壊している。
「ヤツめ、いくら削っても再生する。」
カイザはブレードで角を切断してみせた。しかし即座に角を復元した巨獣は、針で牽制しつつカイザを踏みつけた。外殻が砕けそうなほど圧迫されたカイザであったが、自車のサイドバッシャーからクラスター弾を誘導して全弾直撃させ、怯んだ所を今度はゴルドスマッシュで突き倒そうとした。しかしそれも弾き返され、自分のマンションへ叩きつけられ、20メートル近い高さからアスファルトへ落下した。
「草加っ!」
そのカイザに手を差し伸ばす仮面の男がいた。やはりファイズに似ていた。黒いスーツに全身を包み、プロテクターはファイズやカイザのそれに比べればやや薄手の褐色。なによりファイズとの決定的違いは、ファトンブラットの流れが全く無い。仮面が象る文様はO、オミクロン。
「ライオトルーパー、6号は三原か。遅いぞ。」
肩を貸してもらいなんとか立ち上がるカイザ。そのカイザの眼前で十数台のモトクロスバイクがエラスモテリウムオルフェノクへと挑んでいく。彼の部下、ライオトルーパー部隊の到着だった。
「口調の落差が激し過ぎるぞ。だから誤解されるんだ。おまえは。」
そう言って三原も腰元のブレード状の武器、《アクセレイガン》を抜き、戦いに突入していく。
踏み潰される、
圧し跳ばされる、
掬い上げられる、
だがライオトルーパー部隊は巨獣の動きを止められない。アクセレイガンから撃ちだされる光弾はフォンブラスター程の威力だが、それでも10以上の数で巨獣に応戦している。しかしその威力でも巨獣は猛り狂って余計に暴れ回り、何人ものライオトルーパーと周辺住宅の瓦礫があらぬ方向に吹き飛ばされるだけだった。ライオトルーパーの一人は、踏みつぶされた拍子に、五体があってはならない方向にねじ曲がった。またあるものは噛付かれ、アクセレイガンを下顎に突き刺して抵抗したが、そのまま呑み込まれ、最後は食い千切られた左腕だけが雅人の前に転がった。変身が解除された生身の左腕には雅人の見覚えのある腕時計が巻かれていた。
「新井・・・」カイザは叫ぶ。「尾村!こっちへこいっ!」
カイザはなにを思ったか、ただマニュアル通りに銃撃をくり返す1ナンバーのライオトルーパーを呼びつけた。
「ヨコセ!」そして強引にアクセレイガンを引ったくった。「撃つんじゃない、こう使うんだ。」
カイザはVの字に折れ曲がったアクセレイガンを直線に直す。それはナイフ状の形になる。巨獣目掛けて投擲した。
肩に刺さるブレード。全長15メートルのエラスモテリウムにとってそれは針が刺さる程度でしかなかったが、なぜか巨獣は痺れるように前のめりに倒れ込んだ。
「雅人っ、どういう事だ。」
「4号と5号もこっちだ。あれはな三原、弾丸は貫通するよりも、体内に残った方がダメージが大きいという事さ。」
「低周波ブレードが、どうして効くと分かった。。」
「新井だ。新井が刺したブレードのせいでヤツの下顎の動きが止まった。ブレードのバッテリーは数分保つはずだ。」
「おまえ、そんなところまで見ていたのか。」
「残りのヤツはあの怪物の動きを念入りに止めておけ。だが止めるだけだぞ。尾村、おまえはスライガーを持って来い。」
「オレ達でトドメを刺すという事か。」
「違うな。」カイザは、倒れる巨獣とは反対側、西日の方を眺めやった。「ヤツの処理が先だ。」
夕日の逆光を受けたそれは、ただ悠然とカイザと三原へ歩み寄って来る。2本の巨大な角を頭から生やしたそれは龍の像、ボディに対して不釣合いに巨大な両腕もまた龍の頭のそれを模しており、手先から2本ずつ角のような爪を突き出している。
「三原、ヤツが、あのドラゴンのオルフェノクこそが、家族達の仇だ。」
「巧を、巧はどこ・・・」
草加雅人の身を案じていた真理だった。しかしすぐに一つの懸念へ思い至る。あのあまりにも大きなオルフェノクの脅威が、草加雅人や真理自身の身に及んだのと同じく、巧の身にも及ぶかもしれない。もし巧がこの近くに居たら。記憶を失った巧は今自分を守れないかもしれない。それで頭がいっぱいになり、いてもたてもいられなくなる。長田結花のメモに書かれたアパート名と同じ看板を瓦礫の山から見つけた時、真理は心臓がはち切れて、左右の肺にぶち蒔かれたような不快感を覚えた。
「う・・・・・・・」
真理の目に入ったのは瓦礫の山から露出している人間の手先だった。限りなく小さいが呻くような男の声が聞こえ、まだ生きているのだと直覚した。
「気を、しっかり持って。」
小さな木片やエアコンの外気扇まではなんとか素手で除けた真理だったが、その内少女の白く細い腕をどう傷つけても動かしようがない大きな壁や柱にいきつく。
「待ってて、待ってて。」
男を励ましながら、助けてくれる人がいないか見渡したが、もはやあの巨大オルフェノクと草加雅人達以外は一人もいない。次に真理は道具を探す。やはり適当な柱を突っ返して壁を動かすしかない。
「ごめんね。もう少し待ってて。」
顔も泥だらけ、手足も傷と痣だらけになりながら、覆い被さる壁の下に柱を差し込んだ。差し込んだ拍子に掌の皮が剥ける。血を塗りつけながら、柱に体重を乗せて壁を持ち上げようとするも、少女の体重などたかが知れている。仕方なく柱をさらに蹴り押して隙間を拡げようとした。
「足が曲がらない、ふんばりが効かない、引っ張ってくれ。」
未だ顔の見えぬ男が、ようやく自由になってきた片腕をバタつかせて、真理を呼ぶ。
「は、はい、こっち、こっちよ!」
真理は男の腕しか見えていなかった。男の方も真理の声を頼りに相手の手を探した。
ついに二人の手が握られる。それは、半年前に掴もうとしてついに掴み切れなかった互いの掌の感触だった。
ライオトルーパーの4号と5号がドラゴンオルフェノクの左右から切りかかる。
両腕に刺さるブレード、
「低周波ブレードが効かんのか。」草加雅人の基本は敵を知る事である。
刺さった腕を平然と動かし二人のライオトルーパーを投げ飛ばすドラゴン。投げ飛ばされたライオは、一人はマンションの10階に激突し、一人は川を飛び越してガードレールにめり込む。ドラゴンは軽く腕を掃ったに過ぎない。
「・・・・・」
ドラゴンオルフェノクは無気味なほどの沈黙を守り、ただ同胞のエラスモテリウムの元に歩み寄ろうとする。
轟音、
その時、音源の位置を錯覚する程の轟音が響き渡る。川縁へ視線を移すドラゴン。
「スライガー、」三原が叫んだ。
川縁からせり上がってきたそれは涙滴型の巨大ビーグル。2本の分厚いタイヤ、後部と両側面にロケットノズルを備えたそれは、《ジェットスライガー》。翼の無いジェット戦闘機とでも言うべき機動ビークルである。側面ノズルで全長4,3メートルの巨体を浮遊させ、機首をドラゴンに向けつつ、カウルから16発のミサイルを展開する。
掴む、
だがミサイルを発射するより前に前輪を掴むドラゴン。構わず全弾発射するスライガー。至近よりミイサルの爆煙に塗れながらしかし、ドラゴンはスライガーの1,5トンの鉄塊を片手で振り回し、半壊したマンションへ投げ跳ばす。激突したスライガーは圧壊し爆発炎上、コクピットに上座していたライオトルーパー1号の首が、千切れ飛んでカイザの足下に転がった。マンションはスライガーからの引火で爆発炎上する。
「化け物め。」三原は絶句し、覚悟せざるえなかった。
「剥離している。外皮が低周波を通さんのか。」だがカイザは違った。
ドラゴンはスライガーから発射された極至近からのミサイルによって、角質化した外皮が割れるように剥離し、内部の、最小限人型の骨格を動かしうる肉厚しか持たない本体がところどころ剥き出している。カイザが注目したのは、セメントのそれのように割れている外皮の硬さと脆さである。
「ヤツは撃つのでも斬るのでもない。砕くんだ。」
『exceed charge』
カイザの全身を駆け巡るフォトンブラッドが一際光彩を放つ。三原もまたアクセレイガンを構え光弾を放つ。またカイザがドラゴンに肉弾戦を挑んだ時には、投げ飛ばされた2人のライオトルーパーも復帰して、ドラゴンを背後から狙う。
「・・・・」
どこまでも寡黙なドラゴン、三方向からの銃撃にも、向かってくるカイザにも怯む様子は見られない。
「このオルフェノクがぁ!」
カイザの左拳、
龍の顔が砕け、素顔が露出する。それは骸そのものだった。
続けてカイザの蹴り、
チャージを込めた蹴りが脇腹を削り取る。中から蛇腹模様の肉体が露出する。
「トドメだ化け物ぁ!」
露出した本体顔面にトドメの右拳を食らわせようとするカイザ。しかしドラゴン、今度は違った。
除装、
自ら外皮の全てを除去し、最小限人型を動かしうる極細の肉体となるドラゴン。四肢の先まで蛇腹のような全身を露呈したドラゴンを見て、カイザは、あと一撃放てば殺せると思った。だがカイザがドラゴンの動きを捉え切れていたのはそう思う瞬間までだった。
突き跳ばされるカイザ、
ドラゴン本体の姿を認識する前に既にカイザは突き飛ばされていた。そして突き飛ばされたと認識するよりも先に、三原と激突し、三原の声を聞くよりも先に、ドラゴンのさらに後方にいるはずだったライオトルーパー2人の姿が視界から消え去っていた。
「こ、これはサイガと同じ、」目で捉えきれぬ超超高速によるドラゴンの攻撃であった。
カイザが首を振って再び敵を視界に捉えた時、初めて見た時のあの分厚い外皮を纏った姿へとドラゴンは完全に復元していた。
「遊びやがって・・・・」
カイザはライオトルーパー2人も視界に捉える。2人は既に燐光の炎を放ってくすんでおり、カイザに助けを求めながらも灰となって崩れた。
「雅人・・・、オレ、ようやくオマエの事が分かってきたよ。」
「三原!」
カイザの背後にいた三原もまた既に心臓から燐光が燃え、体の色が変化し、サラサラと掌の先から灰が零れている。
「里奈が突然いなくなって、ビクついてたオレをオマエは掬い上げてくれた。オレの友達は良いヤツなんだって、胸を張って言える。」
崩れ落ちる肉体、
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!」
カイザは絶叫した。絶叫はストレートに復讐心へ還元され、敵の姿を求め振り返る。
「・・・・・」
ドラゴンはやはり黙したまま、ただエラスモテリウムの方を見つめていた。他への興味というものが頭の欠け片にも無いようである。それがまたカイザの激昂に火を注ぐ。
「舐めるな!」
カイザはブレードを伸ばし、ブレイガンを地面に差す。そしてブレイガンのコッキングレバーへカイザフォンを備え付ける。
『burst foam』
カイザの胸部プロテクターが爆破除装される。剥き出しになるフォトン増幅器ブラッディ・コア。コアは黄のフォトンを吸い上げて集約し、カイザのフォトンストリーム全てに白銀の光を推し流す。
「ぐぉぁ!」
カイザの全身のフォトンが、地面に差したカイザブレイガンに集約していく。銃口が4つに先割れし、その一つ一つにブレード状の発振器が前方に向かって生える。生えた発振器の内側にカイザ全てから吸い上げたフォトンが集約していく。もはやカイザ自身にフォトンの流れは無く、スーツが消えかかりながらもカイザは、雅人はブレイガンの引き金を引いた。
暴射!
「・・・・・!」
目映く巨大な光芒が、ドラゴンの全身を呑み込み、さらに十数本のアクセレイガンを全身に刺して活動の制止したエラスモテリウムオルフェノクを貫通、
グB(%C(TY(')&X$ゴY%G$(%&#X P N('V$ゴ!
サイの巨獣は黄の光芒を食らって呻き、最期の足掻きも虚しく灰を振りまき、崩れ落ちていく。
「これだ・・・・これがやりかった、ぁ・・・・」
変身の解けた雅人、スーツどころか私服すらも溶け、ベルトだけの全裸で狂喜しなおかつ激痛に苦しんだ。カイザバーストによる白銀のフォトンは、たとえ一瞬だけとは言え、雅人の肉体を確実に蝕む。故に引き換えにする喜びは雅人にとって無上のものだった。だがしかし、雅人の喜びは無情にも一本の極限に細い蛇腹の腕によって打ち砕かれる事になる。
心臓!
「なに・・・・・・」
雅人の顔は苦しむ事も驚く事も無くただ呆然とした。
「もう、イラナイ」
背後から響く声は、外皮を全て除装したドラゴンの発声だった。超高速運動によって、ドラゴンはこのようにファイズサウンダーもカイザバーストも回避してきた。
「そ、んな・・・・ひどいよぉ・・・」
雅人は全裸のままアスファルトに倒れ、自分の泣き声を聴きながら意識が薄れていった。
「なんだ、真理じゃないか。」
期待してなかったと言えばウソになる。
「なんだって、なによ。」
その期待が現実のものとなった時、体の底から沸き上がる酸味に耐え切れず涙が溢れてくる。
「ここはどこなんだ。」
呆けた巧を強く抱きしめる真理。
「ああ、巧の体臭だ。すっごく臭いの。」
巧の心臓の鼓動を皮膚で感じる真理だった。
「離れろよ。オレがこういうのキライだって知ってるだろ。」
「アタシだって恥ずかしいんだ。大体記憶無かったんでしょ。ウソつき。いろいろ考えてたんだよ。拍子抜けしたわよバカ。」
「よく解んねえよ。」
「ホント最低。ウソつきで身勝手で猫舌で。その上臭くてアタシくらいしか友達いないんだから。」泣いて嗄れた声の真理だった。
「オルフェノクと戦って、真理を助けられなくて、川に落ちたのか。そうだ、ベルト。」
真理も同時に叫んでいた。
「そうだ、ベルト。」
真理は背後へ振り返る。視線の先にはトートバック。真理が巧の為に持ってきたファイズギアはその中だ。
巧も一旦は真理と同じ方へ向いた。しかし背後から悍ましい程の視線を感じ、全く逆の方向へ振り返った。
「沙耶じゃないか。」
腰までナチュラルストレートの長い髪が印象的で、若干虚弱体質を匂わせる細身の体は、まだ未成熟な少女のそれに仄かな大人の落ち着きを加えていた。
木村沙耶はいつの間にか巧の背後に立ち、巧と真理を交互に眺めていた。その表情には喜も楽も無い。哀しげですらある。視線を巧と半年過ごしたアパートの残骸へと落す沙耶。瓦礫の山に手を差し伸べて、徐に取り出したそれはベルト、《デルタギア》。
「巧、これ・・・・・、沙耶?沙耶じゃないの。」
真理も気づく。流星塾で一番の親友だった沙耶に。
「真理、貴方って昔からそうね。」沙耶がギアを腰に巻く。「私が欲しいものを必ず先に奪ってる。」そうしてデルタフォンを口元に近づけ叫んだ。「変身。」
『complete』
纏わり着く白銀のライン。沙耶の白く細い肉体を格子状に包んでいく。包まれた格子は隙間を光の薄い膜が埋めていき、ついに黒いスーツとして実体化。流れるフォトンブラッドの白銀は、あたかも闇に浮かぶ骸のよう。マスクの文様はΔ、沙耶はデルタに変身した。
「沙耶、おまえだったのか。オレを護ってくれていたのは。」巧は不可解さが拭いきれぬまま、真理からファイズギアを受け取ろうと手を伸ばす。
「そう、沙耶も父さんから。」真理もまた、分からぬままに巧に近づき、ファイズギアの入ったトートバックを手渡そうとした。
だが、ファイズギアが真の持ち主の手に渡る事は無かった。
「真理、清高は私のモノなの。貴方は要らないの。」デルタは銃を真理に向けた。
「真理」巧は直覚し体が自然に動いていた。
「沙耶、」一番の友達の殺意にパニックで動けない真理。
白銀の光弾が跳ぶ、
真理の心臓めがけて一直線に、
真理は動けなかった、
だが巧の体が動いた、
巧が真理に覆い被さり、真理に代わって光弾を受けた。
「逃げろ・・・今度こそ、」
巧の顔は苦痛をさらに通り越した虚脱で満ちていた。真理の眼前で膝を折り倒れ込む巧。
「どうして!」思わずトートバックを落とす真理。
落ちたトートバックは、倒れ失神した巧の腕の先、僅かに伸ばせば届くところに転がった。
「どうして?」今度はデルタである。「どうして清高なの、私は、ぁあ、どvgうqo3%'(%'(&'Fし-308taて」
ただちに変身を解除する沙耶。気づくのが遅過ぎた罪悪感に打ちしがれ、美貌の顔立ちが苦痛に歪む。頬に両の指を食い込ませ、長いストレートの髪を振り乱して、真理に背中を向け、現実から逃げるように駆けていった。
「沙耶!どうして!」
真理が倒れた巧から顔を上げた時、既に沙耶の姿は無かった。
「巧、起きて、こんなの無いよ、アタシこの半年アンタに何があったか聞かなきゃいけないんだから、しっかりしなさいよ!」
この数分で希望と絶望の全てを味わった少女は、ただ泣き崩れるしかなかった。なにがいけないのか、自分が何をしたというのか、自分がいけないのか、自分の無力がそんなに罪なのだろうか。
「園田真理とはね。冴子さん、恰好の切り札が手に入りましたよ。」
「琢磨君、優しくしてあげるのよ。澤田さんはもうダメね。でも代わりの候補はそれなりにいるし、これで良しとしないとね。」
悲しみに震える少女に差す影が二つ。
「?!」
真理が顔を上げた時、どこか狂気が差している男女がいつのまにか立っていた。